『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第百十一話  怪物達、また騒動を起こすのこと

 歌の大会が開かれる日が来た。その朝にだ。
 程cは共に朝食を食べる郭嘉に対してこう言った。
「凛ちゃんは一人で出るの?」
「いや、私は一人ではなく」
「三人で」
「そう、美羽様と七乃殿と三人で」
「いつもの組み合わせなのね」
「やっぱりあのお二人とは相性がよくて」
 それでだ。共に歌うというのだ。
「それで三人で」
「成程。けれど」
「けれど?」
「若し時間があれば」
 どうかとだ。郭嘉に言うのである。
「私とも一緒に歌って欲しい」
「風と」
「駄目?」
 朝食の米の粥を食べながら郭嘉に問う。
「二人で」
「いや、それは」
 狼狽した様な口調になりだ。郭嘉は言葉を返す。
「風も歌えるの」
「一応は」
「そうなの。それじゃあ」
 断わることはだ。どうにもなのだ。
 郭嘉はできない。それでこう答えた。
「私でよかったら」
「有り難う」
「けれど風も歌えたの」
「意外だった?」
「ううん、何ていうか」
「結構歌える人も多いから」
 程cはこんなことも言った。
「私もその一人」
「ううん、本当に今まで知らなかったわ」
「後は」
「後は?」
「呂蒙ちゃんも歌えるから」
 彼女もだというのだ。
「一回聴いてみればいいから」
「呂蒙殿も。そういえば」
「凛ちゃん何処かの世界で一緒だった筈」
「そうだったわ。あの娘とは」
「実は私も」
 そしてそれは程cもだった。
「知らない間柄じゃないから」
「確かに。思えば呂蒙殿は」
 郭嘉は己の中身の記憶から話していく。
「人形使いだったわね」
「凛ちゃんは剣士だった」
「結構方向音痴で」
「あれは結構どころじゃないと思う」
「それで風も」
「そう、学生さんだったから」
 彼女にしてもそうした縁でだ。呂蒙を知っているのだった。
「知っている」
「そうだったわね。では呂蒙殿も」
「出られるから」
 こうした話をしてだった。二人はだ。
 朝食の後で呂蒙のところに来てだ。大会に誘った。
 それを言われてだ。呂蒙は驚いた顔で返した。
「あの、私もですか」
「そうです、呂蒙殿もです」
「参加するべきだから」
「ですが私は」
 どうなのかと。呂蒙は難しい顔で答えた。
「歌は」
「ですが呂蒙殿は絵だけでなく歌も見事です」
「自信を持っていいです」
「いえ、ですから」
 どうしてもだ。呂蒙は自分に自信を持てない。この辺り性格が出ている。
 それでだ。断ろうとした。
「申し訳ありませんが」
「そうですか。それでは」
「仕方ありませんね」
 郭嘉も程cも断ろうとする。しかしだ。
 ここでだ。孫権が出て来た。そうして言うのだった。
「いいじゃない」
「蓮華様」
 呂蒙は彼女の姿を見てすぐに掌と拳を合わせて礼をする。その彼女にだ。
 孫権は笑顔でだ。こう言ったのだった。
「亞莎、貴女も歌会に出なさい」
「いいんですか。私も」
「ええ、貴女に足りないのは」
 微笑んでだ。孫権はその呂蒙に言う。
「自信だから」
「自信ですか」
「貴女は頭もいいし」
 そしてだというのだ。
「それに絵も上手だし」
「絵はその」
「歌も聴いてるから」
 それもだ。孫権は知っているというのだ。
「あの歌なら大丈夫よ」
「そうでしょうか」
「ええ、自信を持って出ていいわ」
「その自信ですか」
「自信は上手くいけばできるものなのよ」
 孫権はこのことを呂蒙に話していく。
「だから安心して出なさい」
「蓮華様がそう仰るのなら」
「私も出るし」
 ひいてはだ。彼女自身もだというのだ。
「明命とね」
「そうですか。明命殿と」
「穏や小蓮達とも出るし」
 彼女は二つだった。
「結構忙しいのよ」
「そういえば蓮華様は」
「これでも歌は好きなの」
 孫権の意外な趣味だった。
「だからね」
「そうですか。では」
「ええ、お互いにね」
「頑張りましょう」
「その頑張るという言葉も」
 その言葉自体もだ。どうかと話す孫権だった。
「貴女が言うと説得力があるのよ」
「私が言えばですか」
「そうよ。貴女が言えばね」
 それでどうかというのだ。
「それは非常に大きな意味があるのよ」
