『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                                第百十三話  甘寧、敵陣を見るのこと

 遂にだ。劉備達は赤壁に着いた。そこに来るとだ。
 まずは北岸を見回してからだ。そのうえでだ。
 北岸に布陣をはじめた。そうして。
 船もだ。長江中から呼び寄せ。
 川も固める。その中でだ。
 孫権がその川を埋め尽くす船達を見て言った。
「まずは見事と言うべきか」
「はい、兵も人もです」
「全て揃いました」
 孫権の後ろからニ張が答える。
「後は敵を迎え撃つ」
「それだけです」
「ええ、そうね」
 孫権は二人の話を聞いて頷く。しかしだ。
 川を埋める船達を見てだ。こうも言うのだった。
「船は木だから」
「火ですか」
「それが気になるというのですね」
「空気が乾いていて風も強いわね」
 言ったその瞬間にだ。風がたなびき。
 孫権のその紫の髪が揺らぐ。その中でだ。
 憂いの顔でだ。孫権は二張にまた言う。
「風によっては火刑で大変なことになるわね」
「ですからこうして風上に布陣しているのです」
「火刑を避ける為に」
「そうね。じゃあ杞憂かしら」
 孫権は自分のそうした心配性なところにも言及した。
「私の」
「確かに敵は怪しい者達です」
「何をしてくるかわかりません」
 それはこれまでのことでわかっていた。しかしだった。
「ですが今は備えもしています」
「結界も張っていますし」
 仮に妖術で来られてもだというのだ。
「そうそう簡単には敗れはしません」
「後は敵の内情を調べてです」
「数と装備ね」
 孫権は具体的に述べた。
「それに何処にいるのか。布陣も」
「それについてはすぐにです」
「物見を出しましょう」
「ええ、じゃあここは」
 こうしてだった。まずは偵察を出すことになった。その人間はというと。
 ジェニーだった。彼女が手下達と共に出る。その中でだ。
 一緒に出ているロックがだ。ジェニーに尋ねた。
「長江のことは知っているのか?」
「長江も何度か入ったことがあるわ」
 そうだとだ。ジェニーは船の甲板からその海の如き河を見つつ答えた。
「知らない訳じゃないわ。けれど」
「けれど?どうしたんだ?」
「この時代の長江は孫策さんのところでお世話になった時に少し回っただけよ」
 それだけだというのだ。
「正直あまり知らないわ」
「そうだったのか」
「ええ、実はね」
「長江でも時代によって違うんだな」
「海も川も全部そうよ」
 ジェニーは船の上でロックに話す。
「時代によって違うのよ。いえ」
「いえ?」
「一年、一ヶ月でも変わってくるものなのよ」
「生き物みたいだな。そりゃ」
「そうよ。海も川も生きてるのよ」
 ジェニーは真顔でロックに話す。
「だからこの時代の長江のことはね」
「よくわからないか」
「だからこれでも慎重に船を進めているのよ」
 そうだともだ。ジェニーはロックに話す。
「よく知らない河だから」
「その辺りはよくわかってるんだな」
「ええ。ただね」
「ただ?」
「今は先導役の人がいてくれてるからそれは安心してるわ」
「甘寧さんか」
 見ればジェニー達の船の前にもう一艘ある。そこには甘寧がいる。
 その彼女を見ながらだ。ジェニーはまたロックに話した。
「あの人が先導してくれているからね」
「難破とかはしないか」
「そうよ。大丈夫よ」
 ジェニーはここでは微笑んでみせる。
「さて、それでだけれど」
「対岸は遠い」
 二人と共にいる牙刀がここで言った。
「長江は大河だからな」
「そうよね。本当に海みたい」
 ほたるもだ。このことを今肌で感じていた。彼女も共にいる。
「黄河も凄かったけれど」
「ええ。ただね」
「ただ?」
「この時代のこの世界もどうやら」
 ジェニーはこう話すのだった。
「長江は比較的穏やかな河みたいね」
「穏やかですか」
「ええ。黄河は暴れ河なのよ」
 ほたるにこのことも話す。
「それと比べるとね。長江はかなり大人しいのよ」
「じゃあ急に激流が来たりはしないか」
