『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』
第四話 張飛、馬超と出会うのこと
この時曹操は多忙であった。とにかく仕事に終われていた。
「ふう、次から次に来るわね」
「はい、今や二つの州を掌握していますから」
「それだけに仕事の量も」
「わかってはいたわ」
こう己の両脇に立つ黒い長髪の紅のスリットのある服を着た気の強そうな顔立ちの美女と藤色の短い髪をして前だけを伸ばしたクールな印象の美女に対して返した。
「それでもね」
「うう、私は何か今にも飛び出て訓練に出たいですが」
「だから姉者、それは」
その藤色の髪の美女が彼女を嗜める。見れば二人の服はそれぞれ紅色と藤色であるがデザイン自体は同じである。それぞれ赤と青も入っておりスリットが強く丈も短い。そして前垂れがある。ハイソックスを着けているところまで同じである。
黒髪の美女の目は赤い。それが気の強そうな感じをさらに強くさせている。そして藤色の髪の美女の目は藤色である。それがさらに落ち着いた雰囲気を見せている。お互いに好対象である。
「今は止めるべきだ」
「書類仕事をせよというのか、この夏侯惇に」
「そうだ」
藤色の美女ははっきりと言い切った。
「この夏侯淵何度も言おう」
「秋蘭、御前はどうしていつも」
「姉者もたまには書類仕事をしてくれ」
冷静だが困った口調であった。
「曹仁や曹洪もしているではないか」
「あの二人もか」
「そうだ、だからだ」
諭す様な口調で夏侯惇に話すのだった。
「こうしてたまには曹操様と共にだな」
「だが私は」
「頼りにしているわ、春蘭」
ここでその曹操が夏侯惇の方を見上げて微笑んで告げた。
「今我々は少しでも手が欲しいところだから」
「はあ、だからですか」
「二つの州を掌握してさらに人材も入ってきている」
このことに満足はしている口調であった。
「けれどね。私達はこれで終わりではないわね」
「はい、それは勿論です」
すぐにこう答える夏侯惇だった。
「我等の望みは」
「そう、天下」
曹操の言葉はここでは一言であった。
「天下に平穏を取り戻すことよ」
「はい、それでは」
「今は少しでもですね」
「優秀な人材なら誰でもいいわ」
曹操は断言する。
「春蘭、貴女も事務仕事はできるわよね」
「一応は」
「じゃあすぐに取り掛かって」
そうしてくれというのである。
「そして後でね」
「はい、後で」
「また人材の面接をして」
それもだというのだ。
「人材のね」
「人材ですか」
「また来てるのよね」
「はい、三人来ています」
夏侯惇が話してきた。
「今度はかなり大柄な男が三人です」
「大柄ね」
「ヘビィD、ラッキー=グローバー、そしてブライアン=バトラーといいます」
「何かジョンと同じ感じの名前ね」
曹操はその三人の名前を聞いて述べた。
「まさかまた別の世界から来たのかしら」
「そう言っているそうです」
夏侯淵もそうだと話す。
「本人達は」
「そうなの」
曹操はそれを聞いてだった。そのうえでの言葉だ。
「わかったわ」
「わかったとは?」
「私が直接会ってみるわ」
そうするというのである。
「その三人にね」
「ですが華琳様はお忙しいのでは?」
「別にいいわ」
微笑んでそれはいいというのだ。
「麗羽も今はかなり人材が集まったそうね」
「はい、あちらもです」
「別の世界からの人材が来ています」
夏侯淵だけでなく夏侯惇も話す。
「随分と賑やかになってきています」
「ですから我々も」
「わかっているわ。この許昌を拠点として」
今曹操はこの街を拠点としているのである。
「そしてそれからね」
「そうですね。それからです」
「陳留も」
「あそこが本来の私達の本拠地だけれど」
今は違うというのだ。
「許昌は交通の要地だしね」
