『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第五話  張飛、馬超、顔良及び文醜と競うのこと

「曹操様」
「宜しいでしょうか」
「ええ、いいわよ」
 曹操はまた人と会っていた。相手は二人である。しかしその二人は夏候淳と夏候淵ではない。長身でスタイルに優れた二人とは違い小柄で可愛らしい二人だ。
 一方は癖のある緑の肩までの髪をした垂れ目の少女で草色の上着に膝までの緑色のスパッツ、それにブーツといった姿である。目は緑でその顔立ちは幼く何処か頼りなげだ。鎧の色は金色だ。
 そしてもう一人は黄色い髪をポニーテールにした吊り目の少女だ。黄色い目が印象的で気の強い印象を与える顔である。
 レモン色の上着に黄色いスパッツである。そのスパッツはタイツの様に長い。彼女の鎧は銀色だ。その二人が曹操の前に来て言うのである。
「また人材が来ました」
「御会いになられますか?」
「今度は誰なのかしら」
 それを問う曹操だった。自分の机で書類の整理をしながら応えている。
「最近やけに人が多いけれど」
「今度は我が国の人間の様です」
「名前を聞く限り」
「我が国の」
 それを聞いた曹操の目がぴくりと動いた。
「そうなのね。名前は?」
「秦崇雷と秦崇秀です」
「その二人です」
「兄弟かしら」
 曹操は名前を聞いてすぐにそれを察した。
「ひょっとして」
「はい、どうやら」
「その様子です」
「わかったわ」
 それを聞いてまずは頷く曹操だった。そしてそのうえでまた言うのだった。
「それじゃあね」
「御会いになられますね」
「それでは」
「ええ、それじゃあ夏瞬、冬瞬」
 二人の真名も言う。
「早速呼んできてくれるかしら」
「わかりました」
「それでは」
 こうして二人がその彼等のところに来た。二人は待合室のテーブルでそれぞれ座っている。一人は黒髪に金色のメッシュを入れて立たせた青い服の少年だ。顔付きは鋭く今にも闘わんばかりだ。
 もう一人は黒いおかっぱ頭の少年で何か企んでいる様な顔である。彼は赤い服を着ている。どちらも同じデザインの中国服である。
「秦崇雷殿、秦崇秀殿」
「宜しいでしょうか」
「曹仁殿に曹洪殿」
「どうなのでしょうか」
 その二人は彼女達の名前を呼んで応えた。
「曹操殿は会ってくれるのか」
「それで一体」
「はい、御会いして下さいます」
「今から」
「わかった。それではだ」
「参りましょう」
 こう話してであった。二人が曹操の部屋に案内される。見れば曹操は既にある人間と会っていた。それはスキンヘッドの大柄な男で左手には巨大な腕の様な武器を持っている。上半身は裸で下半身は赤いズボンだ。
 そしてもう一人いた。もう一人は長い癖のある豊かなブロンドの長身の美女だ。青い膝までのスカートと銀の鎧を身に着けている。その二人と会っていたのだ。
「いいわ」
「それでは」
「登用して頂けると」
「ええ、ナイトハルト=ズィーガーとシャルロットね」
 二人の名前も呼んでみせた。
「わかったわ」
「はい、それでは」
「宜しく御願いする」
「夏侯惇、夏侯淵」
 二人が彼等を曹操の前に連れて来たのだ。その彼女達にも声をかける。
「二人を兵達のところへ」
「はい、わかりました」
「それでは」
 夏侯惇と夏侯淵が曹操の言葉に応える。そのうえで彼等を案内し場を去る。
 それと交換にであった。曹仁と曹洪がやって来た。曹仁はその緑の目を輝かせている。
「あの曹操様」
「ええ、夏瞬」
 曹操も彼女の真名を呼んで応える。
「連れて来てくれたのね」
「はい、では御二人共どうぞ」
「はじめましてだな」
「宜しく御願いします」
 その崇雷と崇秀が来て曹操に対して一礼する。
「秦崇雷だ」
「秦崇秀です」
「話は二人から聞いているわ」
 曹操はすぐに二人に対して言ってみせた。
「気を使った技を使うそうね」
「他にも色々とできる」
「それで宜しいでしょうか」
「ええ。見たところ二人共頭も悪くないようだし」
 それは曹操が見抜いたことだった。一目で、である。
「いいわ。二人共登用させてもらうわ」
「その目で見ていないのにか」
「それでもなのですね」
「夏瞬と冬瞬は春蘭、秋蘭と同じく私の腹心中の腹心」