「それはどうしてでしょうか」
「誠意よ」
 これが大事だというのだ。
「誠意があるからよ」
「私に誠意がですか」
「不誠実な人間はいるわ」
 孫権もわかっていた。これまで多くの人間を見てきて。
「そうした人間が同じことを言ってもね」
「何の説得力もないんですね」
「その通りよ。亞莎はそこも違うから」
 呂蒙の誠実で生真面目な性格は広く知られる様になっていた。彼女の軍師としての才覚も絵や歌の資質もだ。その気質故なのだ。
 それがいいとだ。孫権は言うのである。
「だからその言葉は言っていいの」
「私だから」
「そういうことよ」
 こう話してだった。孫権は呂蒙の後押しをしたのだった。そうしてだ。
 彼女自身も大会に出る。かなりの人間が出ることになっていた。しかしだ。
 袁紹はだ。観客席、わざわざ自分専用の見事な席を作らせてだ。憮然とした顔でそこに座りだ。そうして顔良達にこんなことを言っていた。
「不満ですわ」
「あの、そもそも麗羽様歌われませんし」
「別にいいんじゃないんですか?」
「歌は宜しいですわ」
 別にだ。自分は歌えずともだというのだ。
「こうして聴ければいいですわ」
「ではあれですか」
「鰻ですか」
「あれが認められなかったのが残念ですわ」
 こう言うのである。
「華琳も駄目だと言いますし」
「そんなこと当然ですよ」
「曹操さんが正しいですよ」
 顔良と文醜が正論である。しかし今の袁紹は。
 憮然としてだ。駄々をこねるのだった。
「ではあの鰻と納豆と海鼠と山芋はどうしてもなのですね」
「それに蛸もですよね」
「追加されようとしてましたね」
「そうですわ。ぬるぬるに触手ですわ」
 その触手がだ。蛸なのだ。
「最高の組み合わせになると思っていたのに」
「取りやめになってよかったです」
「本当に」
 こう言ってであった。顔良と文醜は胸を撫で下ろした。しかしだ。
 袁紹はまだだ。憮然としていた。それでも馳走を食べながらだ。大会がはじまるのを待っていた。尚舞台設定等は彼女が行っている。
 その舞台についてだ。張飛がこう述べた。
「相変わらず無意味に派手なのだ」
「だよな。袁紹さんらしいよな」
 馬超が張飛のその言葉に頷く。
「大きくて派手なことばかり好きだよな」
「で、また鰻できないからすねているのだ」
「あれはちょっと無理だろ」
「というか鰻を好き過ぎるのだ」
 二人にとってはどうしても受け入れられないものだった。しかしだ。
 その二人にだ。孔明が言ってきた。
「あの」
「何なのだ?」
「もう準備かよ」
「そうです。お二人共舞台衣装に着替えて下さい」
 そうしてくれと。二人に言ってきたのである。
「そろそろはじまりますから」
「わかったのだ。それなら」
「今から着替えるな」
「服は色々ありますから」
「問題はどんな服があるかだよな」
 馬超は困った顔になった。ここで。
「あたしな、結構色々な服着させられるからな」
「だって翠さん奇麗ですから」
 だからだとだ。孔明はその馬超に話す。
「それも当然ですよ」
「当たり前なのか?」
「はい、お顔だけでなくスタイルもいいですから」
「スタイルなあ。そんなにいいか?」
「いいです」
 断言だった。今の孔明は。
「私なんか胸はないし背も小さいし」
「そうか?朱里も可愛いだろ」
「けど。胸が」
 孔明は暗い顔になっていた。彼女にとって最大の悩みであるのだ。
「ないですから」
「その通りなのだ。格差社会なのだ」
 張飛も珍しく弱々しい顔になる。
「愛紗なんかそれこそ富める者なのだ」
「あと桃香様もです」
 孔明は劉備もそうだと指摘した。
「何かもう見ているだけで辛くなります」
「まあそれを言ったら話がまとまらないからな」
 馬超はここでは二人を慰めにかかった。そのうえでの言葉だった。
「とにかく今はな」
「はい、舞台の用意です」
「とりあえず服を選ぶのだ」
 こうしてだ。三人は衣装合わせに向かった。そうしたのだ。
 遂に大会がはじまった。まずは。
 アテナが歌う。その後ろには。
 テリーにナコルル、草薙、そして彼もいた。
 その彼の姿を見てだ。誰もが呆然となった。
 荀ケは衣装に金髪の桂、それに緑と白のドレスを着てからだ。舞台を見て言った。
