『黄金バット』
第九話 黒い男の影達
近頃メンインブラックについて彼は本当に一人だけなのかという話が出ています。
「この前二人いたな」
「いや、二人どころじゃないぞ」
「三人いたぞ」
「四人だよ」
「五人じゃないのか?」
「同じ場所に六人いたの見たよ」
誰もがそれぞれ言うのでした。
メンインブラックは一人の筈です、ですが。
同じ場所に何人もいたり同時に違う場所に出たりするのです。それで。
日本中でそれはどうしてかとお話がされていました。
「分身?」
「いや、実は最初から何人もいたんじゃ」
「それで何人もいて悪事を働いていたんじゃないのか?」
実際にメンインブラックは何人もいて同時に悪事を働いています、だから余計に皆困っているのです。そして。
神谷さんもです、自分の事務所にそのメンインブラックのことで相談に来た警部に首を傾げさせながら言うのでした。
「僕もです」
「今のメンインブラックについてはだね」
「どういうことなんでしょうか」
首を傾げさせつつ言うのでした。
「本当にわからないです」
「やっぱりそうか」
「はい、とても」
全くという返事でした。
「前から何人もいたんでしょうか」
「そう言う人もいるな」
「はい、それか分身か」
「分身の術だな」
「メンインブラックも人間じゃないです」
このことから言う神谷さんでした。
「普通の」
「魔人だね」
「怪人と言うかも知れませんね」
「とにかく普通の人間じゃない」
「そのことは確かですね」
「だからね」
「はい、何があってもです」
それこそというのです。
「不思議じゃありません」
「その通りだね」
「はい、ですから」
「分身でも実は何人もいても」
「不思議じゃないですから」
だからというのです。
「どうして今彼が何人もいるのかわかりません」
「不思議なことに」
「全くだよ、ただ」
「ただ?」
「彼の悪事は止めないとね」
そこは絶対にというのです。
「何としても」
「はい、只でさえ面倒な奴なのに」
「今は同時に何人も出ているからね」
「そこは何とかしないと」
「神出鬼没の奴が複数の場所に同時に出て来るんだ」
「こんな厄介なことはないですね」
「全く以て最悪だよ」
今の事態はというのです。
「本当にね」
「どうしたものか」
「警察も動いてはいるんだ」
今暴れているメンインブラックに対してです、ですが本当に怪人が一度に何人も出て来るから困っているのです。
「それでもね」
「何人もいると」
「どうしようもない」
「僕も申し訳ないですが」
折角相談に来てくれたのにとです、神谷さんは警部に申し訳なく言うのでした。
「どうしてもです」
「何故何人も出て来るのか」
「わからないです」
「それがどうしてかわかるだけでもね」
「対応出来ますね」
「うん、本当にね」
警部は神谷さんに難しいお顔で返しました。
「それだけで本当に違うのに」
「すいません」
「いや、君が謝ることじゃないよ」
警部は謝罪する神谷さんにそれはいいと返しました。
「別にね」
「そうですか」
「とにかく今は何人も出て来る奴を何とかしないと」
「駄目ですね」
「今は大事を起こしていないけれど」
それでもというのです。
「何とかしないとね」
「駄目ですね」
こうしたことをです、二人でお話していました。そのお話をした次の日にでした。
そのメンインブラックが銀座に表れました、夜の銀座の空に舞って銀座の建物に次々とです。
時限爆弾をセットしていきます、そして言うのでした。
「夜の十二時になれば爆発する、それまでに私を倒せれば爆発はしない」
「さあ、出来るか」
また一人のメンインブラックが空を舞って出て来ました。
「私を倒せるか」
「倒せるものなら倒してみろ」
また一人出て来ました。
「リミットは夜の十二時までだ」
「十二時までに私達を倒してみろ」
「倒せなければ建物達は爆発するぞ」
「倒せないのなら逃げることだ」
「人の命を奪うことはしないぞ」
合わせて七人出て来ました、その彼等が空を舞いつつ下にいる人達に言うのです。
そこには神谷さんと警部もいます、ですが。
