『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第七話 関羽、山で三人の戦士と会うのこと
「涼州からの人材ですわね」
「はい、麗羽様」
「その通りです」
田豊と沮授が袁紹に対して述べていた。
「そして匈奴の勢力圏からもです」
「他にも青州等から再び」
「最近実に多いですわね」
袁紹は二人の軍師の言葉を聞きながら述べた。
「次から次にと」
「しかもどれも他の世界の人材です」
「この世界の者ではなく」
「この時代のこの世界の我が国だけではなく」
袁紹もこのことは既に把握していた。彼女の下に来るその人材がそのことを何よりも雄弁に物語っていた。そういうことだった。
「日本という国にアメリカという国」
「他にも多くあります」
「今度はモンゴルという国の者もいます」
「モンゴル?」
その名を聞いてまずは首を捻る袁紹だった。
「何か匈奴を思わせる響きですわね」
「はい、確かに」
「実際に匈奴の国からの者です」
こうも話す二人だった。その通りだというのだ。
「その者の他にも多く来ています」
「御会いになられますか」
「ええ、いつも通りですわ」
つまり会うというのである。
「それではこちらに」
「わかりました。それでは」
「今呼んで参ります」
田豊と沮授は主の言葉に頷いてだ。数人呼んできた。まずは小柄で太った白いシャツに赤いズボンの者だった。随分と丸く人懐っこい顔をしている。
「テムジンだす」
「テムジン。モンゴルの者と聞いてますわ」
「その通りだす。モンゴルからここに来ただす」
「成程、では貴方がでしたのね」
「この国に来て驚いただす。子供達が困っているだす」
彼は悲しい顔になった。そのうえでの言葉だった。
「ワスはそれを何とかしたいだす。子供達の為に頑張るだす」
「いいですわ、孤児の救済も国の要の一つ」
袁紹もそのことはよくわかっていた。
「貴方にはそれをやってもらいますわ」
「有り難いだす。ワスは他にも戦うこともできるだす」
それもできるのだという。
「だから是非やらせてもらいたいだす。孤児院を作って子供達の為に戦うだすよ」
「わかりましたわ。では水華、恋花」
田豊と沮授の名前を呼んだうえでの言葉だった。
「孤児院の責任者にこの者を」
「はい、麗羽様」
「丁度責任者が不在でしたし」
「丁度いいですわ。そして」
テムジンの役職を決めてだった。他の者も見た。
奇麗なブロンドに青い目の奇麗な顔の少女だった。青い服に黄色いスカート、左手には丸く赤い球を持っている。身のこなしが軽やかだ。
そして双子らしき者達もいた。それぞれ白い道着に黒い下着とスパッツだ。どちらも楯にアームガードを装備していて白い髪をした少年だ。一方は道着の淵と帯が赤くもう一方は青だ。それが二人だった。
「ニコラ=ザザだよ」
「ミハル=ザザだよ」
二人は明るくこう名乗ってきた。
「僕達も頑張るよ」
「この世界の為にね」
「私はキャロル=スタンザック」
少女も笑顔で名乗ってきた。
「何かよくわからないけれどこの世界に来ていたのよ」
「俺もだ」
最後の一人は明らかにアジア系とわかる者だった。すらりとした長身に黒髪を左右で分けた精悍な顔立ちの男で青い上着に白い服とズボンを粋に着ている。その手には棒がある。
「キム=スイルだ」
「貴方達もですのね」
「何か獅子王と闘っていたらこっちの世界に来てさ」
「訳がわからないよ」
ニコラとミハルが困った顔になった。
「本当にね」
「ここって中国みたいだけれど中国じゃないし」
「それでどうしたらいいかわからなくて」
「とりあえずここに来た」
四人が言うにはそうなのだった。
「それでここの領主様は人材を求めているって聞いて」
「来たんだ」
「よかったら雇って欲しいなって思って」
「どうだ。全員強いぞ」
「どの者も卓越した腕です」
「それぞれ兵士を百人程度一度に倒しています」
田豊と沮授が袁紹に話す。
「戦場の指揮官としていいかと」
「治安維持にも使えます」
「そうですわね。今は治安維持が至急の問題」
袁紹もこのことはよくわかっていた。
「山賊退治に異民族も」
「匈奴の取り込みは順調です」
「羯の方もです」
「その二つはまずは」
袁紹は彼等についての対策を話した。
「多くは農民として辺境の開拓をさせなさい」
「農具を渡していっています」
「農具が行き渡るまでの間は牧畜をさせています」
「宜しいですわ。そして開墾の為に移住させた民と同居させること」