「建業の辺りでは逆流もあるけれど」
 少なくともだ。この赤壁の辺りはだというのだ。
「ここは大丈夫ね」
「安定してるんですね。流れが」
「そうよ。それじゃあね」
 ここでまた言う彼女だった。
「とりあえず何か食べる?お腹空いたでしょ」
「ああ、じゃあステーキでも焼くか」
 ロックが仲間達に言った。
「どうだい?トムヤンクンも作ってな」
「それはいいことだ」
 牙刀はトムヤンクンと聞いてこう言った。
「では頼む」
「ああ、じゃあ早速作るな」
「船の上だから揺れるのには気をつけないといけませんね」
「安心しろ。幾ら揺れても失敗する様なへまはしないさ」
 ロックは微笑んでジェニーに述べて。そうしてだった。
 船の中に入ってそうして調理に入った。それでだ。
 船の上に作った料理を持って来た。四人はそこでテーブルに着き。
 食事をはじめる。ステーキにトムヤンクンだ。
 そのステーキを食べながらだ。ジェニーが言った。
「あれよね。やっぱりね」
「ステーキを食えることがか」
「ええ、これがいいのよ」
 こうだ。ジェニーはフォークとナイフを使いながら笑顔で話す。
「人間肉を食べているうちは負けないわよ」
「魚は駄目か」
 牙刀はトムヤンクンの中の魚を食べながら言った。
「それは」
「別にいいでしょ。食べられれば」
「そうか」
「とにかくお腹一杯食べているうちはね」
 どうかというのだ。そうであれば。
「人間負けないわよ」
「そうだな。人間食えればそれで違うからな」
 このことはロックも頷く。
「逆に言えば餓えれば終わりだ」
「そのことは問題ないですよね」
 ほたるもステーキを食べながら問う。
「我が軍は」
「補給はしっかりしているからね」
 そのことをジェニーも言う。
「都からだけじゃなくて長江も使ってだし」
「あと許昌からもだったな」
「補給は万全よ」
 それはもう孔明達が最初に考えて万全の態勢を敷いたのである。
「後はどうやって勝つかよ」
「それでその為にだな」
「ええ、偵察よ」
 ジェニーは笑ってロックに応える。そうしてだ。
 一枚食べ終えテーブルの真ん中にうず高く積まれている肉を一枚取ってだ。それも食べはじめる。それからまたロックに対して言った。
「敵の数に布陣とね」
「それと装備とかもだな」
「ええ、全部見ないとね」
 それが目的だというのだ。
「勝つ為にね」
「では美味いものを食べながらだ」
 牙刀が落ち着いて話す。
「敵を探して調べるとしよう」
「ええ、それじゃあ」
 こんな話をしながらだ。彼等は長江の南岸を目指す。それは甘寧達もだった。
 彼女は傍らにいる諸葛勤にだ。こう尋ねた。
「さて、敵だが」
「この辺りの地形だけれど」
 諸葛勤は地図を開きながら甘寧に応える。
「敵が布陣しそうな場所は」
「ここだろうか」
「ええ、ここね」
 比較的なだらかになっている場所を見ながらだ。二人は話した。
「ここに布陣している可能性が高いわね」
「ではここに向かうか」
「ええ。ただ」
 それでもだとだ。ここでまた言う諸葛勤だった。
「敵の陣に近付くとなると」
「向こうもだな」
「相当な数が集っているから」
 それでだというのだ。
「迂闊に近寄ってはやられるわ」
「そのことはわかっている」 
 甘寧は真剣な顔で諸葛勤に応える。
「敵の場所を遠場から確認してだ」
「それからどうするかよね」
「一旦離れる」
 甘寧は己の考えを諸葛勤に述べた。
「それからだが」
「正直。河から観るのは危険ね」
 諸葛勤はここで周りを見回す。そこは。
 見渡す限り河だ。見るのを阻むものは何もない。
 その中でだ。諸葛勤は言うのである。
「敵にも見つかるし」
「そうだ。そこが問題だ」
 甘寧も言う。
「それは夜でも同じだ」
「夜のうちはいいけれど」
「それでも朝になれば」
「すぐに見つかる。それでは意味がない」
「ではどうするべきかね」
「とりあえずは遠場から敵の布陣の場所を見る」
 場所を確認してだ。それからだというのだ。
「後は丘にあがるか」
「そうして丘から敵の陣に近付きそのうえで」
「詳しく調べる。それでどうだろうか」