「嘘、あの男が草薙君と一緒なんて」
「草薙君?」
 許緒、ピンクのドレスで髪を下ろした彼女はそこに突っ込みを入れた。
「何で草薙君なのよ」
「あっ、まあ飲んでるうちに仲良くなって」
 それでだというのだ。
「こう呼んでるんだけれど」
「またお酒なんだ」
「お酒は人間の永遠の友達よ」
 荀ケにすればだ。それに他ならないのだ。
「何だかんだであっちの世界の面子ともよく飲むし」
「男の人ともね」
「やっぱり偏見はよくないわ」
 荀ケもそのことを知ったのである。彼等との交流で。
「確かに私は華琳様一筋だけれどね」
「華琳様一筋っていう割には」
「何なのよ」
「それ何処の国の女王陛下の服なのよ」
 許緒は荀ケの今の服を見て言う。
「あっちの世界の服でもないみたいだし」
「ちょっと。エイリスって国のね」
「エイリス?」
「そこの国の女王様の服なのよ」
「それまた中身のことでしょ」
「他にはメイド服もあったけれど」 
 それもあったと話す荀ケだった。
「これにしたのよ」
「ううん、中身って大事よね」
「とにかく。衣装はこれでいくから」
 荀ケは決めたというのだ。中身との関係もあり。
「別にいいわよね」
「うん、そっくりだしいいんじゃないかな」
 許緒はにこやかに笑って答えた。
「世の中色々あるし」
「けれどよ。八神庵が草薙君と一緒なんて」 
 そのことがだ。どうしてもと言う荀ケだった。しかしだ。
 八神は草薙と息の合った演奏をはじめている。それを見てだ。
 荀ケはあらためてこう言った。
「けれど」
「そうだね。演奏自体はね」
「上手いしそれに」
「草薙さんと息が合ってるよね」
「あの二人ってまさか」
 ここで荀ケは気付いた。そのことに。
「相性はいいんじゃないかしら」
「相性は?」
「ええ。確かに殺し合う関係だけれど」
 そのことはだ。こちらの世界の面々もわかっている。
「けれどそれでもね」
「相性はいいのかな」
「そうじゃないかしら」
 こう言うのである。
「そうではないとあそこまで息の合った演奏はできないわ」
「じゃああれかな」
 許緒は考える顔になり荀ケに述べた。
「ライバルなのかな」
「あれよね。強敵と書いて」
「ともと呼ぶね」
「あちらの世界の言葉だったわね」
「馬鹿みたいな戦争の後の世界で出て来る言葉らしいね」
 ある意味において伝説の言葉である。その世界も。
「それじゃないかな」
「確かに。言われてみれば」
 荀ケもだ。頷くのだった。
「あの二人はそんな感じよね」
「八神さんって確かに怖いけれど」
 許緒から見てもだ。その殺気はそうしたものだった。
「けれどこっちから何もしないとね」
「あっちからは仕掛けてこないから」
「そうなのよね。確かに物凄い殺気で」
 軍師であり武器も持たない荀ケですらだった。
「何人も殺してるのはわかるわ」
「あの人結構殺してるよ」
 流石に今は許緒も顔を曇らせる。
「目だけでわかるから」
「そうなのよ、あの目」
「あの目って普通に生きてたらならないから」
「鋭くてしかも」
 尚且つなのだ。
「剣呑な光出してね」
「だから桂花さんも絶対に喧嘩したら駄目だよ」
「というか私格闘とかできないから」
「あれっ、けれど今剣持ってるじゃない」
 見れば今の荀ケの腰にはそれがある。柄は白だ。
「それは飾り?」
「飾りよ。女王陛下だから」
「ただ持ってるだけなの」
「そう、指揮に使うだけだから」
 それだけの剣だというのだ。
「別に何も」
「そういうものなのね」
「そうよ。だから特に」
 また言う荀ケだった。
「気にしなくてもいいわ」
「何だ。桂花さんも戦えるのかって思ったけれど」
「私そういう役少ないわよ」
「そうだよね。結構腹黒いロリだよね」
「何でそこでそうなるのよ」
「だって自分でも言ってるじゃない」
 無邪気そのものの笑顔でだ。許緒は話す。
「得意なのはそういう役だって」
「まあそれはそうだけれど」
「けれど大人にもなれるんだね」
「女王になったのははじめてだったかしら」
 荀ケは自分で振り返りながら言う。
「多分だけれど」
「そんなに中身が同じ人多いの?」
「それは貴女も同じじゃないの?」
「あはは、そうかも」
 こんな話をする二人だった。その二人の前でだ。
