『ドリトル先生とサーカスの象』




                第九幕  象牙

 先生は象の家族についての論文を書き終えました、その次はドイツ語で象の進化についての論文を書きはじめますが。
 ふとです、皆が研究室で象の文献を読んでいる先生に言いました。
「これは象だけじゃないけれど」
「象も数が減ってるよね」
「自然の象の数が」
「それで絶滅も心配されているね」
「そうなんだ」
 先生は皆に悲しいお顔になって答えました。
「深刻な問題だよ」
「そうだよね」
「若し絶滅したらね」
「取り返しがつかないから」
「何とかしないとね」
「さもないと駄目だね」
「象が暮らす環境が破壊されていて」
 そうなっていてというのです。
「暮らせる場所が狭くなっていて」
「そうだよね」
「アフリカでもね」
「無茶な政策とかが原因で」
「そうもなっているね」
「あちらはとんでもない独裁者が出たりして」
 そうしてというのです。
「環境のことを全く考えない政策が施行されもしたから」
「環境が破壊されたね」
「生きものを乱獲したり」
「あと無計画な焼き畑や放牧」
「そうした政策が行われて」
「内戦も多かったしね」
 アフリカはというのです。
「国同士でも争って」
「戦争していたらね」
「環境も破壊されるよね」
「あちこちで砲撃や銃撃が行われて」
「大勢の人が死ぬだけじゃないね」
「そう、その戦争もあって」
 アフリカではというのです。
「環境が破壊されていてね」
「個体数が減っていて」
「絶滅が心配されているんだよね」
「何とかしないとね」
「絶対に駄目だね」
「そうだよ、人類には環境を守る力があるから」
 だからだというのです。
「そして破壊するのも人類だから」
「それでだね」
「責任を以て守らないと駄目だね」
「生態系についても」
「同じだね」
「そうだよ、それで乱獲のお話もしたけれど」
 先生は皆に悲しいお顔のままさらに言いました。
「象と犀は問題なんだよ」
「犀は角を狙われて」
「象は牙だよね」
「象牙だね」
「象牙を狙われてね」
「そうなんだ、象牙はとても高価で貴重なもので」 
 そうであってというのです。
「売買すればお金になるからね」
「その象牙を手に入れる為に」
「象を殺してね」
「象牙を手に入れているね」
「そうなんだ、密猟者もいてね」
 そうした悪い人達もというのです。
「象を乱獲しているから」
「絶滅しかねないね」
「とても残念なことに」
「その心配もあるんだね」
「そうだよ、象牙は根本から手に入れるから」 
 ぞうの牙のというのです。
「歯の一部と言っていいものだから」
「象牙を手に入れようと思ったら」
「殺してだよね」
「手に入れるよね」
「毛皮と同じだよ」
 生きもののというのです。
「狐や狸、ミンクやクロテンの毛皮を手に入れようとしたら」
「殺してね」
「皮を剥いでね」
「そうしてから造るよね」
「そうするからね」
 だからだというのです。
「象牙も同じでね」
「手に入れようと思うとね」
「殺して手に入れるね」
「そうするね」
「羊毛と違うんだ」 
 象牙や毛皮はというのです。
「羊毛は刈って手に入れるね」
「そうそう、いつもね」
「羊の毛を刈ってね」
「そうして手に入れるよ」
「羊自体は殺さないわ」
「そうして手に入れるけれど」
 それでもというのです。
「象牙とかは違うからね」
「殺して手に入れる」
「残酷な現実よね」
「やっぱりね」
「鰐も一緒だしね」
 この生きものの場合もというのです。
「鰐革も高価だね」
「そうそう、バッグやお財布に使うよ」
「そうしたものはかなり高価でね」
「お金持ちの人が持つものだよ」
「そちらも同じでね、鰐を殺して」
 そうしてというのです。
「手に入れるんだ、生きる為の狩りをしたり家畜を殺してね」
「お肉を手に入れて」
「そこで皮も使うならいいよね」
「なめして革にして」
「それならいいよね」
「そう、いいけれど」
 そうした場合はというのです。
「けれどね」
