『黄金バット』




                    第一話  帰って来た黄金バット

 今日本である都市伝説が流れています、その都市伝説はというと。
「悪事を働いてるとか」
「ああ、そこでだ」
「そこで出て来るらしいんだよ」
「黄金の身体に顔でだ」
「黒いマントを羽織った」
「それで悪い奴をやっつける」
「そんな奴が出て来るらしいぜ」
 それがこの都市伝説だというのです。
「しかもその顔がな」
「何と髑髏」
「黄金の髑髏のな」
「そいつが悪い奴を倒すんだよ」
「本当かどうかわからないけれどな」
「そんな話がな」
「出ているんだよ」
 そうしたお話が出ているというのです、そして。
 その都市伝説を聞いてでした、子供達は学校の校長先生にこう教えてもらいました。
「その人は黄金バットというんだよ」
「黄金バット?」
「黄金バットがですか」
「その悪い奴をやっつける」
「正義の味方なんですね」
「うん、そうだよ」
 こう子供達にお話するのでした。
「その人、いや」
「いや?」
「いやっていいますと」
「人間かどうかはわからないんだ」
 校長先生はここで微妙なお顔になりました。
「その正体は誰も知らないんだ」
「誰かが変身したかどうかも」
「そのこともですか」
「わからないんですか」
「人間かどうかも」
「うん、そうだよ」
 その通りだというのです。
「ただね」
「ただ?」
「ただっていいますと」
「悪い奴等をやっつけるのは確かだよ」
 正体はわからないですがこのことは確かだというのです。
「黄金バットはね」
「じゃあ僕達が悪い奴等に襲われていても」
「助けてくれるんですね」
「黄金バットが出て来て」
「そうしてくれるんですね」
「そうだよ、長い間出て来ていなかったけれど」
 校長先生がここで言うことはといいますと。
「先生が子供の頃はよく出て来てくれたんだ」
「けれどそれが」
「急にですね」
「出て来たんですね」
「それで、ですか」
「悪い奴等をやっつけてくれるんですか」
「それだけ世の中が乱れてきたのかな」
 校長先生はこのことは悲しいお顔で言いました。
「だとしたら残念だね」
「そうですよね、悪いことをする人が多いって」
「そのことは」
「悲しいですよね」
「残念ですね」
「本当にね、けれどその悪い奴等を黄金バットがやっつけてくれるよ」
 このことは確かだと言う校長先生でした。
「だからね」
「僕達が悪い奴等に襲われたら」
「黄金バットが出て来て」
「やっつけてくれる」
「そうなんですね」
「そうだよ、困ったら黄金バットを呼ぶんだよ」
 必ずと言ってでした、そのうえで。
 校長先生は子供達に黄金バットのことをお話するのでした、黄金バットが出て来たという噂は日本中に広まっていました。
 しかし中にはです、黄金バットが蘇ってきたことを信じない人もいました。ある街のある塾においてなのでした。
 ある先生が子供達にです、厳しいお顔で言いました。
「黄金バットなんていないよ」
「いないんですか?黄金バットは」
「蘇ってきたっていいますけれど」
「本当はいないんですか」
「あの人は」
「一体何十年前のお話なんだい?」
 先生は授業の後で先生に言うのでした。
「先生が生まれる前だよ、もう生きている筈がないよ」
「けれど人間じゃないとも言われてますよ」
「不死身だって」
「だから今出て来てもおかしくないんじゃ」
「あの人は」
「何を言ってるんだ、あの人は戦争前からいるんだよ」
 第二次世界大戦の前からです。
「それで先生のお父さんが若い頃にも出て来ているんだよ」
「ですから人間じゃないとか」
「そうも言われてますよ」
「正義の妖怪じゃないかって」
「あの人は」
「いや、絶対にないよ」
 また言う先生でした。
「黄金バットなんて、あとね」
「あと?」
「あとっていいますと」
「最近この辺りに変質者が出ているみたいだから」
 それで、というのです。
「皆は一人じゃなくてね」
「皆で集まって」
「そして、ですか」
「帰るんだよ、先生も一緒に帰るから」
 こうも言うのでした。
「大人がいればボディーガードになるから」
「だからですか」
「先生も一緒にですか」
「私達と帰ってくれるんですか」
「そうさせてもらうよ」
 真面目なお顔で言う先生でした。
「何かあってからだと遅いからね」
「黄金バットがいてもですか?」
「助けてくれても」
「だから黄金バットはいないんだよ」
 このことについてはまた言う先生でした。
「悪い奴等はいるけれど黄金バットはいないんだ」