 八神はだ。ベースを演奏していた。その演奏は。
 草薙のギターと見事に合っていた。そのうえでアテナのヴォーカルを支えている。
 その演奏を聴いてだ。誰もが言った。
「あの八神の演奏凄いよな」
「ああ、ここまで演奏できるってな」
「あいつ才能あるよな」
「天才じゃないのか?」
「こんな演奏滅多にないぜ」
 こうだ。兵達も民衆も言う。しかしだ。
 八神はあくまで冷静だった。それでだ。
 こうだ。彼は演奏の合間に言った。
「今日は調子がよくない」
「そうか?」
「凄い演奏だと思いますけれど」
「指の動きが今一つだ」
 こうだ。テリーとナコルルに話すのである。テリーはドラム、ナコルルはキーボードだ。この配置は前から全く変わってはいなかった。
 その中でだ。彼は言うのだった。
「だからだ」
「おいおい、その演奏でか」
「そう言われるのですか」
「俺にはわかる」 
 八神自身にはだというのだ。
「それはな」
「確かにな」
 ここで言ったのは草薙だった。丁度茶を飲んでるところだった。
 そこでだ。草薙は言ったのである。
「今日は今一つだな」
「わかるか。それが」
「わかるさ。御前のベースはいつも聴いてたからな」
「だからか」
「で、俺の演奏はか」
「ふん。いつも通りだな」
 そうだとだ。草薙に対して言う八神だった。
「貴様の指は」
「これでもいつも練習してるしな」
 そのだ。ギターをだというのだ。
「普段から動かせる様にな」
「鍛錬か」
「いや、趣味さ」
 それだというのだ。草薙は。
「作詞のついでにな」
「貴様の作詞は駄目だ」
 それにはこう言う八神だった。
「あれだけでは駄目だ」
「へっ、そう言うのかよ」
「そうだ。それに対して俺の作曲はだ」
「御前の作曲も滅茶苦茶だろうが」
「そう言うか」
「実際そうだろ。違うのかよ」
 こう話すのだった。お互いにだ。
 そのことを言い合いながら。しかしだった。
 その二人のやり取りを聞いてだ。曹操が言うのだった。
「つまりあれね」
「あれとは?」
「あれといいますと」
「草薙の作詞と八神の作曲を合わせたらいいのよ」
 こう夏侯姉妹に話すのだった。
「草薙の作曲と八神の作詞は知らないけれど」
「その二人を合わせればですか」
「それでいいと」
「そうあるべきよ。あの二人はあれでね」
 曹操の目ではだ。わかることだった。
「相性がいいわね」
「そうですか?常に殺し合っていますが」
「あの剣呑な雰囲気にあってもですか」
「あれでお互いを認めているのよ」
 そうだとだ。曹操は話す。
「そういうものなのよ」
「ううん。そうなのですか」
「あの二人は」
「そうよ。確かに殺し合っているわ」
 このことは否定できなかった。曹操にしても。
「けれどそれでもなのよ」
「認め合っている」
「御互いに」
「強敵ね」
 曹操もだ。この言葉を出した。
「まさにね。だから」
「だから?」
「だからといいますと」
「あの二人はどちらかがいなくなったら」
 そうなればどうなるかというのだ。
「物凄く寂しくなるわ」
「寂しくですか」
「そうなりますか」
「ええ、なるわ」
 曹操は二人の関係をここまで見ていた。
「どちらかが生き残ってもね」
「そうですか。草薙君も八神も」
「二人はそうした関係ですか」
 夏侯惇は何気にだ。草薙を君付けだった。
 そしてだ。それはだ。
 夏侯淵もだ。こう言ったのだった。
「草薙君はそうした素振りは見せませんが」
「表にはね」
「そうですね。出しません」
「草薙はあれで結構繊細なのよ」
 曹操は微笑んでその草薙のことを話す。
「八神もね」
「八神もですか」
「繊細ですか」
「そう。そして素直じゃないのよ」
 曹操の指摘が続く。
「二人共ね」
「そうですか。そう言われると」
「あの二人は似ているのですか」
「全くの正反対に思えて」
「そうなのですか」
「そうよ。日と月は一対よ」
 正反対の存在ではないというのだ。
「一対のものだから」
「だからこそですか」
「草薙君と八神は」
「そういうことよ。それにしても」
 ここでだ。曹操は姉妹に対して言った。
「貴女達草薙を君付けで呼んでるわね」
「あっ、そうですね」
「そういえば」