 つまり絶対の信頼を置く相手だというのだ。
「その目と耳は絶対よ」
「有り難き御言葉」
「そう言って頂けるとは」
 曹仁と曹洪がそれに対して応えてにこりと笑う。
「この二人の強さは問題ありません」
「間違いなく」
「そうね。ただ」
 曹操はその二人を見てだ。こうも言うのであた。
「何か思うところはあるようね。権力やそういった野望はないようだけれど」
「この世界のことには興味がない」
「私達が興味があるのはあくまで私達の世界のことです」
 こう返す彼等だった。
「今はただ飯を食う為に入った」
「それだけです」
「わかったわ。勿論俸禄はあるわ」
 それはしっかりと保障する曹操だった。
「ただ」
「ただ?」
「何でしょうか」
「近頃貴方達の様な人材が多いのよね」
 このことを言うのだった。
「次から次に出て来てね」
「そうだな。どうやら俺達が知っている人間も多いな」
「サウスタウンの方もいらっしゃるようですし」
「サウスタウンね。聞いているわ」
 曹操はそのことも既に聞いていた。
「貴方達の世界のアメリカという国にある都市よね」
「そうだ。この世界の中国のこの時代にはないな」
「あの街は」
「そして私達の世界のこの国も貴方達の世界のこの国も違うわね」
「ああ、それはな」
「女の子が多いですし」
 そんな話をするのだった。そうしてだ。
「とにかく貴方達には主に武将として活躍してもらうわ」
「よし、それではだ」
「そうさせてもらいます」
 こうして秦兄弟もこの世界に入ることになった。そしてそれが終わってからである。曹操は曹仁と曹洪の二人を部屋に残して話をするのだった。
「麗羽はまた勢力を拡げているようね」
「はい、都の北を通ってです」
「そのうえで涼州に向かっています」
「わかったわ。あちらはかなり順調ね」
「そして揚州の孫策殿ですが」
「母の孫堅殿の跡を継いでからですが」
「あの急死はあの娘達には不幸だったけれど」
 曹操は今は彼女達について言及する。
「それで暫くは勢力を弱めると思っていたけれど」
「そうはなりませんでした」
「孫策も思った以上にやります」
「まずは揚州を完全に手中に収め」
 最初にそうしたのだ。
「そして今は」
「あちらも次々に人材が集まっています」
「そしてそのうえで」
「あそこにも異民族がいるし」
 この世界でも中国の周りには異民族が存在しているのだった。
「山越だったわね」
「はい、山岳民族です」
「かなりの手強さです」
 二人の話は続く。そうしてだった。
「その彼等を攻めようとしています」
「江南も統一されようとしています」
「そうね。私や麗羽だけでなく」
「そして擁州には董卓殿が」
「あの方もかなりの勢力を築いています」
 その彼等もいるのだった。
「次第に勢力がまとまってきていますね」
「益州と徐州以外は」
「あと幽州に誰かいたような気がするけれど」
 曹操も忘れている存在があった。
「麗羽はあそこも狙っているのだったわね」
「はい、涼州を手に入れればおそらく次は」
「それからどうなるかですが」
「麗羽とは本当に幼い頃からの付き合いだけれど」
 実は二人の関係はかなり古いものだった。
「私達には攻めようとはして来ないようね」
「それよりも華琳様を配下にしようとしているのでは?」
「そうなれば」
「私は誰の下にもつくつもりはないわ」
 このことははっきりと言うのだった。
「例え誰でもね」
「それでは私達も」
「このまま勢力をですね」
「そう、そうするわ」
 こう言ってであった。彼女達も今は自分達の勢力の拡大にと充実に専念していた。群雄達も少しずつだが確実にそれぞれの地位を確立させていた。
 そしてその袁紹は。まずはまた審配と話していた。
「匈奴は問題ないのですね」
「はい、彼等を兵とすることにも成功しています」
「わかりましたわ。では兵とした彼等は」
「はい」
「花麗達に訓練をさせて取りこまさせて」
 そのうえで、だった。
「その分領民達の兵役を減らさせますわ」
「それで宜しいかと。民は街や村で仕事をさせるのが一番です」
「三つの州はそうして内政を整え」
「涼州もまた」
「その通りですわ。そしてそれからは」
「幽州を」
「あそこには誰かいたような」
 曹操だけでなく袁紹も忘れていた。