「絶対にいますよ、黄金バット」
「間違いないですよ」
 子供達はその先生に必死に言います。
「だから悪い奴が来たら」
「僕達を助けてくれます」
「絶対に」
「全く、ヒーローがいたら」
 それこそとも言う先生でした。
「どんなに有り難いか、世の中」
「じゃあヒーローはいないんですか?」
「黄金バットは」
「だからさっきから言ってるじゃないか」
 先生のお言葉はここでも変わりませんでした。
「そうした人達はね」
「いないって」
「そう言うんですか」
「ヒーローが欲しければ自分がなれ」
 先生は生徒の皆にこうも言いました。
「先生は昔そう言われたよ、先生の先生にね」
「そうですか」
「ヒーローになりたいのなら自分がですか」
「なれってですか」
「言われたんですか」
「そう、わかったね」
 先生は皆にこう言ってでした、実際に。
 生徒の皆と一緒に帰るのでした、夜も街は静まり返っていてビルとビルの間から冷たい風が吹き込んでいます。
 その夜の街を進みながらです、先生は皆に言うのでした。
「じゃあ駅まで帰って」
「はい、そこでですね」
「解散ですね」
「家に帰るまで気をつけるんだよ」
 駅に着いて終わりではなくというのです。
「いいね」
「わかりました」
「お家の最寄りの駅からは」
「お父さんかお母さんに来てもらいます」
「そうするんだよ、本当に最近物騒だからね」
 先生は今も言うのでした。
「皆も気をつけて」
「悪い奴に襲われない様に」
「そうしないと駄目なんですね」
「そうするんだ、いいね」
 こう言って皆で帰るのでした、ですが。
 その皆の前にでした、急に。
 何処からともなく怪しい痩せた男の人が出てきました、その手にはナイフがあって目は血走っていておかしな感じです。
 その人がです、ナイフを振り回してきて皆に襲い掛かってきました。
「きへへへへへへへへへ!」
「せ、先生!」
「この人が!」
「そ、そのまさかだよ!」
 この辺りを騒がしている悪い人だというのです。
「通り魔だ!」
「に、逃げましょう!」
「皆で!」
「皆早く逃げるんだ!」
 先生はこう言いながらでした、手に持っていた鞄から。
 二段式の警棒を出しました、それで生徒の皆を守りながらです。 
 通り魔の前に立ちました、ですが通り魔の動きはとても速くて。
 警棒を持っている手をナイフで刺されてでした、それで落としてしまってです。
 通り魔にさらに襲われました、生徒の皆は先生のピンチを見て叫びました。
「だ、誰か来て!」
「先生が殺されちゃう!」
「早く、誰か!」
 そして、でした。その中で。
 ついにです、この名前を叫びました。
「黄金バット!」
「黄金バット来て!」
 こう叫ぶとです、皆の左手のビルの上から。
「ハハハハハハハハハハハハハ!」
 高らかな笑い声が聞こえてきました、皆がその声に気付いてそのビルの上を見上げるとそこには、でした。
 黒い闇の様なマントを羽織り黄金の身体を持っている人がいました、両腕を組んでそのうえで仁王立ちをしています。そしてそのお顔は。
「髑髏だ!」
「黄金の髑髏だ!」
「間違いない、黄金バット!」
「黄金バットが来てくれたんだ!」 
 子供達はその黄金バットを見て声をあげました、黄金の姿が夜のビル街にまるで金色の狼の様に映えています。
 その黄金バットにです、子供達は言いました。
「黄金バット、助けて!」
「悪い奴が出て来たの!」
「僕達を守ってくれている先生をナイフで刺したの!」
「先生を助けてあげて!」
「何とかしてあげて!」
「ハハハハハハハハハハハハハハ!」
 黄金バットはまた笑ってです、それから。
 ビルの屋上から颯爽と、風の様に舞い降りてでした。通り魔と先生の前に立って先生を守ります。そこから。
 通り魔に向かいその拳であっさりとやっつけてしまいました、その黄金バットの鮮やかな闘いを見てです。
 子供達はうっとりとしてこう言いました。
「凄いや、黄金バットは本当にいたんだ」
「それで悪い奴等をやっつけてくれるんだ」
「困っている人を助けてくれるんだ」
「噂通りに」
「黄金バット有り難う!」
 子供達は自分達に背を向けている黄金バットにお礼を言いました。その背中には黒いマントがたなびいています。
「助けてくれて有り難う!」
「先生と僕達を助けてくれて」
「本当に有り難う」
 黄金バットはその子供達にお顔を向けました。やっぱり黄金の髑髏のお顔です。
 けれど恐ろしいところは全くありません、そのお顔を皆に向けると何も言わずにです。
