『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                           第百八話  怪物達、世界を語るのこと

 宮廷での司馬尉達との対峙の後にすぐだ。劉備達は。
 司馬尉の屋敷に兵をやりだ。あらゆるものを押さえにかかった。しかしだ。
 そこにあったものは。何もなかった。
「くっ、既にか」
「全て消しているか」
 甘寧と太史慈がその宮殿の如き豪奢な宮殿の中で言う。
「人一人いないとはな」
「消えた時に同時にか」
「証拠になるものも何もないな」
 黄蓋も言う。
「やってくれおるわ」
「そうですね。これではです」
 諸葛勤もいる。そして彼女も屋敷の中を見回りながら話す。
「彼女達が何処に逃げたのかもわかりません」
「それが問題ですね」
 呂蒙もこの状況には困った顔でいる。
「一体何処に逃げ去ったのか」
「この国の中にいればいいがな」
 今言ったのは魏延だ。
「国の外に逃げたとなると厄介だな」
「それは考えられますね」
 呂蒙は魏延のその言葉にこう返した。
「彼等はどんな場所でも自由自在に行ける様ですし」
「あの渦の中に入ってだな」
「はい、それで」
 まさにそれだとだ。呂蒙は魏延に話す。
「ですから。国の外に出てそこで力を蓄えてまた攻められるとなると」
「厄介なことになるな」
「例えばですが」
 諸葛勤は危惧する顔で話した。
「羅馬、大秦ですね」
「西にあるあの大国か」
「あの国を乗っ取ってそれで攻めて来るとなると」
「他には波斯という国もあります」
 呂蒙は羅馬の宿敵であるその国の名前を出す。
「その国もかなりの力がありますし」
「そうした国から攻めて来れば厄介だな」
「そう思います」
「非常に」
 孫策の軍師二人が魏延に話す。しかしここでだ。
 黄蓋はだ。この国の名を出した。
「それよりも匈奴じゃ」
「あの国ですか」
「北の」
「匈奴の強さは大秦や波斯の比ではない」
 匈奴は民全員が馬に乗り戦うことができる。そして生まれついてそうしてきている。まさに国の全てが軍と言っていい国なのだ。
 その国をだ。司馬尉達が使えばというのだ。
「漢に近いしそれを考えればじゃ」
「匈奴が最も危ういか」
「わしはそう思う」
 黄蓋は魏延にも話した。
「どちらにしても用心が必要じゃな」
「そうか。しかし何もないな」
 魏延も屋敷の中を見回しだ。そして言ったのだった。
「宝も何も残してはいないか」
「本当に全て持ち去ってしまいましたね」
「驚くだけ早く」
 諸葛勤と呂蒙は感嘆すらしている。
「司馬尉仲達、その術も頭も」
「恐ろしいものがありますね」
 結局だ。司馬尉の側近達も何処に行ったかといった様な手掛かりも全く見つからなかった。彼等は仕方なく屋敷を去るしかなかった。
 その話を聞いてだ。劉備は己の机で眉を曇らせて言った。
「そう。何もなのね」
「予想はしていましたけれど早いですね」
「消え去るのが」
 彼女の両脇にいる孔明と鳳統も主と同じ顔になって言う。
「早く見つけ出して何とかしたいですけれど」
「難しいみたいですね」
「何処に消えたのかしら」
 劉備もこのことが気になって仕方がなかった。
「本当に」
「まずは国の各地に人をやり探しましょう」
「そして見つけたならです」
 軍師二人はここで劉備に献策をした。
「そのうえで兵を向けてです」
「決着を着けましょう」
「そうね。それが一番ね」
 劉備もだ。二人の言葉に頷く。
 そのうえでだ。とりあえずの方針は決まったのだった。
 しかし暫くは何の手掛かりも入らなかった。その中でだ。
 文醜は顔良達と卓を囲みながら言うのだった。
「ったくよ、あの姉妹はとんでもない奴等だよな」
