『黄金バット』




             第三十九話  メンインブラック比叡山の攻防

 比叡山は昔からあるとても歴史のある素晴らしいお寺です、それこそ日本の誰もが知っているお寺です。
 ですがその比叡山にでした、お空が急に黒雲に覆われてメンインブラックが現れました。この魔人は本堂の前にいきなり出て来て言いました。
「この寺を全て焼き尽くすとしよう」
「なっ、何てことをするんだ」
「そんなことをするなんて織田信長以来だぞ」
「いや、信長公は実はそんなことしていないらしいぞ」
「そこまではしていないらしいぞ」
「それじゃあ足利義教公か」
「あの室町幕府の酷い将軍様みたいなことをするのか」
 メンインブラックのその言葉を聞いた皆は驚いて口々に言いました。
「何てことをしようとするんだ」
「そんなこと許しておけるか」
「何とかして止めるんだ」
「あの魔人をやっつけろ」
「そうしてそんな悪事を許すな」
 皆メンインブラックのところに向かいます、そしてです。
 特に比叡山にいるお坊さん達がメンインブラックの前に集まって口々に批判しました。
「この寺を燃やさせるか!」
「そんなことは許さないぞ!」
「我々が止めてみせる!」
「仏罰が当たるぞ!」
「魔人よ去れ!」
「私を退けたければ私を倒すことだ」
 メンインブラックはお坊さん達にこれ以上はないまでに不敵な笑みで応えました。宙に少し浮かんでいてそれだけで普通ではありません。
「君達が」
「今は僧兵はいないが我等には力がある」
「信仰と学問そして法力が」
「その力でお主を退けてみせる」
「天台宗の力を見せてやる」
 比叡山の全てのお坊さん達がこう言って力を合わせてでした。
 一つになって念仏を唱えはじめました、そこに全身全霊を注ぎ込んでです。
 そうして必死に唱えているとやがてその法力が天に届きました。そうするとでした。
 それまで黒雲に覆われていたお空に一条の光が差し込み。
 その光が本堂の屋根の真ん中に降りた時にでした。黄金バットが両手に腰を当ててマントをたなびかせて姿を現しました。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「黄金バット!」
「黄金バットが出て来たぞ!」
「我々の願いが聞き届けられたのか!」
「左様」
 ここで、でした。皆の前にです。
 非常に立派な僧衣と赤い頭巾を被った一目見ただけでこの世の人とは思えないまでの徳と学識それに法力を備えたお坊さんが出て来ました。比叡山のお坊さん達はその人を見て驚きの声をあげました。
「貴方はまさか」
「まさかと思いますが」
「伝教大師様ですか」
「そうなのですか」
「如何にも。そなた達の法力を受けて出て来た」
 見ればお身体が透けています、実体ではなく魂みたいです。
「比叡山を護ろうとする想いを」
「そうなのですか」
「まさか出て来られるとは思いませんでした」
「黄金バットだけでなく貴方までとは」
「この山を開かれた貴方までが」
「ここは私と黄金バットに任せてもらう」
 伝教大師即ち最澄さんはこう言ってでした。
 メンインブラックに対して凄まじい法力を放ち黄金バットは魔人にステッキの先をフェシングの様にして使って攻撃をはじめました。雷を落とし衝撃波も放って反撃します、ですが。
 流石に二人を相手にして魔人は次第に劣勢になってでした。
 一旦間合いを離してから忌々し気に言いました。
「残念だが負けを認めよう」
「それならか」
「今回はこれで去る、また会おう」  
 こう言って闇の瘴気の中に姿を消しました、それを見て黄金バットは何処かに飛び去り。
 最澄さんはお坊さん達に言いました。
「そなた達が心を一つにし魔人と対したから我等が出た」
「想いを受けてくれて」
「そうしてですか」
「魔人を退けられる者をな。全てはそなた達の心故だ」
 魔人を退けてお寺を守ろうと一つになってお経を唱えた結果だというのだ。
「見事だった、その心を忘れるな」
「わかりました」
「これからもですね」
「心を一つにしてですね」
「御仏にお仕えし学ぶ修行するのだ、いいな」
 こうお坊さん達に言います。
「仏門の教えもこの寺も護れるのだ」
「わかりました、ではです」
「これからもです」
「我等心を一つにし」
「そうしていきます」
「頼むぞ。では私はこれからもそなた達を見守ろう」
 最澄さんはこう応えてでした、そのうえで。
 本堂に入り姿を消しました、お坊さん達はその後姿を見送りこれからも学問と修行に励み仏教の教えだけでなくこの比叡山も護っていこうと誓うのでした。


黄金バット第三十九話   完


                 2021・3・1








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