 アスファルトを蹴って空に舞い上がり何処かへと消え去りました。白銀の満月の中に飛び込む様にして。
 そして最後にです、笑い声だけを残していきました。
「ハハハハハハハハハハハ!」
 まるで夜の霧の様に消えました、その黄金バットが消えた満月を見上げてです。先生は怪我をした場所をもう一方の手で抑えながら言いました。
「いや、まさか」
「はい、本当にいましたね」
「そうでしたね」
 生徒の子達が先生に言います。
「黄金バットが」
「そして、ですね」
「僕達を助けてくれましたね」
「悪い奴等から」
「そうしてくれましたね」
「一体何処の誰かわからないけれど」
 それでもと言う先生でした。
「僕達を助けてくれたよ」
「はい、本当に助かりました」
「先生も僕達も」
「黄金バットは本当にいたんだ」
 先生も言うのでした、遂に。
「そして悪い奴等から皆を助けてくれる」
「正義の味方ですね」
「本当に誰かはわからないですけれど」
「うん、本当にいるヒーローだよ」
 黄金バットこそはというのです。
「僕は間違えていたよ」
「ほら、黄金バットはいるんですよ」
「本当にいるんですよ」
 生徒の皆は笑顔で言うのでした、考えをあらためた先生に。
「悪い奴等から僕達を守ってくれるヒーローが」
「今もいるんですよ」
「そうだね、黄金バットはいるんだ」
 先生はまた言いました、確かなお声で。
「そして僕達を助けてくれる」
「そのことは確かですね」
「僕達が見た通りですね」
「そうだね、じゃあ皆でこのことを話そう」
 先生は子供達に笑顔で告げました。
「黄金バットが本当にいることに」
「はい、そうしましょう」
「是非」
 生徒の皆も先生に応えます、そして通り魔は警察を呼んで逮捕してもらってでした。このことを詳しくお話してです。
 黄金バットのことを皆に知らせるのでした、すると皆は言いました。
「やっぱり黄金バットは今もいるんだ」
「そして悪い奴をやっつけてくれるんだ」
「そして私達を助けてくれるのね」
「そうしてくれるのね」
「今も」
 ずっと昔からそうだというのです、ですが。
 黄金バットが何処の誰なのか、そのことはといいますと。
「さて、昔からいるけれど」
「本当に何処の誰なんだろう」
「それが全然わからない」
「人間なのかな」
「妖怪なのかも」
 このことは誰もわかりません、けれどあるお爺ちゃんがお孫さんに笑ってこう言いました。
「そんなことはどうでもいいわ」
「黄金バットが何処の誰か?」
「そうじゃ、どうでもいいわ」
 こうお孫さんに言うのでした。
「全くな」
「それはどうしてなの?」
「黄金バットがいてくれて悪い奴をやっつけてくれる」
「そうして僕達を守ってくれるから」
「それで充分じゃ」
 まさにそれだけで、というのです。
「黄金バットが何処の誰かな」
「人間じゃなくてもいいの?」
「ははは、姿形がか」
「ずっと昔からいるっていうし」
「それこそわしが生まれる前からおる」 
 お爺さんが生まれる前からというのです。
「しかしじゃ」
「それでもなんだ」
「うむ、黄金バットがおってな」
 そして悪い人達から困っている人達を助けてくれるというそのことだけでもう充分だというのです。お爺さんが言うには。
「それでいいではないか」
「そういうものなんだ」
「そうじゃ、姿形が人でなくとも」
「物凄い力があってかなり長く生きていても」
「黄金バットは人の心があるからじゃ」
 だからだというのです。
「わし等を助けてくれるのじゃからな」
「じゃあ黄金バットは人間なの」
「そうじゃ」
 まさにその通りだというのです。
「何処の誰でもな」
「だからいいんだね」
「そういうことじゃ、黄金バットはいい人じゃよ」
 その正体は誰も知らないですし若しかするとその姿形や力が人間でないとしてもというのです、黄金バットは実際にいて人間の為に戦っているのです。その心が人間であるからこそ。


第一話   完


                             2015・1・14



新シリーズの投稿ありがとうございます。
美姫 「ありがとうございます」
黄金バットか。
美姫 「名前だけは聞いた事があるわね」
だな。後は紙芝居のイメージだな。
美姫 「そうよね」
どうやら、現代に黄金バットが復活したみたいだな。
美姫 「これからどんな話になるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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