『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第百六話  夏侯惇、妹を救うのこと

 定軍山での戦いは続いていた。
 ラルフもクラークもだ。拳を振るい続けている。
 その中でだ。白装束の者達を次々に薙ぎ倒す。しかしだった。
「おい、まだ減らないな」
「ああ。どれだけ出て来るんだ」
 クラークがラルフの言葉に応える。
「減らないどころかな」
「増えるか?」
「そう思うけれどな」
 クラークはそう見ていた。
「余計にな」
「都での戦いの時もえげつなかったがな」
「今回もあれだな」
「ああ、洒落にならないな」
「百人位じゃ何とかなってもな」
 クラークはその蹴りで白装束の者を一人吹き飛ばしてから言う。
「千人も二千人にもとなるとな」
「辛いなんてものじゃないな」
「楽しくはあるがな」
 クラークは何とか余裕を見せようとする。しかしだ。
 その顔に笑みはない。ラルフもだ。
 次第に疲れが見えてきていた。その二人にだ。
 レオナがだ。こう言ったのだった。
「あの」
「んっ、何だ?」
「どうしたんだ?」
「これをどうぞ」
 こう言ってだ。二人に投げ渡したものは。
 干し肉だった。それを渡してからだった。
「食べて下さい」
「これを食ってか」
「戦い続けろっていうんだな」
「食べるとそれだけで過度の緊張がほぐれます」
 だからだというのだ。食べろと。
「それに空腹は戦いの最大の敵です」
「そうだな。暫く戦ってばかりだしな」
「食うのも大事だな」
「はい、では」
 レオナもだ。その手にだった。
 干した果物を出してだ。食べるのだった。
 そして食べながらだ。両手から鎌ィ足を出して白装束の者達を撃つのだった。
 そうしてだった。彼等は戦いながら食べそして生き残ろうとしていた。
 その彼等のところにだ。秦兄弟が来た。彼等もまただった。
「おい、無事だったか」
「足はありますか?」
「そりゃ日本の幽霊の話だな」
 クラークがリラックスした笑顔で彼等に応えた。
「アメリカの幽霊には足があるぜ」
「まあそれは中国の幽霊もだけれどな」
「鬼はそうですね」
 中国では霊は鬼と呼ぶ。この言葉も出て来ていた。
「まあ日本の話だな」
「鬼に足がないのは」
「だよな。けれど生きてることは間違いないからな」
 ラルフが笑って話す。
「じゃあ最後の最後までな」
「ああ、絶対にな」
「生き残りましょう」
 秦兄弟も応えてだ。彼等もだった。
 戦い生き残ろうとする。その中でだ。
 夏侯淵はだ。オロチの三人と戦い続けていた。
 クリスと戦いながらだ。彼女は言った。
「小さいこともだ」
「そうだよ。武器だよ」
 悪戯っぽく笑いながら。クリスは夏侯淵に返す。
「色々攻められるからね」
 実際にだ。突進してだった。
「下です」
「来たか」
 夏侯淵の足下を狙う。その攻撃を。
 夏侯淵は上に跳んでかわした。しかしその足下にだ。
 クリスの青い炎があった。その技は。
「草薙の」
「そうだよ。大蛇薙だよ」
 大蛇を倒すだ。その技だというのだ。
「僕も炎を使えるからね」
「だから出せるというのか」
「そう。これを受けたら誰でも消し炭になるから」
 今着地する夏侯淵を見上げていた。血を楽しむ笑みで。
「さあ、死んで下さい」
「くっ、まずい」
 夏侯淵も今はだ。死を覚悟した。着地の瞬間はどうしようもない。
 とりあえず両手を交差させそこに気を込めて防ごうとする。だがそれでも絶望的だった。
 しかしここで。その彼女を。
 何か跳んで来たものが抱き締めてだ。そうしてだった。
 炎の下から救い出した。それは。
「流琉か」
「大丈夫ですか、秋蘭様」
 典韋だった。彼女がその小さい身体で己より背の高い夏侯淵を抱き締めていた。
 そうしてだ。その彼女が言うのだった。
「本当に危ないところでしたね」
「そうだな。済まない」
「御礼はいいです」
 それはいいと応えてだ。典韋は。
 立ち上がりクリス達を見てだ。こう言うのだった。
「私も貴方達と戦う」
「あら。じゃあ三対一じゃなくて」
「三対二よ」
 強い目でだ。シェルミーに返す。
