『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                               第十一話  孔明、世に出るのこと

 荊州に入った一行はさらに先に進んでいた。その中でだった。
「なあ趙雲」
「星でいい」
 趙雲はこう馬超に返していた。
「これからお互いに命を預けることもあるからな」
「だからか」
「そうだ。こちらも呼ばせてもらう」
 また話す彼等だった。
「これからな」
「それじゃあこっちも真名で呼んでくれよ」
「それでいいな」
「ああ、あたしの真名は翠」
「蒲公英です」 
 馬岱も名乗ったのだった。
「これから宜しく御願いします」
「こちらこそな。ふむ、蒲公英か」
 趙雲は彼女の顔を見下ろしてまずは楽しげに笑みを浮かべた。
「御主、見所があるな」
「見所ですか」
「そうだ、将来有望だ」
 こう言うのであった。
「私が色々と手ほどきしてやろう」
「宜しく御願いします」
「翠も翠で面白いが」
「何だよ」
「御主は私の後継者にもなれるな」
 趙雲は馬岱をそう見ているのだった。
「私の後継者がやっと見つかったな」
「こうは言っているがな」
「どうしたのだ?」
 関羽はキングの言葉に耳を向けた。
「星は実際は何の経験もないな」
「そうなのか?」
「そうだ。ないな」
 キングは趙雲の現実を見抜いていたのだった。
「だがそれは忘れておいていい」
「そうなのか」
「そうだ。忘れておいてくれ」
「わかった。では忘れることにする」
「それで頼む」
 関羽は今はその話を忘れることにした。しかしキングが趙雲は実際にはそうした経験はまだ何もないことを見抜いたのは事実だった。
 だが趙雲はキングのその言葉は耳に入っていなかった。そうして馬岱に対してその笑みのまま話を続けているのだった。
「私はこの通りだ」
「凄いスタイルですね」
「ふふふ、そうか」
 まんざらではない言葉だった。確かに胸も脚も腰も見事なものだ。
「どう見える?」
「大人の女の人です」
「そうだろう。見ての通り私はだ」
「はい」
「大人の女だ」 
 誇らしげな笑みでの言葉である。
「この通りな」
「私もそうなれます?」
「蒲公英なら大丈夫だ」
 目をかけているのは間違いなかった。
「必ず最高の美女になれるぞ。胸はもうあるしな」
「じゃあこれから頑張りますね」
「頑張って最高の美女になるのだぞ」
 武芸者とは言わないのだった。
「いいな、これからな」
「はい、頑張ります」
「なあ鈴々」
 馬超は張飛に声をかけていた。
「荊州ってな」
「どうしたのだ?」
「かなり広い場所なんだよな」
 これを言うのであった。
「知ってるか?もう城だけで幾つもあってな」
「そんなに広いのだ」
「ああ、そこの何処に行くかだよな」
「そういえば袁術殿の統治も」
 関羽はここで言った。
「北の方だけで南にはあまり及んでいないそうだな」
「そうなのですか」
「そうらしい。新野はその辺りは治めているそうだがな」
「精々長沙までだろうな」
 趙雲もこう見ていた。
「袁術殿が統治しているのは」
「これが曹操殿や袁紹殿なら全土に統治を向けるが」
「だが袁術殿は御二人とは違うからな」
 こう関羽に返す趙雲だった。
「元々袁家の嫡流だ」
「ああ、そうだったよな」
 馬超は趙雲の今の言葉にあることを思い出した。
「袁紹ってお袋さんがな」
「生まれが低い。だから袁家ではあまり重く見られていなかった」
 袁紹の生い立ちである。
「本人もそのことを強く意識していた」
「名門袁家でもなのか」
「名門でも妾腹だ」  
 趙雲は関羽に対しても答えた。
「本来は今の様に四つの州を治められる方ではないのだ」
「では実力ですか」
「実力はある」
 ナコルルにもこう返す。
「少なくとも戦と政に関してはかなりのものだ」
「では優れた方なのですか」
「戦と政にはな」
 趙雲はここでその二つに限定した。
「だが。かなりバランスの悪い方だ」
「そういえばあれなんだよな」
 馬超がここでまた話した。
「何か妙にお嬢様ぶっていておかしなところがあるんだよな」
「けれど領内はかなり纏まっているのだ」
 張飛はこのことを言った。しっかりと見ていたのだ。
「治安もいいし繁栄もしているのだ」
「しかし曹操殿と比べるとだ。いや」
 関羽はすぐに自分の言葉を訂正させた。
「曹操殿もあれでな」
「そうですね。妙に肩肘張っているところがありますね」
 ナコルルも曹操について述べた。
「お話を聞く限りでは」
「多芸多才な方だがな」
 関羽もそれを言う。
「何か無理をしているな。そんな気がする」
「袁紹殿と同じだ」
 趙雲は曹操をこう評した。
「曹操殿も名門、それこそこの国ができた頃からの名門曹家の者だ」
「そうだったな。しかし」
「祖父殿が宦官だ」
 曹操の問題はこれであった。
「夏侯家から入られたな」