「それに袁紹殿の本拠地も今は中原に近いです」
「ですからそれも」
それについても話すのだった。
「あと都にも近いのがいいかと」
「今都はどうも問題もありますが」
二人の話は続く。
「都は今はかなり厄介なようですが」
「大将軍と宦官達の争いが」
「あの女はどうにもならないわね」
曹操は大将軍の話を聞いて頷いた。
「麗羽はあれで見るところがあるけれど」
「袁紹殿は。確かにそうですね」
「問題のある人物ですが」
それでもだというのだ。彼女達は何処か袁紹を認めている。それには理由があるらしい。
「しかし政治や軍事は上手いです」
「特に政治は」
こう話してである。あらためて話すのだった。
「擁州には董卓もいますし」
「あの女についてはよくわかりませんが」
「相手もいるし。人を集めて確実にね」
また話す曹操だった。
「足場を固めていきましょう」
「はい、それでは」
「今は」
こう話してそのうえで今は政治と人材の確保に励む曹操陣営だった。彼女達も着実に足場を固めていた。そして。
その袁紹の本拠地である?。そこに今関羽達が入った。
一行はその街を見てだ。そのうえでそれぞれ言うのだった。
「凄い街ですね」
「全くなのだ」
ナコルルと張飛は素直にその街並みに驚いている。人が多く活気があるだけでなくそのうえ街並みも立派だ。まさに大都市であった。
「こんな街もあるんですね」
「幽州よりもずっと凄いのだ」
「冀州はこの国の中でもとりわけ栄えている州だ」
趙雲はその二人に対して言ってきた。
「そして?はその州都だ」
「だからなんですか」
「ここはで凄いのだ」
「そうだ。しかし」
ここで趙雲はさらに言うのだった。
「それでもここまで繁栄しているとはな」
「そうだな。政治はしっかりしているな」
関羽もここで言う。
「この街は」
「そういえば幽州からここに入ると雰囲気が変わりましたね」
ナコルルはこのことを思い出した。
「何か急に華やかになったみたいな」
「幽州は人口が少ない」
また言う趙雲だった。
「それに対して河北の他の三つの州は人口がさらに多い。それに」
「それに?」
「他にあるのだ?」
「領主の袁紹殿は政治は上手い」
このことも言うのだった。
「それと戦争もそれなり以上にできる」
「では袁紹殿に仕官するのか?」
関羽はここまで聞いて趙雲に対して言葉を返した。
「貴殿は」
「いや」
しかしであった。趙雲はここでこう返すのだった。
「それはしない」
「しないのか」
「言ったな。貴殿達と共にいると」
「ああ」
「それにだ。袁紹殿はだ」
ここで趙雲の眉が少し顰めさせられた。そのうえでの言葉だ。
「確かに政治や軍事は上手い」
「ではいいではないか」
「しかし。癖のあり過ぎる人柄なのだ」
問題としているのはそこであった。
「どうもな。何かあればすぐに騒ぐ。そして妙な劣等感も持っている」
「劣等感もか」
「袁紹殿は名門袁家の生まれなのは知っているな」
「うむ、それはな」
関羽もこのことは知っていた。それもよくである。
「四代三公の家だな。知っているが」
「だが母の身分は低い。だからだ」
「だからか」
「そうだ。それで何かあればすぐに騒ぐ」
劣等感故にそうするというのだ。
「だからだ。どうも性に合わない」
「そうか。だから仕官しないのか」
「そのせいで宦官の家の出の曹操殿とは妙に馬が合うようだが」
「お互い日陰者意識があるのか」
「そうだ、ある」
まさにそうだというのだ。
「二人共な」
「袁紹殿と曹操殿か。仲がいいとは思えないがな」
関羽はそれはあまり想像できなかった。
「だが。そういう事情があったのか」
「袁紹殿は本来はあそこまではなれなかった」
これも事実であった。
「曹操殿もだ。妾腹に宦官の家だからな」
「しかし大将軍に認められてだったな」