袁紹の政策の指示は細かい。
「そして婚姻も進めなさい。そのまま牙を抜き取り込んでいきますわ」
「それで宜しいかと」
「その中の屈強な者は」
「十万の騎兵を用意しなさい」
袁紹は今度は軍事について命じた。
「匈奴も羯も騎射に秀でている。ならば」
「はい、屈強な者を選び兵士とします」
「その選別も今進めています」
「花麗と林美に命じておきなさい」
そのことも話した。
「その選んだ兵士達をさらに鍛えることを」
「では、確かに」
「そのことも」
二人もそれに頷く。このことも決まった。
「そして今領土としている四つの州から歩兵を選りましょう」
「その数は」
「十万ですわ」
今度は歩兵の話にもなった。
「武具の充実も急ぎなさい」
「城攻めの兵器も用意しておきます」
「槍や弓、鎧兜も」
「そして」
さらにであった。袁紹の言葉がさらに強くなった。そのうえでだ。
「羌を」
「はい、烏丸はこのまま取り込めます」
「さすれば次は」
「そうですわ。羌は歯向かう危険がありましてよ」
袁紹とて漢の者だ。ならば北や西の異民族達に対してどうするかはわかっていたし決めてもいた。そのうえで田豊と沮授に話しているのだ。
「その場合は」
「征伐しかありません」
「その為にも今は」
「その通りですわ。まずは兵を養うこと」
それであった。
「次は烏丸を取り込みそのうえで」
「羌を征伐するか取り込み」
「憂いを全てなくしましょう」
「そしてその民と兵を取り込む」
彼等もまたそうするというのだ。
「宜しいですわね。ところで」
「はい」
一人出て来た。審配であった。
「今四州の民はどれだけいますの?」
「涼州の調べも終わりました。そのうえで、ですが」
「ええ」
「合わせて千二百万になります」
それだけだというのだ。
「四州でそれだけです」
「わかりましたわ。四州でそれだけになると」
「はい」
「異民族の者達をさらに取り込めば千三百万、いえ四百万になりますわね」
「それを超えるかと」
審配は田豊達の後ろにいながら主に対して述べていた。
「千五百万になります」
「それは羌も入れてですのね」
「そうです」
その通りだというのだった。
「彼等の脅威を取り除きそのうえで力を蓄えることもできます」
「わかりましたわ。では水蓮、恋花」
「はい」
「内政ですね」
「取り込んだ者達は民として教化すること」
それも命じるのであった。
「取り込み婚姻を進め完全に我が民となさい」
「ではこのまま」
「そうしていきます」
「青珠と赤珠にも命じておきなさい」
二人にもであった。
「四州の内政はそれと共に進めるように」
「烏丸もですね」
「幽州は今は空き地ですけれど」
「はい、今は主がいません」
「ですが烏丸が傍にいます」
田豊と沮授も誰かの存在を完全に忘れ去っている。無論袁紹もだ。
「彼等の脅威を取り込み無力化してからです」
「幽州に進みましょう」
「まずは四州の安定化と異民族の取り込みですわ」
内政を優先させるというのであった。
「匈奴や烏丸を併呑し次は」
「そして羌を」
「そうしていきますか」
「ではこの者達はまずは将とします」
あらためてキム達を見ての言葉だった。
「そして内政に使えそうでしたらそちらも任せなさい」
「はい、それでは」
「その様に」
こうして新たに加わった彼等の仕事が決まった。袁紹軍の将となったのだ。
キムは袁紹の前を退いてからだ。テムジンに対して言っていた。
「あんたのことは聞いているよ」
「そうだすか」
「アメリカのサウスタウンで孤児院をやっているんだな」
「その通りだす。ギースの奴から何とか守っていただすよ」
こうキムに返すのであった。
「中々大変だっただす。あいつはあれやこれやと汚い手ばかり使ってきただすよ」
「ギース=ハワードね」
キャロルもいた。彼女もこの名前は知っていたらしい。
「随分と汚い手を使ってのしあがって人よね」
「それに沢山の人を殺してきたよ」
「とんでもない奴だよ」
ニコラとミハルは露骨に顔を顰めさせていた。
「僕達気付いたらこの世界にいるけれど」
「あいつはいないよね」
「さて、それはどうかな」
キムは彼等の言葉にはいぶかしむ顔で返したのだった。その整った顔に陰がさす。似合っているが暗さは確かに増していた。
「ギース=ハワードも真獅子王もいなくても」
「他にもいるだすか」
「俺達がただこの世界に来たとはとても思えない」
彼が言うのはこのことだった。
