『黄金バット』




                  第二話  ナゾー博士登場

 何処からともなく現れて悪人達を懲らしめいい人達を助ける黄金バット、世に再び現れたこの謎の人についてです。
 皆はあらゆる場でお話していました、彼が一体誰なのか。
「戦争前からいるしな」
「あの時と同じ黄金バットかしら」
「それだとあの人幾つなんだ?」
「何代目なのか」
「しかも何処からともなく現れる」
「そして悪い奴をやっつけてくれる」
「どうしていつも急に出て来るのか」
 テレビでも新聞でもネットでもです、この人のお話はです。
 謎に満ちています、その正体も行動もです。
「何処の誰なのか」
「一切わからないのよね」
「本当に何処の誰か」
「一切」
「それがわからない」
「何処の誰なんだろう」
「本当にわからないわ」
 誰もが首を傾げていました、それは探偵の神谷一誠さんもでした。
 神谷さんは自分の探偵事務所の中で腕を組みつつです、いつも捜査に協力している警察の古谷雄太郎警部に言うのでした。
「黄金バットですけれど」
「君が正体かい?」
「ははは、そんな筈ないですよ」
 すっきりとした明るい顔を笑わせてです、神谷さんはそのことは否定しました。
「流石に」
「そうだろうな、君はな」
 警部も言うのでした、その長方形のお顔を厳しくさせて。見れば神谷さんは薄茶色のスーツで癖のある髪です、明るい顔立ちで目が大きくすらりとした長身です。
 警部も長身ですが筋肉質で地味なブラウンのスーツの上にトレンチコートという格好です。太い眉に確かな口元で髪は角刈りです。
 その神谷さんがです、こう言うのでした。
「僕あんなに運動神経よくないですし、それに」
「それに?」
「僕も黄金バットこの目で見ていますから」
「ああ、そうなのか」
「はい、この前銀行強盗を追っていた時に」
 警察の捜査に協力してです。
「その時にビルの上から黄金バットが出て来て」
「それでか」
「黄金バットが強盗をやっつける場面見ました」
「そうしたことがあったのか」
「はい、八条署の捜査に協力している時でした」
 その警察署のことも言う神谷さんでした。
「ですからあの署の人達も証言してくれますよ」
「そうか、じゃあ君は違うな」
「そう言ったら警部さんこそ」
「おいおい、そう返すか?」
「黄金バットじゃないですよね」
「俺はこの目では見ていないが」
 それでもというのです。
「違うさ」
「あんなに高く跳んだり出来ないですか」
「俺は柔道だ」
 嗜んでいるのはというのです。
「五段だ、しかしな」
「あそこまで跳んだり戦ったりはですね」
「黄金バットは柔道の動きじゃない」
 間違ってもというのです。
「あの強さはまた別だ」
「じゃあ何なんでしょうか」
「それが一切不明だな」
「全くですね」
「正体は何処の誰か」
「僕達にもわかりませんね」
「ああ、それでだ」
 ここで、でした。警部は。
 そのお顔を曇らせてです、神谷さんにこんなことも言いました。
「黄金バットだけならいいが」
「あの人だけならですね」
「しかし黄金バットが出て来たということは」
「黒バットとかがですね」
「出て来ないか」
「黄金バットが出たのならですね」
「あいつも出て来て不思議じゃない」
 その黒バットがというのです。
「それにだ」
「他にもいましたね、黄金バットの敵は」
「ナゾー博士とかな」
「最近メン=イン=ブラックやフー=マンチュー博士も出ていますし」
「怪人が跳梁跋扈してますから」
「あいつ等も出て来て不思議じゃないぞ」 
 その黒バットやナゾー博士がというのです。
「特にナゾー博士だ」
「あの謎ばかりの」
「黄金バットは悪い奴と戦う」
「それならメン=イン=ブラックやフー=マンチュー博士とも戦って」
「その中でな」
「ナゾー博士も出て来ておかしくないですね」
「あの博士なんて特にだ」
 警部はこの博士のことを特に言うのでした。
「無茶苦茶だな」
「はい、人間なんでしょうか」
「わからない」
 それこそ一切というのでした、警部も。
「俺は違うかも知れないとな」