「曹家に夏侯家といえば物凄い名門なのだ」
 張飛でさえ知っていることからそのことがよくわかることである。
「袁家よりも凄いのだ?」
「しかし宦官の家だ」
 趙雲はこのことを強調して述べた。
「袁紹殿とそうした意味では同じだ」
「では昔はか」
「御二人共幼い頃は孤独だったらしい」
 今でこそ飛ぶ鳥を落とす勢いの二人ではあるが。幼い時はそうだったのだった。
「蔑まれてもいた」
「それでかよ。二人共妙なところがあるのは」
 馬超はここまで聞いてわかったのだった。
「子供の頃のことかよ」
「それで袁紹殿は政治と戦争のことを必死に学ばれた」
「その劣等感や自分の境遇を脱する為にだな」
「そうだ、そして今に至る」
「曹操殿もか」
「あの方はありとあらゆることにとにかく精を出された」
 曹操もそうなのだった。
「あの方もそれでああなられたのだ」
「大変だったのだな、二人共」
「そういうことだ。しかし袁術殿はだ」
 趙雲はあらためて袁術のことを話した。
「その袁家の嫡流だ。牧の座も袁家の長老達の推薦で自然となった」
「四代に渡って三公を出したその袁家のだな」
「そうだ」
 また関羽に対して答えたのだった。
「将来最も三公の座に近いとまで言われている」
「袁紹殿も曹操殿も三公は無理か」
「少なくとも家柄はない」
 それはないというのだった。
「袁紹殿はその袁家の長老達から見れば傍流だ。曹操殿は朝廷の清流派からは疎まれている」
 どちらも痛い場所があるのだ。それも彼女達にとっては致命的なものだ。
「実力で手に入れるしかない。しかもかなりのだ」
「何かそれを聞くとなのだ」
 張飛の顔がうなだれたものになっていた。
「二人共気の毒なのだ。けれど」
「けれど?」
「あまり仕えたいとは思わないのだ」
 こう言うのだった。
「何か危ういのだ。それが怖いのだ」
「そうだな。曹操殿も袁紹殿も我々には合わないな」
 関羽もそのことは感じ取っていた。
「やはり我々は暫くの間このまま武者修行を続けるべきか」
「見聞を広めるのもいいじゃない」
 舞はあえて気楽に述べた。
「この世界も結構楽しいしね」
「そうだな。仕えるにしろ戦うにしろだ」
 キングもあえて明るく言ってみせた。
「楽しまなければ何にもなりはしない」
「それでその袁術さんですけれど」
 香澄は彼女のことについて問うた。
「袁家の嫡流で苦労知らずなのですか」
「そうだ。結論としてはそうだ」
 まさにその通りだと答える趙雲だった。
「その結果歌や踊りに夢中で政を省みていない」
「それってまずいわよね」
「ええ、そうですよね」
 それを聞いた舞とナコルルがそれぞれ言う。
「もうそれだけでね」
「危ない雰囲気だ」
「曹操殿や袁紹殿はまず政治を見られる」
 それが彼女達である。
「しかし袁術殿はそういったことにしか興味がない」
「ではこの州は危ないな」 
 関羽はここまで聞いてこう述べた。
「まだ幼い方のようだしな」
「どうなるかはわからん」
 趙雲はこう断りもした。
「しかし北の四州や中原の二州に比べると遥かに危うい」
「そうですね、本当に」
 ナコルルがそれに頷いてだった。そうしながら森の中に入った。
 森の中に入るとすぐに霧に包まれる。それはかなり深かった。
「何だこの霧は」
「かなり深いですね」
 馬岱が関羽に対して応える。
「はぐれないようにしないと」
「そうだな・・・・・・むっ!?」
 ここで関羽は足を踏み外してしまった。そのままずり落ちていった。そこは急な坂道だった。ほぼ直角の浅い崖と言ってもいい場所だった。
「愛紗!」
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ」
 霧の中である。何とか関羽の言葉が聞こえた。
「皆気をつけろ。急に坂になっている」
「それで怪我はないですか?」
「いや、それは」
 馬岱の問いにまずは隠そうと思った。しかしそれは言ったその瞬間に左足に感じた鈍い痛みがそれをさせなかった。正直に言った方が仲間達の迷惑にならないと判断したのだ。
「しまった」
「骨折したのだ!?」
「そこまではないと思うが」
 自分のところに下りてきた張飛に対して答える。霧の中でうずくまりながらこらえる顔をしている。
「だが。少しな」
「捻挫してしまったか」
「そうだ」 
 こう趙雲に答える。
「どうやらな」
「それは大変なのだ」
 それを聞いた張飛はすぐに動いた。そしてである。
 そのまますぐに関羽をおぶった。そのまま歩きだす。
「鈴々がおぶるのだ。大丈夫なのだ」
「いいのか?」
「いいのだ。愛紗は鈴々のお姉さんなのだ」
 こう言ってであった。
「だから気にすることはないのだ」
「済まないな」
「だからそんな言葉はいいのだ。では行くのだ」
「そうだよな。まずはこの森を出ような」
 馬超がここで言った。
「このままここにいてもまた誰か怪我するだけだからな」