「そうしたものを手に入れる為だけに殺すのは」
「やっぱりよくないね」
「無駄に命を奪う」
「そうした行いよ」
「生きるなら食べないと駄目だよ」 
 先生は絶対にと言いました。
「もうね」
「その通りだよ」
「だからその場合の狩りや飼育はいいんだよ」
「命を頂くから」
「そうして生きるからね」
「けれどそれがね」
 先生はさらに言いました。
「無駄に命を奪うそうした行為はね」
「許されないね」
「象牙を手に入れるのならね」
「お肉も頂く」
「そうしなと駄目だね」
「そうだよ、そうしてこそね」 
 まさにというのです。
「正しい在り方でね」
「象牙だけを手に入れる為に殺して」
「そして象を絶滅させるなら」
「こんな酷いことはないね」
「そうだね」
「食べる為でも計画的でないとね」
 そうでないと、というのです。
「駄目だしね」
「それで絶滅した生きものも存在していたわね」
 ダブダブは項垂れて言いました。
「かつては」
「ステラーカイギュウとかね」
 トートーはこの生きもののお話をしました。
「まだ生き残っているって説もあるけれど」
「食べるにしても乱獲は駄目よ」
 ポリネシアは厳しい声で言いました。
「絶対にね」
「そうした生きものも存在していたことがね」
「凄く悲しいわ」 
 チープサイドの家族もお話します。
「歴史にはそうしたこともあった」
「辛くて悲しくて嫌な歴史だよ」
「けれど若し忘れたら」
 どうかとです、老馬は言いました。
「同じ過ちを繰り返すからね」
「覚えておこう」
 ホワイティは項垂れつつも確かな声で言いました。
「こうしたこともね」
「乱獲は駄目で環境は守る」
 チーチーの声も確かなものでした。
「そうしないとね」
「先生も言う通りだよ」
 ジップは先生に言いました。
「環境保護は義務だよ」
「絶滅する生きものを出してはいけない」
「これ以上ね」
 オシツオサレツは二つの頭で言います。
「その為に出来る限りのことをする」
「それもまた人類の義務だね」
「絶滅してからじゃ遅いから」
 それでと言うガブガブでした。
「普段からちゃんとしないとね」
「駄目だよ」 
 先生は皆に答えました。
「本当にね」
「全くだね」
「象についてもね」
「勿論他の生きものも」
「絶滅させない」
「そうしていかないとね」
「人類の務めだよ、けれどね」
 それでもというのです。
「世の中環境に全く興味のない人もいるからね」
「いるね、どの国にも」
「そんなこと考えもしない」
「愛国だ国士とか言っても」
「やたら政治のことを言っても」
「そうしたことに興味がない人が」
「歴史や軍事を少し齧っただけでね」 
 ただそれだけでというのです。
「環境、経済、福祉、貿易、教育、そんなものにはね」
「全くだね」
「興味を持たなくて」
「しかもその歴史や軍事の知識も付け焼刃」
「実は全く何も知らない」
「そんな人達だね」
「そうであってね」
 それでというのです。
「環境なんて全く考えない」
「殆どない知識だけで喚いて」
「しかも偏見の塊で」
「碌に学びもしないのよね」
「環境保護を詠ってその実自分達の政治活動に利用している人達もいたりね」
 先生は雲ったお顔で言いました。
「中にはカルトみたいになっている場合もあるけれど」
「そうした人達も問題だよね」
「環境に全く興味のない人も」
「自分達の目的を押し通そうとしたりカルトの人達と同じで」
「問題よね」
「そうだよ、天下国家を語るなら」
 それならというのです。
「環境のことも考えないとね」
「少しでもね」
「ただ憎い奴をやっつけろばかりじゃね」
「どうにもならないね」
「そんな有様だとね」
「そうした人が増えたら」
 どうなるか、先生は言いました。
「世の中おかしくなるよ」
「全くだね」
「やっつけろだけの人達だけが増えるとね」
「そうした人達って利用されやすいしね」
「おかしな人達に」
「そんな人達にはなりたくないよ」 
 先生は心から思いました、そのうえでティータイムになるとです。
