『黄金バット』
第五話 フー=マンチュー博士
世の中実に怪人、そう言うべき人が多いです。
「黄金バットはいいとして」
「僕達を助けてくれる黄金バットはね」
「けれど悪い怪人が多いことはね」
「困ったことだよね」
皆心の底からこう思うのでした。
「ナゾー博士」
「それに黒バット」
「メン=イン=ブラックもいてね」
「フー=マンチュー博士までいるじゃないか」
ここでこの博士の名前が出ました。
「悪の天才フー=マンチュー博士」
「あの人もいるし」
「世の中物騒だよ」
「何で日本にやたら来るのかな」
その理由は誰も知りません。
「あの博士も悪いことをするし」
「すぐに毒を撒いたりしようとするね」
「ナゾー博士やメン=イン=ブラックと違うやり方でね」
そうした悪いことをするのです。
「黄金バットとも戦って」
「あの人も何とかならないかな」
「警察や自衛隊も頑張ってるけれど」
「中々ね」
「難しいね」
こうそれぞれお話するのでした、ですが。
この怪しい博士もどうしようもなく悪いことをしようとしようとするのです。
この博士についてです、古谷警部は神谷探偵事務所に捜査への協力依頼で来た時に神谷さんにこうお話しました。
「あの博士も不老不死らしいな」
「ナゾー博士やメン=イン=ブラックみたいにですね」
「そして黒バットとも同じでね」
「不老不死ですか」
「そう、だからね」
不老不死故にというのです。
「ああしてね」
「百年は暴れているんですね」
「世界の裏側で暗躍しているんだよ」
「今はあの博士一人ですよね」
神谷さんはフー博士が一人で活動していることを指摘しました。
「そうですよね」
「かつては組織の首領だったよ」
「それが、ですね」
「どういった経緯かは知らないけれど」
「今は一人で活動していますか」
「他の怪人達と同じでね」
ナゾー博士や黒バット、メン=イン=ブラックと同じ様にです。
「そうしているみたいだよ」
「何か義和団事件で家族を失ったとか」
「そうした話もあるね」
「色々な学問を修めていて」
「それで科学や薬学の知識は豊富なんだよ」
それがフー博士だというのです。
「そしてね」
「その知識を生かしてですね」
「悪事を為しているんだ、その悪事の目的はね」
「世界征服ですか」
「そうみたいだね」
それがフー博士の活動の目的だというのです。
「メン=イン=ブラックは世界を混乱させる」
「そのことが目的ですね、あの怪人は」
「そうだよ、黒バットは基本黄金バットと戦いたくて」
「ナゾー博士は少しわからないですね」
「ナゾー博士はね」
警部が言うにはです。
「色々言われていて」
「あの博士は元ナチスの科学者って噂もありましたね」
「ことの真偽は不明だね」
この辺りも怪人たる所以です。
「黒バットも一切不明で」
「メン=イン=ブラックも」
「正体は人間じゃない」
「そう言われているね」
「四人共正体不明、しかし不老不死」
「文字通りの怪人だよ」
それが彼等だというのです。
「フー博士にしてもね」
「そうですね、そしてそのフー博士が」
「何か怪しい動きを見せているんだよ」
「あの博士今度は何をするつもりでしょうか」
「国会議事堂で何かするつもりらしいね」
「何か?」
「密かにガスを撒いてね」
そのガスを使ってというのです。
「議員の人達を洗脳してね」
「自分の思うがままに操る」
「そのことを考えているみたいだよ」
「大変じゃないですか」
神谷さんは警部のそのことを聞いて仰天しました。
「そんなことをされたら」
「そう、そしてね」
「今日ここに来られた理由は」
「捜査の依頼で来たけれどね」
「フー博士が何処にいるのか」
「突き止めてもらいたい」
フー博士の居場所を捜査して突き止めて欲しいというのです。
「是非ね、頼めるかな」
「喜んで」
神谷さんは警部に確かな声で答えました。
「協力させてもらいます」
「事前にフー博士を見付けてね」
「国会議事堂にガスを撒くことを止めさせて」
「そのうえでね」
「フー博士も捕まえるんですね」
「そうだよ」
まさにというのです。
「是非ね」
「あの博士を捕まえますか」」
「絶対にな、警察も腹を括ったよ」
怪人と戦いそして捕まえることをというのです。
「大変なことだけれど」