「そうだよね。じゃあ鈴々ちゃん」
 馬岱は関羽をおぶる張飛に対して言った。
「行こう、この森を出よう」
「わかったのだ」 
 こう話して先に進む一行だった。そして森を出るとだ。向こうの山の頂きに家が見えた。静かな大きい屋敷である。
「民家だね」
「あそこならお薬があるかも」
 キングと舞がその屋敷を見て言った。
「それなら今から行くか」
「あそこまでね」
「はい、それがいいと思います」
 ナコルルも二人の言葉に対して賛成して述べた。
「このままですと関羽さんの足も治りませんし」
「よし、ではあの屋敷に行こう」
 趙雲も言った。
「あそこにな」
「それでナコルルさん」
「はい」
 ナコルルは今度は香澄の言葉に応えた。
「少し見てくれますか?」
「わかりました。ママハハ」
 右肩に停まっているママハハに声をかけてであった。
 そのうえでママハハを飛ばしてその屋敷を見た。その結果山賊やそういった類のアジトではないことはわかった。そこにいたのは。
「女の子がいるだけらしいです」
 右肩に戻ってきたママハハの言葉を耳元で聞いてからの言葉だった。
「どうやら」
「女の子だけ!?」
「それだけなの」
「はい、そして奇麗な女の人もいるそうです」
 こう馬超と舞に答えたのだった。
「行かれますか?」
「仙人なのでしょうか」
 香澄はナコルルの話を聞いてまずはこう思った。
「そしてそのお弟子さんでしょうか」
「有り得るな。しかし仙人なら余計に好都合だ」
 趙雲はその話を聞いて述べた。
「では行くとするか」
「はい、それじゃあ」
「今から」
 ナコルルと香澄が頷く。こうして一同はその山の頂にある屋敷に向かった。
 門の前に来て声をかける。
「誰かいないのだ?」
「すいません、おられますか?」
 関羽をおぶっている張飛と香澄が言った。
「よかったら御願いするのだ」
「怪我人がいます」
「はい?」
 それに応えて出て来たのは一人の少女だった。淡いピンクのワンピースの上着に青いミニスカートはどちらもひらひらとしている。紫のケープにも似た羽織っている服の淵にも白いフリルがある。ストッキングも白だ。首筋の鈴が可愛らしい。頭には緑のリボンがある紫のベレー帽がある。
 金髪をショートにしており幼い顔立ちをしている。しかしその顔は楚々としておりまだ幼いながらも賢そうな印象を与える。気弱そうであるがその青い目の光も実にいいものである。
 小柄でまだほんの少女である。その少女が一行の前に出て来たのだ。
「はわわ、皆さん随分多いですね」
「何だかんだで増えたのだ」
 張飛がこう話したのだった。
「それで怪我人がいるのだ」
「怪我人がいるのですか」
「はい、それでなのですが」
 今度はナコルルが話した。
「よかったらお薬を」
「少し待って下さい」
 少女は一同にまずはこう告げた。
「先生を御呼びしますので」
「先生?」
「まさか仙人の?」
「あっ、仙人ではないです」
 少女はそれは否定したのだった。
「仙術も学んでますけれど」
「仙術を学んでいるのに仙人じゃないんですか」
「うん、そうだよ」
 馬岱が香澄に話した。
「こっちの世界じゃね。皆普通に勉強してるよ」
「そうなのね」
「そうよ。だから気にしないで」
 また香澄に話す馬岱だった。
「そういうものだから」
「わかったわ。それならね」
「それじゃあ」
 こうして話をしていってだ。一同はその先生の場所に案内されることになった。すぐに豊かな濃褐色の髪の妙齢の美女の前に案内された。落ち着いた佇まいの知的な美女である。
「そうですか。お連れの方が怪我を」
「申し訳ない」
 その関羽が申し訳ない声で美女に応えた。今は椅子に座らせられている。
「こんなことになってしまって」
「いえ、怪我は付き物です」
 だが美女はこう関羽に対して話した。
「ですからそれは」
「そう言ってくれるのか」
「それよりもです」
 美女はさらに言ってきた。
「その怪我を早く治療しなければなりませんね」
「うむ、それだが」
「暫くこの屋敷に留まって下さい」
 美女は一行にこう申し出てきた。
「薬草を用意しますので」
「いいのか、それは」
「そちらにも迷惑が」
「いえ、これも縁です」
 微笑んでの言葉であった。
「それで私の名前ですが」
「はい」
「そういえば貴女の御名前ですが」
「何というのだ?」
 一同はここではじめて美女の名前を問うた。
 そして美女はだ。その問いに答えたのだった。
「私の名前は水鏡といいます」
「水鏡ですか」
「それが御名前ですか」
「司馬徽というのですがこう号しています」
 こう一同に対して話す。
「水鏡と呼んで下さい」
「わかった、それでは」
「その様に」
「そしてです」 
 その水鏡の言葉である。
「あの娘の名前は諸葛亮といいます」
「諸葛亮」
「それがあの娘の名前なのか」
「字は孔明です」
 水鏡は少女、諸葛亮の字まで話した。
