『ドリトル先生とサーカスの象』




                第五幕  象の心

 先生はサーカス団が来てから大学の研究室とサーカス団がいるキャンバスの広場を行き来しています、その中でです。
 先生は皆にお家で、です。こんなことを言われました。
「先生活き活きとしているね」
「いつも以上に」
「イギリスでサーカス団にいた時みたいだよ」
「何かと頑張ってるね」
「活発に動き回ってるね」
「皆の為にって思うと」
 それならというのです。
「自然とね」
「身体が動くよね」
「そして頭も」
「だから活き活きとしているね」
「サーカス団の為に頑張っているね」
「そうなんだ、そしてね」 
 先生は皆にちゃぶ台に座って作務衣姿で日本酒をおちょこで飲みつつ言いました、おつまみは枝豆に湯豆腐です。
「充実を感じているよ」
「そうだよね」
「お顔が明るいよ」
「もう充実が出ているよ」
「とてもね」
 皆は笑顔で言いました、そしてです。
 先生は湯豆腐を生姜が利いたぽん酢で食べつつ言いました。
「あのサーカス団は何かと問題があったけれどね」
「団長さんといいね」
「生きものの扱いも悪かったし」
「挙句団長さんが何処かに行ったし」
「今も行方不明だしね」
「そんなこともあったしね」
 それでというのです。
「何かと気分を害したけれど」
「今回は違うね」
「団長さんもスタッフの人達も生きものを大事にしてくれて」
「皆健康で幸せだし」
「お金の問題もないし」
「ホワイトな環境だしね」
「いいよ、しっかりしたサーカス団だからね」
 それでというのです。
「いい感じで働けているからね」
「余計にいいね」
「イギリスの時よりも」
「そうだよね」
「嬉しいよ」 
 先生は笑顔で応えました。
「本当に、それで今もね」
「いい感じで飲んでるね」
「お酒飲んでるわわね」
「枝豆に湯豆腐を楽しみながら」
「そうしているね」
「そうだよ、日本酒を飲んで」
 おちょこで飲みつつ言いました。
「そしてね」
「そのうえでだよね」
「枝豆と湯豆腐を食べる」
「いい感じだよね」
「日本って感じがするね」
「それがいいよ」
 笑顔で言う先生でした。
「日本の中にいることを実感出来てね」
「日本っていいよね」
「畳の部屋で座布団に座ってね」
「ちゃぶ台を囲む」
「作務衣も着ているし」
「完全に日本だね」
「そう、日本を実感出来て」
 皆にその笑顔、にこりとしたそれでさらに言います。
「楽しいよ、しかしね」
「しかし?」
「しかしっていうと?」
「いや、実は団長さんから頼まれているんだ」
 少し苦笑いで言いました。
「ショーに出てくれないかってね」
「ああ、イギリスにいた時と同じで」
「馬のショーだね」
「先生あの時ロシア軍の士官さんだったね」
「その設定で出ていたね」
「あの時は少し参ったよ」 
 今度は苦笑いで言いました。
「僕がショーなのかって」
「そうだよね」
「先生困ってたよね」
「最後までこなしたけれど」
「柄じゃないって感じで」
「そうだよ、僕はショーをするタイプじゃないからね」
 だからだというのです。
「また言われてね」
「それでだね」
「困ってるんだね」
「どうもね」
「そうなんだ、あの時はロシア軍の士官だったけれど」
 その時のことをさらにお話しました。
「名前が出る度に階級が上がっていったね」
「そうそう、どんどんね」
「一階級ずつね」
「中佐から大佐になって」
「准将までね」
「最後将軍だよ」
「先生閣下になっていたよ」
 皆も笑って言います。
「そんなのないよ」
「有り得ないよ」
「名前が出る度に階級が上がるなんて」
「滅茶苦茶だよ」
「自衛隊を見ているとわかるよ」
 この組織をというのです。
「階級はそんな名前が出る度に上がらないよ」
「とてもね」
「それぞれ何年かずつあって」
「それで昇進していくね」
「少しずつね」
「そうしたものであってね」
 それでというのです。
「一日で閣下なんてね」
「将軍にまでなるなんてね」
「滅茶苦茶だったね」
「あのサーカス団そこも凄かったね」
「今思うとね」
「全くだよ、将軍は本当にないよ」 
 そこまでなることはです。