 この日もセットを楽しみました、今日はお抹茶に羊羹、餡子を乗せたお団子にわらび餅です。和風のティーセットです。
 そのお抹茶を飲んで、です。先生は言いました。
「いいね、気持ちが落ち着くよ」
「そうだよね」
「お抹茶っていいよね」
「飲むと気持ちが落ち着いて」
「しかも頭も冴えてね」
「いい飲みものだよ、それにね」 
 先生はさらに言いました。
「羊羹やお団子もいいね」
「わらび餅だってね」
「美味しいわ」
「きな粉とも合って」
「とてもいいよ」
「きな粉は大豆だからね」
 このお豆から作られるからだというのです。
「身体にもいいしね」
「そうだよね」
「ただ美味しいだけじゃない」
「大豆だからね」
「身体にもいいわ」
「なおさらいいよ、お団子の餡子や羊羹に使われているのは小豆だけれど」
 こちらのお話もするのでした。
「やっぱり身体にもいいんだ」
「ただ甘いだけじゃない」
「身体にもいい」
「だから食べてもいいね」
「こうして」
「そうだよ、お豆の甘さを引き出しているからね」
 それ故にというのです。
「いいよ、ただ当然お砂糖も使っているから」
「食べ過ぎには注意しないとね」
「糖分の摂り過ぎにはね」
「そこは注意して」
「食べることだね」
「そうしようね、あとお抹茶にはお砂糖を入れていないけれど」
 ありのままのお抹茶です。
「本来はこうして飲むものだよ」
「日本ではね」
「茶道ではそうだよね」
「お茶にはお砂糖を入れない」
「そのまま飲むんだよね」
「そうだよ、だからね」 
 それでというのです。
「僕達もね」
「今そうして飲んでるね」
「日本の飲み方で」
「お砂糖を入れないで」
「ありのままね」
「お茶はそのまま飲んでお菓子はね」
 こちらはというのです。
「甘い、だから口なおしにもなるよ」
「そうだね」
「甘いものを食べてその後でね」
「口なおしをする」
「お茶はその為のものでもあるね」
「そうだよ、甘いものに甘いものもいいけれど」
 食べものに飲みものもというのです。
「こうしてね」
「飲みものはそのままで」
「甘くない」
「甘いお菓子の口なおし」
「その対比を楽しむやり方もあるね」
「そうだよ、茶道ではそうだしね」
 日本のこちらではというのです。
「今はそうしたティータイムを楽しもうね」
「そうだね」
「これまでもこうしたティータイムを楽しんできたけれど」
「今回もだね」
「そのティータイムを楽しもう」
「是非ね」
「そうしようね、あとお抹茶にはかなりビタミンも入っているから」
 このこともあってというのです。
「尚更いいよ」
「いいこと多いね」
「お抹茶はね」
「それもかなり」
「そう言っていいね」
「だから飲もうね、ミルクティーもいいけれど」
 イギリスのこのお茶もというのです。
「お抹茶もいいものだよ」
「どちらもね」
「先生色々飲む様になったけれどね、お茶も」
「日本に来てから」
「そうなったけれどね」
「麦茶やほうじ茶も飲んで」
 そうしたお茶もというのです。
「お抹茶も飲んで」
「和菓子も楽しむ」
「これがいいよね」
「日本の茶道みたいに楽しむ」
「そうしたティータイムもね」
「これもまたよしだよ」 
 笑顔で言ってお茶もお茶菓子も楽しみます、それからまた学問に励みますが五時になるとお家に帰ります。
 そうして晩ご飯までまた学問ですが。
「先生、団長さんからお電話はありませんでした?」
「いや、なかったよ」
 トミーに答えました。
「別にね」
「そうですか」
「何かあったのかな」
「いえ、サーカス団で何かあったみたいでして」
「何か?悪いことじゃないといいけれど」
「鰐が虫歯になったそうなんです」
 こうお話しました。
「どうも」
「ああ、虫歯なんだ」
「これが」
「明日行くよ」
 サーカスの方にとです、先生は言いました。
「そして診察するよ」
「そうされますね」
「虫歯は放っておけないからね」
「治療しないと駄目ですね」
「放っておくと悪化してね」
「物凄く痛くなって」
