『黄金バット』
第十五話 フー=マンチュー博士のUFO
近頃日本の夜をいつも謎の飛行物体が出没しています。東京に出たかと思えば大阪、大阪かと思えば名古屋といった具合にです。
毎夜日本の何処かに出ています、皆このこともえも言われぬ不安を感じていました。
「宇宙人が来るのか?」
「宇宙人が攻めて来るのか?」
「それとも何処かの国の新兵器か」
「だとするとどの国なのかしら」
「日本に攻めて来るのだろうか」
「それともまた怪人の誰かが関わっているのか」
そのことがどうしてもわかりません、自衛官の中で一番偉い昔で言うと元帥になる統合幕僚議長さんも言うのでした。
「UFOにしてもだ」
「はい、何かです」
「不気味ですね」
「何時何をしてくるのか」
「それがわからないのですから」
議長さんの前に集まっている陸空海三つの自衛隊の偉い人達も困惑しています。
「怖いものです」
「どうすべきでしょうか」
「領空侵犯ですので警戒任務を続けていますが」
「毎夜何処に出るかわかりません」
「それが余計に怖いです」
「そうだ、そのことだ」
まさにとです、議長さんも言います。ご自身の席に座って自衛隊の偉い人達が前に立っている中で難しいお顔をしています。
「一体何なのか」
「噂の一つですが」
陸上自衛隊の幕僚長の人が言いました。
「宇宙人という」
「有り得るな」
議長さんも否定しませんでした。
「それも」
「統幕議長もそう言われますか」
「これまでUFOの目撃例は多い」
「世界的にですね」
「だからだ」
「宇宙人のものであっても」
「否定出来ない、しかしだ」
ここでこうも言った議長さんでした。
「他国からとなると」
「そのケースはですね」
「まずない」
「そうだというのですね」
「あれだけのものを開発、製造、運用出来る国なぞだ」
それこそというのです。
「今の地球にあるかどうか」
「そうですね」
「思われますか、統幕議長は」
「そうなのですか」
「そうだ、あるとすればだ」
それはといいますと。
「宇宙人か若しくは」
「怪人、ですか」
「彼等のうちの誰かのもの」
「そうだというのですね」
「誰のものであるかだ」
問題は、というのです。
「ナゾー博士か黒バット、メンインブラック、そしてフー=マンチュー博士」
「黒バットは直接暴れますし」
「メンインブラックは機械は使いません」
「だとすればナゾー博士かフー=マンチュー博士」
「どちらかですね」
「そうだな、どちらでもおかしくないが」
それでもというのです。
「ナゾー博士ならすぐに姿を現し攻撃を予告することが多い」
「ではフー=マンチュー博士ですか」
「あの博士の可能性が高いですか」
「あのUFOが宇宙人の手ではないのなら」
「左様ですか」
「そうではないか、どちらにしろ怪人なら大変だ」
破壊することに無常の喜びを感じている彼等の場合はというのです。
「だからだ」
「はい、すぐにですね」
「手を打ちましょう」
「あのUFOが何かをしようとすれば」
「その場で」
「総理に申し上げる、日本全土に厳戒態勢を敷いて欲しいと」
謎のUFOに対する為にです。
「そうしよう」
「はい、それでは」
「すぐにそうしましょう」
「どの怪人でも大変ですから」
「総理に即座に申し上げましょう」
こうしてです、自衛隊はすぐに内閣総理大臣に厳戒態勢を敷く様にお願いしてでした。そうしてでした。
三つの自衛隊は全てです、日本全土でUFOに対する厳戒態勢を敷きました。そのうえで夜を待つのでした。
北海道でも同じです、函館の海で護衛艦が展開していて夜空には戦闘機が飛んでいます。陸地にも部隊が展開しています。
そうしつつです、自衛隊の人達はUFOが出て来るのを待っていました。皆国民の人達と街、そして日本そのものを守る為に完璧な守りを整えています。
陸上自衛隊の若い兵士の人がです、二曹の上官さんに尋ねました。
「ここに出て来るでしょうか」
「どうだろうな」
二曹さんは兵隊さんに首を少し傾げさせて応えました。
「ここに出て来ない可能性も高い」
「別のところにですね」
「出るかも知れないしだ」
「北海道自体にですね」
「出ないかも知れない」
その場合もあるというのです。
「それはわからない」
「どうも予測がつきにくいんですね」
「だから日本全土に厳戒態勢を敷いたんだ」
「宇宙人や怪人だったら大変なので」
「そうだ、まさに鬼が出るか蛇が出るかだな」