「何かあると思っていた方がいいな。ギースや真獅子王みたいなただ力があるだけの存在がいるかも知れないな」
「っていうと」
「一体何が」
「俺もそこまではまだわからないさ」
キムはそのさらに暗くなった顔でニコラとミハルに返した。
「ただ、俺達以外にもこの世界に来ちまった奴は多いみたいだしな」
「ミッキー君やリーさんもいると聞いただす」
テムジンは既に彼等が来ていることを聞いていた。
「ではやはり」
「ああ、何かあるのは間違いないな」
こんな話をしたのだった。彼等も今は気付こうとしていた。何故自分達がこの世界に来たのかをだ。大きな謎が存在しているのは間違いなかった。
関羽一行は今は戦いの中にはいなかった。丁度擁州に入ったところだった。
鬱蒼とした険しい山の中でだ。張雲は相変わらず歌い続けている。
「熊除けか」
「そうなのだ。山の中は何がいるかわからないのだ」
「それはその通りだな」
関羽も彼女のその言葉に頷く。
「熊だけでなく虎や豹、それに狼もいる」
「そうした相手とはいちいち闘っていられないのだ」
張飛はその手に蛇矛を持ちながら言った。
「動物にも動物の都合があるのだ。無闇に倒したら可哀想なのだ」
「そうだな。それは確かにな」
趙雲も頷いた。
「ではこのまま騒がしく進むべきだな」
「山賊が来れば倒すだけだ」
関羽は彼等についてはこう言い切った。
「容赦せずにな」
「そういえば袁紹さんの領土はかなり治安がよかったですね」
ナコルルは思い出した様に言ってきた。
「山賊や盗賊に遭ったことはありませんね」
「そうだったな。幽州にはそれなりにいたが」
関羽もこのことを言う。
「それだけ袁紹殿の政治が上手くいっているのだろうか」
「公孫賛殿も頑張ってはいる」
趙雲もこのことは認めた。
「だが。あの方は本質的に武人だ。政治はあまり得意ではない」
「それでなのか」
「山賊達は討伐するだけでは駄目だ。元を断たなければならない」
「民が山賊にならざるを得ない様な状況にしないことか」
「そうだ。そして公孫賛殿のところには人が集まらない」
趙雲はこのことも話した。その理由もだった。
「あまりにも影が薄く。誰にも気付いてもらえないからだ」
「待て星」
関羽も今の言葉には流石に唖然として突っ込みを入れた。
「幾ら何でもそれは酷いではないか」
「しかし事実だ。実際袁紹殿もその配下も最近ではあの方の存在を忘れかけているかもな」
その通りだった。趙雲の読みは流石だった。
「あの方にとっては気の毒だが」
「人材もいないとなるとか」
「一人でやれることは限られている」
趙雲の言葉は続く。
「それでだ。幽州はどうしてもその内政に限界が出て来ているのだ」
「それで山賊が多かったのですか」
「そうなる。袁紹殿や曹操殿はその領地を万全に治めようとされているがな」
趙雲はナコルルにも話す。そんな話をしながら山の中を進む。
夜を過ごしそれからまた歩きはじめる。その時だった。
「むっ!?」
「この声は」
前にある森の中から喧騒が聞こえた。その声は。
「戦いだな」
「そうなのだ」
「打ち合う音も聞こえる」
「ということは」
四人はそれぞれ言ってだ。そのうえで前に向かう。すると三人の美女達が柄の悪い粗末な武装の男達を次々と蹴散らしていた。
「ベノムストライク!」
「必殺忍蜂!」
「重ね当て!」
三人の美女達はそれぞれ技を放ち拳と脚で山賊達を薙ぎ倒していく。そして山賊達はすぐに捨て台詞を残して逃げ去ったのだった。
「くそっ、覚えてやがれ!」
「今度会った時は容赦しねえからな!」
「いいな!」
「ふん、情けない」
金髪のショートにブラウンのタキシードの長身の美女が逃げ去る彼等を見据えてこう言った。そのスタイルはかなりのものである。気が強くしっかりとした顔立ちは精悍さすらある。そうした美女であった。
「山賊なんてこんなものね」
「そうね。所詮はね」
「烏合の衆ですね」
やたらと露出の多い赤い服を着た黒髪を後ろで束ねた美女だった。気が強そうな顔をしているが金髪の美女のそれが西のものなのに対して彼女のそれは東のものだった。胸も脚も殆ど剥き出しである。腰には尻尾に見える長い布がある。
最後の一人は白い上着に紺の袴、胸当てをした烏の濡れ羽色の奇麗な神の少女だった。凛としていて気品もある。この三人だった。
「しかし。ここは何処だ?」
「道に迷ったのなら厄介ね」
「村も近くにないようですし」
「少しいいか?」
関羽がその三人に声をかけた。