「よければ孔明と呼んであげて下さい」
「わかりました」
「それでは」
「ではまずは夕食を」
 水鏡は次に夕食を誘ってきた。
「御一緒しましょう」
「はい、それじゃあ」
「今から」
 こうしてであった。全員でその夕食となった。円卓に出されたその料理は見事なものだった。量だけでなくその種類や調理具合もである。
「ううむ、これはかなり」
「凄いものだな」
 舞と趙雲がその料理を見てそれぞれ言う。
「まさかこんなものが出るなんて」
「しかもメンマもだ」
 趙雲はそのメンマを見ていた。ラーメンにあるそのメンマをだ。
「かなり見事なものだな」
「全部この娘が作ったんですよ」
 水鏡が隣に座る孔明を左手で指し示しながら述べた。
「お料理も得意でして」
「いえ、私はそんな」
 だが孔明は謙遜して言うのだった。
「ただ。先生の本通りに」
「いや、これはかなり」
「美味しいですよ」
 だがキングと香澄がそれを食べながら言う。
「私は野菜料理には五月蝿いがな」
「ええ、かなりですよね」
「私お餅大好きなのよ」
 舞はそれを笑顔で食べていた。
「いい感じね、このお餅も」
「そういえば舞はお餅好きだな」
 関羽もこのことに気付いた。
「特に煮たものがな」
「ええ、お雑煮好きよ」
 実際にそうだと答える舞だった。
「おせち料理作ることが趣味だしね」
「おせち料理は日本のお正月に食べる料理です」 
 同じ日本人の香澄が皆に説明する。
「舞さんはそれが大好きなんですね」
「お正月大好きよ」
 また話す舞だった。
「まあそうじゃなくても作るけれどね、おせちはね」
「美味しいんだ、おせちって」
「何かそれも食べたくなったね」
 馬超と馬岱がそれを聞いて言った。
「今度落ち着いたらな」
「食べてみたいよね」
「おせちも興味あるけれどこれもなのだ」
 張飛は今食べているその料理に専念していた。
「この味、最高なのだ」
「ほら、がっつくな」
 横にいる関羽が張飛を注意する。
「慌てなくても食べ物は逃げないからな」
「それはわかってるのだ」
「なら落ち着いて食べろ」 
 関羽はこう注意するのだった。
「いいな、落ち着いてだ」
「けれどこの料理美味しいのだ」
 張飛の言葉はいささか言い訳めいていた。
「美味しいものは幾らでも食べたいのだ」
「そういえば鈴々って料理できるの?」
 馬岱がここで張飛に問うた。
「そっちはどうなの?」
「鈴々だって料理はできるのだ」
 すぐにむっとした顔で返したのだった。
「馬鹿にするななのだ」
「それで何を作れるの?」
「色々あるのだ」
 一応こう言いはした。
「お握りにお茶漬けに」
「それって料理か?」
 馬超がそこまで聞いて冷静に突っ込みを入れた。
「あたしだって一応それ位はできるぞ」
「だからそれが鈴々の料理なのだ」
 まだ言うのだった。右手を拳にして真剣に離す。
「何処が悪いのだ?」
「悪くはないけれどな」
 馬超はそれはいいとした。
「あたしだって同じだしな」
「けれどそれって料理じゃないから」
 馬岱はこう突っ込みを入れた。
「孔明ちゃんのはちゃんとしたお料理だけれどね」
「そうだな。全く、御前ときたら」
 関羽も隣にいる張飛を見て困ったように笑った。
「いつもそんなのだからな」
「何か悪いのだ?」
「悪くはない」
 それは関羽も否定しなかった。
「しかし孔明殿とは全く違うな」
「こいつとなのだ?」
 張飛はむっとした顔で孔明を見て述べた。
「こいつと鈴々は違うのだ」
「それはそうだがな」
 それを言ってもだった。何か面白くなくなった張飛だった。そしてである。
 怪我をしている関羽は寝巻きになってベッドに寝かされた。その彼女の側には水鏡がいる。そして孔明もいた。そのうえで怪我をした足に包帯を巻いていた。
「これで後は」
「後は?」
「サロンパ草を使えば問題ありませんね」
 足も吊っている。その関羽への言葉だ。
「それで完治します」
「サロンパ草?」
「はい、ここから少し行った場所にありまして」
 その薬草の話もする水鏡だった。
「今は屋敷にはありませんけれど」
「私が取って来ます」
 孔明が自分から名乗り出た。
「明日にでも」
「けれどあの場所は」
「大丈夫です」
 師匠にも笑顔で言うのだった。
「私いけますから」
「そう。だったら御願いするわね」
「はい」
 にこりと笑って応える。水鏡はその彼女に対してまた告げた。
「それじゃあお風呂ね」
「はい、入らせてもらいます」
「あっ、愛紗」
 ここで張飛の声が聞こえてきた。
「今あがったのだ」
「そうか・・・・・・いや待て」
 関羽はその張飛の姿を見て顔を顰めさせた。ライトイエローのショーツに同じ色のタンクトップだ。かなり無防備な姿で部屋に入って来たのだ。頭をタオルで拭きながら。
「何だその格好は」
「悪いのだ?」
「ここは人の家だぞ」
 ベッドの中から彼女に顔を向けての言葉だった。
「それでそんな格好で」