こうも言った二曹さんでした。
「今は」
「そういうことですか」
「怪人だったら厄介だ」
「ですね、あいつ等だと」
「そうじゃないことを祈る」
「正直宇宙人より厄介でしょうね」
「あいつ等はな」
そうしたお話をしていました、そしてです。
函館でも三つの自衛隊の人達がいざという時はと備えていました、そしてその人達に前にいきなりでした。
とんでもない報告が入ってきました、何とです。
「えっ、函館の繁華街でですか!?」
「フー=マンチュー博士を目撃した!?」
「その情報が入ったんですか」
「そうだ、部隊をすぐに繁華街に移動させるのだ」
統幕議長さんは自ら函館まで電話をかけて言うのでした。
「UFOと関係している可能性が高い」
「だからですね」
「博士を何とかして抑える」
「身柄を拘束しますか」
「それが不可能ならばだ」
その場合もです、議長さんは言いました。
「相手が相手だ」
「攻撃もですね」
「止むを得ないですね」
「攻撃を許可する」
議長さんははっきりと言いました。
「わかったな」
「了解です」
現場の最高責任者である一等陸佐の人が答えました、見れば三つの自衛隊の人達が司令部に集まっています。
「その様に」
「責任は私が取る」
議長さんは強い声でこうも言いました。
「だからだ」
「容赦なくですか」
「非常時においては」
「攻撃もですね」
「するのだ」
議長さんも博士がどれだけ危険な相手かわかっています、それでこうした命令を出したのです。そしてです。
自衛隊の人達は函館の繁華街に出没した博士をすぐに完全に包囲しました、そのうえでそこにいる全員で銃を突きつけつつ言うのでした。
「博士、投降しろ」
「既に包囲されているぞ」
「大人しくしろ」
「若し少しでも抵抗すれば攻撃する」
こう口々に言います、ですが。
博士は自衛官の人達にです、不遜な態度で言うのでした。
「安心しろ、私は今はだ」
「今は?」
「今はというと」
「諸君等に攻撃しない、私自身はな」
こう言うのでした。
「今回はだ」
「博士自身はというと」
「まさか」
「あのUFOは」
「やはり」
「そうだ、私が造ったものだ」
博士は今そのことを明らかにしました。
「正確に言うとあれはUFOではない」
「何っ、UFOじゃない!?」
「違うのか!?」
「UFOじゃないというと」
「では何なのだ?」
「あれは」
「UFOはナゾー博士の分野、私はナゾー博士とはまた違う」
こう言うのでした。
「あれは私の妖術で生み出した全てを破壊する雷を集めたものだ」
「まさかその雷を」
「この函館に落とすのか?」
「そうしてくるのか?」
「その通りだ、これまでは諸君があの雷の塊を観て驚くのを楽しんでいたが」
にこりともせず言うのでした。
「それもここまでだ」
「くっ、今からその雷を落とすつもりか」
「あんな大きな雷を落とされると大変だぞ」
「一体どうなる」
「この函館は滅茶苦茶になるぞ」
「その通りだ、雷の球は直径二キロだ」
それだけの大きさだというのです。
「その規模の雷が落ちればどうなる」
「核兵器と変わらないぞ」
「いや、それ以上か」
「それだけの雷が落ちれば」
「そうなってしまうと」
「諸君等で防げるものではない」
やはりです、博士はにこりともせずに言います。
「死にたくなければ今のうちに逃げるのだな」
「市民を避難させろ!」
議長さんは報告を受けてすぐに東京から指示を出しました。
「総理も許可して下さった!それだけの大きさの雷はどうしようもない!」
「わかりました!」
現場の自衛官の人達もすぐに応えました。
「ではすぐに!」
「市街の外までだ!」
「誘導をはじめろ!」
「すぐにかかれ!」
市街地に傲然といたまま立っている博士に警戒態勢を敷いたままで、です。自衛隊の人達は市民の人達を避難させる為に動きはじめました。その函館の夜空の上にです。
博士のUFO、妖術で造られた巨大な雷の球が落ちてきました。皆それを観て言いました。
「駄目だ、間に合わない!」
「何て大きさだ!」
「凄い速さで落ちて来るぞ!」
「もう駄目だ!」
函館の人達も自衛官の人達も叫びます、どんな避雷針でも意味がないまでの巨大さです。その巨大な雷がです。
まさにです、落ちようとした時にでした。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「くっ、その声は!」