「誰でしたかしら」
「さて」
 しかも審配もだった。
「誰かいたような気がしますが」
「そうでしたわね。まあとにかくそちらは斗詩と猪々子に任せまして」
 見事なまでに忘れてしまっている。
「着々と進めていきましょう」
「そうですわね。そして華琳は」
「曹操はどうされますか?」
「あの娘は特別ですわ。戦うことなく全て手中に収めたいですわ」
「そうされますか」
「ええ、それでは」
 また言ってであった。袁紹の言葉は続く。
「はい、そして内政は」
「水華と恋花を」 
 二人の名前が出された。
「すぐに」
「はい、では田豊殿と沮授殿をこちらに」
「それと」
 まだ言うのであった。
「陳花と青珠、赤珠もですわ」
「荀ェ殿に辛評殿、辛?殿もですか」
「無論貴女もですわ」
 審配もだという。
「文章は善光に作成させ」
「陳琳殿に」
「まずは全員呼びなさい。宜しいですわね」
「わかりました」
 こうしてまずは集められた。田豊と沮授、そして四人だ。まずは桃色の短い髪に丈の長い白いひらひらとした上着の胸の大きい少女だ。目は黒くにこにことしている。脚はスカートの中で見えない。
「善光参りました」
「青珠です」
「赤珠です」
 続いて青い癖のある左右を輪にした小柄な目のはっきりとした少女と同じ髪型と顔で赤い髪の少女が挨拶をしてきた。青い髪の少女は青と白のメイド服である。そして赤い髪の少女はそのまま赤と白のメイド服だ。それぞれ目は青と赤になっている。
「陳花です」
 最後の一人は黒の柔らかい短い髪にその後ろは赤い猫耳の帽子の華奢な印象の少しおどおどとした感じの少女だ。目は垂れ目で青い。白い膝までのズボンに黒いソックスである。そして上着は白いフリルの赤い上着である。シャツは青だ。
 その彼女達がそれぞれ袁紹の前に来てだ。まず一礼した。そのうえで話に入るのだった。
「袁紹様、何の御用でしょうか」
「それで」
「もうすぐ涼州も併合しますわ」
 言うのはこのことだった。
「そしてそれにあたって」
「内政のさらなる充実ですね」
「それですね」
「その通りですわ。まず農地の開墾、そして街への投資」
 最初はそれだった。
「続いて治安の強化に衛兵を多くさせそして商業も発展させ」
「西域との貿易もですね」
「涼州が手に入りますから」
「その通りですわ。それに黄河の港湾も整え」
 それもあるのだった。
「まずは内政を整える。戸籍もですわ」
「わかりました。それでは」
「まずは中を」
 こうして袁紹は内政を優先させていた。そしてそれが終わってからだ。田豊と沮授をいつも通り左右に置いてだ。張飛と馬超がまた闘技場に出ているのを見ていた。
「さあ、またはじまりました!」
「おいおい、またかよ」
「好きだねえ」
 観客達は実況を聞きながら話す。
「全く色々とやるね、袁紹様も」
「全く」
「けれど今度は闘いじゃないよな」
「そうだよな」
 そんな話をしてだった。何が起こるか見守っていた。やがて場が用意される。
「あの、袁紹様」
「あれは幾ら何でも」
 その田豊と沮授が袁紹に対して言う。
「猿の知能テストではありませんから」
「流石にあれは」
「猪々子のことを考えればあれも当然ですわ」
 こう言う袁紹だった。
「だからですわ」
「そういえばあの張飛という娘も」
「見たところかなり」 
 二人の目も確かである。
「馬超にしても」
「馬氏の跡取り娘は学問の方はと聞いていましたし」
「だからですわ。あれでいいのでしてよ」
 袁紹の考えは変わらない。
「それでは」
「はい、それでは」
「このまま」
 こうしてそれがはじまるのだった。まずは。
「知力検査です!」
「知力!?」
「何だそりゃ」
 観客達はそれを聞いて首を捻る。
「何かバナナあるしな」
「それに椅子?」
「あとマジックハンドか」
 そういうものを見ているビリーが言う。彼は今は警備担当として三闘士と共に会場にいるのである。そうしてそのうえで言っているのである。
「この世界の中国ってどうなってんだ?」
「バナナってないよな、この時代」
「いや、マジックハンドもだが」
 アクセルとローレンスもそれを言う。三人共いぶかしむ顔になっている。
「俺達の世界とは全く違っているな」