「そうね。狐の血を飲んでいたなんて」
 顔良は司馬家のその祖先のことから話す。
「それはちょっと」
「予想していなかったぜ」
 文醜は麻雀の牌を持ちながら言った。
「怪しい奴とは思っていたけれどな」
「麗羽様も嫌っておられたし」
 高覧もいる。
「それに私達もね」
「所詮あたいは馬賊の出だからな」
 文醜ははじまりはそれだった。
「そんな奴から見ればああした名門そのものの奴って嫌なんだよ」
「それは私もよ」
 今度言ったのは張?だった。この四人が卓を囲んでいるのだ。
 その中でだ。張?は言うのだった。
「麗羽様にしても曹操殿にしてもね」
「そうだろ?あいつみたいに文句なしって訳じゃないんだよ」
 どうしてもだ。彼女達にはその出自がついて回る。その二人に加えてだ。
「孫策さんだって。言ったらあれだけれど揚州の地方豪族だしな」
「出自は司馬家とは比べものにならないわよね」
「そうだよ。まあ袁術さんは袁家の嫡流だけれどな」
 それでもだ。司馬尉の様なことはないのだ。
 それでなのだった。袁紹配下の彼女達は。
「ああした高慢ちきな奴って嫌いだったんだよ」
「それに加えて狐の力を持っていてね」
「謀反まで考えていたとなると」
「手加減する必要はないわね」
 袁紹軍の五将のうちの四人がそれぞれ言い合う。
「ならよ、あいつ見つけたらそれこそな」
「ええ、やることは一つね」
「斬る。絶対にね」
「そうしましょう」
 そんな話をして麻雀をして。そこでだった。
 急にだ。文醜が言った。
「ほい、大三元」
「えっ、何時の間に!?」
「またなの!?」
「しかも今度はそれって」
 他の三人は文醜のそれに驚きの声をあげた。
 しかしだ。当の文醜は平然として言うのだった。
「あたいはこれでも食える位からだからな」
「博打には強いっていうの?」
「まさか」
「そうだよ、強いんだよ」
 高覧と張?にも誇らしげな笑顔で返す。
「元々な」
「けれど文ちゃんの強いのって」 
 それは何かとだ。顔良が話す。
「麻雀だけよね」
「んっ、そうか?あのトランプだって強いぜ」
「本当に?」
「そうだよ。アクセルの旦那達とやり合っても負け知らずだぜ」
「呼んだか?」
 ここでそのアクセルが出て来て言う。
「俺はラジコンの方が好きだけれどな」
「あっ、アクセルの旦那」
 文醜は笑顔でアクセルに応える。
「また今度あのトランプやろうな」
「ああ、今度な」
 アクセルの返答は今一つはっきりしないものだった。それでだ。
 そんな話をしながらだ。チンが来るとだ。こう彼に言った。
「あんた本当にやるのか?」
「そうでしゅ。麻雀は徹夜でやってこそでしゅ」
 これがチンの言葉だ。
「だからでしゅ。やるでしゅよ」
「そうか。徹夜か」
「アクセルさんは徹夜は苦手でしゅか」
「ボクサーだから健康管理はしっかりしてるんだよ」
 だからだというのだ。
「マイケルもセコンドについてな」
「ああ、だからな」
 そのマイケルが出て来てだ。彼もチンに話す。
「徹夜ってのはいただけないな」
「それはあまり面白くないでしゅね」
「遊びは程々にだよ」
 アクセルはまたチンに言った。
「それで身体壊したら何にもならないだろ」
「麻雀は一晩やってこその麻雀でしゅが」
「全く。変わっておらんのう」
 タンがだ。ひょっこり出て来てチンに述べた。
「麻雀をするからと呼ばれてみればそれか」
「あっタン先生お久し振りでしゅ」
「昨日会ったところじゃろうが」
「そうでしゅたか」
「そうじゃ。しかしチンよ」
 師としてだ。彼に話すのだった。
「今は何時戦になるかわからん」
「戦でしゅか」
「戦の前には身体は休めておくものじゃ」
 言いながらだ。タンは白い眉の奥のその目を光らせる。そしてそのうえでだ。弟子に対して話すのだ。