「秋蘭様はやらせないから」
「面白いことを言う娘ね」
 典韋の話を聞いてだ。シェルミーは。
 目は髪の毛に隠れて見えない。だが口元はにこやかにさせてだ。こう応えたのだった。
「なら貴女の相手はね」
「貴女ですね」
「そうよ。荒れ狂う稲光のシェルミー」
 己のその名も名乗ってみせた。
「私が相手をするわ」
「おいおい、俺の出番はまだかよ」
 社がシェルミーの名乗りを聞いて肩を竦めさせて話した。
「ったくよ。退屈な話だな」
「生憎だけれど今は社はね」
「出番はないと思うよ」
 シェルミーだけでなくクリスもだ。その社ににこやかに笑って話す。
「だからここではね」
「ラーメンでも食べて観ていてよ」
「ちっ、ラーメンって言ってもな」
 今度は苦笑いで応える社だった。
「ここには火も鍋もないしな」
「じゃあ他のものを食べておいて」
「干し肉でも包でもね」
「じゃあこれでも食うか」
 社は何処からかパンを出してきた。それをだ。
 食べながらだ。戦いを観ることにしたのだった。
 夏侯淵は再びクリスと対峙する。そうしてだ。
 あらためてだ。彼に言うのだった。
「今度は不覚を取るつもりはない」
「そうだろうね。お姉さん強いし」
 クリスもだ。余裕の表情だがそれでも言う。
「二度同じ手は通用しないね」
「その通りだ。そしてだ」
「僕を倒すんだね」
「そうさせてもらう」
 こう返してだ。夏侯淵はクリスとの間合いを一気に詰めた。
 そうしてだ。その顔に左足の回し蹴りを出した。
 それでだ。クリスを倒そうとする。だがその蹴りを。
 クリスは右手で受け止めてだ。言うのだった。
「見事な蹴りだね」
「防いだか」
「凄いよ。お姉さんやっぱり強いよ」
「御主もな。私の今の蹴りを防いだのはだ」
「はじめてかな」
「姉者だけだ」
 夏侯惇、彼女だけだというのだ。
「今の蹴りを防いだ者はいなかった」
「お姉さん以外にはだね」
「そうだ。見事だと褒めておこう」
 言いながらだ。夏侯淵は足を収めた。次は。
 右手から拳を次々に繰り出す。それも防ぐクリスだった。
 防ぎつつ己も技を繰り出す。夏侯淵はそれも防ぐ。
 その中でだ。クリスは。
 楽しげに笑い。こんなことを言った。
「お姉さんってさ」
「何だ?」
「大人だけれど純情だね」
 こんなことを言ってきたのだ。
「清純派だよね」
「何故そう言う?」
「白だから」
 旧にだ。クリスは色を話に出してきた。
「下着、見えたよ」
「さっきの蹴りでか」
「うん、見るつもりはなかったけれどね」
「戦いの中でそんなことを気にはしない」
「見えてもいいんだ」
「見られて恥ずかしくない筈がない」
 頬を微かに赤らめさせてだ。夏侯淵は答えた。
「だがそれでもだ」
「戦いの中ではだね」
「気にしてはいられない」
 そういうことだった。
「どうしても見られたくないなら下にさらに穿く」
「ズボンを?」
「そちらの世界ではスパッツというのか」
 話が急にあちらの世界めいてきた。
「それを穿けばいい」
「ああ、あれね」
「しかしあれは邪道だ」
 スパッツを穿くということはだ。そうだというのだ。
「好きになれない」
「じゃあ見える場合は」
「見るがいい。私もこうした場合に見られても怒りはしない」
「普段は?」
「見た者は成敗する」
 その場合はだ。そうするというのだ。
「そういうことだ」
「成程ね」
「あと一つ言っておく」
 攻防を続けながら。今度はだ。
 夏侯淵はこんなことをだ。クリスに告げた。
「私の下着だが」
「それのこと?」
「清純と言ったがいつも同じだ」
「色は白なんだ」
「白が一番いい」
 何気に自分の下着の趣味を話している。
「そう思っている」
「確かにね。似合ってるよ」
「白でいいな」
「うん。大人が白なのもいいね」
「戦いの中なら見ればいい。そうしろ」
「そうさせてもらうね」
 こうしたやり取りをしながらだった。彼等は闘っていた。そしてだ。
 闘いは続きだ。その中でだ。
 夏侯淵の軍は少しずつ追い詰められていっていた。山の中でだ。
 一人、また一人と倒れていきだ。囲まれていっていた。