「睡眠不足や集中力の低下にもつながって」
 そうもなってというのです。
「健康にも影響を与えるし」
「よくないですね」
「そう、だからね」
 それ故にというのです。
「僕もね」
「治療をされますね」
「そうするよ」
「それじゃあ」
「うん、ただ団長さんは連絡してくれなかったんだ」
「僕も聞いただけで」
「大したことないと思っておられるのかな」
 先生は首傾げさせつつ考えました。
「だからかな」
「どうなのでしょうか」
「その辺りはよくわからないけれど」
「明日ですね」
「うん、明日ね」
 トミーに答えました。
「行って来るから」
「その時にわかりますね」
「うん、何もなかったらいいけれど」
「若し本当に虫歯なら」
「すぐにね」
「治療されますね」
「そうするよ、たかが虫歯じゃないよ」
 先生は真面目なお顔で言いました。
「すぐに治さないといけない」
「深刻なことですね」
「そう、だからね」
「明日ですね」
「団長さんとお話をするよ」
 こうお話してでした。
 先生は翌日朝学園に行くとご自身の研究室に入る前にサーカス団がいる大学のお庭に行ってそこで、でした。
 団長さんに鰐のお話を尋ねました、するとです。
「いや、虫歯じゃないです」
「違いますか」
「はい、特に何もです」
「問題はありませんか」
「そうです」
「そうだといいですが一応です」
 先生は団長さんにお話しました。
「診察させてもらって宜しいでしょうか」
「診察してくれますか」
「そうさせてもらっていいでしょうか」
「いいのですか?」
「はい」
 確かな声で答えました。
「今から」
「それでは」
「そうしたお話がありますと」
「若しかしたらですか」
「火のないところにともいいますね」
 こうも言う先生でした。
「ですから」
「それで、ですか」
「今からです」
「鰐を診察してくれますか」
「そうさせてもらいます」
 先生は団長さんにお話してそれから鰐を診察しました、その結果はといいますと。
「特に悪いところはありません」
「そうなのですね」
「はい、健康そのものです」
「虫歯もないですか」
「そうです」
 団長さんに微笑んで答えました。
「いいことに」
「そうですね、ですがわざわざ診察してくれるとは」
「いえ、何かあるとよくないので」
「虫歯にしてもですね」
「診察をして健康だとわかる」
 そうだというというのです。
「いい機会だとです」
「思われますか」
「はい」
「そうなのですね」
「ですから今回は」
「鰐が健康で、ですね」
「よかったとしましょう」
「わかりました」
「それで彼の名前ですが」
 先生はこちらのお話もしました。
「雄のライオンは十三、雌のアシカが静香で」
「彼は昭彦といいます」
「皆日本の名前ですね」
「日本生まれなので」
 だからだとです、団長さんは先生に答えました。
「他の国の生きものでもです」
「日本の名前を付けられたのですね」
「そうしました」
「そうですか」
「ちなみに昭彦は役者さんの名前です」
「確か平田昭彦さんですね」
「そうです、特撮にもよく出ていた」 
 そうしたというのです。
「悪役の人で」
「その人からですね」
「名付けました」
「そうだったんですね」
「昭和の頃の人でかなり前にお亡くなりになっていますが」 
 それでもというのです。
「ファンでして」
「それで、ですか」
「彼の名前に拝借しました」
「そうでしたか」
「はい、そして」
 団長さんはさらにお話しました。
「大事にさせてもらっています」
「そうなのですね」
「それで健康でしたら」
「何よりですね」
「有り難いです、ただここで診察してくれるとは」
 それはというのです。
「思いませんでした」
「ですからそこはです」
「機会があったからですね」
「そうさせてもらいました」
「定期検診はしていますが」
 団長さんはそれはとお話しました。
「団員全員と同じく」
「ですが機会があれば」
「診察を受けるべきですか」
「人もそうであり」
 そしてというのです。