「いや、違い過ぎるぞ」
「しかもよ。ありゃ猿の知能テストか?」
 ビリーにもそう見えるものだった。
「吊るしてるバナナに椅子にマジックハンドか」
「何なんだ?」
「人にやるものじゃないな」
「あの領主は何をするつもりだ」
 三人にはわからない。全くだった。
 そしてだ。試験を受ける者と相手がそれぞれ出て来た。
「さあ、いよいよはじまります!」
「何か妙なことになってるな」
「そうなのだ?」
 張飛は馬超に対して平然と返す。
「何か楽しそうなのだ」
「これ何なんだ?」
 馬超はその場所を見ながら話す。
「何か椅子があるな」
「バナナもなのだ」
「ってことはあのバナナ食っていいのか?」
「そうみたいなのだ」
 二人がわかるのはここまでだった。それから先はわからない。
 そしてだ。そこには顔良と文醜もいた。二人もそれを見て言う。
「あの、これって」
「バナナ食っていいのか?」
 文醜の考えていることは張飛達と一緒であった。
「つまりは」
「そうみたいね。ただ」
「あのバナナどうやって取るからだよな」
「そうよね」
 こう話してだった。それぞれバナナのところに来た。張飛と馬超はそのバナナを見上げながら二人であれこれと話をしている。
「このバナナどうして取るのだ?」
「椅子のところに立つか?」
「鈴々の背では無理なのだ」
 実際に立ってみるが届かない。そして馬超が入れ替わって椅子の上に立って背を伸ばしてみる。しかしそれでも無理なのだった。
「あたしでもだ」
「このマジックハンドも無理なのだ」
「だよな。どうやったら取れるんだ」
「ジャンプして取れるか?」
 文醜もわかっていない。
「どうなんだ?斗詩」
「あの」
 しかしここで顔良が言う。
「このマジックハンドでね」
「ああ」
「まずは持って」
 実際に持っての言葉である。
「そしてこうして」
「椅子のところに立ってか」
「ええ、それで」
 今度は椅子の上に立つ。そしてマジックハンドをバナナに近寄せてだ。そのうえで言うのであった。
「こうすれば取れるんじゃないかしら」
「あっ、そうなのか」
 文醜はここでわかった。
「それで取れるのか」
「凄いのだ、あいつ天才なのだ」
「ああ、あんな奴がいるのか」
 それは張飛と馬超も同感だった。二人を見て驚いてすらいる。
 だがそれを見た田豊と沮授はだ。呆れながら言うのだった。
「あの、わかったのは斗詩だけなんですが」
「あの三人は幾ら何でも」
「私もつい最近までわかりませんでしたわ」
 それは袁紹自身もなのだった。
「こういうことは苦手でしてよ」
「あの、麗羽様幾ら何でも」
「戦争と政治以外のこともしっかりとして下さい」
「貴女達がいるからいいのでしてよ」
 しかし袁紹は人の話を聞かない。
「そんなことは」
「全く。御自身の興味のないことや必要のないことにはそうなんですから」
「それじゃあ曹操に負けますよ」
 主にも呆れてしまう二人だった。そしてであった。
「続きましては」
「まだやるのかよ」
「好きだな、あの領主も」
「全くだな」
 また三闘士が呆れながら話をしている。
「遊ぶの好きだな」
「しかも下らない遊びばかりな」
「あの武闘会はいいとしてだ」
 それはいいというのであるがだった。どうも今行われていることには抵抗がある彼等であった。
 その次に行われるのは。
「お、おい張飛」
「どうしたのだ?」
「あたし変じゃないよな」
 衣装部屋で赤い顔をしながら張飛に言っている。
「特におかしくないよな」
「奇麗なのだ。いいのだ」
「そ、そうか?」
「早く行くのだ。鈴々はもう準備できてるのだ」
「御前はそれでいいのか?本当に」
「全然平気なのだ」
 こんな話をしながら二人で出る。まずは張飛だった。
「あはは、何か最高に似合ってるな」
「だよな、もう異様にな」
「何であんなに似合うんだ?」
 観客達が笑いながらその彼女を見ている。何とピンクの虎の着ぐるみを頭から被ってそのうえで楽しげに動いているのである。
「がおーーがおーーーー」
「えーー、張飛選手は虎になりました」
 実況はここでも真面目に行われる。
「さて、そしてです」
「もう一人だよな」
「どんな格好で出て来るんだ?」
「一体」
「や、やっぱり恥ずかしいな」 
