『黄金バット』




           第二十二話  黒バット日本アルプスの死闘

 日本アルプスと呼ばれる場所は冬になると雪がとても高く積もり登山をするには非常に厳しくなります。
 そんな場所ですがその冬でもよく登山する人がいます、ですが今年は違っていました。
 何と日本アルプスに黒バットが出て来てです、その超能力を使って気候を荒らして吹雪をひっきりなしに起こしているのです。その為日本アルプスに登山をする人はいなくなりそれどころかでした。
 冬はスキー客で賑わうスキー場もでした。
 雪があるどころか吹雪が止まないのでお客さんどころではありませんでした、それでスキー場の人達は困っていました。
「雪があるのはいいけれどこれはないよ」
「こんな吹雪でスキーが出来るか」
「多少の風があってもこれはないよ」
「殆ど台風じゃないか」
「こんな状況では誰も来ないよ」
「折角スキーシーズンに入ろうとしているのに」
「黒バットがずっといて吹雪を起こしていたらな」
「もうスキーなんて誰も出来ないよ」
「俺達は商売あがったりだよ」
 こう言ってぼやいていました、黒バットの起こす吹雪のせいで日本アルプスにあるスキー場の人が困っていたのです。
 このことに長野県の知事さんも困っていました、何しろ冬のスキーは日本アルプスが面している長野県の人達にとってはとても大事な産業だからです。
 それで黒バットを何とかしようとです、知事さんは必死になって考えて会議室で県のお役人の偉い人達に言いました。
「やっぱり黒バットを何とかしないと駄目だ」
「はい、全くです」
「それしかありません」
「黒バットがいる限り吹雪は止みません」
「それならです」
「黒バットをどうにかするしかありません」
 お役人さん達も知事さんと同じ考えでした。
 ですがそれでもです、ただでさえ寒い冬の日本アルプスで黒バットが吹雪を起こしているのです。これではです。
 並大抵なことでは山に入ることが出来ません、それではどうしたらいいのか迷うのも道理でした。それで、です。
 知事さんもお役人さん達も困ってしまいました、ですが知事さんは必死に考え続けてそうして言いました。
「よし、ここはだ」
「ここは?」
「ここはといいますと」
「自衛隊の人達に頼もうか」
 日本を守っているこの人達にというのです。
「そうしようか」
「黒バットをやっつけてもらいますか」
「あの人達に」
「そうしてもらいますか」
「今の日本アルプスに入って動けるとすれば」 
 まさにというのです。
「佐々成政さんか自衛隊の人達しかいないんじゃないか」
「確かに」
「若し出来るとすれば」
「佐々成政さんか自衛隊の人達ですね」
「ですがあの吹雪では」
「それはわかっているよ、若しもだよ」
 知事さんはまるで自分が行く様な、とても険しいお顔で言うのでした。
「自衛隊の人達が行けないそして黒バットを倒せないならね」
「その時はですね」
「最早」
「うん、諦めるしかない。いや」
 知事さんは必死のお顔でこうも言いました。
「私が行く」
「知事が」
「そうされますか」
「これでも害獣許可は貰っているんだ」
 銃を持てるならというのです。
「それならだと」
「知事ご自身がですか」
「行かれますか」
「一人でも行ってそしてね」
 例え自衛隊の人達が無理でもというのです。
「黒バットを倒してくるよ」
「確かに知事はスキーがお好きですし」
「この長野で生まれ育ってこられていますし」
「冬の登山の経験も豊富です」
「長野の山のこともよくご存知です」
「ですが」
 あまりにも危険だとです、お役人さん達は知事さん達を止めようとしますが知事さんは本気でした。県政を任された者として。
 そうした強い決意の中自衛隊の人達に黒バットをやっつける為の要請が届きました、するとすぐに自衛隊は動いてくれました。
 日本アルプスに山仕事と狙撃が得意な人達が部隊で送られて戦闘機やヘリの出動も準備されました、そうしてです。
 黒バットをやっつけに行きましたがあまりもの吹雪の前にです。
 ヘリも戦闘機も流石に黒バットまで届けません、それで言うのでした。
「この悪天候だと」