「だから麻雀もよいがじゃ」
「程々にでしゅか」
「そうじゃ。どうで」
 その目でだ。チンをさらに見ての言葉だった。
「一晩かけて金を巻き上げるつもりじゃろう」
「うっ、それは」
「全く。相変わらずじゃな」
 呆れた声でだ。チンに話していくのだった。
「こと金のことについてはがめつい」
「お金は命でしゅ」
 あくまでこう言うチンだった。
「だからいいのでしゅ」
「あんたまさかと思うが」
 マイケルが真剣に疑う顔でチンに問うた。
「結構汚いこともしてないか?」
「それは主観の違いでしゅ」
「ああ、このおっさんはな」
 ここでまた話すアクセルだった。
「裏の世界にも顔が利くからな」
「じゃあ悪い奴か」
「とはいっても根っからの悪人という訳でもないのじゃ」
 タンはこのことはしっかりと保障した。
「殺人や麻薬や臓器売買はやってはおらん」
「私はそんな外道はことはしないでしゅよ」
 それは自分でも必死に主張するチンだった。
「精々裏カジノやそうしたこと位でしゅ」
「あと八百長じゃな」
 タンがまた弟子に突っ込みを入れる。
「まあそんなところじゃな」
「とにかく殺人とかは大嫌いでしゅよ。人を殺したこととかはないでしゅ」
「ああ、そうなのか」
 それを聞いてだ。マイケルも何とか納得した。
「殺人とか麻薬をやってないなら救いはあるな」
「だからおいも捕まえたりしないっちゃよ」
 ホンフゥまで出て来た。
「金に汚いわ趣味が悪かだけれど捜査には協力してもらってるっちゃ」
「ホンフゥさんは向こう見ずで困るでしゅよ」
 今度は二人で話す。
「全く。無鉄砲とはホンフゥさんのことでしゅ」
「悪人を捕まえるのに遠慮はいらないっちゃ」
「死んでもいいでしゅか?」
「おいはそう簡単には死なんっちゃよ」
「いや、死ぬ時は死ぬぞ」
 アクセルはこのことはしっかりと言う。
「だから気をつけろよ」
「うっ、アクセルは厳しいっちゃね」
「あんたも親がいるだろ?だったら悲しませる様なことはするなよ」
「だからっちゃ」
「そうだよ。特に母親は大事にしろよ」
 母親思いのアクセルらしい言葉だ、
「いいな、そこはな」
「そうっちゃな。親孝行も大事っちゃな」
「それは忘れるなよ」
「じゃあ今度餃子でも御馳走するっちゃ」
 ホンフゥの好物である。
「蒸し餃子のフルコースっちゃ」
「餃子か」
「それなのか」
「そうっちゃ。餃子っちゃ」
 それのことをだ。アクセルとマイケルに話してだ。 
 さらにだ。二人に対しても言うのだった。
「どうっちゃ?今から」
「餃子か。いいな」
「中華街でよく食ったぜ」
「では私もお邪魔するでしゅ」
 食べると聞いてだ。チンも乗ってきた。
「ラーメンは私が御馳走するでしゅよ」
「あれっ、あんたがか?」
「自分の金出すっていうのか?」
「食べることは皆で食べてこそでしゅ」
 だからだというのだ。
「遠慮することはないでしゅよ」
「そうか、じゃあな」
「一緒に食べるか」
「茶玉子も出すぞ」
 タンはこれだった。
「身体によいしあっさりとして美味い」
「あれっちゃな。朝に食うと最高っちゃな」
 ホンフゥは茶玉子にも乗った。
「じゃあ食べるっちゃよ」
「よし、それじゃあな」
「麻雀じゃなくて食うか」
 こう話してだった。彼等は食べることに専念するのだった。
 彼等の多くは今はリラックスしていた。その中でだ。
 董卓は劉備のところでメイドとして働いていた。一応死んだことになっているからだ。
 その彼女が働きながらだ。同じ部屋にいて手伝ってくれている陳宮に尋ねた。
「あの」
「何なのです?」
「少し考えたんだけれど」
 少しおどおどした感じのいつもの調子でだ。董卓は話す。
「司馬尉仲達と一緒にいたあの二人は」
