『黄金バット』




               第八話  黄金バット対黒バット 大阪の対決

 今大阪はこの話題でもちきりでした。
「また出たな」
「ああ、あいつ出てきたで」
「黒バットが出て来て車壊したわ」
「この前はビルの窓を超能力で割ってたわ」
「急に出て来て子供を脅かせたりして」
「悪い奴や」
「ほんま最悪の奴や」
 こうお話するのでした、皆顔を合わせれば。
 大阪府警の人も大阪に出てきた黒バットについてです、対策本部を設けてどうしたものかと毎日お話をしていました。
 その対策本部室においてです、本部長である室井警視正が困ったお顔で部下のお巡りさん達に言いました。
「どないしたもんや」
「急に出て来て急に消えますさかい」
「どうにもなりませんわ」
「こっちが来たらもう帰ってたりして」
「捕まえようにも動きが速いですし」
「どうにもなりませんわ」
「あいつめっちゃ強いですし」
 こう言うのでした。
「どうしましょうか」
「市民の人達迷惑してますし」
「何とか黒バットを捕まえたいですが」
「どうしましょうか」
「ああ、相手は急に出て来て急に消える」
 室井さんもこのことを言うのでした。
「そやから難儀や」
「強い上に」
「それでどうにもなりませんな」
「どうしましょうか」
「一体」
「そやな」
 室井さんは腕を組んでです、こう言いました。
「果たし状出そか」
「果たし状ですか」
「黒バットに出すんですか」
「大阪府警として」
「そうしますか」
「そしてその勝負にわしが出る」
 室井さんは自ら名乗り出ました。
「そして黒バットを捕まえたるわ」
「えっ、黒バットをですか」
「本部長がですか」
「捕まえられるんですか」
「そや、わしはこれでも剣道六段空手五段で柔道は七段や」
 つまり腕には相当の自身があるというのです。見れば四十代位ですが大柄でとてもしっかりとした身体つきをしています。
「腕には自信あるしな」
「それで、ですか」
「黒バットをご自身で逮捕される」
「そうされるんですか」
「自分等は周り固めとくんや」
 黒バットの勝負の場のです。
「市民の人等に迷惑がかからん様にな」
「それでその勝負の場は」
「一体何処ですか?」
「太陽の塔の前や」
 大阪の名所の一つです、万博を行った時に出来た岡本太郎さんの代表作の一つです。
「あの塔の前に八日の十二時じゃ」
「今月の八日ですか」
「五月八日の十二時」
「その日にですね」
「大阪夏の陣の日や」
 五月八日はまさにその日です、豊臣家と徳川家の最後の戦いの日でこの戦いで豊臣家は遂に滅んでしまいました。
「秀頼さん、幸村さんに代わって悪を成敗したるわ」
「そうですか、ほな果たし状発表しましょ」
「それを黒バットがどっかで見ますし」
「太陽の塔の前で黒バットを成敗して」
「二度と大阪の人達に迷惑をかける様にしましょか」
「そうするで、黒バット見てるんや」
 室井さんはその目を燃え上がらせて言いました。
「大阪はわし等大阪府警が守るわ」
「黄金バットでもヤクザ屋さんでもですな」
「大阪はわし等が守りますさかい」
「矢でも鉄砲でも持って来いですわ」
 他のお巡りさん達も言います、こうしてでした。
 すぐに果たし状が書かれて発表されました、そして。
 その五月八日です、室井さんは警察官の制服で身を包んで太陽の塔の前にいました。そのうえで、です。
 周りのお巡りさん達にです、こう言いました。
「ええか、手出しは無用や」
「はい、警視正がですか」
「お一人で」
「そや、やっつけたる」
 そして逮捕するというのです。
「一対一、男と男の勝負や」
「ええど、お巡りさん!」
「その意気や!」
 果たし状は公表されました、それで皆も知っているので勝負を観に来ている人が大勢集まってきています。
 その人達からです、室井さんへのエールが来ました。
「あんたええ男やの!」
「立派やで!」
「そやろ、わしも兄貴さんみたいにやるで!」
 金本監督みたいにというのです。
「大阪府警の強さ見せたるわ!」
「やったれやったれ!」
「黒バット成敗や!」
「それこそ矢でも鉄砲でも持って来い!」
「超能力でもな!」
 皆お巡りさん達にエールを送ります、そして。
 十二時になるとです、時計の針がその時間を示した瞬間にです。
 風が起こってです、室井さんの前にです。
 突如として黒バットが出て来ました、出て来たその瞬間に笑いました。
「フフフフフフフフフフフフフフフフ!」
「出て来たな黒バット!」
 室井さんはその黒バットを左手でびしっと指差して言いました。
「これ以上御前の好きにはさせんで!」
「そやそや!」
「もう車壊すな!」
「ビルの窓破壊するな!」
「子供驚かせるな!」
「悪いことばかりしやがって!」
「そんなことはもう許さへんで!」
 大阪の人達もこぞって言います。
「御前も今日で終わりや!」
「年貢の納め時やで!」
「刑務所で臭い飯食っとけ!」
「はよ捕まれ!」
 こう口々に言います、ですが黒バットは余裕を見せて腕を組んだまま室井さんの前に立っています。そしてです。
 その黒バットの身体がです、何と。
 右に残像が見えたかと思うとその残像が実体化してです。黒バットが二人になりました、その二人になった黒バットを見てです。
 室井さんもお巡りさん達も市民の人達もです、思わず仰天してしまいました。
「な、何や!」
「黒バットが二人になったで!」
「相手は一人やけど身体は一つか!」
「これ詐欺やろ!」
「フフフフフフフフフフフフフフ!」