「進むのがやっとだ」
「黒バットまで辿り着けても」
「狙いを定められるかどうか」
 自衛隊の兵器と操縦するパイロットの人達はとても優秀で黒バットが出している吹雪でも何とか前に進むことが出来ます、ですが。
 それでもです、肝心の黒バットは発見しました。日本アルプスの中央部にその姿がありました。ですが。
 吹雪の中ミサイルや機関砲で攻撃を加え様にもです。
 黒バットの周りは吹雪がとりわけ激しく吹き荒れていてとても近寄れたものではありません、それでなのでした。
 とても照準を定められません、幾ら自衛隊の人達でも攻撃射程に入るのがやっとです、そしてそれはです。 
 険しい吹雪の日本アルプスを進んできた狙撃部隊の人もです、何とか黒バットを照準に入れる距離まで辿り着いたのですが。
 そこからはです、とてもでした。
 あまりにも激しい吹雪に撃つことが出来ません、銃はよく手入れして大切に包んで運んできたので使えるのですが。
「これでは撃てるか」
「吹雪から銃を守れても」
「黒バットに当たるかどうか」
「全くわからないぞ」
 こうした状況でした、ですが自衛隊の人達も知事さんの命懸けのいざとなればご自身が行くという決意を知っていたので。
 何とかしようと攻撃に入ることを決意しました、正確に攻撃を当てることはかなり難しかったですがそれでもでした。
 黒バットに攻撃を命中させてやっつけないと倒すことは出来ません、そのことがわかっているので。
 機械に頼らずとも自分達の腕で攻撃を当てようと決意しました、そしてでした。
 攻撃を当てようとするとです、そこでなのでした。
 戦闘機もヘリも狙撃兵の人達も攻撃に入ろうとしたその時に、何処からか高笑いが聞こえてきました。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
 吹雪の凄まじい唸り声すら突き破るその笑い声を聞いて自衛隊の人達はまさかと思いました。
「あの笑い声は!」
「まさか!」
 そう、そのまさかでした。
 黄金バットは吹雪の中にその煌めく姿を現わしていました、そして黒バットの前に両手を腰の横に置いてマントをたなびかせていました。 
 そのうえで、でした。右手を上に掲げるとそこからステッキが出てステッキを輝かせるとでした。
 これまで黒バットの周りでは一際激しく吹き荒れていた吹雪が消えてです、穏やかになりました。自衛隊の人達はそれを見てわかりました。
「そうか、黄金バットは俺達を助けてくれるんだ」
「俺達の攻撃を邪魔している黒バットの吹雪を消してくれた」
「それならだ」
「今だ!」
「攻撃開始!」
 戦闘機からもヘリからも狙撃兵からもでした。
 攻撃が一斉に放たれ黒バットに向かいました、黒バットはその攻撃を受けても生きていました。ですが。
 先程まで吹き荒れていた吹雪が消えてしまっていました、どうやら吹雪を出していた超能力を出せるだけの体力を今の攻撃で失ってしまったみたいです。
 それで黒バットは悔しそうにマントで身体を覆って姿を消しました、するとこれまで吹き荒れていた吹雪が嘘みたいに消えて日本アルプスの空は青空になっていました。
 その時にはもう黄金バットは何処かに消えていました、そうしてなのでした。
 自衛隊の人達も知事さんも長野県の人達もです、黄金バットに感謝しました。
「そうか、黄金バットが助けてくれたんだ」
「自衛隊の人達の攻撃を」
「そうして日本アルプスの吹雪を止めてくれたんだ」 
 このことがよくわかりました。
「今回も黄金バットに助けられたな」
「全くだ」
「黄金バットがいてこそだ」
「今回も助かったんだ」 
 攻撃を成功させた自衛隊の人達も決死の思いで決断し勇気も見せた知事さんも讃えられてでした、何処からか現れて何処かに消えるヒーローのことも讃えられるのでした。黄金の髑髏の姿のそのヒーローを。


黄金バット第二十二話   完


                     2018・5・2








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