「于吉と左慈なのです?」
「うん。あの人達ってこちらの世界の住人でも私達の世界の住人でもないらしいけれど」
「そうなのです。そこなのです」
 陳宮も董卓のその言葉に頷いて言う。そしてだ。
 一緒の部屋にいてやはり手伝ってくれているリムルルに尋ねた。
「リムルルも知らないのです?」
「うん、悪いけれど」
 リムルルもだ。こう言うだけだった。
「僕達の世界にもあの二人はいなかったよ」
「やっぱりそうなのです」
 確めなおしてだ。それから頷く陳宮だった。
「どちらの世界の人間でもないのです」
「じゃあ第三の世界の人間になるわ」
 常に董卓といる賈駆の言葉だ。
「その世界は一体」
「何処なのかしら」
 董卓も首を捻る。ここでだ。
 不意にだった。何故か部屋にだ。
 華陀が出て来た。それで一同に言うのだった。
「ああ、于吉や左慈のことだな」
「あっ、華陀さん」
「どうしてこの部屋に?」
「瞬間移動で来た」
 あっさりとそれとだ。華陀は董卓とリムルルに話す。
「あの二人の術でな」
「相変わらず非常識な術ね」
 賈駆はこのことにはもう慣れているがそれでもだ。
 いささか呆れた顔でだ。華陀に言った。
「しかも僕達の話を聞いていたのも」
「ああ、地獄耳だ」
 何でもないといった調子で華陀はまた答える。
「俺も針を使ってそれができるんだ」
「そのツボを知っているのが流石よね」
「ダーリンはやっぱり凄いわ」
 いつもの怪物達も普通にいきなり出て来る。
「それができるからこそよ」
「最高の名医よね」
「そういえば」
 この二人を見てだ。賈駆はふと思った。
 それでだ。こう彼等に尋ねたのだった。
「あんた達もこちらの世界の人間でもリムルル達の世界の人間でもないわね」
「その前に人間なのです?」
 陳宮はそもそもこのこと自体を疑っている。
「御前達は外見も能力もその限界を超えているのです」
「あら、失礼なことを言うわね」
「こんなに奇麗な乙女を捕まえて」
「何処が乙女なのです」
 まだこう言う陳宮だった。
「ねねは御前達みたいなのははじめて見たのです」
「こんな美貌は見たことがないのね」
「だったらよく見なさい」
 挙句にはポージングまでする二人だった。
「さあ、あのエジプトのクレオパトラをも凌駕するね」
「この美貌をね」
「うう、気分が悪くなったのです」
 いい加減だ。陳宮もそうなってきた。
「とにかくこの連中がどちらの世界の人間でもないことはよくわかったのです」
「そう、それよ」
 まさにそれだとだ。賈駆はここで言った。
「ということはよ」
「あっ、そうなのです」
 ここでだ。陳宮もはっと気付いた。
 それを顔に出してだ。彼女は賈駆に話した。
「ではこの二人は」
「若しかしたらあの連中のことを知っているかも知れないわ」
「ええ、あの白装束の一団ね」
「それとあの二人ね」
 怪物達もだ。そのことについて応えてきた。
 そしてだ。こう言うのだった。
「知ってるわよ、実際に」
「あの連中のことはね」
「じゃあ聞かせてもらえるかしら」
 賈駆の眼鏡の奥の目が光る。それでだ。
 二人に対してだ。強く尋ねたのだった。
「あの連中のことを」
「まずはあたし達のことから話すわね」
「そうさせてもらっていいかしら」
「そうだな。まずはそれからだな」
 華陀もだ。二人の言葉に頷く。
 そうしてだ。二人もそれを受けて言うのだった。
「最初はそこからね」
「お話させてもらうわね」
「それでは御願いします」
 董卓は怪物達に対しても礼儀正しい。
「そのお話を」
「ええ、じゃあ他の皆にも来てもらってね」
「それでお話させてもらうわ」
「では部屋も変えよう」
 華陀がそれを仕切ってだ。こうしてだった。