「貴殿達は何者だ?」
「んっ、何だ?」
「あれ、貴女達は一体」
「誰ですか?」
「それはこちらも聞きたい」
関羽はこう三人に返した。
「私は関羽雲長という。貴殿達の名前は」
「キングだ」
「不知火舞よ」
「藤堂香澄です」
三人はそれぞれ名乗った。
「三人でキングオブファイターズに向けた特訓をしていたらだ」
「この世界に来ていて」
「それで今はここいました」
こう話すのだった。張飛は三人の言葉を聞いてこう言った。
「ではナコルルやテリー達と同じなのだ」
「えっ、テリー!?」
赤い服の女不知火舞がその名前を聞いて目を丸くしてきた。
「あんたテリーのこと知ってるの」
「一緒に戦ったことがあるのだ」
張飛もこのことを話す。幽州での山賊退治のことだ。
「物凄く強い奴だったのだ」
「アンディ=ボガードやジョー=東もいた」
今度は趙雲が話す。
「三人共。相当な腕だったな」
「そうですよね、本当に」
「三人も知ってるなんて」
舞はその目をさらに丸くさせて述べた。
「あんた達と会っていたなんて」
「私達の他にもいたんですね」
香澄はこう他の二人に対して言っていた。
「この世界に来た人達が」
「そうだな。私達だけではない」
「この人達はそのことを知っておられるみたいだし」
「ねえ、いいかしら」
舞が関羽達に対して問うた。
「少し休んで。話しない?」
「そうですね。それがいいと思います」
ナコルルが舞のその提案に頷いた。
「では。今から」
「ああ、それではな」
キングも頷く。こうして彼女達は休憩に入り車座になって座りそのうえで話に入った。そしてお互いに話をするとであった。
「そうだったのか」
「うむ、そうだ」
関羽がキングに対して答えた。
「アテナという者達とも会った」
「そう、あの娘達もこの世界に来ていたのね」
「そしてその他の方も来ておられるなんて」
舞と香澄もそれぞれ言う。
「皆この世界に来ているのかしら」
「そんな気がしてきましたね」
「何かわからないけれど最近そういう奴が多いのだ」
張飛もここで話した。
「皆が皆それぞれ集まってきているのだ」
「お父さんもいるのかしら」
香澄はふと言った。
「若しかしたら」
「父君?」
「はい、実は私お父さんを探しているんです」
こう趙雲に対して答えた香澄だった。
「ずっと失踪していまして。お家はお母さんが取り仕切っています」
「そうなのか。貴殿も大変なのだな」
「サウスタウンの寿司バー『繁盛』というお店でして。そちらの方は順調なんですけれど」
「こう見えても香澄ってお嬢さんなのよ」
舞が笑ってこのことを関羽達に話す。
「もうかなりね」
「そうなんですか。そういえばキングさんの服は」
ナコルルはキングを見ていた。
「シャルロットさんのに似ているところがありますね。雰囲気も」
「シャルトロット?名前は聞いている」
キングも彼女の名前は知っているようだった。
「フランス革命の時の英雄だったな。民衆の為に戦ったという」
「御存知でしたか」
「ああ。あんたはその人と知り合いか」
「はい、親しくさせてもらっています」
このことも話すナコルルだった。
「若しかしたらあの人もこの世界に」
「有り得るんじゃないかしら、私達もいるんだし」
舞はその可能性を否定しなかった。
「テリーやアテナ達もいるとなると」
「そうですか、やっぱり」
「そして貴殿達は何故ここに?」
趙雲がキング達に問うた。
「この様な山の中に」
「最初は村を回っていた」
キングが話した。
「用心棒や技を見せたりし路銀を手に入れながらだ」
「それでここに入ったんだけれど」
「道に迷ってしまいました」
舞と香澄も話す。
「この山の中、どうして進むべきかわからず」
「それで前に出て来た山賊達と戦っていました」
「ふむ、そうであったか」
趙雲はここまで聞いて静かに頷いた。
「そういうことだったか」
「はい、そうなんです」
香澄がまた答えた。
「そして今ここに」
「大体わかった」
趙雲もまた頷いたのだった。
「それでな。では貴殿達さえよければだ」
「はい」
「我等と共にしないか」
こう誘ったのだった。
「道中だ。貴殿達の力は頼りになる」
「いいのか、それで」
「何、旅の道連れは多い方がいい」
関羽も微笑んで言った。
「それならばな」
「そう言ってくれるのか」
「そうなのだ。キング達も一緒に行くのだ」
張飛もまた言ってきた。
「鈴々達と旅をするのだ」
「わかったわ。じゃあ御言葉に甘えて」