「気に入られたとも言うべきか。あの方も身分が低く譜代の側近がいない。だから少しでも有能な人材が必要だ。だからこそだ」
それで集めているというのだ。
「あの方も宦官との政争があるしな」
「都も物騒なものだな」
「そうですね。この国は何かと不穏な空気に満ちています」
ナコルルも顔を曇らせて述べる。
「それがどうなるか」
「それはいいとしてなのだ」
だがここで張飛が言ってきた。
「お腹が空いてきたのだ」
「いや、待て」
だがここで趙雲がその彼女に言う。
「今は路銀が少ないぞ」
「そうなのだ?」
「張飛が一度に何人分も食べるからだ」
「鈴々は知らないのだ」
自覚はない。
「そんなことは」
「いや、御前はかなり食べてるぞ」
関羽もここでその張飛に言う。
「十人分は普通ではないか」
「あれが十人分だったのか。鈴々はわからなかったのだ」
「全く。御前ときたら」
「ではここは」
ナコルルが言ってきた。
「また笛で」
「そしてだ。歌うのもいい」
趙雲は歌も提案した。
「愛紗、貴殿は声がいい」
「声がか」
「それに歌も上手い。だからナコルルの笛に合わせてだ」
「歌うのか、私が」
「そうだ。私はメイドでもして稼いでくる」
彼女はそうするというのだ。
「それで結構な金が入る筈だ」
「そうか、わかった」
「では鈴々はどうするのだ?」
「貴殿は好きにすればいい」
それはいいというのである。
「メイドもできそうにないしな」
「歌はどうなのだ?」
「今は関羽がいる」
また彼女の名前を出した。
「だからだ。適当に休んでいてくれていい」
「何なのだ、それは」
「ではな。そうしよう」
「わかった。それではな」
「わかりました」
「何なのだ?」
関羽とナコルルは納得したが張飛はそうではなかった。それでむくれて街を歩きはじめた。そうしてそのうえで文句さえ言っていた。
「鈴々を必要としないなんて何なのだ。あいつは鈴々のことは何もわかっていないのだ」
そんなことを言いながらふと人の集まりを見てだ。そこの立て看板を見る。するとそこに書いてあったのは。
「んっ!?何か書いてあるのだ」
張飛はそれを読もうとする。しかし彼女は字は苦手だった。
「ええと、あれは」
「武闘会を開く」
その横から声がしてきた。
「今日だな」
「今日なのか」
「賞金も出る」
声はまた言ってきた。明るく威勢のいい若い女の声だ。
「それもかなりのものだな。流石袁紹気前がいいな」
「賞金!?じゃあ鈴々も出るのだ」
張飛はそれを聞いて述べた。
「今から賞金を手に入れるのだ」
「それは無理だな」
声はそれを否定してきた。
「残念だけれどな」
「残念!?どうしてなのだ」
「それは決まってるだろ?」
声は笑みを入れてきた。
「あたしが優勝するからだ」
「優勝!?誰だ御前は」
張飛はそれを聞いてだ。声の方に顔を向ける。するとそこにいたのは。
茶のかなり長い髪を後ろで束ね耳のところも束ねている。青緑の上着に袖は黒だ。その袖がかなり長く手の甲まで覆っている。
スカートは短く白いものだ。そしてブーツも白である。
顔立ちははっきりとしていて気の強そうな感じだ。そこに少女の凛としたものが備わり際立った美貌を見せている。目は茶色でそこから強い光を放っている。胸は服の上からでもはっきりとわかる大きさだ。スタイルは全体でもかなりいい。その少女が言ってきたのである。
「見ない顔なのだ」
「あたしか?あたしは涼州の出で馬超っていうんだ」
「馬超なのか」
「そうさ。字は猛起」
字も名乗った。
「あんたの名前は何なんだ?よかったら名乗ってくれよ」
「鈴々のことか」
「待て、それ真名か!?」
その少女馬超はそれを聞いてまずは引いた。
「いきなり真名を言うのはな」
「では名前を言うのだ」
「あ、ああ」
「張飛なのだ」