「危険ね」
 諸葛勤は甘寧の考えにまずはこう言った。
「敵の陣に近付くことも」
「しかしだ。そうでもしなければだ」
「敵の詳しいことはわからないわね」
「だからだ。どうだろうか」
「危険だけれどそれでも」
 諸葛勤の目が鋭くなった。その整った目がだ。
「そうでもしないとね」
「そうだ。わからない」
 それでだとだ。甘寧も言う。
「だからこそだ。そうしよう」
「そうね。じゃあジェニー達とも話してね」
「決めるとしよう」 
 すぐにだ。二人はジェニーの船に向かいだ。彼女達と話をした。そうしてだ。
 ジェニーがだ。二人にこう答えた。
「それがいいと思うわ」
「賛成してくれるか」
「この案に」
「私だって海賊よ。水のことはよくわかるわ」
 それでだというのだ。
「何も遮るものがない場所から見るのはね」
「危険極まる」
「丸見えだから」
「近くには寄れないわ」
 ジェニーも真面目な顔で話す。
「そこが問題になるから」
「だからだ。丘の上から近付きだ」
「敵をよく見ようということでね」
「決まりね。確かにそれも危険だけれど」
 それでもだというのだ。ジェニーも。
「河から見るよりはずっと安全ね」
「問題は船を何処に泊めるかだ」
 牙刀はそのことに言及する。
「若しその泊めている船が見つかれば我々は帰られなくなる」
「何処かいい場所はないのか?」
 ロックは甘寧と諸葛勤に尋ねた。
「南岸の方に」
「もう見つけてある」
「その場所はね」
 甘寧と諸葛勤はロックのその問いにすぐに答えた。
「敵がいると思われる場所からは少し離れているがだ」
「ここなら問題はないわ」
「ここですか」
 二人は四人にも地図を見せていた。その南岸の入り組んでいる場所が指差される。ほたるはその場所を見て言うのだった。
「ここはかなり入り組んでいますね」
「リアス式ね」
 その複雑に入り組んだ場所を見てだ。ジェニーは言った。
「隠れるにはもってこいの場所ね」
「しかもここはね」
 諸葛勤がその場所についてさらに話す。
「山場になっていて木も多いから」
「船を余計に隠しやすいわね」
「ええ。ここならどうかしら」
「いいと思うわ」
 ジェニーが真剣な顔で答えた。
「その場所ならね」
「よし、じゃあ決まりだな」
 ここでだ。ロックも頷きだ。こうしてだ。
 話が決まった。まずはだ。
 その敵が布陣していると思われる南岸のある場所に近付いた。そこは。
 広くなっている。そして。
 岸辺には旗や天幕が林立し船が埋め尽くしている。それを見てだ。
 ジェニーがだ。不敵な笑みを浮かべて言った。
「数は多いわね」
「そうだな。しかもだ」
 牙刀もその敵陣を見て言う。
「見事な布陣だな」
「あの司馬尉だな」
 ロックはその布陣を敷いたのが誰かすぐに察した。
「あいつが陣を敷いたな」
「そうですね。敵に陣を敷ける人は」
「あいつか妹達だけでしょうね」
 ほたるの言葉にジェニーが応える。敵の陣は陸も河もかなり整然としており無駄がない。遠目から見ても全く隙のないものである。
 その陣を見てだ。彼等は話すのだった。
「于吉とかオロチとかじゃ間違ってもないわ」
「戦術も心得ている」
 牙刀がまた言う。
「やはり容易な相手ではないな」
「さて、それじゃあね」
 ここまで話してだ。ジェニーは。
 三人と手下達にだ。こう告げた。
「すぐにここから離れるわよ」
「あっちに見つからないうちにだよな」
「ええ。奴等目も勘もいいから」
 そのことがよくわかってのことだった。
「だからよ。すぐにね」
「了解です。それじゃあ」
「すぐにここを去りやしょう」
 手下達も応えてだ。そうしてだった。
 船はすぐにその場から消える。そして。
 甘寧達の船もだ。敵の場所を確めると。
 すぐにだ。その場を離れるのだった。甘寧はその中で言った。
「ではあの場所に向かおう」
「ええ、それでだけれど」
「それで?」
「あちらには見つかっていないな」
 このことをだ。甘寧は言うのだった。
「まだ」
「少なくとも見つからないうちにだ」
「去るべきだな」
 こう話してだった。彼女等もだ。