「他の生きものもです」
「そのことは同じですね」
「僕はそう考えています」
「そうですか」
「はい、ただ皆さん定期検診を受けておられますか」
 先生は団長さんのこのお話を指摘しました。
「そうなのですね」
「生きものの皆も」
「とてもいいことです」
 先生はにこりと笑って応えました。
「やはり定期検診はです」
「行うべきですね」
「生きものも」
「そうなのですね」
「それで健康状態がわかりますので」
 だからだというのです。
「定期的に。ですから」
「正しいことですね」
「僕もです」
 先生ご自身もというのです。
「今はです」
「定期検診を受けておられますか」
「皆も」
 今も一緒にいる動物の皆も見てお話します。
「そうしています」
「そうなのですね」
「健康の為に」
「まずは健康ですね」
「健康であってこそ」
 まさにというのです。
「何でも出来ますね」
「はい、それは」 
 団長さんも確かにと頷きます。
「その通りです」
「ですから」
 それでというのです。
「僕もです」
「健康に気を付けておられて」
「定期検診を受けています」
「お医者さんだけあって」
「そうです、医者の不養生はです」
 それはといいますと。
「お話にもなりませんし」
「そのお考えもあってですね」
「それで、です」
 まさにその為にというのです。
「気を付けています」
「それで健康ですね」
「そうだと自分でも思います」
「健康を維持する為にも」
「定期検診を受けています、それも人間ドッグで」
 そちらでというのです。
「受けさせてもらっています」
「人間ドッグですか」
「そちらで」
「人間ドッグは私は二年に一回ですね」
「二年に一回でも充分ですよ」
「そうですか」
「少なくとも毎年です」
「定期検診を受けることですね」
「それが大事です、そして何かあれば」
 定期検診でというのです。
「例えば乳酸値が高いならば」
「ビールやホルモンを控えることですね」
「そうすることです」
「それで健康を維持することですね」
「そうです、かく言う僕もお酒が好きなので」
 だからだというのです。
「気を付けています」
「お酒は確かに注意しないといけないですね」
「飲み過ぎには」
 こうお話します、そしてです。
 団長さんとお別れしてそのうえでご自身の研究室に入りました、するとすぐに皆から言われました。
「先生は健康そのものだね」
「毎年健康診断を受けているけれど」
「いつも異常は見当たらなくて」
「健康そのものだね」
「確かにお酒はよく飲んでいるけれど」
 先生は皆にそれでもとお話しました。
「食事は栄養バランスがいいしね」
「お肉にお野菜に」
「お魚に果物に」
「毎日そうだしね」
「和食が増えて」
「そうだしね」 
 それにというのです。
「よく歩くしね」
「そうだよね」
「毎日普通に一万歩以上ね」
「よく歩いているし」
「何かとね」
「しかも煙草も吸わなくなったし」  
 このこともお話しました。
「尚更だね」
「煙草はよくないね」
 老馬も言いました。
「確かに」
「あれが一番駄目かな」
 ジップも言います。
「身体には」
「麻薬も駄目だけれど」
 ダブダブはこちらもと言いました。
「煙草もよ」
「毒と同じだからね」
「そう、煙草はね」
 チープサイドの家族もお話します。
「いつも吸っていたら」
「それだけ身体に悪いし」
「吸わないに越したことはなくて」
 それでと言うホワイティです。
「先生も止めてよかったよ」
「若しずっと吸っていたら」
 どうかとです、トートーは言いました。
「先生今みたいに健康だったか」
「疑問ね」
 ポリネシアはきっぱりと断言しました。
「そのことは」
「兎に角煙草はよくないよ」 
 チーチーが見てもです。
「身体にはね」
「その煙草を止めたからね」
「先生は以前より健康だろうね」
 オシツオサレツは二つの頭でこう考えました。
「やっぱりね」
「そうだね」
「いや、先生が健康で何よりだよ」
 ガブガブはこのことを素直に喜んでいます。