「ああ、いいのよ」
 しかしそれはいいという水鏡だった。
「そういうことは。くつろいでくれたらいいから」
「しかし」
「それはそうと関羽さん」
 逆に関羽に声をかけてきた。
「貴女はどうするのかしら」
「私ですか」
「そうよ。お風呂は無理よね」
「はい、それは」
「だったらどうするかよね」
「それならなのだ」
 張飛がここで出て来て言う。
「鈴々が入れるからいいのだ」
「いえ、それには及びません」
 しかしここで孔明が言ってきた。
「私が拭かせてもらいますので」
「身体をか」
「はい、そうです」
 笑顔に関羽に応えての言葉だった。
「ですから」
「そうか。それなら」
 関羽は孔明の言葉を聞いてだ。そのうえで微笑んで言うのだった。
「御願いできるか」
「はい、それでは」
 こうしてであった。孔明は関羽の身体を布で拭きはじめた。白い豊かな裸身が露わになる。張飛はその状況を見てあまり面白くなさそうな顔になっていた。
 そして翌朝である。関羽のところに最初に来た張飛だが。まずは彼女に挨拶をした。
「おはようなのだ」
「ああ、おはよう」
 笑顔で応える関羽だった。彼女も起きていた。
 そのうえで挨拶をした。張飛似顔を向けていた。
「元気そうだな」
「鈴々はいつも元気なのだ」
 明るい笑顔で関羽に応える。
「じゃあ今から御飯なのだ」
「ああ、それではな」
「鈴々がおぶっていくのだ」
 そうするというのであった。
「じゃあ今から」
「悪いな」
「関羽さんおはようございます」
 だがここで、だった。孔明がやって来た。そのうえで彼女も挨拶してきたのである。
「お怪我の方はどうですか?」
「ああ、随分楽になった」
 その孔明に微笑みを向けての言葉だった。
「どうも済まないな」
「いえ、それではですね」
「ああ、それでは?」
「朝御飯ですけれど」
「鈴々がおぶって連れて行くからいいのだ」
「いえ、これがあります」
 こう言って出してきたものは車椅子だった。板と車を合わせて作ったものである。
「これに乗って行けば楽ですよ」
「これは」
 関羽もその車椅子を見て思わず目を丸くさせた。その切れ長の目が丸くなっている。
「孔明殿が作られたのか」
「はい、そうです」
「凄いな。発明もできるのか」
 孔明のその知力に気付いたのである。
「貴殿は」
「いえ、私はただ」
「いや、これはかなりのものだ」
 謙遜する彼女に対しての言葉だ。
「そうか。凄いことだな」
「はあ」
「それでこれを使ってか」
「おトイレにもこれで簡単に行けますよ」
 孔明は用足しの話もした。
「ですから何かあったら遠慮なく使って下さいね」
「済まないな、本当に」
「いえいえ。それじゃあ今からいきましょう」
 こう言って関羽をその車椅子に乗せてであった。彼女を食堂まで連れていく。一人残された張飛はまた不機嫌な顔になった。またしてもであった。
 食事が終わり孔明は外で掃除をはじめた。その時もだった。
「おいおい、あの本ってよ」
「そうだな。論語だな」
 趙雲が馬超に対して答えた。二人も彼女を見ているのだ。
「あれはな」
「論語なんて読んでるのかよ」
「貴殿は読んだことがあるか?」
「あたしはああいうの苦手なんだよな」
 馬超は苦笑いで応えた。
「兵法書は読んでるけれどな」
「ふむ、やはりな」
「やはりってわかってたのかよ」
「貴殿にはああした本は向かない」
 このことを本人にも言った。
「やはり兵法が一番合うな」
「ああ。そういえばあんたはどうなんだ?」
「読むことは読む」
 趙雲はこう答えた。
「一応はな」
「そうか。あんた凄いな」
「しかしやはり一番合っているのはだ」
「兵法だっていうんだな」
「そうだ、それに槍だな」
 彼女にしても武人だった。明らかに孔明とは違っていた。
 関羽も部屋の窓からその孔明を見てだ。こう言うのだった。
「孔明殿は凄いですね」
「あら、そうかしら」
「あの歳であんなにしっかりして」
 こう言うのである。その掃除の合間に書を読む彼女を見てだ。
「うちの鈴々とはえらい違いです」
「そうね。娘さんとはね」
「えっ!?」
 今の水鏡の言葉には焦って顔を向けた。
「今何と」
「鈴々ちゃんのことだけれど」
「あの、私はまだ」
「随分と早い出産だったのね」
 また言う水鏡だった。
「お相手は誰かしら。今もお元気かしら」
「あの、鈴々はですね」
「鈴々ちゃんは?」
「娘ではありません。妹です」
 焦りきって顔を真っ赤にしての言葉だった。
「血はつながってませんが妹です」
「そうだったの」
「はい、大体私はですね」
 顔を真っ赤にしながらの言葉が続く。
「そうしたこともまだですから」
「あら、それもなの」
「そうです。同性も異性もありません」
 それも言うのであった。
「全く。何でそんなことに」
「いえ、あまりにも仲がよかったから」
 水鏡は温かい笑顔で応えた。
「それで鈴々ちゃんだけれど」