ここで名前を名乗った。
「字は翼徳なのだ」
「そうか、張飛か」
馬超はそれを聞いて頷いた。
「しかし。真名聞いちまったな」
「どうするのだ?それで」
「あたしも名乗るな。それでお互い様だからな」
「そうなのだ」
「あたしの真名は翠」
こう名乗った。
「よかったらそれで呼んでくれ。じゃあまた会おうな」
「優勝するのは鈴々なのだ」
「いや、あたしさ」
こんな話をしながらその武闘会に参加する。会場は四角く白い闘技場を観客達が囲んでいる。そして顔良達がその警護にあたっている。
顔良と文醜の他にだ。もう三人いた。
「やれやれよね」
「まったく」
赤いロングヘアに青い目をした気の強そうな顔立ちの少女がいる。顔良達と同じような年齢に見える。赤い上着と銀の鎧、それに青のミニスカートである。ブーツは赤だ。
そしてもう一人は黄色い髪を左右でくくっている大人しげな感じの少女だ。目は黒くやや垂れ目だ。だがその服は顔良達と同じで露出は多めだ。黄色い上着に銀の鎧、そして黒の丈の短いスカートと黄色のハイソックスだ。その二人にだ。
黒く背の高い美女もいる。四人よりも年上に見える。落ち着いた雰囲気を持ち黒く膝まである豊かな髪に黒いワンピースのスリットが深く入った服とブーツだ。その彼女もいた。
文句を言っているのは二人だ。彼女達はそれぞれ顔良と文醜に言う。
「ねえ斗詩、猪々子」
「これも仕事なのよね」
「そうよ花麗、林美」
「今更何を言ってるんだ?」
顔良と文醜はこう二人に返した。
「貴女達もその為にここに来てるんじゃない」
「そうじゃないのか?」
「この張がこんな雑用するなんて」
「全く。高覧ともあろう者が」
二人はこう言ってまた溜息をつく。
「戦場で戦うのならともかく」
「袁紹様も人使いが荒いのね」
「何言ってるのよ。今は州が三つに増えて大変なのよ」
「そっちに新入りが大勢行っただろ」
顔良と文醜はまた二人に話す。五人であれこれと荷物を持ったり観客席の誘導をしたりして働いている。そのうえでのやり取りである。
「袁紹様は今山賊退治を徹底しておられるし」
「それでだよ。あたし達は今はこうして本拠地に残ってな」
「それはわかってるけれど」
「訓練ならともかくね」
「文句は言わないことね」
しかしここで黒髪の美女が言ってきた。
「与えられた仕事は確実にこなす」
「うっ、黒梅さん」
「そう仰いますか」
「言うわ。まずは身体を動かす」
美女はまた言う。
「わかったわね」
「流石麹義さんよね」
「そうだよな」
顔良と文醜はその美女麹義の言葉を聞きながら話す。
「しっかりしてるわ」
「あたし達武闘組で最年長だけはあるよな」
「斗詩も猪々子もよ」
麹義の言葉は二人にもかけられる。
「真面目にやりなさい。いいわね」
「は、はい」
「わかってます」
二人も彼女には弱い。
「それじゃあすぐに」
「仕事終わらせます」
こう話してだ。そのうえで五人で仕事をする。そうしてそれが終わると会場整理についた。そして主賓席に袁紹が出て来た。その両脇には田豊達がいる。
「さて、皆さん」
「おお、袁紹様だ」
「相変わらず派手だな」
民衆はその彼女を見て言う。
「さて、それでは今から武闘会をはじめます」
「やれやれ!」
「早くはじめろ!」
こうして大会がはじまる。眼鏡のアナウンサーもいる。そしてその横には解説者として審配もいた。
「さて、はじまりました武闘会」
「はい」
審配がそのアナウンサーの言葉に応える。
「いよいよですね」
「まずは今大会最年小、いえ最年少の張飛選手と」
「アースクエイク選手ですね」
「いや、凄い大きさですね」
出て来たのはかなりの大きさの巨人だった。丸々と太ったスキンヘッドの男で顔には刺青がある。赤い胸と腹が露わになった上着にズボンだ。そしてその手には巨大な鎖鎌がある。