「僕達にとってもね」
「そうだね、煙草を止めてよかったよ」
 先生ご自身も言います。
「まして麻薬は最初からしなかったしね」
「そうだね」
「昔はイギリスでも合法でね」
「シャーロック=ホームズさんもコカイン使ってたし」
「日本でも終戦直後まで合法だったね」
「だから金田一耕助さんも使っていたし」
 ホームズさんと同じく名探偵のこの人もというのです。
「織田作之助さんもだったね」
「そうそう、あの人もね」
「織田作さんもね」
「生きていた頃は結核で身体がボロボロで」
「ヒロポン打って何とか書いていたんだよね」
「そうだったね、当時ヒロポンは合法で」
 この麻薬はというのです。
「織田作さんが生きていた終戦直後は」
「それでだよね」
「織田作さんは結核で」
「もう余命幾許もなくて」
「そんな状況で」
「書く為にね」 
 まさにその為にというのです。
「ヒロポンを打って必死に身体を奮い立たせて」
「そしてだね」
「何とか書いたね」
「まさにお亡くなりになる直前まで」
「そうしていたね」
「そうだよ、そしてね」
 そうであってというのです。
「今はね」
「幽霊になってね」
「過ごしておられるね」
「身体がなくなっても」
「それでもね」
「そうだよ、それでヒロポンは覚醒剤だけれど」
 今はこの呼び名だというのです。
「絶対にだよ」
「使ったら駄目だよね」
「麻薬はどれも身体によくないけれど」
「心にも」
「覚醒剤は特にだよね」
「危険なものの一つだね」
「一本打つと一週間寝ずに元気に動けるというけれど」
 覚醒剤をというのです。
「人間一週間寝ないとね」
「どれだけ身体が疲れるか」
「心だってね」
「自覚はなくても」
「考えるまでもないね」
「一日寝ないでも相当なんだよ」 
 身体と心にかかる負担はというのです。
「それでね」
「一週間寝ないで済む様になるお薬なんてね」
「どれだけ身体と心に悪いか」
「栄養補給じゃなくて身体にあるものを引き出すからね」
「覚醒剤ってそうしたものだし」
「そう、補給じゃなくて引き出すんだよ」
 覚醒剤はというのです。
「そんなものだから」
「一週間寝ない力を引き出すなんて」
「身体にどれだけ負担かけてるのかしら」
「想像するだけで怖いわ」
「それだけでね」
「織田作さんは無理をする為に使っていたんだ」
 結核でどうにもならない状態でも小説を書く為にです。
「そう考えるとね」
「そうだよね」
「覚醒剤なんて絶対に使ったら駄目よ」
「他の麻薬も」
「あんなものはね」
「長生き出来ないことは間違いないよ」
 麻薬を使うと、というのです。
「それはもうね」
「覚醒剤のお話を聞くとね」
「明らかだよね」
「一週間も寝ないとか」
「そんな風にさせるもの使うとなると」
「こんな身体に悪いものはないよ」
 それこそというのです。
「おかしな幻覚も見るというし」
「そうらしいね」
「幻聴も受けて」
「あと括約筋とかも緩んで」
「粗相もするっていうし」
「いいことなんてないんだよ」
 全くというのです。
「覚醒剤なんかしてもね」
「人間止めますかっていうけれど」
「本当に止めることになるわね」
「廃人になって」
「そのうえで」
「そうなるからね」
 だからだというのです。
「あんなものは絶対にしないことだよ」
「煙草も駄目で」
「麻薬もだね」
「特に覚醒剤はね」
「したら駄目だね」
「そのことは何があっても言うから」
 先生はお顔を曇らせてお話しました。
「僕も絶対にしないし」
「いいことなんてないしね」
「何一つとして」
「覚醒剤なんてやったら」
「全くね」
「そうだよ、お酒も過ぎたらよくないけれど」
 先生が好きなこちらもというのです。
「覚醒剤はほんの少しでもだよ」
「したら駄目だね」
「絶対に」
「少しでもね」
「長生きしたいのなら」 
 それならというのです。
「少しでも駄目だよ」
「やっぱり長生きしたいわよ」
「僕達だってね」
「それに越したことはないよ」
「この世に生まれたからには」