「よし、それじゃあやりましょう」
神谷さんも頷いてでした、そのうえで。
フー博士の居場所を突き止める捜査に入りました、ですが。
居場所は中々わかりません、それでなのでした。
警部は捜査の合間に喫茶店に入ってでした、こう言いました。
「やっぱりね」
「そう簡単に尻尾を掴ませてくれないですね」
「伊達に怪人じゃないよ」
不老不死で様々な力を持っている、です。
「天才科学者にしてね」
「悪の天才で」
「姿を隠すことも得意だよ」
「悪事を為すにはことが起こる前に見付かれば大変なことになりますからね」
「そう、そこを攻撃されて悪事が失敗するからね」
それがわかっているから悪い人は隠れているのです、そしてフー博士も隠れることがかなり得意なのです。
「他の悪い奴もそうだけれど」
「隠れることが上手で」
「そう簡単にはね」
「見付からないよ」
それこそというのです。
「ターゲットはあ中々捕まらない」
「そういうことですね」
「しかし」
ここで警部は言いました、ご自身のコーヒー、白いカップの中の黒いそれを見ながら。
「諦める訳にはいかない」
「諦めたらですね」
「そこで終わりだよ、しかし」
「しかしですね」
「果たして何処にいるのか」
そのフー博士がというのです。
「本当にわからないな」
「そうですね、あの博士は」
ここで神谷さんはフー博士自身のことを考えました。
そしてです、こう警部に言いました。
「慎重ですけれど大胆」
「そうした性格だっていうんだね」
「そしてことを一気に進めます」
そうしてくるのがフー博士の槍買っただというのです。
「あの博士は」
「慎重にして大胆で」
「ことを一気に進めます」
「というと」
それはとです、警部は言うのでした。
「一体」
「それで考えたんですけれど」
探偵さんの直感、それを使ったというのです。
「この東京は地下も多いですね」
「地下鉄とかね、あとデパートの地下に」
「地下街もありますね」
「まさに地下迷宮だよ」
「そう言っていいものが一杯ありますね」
「うん、そこに犯人が逃げ込むこともあるよ」
追っているその犯人がというのです。
「それで厄介なことになることもある」
「ですから」
「まさか」
「フー博士は地下に拠点を置いていて」
そしてというのです。
「そこから議事堂にガスを撒くんじゃないですか」
「有り得るな」
警部もはっとしたお顔になりました、ここで。
「あの博士なら」
「そうですよね」
「うん、大いに有り得る」
その可能性は高いというのです、フー博士が地下に基地を造っていてそこから国会議事堂に洗脳ガスを撒くことは。
「あの博士ならやる」
「しかも議事堂の下の方は」
「色々言われてるね」
「防空壕があったとも言われますね」
「大戦中のものがね」
先の第二次世界大戦です、この戦争の時は東京だけでなくあちこちで防空壕が作られて空襲の時避難していました。
「しかも作ったのに忘れられている」
「そうしたものもあるそうですね」
「まさかそこに」
「フー博士がアジトを築いて」
「そこからガスを撒く」
「有り得ません?」
神谷さんは警部に真剣なお顔で尋ねました。
「これは」
「さっき言った通りだよ」
大いに有り得る、これが警部の返答です。
「あるね」
「じゃあ」
「よし、すぐに上の方に連絡しよう」
警察の、です。
「そしてね」
「大戦中国会議事堂周辺に作られた防空壕を調べて」
「その中で怪しい場所があれば」
「そこにフー博士がいるかも知れないです」
神谷さんはこう警部に言ってでした、警部も頷いてです。
すぐにお話が捜査チームから警察の上層部に届きました、警察庁長官はそのお話を聞いてすぐに調査を開始しました。
そしてでした、すぐにわかりました。
「実際にあったよ」
「そうした防空壕がですね」
神谷さんは警部に応えました、二人は今丁渡捜査中で東京の新宿を歩いています。
「あったんですね」
「それも国会の真下にね」
「真下ですか」
「そこにあったんだよ」
「まさかと思いますけれど」
「そう、そのまさかだよ」
警部は確かな声で神谷さんに答えました。
「あの時国会議事堂の下にもね」
「防空壕を築いて」
「そこに当時の政治家や議事堂で働いている人達が避難出来る様にね」
「していたんですね」