その七人のメンインブラックを見上げてです、歯噛みして言うだけでした。
「今度は七人ですね」
「そうだな」
「どうします?七人全員を攻撃しますか?」
「そうするしかないか」
「はい、機関銃か何かを持って来て」
「警察にはそんなものないぞ」
機関銃と聞いてすぐにです、警部は神谷さんに返しました。
「機関銃なんてものは」
「そういえばそうですね」
「自衛隊なら持っているけれど」
「じゃあ自衛隊を呼びますか」
「そうするしかないな」
真剣なお顔で、です。警部m言いました。
「すぐに呼ぶか」
「ヘリから攻撃しますか」
「そうしようか」
「夜の十二時までに」
神谷さんはタイムリミットを言いました。
「あいつを何とかしましょう」
「はい、是非」
「それではな」
警部はすぐにでした、自衛隊にも連絡しようとしました。警察官の皆は今は空中に立っている七人のメンインブラック達に銃を向けていますが。
発砲許可は出ていないので何も出来ません、そんな状況で。
自衛隊とそのヘリまで呼ばれてきました、ですがメンインブラック達は彼等を見ても空中で余裕の笑みを浮かべたままでした。
「機関銃などが私に効くものか」
「そんなものは通用しない」
「無駄なことだ」
「ヘリコプターから攻撃してもだ」
「私を倒すことは出来ない」
「本気で来て欲しいものだな」
「私を倒す気があるのならな」
七人共それぞれ言います、その彼等を見てです。
神谷さんもです、警部に苦い顔で言いました。
「提案しましたけれど」
「それでもだな」
「はい、機関銃やヘリで倒せるかというと」
「一人でもな」
「それ位で倒せる相手じゃないですね」
「瞬間移動もするしな」
「それで弾丸をよけたりしますし」
流石魔人です、そうしたことも出来るのです。
「超能力で、です」
「衝撃波や雷を出してな」
「ヘリも攻撃出来ます」
「一人でもそうなのにな」
「七人です」
だからというのです。
「ヘリを出しても」
「機関銃で下からまとめて撃っても」
「倒せる相手じゃないです」
一人でも、と言う神谷さんでした。
「とても」
「そうか」
「このままですと」
「十二時になればな」
「爆発します」
セットされた爆弾達がです。
「あいつは言ったことは絶対にしますから」
「もう皆避難させてあるからな」
「犠牲者は出ないですね」
「幸いな、しかしな」
「爆発は防がないと」
「駄目だ」
テロを許すな、そういうことです。
「だからあいつを倒したいが」
「それじゃあ」
「十二時までにだ」
そのタイムリミットまでにです。
「奴を倒そう」
「そうしましょう」
絶対にと返した神谷さんでしたが。
それでもです、ヘリと機関銃を持って自衛隊の人達が来てもでした。
何も出来ませんでした、そして。
時間だけが過ぎていくかと思われました、しかし。
突如としてです、銀座の時計台の上からです、あの笑い声が聞こえてきました。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「あの笑い声は!」
「見ろ!」
皆一斉に時計台の方に注目するとです、その上に。
黄金バットがいました、マントをたなびかせ両手を腰の横に置いて立っています。
その黄金バットを見てです、皆喝采をあげました。
「黄金バットが来たぞ!」
「来てくれたぞ!」
「黄金バット頑張れ!」
「皆を助けてくれ!」
黄金バットは応えません、ですが。
彼もまた空を舞いです、そのうえでメンインブラック達に向かうのでした。
その彼を見てです、神谷さんは警部に言いました。
「きっとです」
「黄金バットがだな」
「奴等を倒してくれます」
メンインブラック、今は七人いる彼等をというのです。
「必ず」
「そうだな、黄金バットならな」
「普通の人間は魔人には敵いにくいですが」
「黄金バットならな」
「出来ます」
普通の人よりもというのです。
「ですから」
「ここはだな」
「黄金バットに期待しましょう」
「そしてその期待はだな」
「黄金バットは人を裏切ることはありません」