 馬超は舞台裏でもじもじとしている。
「何かな。やっぱりな」
「早く出るのだ」
 だが張飛はその馬超のところに来て声をかける。
「恥ずかしがることはないのだ」
「どうしてもか」
「そういう話みたいなのだ。だからなのだ」
「わかった。じゃあな」
 こうして何とか出る。するとだった。
 淡い黄色のワンピースを着ている。その姿の馬超は誰がどう見ても美少女である。普段はない可憐さまで出ていて美しさが際立っている。
「あ、あまり見るなよ」
「おいおい、凄い美人だな」
「ああ、何だよあれ」
「予想以上だよ」
「へえ、これはまた」
 ビリーはその馬超を見て言う。
「別嬪さんになったじゃねえかよ」
「おい、随分態度が変わったな」
「どうしたのだ?」
 アクセルとローレンスはそのビリーに対して突っ込みを入れる。
「何かあったか?」
「気に入ったのか?」
「まあ俺のタイプだな」
 右手のその棒を肩に担ぎながら楽しげに言う。
「リリィの次には可愛いな」
「相変わらずだな、御前のその趣味は」
「私には何処がいいのかわからないがな」
 ローレンスはこんなことを言う。
「女子供というのは好きにはなれん」
「ローレンス、御前さん前から思っていたけれどよ」
「まさかと思うが」
 ビリーとアクセルの目がここで不穏なものを見るものになった。
「あれか?そっちの趣味か?」
「反対はしないが拒否はするぞ」
「そうではない。私にはちゃんと妻がいる」
 はじめてわかる衝撃の事実だった。
「しっかりとな。だからそれで充分なのだ」
「っていうか世帯持ちだったのかよ」
「はじめて知ったぞ」
 こう言って唖然とする。二人も知らないことだった。
「俺なんかまだ相手すらいないんだぞ」
「俺もだ」
「二人共そういう機会はないのか?」
「あるわけねえだろうが」
「そうだ、ある筈がない」
 何故かムキになる二人だった。
「ましてや俺達の世界にはいねえんだぞ、今は」
「それでどうするというのだ」
「私に言われても困る。とにかく私には妻がいる」
 このことはしっかりと言うのだった。
「それは言っておく」
「へっ、何で俺にはいねえんだよ」
「できればマザーを大切にしてくれる人がいいのだがな」
 さりげなく母親思いのところも見せるアクセルだった。そして会場は今は。
「さて、次は顔良選手と文醜選手ですが」
「あの二人のセンスはね」
 解説者は今日も審配である。ふう、と溜息さえ出している。
「というか猪々子ときたら」
「文醜選手ですか」
「戦い以外はできないのよ」
 まさにそれだけだというのだ。
「おまけに一か八かで。麻雀ばかりして」
「ギャンブラーなんですね」
「それもかなり下手な」
 呆れた口調で言うのである。
「そういう娘だからね」
「では今回も」
「外すわね」
 そう予想しているのだった。
「間違いなく」
「そうですか」
「さて、どんな格好で出てくれるか」
 完全に諦めている顔である。
「見させてもらうわ」
「それでは。大好評の馬超選手に続いて顔良選手と文醜選手です」
 その二人は今会場の物陰にいた。そこで顔良は恥ずかしい様子で文醜に言う。
「あの、これでいいの?」
「今更何言ってるんだよ」 
 顔良に対して文醜が言う。
「人生出たとこ勝負なんだよ」
「そう言っていつも失敗してるじゃない」
 すかさず顔良は突っ込みを入れた。
「全く。猪々子って」
「とにかくだ。行くぞ」
「うん、じゃあ」
 こうしてであった。二人で出る。その手にそれぞれの得物を持っているのはいつも通りだ。しかしその服は何処かで見たような服だった。
「愛と正義の美少女戦士!」
「月にかわってお仕置きよ!」
「うっ、あの二人」
 袁紹もそれを見て思わず引く。
「また猪々子ですのね」
「全く。あの娘ときたら」
「また」
 田豊と沮授も呆れている。
「斗詩も巻き込んで」
「賭けに負けて」
「どうやら次の戦いも」
 袁紹はその呆れた口調で言うのだった。
「貴女達のコントロールが必要ですわね」
「政治は全然できないし」
「やれやれです」  
 そんなことを言う二人だった。そしてその間にも二人はあれこそ何処かで聞いたような台詞を次々と出している。しかしであった。
「ちょっとな」
「これはな」
「何ていうかな」