 兵達がだ。槍や剣を手にだ。白装束の者達と戦いながら話していた。
「援軍はまだか?」
「ああ、まだだ」
 来ていないというのだ。援軍は。
「ガルフォードさんが呼びに行ったけれどな」
「それでもまだか」
「援軍を呼んですぐに来れるものじゃない」
 やはり到着まで時間がかかる。そういうことだった。
「だからだ」
「今はか」
「耐えるしかない」
 これが結論だった。
「仕方ない」
「そうか。辛いな」
 辛いともだ。彼等は言葉を漏らした。
 だがそれでもだった。敵は。
 まだ出て来ていた。彼等の戦いは続きだ。
 兵の一人の槍が折れた。そこにだ。
 白装束の者達が襲い掛かる。だがここで。
 何かが一閃して。それでだ。
 白装束の者達が真っ二つにされる。その一閃の主が。
 兵達の前にいた。それは。
「間に合ったな」
「えっ、張遼様!?」
「まさかもう」
「来られたのですか」
「そや、間に合って何よりや」
 にやりと笑ってだ。張遼は自分の背にいる兵達に話した。
「危ういところやったで」
「有り難うございます」
「いや、本当に危ないところでした」
「ただ」
「何でうちがこんなにはよ来れたかやな」
 話はそこだった。張遼もわかっていた。
 それでだ。彼女はその得物を縦横に振るいながら兵達に話したのだった。
「用意しとったさかいな」
「だからですか」
「それでこんなに早くですか」
「来られたんですか」
「道中に飯や武具や馬を用意しといて山の手前まではただひたすら駆けたんや」
 駆けながらだ。食べもしていたことを彼等にも話した。
「山のすぐ側に武具を置いてあったしな」
「だからですか」
「こんなに早くですか」
「援軍に来られたんですか」
「そや。要は速さや」
 張遼は兵達に楽しげに笑って話した。
「速いに越したことはないで」
「そういうことだ!」
 今度はだ。華雄だった。
 彼女は斧を振るいだ。白装束の者達を薙ぎ倒している。そうしながらだ。
 彼女はだ。こう話すのだった。
「備えてあればこうして間に合わせることもできるのだ」
「そういうこっちゃな。しかし華雄ちょっとええか?」
「何だ?」
「あんた先陣におったんか?」
 こう華雄に尋ねるのだった。
「姿見んかったで」
「私は最初からいたが」
「そうやったか?」
「そうだ。気付かなかったのか」
「ちょっとな。あんたとは長い付き合いやけれどな」
 それでもだ。気付かなかったというのだ。
「今回は気付かへんかったんや」
「ううむ、そうだったのか」
「済まん」
 張遼は素直に謝罪した。
「気付かんかってな」
「いい。私は長寿であればいいのだからな」
「それでええんかいな」
「そうだ。ではこの戦いもだ」
「ああ、勝ってな」
「生き残るとしよう」
 こうしてだった。二人は並んで戦いだ。白装束の者達を薙ぎ倒していくのだった。
 馬超は刹那、そしてミヅキと戦っていた。その槍を何度も突き出しだ。
 二人を寄せ付けない。しかしだ。
 刹那が防ぎながらだ。こう言ってきたのだった。
「確かに強いが」
「強くてもってのかよ」
「貴様は今一人だ」
 刹那が言うのはこのことだった。
「だからだ。やがてはだ」
「負けるっていうのかよ、あたしが」
「そうだ。我等は二人」
 ミヅキと合わせてだ。二人だった。
「貴様はやがて力尽き敗れる」
「生憎だけれどな」
 馬超は一旦後ろに跳んだ。そのうえで間合いを取り直してだ。
 それからだ。二人に言うのだった。
「あたしだけじゃないんだよ」
「貴様だけではないというのか」
「ああ、そうさ」
 不敵に笑って応えるとだった。彼女の横に。
「間に合ったな!」
「ああ、丁度いいところだよ」
 紅の蝶の仮面の女がすくっと立っていた。それは。
「愛と正義の戦士華蝶仮面!」
「主は確か」
 ミヅキがだ。その華蝶仮面とやらを見て言った。
「趙雲といったな」
「そうだったな。その服に髪型」
 刹那にもわかることだった。
「それならだば」
「間違いないな」
「そんな者は知らんが」
 当人はあくまでシラを切る。
「誰だ、その趙雲というのは」
「おい、もうばれてるからな」
 馬超も彼女に言う。
「無駄だぞ」
「さて、何のことなのか」