博士は夜の函館のビルの屋上から聞こえた高笑いに顔を顰めさせました。笑い声が聞こえてきたその方に顔を向けて。
「出て来たか」
「この笑い声は」
「間違いない」
「ここで来てくれたんだ」
函館の人達、自衛隊の人達は博士と逆でした。まさかというお顔になっています。
「黄金バット!」
「黄金バットが来てくれたんだ!」
「ここで!」
高笑いがしたビルの方を見るとです、確かにでした。
マントをたなびかせ両手を腰に置いた黄金バットがいました、誰もが黄金バットのその勇姿を観て言いました。
「来てくれたぞ!」
「黄金バットが来てくれたぞ!」
「助けに来てくれたぞ!」
皆口々に管制を揚げます、そしてです。
黄金バットは迫る雷にでした、右手に出した杖を放り投げました。すると。
凄まじい衝撃音がしてでした、落下していた雷の動きが止まり。瞬く間に消えていってしまいました。
その光景を観てです、自衛隊の人達は言いました。
「雷を吸収したか」
「そうしたのか」
「杖でそうしたのか」
「あの巨大な杖を」
「まさかそうしてくるとはな」
博士も雷が消えた方を観て言うのでした、とても忌々しげに。
「杖で雷を全て吸収するとは」
「やはりそうしたのか」
「流石は黄金バットだ」
「凄い力だ」
「全くだ」
「私の負けだ」
博士も認めるしかありませんでした、実際に雷は消えてしまったので。
「今回は勝利を譲る、しかし次はこうはいかないぞ」
「?待て、何処に行くつもりだ」
「逃げるつもりか」
「敗者は去るものだ」
博士は今も自分に銃を向けている自衛官の人達に言いました。
「諸君等に捕まる私ではない!」
「くっ、捕まえろ!」
「いや、撃て!」
誰もがトリガーに指をかけようとしたその時にです。
博士は煙の様に消えてしまいました、誰もがそれを見て歯噛みしました。
「くっ、逃げられたか」
「またしても」
「怪人は本当に逃げ足が早いな」
「逃げ足もな」
「伊達に怪人じゃないということか」
「博士もな」
「怪人ということか」
博士に逃げられたことが残念で仕方ありませんでした、世を乱す怪人の一人を捕まえるか成敗することが出来ず。
ですがそれでもです、皆はこうも思うのでした。
「けれどだ」
「何とか助かった」
「雷は函館に落ちなかった」
「いや、大惨事にならなかった」
「皆助かった」
「本当によかった」
「何よりだ」
このことは素直に喜ぶのでした。
「黄金バットのお陰だ」
「黄金バットに助けられた」
「本当にな」
「何よりだ」
このことはというのです。
「いや、本当にだ」
「黄金バットにはいつも助けられてばかりだな」
「有り難う黄金バット」
「今回も助けてくれて」
皆黄金バットに顔を向けて声援を送ります、ですが。
黄金バットは皆に何も言わずその手に落ちてきた杖、雷を打ち消したそれを取ってです。そのうえで。
夜の空に飛び上がって姿を消しました、何も言わず。
その報告を聞いてです、議長さんは胸を撫で下ろして言うのでした。
「今回もどうなるかと思ったが」
「はい、黄金バットにですね」
「助けてもらいましたね」
「そうなりましたね」
「我々で何とかしたかったが」
問題を解決したかったというのです。
「どうしてもな、しかしだ」
「はい、函館が救われた」
「そのことは事実ですから」
「よかったですね」
「そのことは」
「全くだ、人も街も助かった」
このことはというのです。
「最もよかった、黄金バットに感謝しよう」
「そうですね、本当に」
「そのことは何よりです」
「無事に問題が解決して」
「よかったです」
「黄金バットに感謝する」
議長さんはあらためて言いました。
「私からもね」
「自衛隊としてもですね」
「本当に」
「このことを黄金バットにも言おう」
何時何処にいるかわかりませんがそれでもでした。
議長さんは自衛隊を代表して黄金バットに今回のことを心から感謝するとの言葉を発表しました、今回も皆を助けてくれた黄金バットに。彼から何の返事がなくとも。
第十五話 完
2016・12・12
今回は博士の襲撃。
美姫 「雷を吸収って凄いわね」
だな。流石にそれをされると撤退するしかないか。
美姫 「今回もまたバットの活躍で街が救われたわね」
良かった、良かった。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ではでは。