 観客達の対応は実に醒めている。
「まあいつものことだし」
「慣れてるけれどな」
「それでも」
「採点はするまでもないわね」
 審配も醒めている。
「これはね」
「ええと、その採点ですが」
 実況はここでも真面目だ。
「ううむ、採決のチェックは野鳥の会が行ってくれていますが」
「それでもこれは」
「はい、張飛、馬超組の勝ちです」
 結果としてそうなってしまった。顔良と文醜には殆ど票が入らなかった。
「うう、折角センスのいいの選んだのに」
「だからあれじゃあ駄目よ」
 顔良も言うがそれでもだった。採決は決まった。
 そしてである。競技はまだ続いていた。
「さて、次は」
「これで終わりだけれど」
 審配が実況に合わせて言う。
「どうなるかしらね」
「次の競技は何でしょうか」
「それは麗羽様が決められることだけれど」
 審配はこう言うだけだった。
「さて、何かしら」
「それはまだわからないのですか」
「麗羽様は三番目はその時の気分で決めるから」
 だからだというのだ。
「だから。何が出て来るかわからないのよ」
「そうなんですか」
「さて、何かしら」
 また言う。
「何をしてくるのかしら」
「!?何か出て来ました」
 やたら大きな桶が出て来た。それも二つだ。
 そしてその中にはだ。無数の鰻が入っていた。
「麗羽様、では今回は」
「あれなのですね」
「その通りですわ」
 田豊と沮授の問いにも応える。
「あれで決めます」
「猪々子には難しいと思いますが」
「それでもですか」
「ええ、それでもですわ」
 それでもだというのだ。
「あれで決めますわ」
「わかりました、それでは」
「その様に」
 二人は主のその言葉に頷く。それで決まりだった。
 その鰻がこれでもかと入った桶を見ながら実況は審配に対して問うた。
「あの、審配さん」
「ええ」
「あれは何でしょうか」
「鰻捕りよ」
 それだというのだ。
「ただ」
「ただ?」
「その方法が違うのよ」
「さて、その鰻を」
 その袁紹が言ってきた。
「掴み取ってもらいますわ」
「何だ、そんなことなのだ」
「よし、今度もやらせてもらうぜ」
「ただし」
 張飛と馬超のその言葉に応えるように話す。
「胸で掴んでもらいます」
「何なのだ!?」
「胸っ!?」
 二人はそれを聞いてぎくりとした顔になった。
「鈴々胸なんてないのだ」
「あたしは胸はちょっと」
「さて、それでは」
 袁紹は二人の言葉をよそに話を続ける。
「はじめ!」
「よし、じゃあ」
「やってやる!」
 顔良と文醜は早速上着を脱いだ。そのうえでブラだけになり桶の中に入る。
「きゃっ、暴れないで!」
「な、中で動いてる!」
 その鰻達を胸と胸の間に掴みながら戸惑った声を出す。
「ちょっと、鰻って」
「脈打って何なんだよ!」
「さて、貴女達はどうしますの?」
 袁紹は張飛と馬超に対して問う。
「さあ・・・・・・むっ!?」
「あれ、いませんけれど」
「何時の間に」
 田豊と沮授も言う。見れば二人はいなかった。
「ということは」
「ここは」
「棄権とみなして退場ですわ」
 ここで袁紹も言った。
「それでは勝者は」
「私達ですか」
「つまりは」
 こうしてだった。顔良と文醜の勝者になった。それで二人は鰻の桶の中で手と手を取り合ってそのうえで喜び合っていた。その全身に鰻達がこれでもかとまとわりついていてかなり大変な様子になっている。
「やったわね、私達勝ったのよ」
「ああ、ちょっと今やばい状況だけれどな」
「もう身体中にうねうねと」
 それが蠢いているのだ。身体のあちこちを覆って。
「周りの目が気になるけれど」
「それでも」
 何はともあれ二人は勝った。そしてその頃関羽達は。
 歌おうとしたそこでだ。目の前に四人の男女連れが出て来た。一人は黒いボブカットに赤い中華風の上着、それと青いスパッツの少女だ。顔立ちははっきりとしていて可愛らしい感じだ。
 一人は青と白の上着に膝までのズボンをして黒髪を真ん中で分けている少年だ。背はそれ程高くはないがそれでもひょうきんな印象を受ける。
 三人目は白髪に白髭の老人だ。その手には瓢箪がある。アークブラウンの上着と白いズボンを着ている。そんな老人だった。