 董卓やリムルル達だけでなく二つの世界の面々がだ。宮廷の大広間に集められてだ。そこで二人の話を聞くことになった。
 程なくだ。一同が集められた。そうしてだ。
 二人は華陀を挟んで一同を前にしてだ。それで話を話した。
「あたし達は並行世界と時空の守護者なのよ」
「あらゆる世界のね」
 それが彼女達だというのだ。
「だからあらゆる世界、あらゆる時空を超えられるの」
「そういう存在なのよ」
「それではあれか」
 ケイダッシュが二人の話を聞いて言った。
「あんた達は神様か」
「神様とは違うのよ」
「守護者なのよ」
 そこは違うというのだ。
「並行世界にも時空にもそれぞれ司る神様がいるのよ」
「あたし達はその神様達にお仕えしているのよ」
「つまりあれだな」
 華陀がここで二人の話を補足してきた。
「この二人は天帝に仕える天界の官吏だ」
「そうそう、天帝がおられるわ」
「あたし達の一番上にはね」
 二人はこのことも話した。
「最高位の神様よ」
「その方がおられるのよ」
 こう話してだった。二人は天界のことも話すのだった。
「あたし達はその方々の指示で動いているのよ」
「仕事をしているの」
「そうだったのですね」
 孔明はここまで聞いてだ。こくこくと頷き眉を少し顰めさせて言った。
「天界の存在は多くの書に出てきますし神様達もおられるのはわかっていましたけれど」
「まあ仙人って呼んでもいいわ」
「仙女になるわね」
 まだこんなことも言う二人だった。
 しかしだ。そのことよりもだ。二人は今はこのことを話し続ける。
「とにかくあたし達は少し力を授かっただけよ」
「そうした存在なのよ」
「その力は少しではないわね」
 マリーが突っ込みを入れるのはこのことだった。
「貴方達の基準ではそうかも知れないけれど」
「そこ、貴女達にしておいて」
「あたし達は乙女なんだから」
「まだ言うことは認めるわ」
 マリーもだ。流石に呆れ果ててしまった。
 それで今は黙ってだ。それでだった。
 二人はだ。また話すのだった。
「で、並行世界と時空を自分達の思いのままにしようっている者達がいるのよ」
「それがつまり」
「あいつ等」
 呂布はぽつりと述べた。
「白装束の一団」
「そう、あの連中はあらゆる世界に介入しようとしているの」
「自分達の思うようにする為にね」
「思うようにってのが問題なんだよな」
 漂はこのことを指摘した。
「まあ連中のこれまでの行動見てたら世界を破壊して自分達の望む世界、まあ掟とか決まりが何もない滅茶苦茶な世界を築きたいんだろうな」
「その通りよ。あの連中は混沌を望んでいるのよ」
「破壊のうえでのね」
「やはりそうか」
 マキシマもこのことを聞いて納得して頷く。
「そして俺達の世界の連中と手を結んだか」
「ええ、彼等はあちらの世界でそれぞれ世界を破壊しようとしていたわね」
「どの者達も」
「オロチというのはね」
 神楽がだ。オロチについて話す。
「あれなのよ。自然の神の、荒ぶる神の一柱で」
「人類の文明を好まない」
「徹底的に破壊したいと思っているのね」
「そうよ。その通りよ」
「そうした神もいるのよ」
「自然を司る神の中にはね」
 二人はこのこともわかっていた。
「オロチはそうした神なのよ」
「自然の神様の中でも」
「そうした意味では破壊と混沌と同じね」
 神楽はまた言った。
「自然には文明がない、つまり法律も何もないから」
「そう、オロチは人間の文明も自然の中にあると思っていないのよ」
「自然と文明は対立するものと思っているから」
 だからだ。人類を滅亡させようとしているというのだ。
「そこが問題なのよ」
「オロチはね」
「そしてアンブロジアですね」
 ナコルルは彼等について述べた。
「あの神は」
「あれは邪神よ」
「邪な意志が強大な力を得たものなのよ」