「困った奴です。孔明殿とは全く違います」
「あら、鈴々ちゃんはいい娘よ」 
 水鏡はその温かい笑顔で関羽に返す。
「明るくて天真爛漫でね」
「そうでしょうか」
「朱里、あの娘はね」
 孔明のことであった。
「幼くして両親と死に別れて孤児になって」
「そうだったのですか」
「姉妹とも別れて。それで私のところに預けられたの」
 窓から見える孔明を見ながらの話だった。
「あの娘がしっかりしているって言ったわね」
「はい」
「それはそうならざるを得ずしてなったものなのよ」
「ならざると得ずしてですか」
「ええ、そうなのよ」
 孔明を見る目は温かい。だが同時に悲しいものも見ていた。
「あの娘はね」
「そういえば鈴々も」
 関羽は張飛のことも思い出した。
「孤児で。それで」
「そうね。誰もがそうしたことを抱えているのよ」
 それも話すのだった。
「あの娘も鈴々ちゃんもね」
「そうなのですか」
「ええ。それでも鈴々ちゃんは天真爛漫よね」
「確かに」
「そうした状況で明るくなれるのは凄いことよ」
「言われてみれば」
 それがわかった関羽だった。
「そうですね」
「そうよ。それでだけれど」
 水鏡は言葉を変えてきた。
「暫くしたらあの娘にサロンパ草を持って来てもらうから」
「はい」
「それを使えばもう大丈夫よ」
「有り難うございます。それでは」
 こんな話をしていた。そしてその孔明が山にまで薬草を採りに行っていた。しかしその後ろにであった。
「ねえ、鈴々ちゃん」
「何なのだ?」
「何で孔明ちゃんの後をつけていくの?」
 馬岱が問うのだった。二人は一緒である。
「お散歩じゃないの?」
「散歩じゃないのだ」
 それはしっかりと言うのであった。
「あのチビッ娘にこれ以上好きにはさせないのだ」
「好きにって?」
「そうなのだ。好きにはやらせないのだ」
 木の陰に隠れて進みながらだ。孔明の姿を見ていた。
「何があってもなのだ」
「それで具体的に何をするの?」
「あいつより先にそのサロンパ草とやらを手に入れてやるのだ」
 そうするというのだ。
「そう、その為に」
「あの娘が手に入れたら強奪するんだね」
 馬岱が明るく話した。
「それだと確実だね」
「そうなのだ・・・・・・って待つのだ」
 今の言葉には速攻で突っ込みを入れた張飛だった。
「鈴々はそんなことはしないのだ」
「そうなの」
「そうなのだ、そんな卑怯なことは絶対にしないのだ」
 このことはくれぐれも言うのであった。
「それでもなのだ。薬草は手に入れてみせるのだ」
「頑張ってね」
「頑張るのだ。しかし蒲公英」
 張飛から馬岱に顔を向けての言葉だ。
「何で鈴々についてきているのだ?」
 このことを問うのであった。
「それはどうしてなのだ?」
「だって面白そうだから」
 無邪気な笑顔での返答だった。
「鈴々ちゃんと一緒にいたらね」
「鈴々は面白いのだ?」
「とてもね」
 笑顔は無邪気なままである。
「悪いことしないし」
「鈴々は卑怯なことはしないのだ」
 このことは眉をしかめさせながらはっきりと言った。
「けれど薬草は絶対に手に入れるのだ」
「わかったよ。それじゃあね」
「行くのだ」
 こうしてであった。孔明を追う。その時にだ。
「きゃっ」
「あっ、こけたよ」
「うん、こけたのだ」
 張飛は馬岱の言葉に応えた。孔明は進みながらこけてしまったのだ。
 それを見てだ。二人は言い合う。
「何もないところでこけたのだ」
「運動神経は鈍いみたいなのね」
「鈴々とは大違いなのだ」
 こう言って笑いもしている。
「よくそんなので薬草を手に入れようというものなのだ」
「けれどさ」
 ここで馬岱はまた言ってきた。
ここに来るまでの箸だけれど」
「どうしたのだ?」
「ここに来るまでの橋だけれど」
「あのボロボロの橋なのだ」
「そう、あのあちこち壊れてる橋ね」
 二人はその橋の話をはじめた。
「私達も通るのに用心したじゃない」
「それはその通りなのだ」
「けれどあの娘一人で通ってたよ」
「一人で。そういえばなのだ」
「確かに運動神経はないけれど勇気はあるみたいだよ」
 馬岱はそう見ていた。
「それもかなりね」
「それがどうしたのだ?」
「性格はいいみたいだね」 
 馬岱はそれを見ていた。
「それはどうかな」
「そんなことは知らないのだ」
 それを言われて余計不機嫌になる張飛だった。
「あいつがいい奴でも悪い奴でも鈴々はサロンパ草を手に入れるのだ」
「それはいいけれどね。あっ」
 馬岱は今度は前に岩山を見た。白い石の聳え立つ様な岩山である。その上の方に白い花が見える。
「あれよね」
「あれが花なのだ?」
「多分ね。そうだと思うよ」
 こう話すのだった。
「それじゃあ手に入れに行く?」
「行きたいけれど行けないのだ」
 張飛は不機嫌な顔で答えた。今も木の陰に隠れて様子を見ている。
「あいつに見つかってしまうのだ」
「それはまずいんだね」