「他にも防空壕があって」
議事堂の下にはです。
「そこもあったんだけれど」
「その防空壕のことは忘れられていた」
「長い間ね」
「そんなものがあったんですね、やっぱり」
「何しろあの時は一杯防空壕を作ったからな」
皆が避難する為にです、空襲から。
「だからそうした忘れられた防空壕もある」
「国会議事堂の下にも」
「そういうことだよ」
「じゃあそこにフー博士が」
「アジトを築いて」
そしてというのです。
「ガスを撒くかも知れない」
「それじゃあすぐに」
「その防空壕に入ろう」
「捜査チーム全員で、ですね」
「若しフー博士がそこにいれば」
その防空壕にです」
「大変な戦いになる」
「フー博士も強いですからね」
「伊達に怪人じゃない」
このことは他の怪人達も同じです、フー博士は科学や医学、薬学に通じているだけではないのです。その強さもかなりのものです。
だからです、警部も言うのです。
「君や俺だけで行ってもだ」
「返り討ちに逢うだけですね」
「そしてテロを成功させてします」
国会にガスを撒かれてしまうというのです。
「この情報を掴めただけでも奇跡だったというのに」
「フー博士の計画のことがわかっただけでも」
「あの博士は国際的にマークされている」
世界征服を企む怪人だからこそです。
「それで各国の調査機関にもマークされていて」
「常に情報が集められていて」
「この情報を自衛隊の特別調査班が掴んで」
「そして、でしたね」
「阻止する為に動けている」
「それならですね」
「絶対にフー博士の計画を阻止する」
「その為にも」
神谷さんは警部に強い声で応えました。
「僕や警部さんだけが行くんじゃなくて」
「武装した警察官、それも特殊部隊の精鋭を連れて」
「そしてですね」
「あの博士を捕まえる、捕まえることが無理なら」
「射殺もですね」
「覚悟しないとな」
最後の手段まで使ってというのです。
「さもないとあの博士は止められない」
「他の怪人達と一緒で」
「行くぞ、神谷君」
警部は強い声で神谷さんに告げました。
「そしてだ」
「この計画を止めましょう」
「絶対にな」
こうお話してでした、神谷さんと警部はです。
完全に武装した警察官の人達を大勢連れてです、そのうえで。
深夜の国会議事堂に入りました、夜の国会議事堂はしんと静まり返っていて誰もいません、お昼の喧騒は嘘みたいです。
その静かな議事堂の中を見回してです、神谷さんは言いました。足元の赤絨毯も今は暗いその中にあります。
「ここもお昼は騒がしいですけれど」
「夜はな」
「はい、人の気配がありませんね」
「そうしたものだ、夜の公の場所なんてな」
「静まり返りますね」
神谷さんはあらためて言いました。
「やっぱり」
「こうした感じでな」
「そういうものですね」
「それでだが」
「はい、これからですね」
「その道はもう見付けてある」
その忘れられた防空壕、フー博士が密かにアジトを作っているのではないのかと思われる場所への道はというのです。
「後はだ」
「その道に入ってですね」
「防空壕まで行こう」
「そして防空壕まで行って」
「フー博士がいればな」
「捕まえますか」
「捕まられないとな」
その時のことも言う警部でした、そして。
議事堂のある場所に行きました、そこは議事堂の片隅で。
壁の下を押すとです、そこが開いてでした。
下に続く階段がありました、長いその階段を降りますと。
天井が高い、十メートルはある広くて古い造りの地下道がありました、しかもその地下道はといいますと。
「長いですね」
「先が見えないな」
先を電灯で照らしつつです、警部は神谷さんに応えました。後ろにはその精鋭の警官さん達がずらりと揃っています。
「凄いな」
「こんな風になっているとは」
「思わなかった」
「僕もです」
「こんな場所が忘れられているとは」
「いや、世の中何があるかわからないです」
「全くだな」
警部は唸って言いました。
「そしてだ、この先にだ」
「道の先にですね」
「防空壕があってだ」
「その防空壕に若しかしたら」
「博士がいる」
そのフー=マンチュー博士がというのです。
「その可能性はある」
「それじゃあ行きますか」
「行こう」
警部は確かな声で答えました、そしてでした。