「木陰に入って覆面取って来い」
 馬超は華蝶仮面にまた話す。
「いいな」
「ふむ。ではだ」
 彼女はどこかに消えてだ。そうしてだった。
 趙雲が出て来た。そのうえで刹那達にあらためて言うのだった。
「趙雲子龍参上」
「わかった」
 刹那がその名乗りに応える。
 そうしてだ。こう言うのだった。
「先程の妖怪達は何処かに消えたが」
「確かに。面妖なことに」
 ミヅキもあの怪物達のことに言及する。見れば彼等がこれまで戦っていた筈のあの妖怪達は何処かに消え去ってしまっていた。
「その代わりにこの二人というわけね」
「相手にとっては不足か」
 それはだ。不満があると言う刹那だった。
「二人ではな」
「確かに。この二人では」
「我等二人の相手にはならない」
「敵ではない」
 こう言う彼等だった。
「所詮はな」
「確かにな。この連中の力は」
「尋常ではない」
 それはだ。馬超も趙雲も認めた。
「あたし達二人でもな」
「片方を相手にすることも難しいだろう」
「わかっているのね」
 ミヅキはその彼等の言葉を聞いて述べた。
「一応は」
「わかってはいる」
 趙雲が言葉を返す。
「それはだ」
「なら話は早い。このまま」
「死ぬことだな」
 ミヅキだけでなく刹那も構えに入る。しかしだ。
 馬超と趙雲の後ろからだ。彼等が来たのだった。
「よし!」
「間に合ったのだ!」
 関羽と張飛がだ。二人の横に来て言う。
「本陣も到着した!」
「共に戦うのだ!」
「よし、来てくれたな」
「これで話が変わった」
 馬超と趙雲は二人を左右に見てだ。それで言うのだった。
「それじゃあな」
「これで五対二だな」
「五人?」
 その数詞にだ。ミヅキは眉を動かした。
 そのうえでだ。四人をあらためて見て言った。
「嘘を言っている訳でも愚かでもないようだな」
「そうだ、何故ならだ」
「もう一人来るのだ!」
 こう言うとだ。四人の後ろからだ。
 黄忠が来た。その手には弓がある。
 彼女は四人のところに来てだ。そのうえで刹那とミヅキに言った。
「こういうことよ」
「そういうことね」
 話を聞いてだ。ミヅキは言った。
「だから五人と言ったのね」
「そうよ。貴女達の強さは知っているわ」
 黄忠は刹那とミヅキを見据えながら言葉を返した。
「だからよ。私達五人で」
「相手をする!」
 関羽も言う。それを受けてだ。
 ミヅキはだ。悠然とした笑みを浮かべた。その笑みでだ。
 五人にだ。こう問うたのだった。
「話はわかったわ。けれど」
「けれど。何なのだ」
「私達の強さを知っているのなら」
 そのだ。彼等の強さならどうかというのだ。
「それなら五人で私達の相手になるのかしら」
「無理だ」
 刹那もそれを言う。
「我等二人を五人で相手にするにはだ」
「精々私か刹那のどちらか」
 それで五人をだというのだ。
「どちらを相手にするかね」
「少なくとも五対二では貴様等に勝てはしない」
 このことも言う二人だった。
「相手にするのなら異存はないが」
「どうするのかしら」
「言った筈よ」
 黄忠もだ。悠然とした笑みになりだ。
 それでだ。こう二人に返したのだった。
「本陣が到着したのよ」
「何っ!?」
「ここに来るのは私達だけじゃないわ」
「そうか」
 刹那は黄忠の言葉を受けてだ。それでだった。
 納得した声を出してだ。そのうえで話したのだった。
「そういうことか」
「さあ、来たのだ」
 張飛が言うとだった。今度は。
 五人来た。彼等は。
「貴様の相手はだ」
「我等だ」
 示現と嘉神がだ。刹那に告げる。
「今ここでだ」
「貴様を封印させてもらう」
「そういうことか」
 刹那の表情は変わらない。
「俺の相手は貴様等か」
「姉さんを犠牲にはしない」
「主はここで我等だけで封じる」
 楓と翁もいる。
「それなら」
「今からじゃ」
「そしてだ」
 守矢もいた。彼はだ。
 楓のところに来てだ。こう彼に告げた。
「私も戦わせてもらう」
「兄さんもまた」
「そうだ。雪はここには来させていない」
「そうしてくれたんだね」
「そうだ。劉備殿達にもお話した」
 そうしたというのだ。
「だからだ。今はだ」