「思いますね、僕もです」
「ああ、あの博士は死んだのか」
「それもわからないですし」
「あの博士が出て来てもな」
「確かにおかしくないですね」
 二人でこんなことをお話していました、するとです。 
 二人の横にあった探偵事務所のテレビの中で、です。不意にニュースキャスターが驚いて出て来てなのでした。
 そしてです、こう言うのでした。
「皆さん、緊急速報です」
「うん、何だ?」
「何があったんだ?」
 二人はキャスターに顔を向けました、するとです。
 テレビの画面に異様な人が出て来ました、その人はといいますと。
 全身を黒いゆったりとした服で覆っています、お顔はミミズクのそれを思わせる覆面で覆っていて目だけが見えます。
 ですがその目がです。
 何と四つ、縦に二列あります。
 右の方は上が青、下が緑です。左の方は上が赤、下が黄色にそれぞれ光っていてです。
 右手の指は三本、左手の指は二本です。そして下半身はなく円盤に乗っています、その異様な人こそがです。
「噂をすればですね」
「ああ、全くだな」
 二人で言うのでした。
「ナゾー博士ですか」
「こいつも出て来たな」
「黄金バットが出て来て、ですか」
「ナゾー博士もだな」
「ローーンブロンゾーー」
 ナゾー博士はテレビの中で言うのでした。
「私はナゾー博士だ」
「こいつ一体」
「何をするつもりだ」
「ただ挨拶に来ただけじゃない」
「それで終わる筈がない」
 神谷さんと警部もそのことは直感しました、そして。
 ナゾー博士もです、こう言いました。
「これより東京湾のコンビナートにミサイルを撃ち込む」
「テロか」
「テロをするつもりか」
「そしてコンビナートを破壊してだ」
 そしてというのです。
「日本経済にダメージを与えよう」
「そしてか」
「それからだな」
「それを君達への再会への挨拶にしてだ」
 それからもというのです。
「日本に対して総攻撃に移る」
「くそっ、全然変わってないな」
「全くだ」
 神谷さんも警部も歯噛みして言うのでした。
「相変わらず悪いことばかりする」
「こいつは本当に悪党だな」
「コンビナートにミサイルなんて撃ち込まれたら」
「コンビナートは破壊されてそこにいる人達も大勢死ぬぞ」
「ナゾー博士、とんでもない奴だ」
「こいつだけは許せない」
 二人も悪い人は許しません、ですが。
 それでもです、テレビに映るナゾー博士は言うのでした。
「今日の夜十二時にミサイルを撃ち込む」
「時間は予告するか」
「そうしてきたか」
「そうしたところも何か」
「昔のままか?」
 かつてのナゾーと、というのです。
「これなら犠牲者は出ないですが」
「それでもな」
「コンビナートは破壊されます」
「やっぱり大変だ」
「防ぎたければ防げばいい」
 ナゾーは何処からかの映像で言うのでした。
「私の挑戦をな」
「以上です」
 キャスターの人が言いました。
「ナゾー博士が突如再び出て来てマスコミ全社に言ってきました」
「ユーチューブやニコニコ動画でも流れていましたよ」
「これは全世界への犯罪予告です」
 テレビ局の他の人も言います。
「これは大変ですよ」
「何とかしないと」
 こうしたことをテレビで言うのでした、そして。
 政府も緊急記者会見を行い自衛隊を動員してコンビナートの防衛にあたると共にコンビナート職員の避難を決定しました。
 そしてです、神谷さんと警部はといいますと。
 テレビにかじりついたままになりました、警部は険しい顔で神谷さんに言いました。
「どうなると思う」
「いや、これはもう」
「俺達の仕事じゃないな」
「そんなレベルじゃないですよ」 
 それこそ、と言う神谷さんでした。
「ですからもう」
「ここで見るしかないな」
「自衛隊の人に期待するしかないですね」
「ああ、しかしな」
 それでもとです、警部はこう言いました。
「相手が相手だ」
「ナゾー博士だからですね」
「あいつは厄介だ」
「普通のテロリストじゃないですから」
「どうなるか」
「幾ら自衛隊でも」
 コンビナートの中と周辺を固めている自衛隊の人達も映像に出ました、陸空海の三つの自衛隊が全ています。