神谷さんと警官の人達を連れてでした、そのうえで。
先に進みました、道は長くて入り込んでいて幾つにも分かれていました。それで道に迷いそうになってでした。
神谷さんは思わずです、警部さんに言いました。
「これはちょっと」
「想像していなかったな」
「はい、とても」
「まさかな」
「ここまで入り組んでいて」
「迷路みたいになっているなんてな」
「まさに地下迷宮ですね」
こう警部に言うのでした。
「これは」
「全くだ、こんな場所が忘れられているとは」
「凄いですね」
「世の中わからない」
「不思議なことがありますね」
「本当にな、だがな」
「だが?」
「国会議事堂は噂が多い」
何かと、というのです。
「そういえば議事堂の地下にだ」
「今実際に僕達がいる場所も」
「こうした場所があるという噂があった」
「それがここでしょうか」
「そうかも知れないな、だからな」
「それで、ですね」
「俺達が実際にその噂の場所に入った」
警部は言いました。
「そういうことか」
「そういうことですか」
「そうかもな、とにかくだ」
「防空壕を探しましょう」
こうしてでした、道をさらに進んで、でした。遂に。
神谷さん達は行き止まりにある大きな鉄の扉を見付けました。その扉を見てです、警官の人達が言いました。
「警部、この扉が」
「この扉の向こうが」
「やはり」
「防空壕では」
「そうだろうな」
警部も警官さん達に答えました。
「この扉の先がな」
「まさにですね」
「防空壕ですね」
「フー博士がいるという」
「そこですね」
「皆銃に実弾を装填しろ」
まずはこのことを言いました。
「そして防弾チョッキは着ているな」
「はい、既に」
「着ています」
「ヘルメットも着けています」
「そして防毒マスクも被って」
「君もだ」
警部は神谷さんにも言いました。
「いいな」
「わかりました、それじゃあ」
「全員で突入だ、相手は怪人だ」
凶悪犯どころか、というのです。
「最悪射殺も止むを得ない」
「了解です」
「それじゃあ今から突入しましょう」
「扉を開いて」
「そのうえで」
神谷さんも警官さん達も頷いてでした、そして。
皆です、一気になのでした。
完全武装したうえで扉を開いて中に飛び込みました、すると。
そこは無数のガスボンベがあってです、様々な器具もあり。
何か怪しいメーターも一杯ありました、その中を見回してです。
神谷さんは手に銃を持ったうえで、です。隣にいる警部に尋ねました。
「どう思いますか」
「間違いないな」
これが警部の返事でした。
「アジトだ」
「フー博士の」
「情報は真実でだ」
「ここにも、ですね」
「アジトを築いていてだ」
「ここからですね」
「フー博士はガスを議事堂に撒こうとしている」
まさにというのです。
「これからな」
「事前に発見出来てよかったですね」
「いやいや、よくはない」
警部はこう返しました。
「まだだよ」
「フー博士を逮捕しなければ」
「そう、あの博士をどうにかしないと」
それこそというのです。
「ことの解決にはならないからな」
「では」
「フー博士はここにいる」
間違いなく、というのです。
「探し出して捕まえよう」
「それでは」
「ははは、探す必要はない」
警部も神谷さんも身構えたところで、でした。アジトの中にです。
男の人の声が響きました、そして。
警部達の前にです、昔の中国の丈の長いゆったりとした黒い青と緑、それに黄色と白の龍が描かれた上着とです。
黒いズボンと靴を着た長い口髭を生やした切れ長の鋭い目の老人が出て来ました。背は一七五を超えていて背筋はしっかりしています。
その人を見てです、警部は言いました。
「フー=マンチュー博士か」
「如何にも」
老人は警部ににやりと笑って答えました。
「私がフー=マンチュー博士だ」
「なら探す手間が省けた、それならだ」
「私を捕まえるというのか」
「そうだ」
如何にもというのです。
「覚悟しろ、抵抗するのなら射殺する」
「物騒だな、諸君等は」
「御前の方が物騒じゃないか」
神谷さんは笑って言うフー博士を指差して言い返しました。
「これまでどんな悪いことをしていたんだ」
「そうだ、今も国会に洗脳ガスを流して日本を自分の思い通りにしようとしているな」
「そのことはその通り、確かに私も物騒な男だ」
