『黄金バット』
第三十一話 星空を見たい人へ
最近関東は曇りばかりです、それもお昼だけでなくです。
夜もです、それである高校の天文学部の人達は困っていました。
「折角今の時期はいい星空が見られるのに」
「こうまで曇りが多いとね」
「夜空が見られないよ」
「お月様だって見たいのに」
「天の川だって」
「折角そうしたものが素晴らしい季節なのに」
それなのにというのです。
「毎日毎日曇りで」
「お昼もそうだけれど」
「夜もこうだとね」
「困るね」
「どうにも」
部室でこうしたお話をしてぼやいています、皆この季節のとても奇麗な夜空を見たいのにと困っています。
ですがその中で天文学部の部長さんが言いました。
「今日は晴れるというからね」
「だからですか」
「今夜はですか」
「夜空を見ますか」
「そうしますか」
「そうしよう、もうずっと星空を見ていないしね」
天文学部は夜空、つまり星空を見て楽しむことが部活の目的だというのにです、それがずっと出来ていなくて部長さんも不満に思っているのです。
だからです、皆にもう我慢出来ないといったお顔で言うのでした。天気予報で晴れというのならこのことを頼りにしてです。
「今夜こそはね」
「そうしますか」
「じゃあ部室にてるてる坊主もかけましょう」
「それで晴れる様にお願いしましょう」
「天気予報も外れることがありますしね」
「絶対のものでもないですから」
「そう、神様にも仏様にもお願いして」
部長さんも心から今夜こそはと思い言うのでした。
「そのうえでね」
「今夜こそ見ましょう」
「本当に最近ずっと曇りですからね」
「いい加減嫌になっていますし」
「てるてる坊主もかけて」
「神様にも仏様にもお願いしましょう」
天文学部の皆も部長さんの言葉にそれならと賛成してでした、実際にすぐにてるてる坊主を作って部室の窓のところにかけました。それから。
学校の近くのお寺と神社にもそれぞれお参りしてそのうえで夜に学校に戻ってでした。
天体観測をしようと学校の校舎の一つの屋上に天体観測の道具を持って集まりました、ですが天気予報とは違って。
今夜も曇りでした、それで天文学部の皆は心からがっかりしました。
「今夜は晴れだって聞いていたのに」
「天気予報だとそうだったのに」
「てるてる坊主もかけて」
「神様にも仏様にもお願いしたのに」
それでもというのでした。
「また曇りで」
「それでまた星空を見られないなんて」
「残念だな」
「これは」
「仕方ない、今日も諦めようか」
部長さんは心から残念に思いつつ部員の人達に言いました。
「曇りだから」
「それならですね」
「もう仕方ないですね」
「雲があるなら」
「全く、何時になったら夜だけでも晴れてくれるのかな」
部長さんは他の部員の人達よりも肩を落としてでした。
そのうえで部員の人達に帰ろうと言おうとしました、ですがここで。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「!?この笑い声は」
「まさか」
「ひょっとして」
皆突如として聞こえてきた笑い声を聞いてでした。
その声がした方を見ました、そこは学校の別の校舎の屋上でしたが。
黄金バットがいました、黄金バットは両手を自分の腰の左右にそれぞれ置いて胸を張っています。そしてその場で高らかに笑っていました。
そのうえで、です。夜空に向けてです。
ステッキを出して右手に持って夜空を覆う雲の方に高々と向けました、するとステッキの先の宝石のところからです。
眩い虹色の光が放たれて雲を撃ちました、すると。
これまで夜空を覆っていた雲が奇麗に消えました、その先には晴れ渡った夜空つまり星空がありました。その星空を見てでした。
天文学部の人達は大喜びでした、そしてです。
すぐに望遠鏡に集まりました、そのうえで久し振りの夜空と星達を見ようとしました、ですがここででした。
皆夜空を晴れやかにしてくれた黄金バットにお礼を言おうと彼の方を見ました、そして皆で有り難うと言おうとしましたが。
黄金バットは皆を右手で無言で制しました、そのうえで右手で夜空を指し示しました。すると皆黄金バットが何を言いたいのかわかりました。
「お礼はいいから」
「夜空を楽しめ」
「そうしろっていうんだ」
黄金バットは彼等の言葉に今度は無言で頷きました、そしてです。
何処かへとマントをたなびかせて飛び去っていきました、もう後には誰もいませんでした。
天文学部の人達は黄金バットがいなくなったその校舎の屋上を暫く呆然と見ていました、ですが部長さんが皆に言いました。
「折角黄金バットが夜空を明るくしてくれたんだ」
「それならですね」
「僕達はですね」
「黄金バットのその好意を受けて」
そうしてというのです。
「久し振りに夜空を見よう」
「そうですね」
「そうしましょう」
「その為にここに皆で来ましたし」
「黄金バットも晴れやかにしてくれたんですから」
部員の皆も言いました。
「ここはそうしましょう」
「久し振りの夜空ですし」
「それなら」
「心ゆくまで楽しもう」
部長は皆にまた言いました、そうしてでした。
夜空を晴れやかにしてくれた黄金バットに心から感謝しつつ夜空を見ました、久し振りに見る夜空はとても奇麗で星空が大好きな彼等を心から楽しませてくれました。
黄金バット 第三十一話 完
2019・11・3