「このアースクエイク選手は」
「今大会優勝候補筆頭です」
「はい、それに対して張飛選手がどう健闘するか」
「それに注目です」
こう話してだ。そのうえで闘いを見守る。アースクエイクは目の前に立つ張飛を見下ろしながらせせら笑って言うのであった。
「おいおい、子供かよ」
「子供でも鈴々は強いのだ」
「強いっていうのか!?」
「そうだ。かかって来るのだ」
「はっ、じゃあな。容赦はしねえぜ」
「はじめ!」
声がかかった。それがはじまりだった。
アースクエイクはすぐに鎌を出してきた。それは張飛に向かって飛ぶ。
「ぐっへへ!」
「さあ、早速鎌を出してきたアースクエイク選手!」
アナウンサーがそれを見て叫ぶ。
「鎖から伸びてきます!」
「これをかわすのは容易ではないわ」
ここでまた言う審配だった。
「そしてかわせなければ」
「まずいですか」
「ええ、間違いなく」
「さて、どうするか張飛選手」
アナウンサーの実況はその中でも続く。
「この鎌を。どう防ぐのでしょうか」
「こうするのだ!」
そしてその張飛が動いた。その手にある蛇矛を鎌に向けて一閃させた。
するとであった。鎌は吹き飛びだ。アースクエイクの手から離れた。
「何っ!?」
「今なのだ!」
張飛は前に突進しその足元を蛇矛で払った。それでアースクエイクを瞬くの間にこかせてしまった。それで決まりであった。
「うぐぐ・・・・・・」
「一本なのだ」
「何と、小兵張飛選手勝利です!」
アースクエイクは五体満足なままだ。しかしそれでも武器は飛ばされ倒れている。勝敗は誰の目から見ても明らかなものだった。
「何とも意外な展開になりました!」
「あの張飛という娘」
審配の目がここで強いものになる。
「どうやらかなりの強さのようね」
「はい、確かに。そして続きましては」
試合はさらに進む。馬超も闘いの場に出た。
対するは緑の肌に粗末な黄色い服を着た腰の曲がった小男だ。顔は醜く歪んでおりその左手には巨大な大きい爪がある。その男が彼女の相手だ。
「けけけ、主では無理じゃ」
「また随分と変わった奴が出て来たな」
「さあ、涼州の名門馬家の出身馬超選手と」
「馬超!?」
その名前を聞いた麹義がふと声を漏らす。
「まさか。こんなところまで来ているなんて」
「あれ、お知り合いだったんですか?」
「あのやたらと長いポニーテールの娘と」
「ええそうよ花麗、林美」
こう二人にも返す。
「私も涼州の出身だから」
「そういえばそうでしたよね」
「黒梅さんのお生まれは」
「ええ」
こう顔良と文醜にも返す。
「そうよ。今では馬家の若き当主」
「そんなのがここにですか」
「来ていたなんて」
「その腕は涼州でも随一」
「凄いことになってきたっていうか」
「この武闘会って」
高覧達も言う。
「しかし。涼州っていったら」
「そうそう」
そしてある話になるのだった。
「そこってこれから私達が進出しようとしているところだし」
「都の北からね」
「馬氏は今は」
麹義がここで言う。
「当主の馬騰が急死して治める者がいないから」
「そうですよね、麹義さんの案内で進出しようっていうところで」
「名馬に西域との貿易」
袁紹はそれを狙っていたのである。やはり彼女はこと政治や戦争といったものに関しては少なくとも無能な人物ではないようである。
「それを狙って擁州の董卓に睨みを効かす」
「その為にも」
「その家の娘が来ているなんて」
また言う麹義だった。
「どうなるのかしら、本当に」
「それはそうとよ」
文醜がまた言う。
「はじまったわよ」
「あっ、今?」
「遂に」
五人はその闘いのはじまりを見る。まずはその緑の肌の男が名乗る。
「わしの名は不知火幻庵」
「それがあんたの名前か」
「左様、わしの名前を覚えておくケ」
「一応は覚えておくさ」