 黒バットは答えません、ですが二つの身体で笑うだけです。
 そのうえで二体共その右手にサーベルを出してきました、そして。
 室井さんに向かいます、これにはお巡りさん達も言います。
「本部長、身体二つやさかい」
「本部長お一人やとやばいでっせ」
「ここは助太刀します」
「わし等も行きますわ」
「ええ、御前等は市民の人達守っとけ」
 周りにいるその人達のことを頼むというのです。
「周りの人達のな」
「ほな黒バットはですか」
「本部長お一人で、ですか」
「相手されますか」
「そや、相手が二体でも三体でもや」
 それでもというのです。
「御前等は市民の人達を守るんや、ええな」
「警官として」
「そうするんですな」
「そや、守るんや」
 そしてというのです。
「ええな」
「わかりました」
「ほな黒バットお願いします」
「わし等は市民の人達守ります」
「そうしますわ」
「頼むで、ほな黒バット行くで」
 室井さんはその左手に二段式の特殊警棒を出してです、剣道の構えを取って言いました。
「室井実篤、ここは一歩も引かん!」
「お巡りさん頑張れ!」
「絶対に負けるな!」
 皆その室井さんにさらにエールを送りました、そして。
 いよいよです、室井さんが勝負に入ろうとした時にです。
 突如としてでした、室井さんと二体の黒バットが対峙しているその場、太陽の塔の頂上がです。
 眩しく光ってでした、その頂上から。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
 あの笑い声が聞こえてきました、皆その声にはっとなって塔の頂上を見上げますと。
「黄金バット!」
「黄金バットがいるぞ!」
 黄金に輝く身体に髑髏の顔、そして裏地が赤の黒マントをたなびかせたです。
 黄金バットがいました、そしてです。
 塔の頂上からマントを翻し降りて来てです、室井さんの横に着地して。
 黒バットの一体の前にステッキの先、尖ったそれをフェンシングの様に出してでした。対峙しました。その黄金バットにです。
 室井さんはお顔を向けてです、こう尋ねました。
「助太刀してくれるんか」
「・・・・・・・・・」
 黄金バットは答えません、その代わりに。 
 無言で頷きます、それがこの人の返事でした。
 その返事を受けてです、室井さんは確かなお顔になってです、言いました。
「わかった、ほな頼むで」
「・・・・・・・・・」
 黄金バットはやはり喋りません、ですが。
 二人で二体の黒バットに向かうのでした、その勝負はです。
 サーベルで戦う黒バットにです、室井さんは警棒で黄金バットはステッキで向かい。
 激しい勝負となりました、それぞれの武器が打ち合う度にです。
 銀と銀の火花が飛び散ります、その激しい戦いが一時間程続いて。
 そしてです、黄金バットはです。
 黒バットのサーベルをそのステッキで弾き飛ばしました、サーベルは空中で回転してアスファルトに刺さりました。
 室井さんもです、黒バットの手を打ってです。
 そしてでした、黒バットの手からサーベルを落としました。これででした。
「勝負あったな」
「そやな、相手の剣落としたさかい」
「これで、やな」
「勝負ありや」
「確かにな」
「ああ、決まりや」
 見ればです、黒バットはです。
 サーベルを落としたのを見てでした、それで。
 すぐにです、身体が一体に戻ってです。
 風が起こって姿を消しました、それを見てです。
 大阪の人達もです、確かな声で言いました。
「よし、これでな」
「黒バットは姿消したし」
「大阪の安全は守られたわ」
「無事にな」
「わし一人やったらな」
 ここでこう言った室井さんでした。黒バットが姿を消したその場所を見つつ。
「とても無理やったら」
 黄金バットも見て言うのでした。
「おおきにな」
「・・・・・・・・・」
 黄金バットは今も無言です、そうして。
 黒バットも姿を消しました、その姿を見てです。
 室井さんはお巡りさんのところに来てです、こう言いました。
「黄金バットは何も言わなかったけどな」
「あの人のお陰ですな」
「あの人が来てくれたから黒バットに勝てましたな」
「あのままやったら本部長二体の黒バット相手にしてて」
「大変なことになってましたで」
「そうなってたわ」 
 自分でも言う室井さんでした。
「ほんまにな」
「けど黄金バットは何も言わんと」
「勝負が終わったらどっか行きましたわ」
 いつも通りです。
「風みたいに消えて」
「後は何も残りませんでしたわ」
「いつもそやな、何者かわからへんけど」
 その正体は今も不明です。
「けどいざって時はな」
「ああして助けてくれる」
「有り難い人ですな」
「ほんまやな」
 本部長さんは確かな声で言います、そしてでした。
 黄金バットに感謝しつつ事件が解決したことを喜ぶのでした。大阪の安全は大阪府警の人達と黄金バットに守られたのです。


黄金バット第八話   完


                          2015・11・12



黒バットに挑戦状か。
美姫 「黄金バットに手助けしてもらい、何とか勝利する事ができたわね」
だな。しかし、黒バットも神出鬼没なんだな。
美姫 「本当に困るわね」
でも、大阪はこれで少しは安全になったか。
美姫 「次はどんな話になるのかしら」
今回はこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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