「僕達だけで」
「倒し、封じることができる」
 倒す、それが即ち封じることだった。
「ではだ」
「うん、やろう」
 兄弟はそれぞれ左右になりだ。剣を構えた。
 そうしてだった。嘉神がだ。
 その守矢にだ。こう告げたのだった。
「守るものの為に戦うか」
「そうだ」
 まさにだ。その通りだとだ。守矢はその嘉神に返した。
「私の守るものはだ」
「妹、そして弟だな」
「その為に私は戦う」
 また言う守矢だった。
「だから今ここにいる」
「わかった」 
 それを聞いてだ。嘉神も。
 構える。そうしてだった。
 彼等が刹那に向かう。戦いはこちらの方が先にはじまった。
 そしてだ。馬超達もだった。
「じゃあはじめるぜ!」
「いいわ」
 ミヅキは槍を構える馬超に対して返した。
「それなら来ることね」
「行くぜ!」
「うむ、行くのだ!」
 馬超にだ。蛇矛を構えた張飛が応える。そうしてだった。
 黄忠がだ。弓を放ったのだった。それが合図になりだ。
 四人は一斉に跳びだ。ミヅキに襲い掛かった。
 それに対して。ミヅキは。
 その手に持っている祈祷の棒でだ。まずはだ。
 張飛の蛇矛を受けたのだった。
「何っ、受け止めたのだ」
「見事ではあるわ」
 こうだ。張飛にだ。その悠然とした笑みで返したのだった。
「ただ」
「くっ、鈴々の矛を受け止めてそれなのだ」
「そうよ。私を倒すには至らないわ」
「ああ、わかってるさ!」
 馬超は最後まで言わせなかった。それでだ。
 今度は彼女が槍を繰り出す。幾度も幾度もだ。
 だがそれもだ。ミヅキは。
 その棒で受け止めてみせる。そして。
 返す刀でだ。同時に来た趙雲の槍もだ。
 平気で受け止める。そうしたのだ。
 そのうえでだ。
 関羽にはだ。凶犬を差し向ける。その犬の相手をしてだ。
 関羽はだ。言うのだった。
「この犬もまた」
「そうね」
 黄忠は関羽の援護をしながら彼女に応えた。
「手強いわね」
「だから我等もだ」
「油断してはならないわね」
「油断すればだ」
「やられるのは私達ね」
「その通りよ」
 ミヅキはだ。三人の相手を同時にしながら返す。
「さあ、必死に楽しむころね」
「ふん、それならな!」
「その言葉!」
「乗ってやるのだ!」
 馬超に趙雲、張飛はだ。一先着地してそのうえで態勢を立て直し。
 それからだ。再び攻撃を仕掛ける。それを繰り返してだ。
 ミヅキと戦う。彼女達の戦いは激しいものだった。
 そしてその隣では。楓達がだった。
 それぞれの剣を振るい戦い。今刹那の剣を受けたのは。
 示現だった。剣を受け止めた上で彼に返す。
「強さは健在か。むしろ」
「わかるのだな」
「強くなっている」
 このことをだ。示現は見抜いていた。
「さらにな」
「常世の力は強まっている」
 だからだ。その化身である刹那もだというのだ。
「そしてその力でだ」
「この世界を常世に変えるか」
 翁も仕掛けた。だがだ。
 刹那は微かに動いただけでだ。翁の攻撃をかわしてみせた。そしてだ。
 それからだ。さらにだった。
 その剣を一閃させてだ。闇を繰り出しだ。五人を襲う。
「死ね」
「甘い!」
「この位なら!」
 守矢と楓が同時に叫ぶ。そしてだ。
 その攻撃をかわした。五人共だ。
 跳びそこから刹那の前に五人並んで着地してからだ。翁が言った。
「これは尋常なやり方では倒せぬのう」
「わかってはいる筈だ」
 嘉神が翁に返す。
「このことは」
「そうじゃな。常世を封じるのは容易ではない」
 封じる役目を担うからこそだ。このことは誰よりもわかっていた。
 それでだ。翁はさらに言うのだった。
「ではじゃ」
「うむ、わかった」
「それじゃあ」
 嘉神と楓が応えてだ。それでだ。
 五人は刹那を囲んでだ。そうしてだった。
 再び攻撃を浴びせる。彼等も果敢に戦っていた。
 戦局自体はだ。大きく変わろうとしていた。やはり本陣の到着が大きかった。
 孫策がだ。馬から降り自ら剣を抜いて指示を出していた。
「山を囲め!そのうえで十人一組になってだ!」
「十人一組になってですか」
「そうしてですか」
「そうだ。山を登り敵を倒せ!」