その十字槍を両手に持っての言葉である。
「それはさ」
「一応じゃと」
「そうさ。悪いがあんたは倒させてもらうよ」
悠然と構えての言葉である。
「それでいいよな」
「できたらな。では行くケ」
「はじめ!」
言葉と共に幻庵は一旦その顔を馬超から背けてだ。すぐに紫の息を吐き出してきた。
「毒霧か!」
「左様、かわせるケ?」
「こんなのはな!」
馬超は叫んでだ。一気に跳んでだ。そのうえで急降下して槍の攻撃を浴びせる。すると幻庵は彼女のその攻撃を左手の爪で防いだ。
「くっ、わしの毒霧をかわしたケ!?」
「確かに驚いたさ」
馬超もそれは認める。
「あんたどうやらまともな人間じゃないな」
「そうだケ。我が一族はケ」
それを自分でも認める幻庵だった。
「人ではない存在の血も引いておる」
「そうか、やっぱりな」
「しかしこの世界には気付けば迷い込んでいたケ」
「何っ!?」
「この世界では生きる為に金が必要だケ。だから闘うまでだケ」
「それだけだってのか」
「左様、それだけだケ」
こう言うのである。
「ではじゃ。今度はだケ」
後ろに着地した馬超に対してだ。今度は激しく縦に回転しながら転がってきた。その技で馬超を倒そうというのだ。
「ケケケケケケケケケ!」
「転がってきたのか」
「さて、どうして倒すケ?」
転がりながら馬超に問う。
「このわしを」
「心配無用、こうしてな!」
馬超はこう叫んでだ。その幻庵に対して突進する。そうしてだ。
その槍を激しく突き出す。それで迫る彼を一気に弾き飛ばしたのだ。
「ピギャ!?」
「よし、一本だな!」
馬超は場外に弾き飛ばした幻庵を見て言う。
「あたしのな!」
片足を鶴の様に掲げさせての言葉だ。その時スカートが翻りエメラルドグリーンのものがちらりと見える。彼女の色はそれだった。
「見えた!じゃなくて一本!」
ここで審判の声が響く。馬超も見事勝利を収めた。
勝負はこのまま続く。張飛も馬超も順調に勝ち進んでいく。そして気付けばだ。勝負は決勝にまで進んでいる。その二人の闘う者は。
「さあ、瞬く間にここまで来ました!」
「凄いですね」
解説者の横で審配が言う。
「張飛選手と馬超選手の強さは」
「はい、まさに快進撃でここまで来ました」
その決勝にである。
「ここまで強い人間がいることも驚きです」
「我が陣営でもここまでは中々いませんね」
審配も真剣な顔で呟く。
「これは」
「これは?」
「いえ、こちらの事情です」
今はこう言うだけだった。
「ただ。袁紹様にお伝えしなければ」
「あれ、神代が解説者だったの」
「あっ、斗詩」
たまたま傍に来た顔良に顔を向ける。
「丁度いいところに来てくれたわね」
「どうしたの?」
「あの二人のことを袁紹様のところに」
真剣な顔で言うのである。
「お考えになられてと」
「わかったわ。それじゃあ」
顔良も真剣な顔で頷く。これで彼女達の話は終わった。
そしてだ。最後の勝負がはじまろうとしていた。張飛と馬超はもう対峙している。
その対峙している張飛がだ。まず言ってきた。
「優勝は貰うのだ」
「おいおい、もう勝ったと思っているのか?」
「そうなのだ。鈴々は負けたことがないのだ」
こう馬超にも言ってみせる。
「だから絶対に優勝するのだ」
「悪いがあたしもなんだよ」
「それはどういうことなのだ?」
「あたしも負けたことがないんだよ」
にやりと笑って張飛に返すのだった。
「負けたことはね」
「じゃあ御前はここで今はじめて倒れるのだ」
「でははじめるのだ」
「ああ、どっちが倒れるかここで決まるな」
「はじめ!」
こうしてだった。闘いがはじまった。両者は互いに突進してだ。そのうえでそれぞれの得物を繰り出し合う。激しい応酬が忽ちはじまった。
馬超が槍を突き出せば張飛がそれを防ぐ。張飛が蛇矛を横薙ぎに振るえば馬超はそれを受け止めてみせる。両者の実力は互角だった。