フー博士も笑って自分自身のことを認めはします。
「しかも捕まるつもりもない」
「なら仕方がない」
「そこまでしたくなかったが」
神谷さんも警部も拳銃を両手に持って構えてフー博士に言いました。
「射殺する」
「全員攻撃用意だ」
警部は警官の人達に命令しました。
「撃て、発泡を許可する」
「はい、わかりました」
「では」
警官の人達も頷いてでした、そして。
攻撃に入ろうとします、ですが、
フー博士はその警部達にです、少し軽蔑した様に言うのでした。
「銃か、かつては私も軽蔑していたが」
「御前は銃殺や爆殺を嫌っていたな」
「かつてはな」
そうだったとです、フー博士は警部に答えました。
「そうだった」
「それが西洋のものだからか」
「如何にも。かつて私は西洋文明の破壊を考えていた」
そして世界征服をです。
「世界征服は捨てていないが最早西洋文明も何もない」
「そうだな、そもそも銃に使う火薬も」
「私の祖国で生み出されたものだ」
中国で、というのです。
「考えてみれば西洋も東洋もない」
「人間社会だからか」
「その考えがわかった、だから銃もよければだ」
「ガスも使うのだな」
「今の私はな。では諸君等を返り討ちにしてだ」
そのうえで、というのです。
「ガスを国会に撒こう」
「こんなことはさせてたまるか」
こう言ってでした、神谷さんが撃とうとします、そして。
警部も警官の人達も攻撃に入ります、普通ならここでフー博士は蜂の巣にされてしまいますが。
フー博士は素早く動いてでした、その拳と足で。
神谷さんに警部、それにです。
警官の人達を攻撃してきました、それを見てです。
警部はすぐにです、神谷さんと皆に言いました。
「銃撃は中止だ」
「はい、格闘ですね」
「格闘戦に切り替えますね」
「忘れていた、フー博士は武術も使える」
それも相当な使い手なのです。
「この状況で銃撃戦は無理だ」
「では銃は収めて」
「そのうえで」
「博士を倒せ」
こうしてでした、警部達はフー博士に警棒を使っての剣道や柔道、空手で戦おうとしました。神谷さんや警部、それに警官さん達の強さも相当ですが。
しかしです、フー博士は本当に強くてです。達人揃いの警部達でもです。
押されています、神谷さんは空手を使っても退けられて言うのでした。
「滅茶苦茶強いですね」
「ああ、本当にな」
警部も柔道の背負い投げをあっさりと逃げられて歯噛みしています。
「伊達に怪人じゃないな」
「本当にそうですね」
「相手は一人なのにな」
「それでもですね」
「強い、本当に化けものだ」
「怪人ですね」
「はっはっは、並の人間に私は倒せない」
フー博士自身も笑って言うのでした、中国拳法の暗殺拳の流派の構えを取りつつ。
「残念だったな」
「くっ、しかし」
「ここでこの博士を倒せないと」
「さもないと」
「日本が大変なことになってしまう」
誰もがフー博士を捕まえるか倒そうとします、ですが博士はあまりにも強くてです。
敵いません、それで駄目かと思いはじめた時にです。
不意にです、アジトの高い天井のところからです。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!」
あの笑い声が聞こえてきました、そして。
その笑い声の方を見るとです、そこにです。
黄金の身体にマント、黄金の髑髏の顔の男がいました。神谷さん達はその黄金のその場に両手を腰に当てて立っている人を見て言いました。
「黄金バット!」
「何故ここに!」
「いや、黄金バットは神出鬼没だ」
警部が驚く警官さん達に言いました。
「それならだ」
「ここに急に出て来てもですか」
「天井の通風孔のところにいてもですか」
「普通ですか」
「黄金バットなら」
「そうだ、黄金バットもまた怪人だ」
警部はこうも言いました。
「正義の怪人だ」
「同じ怪人でもですね」
「正義の怪人」
「だからですね」
「戦えるのですね」
「そうだ、だからだ」
それで、というのです。
「ここで出て来たということは」
「黄金バット、私を止めに来たか」
黄金バットは答えません、ですが。
フー博士にはわかっていました、それでなのでした。
黄金バットにです、こう言いました。
「ならば来い、私に勝てれば私は今回は退こう」