 言われてだ。そのことに気付く二人だった。
「どうも。彼には見るべきものを感じますし」
「それに親しみも」
「さて、その彼ならね」
 草薙ならだ。どうかともいうのだ。
「オロチも封じられるわ」
「八神と神楽も入れてですね」
「三人で」
「確かに殺し合う間柄だけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「あの三人はいざとなれば一つになるわ」
「そうして共に戦う」
「それが彼等ですね」
「そういうことよ。それじゃあ」
 あらためて微笑んでだ。曹操は二人に言った。
「私達の出番よ」
「はい、それでは」
「今から」
 二人は瞬時にだ。衣装に着替えた。その衣装は。
 夏侯惇は赤、夏侯淵は青のだ。脚がはっきり出ているフリルの衣装だった。その衣装を見てだ。
 曹操は一瞬目が点になった。それから言うのだった。
「何、その衣装は」
「はい、アテナを基にしたのですが」
「いけませんか」
「アテナは十代だからできるけれど」
 しかしだ。二人はというのだ。
「貴女達が着ると」
「似合わないでしょうか」
「駄目でしょうか」
「駄目ではないわ」
 そうではないというのだ。見ればその露出の多い、肩も胸も結構出ている衣装は二人に似合っている。だがそれでもだとだ。曹操は言うのだ。
「それでも」
「それでも?」
「では」
「かえっていやらしいのよ」
 そうだというのだ。アテナの様な服を二人が着ると。
「それで舞台に出たら皆もう大変よ」
「兵達が騒ぎますか」
「そうなると」
「なるわ。けれどそれも一興ね」
 曹操は笑顔になって述べた。
「じゃあその服で出なさい」
「はい、では華琳様も」
「御着替え下さい」
「わかったわ。じゃあ」
 いつもの服の右肩を取って一気に脱ぐと。そこには。
 黒いやはり派手なドレスだった。彼女はそれだった。
 曹操達が歌い董卓達、孫権達も歌う。孫権はとりわけ。
 ピンクの衣装でだ。こう周泰に言った。
「じゃあ貴女もね」
「はい、予定通りですね」
「二人で歌いましょう」
 こう周泰に言うのである。
「今夏侯姉妹が歌っているけれど」
「次は雪蓮様と冥琳さんで」
「そして次は曹操のところの軍師二人でね」
 郭嘉達のことだ。
「それで私達よ」
「はい、それじゃあ」
「私は貴女についてもね」
 呂蒙だけでなくだ。周泰もだというのだ。
「歌えると思っていたから」
「私もですか」
「ええ、だからね」
 それでだ。誘ったというのだ。
「一緒に歌いましょう」
「有り難きお言葉。それでは」
「二人でね」
 こう話してだった。二人も歌うのだった。彼女達の後は。
 今度はだ。呂布だった。彼女は傍らにいる陳宮に言った。
「ねね」
「はい、恋殿」
 こうだ。陳宮は呂布に対して答えた。
「では今から」
「歌う。歌はいい」
「恋殿は歌もお好きなのですね」
「歌はいい」
 無表情だがそれでも言う呂布だった。
「歌うとそれだけで」
「心がよくなるのです」
「だから歌う」
 それでだと答える呂布だった。そうしてだった。
 二人も歌う。その後は関羽達が出てだ。
 一斉に歌う。彼女達もだった。
 歌いだ。場は進んでいく。そして遂にだった。
「おい、いよいよだな」
「ああ、いよいよだ」
「今呂蒙さんで次が」
「ええと、これ誰だ?」
「誰なんだよ」
 歌手の出番の順番が書かれている紙を見てもだ。誰もが首を捻る。
 そこに書かれているのは公孫賛だった。しかしだ。
 彼女の名前を見てもだ。誰もが首を捻るばかりだった。
「公孫賛?知らないな」
「そうだよな。こんな人いたか?」
「誰も知らない娘出すなんてな」
「新人か?」
「そうじゃないのか?」
 こうまで言う者すらいた。
「っていうかさっきの孔明ちゃんと鳳統ちゃんもよかったよな」
「やっぱり着ぐるみっていいよな」
「ああした小さな女の子が着ると最高だよ」
「張飛ちゃんもだけれどな」
 張飛はここでも着ぐるみだった。そして他には。
「馬超将軍はやっぱり黒だろ」
「あのゴスロリか?あれ最高だよな」
「趙雲将軍の仮面メイドもよかったけれどな」
「あと関羽将軍の中華ドレス」
「胸が最高だよな」
 こう話していく。そうしてだ。