 二人はアンブロジアについても知っていた。それでだ。
 この神についてもだ。話すのだった。
「悪意を以てこの世を破壊する」
「そうした神なのよ」
「悪意ですか」
「元になるのは同じだけれど目的は白装束やオロチと同じね」
「そこはね」
「そうなりますね」
 ナコルルは二人のその言葉にうなずいた。
「破壊と混沌を望みますから」
「それであのミヅキという巫女は操られているのよ」
「あの神にね」
「ふうむ。ではあのミヅキは真の敵ではないな」
 狂死郎は考える顔で述べた。
「敵はあくまでアンブロジアじゃな」
「そう、その神よ」
「そこは注意してね」
「わかった。ではアンブロジアを封じるとしよう」
 狂死郎は四宝珠の一つの持ち主として述べた。
「要はそこじゃな」
「そういうことよ。敵はしっかりと把握しないとね」
「間違えてしまうから」
「うむ、その通りじゃ」
 ここで大きく見得を切る狂死郎だった。彼は今も歌舞伎役者なのだ。 
 次にはだ。命が二人に尋ねた。
「あの朧というのは」
「そうだ。あの老いぼれは元は忍だったな」
 命に続いて刀馬も言う。
「けれど一体」
「何故あの者達に与している」
「彼も叉目指すものが同じなのよ」
「他の連中とね」
 その朧もだとだ。二人は話す。
「そういうことよ」
「だから一緒になっているのよ」
「では私達と共にいたのも」
「我等を利用する為だったか」
「あの時に一度斬られて死んだからよかったのよ」
「せめてね」
 離天京においてだ。そうなったのはというのだ。
「それであの世界でのあの男の計画が頓挫したから」
「あの時はね」
「けれど蘇りこの世界に来た」
「この世界でその欲望を満たす為にか」
「そうなるの。どうやら貴方達の世界は破壊と混沌を望む者が多いわね」
「刹那も含めて」
「刹那ですね」
 その刹那のことはだ。月が言った。
「あの男は常世の使者ですが」
「使者、いえ常世の具現化ね」
「あれはそうした存在よ」
 使者どころではないというのだ。
「だからこの世界にも常世をつなげようとしているのよ」
「そう目論んでいるのよ」
「そうですか。だからあれだけの力を持っているのですか」
「あの刹那もやっぱり破壊と混沌を望む形になっているから」
「常世とこの世を結び付けて完全に常世にするつもりだから」
 そのことはだ。月もよく知っていることだ。無論四霊の者達もあかりも守矢もだ。このことはわかっている。
 こうしてだった。あらゆることが今結びついて語られた。
 しかしだった。ここでだ。草薙が二人に尋ねた。
「で、何で俺達の世界の奴等がこっちの世界にあれだけ来てるんだ?」
「あと俺達は何でこの世界に来たんだ?」
 テリーも尋ねる。
「この二つが一番気になるんだがな」
「それはどうしてなんだ?」
「まずは白装束の者達はこの世界を破壊して自分達の望む様にしようとしたのよ」
「それでね」
 さらにだというのだ。
「貴方達の世界でそれを果たせなかった彼等を見てね」
「こちらの世界に誘ったのよ」
「そうだったのか」
 ここまで聞いてだ。多くの者が悟った。
「それで皆この世界に来てか」
「事情がわかった」
「そうなのか」
「つまりは」
「そう。そしてね」
「貴方達をこの世界に呼んだのは私達よ」
 ここで話す二人だった。
「この世界を何とかする為にね」
「悪いけれど呼んだのよ」
「そういうことだったんだな」
「これで全てはわかったな」
「ええ、本当にね」
「全てのことだ」 
 双方の世界の者達がだ。話し合う。彼等はここに至り全ての事情を理解した。
 そしてだ。そのうえでだった。
 劉備がだ。二人に尋ねた。
「それでなんですが」
「連中の今の居場所ね」
「そして倒し方ね」
「何処にいるんですか?今は」