「これは凄い勝負になりました!」
解説者も言う。
「両者互いに譲らず、既に百合を超えていますがまだ決着はつきません!」
「予想以上ね」
それを見た審配がまた言う。
「二人共」
「予想以上ですか」
「進言して正解だったわ」
そしてこうも言うのだった。
「この二人、是非共」
「是非共」
「こちらのお話です」
その内容までは言わないのだった。
「ですから」
「はあ。そうですか」
「さて、この闘いは」
また言う解説者だった。審配をよそにだ。
「どうなるでしょうか」
二人の闘いは続く。やがて二百合を超えた。
だがそれでも決着はつかない。二人は業を煮やしそれぞれ跳んだ。そして空中でも激しく打ち合う。
「こんな奴は三人目なのだ、いや四人目なのだ!」
「四人目!?」
「鈴々と闘える奴は四人目なのだ」
張飛は着地してから言う。
「御前、かなりやるのだ」
「そうだな。あたしもそう思うよ」
馬超もだというのだ。
「あんたみたいな相手ははじめてさ」
「そうなのだ」
「そうさ。それでもこれで終わらせるか」
あらためて構える馬超だった。
「本気でな!」
「こっちもそのつもりなのだ」
そしてそれは張飛も同じだった。
「鈴々もこれで」
「決めるんだな」
「馬超といったな」
彼女の名前を呼んでみせる。
「では行くのだ」
「ああ、決めるか」
お互いに構えに入る。そのうえでまた激突しようとする。しかしだった。
急に張飛の腹が鳴った。それがそのまま水を差してしまった。
「あっ、これは仕方ないのだ」
「おい、御前」
馬超も呆れてその張飛に抗議する。
「闘いの中でだな・・・・・・あっ」
しかしであった。その馬超の腹も鳴った。これで緊張の糸は完全に切れてしまった。
「あはは、まああたしもだな」
「そうなのだ。仕方ないのだ」
二人共顔を赤くさせて手を頭の後ろにやって言う。
「これはまあ」
「そうなのだ。どうしようもないのだ」
「袁紹様」
「宜しいかと」
そして田豊と沮授がここで袁紹に言ってきた。彼女は主賓席でそのまま闘いを見続けていたのだ。
「そうですわね。それでは」
「はい、これで」
「終わらせましょう」
「両者これまで」
ここで袁紹は立ち上がって言う。
「双方優勝とします」
「おおっ、両者優勝!?」
「何と」
観客達も袁紹のその言葉を聞いて声をあげる。
「では賞金も?」
「二人に」
「二人に優勝の金額を」
「はい、それでは」
「その様に」
田豊と沮授が応える。こうして二人は優勝となりそのうえで袁紹に宴に招かれる。そのうえでその腹を満たすのであった。
そのテーブルの上に置かれている饅頭や豚の丸焼き、それにラーメンや餃子、炒飯といったものを食べていく。腹は急激に満たされていく。
「美味いのだ」
「ああ、最高だな」
二人は食べながら同席している袁紹に対して言う。
「袁紹殿のところじゃいつもこんなのが食えるのか?」
「いつもなのだ?」
「はい、何時でも好きなだけ食べられましてよ」
袁紹は微笑みながら二人に返す。
「もうどれだけでも」
「いや、そりゃ凄いな」
「そういえば街も凄かったのだ」
「袁紹様は政治と軍事は凄いんだぞ」
袁紹の左脇に立って控えている文醜が胸を張って言う。顔良は右脇である。その後ろには田豊と沮授が控えている。審配は少し離れた場所から見ている。
「そのかわり自分の興味のないことは全然しようとしないし駄目駄目だけれどな」
「余計はことは言わなくていいですの」
袁紹はむっとした顔になりすぐに文醜に返した。
「全く。いつもいつも」
「あっ、すいません」
「わかればいいですの。とにかく」
文醜を叱った後であらためて二人に声をかける。
「どうですの?御二人を我が袁家の客将に」
「そうしたらこんな美味いものが何時でも食えるのだ?」
