『黄金バット』




             第十話  南海の死闘

 近頃フー=マンチュー博士について怪しい噂が流れています。
「南の方の海でか」
「不気味な軍艦を操って」
「そしてそこを通る船を待ち受けている」
「沈めようと」
 そうした噂が出ていました、それでです。
 海上自衛隊でも海上保安庁でもこのことがかなり真剣に調べられていました、そして海上幕僚長つまえり海上自衛隊で一番偉い人が部下の人達に一枚の写真を見せてもらいました。
 それが宇宙から人工衛星で撮影したものです、海の上にです。
 とんでもなく大きな、しかも巨大な大砲やミサイルランチャー、魚雷発射口等を搭載した戦艦が映っています。
 その戦艦を観てです、幕僚長は唸って言いました。
「この戦艦がか」
「はい、間違いなくです」
 写真を出した部下の人も言います。
「フー=マンチェー博士が造った」
「巨大戦艦か」
「その噂の軍艦です」
「大きいな」
「五百メートルはありますね」
「こんな大きい軍艦は他にない」
「大砲もです」
 そちらの大きさもです。
「大和のものよりも大型ですね」
「大和は十八インチだった」
 四十六センチです。
「しかしこの戦艦の大砲はだ」
「二十四インチはありますね」
「しかもミサイルも魚雷も搭載している」
「大量に」
 物凄い数のランチャーや魚雷まで搭載されています。
「どうして動かしていることはわからないが」
「こんな戦艦で暴れられたら」
「大変なことになる」
「ではここは」
「海上保安庁に連絡してだ」
 そしてというのです。
「協同してこの戦艦を撃沈しよう」
「では」
「すぐに作戦準備にかかろう」
 幕僚長はこう言ってでした、防衛大臣にもお話してそこから総理にもお話をしてでした。そのうえで、です。
 博士が動かす巨大戦艦を沈めようということになりました、そして。
 海上自衛隊と海上保安庁の艦隊が集結してでした、巨大戦艦が出るという南の海沖縄の北の方の海に向かいました。
 その海を進みながらです、自衛隊のある護衛艦に乗っている自衛官の若林三層が上司の戸高一曹に艦内で尋ねました。
「一つ気になってることがあるんですが」
「何だ?」
「これからフー=マンチェー博士の戦艦を沈めに行きますよね」
「ああ、まだ被害が出ないうちにな」
「そう、被害出ていないんですよね」
「まだな」
「それで最初は噂で」
 三曹は配置に着いている中で一曹にお話します。
「人工衛星から観ているってはっきりしましたね」
「そうだったな」
「最初に噂流したの誰でしょうか」
「ああ、それはな」
「それは?」
「多分本人だな」
 一曹はこう三曹に答えました。
「フー=マンチェー博士だな」
「あの博士本人ですか」
「ああ、あの博士自身がな」
「噂を流したんですね」
「ネットなり何なりでな」
「そうなんですね」
「ああした奴は目立ちたがり屋だろ」
 フー=マンチェー博士に限らず他の怪人達もというのです。
「何かを起こすだけじゃなくてな」
「その起こすことを拡める」
「むしろその悪事が世に知られることがな」
「ああした連中の望みですか」
「だからな」
 それでというのです。
「博士自身がだ」
「ネットとかで、ですね」
「拡散しているんだ」
「じゃあ俺達がここに来るのは」
「あえてだろうな」
「海自や保安庁さんの艦隊を呼び寄せて」
「戦いたいんだよ」 
 一曹は鋭い目で言います、自衛艦はどんどん先に進んでいっています。二人がお話をしているその中でもです。
「あえてな」
「博士の策略ですか」
「乗ってるか、けれどな」
「放ってはおけないですね」
「実際あの戦艦がいる場所に船が通るとな」
「攻撃されますね」
「博士はそうしたことをしますね」
「それが怪人なんだよ」 
 やられたことを実際にやることがです。
「言ったことは本当にやる」
「そうですね、ナゾー博士もメンインブラックも」
「黒バットは言わないがな」
 この怪人はいきなり出て来て暴れようとします。
「そういう奴ばかりだろ」
「はい、言われてみれば」
「だから誘い出されてるにしてもな」
「やっつけるしかないんですね」
「ああ、絶対にな」
「わかりました、それじゃあ」
「行くぞ」
 そして博士が乗る戦艦を沈めようというのです、海の平和の為に。
 巨大戦艦が映った海域に来るとです、そこにでした。
 あの巨大戦艦がいました、そして。
 艦首の一番先の部分にです、あの博士が立っていました。
「フー=マンチェー博士か」
「やっぱりいるな」
「堂々と立っているぞ」
「俺達を待ち受けていた様に」
 自衛官の人達も保安庁の人達もその博士を見て言います。
「来たな」
「そうだな」
「あの博士が」
「それじゃあな」
「あの博士とな」
「勝負だ」
「いよいよ」
「諸君、よく来てくれた」
 その博士も言ってきました、マイクも拡声器も何も使っていないのにです。博士の声は皆の耳に入りました。