決してというのです。
「ですから」
「そうだな、ではな」
「まずは見守りましょう」
黄金バットと七人のメンインブラックの戦いをというのです。
「そうしましょう」
「わかった、ではな」
警部は神谷さんの言葉に頷きました、そして。
警官達にです、今は待機を命じました。武器を構えさせたまま。
黄金バットはメンインブラック達の前に来ました、両者は夜の空の中に漂いつつ対峙しています。
七人のメンインブラック達はそれぞれです、黄金バットに言いました。
「今回は負けはしない」
「これまで私は一人だったがな」
「今は違うぞ」
「七人だ」
その七人で言うのでした。
「私は七人いるのだ」
「その七人の私に勝てるか」
「幾ら貴様でもそれは無理だな」
「今度こそ貴様を倒す」
「覚悟することだ」
「そうだ、今あいつは七人いるんだ」
警官の中の一人が言いました、ここで。
「七人もいるからな」
「幾ら黄金バットでもか」
「勝てないか」
周りの同僚の警官達も応えます。
「相手が七人だと」
「流石に」
「一人でも強いっていうのに」
「それが七人だと」
「難しいか」
「勝てないか」
「そうじゃないのか」
こう言うのでした。
「流石にな」
「大丈夫ですよ」
ですがここで神谷さんは不安を感じる警官達に微笑んで言いました。
「黄金バットならです」
「勝てるか?」
「相手が七人でも」
「七人のメンインブラックが相手でも」
「勝てるのか」
「黄金バットが負けることはありません」
絶対にというのです。
「ですから」
「そういえばそうだな」
「黄金バットが負けたことはない」
「例え相手が誰であっても」
「負けることはない」
「それならか」
「はい、そうです」
だからだというのです。
「ですからご安心下さい」
「そうだな、黄金バットだ」
「黄金バットは負けないんだ」
「それならだ」
「俺達も黄金バットを信じよう」
「絶対に勝つ」
「黄金バットならな」
それならと言ってでした、そしてです。
警官達も今は静かにです、黄金バットを見守るのでした。その彼等が見る中で。
黄金バットはです、その手にステッキを出しました。そのステッキはといいますと。
「武器を出してきたか」
「貴様の武器を」
「そしてその武器で戦うのか」
「そのつもりだな」
黄金バットは答えません、ですが。
そのステッキをです、黄金バットはメンインブラック達に向けました。ですがその間合いはかなり離れています。
それで警部もです、下から観ながら首を捻りました。
「今回はどうするつもりだ」
「衝撃波か何かを出すのでしょうか」
「あのステッキからは何でも出る」
「はい」
神谷さんは警部に答えました。
「それこそ」
「それじゃあ何を出すんだ」
「今回は」
「それで何かすることはわかるが」
「それが何かといいますと」
「君もわからないな」
「はい、ですが」
それでもと答えた神谷さんでした。
「必ずです」
「黄金バットだからな」
「何かあります」
そのステッキにというのです。
「ですからここはです」
「黄金バットにだな」
「任せましょう」
「そうだな」
警部も神谷さんの言葉に頷きました。
「それがいいな」
「はい、どちらにしろ今は我々は見ているだけしか出来ません」
この事実もです、神谷さんは警部にお話しました。
「今は黄金バットとメンインブラックの戦いですから」
「そういうことだな」
「では」
「見ていよう、今は」
あらためて言った警部でした、他の警官さん達や自衛官さん達も一緒でした。今は両者の戦いを見守るしか出来ませんでした。
そしてです、ステッキからでした。
黄金バットは光を出しました、するとその光がです。
七人のメンインブラック達を照らしました、すると。
その光を浴びたメンインブラック達はです、一人また一人とです。
姿を消していきます、その彼等を見てでした。
神谷さんは目を丸くさせてです、こう言いました。
「影がない」
「確かにな」
警部もその彼等を見て気付きました、見ればです。