「こっそりと近寄って抜け駆けするのだ。それに」
「それに?」
「あいつにあの薬草を手に入れることはできないのだ」
 そう見ているのだった。
「あんな鈍い奴にあんな山を登れる筈がないのだ」
「そうだね。けれどさ」
「けれど?」
「危ないよ、あの娘」
 馬岱は少し心配する目で見ていた。
「あの娘じゃあの岩山を登ったらね」
「それは確かなのだ」
「けれど登るね」
 馬岱は孔明を冷静に見て述べた。
「このままね」
「だったら下手をしたら」
「大丈夫じゃないね」
 また言うのであった、
「落ちるかもね」
「そ、それはよくないのだ」
 落ちるという言葉を聞くとだった。張飛は狼狽しだした。
 そうしてである。はらはらしながら孔明を見だした。そしてであった。
 孔明は岩山を登りはじめた。足場を何とか踏みながらそのうえであった。何とか上に上にと登っていく。だがそれはかなりたどたどしい。
 時折足場を踏み外しそうになる。その度に張飛も真っ青になる。
「あいつ危な過ぎるのだ」
「そうだね。薬草に近付いているけれど」
「本当に落ちるのだ」
 張飛は心から心配していた。
「けれど花はもう少しなのだ」
「もう少しだけれど帰りもあるし」
「とんでもないことなのだ。無謀過ぎるのだ」
 そしてであった。孔明は何とかその花まで辿り着こうとしていた。しかしであった。
 ここで遂に完全に踏み外してしまった。そうしてだった。
「きゃっ!」
「危ないっ!」
「くっ!」
 馬岱も思わず出ようとする。その前にであった。
 張飛はそれよりも前に出ていた。そして落ちる孔明を掴んだ。何とか助けたのである。
「えっ、無事!?」
「無茶はするななのだ!」
 張飛は両手に抱えている孔明に対して叫んだ。
「下手をしなくても死ぬところだったのだ!」
「す、すいません」
「怪我なかった?」
 ここで馬岱も出て来て孔明に問うてきた。
「危ないところだったけれどね」
「蒲公英、こいつは任せるのだ」
 張飛は馬岱に顔を向けて声をかけた。
「薬草は鈴々が採って来るのだ」
「そうなの」
「そうなのだ、では行って来るのだ」
 孔明を立たせてすぐにであった。猿の如く岩山を登っていってそうしてだった。薬草を何なく手に入れてしまったのであった。
「これでいいのだ」
「有り難うございます」
「礼なんていいのだ」
 岩山から飛び降りての言葉だった。その動きは孔明とは全く違っていた。
「この薬草で愛紗の怪我はなおると聞いているのだ」
「はい、そうです」
「それならすぐに戻るのだ」
 張飛は今は多くは言おうとしなかった。
「愛紗の為なのだ」
「はい、それでは」
「今は」
 こうしてであった。三人は帰路についた。ここで、であった。
 夕暮れになろうとしていた。その橋のところに来た。
 橋はあちこちが壊れ穴の様になっていた。吊り橋でありそれがかなり危険な状況だった。
「手を貸すのだ」
「はい?」
 その橋の前でだ。張飛は孔明に顔を向けて言ってきたのだった。
「御前一人だと危なくて見ていられないのだ」
「あの、いいんですか?」
「あんな運動神経で岩山なんて登るななのだ」
「そういえばどうしてここに?」
 孔明もここで気付いた。落ち着きを取り戻しての言葉だ。
「おられたんですか?」
「ああ、それだけれどね」
 馬岱が笑いながら話してきた。
「ずっと後からつけていたんだよ」
「後から?」
「そうだよ。鈴々ちゃんったら途中から孔明ちゃんのこと凄く心配してね」
「余計なことは言わなくていいのだ」
 張飛の頭の虎が怒っている。
「鈴々はそんなことはないのだ。笑ってやっていたのだ」
「そうだよ。心配し過ぎて笑っていたのよ」
 あえてこう言ってみせた馬岱だった。
「凄かったんだから」
「だから余計なことは言うななのだ」
 また怒る張飛だった。
「鈴々はそんな奴じゃないのだ」
「そうそう」
 そんな話をしながらだった。張飛は孔明の手を掴んでそのうえで屋敷に帰った。そして次の日であった。
「もう大丈夫です」
「サロンパ草はどうでした?」
「凄い効き目です」
 見れば関羽はもう着替えていた。あのミニスカートにである。
 そしてしっかりと立っていた。その右手にはあの得物もある。
「おかげでもう完全に」
「そうなの。それは何よりよ」
「お世話になりました」
 そのうえでの言葉だった。
「おかげで」
「ええ。それでだけれど」
 ここで水鏡は関羽に対して言うのだった。
「一つ我儘を聞いてくれるかしら」
「我儘?」
「ええ、そうなの」
 こう話すのである。
「実はあの娘を」
「孔明殿を?」
「貴女達と一緒に旅に連れて行ってくれるかしら」
 関羽に対しての言葉だ。
「貴女達とね」
「旅にですか」
「あの娘も前から言っていたし」
 孔明もだというのである。
「それに」
「それに?」
「あの娘は羽ばたくべきだから」
 こうも言うのであった。
「ここから。世の中にね」
「世の中にですか」