 その中でだ。彼等はさらに話していく。
「あと呂蒙殿のメイド?あれもよかったよな」
「あの人可愛いんだな」
「っておい、あんな可愛い人そういないだろ」
「性格も真面目で懸命で」
 何をするにも必死なのが呂蒙である。それが出ているのだ。
「あんないい人そういないって」
「胸がないのが余計にいいんだよ」
 貧乳派もいた。彼等も健在だった。
 そんなことを話しながらだ。彼等は。
 ふとだ。こう言うのだった。
「で、三姉妹との勝負は袁術様達か」
「偶像支配な。変わった名前だよな」
「何でこの名前にしたんだろうな」
「あの三人の場合は」
 袁術に郭嘉、張勲の三人の組み合わせの名前はこうなったのだ。
 その組み合わせの名前についてだ。彼等は言うのである。
「まあ袁術様が決めたんだろうけれどな」
「あの人結構以上に変なところがあるからな」
「今回もなんだろうな」
 何故か袁術のことはこう言って皆納得する。そうしてだった。
 三姉妹が歌いその偶像支配が歌う。一曲ごとに入れ替わりだ。
「皆大好きーーーーーーーーーーーーっ!!」
「わらわ達の歌を聴くのじゃーーーーーっ!!」
 こうそれぞれ言って歌い合う。場は最高潮になってきていた。
 その彼女達を見てだ。劉備は言うのだった。
「うわあ、やっぱりあの娘達凄いわ」
「そうね。確かにね」
 曹操がその劉備の言葉に頷く。この二人も一緒に歌ったのだ。
 その二人が舞台を観ている。ここでだ。
 劉備がだ。言うのだった。
「あの娘達を呼んでよかったのね」
「正解ね。ただね」
「ただ?」
「ええ。あの娘達はいいけれど」
 彼女達はいいというのだ。三姉妹や袁術達は。
 曹操も出演者のその順番の最後を見る。そこには。
 謎とだけある。それを見て言うのだ。
「最後の最後は誰なのかしら」
「ええと。何か紙が配られたら書いてたのよ」
 劉備は少しきょとんとした顔になり右手の人差し指を己の顎に当てて曹操に答えた。
「こうね」
「そもそものこの紙って誰が書いたの?」
「それもわからないし」
「不吉ね」
 曹操は顔を曇らせて言った。
「これは」
「不吉って」
「何か空もね」
 曹操はここで空を見上げた。その空は。
「確かに青いけれど」
「何か妙な雲があるけれど」
 不気味なまでにドス黒い、そうした雲だった。
 劉備もだ。その雲に気付いて言った。
「あの雲って何かしら」
「何かが起こる前触れね」
 曹操は目を顰めさせて言った。
「それは間違いないわ」
「何かがなの」
「そう、何かが」
 だがそれが何かはわだ。今は彼女にもわからなかった。しかし舞台は進む。その中でだ。
 公孫賛は自分も舞台を観ながらだ。溜息をついてある男に言っていた。
「どうもな」
「どうしたのだ?」 
 見れば黒髪に口髭の男だ。着物に赤胴だ。
 その彼がだ。公孫賛の話を聞いている。
「一体」
「私があの三姉妹の様になれる日が来るのだろうか」
 こうだ。舞台の華やかな三姉妹を見て言うのだ。彼女達は舞台の上で朗らかに歌いそのうえで華麗な舞もそこで見せている。
 公孫賛も歌った。しかしだったのだ。
「私は拍手一つなかった」
「誰だ、という感じだったな」
「いつもこうだ。私は目立たないのだ」
 溜息をついての言葉だった。
「何をやってもだ」
「気持ちはわかる。しかしだ」
 ここで男は彼女に言った。
「出番があるだけまだいい」
「出番?」
「そうだ。あるだけましなのだ」
 こう言うのである。公孫賛に対して。
「わしなぞ出番一つないのだ」
「そうなのか?」
「わしは最初に出て後は失踪扱いだ」
 見ればだ。男は泣いていた。腕を組み舞台を観ながらだ。涙を流していた。
 そうしてだ。彼は言うのだった。
「背景にいるだけだぞ」
「何っ、そこまで酷いのか」
「娘にも会えない」
「そういえば貴殿は」
 公孫賛はここで男の横顔を見た。するとだ。
「藤堂香澄に似ているな」
「香澄にか」
「気のせいか、似ているな」
「そうだろう。わしは香澄の」
「香澄の?」
 何故かだ。こう言ったところでだ。
 男は姿を消していた。後には誰もいなかった。
「今のは一体」
 公孫賛も首を捻る。全く以て謎の男だった。
 何はともあれだ。舞台は進み。
 三姉妹もその偶像支配も歌い終えた。そうして。