こう言ってでした、黄金バットを迎え撃つのでした。
黄金バットはフー博士に応えてでした、そのうえで。
颯爽と空を滑ってでした、フー博士の前に降り立って。
その手に黄金の杖を出してでした、それを使ってフー博士と激しい闘いに入りました。
警部達は見ているしかありませんでした、ですが。
神谷さんは二人の激しい闘いを見つつです、警部に言いました。
「黄金バット、強いですね」
「そうだな、これはな」
「どっちが勝つかわからないですね」
「いや、黄金バットが勝つ」
警部は神谷さんに確かな声で答えました。
「間違いなく」
「それはどうしてですか?」
「黄金バットは戦えば無敵だ」
「フー博士以上ですか」
「一騎打ちで一度も負けたことがない」
それこそというのです。
「だから何があろうとも」
「勝てますか」
「相手が誰でもな」
「フー=マンチュー博士が相手でも」
「勝つ、最後は」
そうだというのです。
「絶対にな」
「そうなりますか」
「そう、だから安心して見ていよう」
「黄金バットの勝利をですね」
「そうしよう」
警部は神谷さんだけでなく他の警官さん達にも言うのでした、そして。
黄金バットは皆が見守る中でフー博士と一騎打ちを繰り広げてです、フー博士が右手のその長い爪をさらに伸ばて黄金バットの顔を突こうとしたところで。
黄金バットはその爪を杖で弾きました、すると。
右手の爪は全て真っ二つに割れてでした、床に音を立てて落ちました。フー博士はその割れた自分自身の爪を見て言いました。
「私の負けだ」
「それじゃあ」
「ここは」
「下がろう」
警官さん達にも答える様にして言うのでした。
「私も怪人、誇りはある。次はこうはいかないがな」
こう言い残してでした、フー博士は何処かへと姿を消してしまいました。そして黄金バットも。
フー博士がいなくなるとです、風の様に消えてしまいました。その正義と悪の怪人達がそれぞれ消えてからです。
神谷さんは呆然としてです、警部に言いました。
「あの、今回も」
「ああ、黄金バットが出て来てくれてな」
「僕達を助けてくれましたね」
「そうだな」
「正体は誰も知らないですけれど」
「人間の危機には必ず現れてな」
その高笑いと共にです。
「助けてくれるな」
「いつもそうですね」
「それが黄金バットだ」
正体は誰も知らない、それでもなのです。
「正義の怪人だ」
「まさにそうですね」
「それじゃあこのガスやアジトはどうにかして」
「今回は終わりですね」
「全部終わりだ」
まさにというのです。
「そこまでしてな」
「これからも長いですけれど」
「大騒ぎになってな、しかしな」
「危機は終わりましたね」
「黄金バットのお陰でな」
まさにというのです、そしてでした。
神谷さんも警部さんも警官さん達もです、笑顔で言うのでした。今回も黄金バットに感謝することになりました。
そしてガスのこともアジトのことも解決してからです、神谷さんは事務所に別の事件の依頼に来た警部に言うのでした。
「フー=マンチュー博士は今回は退いたが」
「あの博士もしぶといですからね」
「そして懲りる人間じゃない」
「他の怪人達と同じで」
「だからまた何かしてくる」
「その時は、ですね」
神谷さんは事務所のソファーに警部と向かい合って座りながら深刻なお顔で言いました。
「僕達も」
「またフー博士に向かうぞ」
「そうしましょう、また」
「ああ、黄金バットがいてくれてもな」
「まずは僕達で何とかしないと」
「人間の社会は人間が守る」
警部は神谷さんに確かな声で言いました。
「そうしないといけないからな」
「その通りですね、それじゃあ」
「ああ、またな」
「フー博士に立ち向かいましょう」
「他の怪人達にもな」
こう神谷さんに言ってでした、警部は神谷さんにあらためて捜査への協力を依頼するのでした。一つの勝利に安心せずにでした。
黄金バット第五話 完
2015・5・13
またしても現れた新たな敵。
美姫 「今度はフー=マンチュー博士とかいうみたいね」
だな。次々と現れる怪人たちか。
美姫 「黄金バットも大変ね」
確かにな。それでも、今回も何とか勝ったな。
美姫 「みたいね。良かったわ」
投稿ありがとうございます。
美姫 「ありがとうございました」