舞も笑顔で返した。
「同行させてもらうわ」
「宜しく御願いします」
香澄は座ったまま一礼した。
「これから」
「七人になりましたね」
ナコルルも優しい笑顔になっている。
「賑やかになりますね」
「そうだな。さて、道は任せてくれ」
趙雲の言葉だ。
「私はこの辺りも通ったことがあるからな」
「では道は頼んだ」
キングがその趙雲に返す。
「山賊達は任せてくれ」
「いや、山賊達ならば私達もだ」
関羽の笑顔が不敵なものになった。
「腕には覚えがある。任せてもらおう」
「鈴々達も逃げないのだ」
張飛も話す。
「誰もやっつけてやるのだ」
「そういうことね。じゃあこれから宜しくね」
また笑顔になる舞だった。こうして一行は七人になりそのうえで旅を再開した。
進みはじめるとだ。暫くして七人の周りにだ。また山賊達が出て来たのだった。それぞれの得物を手にそのうえでだった。
「やいやいやい」
「さっきはよくもやってくれたな」
「数は増えてるけれどな」
「容赦しねえからな」
「やれやれ、また出て来たのね」
舞は自分達の周りを囲む彼等を呆れたような顔で見ながら言った。
「悪者ってのは懲りないのね」
「うるせえ、どっちにしろな」
「もう手加減しねえからな」
「一人残らず叩き斬ってやるからな」
「面白いのだ」
張飛が右手のその蛇矛を握りなおした。そしてだった。
「なら鈴々達も思う存分倒してやるのだ」
「カモンベイビー」
キングは不敵な笑みを浮かべて右手で手招きしてみせる。
「一人残らず倒してやるわ」
「その言葉忘れるなよ」
「それならな」
「死にやがれ!」
山賊達は七人に一斉に襲い掛かった。しかしであった。
舞が腰のその布を振った。身体を横に旋回させてだ。
「龍炎舞!」
「う、うわああっ!」
「炎が!」
山賊達のうちの数人がその炎を受けて吹き飛ばされる。その全身が燃えている。
「な、何だこいつ!」
「今度は火を使いやがった!」
「忍の技は縦横自在よ」
技を放った舞の言葉だ。
「炎も使えるわよ」
「こ、こいつ」
「強い!?」
「しかもかなりか」
「舞さんだけではありません」
今度は香澄であった。
「私もまた」
「な、何っこいつ」
「来やがった!?」
「自分からかよ」
「受けなさい!」
こう叫んでだった。山賊達に繰り出した技は。
「双掌弾!!」
「ぐはっ!」
これで何人も吹き飛ばされた。踏み込んで両手での掌打だったがかなりの威力であった。
そしてだ。香澄はその中でまだ立っている一人に続け様に技を繰り出したのであった。
「諸手返し!」
その山賊を掴み反対側に投げる。そしてその上から拳を打ち下ろした。
「甲割り!」
「ぐふうっ・・・・・・」
これでその山賊を完全に黙らせた。外見からは思いも寄らない強さだった。
キングは足技で山賊達を倒していく。そしてその技は。
「トラップショット!」
山賊の一人を巻き込みそのうえで激しい蹴りを何発も繰り出し倒してしまった。彼女の強さも他の二人と比べて何の遜色もないものだった。
その彼女達と共にだ。関羽達も得物を手に闘う。その結果であった。
山賊達は劣勢を悟ってだ。今回も逃げ去ったのだった。
「覚えてやがれ!」
「今度こそな!」
こう言って走り去る。そうしてだ。
残った関羽達は顔を見合わせて。そのうえで話をする。
「さて、闘いは終わったが」
「問題はこれからだな」
「そうだ、わかっているのだな」
関羽はキングの言葉を聞いたうえで述べた。
「貴殿もまた」
「では行くか」
「いいな、皆」
関羽はあらためて仲間達に告げた。無論新しく仲間に入った面々にもだ。
「追うぞ」
「そして隠れ家に行くのだな」
「そこで敵を一掃する」
こう張飛にも答える。
「いいな、すぐにだ」
「わかりました」
ナコルルはむべもなく頷いた。
「それなら今からすぐに」
「行くぞ、幸い奴等はまだ遠くへは行っていない」
「しかしだ。地の利は向こうにある」
趙雲はここであえて慎重案を述べてみせた。
「それは注意しなければな」
「ええ、伏兵なんていうのもあるから」
「はい、幾らでも」
舞と香澄も言う。
「それに気をつけてね」
「用心して、ですね」
「ママハハを偵察に向かわせましょう」
ナコルルは自分の右手にそのママハハを止まらせた。そのうえで仲間達に話した。
「ママハハは森の中でも気配でわかりますし」
「そうだな、敵は何処に潜んでいるかわからない」
関羽もそれを話す。
「ナコルル、それでは頼む」
「はい、それでは」