 小さな隊に分かれてだ。それぞれそうしろというのだ。
「そしてだ。仲間達を救出する!」
「了解です!」
「わかりました!」
 孫策の言葉に応えてだ。兵達は、
 山を囲んだうえで進んでいく。そうして白装束の者達を倒していっていた。
 白装束の者達は暗躍する。しかしだ。
 それでもだ。その数と戦術に圧倒されてだ。
 山の頂上に追い詰められていく。その中で。
 特にだ。曹操がだ。
 鎌を振るいながらだ。周りの兵達に問うていた。
「秋蘭は!?」
「までです」
「何処におられるかわかっていません」
 兵達は曹操にすぐに答えた。
「今必死に捜索中です」
「この山の中を」
「わかったわ」
 話を聞いてだ。曹操はだ。
 前、山の上の方を見据えてだ。そして言うのだった。
「なら今はね」
「少しずつですね」
「進んでですね」
「そのうえで」
「秋蘭達を見つけ出すわよ」
 そのうえで助け出す。それが曹操の考えだった。その彼女のところにだ。
 袁紹が来た。彼女も手に剣を持っている。その彼女が曹操に言う。
「華琳、いい知らせよ」
「秋蘭が見つかったの!?」
「ええ。今春蘭が向かっていますわ」
 そうだというのだ。
「そしてラルフさんや秦兄弟も」
「見つかったの!?」
「合流しましたわ」
 見つかりだ。そうしたというのだ。
「後は」
「秋蘭ね」
「確かに大変な状況ですけれど」
 戦局は有利になっている。それでもだった。
「秋蘭は生きていますわ」
「そうね。だから春蘭も向かっているし」
「心配無用ですわ」
 これが袁紹の曹操への言葉だった。
「だから私達も」
「ええ。少しずつ先に進んで」
 この戦いに勝つ、このことを言ってだった。
 戦いを続けていた。指揮をしながら。
 夏侯淵と典韋はだ。クリス、そしてシェルミーと戦い続けていた。その戦いは五分と五分のまま進んでいた。
 だが次第にだ。二人はだ。
 肩で息をしだしていた。それを見てだ。
 社はだ。楽しげに笑ってこう言った。
「そろそろやばいか?」
「ふん、この程度!」
「何ともありません!」
 こうだ。二人は弱気を見せず言い返した。
「貴様等は必ず倒す!」
「そして生き残ります!」
「生きるねえ。生きるのは大変だよな」
 社は笑いながら二人に返す。
「じゃあまあ。楽しんでくれよ」
「いえ、そういう訳にはいきません」
 社の言葉にだ。不意にだ。
 于吉が来てだ。そして言ってきたのだった。
「時間がありません」
「そういえば山の下の方が騒がしいな」
「敵の援軍が来ました」
 そうだというのだ。
「ですからここはです」
「何だ。帰るのか」
「その前にです」
 戦う夏侯淵達を見ながらだ。社に話すのである。
「彼女達は消していきましょう」
「おい、それは俺達がやるぜ」
「ですから時間がないのです」
 于吉が言うのはこのことだった。
「ここは私に任せて欲しいのですが」
「何だ?戦いを止めろっていうのか」
「はい」
 まさにだ。その通りだというのだ。于吉は社に言い切った。
「その通りです」
「今は敵を少しでも減らすことか」
「既にこの山の放棄が決定しています」
 それが決まったというのだ。
「山に何があるかも。彼等に知られましたし」
「こうして敵も来たしか」
「はい、この山を出ます」
 于吉は社に話す。
「そうします」
「わかった。なら次の場所だな」
「赤壁に向かいましょう」
「赤壁!?」
 その言葉にだ。クリスと戦っている夏侯淵は。 
 眉をぴくりと動かした。しかしそれ以上言う余裕はなかった。
 彼女達にだ。于吉は。
 兵馬妖の弓兵達を出してきた。そうしてだった。
「さて、覚悟して下さい」
「ううん、もう少し楽しみたかったけれど」
「こうなっては仕方ないわね」
 クリスもシェルミーもその彼等を見てだ。
 引き下がった。そうして言うのだった。
「それならね」
「于吉に任せてね」
「はい、お下がり下さい」
 二人に告げた。それを受けて。
 二人がだ。まず闇の中に姿を消したのだった。
 それを見てだ。社もだった。
「じゃあ俺もな」
「それでは」
「釈然としないがいいさ」
 受け入れるというのだった。
「あんたに任せるさ」