 その場を去る。そしてだ。
 二艘の船はその入り組んだ場所に入った。それでだ。その中でとりわけ深く木々に囲まれた場所に入りだ。その中に潜んだうえでだ。
 六人はまずは船を出た。そしてだ。
 甘寧と諸葛勤がだ。ジェニー達に言う。
「この辺りの地理もだ」
「もうわかっているから」
 大丈夫だというのである。見れば諸葛勤の手には今も地図がある。
「我々の後についてきてくれ」
「今回もね」
「わかってるわ。それにしても」
 ジェニーは周りを見回す。そこは水辺だが山でもある。その木々の中も見回してだ。彼女は甘寧と諸葛勤に話した。
「ここはいい場所ね」
「そうだな。船や我々が隠れるにはだ」
「絶好の場所よね」
「船を隠すのはこうしたところに限るわ」
 ジェニーは満足した笑みを浮かべてこうも言った。
「複雑に入り組んだ場所がね」
「そうしたことがわかるのも海賊には必要なんだな」
「バイキングよ」 
 ジェニーはその笑みでロックに答える。
「バイキングはノルウェーにいたでしょ」
「ああ、あそこか」
「ノルウェーの海岸もこんなのなのよ」
「フィヨルドだったな」
「あそこに隠れて。船を置いておいたのよ」
 そしてそこから出入りしていたのだ。これは歴史にある通りだ。
「それと同じよ。海賊は隠れるものだから」
「だからか」
「私も最初はここで河賊をしていた」
 甘寧も言う。
「それでだ。こうした場所についてはだ」
「よく知っているのだな」
「そうだ。こうしたことも昔取った杵柄だ」
 甘寧は牙刀にこうも話した。
「よくわかっている」
「ではこの場所に船を置き」
 ここでだった。彼も周りを見回す。
「そしてだな」
「そうだ。ことが終わればだ」
「すぐにここから去るわ」
「わかった。では行こう」
 こう話してだった。彼等はだ。
 岸からだ。敵の陣に向かう。その際林の中を進む。
 その中ではだ。敵はいなかった。
「何か拍子抜けだな」
「そうですね」
 ロックとほたるがその林の中で話す。林の中には敵はいない。敵陣に近くともだ。
「敵はここにいてもおかしくないんだがな」
「それがいないですね」
「わざとそういう道を選んでいるのだ」
 先頭を進む甘寧がまた話す。
「だからだ。この道は誰も知らない」
「私達以外はね」
「やっぱり持つべきものは土地勘のある友達ね」
 ジェニーはそんな二人にまた笑って言った。
「いや、本当に」
「この地図本当によくできてるから」
 諸葛勤も感嘆する。その地図を見て。
「道まで描かれているのよ」
「林の中のか」
「ええ、そうなのよ」
 こう牙刀にも話す。
「とてもよくできているわ」
「誰の地図なの?その地図は」
「穏が持っていた地図なの」
 諸葛勤は今度はジェニーに話した。
「それを借りてね」
「あの娘本当に色々なもの持ってるわね」
「ええ。元は揚州の長老が書き残したもので」
「長老ね。やっぱりこうしたことは」
「そうですね。そこに長く住んでいればこそです」
 諸葛勤も言う。
「色々とわかっています」
「そしてそれが今私達に役立ってくれてるのね」
「そうなります」
「じゃあ思いきり役に立ってもらいましょう」
 ジェニーは笑ってこう言いだ。仲間達と共に先に進んでいく。そうして。
 遂にその敵陣の近くまで来た。森の中に隠れてその陣を見ると。
「敵の数は百万か」
「そういうところね」 
 甘寧と諸葛勤が話す。
「それに白装束の者達ばかりだな」
「兵はやっぱりあの連中なのね」
「武器はこれといって変わりはないか」
「弓がかなり多いけれど」
「弓か」
 弓と聞いてだ。牙刀が言う。
「ではその弓矢をどうにかすればいいな」
「どうにかって?」
「使えなくするか減らすかだ」
 具体的にはそうするとだ。彼は妹に答える。
「そうすればいい」
「弓がなければこっちはかなり楽になるからな」
 ロックもそのことを言う。
「じゃあ何らかの方法で減らしていくか」
「そうするべきだな」
「それでだけれど」
 また諸葛勤が言ってきた。
「敵の布陣はやっぱり」
「隙がない」
 甘寧が目を鋭くさせてこう評した。