こうしてママハハが放たれそのうえで上から偵察された。そしてすぐに戻ってきてすぐにナコルルの耳元で囁くのだった。
「やっぱりでした」
「伏兵か」
「はい、百人程ここからまっすぐに行った場所にです」
「そこにいたのか」
「そうです、そこに隠れ家の洞窟がありまして」
「ふむ、隠れ家はそこか」
関羽はこのことも確かめたのだった。
「そこにあったのか」
「そしてその前に左右に隠れています」
「わかった。ではここはだ」
関羽はそれを聞いてだった。また慎重に話したのだった。
「まず隠れ家のその左側の奥に入る」
「奥にですか」
「そうだ、奥にだ」
こう言うのである。
「向こうが伏兵ならこちらはその裏をかく。背後から奇襲だ」
「そうだな。そして勢いを得てそのまま倒す」
「その通りなのだ。一気にいくのだ」
「ではな。回り込むとしよう」
趙雲に張飛、そしてキングが言った。
「百人か。数は多いが」
「鈴々達にとっては大した数ではないのだ」
「一人辺り十三人だな」
中でもキングは冷静だった。どうということはない口調で倒す数も言ったのだった。本当に何でもないといった口調だったのである。
「それか十四人だ。どうということはない」
「倒した後は近くのお役人に教えてね」
「それで捕まえてもらいましょう」
舞と香澄は倒した後のことも話した。
「それで全部解決ね」
「ここの領主がどういう人か今一つわかりませんけれど」
「確か董卓という人でしたね」
ナコルルはこの名前を出した。
「何か西の涼州出身だとか」
「噂では暴虐非道とも聞くか」
「だが噂は噂だ」
関羽の話に趙雲が言った。
「実際はどうかわかったものではない」
「そうだな。こうした山奥では政治もわかるものではない」
「ではまずは山賊達をやっつけるのだ」
張飛はこのことを優先させた。
「では行くのだ」
「よし、それならすぐに」
「行こうか」
こうして七人は密かに森の中に入ってだ。左側の山賊達の方に回り込む。細かい場所はママハハを何度も偵察に向かわせて確かめてだ。そのうえで向かったのである。
その頃山賊達はだ。潜みながらあれこれと話をしていた。
「間違いなくここに来るからな」
「そうだな、そうならな」
「ここで待つ」
「そして倒すぞ」
「ああ」
下卑た笑みを浮かべながらだ。そのうえで待っていた。
そしてだ。彼等なりにこれからのことを考えていた。その下卑た笑みでそのことも話すのであった。それは決して品のいいものではなかった。
「どいつもこいつも上玉だったよな」
「ああ、小さいのもいるけれどな」
「馬鹿、ああいうのがいいんだよ」
こうしたことも話すのだった。
「若ければ若い程いいんだよ」
「若ければ余計にか」
「そうなんだな」
「そうだよ、だから俺はあの赤い短い髪の女な」
「それじゃあ俺はあの胸のでかい黒髪の女だ」
「ああ、あいついいな」
何気に人気の関羽だった。
「女はやっぱり胸だぜ」
「いや、胸がないのもいいぜ」
「じゃああの白い服の黒髪か」
「あいつもいいよな」
「金髪もいるしな」
「あの青い服の女もかなりそそるしな」
「これからたっぷりと楽しめるよな」
そんな話をしていた。そしてだ。
「そろそろ来るか?」
「あの派手な狐みたいな女捕まえてな」
「袴の女、今度こそな」
舞と香澄のことも話される。
「楽しませてもらうぜ」
「怪我の恨み、晴らさせてやるぜ」
「よしっ、じゃあな」
「来やがれ」
こう言ったその時だった。後ろから来た。
「行くぞ!」
「一気に行くのだ!」
関羽と張飛がまず出た。その得物を手に山賊達を急襲する。
「関羽雲長見参!」
「張飛翼徳参上!」
そのうえで驚く山賊達に踊り込む。そのうえで彼等を次々と薙ぎ倒す。
「何っ、こいつ等!」
「後ろから!?」
「どういうことなんだ!」
「考えるのは貴様等だけではない!」
趙雲もまたその槍を縦横に振るいながら山賊達を倒しながら話す。
「それは我々も同じだ」
「糞っ、まさか俺達の隠れている場所がわかっていたのか」
「隠れてるってこともかよ」
「ママハハが教えてくれました」
ナコルルの横にそのママハハが来た。
「ですから」
「鷹にかよ」
「動物風情にかよ」
「動物と侮るからこそです」
香澄はその掌の打撃で山賊達を倒していく。重ね当ても出す。
「貴方達は駄目なのです」
「そりゃどういう意味だ!?」
「動物だから何だってんだ?」
「侮るなってことよ」
舞はその脚とセンスで倒していっていた。