 最後の一人は黄色いシャツと半ズボンに帽子の小柄な少女だ。最初の少女とはまた違った幼い可愛さを見せている。その四人だった。
「むっ、あの四人は」
「どうしたのだ?」
 関羽が趙雲に対して問い返す。
「あの四人か」
「うむ、見たところできるな」
 こう返す趙雲だった。
「武芸もだが」
「それだけではないか」
「歌もな」
 それもだというのだ。
「かなりできる」
「そうか。あの四人か」
「特にあの娘だ」
 趙雲はボブの少女を見ていた。
「あの娘、かなりの歌い手だ」
「そうか。あの娘は」
「あっ」
 その娘がふと関羽達の方を見た。そして言ってきたのだ。
「ナコルル・・・・・・さん?」
「あっ、貴女は」
 そしてナコルルもまた彼女に気付いた。
「アテナさんですか」
「はい、お久し振りです」
「そうですね」
 笑顔で応え合う二人だった。
「ネスツとの戦い以来ですね」
「本当に」
「何だ、知り合いなのか」
 趙雲は二人のやり取りを見ながら述べた。
「二人共。そうだったのか」
「はい、そうです」
「ナコルルさんとはその時にお知り合いになれました」
 二人共趙雲の問いに応えて話す。
「まさかこんな場所で御会いできるなんて」
「本当に」
「ということはだ」
 関羽もここで言う。
「そこの三人もや」
「そや」
 少年が言ってきた。
「俺の名前は椎拳崇や。よろしくな」
「わしの名前は鎮元斎」
「包です」
 後の二人も名乗ってきた。
「まさかナコルルとこんなところで会うなんて」
「奇遇じゃな」
「本当ですよ」
「それでナコルルさん」
 アテナがナコルルに問うてきた。
「何をされているんですか?」
「実は路銀の為に」
 そこから話すナコルルだった。
「それで私は笛を吹いて」
「私が三味線を出してだ」
 見れば趙雲の手にはその三味線がある。
「そして私が歌ってだ」
「歌ですか」
 関羽の言葉にも応える。
「そうだったんですか」
「そうだ。そして貴殿達はどうしてここに?」
「何か知らんけど気付いたらここにおったんや」
「どうやら昔の中国じゃな」
 拳崇と鎮がここでこう返してきた。
「中国なのは事実やろけど」
「何か世界が違うようじゃが」
「若い女の人が多い世界ですよね」
 包もそれを言う。
「そうですよね。この世界って」
「この世界のことはよくわかりませんが」
 アテナはまずはそれはいいとした。
「ですが」
「ですが?」
「歌でしたら御一緒しませんか?」
 こう言ってきたのだった。
「皆で歌えばもっと人が集まるのでは」
「あっ、いいですね」
 ナコルルも笑顔でアテナの提案に頷く。
「アテナさんの歌って絶品ですから」
「そうか。貴殿歌が上手いのか」
「そんな、私は別に」
「アテナの歌は最高やで」
 アテナ本人は謙遜しようとする。だがその横で拳崇が言ってきた。
「もうな。聞いてるだけでな」
「そうなのか。それではだ」
「は、はい」 
 アテナは拳崇の言葉を受けて言ってきた関羽のその言葉を受ける。
「何でしょうか」
「共に歌おう」
 こう言うのであった。
「七人でだ。すぐにな」
「それでいいんですか?」
「是非にだ」
 関羽の言葉は強くなってきた。
「共に歌おう。貴殿さえよければだ」
「そうですか。そこまで仰るのなら」
 アテナもそれで頷くのだった。
「私でよければ。御願いします」
「うむ、それではだ」
 こうして関羽とアテナが歌い他の面々が演奏する。こうして彼等は路銀を稼いだのだった。それは彼等が思っていた以上のものだった。
「うわ、凄いで」
「これだけあれば暫くは路銀に困らんぞ」
 拳崇と鎮がその路銀を見て言う。
「さて、それじゃあ俺等はこっから東に行くけれど」
「御主等はどうするのじゃ?」
「今日はこの街にいる」
 関羽は彼等の問いにこう返した。
「明日発つ」
「そうですか。ではこれでお別れですね」
「久し振りに御会いできたのに」
 包とナコルルは名残惜しそうに言い合う。
「けれど。それならまた」
「はい、御会いしましょう」
 こう話してだった。双方別れの挨拶をしてだ。そのうえで別れた。
 アテナ達は東に向かいそうしてだ。関羽達はここで彼女のことを思い出したのだった。
「そういえば関羽はだ」
「何処に行かれたのでしょうか」
「迷子か?」