「寸分の隙もだ。全くない」
「迂闊に攻めることはできないわね」
「そうだな。これはかなりな」
「司馬尉、やっぱり只者ではないわね」
「いい意味でも悪い意味でもな」
「後は」
 諸葛勤は甘寧と話しながらその陣をさらに見る。さらにわかったことは。
 柵の中の闇の色の天幕と旗が林立する中に白装束の者達が短剣と弓矢で武装しているのが見える。しかしそれを率いる者達は。
「将は少ないわね」
「やはり于吉達やオロチの者達か」
「それに司馬尉達でしょうね」
「将が少なくしかも戦う者が主体か」
「司馬尉がいるにしても」
 それでもだというのだ。二人は敵に将が少ないことに気付いた。
 それでだ。こう言ったのだった。
「そこを衝けば」
「互角以上に戦えるな」
「数は互角だから」
 こちらもだ。百万の大軍がいるからだ。数は充分だった。
「ただ。白装束の者達は一人一人が手強いから」
「刺客の強さだ」
「武具は弓以外は短剣しかないわ」
「じゃあそこを衝いて」
 戦おうというのだ。
「こちらは斧に槍もある」
「それに弓矢もね」
「後は敵の弓矢をどうにかして使えなくするか減らす」
「そうすればいいわね」
「よし、わかった」
 ここまで見てだ。甘寧は確かな顔で頷いた。
 それからだ。一同にこう言うのだった。
「ではここを去ろう」
「目的は察したわね」
「そうだ。これ以上の長居は危険だ」
 戦いの中で生きてきたからこそだ。直感で感じ取れることだった。
 それでだ。仲間達にまた言った。
「帰るぞ」
「ええ、それじゃあ」
 こう話してだった。彼等は。
 そこから去る。しかしだ。
 その彼等の前にだ。あの女達がいた。
 バイスとマチュアだ。二人が立っていた。そうしてだ。
 危険な笑みを浮かべながらだ。六人に言ってきた。
「見事ね。ここまで来るなんて」
「そうして私達の陣を見るなんて」
「見たいものは全部見させてもらったわ」
 ジェニーが二人に悠然と笑って返す。
「だからもう帰るわ」
「生憎だけれど帰ってもらう訳にはいかないわ」
「陣を見られたからにはね」
「何か化け物の正体を見た時みたいな言い方だな」
 二人のそうした言葉を聞いてだ。ロックが二人を鋭い目で見返す。
 それからだ。一歩前に出て言葉でも返した。
「御前等の陣はそこまでのものか?」
「ええ。戦いに勝って私達の目的を果たすにはね」
「陣のことは見られたら困るのは当然でしょう?」
「確かにな。それならか」
「あんた達だけじゃないでしょ」
 ジェニーが二人を見返すとだ。ここでだ。
 六人の周りにだ。白装束の一団が出て来た。そのうえで彼等を囲みだした。
「ほら、出て来たわね」
「さて、それではね」
「死んでもらうわ」
「いつものパターンももう飽きたな」
 ロックは囲まれてもだ。それでもだ。
 冷静なままでだ。バイスとマチュアにこう言った。
「じゃあ後はな」
「脱出するというのね」
「この中から」
「ああ。俺はまだカインに聞きたいことがあるからな」 
 だからだというのだ。
「俺の母さんのことをな」
「あのギース=ハワードの妻」
「あの女のことね」
「御前等は母さんのことは知らないよな」
「私達のこととは関係ないことだから」
「悪いけれど知らないわ」
 そうだとだ。二人もそれは知らないと返す。
「だから貴方のお母さんのことを知りたいのなら」
「私達のこの輪から脱出することね」
「じゃあそうさせてもらうわ」
 ロックも応えてだ。そうしてだった。
 ロックが最初にだ。攻撃を放った。
 右手に青白い気を溜めてだ。地面に叩きつけて走らせる。
「喰らえ、烈風拳!」
「!?その技は」
 牙刀がその技を見て声をあげた。
「父と同じ技か」
「そうだ。俺は親父とテリーの技を使う」
 それでだ。烈風拳もだというのだ。
「これならだ」
 それでだ。白装束の者達を倒す。それと共に。
 バイスに向かいだ。拳を次々に繰り出す。
 二人の闘いがはじまる。そして。
 牙刀もだ。マチュアに向かい闘いはじめた。
「貴様の相手は俺だ」
「面白いわね。貴方の拳もまた」
「どうだというのだ」
「お父さんそっくりね」