姿を消していくメンインブラック達は影がありません、影がない彼等が消えていきます。神谷さんはその光景を見てまた言いました。
「そうか、これまでメイインブラックが何人もいたのは」
「影か」
「はい、そうだったんですよ」
「影分身だったのか」
「影は普段は一つですね」
「ああ、しかしな」
警部も言います、上で消えていく彼等を見ながら。
「複数の方向から光を浴びるとな」
「影はその光の分だけ出来ますね」
「そういうことか」
「はい、メンインブラックは何らかの方法で光を浴びて」
他ならぬ彼自身がです。
「それで影を増やしてです」
「その影達がだな」
「分身になっていました」
「そういうことだったか」
「黄金バットもそれを見抜いてです」
メンインブラックが影分身を作って悪事を働いていた、そのことをです。
「ああして光を、強い光を一方向から浴びせてです」
「影達を消しているのか」
「はい、そうだと思います」
「そうだな、あまりにも強い光だとな」
警部も神谷さんの話を聞いて頷きます。
「他に光があっても」
「影は一つになりますね」
「黄金バットはそれを使ってか」
「影分身を消しているんです」
「そういうことか、流石だな」
「はい、黄金バットならではの知恵ですね」
彼はただ強いだけでなく頭の回転もいいのです、そしてです。
メンインブラック達はです、次々に消えていってでした。
最後の一人だけになりました、見れば彼は光を浴びてもちゃんと影があります。
その影のある彼はです、一人になったところで黄金バットに言いました。
「よく私の力を見抜いた」
「・・・・・・・・・」
黄金バットは何も語りません。
「力を見抜かれた、それでは負けを認めるしかない」
メンインブラックは苦々しい声で一人で言います。
「爆弾は解除する、負けた者には何かをする資格はない」
こう言うのでした。
「では去ろう、次は敗れはしない」
最後にこの言葉を残してでした、黒い男は遠くの方に飛んでいって姿を消しました。そして仕掛けられていた爆弾達はです。
処理班の人達がそれぞれチェックしましたが。
「全て解除されています」
「爆発しない様になっています」
「もう安心です」
全ての爆弾がそうだというのです。
「もう安心です」
「テロの心配はありません」
「そうか、負けを認めてか」
報告を聞いた警部も頷きます。
「自分から爆弾を解除したか」
「そうですね、その辺りはです」
警部に今も横にいる神谷さんが言ってきました。
「魔人らしいな」
「ああ、魔人は負けると退く」
「作戦の途中でもそれを全て終わらせて」
「だから今回のメンインブラックもだな」
「そうしたんですね」
「魔人のそうしたところはいいか」
例え悪い人達でもとです、警部は腕を組んで考えるお顔になって言いました。
「迷惑だけれどな」
「負ければ潔くテロとかを実行しないことは」
「まだな、だがとにかくな」
「はい、今回もですね」
「黄金バットに助けられた」
警部はこのことについても言うのでした。
「本当によかった」
「全くです、じゃあ黄金バットにお礼を言いましょう」
見れば黄金バットはまだお空にいます、空中にしっかりと立っています。
「今回も助けてもらいましたから」
「ああ、じゃあ今からな」
そこにいる皆で、でした。その黄金バットに手を振ってお礼を言いました。その皆にです。
黄金バットはお顔を向けました、ですが何も言わずにです。
夜空の彼方にお顔を戻して何処かへと飛んで去りました。メンインブラックに勝ち銀座を救いましたがそのことを誇らずただ飛び去るだけでした。
黄金バット第九話 完
2016・1・13
今回はメンインブラックが登場。
美姫 「しかも、七人って」
流石に苦戦するかと思ったんだけれど。
美姫 「どうやら六人は影分身で作られた存在だったようね」
だな。それを見抜いた黄金バットも流石だが。
美姫 「メンインブラックも潔く解除したわね」
ああ。今回も無事に解決できたな。
美姫 「本当に良かったわね」
投稿ありがとうございました。
美姫 「ありがとうございました」
ではでは。