「赤壁よ」
「そこにいるわ」
 そこだとだ。二人は話した。
「あそこは独特の磁場があってね」
「そこで力を蓄えているのよ」
「またか」
 関羽はそれを聞いて目を鋭くさせた。
「懲りない者達だ」
「あそこに潜んで隙を窺っているわ」
「注意してね」
「わかりました」
 ここまで聞いてだ。劉備は。
 強い顔でこくりと頷きだ。それからだった。
 今ここにいる全員にだ。こう言ったのだった。
「では今からです」
「はい、今からですね」
「これからなのだ」
「出陣の準備に入ります」
 そうするというのだ。
「赤壁に向けて」
「わかりました。では今より」
「戦の準備なのだ」
 関羽と張飛が応えてだった。
 そうしてだ。彼等は出陣の用意に入った。全軍がだ。
 その中でだ。黄蓋が周りに話す。
「その赤壁じゃがな」
「ああ、揚州だったよなあそこは」
「そうじゃ」
 その通りだとだ。彼女はダックに話した。
「そこにある」
「水だよな」
「そうじゃ。じゃから水軍が重要になる」
「船の上での戦いか」
「それは経験があるか?下手をすれば酔うぞ」
「ああ、そういうのもあるぜ」
 ダックは気軽にこう黄蓋に話した。
「戦う場は色々だったからな」
「ふむ、そうだったのか」
「私がイタリアで修業をしていた時のことだけれどね」
 アンディが出て来て話す。
「船の上で戦ったりもしていたから」
「あれはあれで楽しかったよな」
 ダックは笑ってアンディに応える。
「揺れるのがまたな」
「雰囲気が出ていて」
「そういうことだからな。皆経験はあるぜ」
「それはよいことじゃ」
 それを聞いてだ。黄蓋は満足した笑みで述べた。
「では御主達は安心してよいな」
「泳げるしいざという時にもな」
「大丈夫だよ」
「ならよい。しかし問題はじゃ」
 ここでだ。黄蓋は眉を顰めさせた。
 そうしてだ。こう言うのだった。
「あの地にはあの地で風土病があるからのう」
「それなら任せておいてくれるかのう」
 今度出て来たのはリーだった。
「わしの漢方医学に」
「おお、御主がおったな」
「左様。薬のことなら任せてくれるか」
 こうだ。中華服の広い袖の中に手を入れ腕を組み一礼してから述べた。
「あの地の風土病についても」
「頼めるか。それではじゃ」
「うむ、それではじゃな」
「あの地の風土病については穏が詳しい」
「はい、御呼びですか?」
 その陸遜も出て来た。
「あの場所の書もありますから」
「それを読んでじゃな」
「何しろ地元です」
 陸遜はこのことも話す。
「ですから」
「詳しいのじゃな」
「はい、そうです」
 だから大丈夫だというのだ。よく知っているというのである。
「では今からじっくりとですね」
「薬のことをじゃな」
「お話して作りましょう」
 こうして風土病対策についても進められていくのだった。しかしだ。
 黄蓋は難しい顔でこのことも話した。
「病のことはこれでよいがじゃ」
「んっ、まだ何かあるのかよ」
「水じゃ」
 またダックにこのことを話した。
「水だからじゃ」
「チャイナは確か」
 アンディはこの国のことから話す。
「北は馬で南が船だったね」
「そうじゃ。わし等はよいのじゃが」
 揚州にいる彼女達はという。しかしだ。
 ここでだ。黄蓋は言った。
「じゃが北の連中はどうじゃ」
「北か。袁紹さんや曹操さん達か」
「それに董卓さん達だね」
「うむ。御主達あちらの世界の者達は船に慣れておると聞いた」 
 だからだ。彼等自体はいいというのだ。
 しかしだ。黄蓋は彼等だけを見ていない。今見ている相手は。
「しかしあの者達はのう」
「馬だからな」
「そこが問題だね」
「そうじゃ。船での戦は知らん」
 慣れていないどころではないというのだ。