「自殺行為だよ」 
 覚醒剤を使うことはというのです。
「まさにね」
「自殺はよくないよ」
「そんなことしたら駄目よ」
「自殺していいことがあるか」
「ある筈ないし」
「だからね」
 それでというのです。
「僕は自殺する人も止めるしね」
「何があってもね」
「自殺する位なら今いる場所から逃げた方がいい」
「先生そう言うわね」
「自殺しそうな人がいたら」
「逃げることは恥じゃないから」
 決してというのです。
「大体とんでもない暴力を振るう人がいてね」
「その人のところから逃げるな」
「暴力を受け続けてもいい」
「我慢しろなんて言ったらね」
「その暴力で命を落とすか深刻なトラウマ受けたらどうするのかな」
 そうなってしまったらというのです。
「一体ね」
「取り返しがつかないね」
「特に命を落としたら」
「暴力を受けて」
「そうなってね」
「そんなこと言う人は受ける人に原因があるとかも言うよ」
 我慢しろと言う人はというのです。
「生意気だとか目立つとか態度が大きいとか」
「それが暴力を正当化するんだよね」
「どんな場合でも暴力は許されないのに」
「どんな理由でもね」
「それで暴力を受け続けろ」
「逃げるなって言うね」
「その結果暴力を受ける人に何があっても」
 それこそ命を落としたりそうでなくても深刻なトラウマを受けてもというのです。
「そんなこと言う人が責任取るか」
「取らないわよ」
「取る筈がないよ」
「暴力を肯定する人なんて碌なものじゃないし」
「碌でもない人が責任取るか」
「取る筈がないから」
「僕はそんな人こそ駄目だと思っているからね」
 先生は厳しい目でお話しました。
「だからだよ」
「絶対にだね」
「暴力は否定して」
「自殺しそうなら逃げなさい」
「その場から」
「そう言うね」
「逃げることも決断だから」
 それ故にというのです。
「勇気が必要だしね」
「一つの決断でね」
「決断を下すには勇気が必要だし」
「逃げることもいいことだね」
「自殺する位なら」
「だから言うよ」 
 自殺しそうな人にはというのです。
「逃げることだってね、一人ではどうしようもない時だってあるし」
「そんな時はね」
「逃げてね」
「それでそこからどうにかする」
「そうすることだね」
「そうだよ」
 そうすべきだというのです。
「まさにね」
「そして覚醒剤はね」
「その自殺と他ならないね」
「とんでもなく身体に悪いから」
「使うとね」
「深刻な中毒症状にもなるしね」
 この問題もあってというのです。
「本当にね」
「使ったら駄目」
「絶対に」
「ほんの少しでも」
「一度でも」
「うん、死にそうな人に執筆させていたんだよ」
 ここでも織田作さんのことから言うのでした。
「対談にまで出させてね」
「ああ、織田作さんお亡くなりになる直前までね」
「それこそ東京で血を吐いて倒れるまでだったね」
「執筆していて」
「太宰治さんと坂口安吾さんの対談にも出ていたね」
「あの人は多作だったけれど」
 執筆量も多かったというのです。
「死期が近付いている人に書かせるし」
「そこまで力を引き出させるんだね」
「身体から強引に」
「そこまでのものだから」
「手を出すとね」
「とんでもないことになるよ」  
 覚醒剤を使うと、というのだ。
「食べて栄養をつけるんじゃなくて」
「身体から無理に引き出す」
「そうしたものだからね」
「どれだけ恐ろしいものか」
「想像するだけで怖いわね」
「だからね」
 それ故にと言うのです。
「絶対に使ったら駄目だよ」
「禁止されてよかったね」
「法律でね」
「そうなってよかったわね」
「今の日本でね」
「そうなってよかったよ」
 先生は心から思って言いました、そうしてです。
 お茶を飲みました、そのお茶はとても美味しくてそれでいて健康にもいいもので先生は飲むだけで笑顔になりました。








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