「どんな相手でもね」
「侮るなだと!?」
「どんな相手でもかよ」
「そうだ。敵は誰でも侮っては駄目だ」
キングは脚であった。華麗な舞を舞うようにして倒していく。
「それがわからない御前等はだ。だからだ」
「敵を倒す」
「ちっ、糞っ!」
「しかしな、数は多いんだ!」
「やってやらあ!」
「無駄だ。数の問題ではない」
関羽は彼等を薙ぎ倒しながら述べる。
「私達を倒すには一人当たり百人は用意することだ」
「それに勢いはもうこっちのものなのだ。負ける筈がないのだ!」
張飛もだった。七人は隠れ家の前で山賊達を全て倒してしまった。隠れ家の中には食べ物と宝があった。幸い捕らえられている者はいなかった。
山賊達を縛りそのうえで連行していく。ナコルルはその中でまたママハハの話を聞いていた。
「ここから山を降りてすぐに街があるそうです」
「そうですか、街がですか」
「はい、そこに行きましょう」
こう香澄に答えた。
「これから」
「そうですね。そこでお役人に引き渡せばいいですね」
香澄はそれを聞いてまた頷いた。
「それではそういうことで」
「よし、それならね」
舞は明るい笑顔でナコルルのその言葉に応えた。
「行きましょう、それならね」
「街へ」
こうして七人は山賊達を街の役人に引き渡した。それにより多くの賞金を得た。それで街の店で祝賀会を開いたのであった。卓を挟んで乾杯した。
「さて、まずは一件落着だな」
「ええ、そうよね」
舞が趙雲の言葉に応える。
「これでね。ただ」
「ただ?」
「この時代というかこの世界の中国って随分変わってるわよね」
こう言うのであった。
「女の子が物凄く多いし」
「そうか?」
関羽はそう言われても目をしばたかせるばかりだった。
「そんなに多いか?」
「気のせいではないのだ?」
張飛も言う。
「別にそうではないのだ」
「そうだな。ただ女であっても領主や武芸者になれる」
趙雲は言った。
「それだけだ」
「それだけか」
「男と女の割合は大体半々だ」
関羽はまた言った。
「その程度だ」
「そうなんですか。特に多くはないのですね」
「そうだ。多くはない」
関羽はナコルルに対しても述べた。
「それは事実だ」
「そうなのね。けれど奇麗な女の子が普通に領主とかやってるから凄いわよね」
舞は餅を食べながら話した。
「そんなの普通はないわよ」
「少なくとも私達の世界とは全く違うな」
キングはこのことは確かに言った。
「そうした世界なのか。それでだ」
「それで?」
「これからどうするのだ?」
キングが今度言ったのはこのことだった。
「これからだ。どうするのだ?」
「とりあえずはこのまま長安に向かう」
答えたのは関羽だった。
「それからだ」
「そうか、長安か」
「知っているのか」
「ああ、都だったな」
その街の話をしたのだ。
「確かこの国の前のな」
「そうだ。それはそちらの世界でも同じだったのだな」
関羽はキングの話を聞いてこのことがわかった。
「成程な」
「かなり栄えている街だったな」
「うむ、この国でも指折りの街だ」
趙雲もこのことを話した。
「ただ。今はな」
「領主の董卓は情け容赦のない暴君と言われている」
関羽がまたこのことを話した。
「恐ろしく強い胡の兵を率いな。空くの限りを尽くしているという」
「悪い奴ってことね」
「それはどうかな」
舞の言葉にすぐに趙雲が返した。
「噂だからな。実際に擁州の中により入らなければわかるものではない」
「ではこのまま中に入って見るのですね」
香澄はこう言った。
「そういうことですね」
「そうですね。行きましょう」
ナコルルは羊の肉を炒めたものを食べている。全員酒も飲んでいる。
「擁州の中に」
「そうだな、行くか」
「中々楽しみなのだ」
関羽と張雲が話してだ。そのうえで向かうのであった。
その頃その長安はだ。中々繁栄していた。
「いや、どんな領主様かって思ってたけれどな」
「奇麗な方だしな」
「あれは奇麗じゃないだろ」
「可愛いだろ」
こんな話をしていた。
「どっちかっていうとな」
「そうだよな、可愛いよな」
「小柄だしな」
「武芸は全然駄目みたいだけれどな」
「どう見てもな」
「けれどな。それをフォローする人もいるしな」
「ああ、武は華雄将軍」
この者の名前が出て来た。
「張遼将軍もいるしな」
「そして知恵は賈駆様がいて」
「万全だよな」
「ああ、それに御本人はとにかくお優しい」
何と董卓の評判は長安では悪いものではなかった。むしろかなりいい。