「!?親父はまさか」
「ええ、いるわ」
 闘いながらだ。マチュアは答える。
「私達と一緒にね」
「貴様等にはあらゆる闇の連中が集っているのか」
「そうよ。そうなっているわ」
 その通りだとだ。マチュアは牙刀に答える。
「そしてその闇の力で」
「戯言を言う」
 牙刀はこう言ってだ。目を鋭くさせて。
 蹴りを繰り出す。しかしその蹴りは。
 マチュアに防がれる。そうして今度は。
 マチュアが投げにかかる。だが牙刀は寸前で受身を取り。
 すぐにだ。足払いをかける。二人の攻防も続く。
 他の者達は白装束の者達と戦う。だが敵は次から次に出て来る。
「相変わらず数で来るか」
「そうね」
 諸葛勤もだ。何とか手の扇を使っている。だが殆んど戦力になっていない。
 だがそれでもだ。彼女も戦いだ。その中で甘寧に応えていた。
「このままだとね」
「数に押し潰されるな」
「何とか囲みを突破したいけれど」
「やるか」
 ここでだ。甘寧は。
 剣を構え。仲間達に言った。
「ロック、牙刀」
「ああ、一気にか」
「一点を突破してか」
「すぐにここから去る」
 こう二人にも告げる。
「私が先頭になり一気に突っ切る」
「わかった。それじゃあな」
「俺達が後ろを受け持つ」
 バイス、マチュアと闘っている二人がだというのだ。
「頼むぜ。突破はな」
「それは任せる」
「わかった。ではだ」
 甘寧は剣を構えたまま全身に力を込め。そのうえで。
「はあっ!!」
 前に跳んでだ。そこにいる白装束の者達を斬る。それに続いて。
 ジェニーとほたるが諸葛勤を挟んで、駆ける。
「今よ!」
「一気にいきましょう!」
「ええ、後は」
「ロック!牙刀!」
「後ろは御願いします!」
「そういうことだ。悪いがな」
「ここで退かせてもらう」
 二人は今闘っているバイスとマチュアに言い。そのうえで。
「喰らえ!」
「これでどうだ!」
 それぞれ超必殺技を放ち。それを最後にして。 
 彼等も戦場を離脱する。そのまま一気に駆ける。
 超必殺技を防ぎそれで怯みはしたがだ。すぐにだ。
 バイスとマチュアは態勢を立て直しだ。白装束の者達に言った。
「すぐに追うわよ」
「逃がしてはいけないわ」
 白装束の者達は二人の言葉に無言で頷き。そのうえで。
 追撃にかかる。今度は撤退戦だった。
 甘寧達は全速で森の中を駆けていく。その横、後ろからだ。
 白装束の者達が襲い掛かる。その彼等を薙ぎ倒しつつ先に進む。
 その中でだ。諸葛勤が地図を見ながら言う。
「ここはね」
「帰った道を引き返すべきだな」
「知っている道を通る方がいいわ」
 それでだというのだ。
「ここは道が入り組んでいるから」
「下手に知らない道を通ればな」
 どうなるか。甘寧もわかっていた。
「道に迷ってしまう」
「だからよ。ここはね」
 慎重策でいく。そういうことだった。
 それでだ。彼等は来た道を引き返していた。その中でだ。
 ロックはだ。己の左に烈風拳を放ちながらほたるに言った。
「この連中もどうやら」
「この道のことは知っているみたいですね」
「ああ、だからな」 
 それでだというのだ。
「こうして横からも来るんだな」
「まるで獣みたいに来ますね」
 ほたるもだ。襲って来たその敵を拳で退けながら応える。
「次から次に」
「けれどな。それでもな」
 どうかとだ。ロックは戦いながら言う。
「帰るぞ。いいな」
「はい、何があっても」
「親父もいる」
 牙刀は自身とほたるの父のことを話した。
「親父は。絶対に」
「兄さん、やっぱり」
「幸い目はなおった」
 確かにだ。彼の目は見えている。しかしだというのだ。
「聞きたいことはある。山程な」
「なら私も」
 ほたるもだ。兄の言葉に決意した顔になり言った。
「兄さんと一緒に」
「戦うか」
「そうするしかないのなら」
 そうするとだ。言うのである。
「そうするわ」
「そうか」
「だから兄さん、全部背負わなくていいから」
「御前も背負うというのか」
「兄妹じゃない」
 妹が言う根拠はそこにあった。
「だからね」
「そうか。だからか」
「ええ、だから」
「わかった。それならだ」