「見聞を広めながら。その為にも」
「私達と共に」
「一人で行くのはあまりにも危険だし」
 そのことも踏まえていたのであった。
「あの娘は確かに賢明だけれど力はないわ」
「非力なのは間違いありませんね」
「それで一人旅はとても無理。特に今の様な戦乱の世では」
「だからこそ我々と共に」
「ええ、御願いするわ」
 あらためて言うのであった。
「貴女達と一緒に。いいかしら」
「はい」
 関羽の返答は快諾であった。
「仲間達に話してみてからですが旅は多い方が楽しいですし」
「そう。だったら御願いするわね」
「孔明殿の知恵、頼りにさせてもらいます」
 こうも言うのであった。
「我々としても」
「あの娘は若しかしたら」
 水鏡はふと言うのであった。
「江南の美周郎に匹敵、いやそれ以上の軍師になれるかもね」
「あの江南のですか」
「ええ、これは贔屓かも知れないけれど」
 言いながら少し苦笑いにもなる水鏡だった。
「けれど。大きく育ってもらいたいわ」
「その為にもですね」
「ええ。御願いするわ」
 こうして孔明は一行と共に旅に出ることになった。屋敷の門のところで水鏡と手を振り合う。そうしてそのうえで今果てしない旅をはじめるのであった。
「では行くか」
「はい」
 関羽の言葉にも頷いてみせる。
「それじゃあ」
「戦いのことは任せてくれ」
 キングがその孔明に言う。
「私達がやらせてもらうからな」
「けれど頭脳労働は頼むな」
 馬超の言葉だ。
「あたしそういうのは苦手だからな」
「けれど。参謀が入ったのは有り難いですね」
 香澄は素直に孔明のその知力に期待していた。
「孔明ちゃんの知識と知恵はかなり大きいですよ」
「あの」
 その孔明の言葉だ。
「皆さんと御一緒ですし。これからは」
「これからは?」
「真名で呼んで下さい」
 こう一同に言うのであった。
「これからのことは」
「真名で?」
「それでなのか」
「はい、それで御願いします」
 こう言うのだった。
「真名で」
「わかった。では真名は何というのだ?」
 趙雲が問うてみせた。
「貴殿の真名は」
「朱里です」
 孔明は自分の真名を名乗った。
「宜しく御願いしますね」
「わかったのだ」
 張飛がその言葉に顔を向けないながらも最初に応えた。
「では鈴々も呼ぶといいうのだ」
「最初から言ってるではないか」
 関羽が突っ込みを入れた。
「だから真名を人前で言うのはな」
「いいのだ。それでも呼ぶのだ」 
 孔明に対してあくまでこう言うのだった。
「いいな。それでなのだ」
「はい、鈴々ちゃん」
 孔明はにこりと笑って張飛のその言葉に返した。
「これから御願いしますね」
「わかった。では朱里」
「はい」
「行くのだ。先に」
「わかりました」
 二人は隣同士だった。そしてここでナコルルが一同に問うた。
「これから何処に行きますか?」
「そうだな。揚州に行くか」
 まずはこう答えた関羽だった。
「しかしその前に曹操殿の領地を通ることになるな」
「曹操さんのですね」
「うむ。だが翠よ」
 関羽はここで馬超に顔を向けて問うた。
「わだかまりはあると思うが」
「もう事実がわかったからいいさ」
 馬超は微笑んで返した。
「あっちはどう思ってるかわからないけれどな」
「安心しろ。曹操殿はそんなことを気にされる方ではない」
「そうか」
「そうさ。全くな」
「そうか。ならいい」
 関羽も馬超の今の言葉を聞いて納得した。
「では行くとするか」
「そうね。曹操ねえ」
 舞がその名前を聞いて考える顔を見せていた。
「二つの州を治めている大きな領主さんだったわね」
「袁紹殿の次だ」
 また趙雲が話した。
「もっとも孫策殿も広い揚州を治めているがな」
「揚州にも行くがそれでどうだ」
 また言う関羽だった。
「長江を見てみたい」
「はい、それでいいと思います」
 孔明が最初に関羽に対して答えた。
「見てみないとわからないこともありますから」
「そうですね。それじゃあ曹操さんの領地からその揚州ですね」
 香澄が言ってきた。
「そういう道順ですね」
「どんな場所かな」
 馬岱は純粋に揚州に期待していた。
「一体」
「それも見るのだ。だから今から行くのだ」
 こうしてであった。一行は東に向かった。東にもまた出会いがあるのだった。


第十一話   完


                             2010・4・28



新たな出会いがあったな。
美姫 「孔明こと朱里が仲間になったわね」
だな。参謀も参加して更に頼もしくなったな。
美姫 「東に向かった一行に更なる出会いがあるみたいね」
今度は誰との出会いが待っているのか、次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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