「私は君達を待っていた」
「博士、すぐに投降しなさい」
 自衛艦隊の司令が放送で博士に告げました、既に自衛艦隊と保安庁の艦隊は陣を組んで博士の巨大戦艦と対峙しています。
「我が国の領海での勝手な行動は許されない」
「そんな言葉は聞くつもりはない」
 全く、という返事でした。
「私は悪事を働きたいのだからな」
「この海域を通る船舶を攻撃するつもりか」
「如何にも」
「そんなことは許されない」
 はっきりとです、司令は返事を返しました。
「若し素直に投降しないのならばだ」
「戦うつもりか」
「実力を行使する」
「望むところだ」
 博士は悠然とです、艦首に立ったまま言いました。
「では来るがいい」
「全艦攻撃開始」
 司令は毅然とした声で命令を下しました。
「あの艦を沈めるのだ」
「了解!」 
 自衛官の人達も保安庁の人達もでした、司令の言葉に応えて。
 ミサイルを放ち砲弾を撃ってです、魚雷を発射しました。ですが。
 その全てをです、巨大戦艦は。
 バリアーを出して防いでしまいました、それを見てです。
 若林三曹はびっくりしてです、戸高一曹に言いました。
「そんな、バリアーなんて」
「いや、あの博士だ」
「バリアー位はですか」
「普通にだ」 
 それこそというのです。
「開発出来る」
「言われてみればあの博士なら」
「それ位のものはだな」
「開発出来るな」
「はい」
 こう一曹の言葉に頷きます。
「あの博士は天才ですから」
「そうだ、天才なんだぞ」
「悪事も含めて」
「だからバリアー位はだ」
「忌々しいですね」
「これ位は怪人なら普通のことだ」
 それこそというのです、そして。
 博士の巨大戦艦は自衛艦隊と保安庁の艦隊にです、何とです。
 主砲からです、とんでもないものを出してきました。
 それはレーザービームでした、ビームは一直線にです。艦隊のすぐ前の海に突き刺さりました。どの艦にも命中しませんでしたが。
 そのビームを見てです、司令も真っ青になりました。
「レーザービームか」
「恐ろしい武器を持っていますね」
「全くだ」
「今のは外れましたが」
「いや、わざと外した」
 司令は傍にいる幕僚の人に言いました。
「力を誇示する為にな」
「見たか、レーザーを」
 博士もこう言ってきました。
「今のは見せただけだ」
「そうか、やはりな」
「次は外さない」
 博士は宣言しました。
「総攻撃を仕掛ける」
 こう言ってでした、実際にです。
 巨大戦艦が動きました、数えきれないだけのミサイルと魚雷を発射してです。
 主砲の昇順を定めてきました、そのミサイルと魚雷を見てです。
 幕僚の人も真っ青になってです、司令に言いました。
「ミサイルと魚雷の数が多過ぎて」
「防ぎきれないか」
「はい」 
 こう司令に言うのでした。
「イージス艦全艦を使っても」
「魚雷もな」
「多過ぎます、全力で防いでも」
 全艦で全力を尽くしてもです。
「この攻撃を受ければ」
「艦隊は全滅か」
「はい、間違いなく」
「まずいな」
「司令、どうしましょう」
「覚悟を決めるしかないのか」
 司令は歯噛みしました、誰もが空を埋め尽くさんばかりのミサイルと海の中を覆っている魚雷に覚悟を決めました。
 しかしです、ここで。
「ハハハハハハハハハハハハハハ!」
「この笑い声は!」
「まさか!」
 見ればです、艦隊の旗艦の艦橋の一番上にです。
 黄金バットがいました、マントをたなびかせ両手を腰に置いて立っています。
 そしてです、博士のいる戦艦に向かって颯爽と飛ぶと。
 どういうことでしょう、黄金バットが通った後にです。
 ミサイルや魚雷が全てです、勝手に爆発しました。
「爆発したぞ」
「ミサイルや魚雷が」
「全てだ」
「これはどういうことなんだ」
「超能力だ」
 司令がまた言いました。
「黄金バットの超能力だ」
「いつものですか」
「それを使ってですか」
「ミサイルも魚雷も破壊した」
「そうなんですね」
「そうだ、そしてだ」
 司令は一直線に進む黄金バットを見つつ言います。
「黄金バットを見るのだ」
「何と、そのまま」
「そうだ、敵艦に向かっている」
「ではあのまま」
「博士との戦いに入るな」
「間違いなく」
「黄金バットをこのままにしていいのか」
 司令は幕僚の人だけでなくです、艦隊の全ての人に問いました。
「彼だけを戦わせていいのか」
「いえ、違います」
「そんなことがあっていい筈がありません」 
 皆口々に司令に応えました。
「我々は国民を守る為にいます」
「災害、そしてならず者達から」
「怪人からもです」
「それならば」
「そうだ、皆黄金バットに続け」
 こう全員に言うのでした。
「いいな」
「了解!」
 皆司令の言葉に応えました、そして。
 全艦黄金バットに続いて前進しました、そのうえで再び巨大戦艦への攻撃態勢に入りました。そして黄金バットは。