「果たしてどうなるかのう」
「そのことも問題ですね」
 陸遜も少し困った顔で話す。
「どうするべきか」
「わし等だけで白装束の連中やオロチだけを相手にできるか」
「難しいですね」
 すぐにだ。陸遜は言った。
「数が足りません」
「数は力じゃ」
 リーもこのことについて指摘する。
「じゃから北の者達も必要じゃぞ」
「そうじゃ。まさか陸に置く訳にもいくまい」
 袁紹や曹操の兵達をだというのだ。
「三十万を超える兵を使わん手はないぞ」
「どうしたものでしょうか」
「中には泳ぎを知らない奴もいるよな」
 ダックは腕を組んで述べた。
「そういう奴を水の上に出して戦えっていうのも酷だぜ」
「とりあえず泳ぎだけでも教えるか」
 また言う黄蓋だった。
「それだけで随分違うしのう」
「準備も結構かかりそうだしね」
 アンディは出陣の準備についても言及した。
「その間に時間を見て」
「そうするとするか。水着を用意しておくか」
 水着の話にもなる。かくしてだ。
 泳げない者達に水泳を教えることにもなった。その中でだ。
 兵達は半ば強制的に泳がさせられる。そうして口々に言うのだった。
「水苦手だよ」
「俺もだよ」
 こうだ。口々に言うのである。
「泳げないのにな」
「それでこれってな」
「別に泳げなくてもいいのにな」
「嫌な話だぜ」
「全くだよ」
「不平を言ってはならない!」
 しかしだ。ここでだ。
 コーチをしているキムがだ。彼等を叱咤したのだった。
 そのキムも見てだ。兵達は悲嘆にくれたのだった。そして言うことは。
「せめて教えてくれる人位な」
「女の将軍にしてくれよ」
「何でキムさんなんだよ」
「しかもジョンさんまで一緒かよ」
 コーチの人事には何の容赦もなかった。
「しかも泳ぎもいけるって手を挙げてきてだよな」
「難儀な話だよ」
「いつもいつもな」
「困った人達だよ」
 おまけに志願だった。キムとジョンはだ。そのことがだ。兵達を余計に鬱にさせていた。しかもその教育があまりにもだった。
「これから一刻休みなしで泳ぐ!」
「それから滝を昇ります」
「素潜りは十分を気が済むまでする」
「食事は水の中でします」
「死ぬって、それ」
 兵達が唖然としながら言う。
「何処までえげつないんだよこの人達」
「こりゃ俺達死ぬかもな」
「水魏のお姉さんもいないしな」
 このことが最も大きくだ。彼等は。
 暗澹としながら泳ぎの訓練をだ。出陣の用意の間受けていた。尚出陣の用意もしながらだ。泳ぎの訓練も受けさせられていたのだ。
 それを見てだ。臥龍は唖然としながら自分の子分にこう言った。
「いや、俺は今な」
「何でやんすか?親分」
「今程泳げることに感謝したことはないぜ」
「泳げないとあれでやんすからね」
 子分もしごかれまくる兵達を見て言う。
「水地獄でやんすよ」
「地獄は労働と修業だけで充分だよ」
 彼等が今受けている二つの地獄である。
「ここで水まで来た日にはな」
「最悪でやんすね」
「そうだよ。だからだよ」
 それでだというのだ。
「いや、感謝することしきりだよ」
「全くでやんすね」
「まあ旦那の御先祖様もいるしな」
「従兄弟もでやんすよ」
 キム一族の血は濃い。
「だから気を抜かずに真面目に働くか」
「さもないとやっぱり袋でやんすよ」 
 それは変わらないのだった。こうしてだ。
 臥龍達は泳げることに幸せを感じながらだ。出陣の用意をしていた。
 そしてだ。彼等はだった。
 出陣の用意を進めていくのだった。決戦の為の。


第百八話   完


                           2011・9・9







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