「そうして頂けると何よりです」
「まあ次もあるしな」
「はい、では」
「赤壁で会おうぜ」
 そうしましょう。
 こうしたやり取りの後でだった。社も闇の中に消えた。それを見届けてからだ。
 于吉はだ。夏侯淵達を見てだ。そうしてだ
 そのうえでだ。兵馬妖達に言うのだった。
「さて、まずは彼女達をです」
「・・・・・・・・・」
「倒して下さい」
 こう言ってだった。それでだ。
 弓で狙わせる。それで倒そうとする。
 既に彼等は四方八方から迫っている。その彼等を見てだ。
 典韋はだ。夏侯淵に言うのだった、
「どうしますか」
「どうするもないだろう」
 これが夏侯淵の返答だった。
「最早な」
「じゃあここで」
「潔く散ろう」
 こうだ。夏侯淵はその典韋に話した。
「このままな」
「わかりました」
 こう答えてだった。典韋もだ。
 覚悟を決める。今まさに無数の弓が放たれようとしている。
 だが、だ。ここでだ。
「秋蘭!流琉!」
「!?まさか」
「この声は!」
「どけ!」
 夏侯惇だった。彼女がだ。
 その大剣を手にだ。兵馬妖達を薙ぎ倒しだ。
 そのうえで二人のところに駆け付けてだ。こう言うのだった。
「間に合ったな!」
「姉者、来てくれたのか」
「春蘭さんが」
「そうだ、助けに来た」
 まさにだ。その通りだというのだ。
 その彼女がだ。二人にさらに言う。
「そしてだ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「私だけではない!」
 こうだ。二人に高らかに言うとだ。
「季衣!」
「はい、春蘭様!」
「遠慮はいらん。思う存分やれ!」
「わかりました!」
 許緒の声が応えてだ。そうしてだった。
 あの巨大な鉄球がだ。兵馬妖達の中で荒れ狂いはじめた。それでだ。
 彼等を完膚なきまで粉砕していく。それを見てだ。
「くっ、私の兵馬妖達が」
「そうだ、これで終わりだ!」
 于吉は歯噛みしだ。夏侯惇が言い返す。
「貴様のここでの目論見はな!」
「無念ですね」
「そしてここで死ね!」
 今度はだ。こう返す夏侯惇だった。
「貴様は私が倒す!」
「姉者、私も行こう」
 夏侯淵は弓を手にしてだ。姉に告げた。
「姉者だけでは。あの男は厄介だろう」
「そうだな。この男の力は」
「尋常なものではない」
 それはだ。二人の目からはすぐにわかることだった。腕が立つからこそだ。相手の力量も見極められる、そういうことなのだ。
「だからだ。ここはな」
「うむ、二人で戦おう」
 こうしてだ。姉妹二人でだ。于吉に向かおうとする。
 だが于吉はその二人に対してだ。
 悠然とした笑みでだ。こう告げたのだった。
「生憎ですが」
「まさかここでもか」
「逃げるというのか」
「そうなりますね」
 逃げると言われてもだ。彼はそこに恥を見出してはいなかった。
 それでだ。その笑みのままでだ。二人に言うのだった。
「ではこれで」
「逃がすか!」
 夏侯淵が矢を放つ。しかしそれは。
 于吉の前でだ。壁に当たったかの如く弾き返され折れてしまった。
「何っ、弓を」
「貴様、まさか」
「確かに貴女の弓は素晴らしいです」
 于吉は驚く夏侯姉妹に対して話す。
「ですが私の結界の前にはです」
「効かぬというのか」
「私の弓も」
「そうです。残念でしたね」
「それなら!」
「僕達が!」
 典韋と許緒も仕掛けようとする。だがだった。
 夏侯惇がだ。その二人に告げた。
「無駄だ」
「無駄っていいますと」
「じゃあ僕達の攻撃も」
「あの男の結界に防がれる」
 そうなってしまうというのだ。
「だからだ。止めておけ」
「わかりました」
「それじゃあ今は」
「行かせるしかない」
 今度は夏侯淵が言う。
「忌々しいがな」
「ではまた御会いしましょう」
 于吉は目だけは笑わせずに話した。
 そして一礼してからだ。彼も闇の中に消えたのだった。かくしてだ。
 戦いは終わった。白装束の者達はかなりの数が倒されたが于吉の撤退と共に彼等も姿を消してだ。残ったのは漢の兵達だけだった。
 その中でだ。劉備が孔明達に尋ねた。
「あの、勝つには勝ったけれど」