 ステッキをサーベルの様にして使い博士と戦います、博士は拳法で迎え撃ち黄金バットと艦首で戦います。
 両雄の戦いは何時しか空中で行われる様になりました、その中で。
 艦隊は激しく攻撃してでした、遂に。
 巨大戦艦にミサイル、砲弾、魚雷を当てていきます。バリアーは博士が動かしているのが今回は機能しないで。
 戦艦に次々と命中していきます、戦艦はとても強くて中々沈みませんが。
 やがてです、火を噴きだして。
 そこからどんどん爆発してでした、粘り強く攻撃が続けられ。
 戦艦はゆっくりと傾き海の中に沈みました、激しい火柱を幾つも挙げながら。
 それを見てです、三曹は一曹に言いました。
「やりましたね」
「ああ、危ないところだったがな」
「沈めることが出来ましたね」
「それも損害なしだ」
「どうやらだ」
 ここで一曹は言います。
「あの戦艦は博士が動かしていたな」
「だからですね」
「そうだ、博士が黄金バットとの戦いに入ったからな」
「動かすことが出来なくなったんですね」
「そしてだ」
「その動けなくなった戦艦をですね」
「俺達が沈めたんだ」
 そうしたというのです。82
「今な」
「そういうことですね」
「黄金バットに助けられたな」
「はい、今回も」
「本当によかった」
 しみじみとしてです、一曹は言いました。
「黄金バットのお陰だ」
「その通りですね」
「くっ、失敗したか」
 空中で、です。自分が動かしていた戦艦が沈むのを見てです。博士は忌々しげに言いました。
「私が脳波で一人で操っていたが黄金バットと戦ったせいで」
「・・・・・・・・・」
 黄金バットは何も言いません、ですが博士はその黄金バットを見て言います。
「動かすことが出来なかったせいでか。沈められた」
「さあ博士、戦艦は我々が沈めた」
 司令はまた博士に言いました。
「投降するか、それとも」
「私の辞書に投降という言葉はない」
 博士は毅然としてです、司令に返しました。
「敗北はあろうが投降という言葉はない」
「ではどうする」
「また会おう」
 これが博士の返事でした。
「黄金バット、今度こそは貴様に勝つ」
 こう言ってです、そのうえで。
 博士は煙の様に姿を消しました、博士が消えた後で。
 自衛隊の人達も保安庁の人達もです、黄金バットに口々に感謝の言葉を贈りました。
「有り難う!」
「有り難う黄金バット!」
「今回も助けてもらったな!」
「よくやってくれた!」
 しかしです、黄金バットは。
 彼等に誇ることはなくでした。そのうえで。
 何処かに飛んで去っていきました、その黄金バットを見てです。
 自衛官の人達も保安庁の人達もです、こう言いました。
「流石だな」
「流石黄金バットだ」
「誇らず無言で去った」
「そうしたんだな」
「流石はヒーローだ」
「正義の怪人だ」
 こう口々に言うのでした。
「素晴らしい」
「我々もああなりたいな」
「救っても奢らず」
「あの様に」
「全くだ」
 司令も言うのでした。
「我々も黄金バットの様にならねばな」
「その通りですね」
「我々も見習いましょう」
「黄金バットを」
「そうしよう、では沈んだ戦艦の状況と博士がまだこの海域にいるか調べてだ」
 そしてというのです。
「異常がなければ帰投だ」
「了解です」
 こうしてでした、そうした状況を調べて。
 艦隊は戦場を後にしました、三曹は海を見つつ一曹に言いました。
「無事解決しましたね」
「ああ、平和が守られたな」
「黄金バットによって」
「黄金バットが助けてくれたからな」
 それでとです、一曹も言います。
「損害もなく戦艦を沈められたな」
「そうですね、ただフー=マンチェー博士がいて」
「他の怪人達もいる」
「平和はこれからも守らないといけませんね」
「そうだ、若し黄金バットがいなくてもな」
「俺達は頑張らないといけないですね」
「そうだ、そのことはいいな」
 こう三曹に言うのでした。
「自衛官としてな」
「わかってます、この海に誓いますよ」 
 三曹は一曹に笑顔で応えました、そのマリンブルーの海を見ながら。
「俺達は俺達だけでも」
「ああ、平和を守ろうな」
「そうしましょう」
 このことを誓うのでした、そして。
 黄金バットはその彼等を何処からか見ながらです、安心した様子で悠然として次に行くべき場所に飛んで行くのでした。


第十話   完


                        2016・3・12



今度はフー=マンチェー博士が登場。
美姫 「今回は戦艦だったわね」
だな。海上での戦闘だったから、艦隊も出撃。
美姫 「バリアにレーザーと艦隊は手が出せない状況になったけれど」
現れた黄金バットのお蔭で何とかなったな。
美姫 「今回も楽しませてもらいました」
ではでは。



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