 採点が行われる。優勝は。
 何とだ。同時優勝だった。
「えっ、三姉妹と偶像支配が!?」
「互角とは」
 劉備と関羽がそれぞれ驚きの声をあげる。
「確かにあの娘達がずば抜けてたけれど」
「しかし同時優勝とは」
「けれどです」
 ここで徐庶が驚きを隠せない二人に言う。
「これは妥当です」
「そうよね。言われてみれば」
「実力は伯仲していた」
「皆上手でしたけれど」
 これは参加者全員への評価だ。
「それでもです」
「あの娘達は本当に互角だった」
「だから」
「そういうことなのね」
「だからお互いにか」
「はい、そうです」
 まさにそうだとだ。徐庶は言った。
「確かに決着はつかない感じですが」
「けれど歌だから」
「それもよしか」
「そうなります」
 徐庶がこう言うとだ。その彼女達もだ。
 腑に落ちない感じだがそれでもだ。こうそれぞれ言うのだった。
「優勝じゃないのね」
「折角だから単独優勝といきたかったけれど」
「けれど」
 姉達に続いて張宝がこう言った。
「充分歌いきったし」
「そうよね。これもね」
「いっか、別に」
「歌だからいい」
 また言う張宝だった。
「戦じゃないから」
「うん、じゃあこの後は」
「都の御馳走食べ放題ね」
 彼女達はこれで終わった。そして。
 袁術達もだ。こう言うのだった。
「ううむ、ぶっちぎりでいけると思ったがのう」
「あの娘達また歌が上手になってますね」
「それに踊りも」
 少し残念そうな袁術に張勲と郭嘉が言う。
「けれど私達は歌いきりましたし」
「もういいと思います」
「そうじゃな」
 そしてだ。二人に言われてだった。
 袁術も納得してだ。こう言ったのだった。
「まあよいか」
「はい、ではそういうことで」
「後は二人で」
 郭嘉は袁術をだ。熱い視線で見て声をかけた。
「蜂蜜水を」
「そうじゃな。凛と一緒ならいいのじゃ」
 袁術も郭嘉に言われるとにこりとなる。
「もうずっと一緒にいたいのじゃ」
「あら、では私も」
 張勲がさりげなくそんな二人の中に入る。
「御一緒させてもらいますね」
「うう、凛と一緒におる時は七乃にはあまり」
「お嫌ですか?」
「凛は渡さん」
 これが袁術の言いたいことだった。
「それはわかっておるな」
「あらあら。我儘はいけませんよ」
 こんなやり取りをする三人だった。今は平和だった。 
 筈だった。しかしだ。
 誰もいなくなった舞台にだ。突如としてだった。
 彼女達が出て来た。その瞬間に。
 舞台では大爆発が起こった。それで何もかもが破壊された。それを見て。
 兵達も民達もだ。驚いて言った。
「な、何だ!?」
「何が起こったんだ!?」
「舞台に化け物がいるぞ!」
「何だあいつ等!」
「真打登場!」
「皆待たせたわね!」
 その破壊された舞台にだ。彼女達はすくっと立っていた。
 そうしてだ。こう言ったのである。
「愛と正義の美少女戦士!」
「月に代わってお仕置きよ!」
「黙れ妖怪!」
「そうだ、ふざけたこと言うなってんだ!」
 あの三人組が怒ってだ。その舞台に飛び上がってきた。
 そうしてだ。怪物達に言うのである。
「手前等、一体何者だ!」
「折角の舞台を最後の最後で台無しにしやがって!」
「ゆ、許せない」
「あら、何が許せないのかしら」
「意味がわからないわ」
 貂蝉と卑弥呼だけがこう思っている。
「あたし達みたいな絶世の美女を捕まえて妖怪だなんて」
「失礼しちゃうわ」
「じゃあ聞くが御前等何者だよ」
 そのいつものリーダー格が抗議する。
「いきなり出てきやがってよ」
「ぜ、絶対人間じゃない」
 でかいのも言い切る。
「妖怪としか思えない」
「だから妖怪じゃないわよ」
「絶世の美少女よ」
 彼女達は身体を不気味にくねらせて主張し。そうして。
 名乗った。その名は。
「貂蝉よ」
「卑弥呼よ」
 ウィンクして恥らいながら名乗った。すると。
 それだけでだ。また大爆発が起こった。その爆発でだ。
 三人組は吹き飛ばされた。まさに戦略兵器だ。
 しかもだ。戦略兵器はまだあった。
 怪物達は恐ろしいことを言い出した。
「じゃあ舞台のトリでね」
「歌わせてもらうわ」
「えっ、歌えたの」 
 曹操もそれを聞いて驚く。