「私も戦っていいのね。お父さんと」
「兄妹だ」
 牙刀もだ。こう言うのだった。
「それならばだ」
「有り難う」
「礼はいい。それならだ」
「ええ。今はここを切り抜けて」
「生きる」
 兄妹もだ。共に戦いながら先に進む。ジェニーもまた。
 懸命に戦い駆けつつだ。先を見ていた。
 道筋を見てだ。仲間達にこう言うのだった。
「もうすぐよ。この森を抜けたら!」
「よし、行くぞ!」
「このまま!」
 甘寧と諸葛勤が応えだ。森を一気に抜けにかかる。六人は今森を抜けた。
 そのまま船の場所に向かおうとする。しかしそこに。
 白い服にだ。ピエロを思わせるメイクをして杖を持った不気味な男が立っていた。それは。
「あんた、まさか」
「そうだよ。ホワイトだよ」
 男は悠然とした動作で前に来てだ。ジェニーに答えた。
「僕もこの世界にいるんだ」
「俺もだ」
 今度は紅い長い髪に細い蛇の様な身体の男が出て来た。
「ここにいる」
「フリーマン、あんたも」
「僕達はここでね」
「于吉達と共にいる」
 そうしてだというのだ。
「で、今は君達を帰さない為にね」
「ここにいる」
「くっ、後ろからはまだ来ているぞ」
「また囲まれたわね」 
 甘寧と諸葛勤が後ろと周りを見回しながら言う。
「そう簡単には帰させはしない」
「司馬尉らしいわね」
「司馬尉さんはとてもいい人だよ」
「俺達と考えが同じだからな」
 ホワイトとフリーマンにとってはそうだというのだ。
「さて、その司馬尉さんの御願いをね」
「ここで適えさせてもらおう」
「ふん、そう簡単に適えさせてたまるか」
 ロックがだ。その二人の前に来て言った。
「俺は性格が悪くてな。人の願いを簡単に適えさせる趣味はないんだよ」
「へえ、じゃあ君が僕達の相手をするんだ」
「御前との勝負も久し振りだな」
「おい」
 背にしている仲間達にだ。ロックは声をかけた。
「俺がこの連中を引き受ける。御前等はだ」
「その間にか」
「船に戻れっていうのね」
「そうだ。早く行け」
 ロックは牙刀とジェニーにも言った。
「いいな、俺は絶対に戻るからな」
「いいのか。後ろからオロチの二人も来た」
「一度に四人も相手にするとなると」
「安心してくれ。俺は絶対に死なない」
 これがロックの返答だった。
「だからだ。ここはだ」
「面白いわね。私達四人を一人で相手にするっていうのね」
「流石はギース=ハワードの息子かしら」
「俺は俺だ」
 前に来たバイスとマチュアにもだ。ロックは言う。
「ロック=ハワードだ」
「ならそのロック=ハワードの戦いを」
 ホワイトは手にしているその杖を弄りながらロックに応える。
「見せてもらうよ」
「行くぞ」
 ロックは構えを取った。そうしてだ。
 仲間達の為に戦おうとする。彼は覚悟を決めていた。
 仲間達はその彼の心を受けて彼に任せようとした。そこでだ。
 空からだ。何かが来た。そうして。
 白装束の者達を薙ぎ倒しだ。ホワイト達に奇襲を仕掛けた。
「!?君達は」
「まさか」
「久し振りだね、ホワイト」
 アルフレドがだ。攻撃を浴びせながらホワイトに言う。
「君もここに来ているとはね」
「予想していたんじゃないのかい?」
「していたさ。けれど僕がここに来ることは予想してたかな」
「全く」
 それはしていないというのだ。ホワイトは着地したアルフレドとの戦闘に入りながら応えた。
「けれどこうして会えたのなら」
「闘うんだね」
「そうさせてもらうよ」
 こう言ってだった。彼等が闘いだ。
 乱鳳と眠兎はだ。暴れ回り。
 白装束の者達を倒していく。その彼等がだ。甘寧達に言う。
「ほら、今のうちにさ」
「逃げる!とっとと帰る!」
「わかった。それではだ」
「今のうちに」
 甘寧と諸葛勤がすぐに決断を下した。そうしてだ。
 二人はすぐにだ。仲間達に叫んだ。
「船まで一気に駆ける!」
「そうして帰るわ!」
「僕達も空から戻るから」
「河の上で合流だぜ!」
「それまで美味しいお菓子ぶりぶり用意する!」
「わかった、それではだ!」
「船の上でね!」
 また甘寧と諸葛勤が応えてだった。