「いや、涼州じゃこんなのないからな」
「そうですわよ。何時でもですわよ」
袁紹はここぞとばかりに二人に言う。
「如何でして?それは」
「わかったのだ。では」
「喜んでな」
こうして二人は快諾した。しかしである。三人のやり取りを聞いていた顔良と文醜はそれを聞いてだ。二人になったところであらためて話すのだった。二人はある部屋で話をしている。そこは物置である。
「なあ、まずくないか?」
「まずいって何が?」
顔良は文醜にまずは怪訝な顔で返した。
「何がなの?」
「だからだよ。あの二人が入ったらな」
「いいじゃない。最近州を三つも抱えておまけに涼州にも進出するのよ」
袁紹陣営も何かと大変なのだ。
「人出は必要じゃない」
「だからそうじゃなくてだよ。あの二人が入ったらあたし達どうなるんだよ」
「どうなるって?」
「田豊と沮授は別格としてな」
その二人が袁紹のブレーンであり第一、第二なのだ。
「武じゃあたし達が袁紹様の第一、第二の側近だろ?」
「黒梅さんもいるけれどね」
「それでもだよ。側近だよ」
それを言う文醜だった。
「けれどあの二人が加わったらどうなるんだよ。尋常じゃない強さだぞ」
「だからいいじゃない。袁紹様にとっても」
「あのな、あの二人が入ったらあたし達は首にならなくても側近の座から外れるんだぞ」
「えっ、そうなの!?」
「そうだよ、だからここはな」
「え、ええ」
「手を打つんだよ」
こう顔良に言うのだった。そしてそのうえですぐに二人で袁紹のところに向かいすぐに話すのだった。
「あのですね」
「袁紹様、宜しいでしょうか」
「何ですの?」
袁紹は自分の席に座りながらそのうえで二人に対して言うのだった。
「匈奴が何かしてきましたの?涼州への道は確保しないといけませんわ」
「いえ、そうではなく」
「あの二人のことですが」
「ええ、登用しますわ」
張飛と馬超はそうするというのだ。
「あの二人、使えますわ」
「そのことですが」
「あの二人、どうなのでしょうか」
こう二人は躊躇いながら言うのであった。
「袁家の人材として相応しいかどうか」
「それですが」
「私は何かに優れた者なら誰でも使いますわ」
このことにおいては曹操と全く同じスタンスだった。
「ですから何の問題もありませんわ」
「いえ、それでもです」
「それは」
「何かありまして?」
「闘いの中で急にお腹を空かして中断するようなこともありましたし」
「登用には少し様子見をした方がいいかと」
「ふむ。そうですわね」
実は袁紹もこのことは少し気になっていた。それで二人の話に頷くところを見たのである。
そしてだ。袁紹は言った。
「では試験をしますわ。それに受かれば登用しますわ」
「はい、それでは」
「その様に」
「貴女達がその相手をしなさい」
ところが袁紹はここでこんなことも言うのだった。
「宜しいですわね」
「えっ!?」
「あたし達がですか」
「そうですわ。まずはね」
こう言ってである。さらに言う袁紹だった。
「そして登用すれば二人は私達の武の柱。貴女達は」
「私達は!?」
「どうなるんですか!?」
「降格及び減給ですわ」
それだというのだ。
「両脇から外れます。宜しいですわね」
「は、はい」
「わかりました」
二人にとっても正念場になってしまった。話はこうしてまた動く。だが今度は闘いは闘いでも全く異なる闘いになろうとしていた。
第四話 完
2010・3・26
鈴々、勝手に客将の話を受けているけれど。
美姫 「ちょっと問題かも」
愛紗たちに相談もなしだしな。とは言え、どうも試験するみたいだな。
美姫 「どんな試験になるのかしらね」
一体どうなるのかな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。