「あの怪物達」
「そうみたいですね。どうやら」
「信じられませんが」
 夏侯姉妹が曹操に応える。
「では一体どうされますか」
「ここは」
「どうすると言われても」
 曹操もだ。彼女にしては珍しく釈然としない顔になる。
 それでだ。こう言うのだった。
「あの二人はどうしようもないわ」
「はい、何しろ仙人ですから」
「おそらく前身は恐ろしい怪物だったのでしょうが」
 つまりだ。妖怪仙人だというのだ。
「あの者達がすることはです」
「最早誰にも」
「ええ。見守るしかないわ」
 こう言ってだ。曹操もだ。
 見守るしかなかった。他の面々もだ。
 袁紹もだ。憮然として言うのだった。自分の席で。
「せめてここで見守りますわ」
「そうされますか」
「残られるんですね」
「兵達と民達は安全な場所にまで避難させなさい」
 こうだ。顔良と文醜に告げた。そのうえでだ。
 己の席に座ったままでだ。言うのだった。
「最後の最後までここにいますわ」
「わかりました。では」
「あたい達も皆を逃がしてここに残ります」
 彼女達も覚悟を決めていた。こうしてだった。
 兵達と民達を逃がした劉備達は見守る。何が起こるのかを。
 その貂蝉と卑弥呼がだ。遂に言った。
「では歌うわよ」
「あたし達の歌を」
「全員耳栓をしろ!」
 その話を聞いてだ。関羽が即座に叫んだ。
「死ぬな。最後まで耐えよ!」
「あたし達の美唱を聴くと悶え死ぬわよ」
「さあ、死になさい」
 妖怪達だけが言いだ。そうしてだった。
 彼女達は歌った。その歌がはじまると。
 これまでにない大爆発が舞台はおろか観客席でも次々に起こり。
 そして嵐が起き雷が次々と落ち。地震になり。
 吹雪が荒れ狂いだ。あらゆる天変地異が起こった。それが歌の間続き。
 歌い終わった時、最早そこに立っている者はいなかった。
 死屍累々たるその惨状を見てだ。妖怪達は満足した笑みを浮かべて言うのだった。
「あたし達って罪よね」
「そうよね」
 その破壊に満足している言葉ではなかった。
「歌で魅了されて皆気を失って」
「倒れるなんて」
「もう悶絶って感じよね」
「本当に罪だわ。あたし達って」
 こう認識しているのだった。
「もう自分の歌に卒倒しようよ」
「あまりにも素晴らしくて」
 こう言うのだった。そして。
 彼女達はだ。空を飛んだ。そうして何処かへと消え去っていた。
「また会いましょう」
「会うべき時にね」
「二度と来るな!」
 その彼女達に叫んだのはジャックだった。
「手前等何だったんだ!」
「よせ、もう聞こえないぞ」
 ジョンがそのジャックに言う。彼女達が消えたその空を二人で見て。
 もう空は奇麗になっていた。それまでの嵐や雷、吹雪が嘘の様に。
 その青空を見ながらだ。ジョンはジャックに言ったのである。
「何処かに消えちまった」
「ちっ、あいつ等本当に仙人か?」
「連中が言うにはそうだろうな」
「化け物だろ」
 ジャックは内心思っていることを今出した。
「絶対に」
「まあ仙人とは何か違うよな」
「どう見てもそうだろ」
 こんなことをだ。ジャックはジョンに言った。そうして。 
 皆何とか立ち上がりだ。黒焦げになった姿でそれぞれ言う。
「最後の最後でこうなるなんて」
「何てこった」
「とりあえずだけれど」
 劉備もだ。立ち上がりながら言った。
「皆今日はこれでお開きってことで」
「はい、では体力が戻ったら出陣です」
「そうしましょう」
 孔明と鳳統も言い。そうしてだった。
 とりあえず舞台が終わったことを確かめ合うのだった。何が何なのかわからないまま舞台は終わった。後に廃墟を残したうえで。


第百十一話   完


                       2011・9・17



最後の最後にオチというか。
美姫 「惨劇が待っていたわね」
折角の舞台がまさに最後には地獄に。
美姫 「本人たちは気付いていないようだけれどね」
本当に性質が悪いな。
美姫 「本当よね。さて、今回はまだ日常生活だけれど」
これから先どうなるのか。気になる次回は。
美姫 「この後すぐ」



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