『黄金バット』




              第四十一話  子供達を救え

 この日高知県の海は荒れていました、それも急にそうなりました。
 それで漁から帰った漁師の人達は急に荒れだした海を見て言いました。
「いいところに帰って来られたな」
「全くだな」
「俺達が戻って暫くして荒れだしたな」
「それまで静かだったのに」
「本当に自然はわからないものだ」
「静かだったのが急にこうなるからな」
「けれど漁が出来てよかった」
 このこと自体は喜ぶのでした。
「本当にな」
「そうだよな」
「終わって港に着いて荒れだしたからな」
「そう思うとな」
「漁が出来てよかった」
 とても高い波が次から次に波止場に打ち付けられるのを見て言います、港はしっかりした造りで堤防もあるので大丈夫です。
 その中で、です。漁師の人達は曇ってもきている空も見ました。今も雨それも大雨に今にもなりそうでした。
 ですがその中で、です。ある人が言いました。
「待て、一隻ないぞ」
「重一の船がないぞ」
「そういえばそうだな」
「あいつの船がないぞ」
「あいつはまだ戻っていないのか」
「遅れたのか」
「これは大変だぞ」
 皆港の船が一隻足りないことに気付いて慌てだしました。
「あいつ今日自分の子供達船に乗せてたぞ」
「親の仕事見せるのも親の仕事だって言ってな」
「こいつ等も将来漁師になるって言って」
「そう言って乗せてたぞ」
「夜のうちにあえて起こして乗せてな」
「そうしたな」
「余計にまずいぞ」
 皆真っ青になって言うのでした。
「子供達が一緒ならな」
「何とかしないと駄目だ」
「海上保安庁に連絡するか」
「俺達の船じゃ今海に出たら波にさらわれるぞ」
「俺達の小さな船だとな」
「ここは海上保安庁の人達にお願いしよう」  
 こうお話してでした。
 皆すぐに海上保安庁に連絡しました、すると幸い港の近くの海に海上保安庁の船が一隻パトロールをしていました。
 その船が連絡を受けてすぐにレーダーを使って捜索をするとです。
 一隻の船が見付かりました、まさにその船がでした。
「あの船だな」
「間違いありません」
「通信を入れたら泉重一さんから連絡がありました」
「あの船です」
「男の子のお子さんも二人おられるとか」
 船長さんにすぐに船員さん達が言ってきました、そして船を見るとです。
 大波の中でまるで風の中の木の葉の様に揺らいでいます、波は小さな漁船よりも大きい位で今にも波に飲み込まれそうです。
 その波を見てです、船長さんも言いました。
「すぐに救出しよう、しかし」
「それでもですね」
「この波ですとこの船でも何とか航海出来る位です」
「あの船に近付けても」
「それでも船に乗っている人達を助けることは出来ません」
「それは無理です」
「くっ、どうすればいいんだ」
 船長さんも今の波の高さを見てこれは無理だと悟らざるを得ませんでした、ですが何とか船に近付きます。そしてです。
 船を見ますと三十代位の逞しい身体つきの男の人が必死に船を動かしてです。
 その男の人に泣きながら必死にしがみついている小さな男の子が二人います、二人共まだ小学校にも入っていない位です。
 その人を見てです、船長さんは何とかしないと、と思いましたが。
 しかしです、こうも言ったのでした。
「この波では」
「はい、本当に船に近付くこともかなり難しく」
「船を助けることはとても」
「ですがこのままでは」
「あの船はどうなるか」
「どうすればいいんだ、漁師さんも子供達は助けられないぞ」
 苦いお顔になるしかありませんでした、ですが。 
 船長さんも船に乗っている船員さん達も何とか船を進ませようとしました、海で困っている人達を助けるのが自分達のお仕事だと理解しているからです。
 だからこそです、何とか進もうとします。例えそれがとても難しいこととわかっていても。
 ですがとりわけ大きな波が来ました、その波が漁船を今にも呑み込もうとしています。
「危ない!」
「子供達もいるんだぞ!」
「どうなるんだ!」
 保安庁の船員さん達はその波を見て思わず絶叫しました、そしてです。
 思わず手を伸ばそうとした時に。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「この笑い声は!」
「まさか!」
 そこにいた人が誰もがこれはと思った時にでした。
 お空、漁船の近くのそこに黄金バットがいました。黄金バットはいつもの様に裏地が赤い黒マントをたなびかせ両手を腰の左右にやって仁王立ちしています。
 そして右手に先がフェシングのサーベルの様に尖りもう一方の端に宝珠があるステッキのその宝珠の方をです。
 海に向かって突き出してそこから電の様なギザギザの金色に輝く怪光線を放ちました。するとそれまで荒れに荒れていた海がです。
 嘘の様に静まりました、船長さんはその静かになった海を見て言いました。
「今のうちだ」
「そうですね、今のうちですね」
「今のうちに漁船に向かいましょう」
「そしてそこにいる子供達を救いましょう」
 他の船員さん達も頷いてでした。
 すぐに船の傍に寄って漁師さんと子供さん達を救出しました、それが適った時にはです。
 黄金バットはもういませんでした、何処かに飛び去った後でした。ですが船長さんは黄金バットがいた場所を見上げて言いました。
「また黄金バットが助けてくれたな」
「全くですね」
「黄金バットが波を鎮めてくれたからです」
「子供達を助けられました」
「それが出来ました、
「そう、本当に黄金バットがいてくれたから」
 だからだというのです。
「漁師さんも子供達も助かった」
「全ては黄金バットのお陰ですね」
「黄金バットに心から感謝しましょう」
「そうしましょう」
「そうしよう、そしてだ」
 船長さんは見んあに言いました。
「漁船は曳航して漁師さんと子供達は船に乗せて」
「港に帰りましょう」
「そうしよう、そして黄金バットの活躍を伝えよう」
 笑顔でこう言って港に戻りました、そしてです。
 黄金バットの今回の活躍も人々に知られるのでした、突如として現れ姿を消す正体不明ですがとても心正しいヒーローの活躍を。


黄金バット 第四十一話   完


                   2021・8・8








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