『黄金バット』
第三十二話 黒バット夜桜の下で
桜の楽しみ方はお昼に観て楽しむだけえはありません、夜に観る即ち夜桜も楽しみ方の一つです。それでこの時京都の川辺に並ぶ夜桜達を見て実に沢山の人が風情を楽しんでいました。
夜の中に咲き誇る桜達は闇夜に幽玄の様に映し出されこの世のものとは思えないまでに奇麗です、皆その桜達を観ながらです。
お酒も飲んで美味しいものも食べて一年の中でごく限られた期間にしか楽しめない楽しみを満喫しています、ですが。
ここで、です。何と夜桜と夜桜の間に。
異形の影が見えました、その影は何かといいますと。
「黒バット!」
「黒バットがいるぞ!」
「黒バットが出て来たぞ!」
「フフフフフフフフフフフフフフフフ!!」
黒バットは驚く人々に対して不気味な笑みを浮かべてでした。
超能力を使って幾多の自分の姿を出してきました、分身の術を使ってきたのです。その黒バットを見てです。
夜桜を楽しんでいた人達は一斉に逃げ去りました、そうしてです。
誰も桜達には近寄れなくなりました、何しろ黒バットが朝になってもその場に腕を組んで仁王立ちしているのです。これでは近寄れる筈がありません。
それで京都の人達は困ってしまいました。
「一体どうすればいいんだ」
「このまま黒バットに桜が散るまでいられると困るな」
「折角のお花見時期だっていうのに」
「よりによって黒バットが出て来るなんて」
「どうすればいいんだ」
「黒バットをどうすればいいんだ」
皆黒バットのことに頭を抱えました、ですが。
頭を抱えてばかりではどうにもなりません、考えても実際の行動がないと物事は何も動かないのですから。それで、です。
皆で黒バットを何とかしようとなって我こそはという人達が集まってそのうえで、でした。
黒バットがいる川辺の桜の並木道のところに行って黒バットをやっつけようとしました、ですが。
黒バットは攻撃してきませんが黒バットに攻撃を仕掛ける人達のそれをひらりひらりとかわしていきます。そのかわし方たるや。
「影だ」
「まるで影の様だ」
「こちらの攻撃が当たらない」
「それも全くだ」
「何という強さだ」
「相手は全く攻撃してこないのに」
それでもなのです、黒バットはまるで人間の攻撃なぞ最初から当たる筈がなく攻撃するまでもないという態度で人々の攻撃をかわしているのです。
「こちらの攻撃が全く当たらない」
「棒も刀もボウガンも銃も」
「何て奴だ」
「こちらの攻撃は一切通じない」
「どうすればいいんだ」
「これではどうしようもないぞ」
「攻撃が当たらないんじゃ何の意味もないぞ」
本当に黒バットに攻撃は当たりません、黒バットは空も舞うので余計にです。黒バットをやっつけようという人々の攻撃は一切当たりません。
それで人々ばかり疲れきってもう誰もが駄目だと思うと黒バットは哄笑しつつ空高く上がりました。まるでその場を悠然と去る様に。
ですがこの時にでした、不意に。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「その声は!」
「まさか!」
皆が声がした方を見るとです、一本の一際高い桜の木の上にです。
黄金バットが腰に両手を当ててマントをたなびかせてそのうえで立っています、その黄金バットがです。
空を飛び去ろうとする黒バットに向かいます、黄金バットをステッキをフェシングの様にして黒バットを攻撃し黒バットも応えます。
二人の超人の一騎打ちがはじまりました、ですがその最中にです。
黄金バットはこれまで黒バットに必死に攻撃を仕掛けていた人達にでした、お顔をを向けました。黄金バットは何も言わず何も語りません。
ですが自分達に顔を向ける黄金バットを見てです、皆は自分達もと思いました。そして黄金バットと共にです。
黒バットに対して攻撃を仕掛けました、するとです。
やっぱり黒バットに攻撃は当たりません、黒バットの身のこなしは実に見事で黄金バットとの戦いの中でも人々の攻撃は全く当たらないです。
しかし人々の攻撃がそのまま黄金バットの援護になり。
黒バットは次第に追い詰められていきました、それでです。
黒バットは左肩に攻撃を微かに受けました、かすっただけですが確かにです。
それで、です。黒バットは忌々し気な感じを見せてマントで身体を包みました。するとその姿は何処かへと消えました。
残ったのは黄金バットと黒バットに向かった勇気ある人達でした、その勇気ある人達は思うのでした。
「例え敵わなくても」
「それでもか」
「自分達を脅かすものに向かうことも大事なんだな」
「一人でなくても」
「そうして道を開く」
「それも大事ということか」
皆こう思うのでした。
「けれど今回は黄金バットが助けてくれた」
「そのお陰で何とかなった」
「けれどいつもそうは限らない」
「だからか」
「我々は勇気だけじゃない」
「知恵も使わないと駄目だな」
「黒バットをどうして退けるか」
自分達だけでというのです。
「そのことも考えないと駄目だな」
「黄金バットは我々に教えてくれたんだ」
「今回の戦いであえて出て来て」
「そうもしてくれたんだな」
黄金バットは何も答えません、ですが。
人々にその通りという顔を見せてです、そのうえで。
今はその場を去りました、すると皆黄金バットに声援を送ってでした。これからは自分達は勇気だけでなく知恵も使いそうして苦難に立ち向かっていこうと決意するのでした。人間にはそちらも必要だとわかったからこそ。
黄金バット第三十二話 完
2020・1・15