 そして十二時になろうとする時に。
 コンビナートの防衛にあたる自衛隊の人達は緊迫した中にいました、もう迎撃用の兵器は何時でも発射出来ます。
 その中で、です。パトリオットの傍にいる若い自衛官の兵士の人が曹長に尋ねました。
「あの、ナゾー博士は」
「あいつがどうした?」
「やっぱり。こうした時は」
「ああ、俺も子供の頃聞いた話だがな」
 曹長は兵隊さんに答えました。
「絶対にな」
「ミサイル撃って来るんですか」
「そういう奴だ」
 ナゾー博士はというのです。
「とんでもない悪党だ」
「そうですか」
「ああ、その正体も不明だしな」
「ナチスの残党とか言われてたんですよね」
「一説だとな」
「実際はどうかわからないんですか」
「誰も正体を突き詰めた奴はいない」
 それがナゾー博士だというのです。
「それにミサイル自体もな」
「何処から撃って来るんでしょう」
「それがわからないからな」
「対応が取りにくいですね」
「だからこうしてだ」
 曹長は夜のそのコンビナートの中から言うのでした。
「俺達は全方向に備えているんだ」
「海も空も」
「そうだ、何処からミサイルが来てもいい様にな」
「絶対に撃ち落とさないといけないですね」
 兵隊さんも緊迫しています、これ以上はないまでに。
「コンビナートを守らないと」
「当たり前だ、それが俺達の仕事だろ」
「はい、自衛隊の」
「ナゾー博士が何だ」
 こうも言う曹長でした。
「俺達もこれが仕事だからな」
「絶対にですね」
「防いでやるぞ」
「はい、やりましょう」
「もうすぐだ」
 曹長は左腕の時計でチェックしてこうも言いました。
「もうすぐ十二時だ」
「その時になれば」
「ミサイルが来るぞ」
 皆警戒していました、そして。
 十二時になるとです、レーダー員の人が言いました。
「来ました!」
「何処からだ!」
「全方位からです!百二十発!」
「多いな」
 それを聞いた司令官が唸りました。
「それだけ来たのか」
「はい」
「これは大変だな」
「では即座に」
「全て撃ち落とせ」
 司令官は即座に命令しました。
「いいな、全てだ」
「了解です」
 皆司令官の言葉に敬礼で応えました、そしてです。
 迎撃用意に入りました、ですが。
 ここで不意にです、コンビナートの上からでした。
「ハハハハハハハハハハハハハ!」
「あの笑い声は!」
「まさか!」
 自衛官の人達もわかりました、その笑い声こそはです。
「黄金バット!」
「また出て来たのか!」
 黄金に輝く身体に黒いマント、そしてその髑髏。その姿こそまさしくです。
 黄金バットでした、その黄金バットがです。
 コンビナートの上で両手を腰の左右にやって高笑いをしていました、そして。
 コンビナートの上から颯爽と跳び上がりです、マントを羽ばたかせ。
 ミサイルに飛びつつ向かい次から次にでした。
 破壊していきます、自衛官の人達もそれを見てです。
「黄金バットが援護してくれているぞ!」
「黄金バットにだけ負担をかけるな!」
「我等も共にだ!」
「共に戦え!」
 こうそれぞれ叫んで、です。
 陸空海でミサイルを片っ端から撃墜していきます、そうしてでした。
 ミサイルは瞬く間に全て撃墜されました、それを見てです。
 神谷さんと警部もです、事務所のテレビの前で喝采を叫んでいました。
「やりましたね!」
「ああ、自衛隊の人達も頑張ってくれてな」
「黄金バットもですね」
「来てくれたからな」
「本当にですよ」
「両者共頑張ってくれた」
 こう二人で言うのでした。
「よく来てくれた黄金バット」
「自衛隊と一緒に東京を守ってくれました」
 これは二人だけが思うことではありませんでした。
 日本中の皆が自衛隊の人達も黄金バットも褒め称えました、そしてコンビナートを守っていた自衛隊の人達はといいますと。 
 ミサイルを全て撃墜した後でコンビナートの上に戻った黄金バットにでした、手を振って笑顔で言いました。
「有り難う黄金バット!」
「お陰で助かったよ!」
「よく東京を守ってくれた!」
「貴方のお陰だ!」