「お陰で俺達も安心して暮らせるしな」
「全くだ。ただな」
「ああ、最近どうもな」
「あちこちで山賊も出ているからな」
ここで彼等の顔が曇った。だが長安の街は栄え人々が明るい顔で行き交っている。その繁栄は都と比しても遜色ない程である。
「それがなあ」
「董卓様も頭を悩ましておられるらしいぜ」
「兵はどうなんだ?」
ここでこの話も為された。
「兵隊もいるだろうに」
「それが西の異民族に用心しないといけないらしくてな」
「あの羌だな」
「あいつ等か」
「ああ、何時来るかわからない奴等だからな」
だからこそ恐ろしかったのだ。この世界の中国も異民族に悩まされているという時点ではナコルルの世界の中国と同じであった。
「そっちに用心しないといけないからな」
「それで山賊達までにはか」
「そういうことなんだよ」
「辛いな、それは」
「それでも前よりは山賊も減ったぜ」
こうした意見も出ていた。
「前なんかかなりだっただろ」
「ああ、もう酷かったよな」
「董卓様が来られるまでな」
「全くだよ」
民達は困った顔で話をしていく。
「今はかなりましになったし」
「いるものはいるか」
「袁紹様や曹操様のところは人が多いからな」
「その分楽みたいだけれどな」
袁紹陣営や曹操陣営の話も為される。
「こっちは御二人だけだからな、実質」
「董卓様にお仕えしている確かな人材はな」
「それが辛いよな」
「そう、それにだよ」
ここで話が変わった。
「最近何か変わった連中が一杯出てるらしいぜ」
「変わった連中?」
「何だそりゃ」
ここで民衆達の顔が変わった。彼等は店で飯を食べながら話をしている。その中でのやり取りであった。
「変わった身なりでどいつもこいつも逞しい身体をしていてな」
「ああ、それで?」
「どうなんだ?」
「やたらと強い奴等らしい。曹操様や袁紹様はそうした連中を次々と迎え入れているらしい」
「董卓様のところにもそういうのが来て欲しいよな」
「そうしたらあの方も楽になれるのにな」
「だよな」
董卓は明らかに慕われている、それがわかる会話だった。
そうしてだ。ここでさらに話されるのだった。
「それにだよ」
「それに?」
「どうしたんだ?」
「何か化け物が出るらしいしな」
「化け物って何処にだよ」
「何処にそんなのが出るんだよ」
今度はこうした話になった。どんな時代でもどんな場所でもつきものの話である。化け物は人の世と表裏一体の存在であると言っていい。
「そんなのがよ」
「何処に出るんだ?」
「こっから北の方にな。何か凄い化け物らしいぞ」
「そんなに凄いのかよ」
「えげつない化け物なのかよ」
「ああ、滅茶苦茶強くてな」
まずはそこから話された。
「どんな奴が来ても叩きのめす位にな」
「どんな奴もって」
「そんなにやばいのかよ」
「身の丈二丈はあってだな」
大きさまで語られる。
「大きな岩まで平気で動かしてな」
「うわ、怪力かよ」
「強くてでかいだけじゃなくてかよ」
「らしいな。そういう奴が出ているんだと」
「山賊よりやばくはないか?」
こんな意見が出て来た。
「それだとな」
「ああ、そうだよな」
「そんなのがいたらな」
「まずいよな」
「全くだよ」
そして誰もがまた困った顔になるのだった。
「董卓様はどうされるんだろうな」
「無視もされないだろ」
「そういう方じゃないしな」
董卓の評判はやはりいい。慕われてさえいるのがわかる。
「それじゃあ手を打たれるか」
「けれどなあ。あの人って優し過ぎるよな」
「確かにな」
こうしたことも言われた。
「どうもな」
「それに真面目過ぎるしな」
「いい人過ぎるんだよ」
これが彼等の董卓の評価だった。
「あれで今の御時世大丈夫なのかね」
「利用されないといいけれどな」
「そうだよな、世の中悪い奴は多いぜ」
逆に利用する始末であった。
「ああいう人は利用され易いからな」
「何もなければいいけれどな」
「逆に俺達の方が不安になるぜ」
そんな話をする始末だった。彼等の方が心配する董卓はだ。決して評判の悪い人物ではなかった。むしろ領地ではその逆であった。
第七話 完
2010・4・19
続々と新しい人たちが登場しているな。
美姫 「結構な人数になってきたわね」
菫卓の話も出てきたし。
美姫 「やっぱり何かに利用されるのかしら」
どんな形になるのかな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。