 関羽は趙雲とナコルルの話を聞きながら述べた。
「また」
「それか何処かに勝手に言ったかだな」
 趙雲はその可能性にも言及した。
「どちらかだな」
「やれやれだ」
 関羽は趙雲のその話を聞きながら溜息を出した。
「全く。何をしているんだ」
「それでどうするのだ?」
 趙雲はあらためて関羽に問うた。
「探すのか?どうする?」
「宿の場所は行ってある」
 だが関羽はこう答えた。
「流石にそれは覚えている筈だ」
「そうか」
「だから今は宿に戻ろう」
 そうするというのだ。
「それでいいな」
「そうか、わかった」
「では夕御飯をですね」
 ナコルルはそれを言ってきた。
「そういうことですね」
「そうだ。しかし鈴々の奴」
 関羽は眉を怒らせて言う。
「相変わらずだな」
「そう言うな。まずは食べに行くぞ」
「またメンマか?」
「そうだ。私はあれがなくてははじまらない」
 こんな話をしながら夕食を食べに向かう。そしてその頃張飛と馬超はだ。夕刻の街を二人で歩きながら話をしていた。
「ちょっとあれはないのだ」
「そうだよな。あたしもあれはな」
 並んで歩きながら先程の競技の話をしていた。
「鰻を胸と胸の間に挟むなんて」
「ちょっとなあ」
「それで馬超」
「ああ」
 馬超は張飛の話を聞きながら返した。
「これからどうするのだ?」
「そうだな。まあここには武者修行で来てるからな」
 こう言うのである。
「それも一段落したし故郷に帰るか」
「確か涼州だったな」
「そうさ、そこさ」
 彼女は涼州の生まれであった。
「そこに帰ろうかな。今父上がいなくなって主不在だけれどな」
「そうなのだ」
「それで今さっきのあの領主いただろ」
 話が戻った。
「袁紹ってな」
「あの高飛車そうな女なのだ?」
「そうさ、あの人が軍を向けて自分のところに入れようとしてるらしいな」
「馬超の父上のものだったのにか?」
「今は主不在だからいいさ。あたしも領主とかには興味はないし」
 それはないのだという。
「それでもな。故郷に帰ろうと思ってな」
「わかったのだ。ではそうするといいのだ」
「それではなのだ」
 張飛は話を聞いてからまた述べてきた。
「夕食と宿を一緒にどうなのだ?」
「それか」
「一人より皆の方がいいのだ」
 だからだというのだ。
「だからなのだ。一緒に行くのだ」
「そうだな、賞金はたっぷり入ったからな」
「楽しくやるのだ」
 まずは食事を楽しむ。そしてそのうえで宿に帰るとであった。張飛を待っていたのだ。
「こらっ!今まで何処に行っていた!」
「あ、愛紗!?」
「全く、何処に行っていた!」
 そのことを派手に叱るのだった。
「御前は。人が心配すると思わないのだ!」
「武闘会に出ていたのだ」
 だが張飛はこう返すのだった。
「それでなのだ」
「それに出ていたのか」
「そうなのだ。それで優勝してきたのだ」
「ふむ。そういえばだ」
 張雲はベッドの上に座っている。ナコルルは今は入浴中でいない。そうしてそのうえで二人の話を聞いたうえで述べてきたのである。
「優勝は二人共女だと聞いたが」
「二人!?」
 関羽はそれを聞いてふと声をあげた。
「一人は御前なのか」
「そうなのだ」
 張飛は胸を張って関羽の問いに応えた。
「賞金もたっぷり持って帰って来たのだ。路銀にするといいのだ」
「ああ、済まないな」
「そしてなのだ」
 張飛の話はさらに続く。
「そのもう一人も連れて来たのだ」
「むっ!?」
「ここにいるのだ」
「はじめまして」
 そのもう一人が出て来た。頭を下げながら部屋に入って来る。
「馬超です。字は猛起」
「貴殿は」
 これが関羽達と馬超の出会いだった。これもまた運命の出会いだった。


第五話   完


                           2010・3・28



まさか、バナナでテストって。
美姫 「あははは」
各地で着々と戦力が整いつつある感じだな。
美姫 「アテナとかも登場したしね」
うーん、本当にどうなるのか楽しみだ。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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