 彼女達もだ。一気に突破する。ロック達もだ。
 それを見てだ。フリーマンが言う。
「逃げられたか」
「残念ね。折角ここでって思ったけれど」
「逃げられるとはね」
 こうだ。バイスとマチュアも言う。
「けれどそれでもね」
「またやり方があるからね」
「仕方ないなあ。じゃあ少し楽しんでから」
 ホワイトはアルフレドと闘い続けながら応える。
「帰ろうか」
「ええ、そうしましょう」
「ここはね」
 こうしてだ。暫く戦いだ。彼等は姿を消した。それを見てだ。
 乱鳳がだ。アルフレドに尋ねる。
「戦い終わったけれどどうするんだ?」
「あっさり消えたけれど」
「うん、少し回りを見回してから」
 用心の為だ。アルフレドはそうすると言ってだ。
 そのうえでだ。実際に周りを見回してあkら。彼は二人に言った。
「じゃあ僕達もね」
「ああ、帰ってな」
「お菓子食う、たっぷり食う」
 こんなことを言ってだ。彼等も空に飛び立った。
 甘寧達は船に辿り着いた。そこからだ。
 一気に船を出る。その時には。
「敵は来ないわね」
「流石にここまでは来ないみたいだな」
 ジェニーにロックが応える。
「それならだ」
「ええ、一気にね」 
 出航してそうしてだというのだ。
「陣に帰りましょう」
「そうだな。長居は無用だ」
「敵のことはわかったわ」
 ジェニーは確かな笑みでロックに述べた。
「その陣や武装のこともね」
「上出来と言うべきか?」
 ロックは出航に向けて動きだす船の中で言った。
「この状況は」
「そう思っていいわね」
「そうか、上出来か」
「敵のことはわかったからね」
「敵の数までな」
「ええ、それに」
 ここでだ。ジェニーは目を厳しくさせてだった。
 その目でだ。ロックに話した。
「あいつがいることもね」
「フリーマンか」
「あいつ以外にも多分まだいるわ」
「だろうな。ネスツの奴等もいるみたいだしな」
「だから。そうしたこともわかったから」
「大きいな」
「ええ、かなりね」
 こうロックに言うのだった。そうしてだ。
 彼等の乗る舟は出航してだ。また長江に出た。そうしてだ。
 長江に出て暫くしてだ。船にアルフレド達が来た。そのうえでロック達にこう言ってきた。
「じゃあ約束通りね」
「お菓子くれよ」
「ぶりぶり食べる」
「ああ、わかってるさ」
 ロックが微笑んで彼等に応える。
「もう焼いてるぜ」
「焼いてるって?」
「ホットケーキどうだ?」
 ロックは笑ってアルフレドにその菓子を提示した。
「シロップをたっぷりかけてな」
「あっ、ホットケーキ作ったんだ」
「こう見えても料理は得意なんだよ」
 ロックの隠れた特技の一つである。
「だから焼いたんだけれどな」
「ロックの料理は絶品よ」
 ジェニーも笑ってこのことを保証する。
「だからあんた達も食べなさいよ」
「ああ、じゃあな」
「何枚でも食べさせてもらうから」
「遠慮は無用だからな」
 ロックは乱鳳と眠兎にも話した。
「どんどん食えよ」
「よし、それじゃあな」
「腹一杯食う」
 こう言ってだった。彼等はロックの焼いたそのホットケーキを食べるのだった。そうしてそのうえでだ。仲間達のところに戻るのだった。
 敵のことはわかった。そのことを把握してだ。
 孔明はだ。意を決した顔で劉備に進言した。
「あの、武器で一番の問題はです」
「弓よね」
「はい、妖術やそうしたことは別にしてです」
「弓が問題になるわよね」
「それを減らすべきです」
 孔明は劉備に話す。
「何とかして」
「けれど。何とかするって言っても」
 どうかとだ。劉備は難しい顔になり孔明に返した。
「どうやって減らすの?敵の弓矢を」
「はい、私に考えがあります」
 孔明は言った。
「まずはですね」
「ええ、まずは?」
 孔明は話をはじめた。そうしてそのうえでだ。彼女は敵の弓矢を減らす策を仕掛けるのだった。


第百十三話   完


                        2011・9・22







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