「はい、山も制圧しました」
「夏侯淵さん達も救出できました」
 孔明と鳳統の顔は晴れない。
「ですがそれでもです」
「肝心のことがまだ」
「わからなかったわよね」
 こうだ。劉備も浮かない顔で話す。
「肝心のことは」
「そうです。オロチや刹那を倒せませんでしたし」
「于吉も消えました」
 手懸りになるだ。彼等がだというのだ。
 だがそれでもだ。ここで徐庶が話した。
「ですがそれでもです」
「それでもっていうと?」
「戦いの目的は果たせましたし」
 劉備に話す。夏侯淵達を助け出し山を制圧したことだ。
「結界も全て壊しました」
「それはいいのね」
「そうです。そしてその結界の欠片からです」
 そこからだというのだ。
「調べれば色々と出るでしょうし」
「全てはこれからなのね」
「そうです。焦ることはありません」
 これが徐庶の言葉だった。
「これからじっくりとです」
「そうなるのね」
「今は」
「そうよ。だから浮かない顔をすることはないから」
 徐庶は孔明と鳳統にも話す。
 そのうえでだ。二人にこうも話した。
「それにわかってるわよね」
「この話の本番は」
「これからよね」
「そう。都に戻ってからよ」
 全てはだ。そこからだというのだ。
「司馬尉さんが」
「ええ。間違いなく」
「この戦いのことを御存知だから」
「夏侯淵さん達がこの山に向かうことを知っていた人は」
 誰なのか。徐庶は話していく。
「桃香様に袁紹さんと曹操さん」
「そして三公の方々」
「軍師の私達だけ」
 そこまでだ。隠蔽したことだったのだ。
 だがそれでもだ。夏侯淵達はオロチ達に襲われた。そのことからだ。
 徐庶はだ。言うのだった。
「となると」
「うん。司馬尉さんがこの山に軍を手配した」
「そしてあの人は」
 話がだ。つながっていく。
「オロチ達とつながっている」
「そうなってくるわね」
「その通りよ。だから」
 徐庶は孔明と鳳統にさらに話す。
「だから今は」
「まずは都に戻って」
 孔明も鳳統もだ。話を進めていく。
「そして司馬尉さんから」
「お話を聞くことになるのね」
「お話っていうけれど」
 劉備はだ。少しきょとんとなってだ。
 そのうえでだ。三人の軍師に尋ねたのだった。
「そう簡単にいくかしら」
「いえ、間違いなくです」
「簡単にはいきません」
 孔明と鳳統はその劉備の言葉にすぐに答えた。
「司馬尉さんによからぬものがあるからです」
「素直に話される筈がありません」
「ですから。都に戻ればです」
「また騒動になります」
「そうなの。それは避けられないのね」
 劉備は二人の話を聞いてだ。顔を曇らせた。
 そのうえでだ。こう言ったのだった。
「けれどそれでも」
「はい、やるしかありません」
「この世界の為に」
 軍師二人は曇った顔になった劉備を励ましてだ。そうしてだった。
 彼女にだ。あらためてだ。こう話したのだった。
「では戦いは終わりましたし」
「後の処理が終わればです」
「そうね。帰ろう」
 劉備もだ。このことはわかっていた。
 それでだ。彼女達にこう言ったのだった。
「都に」
「はい、そうしましょう」
「まずは」
 こうしてだった。戦いの処理が進められてだ。そうしてだった。
 夏侯淵達を救出した彼等は都に戻る。だがそれはだ。戦いの後の第二の舞台の幕開けでしかないのだった。戦いはまだ続くのだった。


第百六話   完


                        2011・8・20



何とか救援も間に合い、夏侯淵達を救出できたな。
美姫 「本当に良かったわね」
にしても、見事に逃げられたがな。
美姫 「まあ、それは仕方ないわよ」
まあ、とりあえずは無事を祝うべきか。
美姫 「でも、都に戻ったら司馬尉と話をするみたいよ」
なら、すぐにまた一波乱起こる可能性も捨てきれないか。
美姫 「前話とかから察するに、司馬尉の方は逃げる準備はしている感じだったけれどね」
さて、どうなるのか。
美姫 「続きはこの後すぐ!」
ではでは。



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