 自分達ではなく黄金バットを褒め称えるのでした。
 しかし黄金バットはです、首を横に振ってです。
 自衛官の人達を指差すのでした、その指差しを受けてです。
 自衛官の人達は最初その指差しがどういう意味かわかりませんでした。
「何で指差すんだ?」
「私達の方を」
「俺達に何がある」
「どうして指差したんだ」
 首を傾げさせました、ですが。
 司令官がです、少し考えてから言いました。
「我々のお陰だというのか」
「我々が日本を守った」
「そう言っているのですか」
「そういう意味なのか」
 司令官がこう言うとです。
 黄金バットは今度は首を縦に振りました、それを見てです。
 自衛官の人達もです、わかったのでした。
「俺達が日本を、東京を守ったというのか」
「自分ではなく」
「我々が」
 また首を縦に振った黄金バットでした、そしてです。
 何も言わずにです、颯爽と再び夜空に舞い上がってでした。そのまま何処かへと消え去っていったのでした。高笑いを残して。
 その黄金バットを見送ってです、テレビの前の神谷さんと警部も言うのでした。
「いや、まさにですね」
「ヒーローだな」
「本当の意味での」
「己の功績を誇らずにな」
「自衛官の人達こそと言う」
「それも言葉ではなく」
 そして、というのです。
「心で言ってくれたな」
「確かに自衛隊の人達も頑張ってくれました」
「しかしな」
「はい、黄金バットも来てくれたから」
「すぐに終わったからな」
「黄金バットあってこそでした」
 即座に、確実に終わったからだというのです。
「よくやってくれましたよ」
「全くだな」
「いや、黄金バットも自衛隊の人達も」
「今日はよくやってくれた」 
 神谷さんと警部だけでなく日本の皆が思うことでした、こうして黄金バットと自衛隊の人達の活躍で東京は守られました。
 ですがそれでもでした、ナゾー博士はまたテレビに出て言うのでした。
「これで終わりではない」
「だろうな、やっぱり」
「こんなことで諦める奴じゃない」
 神谷さんと警部は呆れた様にして言いました、そのナゾー博士を見て。
「またしてくるな」
「何かとな」
「私はまた君達に、そして黄金バットに挑戦する」
「テロを行う」
「そういうことだな」
「その時を楽しみにしていることだ」
 こう何処からかテレビの放送をジャックしてでした、堂々と言ってです。
 ナゾー博士は姿を消しました、神谷さんはそこまで見てからあらためて警部に対してこう言ったのでした。
「ナゾー博士もいますし」
「フー=マンチュー博士もメン=イン=ブラックもな」
「あと黒バットも」
「絶対に出て来るな」
「だからだ」
 それで、というのです。
「これからも安心は出来ない」
「そうですね、しかし」
「ああ、俺達には黄金バットがいる」
 他ならぬ彼がというのです。
「そして俺達警察もいればな」
「自衛官の人達もいますから」
「俺達は負けないさ」
「じゃあ及ばずながら僕も」
「一緒に戦おうな」
「黄金バットと一緒に」
 二人でこうお話して誓い合うのでした、ナゾー博士達は確かにいます。ですがそれでも黄金バットと皆の心が世界には確かにありました。
 そのことがわかっているのかです、この日の夜もでした。
「ハハハハハハハハハハハ!」
 黄金バットは悪人達の前に現れました、ヒーローは今日も正しい人達と共に自分を守る手段のない人達を守っています。


第二話   完


                           2015・2・12



黄金バットの復活と共に悪人たちも復活という事か。
美姫 「いきなり登場と同時に宣戦布告だものね」
どうなるかと思ったが、自衛隊と黄金バットのお蔭でどうにか防ぐことができたな。
美姫 「今回は助かったけれど、当然ながら諦めていないようだしね」
一体どうなるのか。
美姫 「他にも悪人はいるみたいだしね」
それらもいずれは姿を見せるのだろうか。
美姫 「次回も待っていますね〜」
ではでは。



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