「どの国の軍隊でも本当に少ないから」
「自衛隊でもね」
「自衛隊だと将とか将補とかだね」
「幕僚長の将の人が大将待遇で」
「統合幕僚議長が元帥みたいな感じだね」
「そうだよ、もうそこまでなる人はね」
 それこそというのです。
「士官の人でもね」
「稀だよね」
「将補になったら凄いね」
「士官学校卒業した人でも」
「自衛隊で言うと防衛大学を出てもね」
「自衛隊は防衛大学や一般大学を出てね」 
 そうしてというのです。
「それぞれの幹部候補生学校に入るよ」
「陸空海それぞれの」
「そこに一年入るね」
「陸上自衛隊だと防衛大学の人は半年で卒業して」
「そして幹部、普通の軍隊で言う士官になるね」
「そうだよ、そしてね」 
 そうしたシステムになっていてというのです。
「一佐になるのも難しくて」
「もう将軍になるとね」
「将とか将補になると」
「物凄く少ないね」
「防衛大学を出ても」
「そうだよ、一期で数える程しかいないから」
 それこそというのです。
「ごく稀だよ、そんな人にだよ」
「先生なったね」
「最後はね」
「ロシア軍の将軍に」
「思えば凄かったね」
「全くだよ、ただあの時のロシア軍よりもね」
 先生はお酒を飲みつつ難しいお顔で言いました、お酒はトミーがどんどん持ってきてくれています。
「僕はイギリス軍が自衛隊が好きで」
「今のロシア軍も好きじゃないね」
「そうだよね」
「ソ連軍もだったしね」
「あの時のロシア軍もだったね」
「行いが悪いからね」
 だからだというのです。
「ロシア軍は」
「今もそうでね」
「昔もそうで」
「ソ連軍もそうでね」
「おかしな伝統みたいよね」
「昔日本の知識人の人達はソ連軍を平和勢力の軍隊と呼んだんだ」
 このことも言うのでした。
「共産主義は世界を平和にする考えで平和勢力でね」
「ソ連軍もなんだ」
「平和勢力の軍隊だったんだ」
「そう言っていたんだ」
「満州や北方領土を攻め込まれて」
 終戦間際にというのです。
「沢山の人が犠牲になったのにね」
「よく言えたね」
「そういうの見たら絶対に違うのに」
「知識人の人達はそう言ったんだね」
「とんでもないね」
「平和勢力じゃなかったよ」 
 先生は断言しました。
「あの頃のソ連なんてスターリンの時代だったしね」
「そうだよね」
「バルト三国を併合してフィンランドに攻め込んで」
「二次大戦の後で東欧の国々を従えさせた」
「そんな人だったね」
「粛清や弾圧もして」
「平和な筈がないよ」
 全く、という口調でした。
「ソ連はね、それからも何かとやったしね」
「そうだよね」
「ソ連軍ってね」
「それで行いも悪くて」
「とんでもない軍隊だったね」
「あの時はショーに出るので一杯一杯でそこまで考える余裕がなかったけれど」
 ロシア軍の士官ということになったことがです。
「けれどね」
「今思うとだよね」
「先生はロシア軍は好きじゃなくて」
「そうした設定でショーに出たくないね」
「どうしても」
「そうだよ」
 こう言うのでした。
「本当にね」
「そうだよね」
「どうせならイギリス軍がよかったよね」
「先生当時イギリスにいたし」
「それでだね」
「そしてね」
 それにというのです。
「今だとね」
「自衛隊だよね」
「日本人になったし」
「いい組織だしね」
「先生よく学んで知っているしね」
「そうなりたいね、ただ自衛隊で馬に乗る人は少ないよ」
 そうなっているというのです。
「今のイギリス軍以上にね」
「そうだよね」
「儀礼で乗る位だね」
「昔は軍隊っていうと騎兵隊でね」
「花形だったけれどね」
「今は機械化されて」
「戦車や装甲車になっていてね」
 そうしてというのです。
「移動だって自動車だね」
「そうそう」
「時代は変わったよ」
「今じゃそうなっているよ」
「騎兵もいないわ」
「そうなっているからね」
 それでと言う先生でした。
「あの頃みたいにね」
「ロシア軍の士官という触れ込みで」
「ショーに出ることもないね」
「そうなっているわね」
「そうなっているよ」
 こう言うのでした。
「今ではスポーツだよ、今回は僕自身がそのまま出て欲しいと言われているんだ」
「サーカスのショーに」
「先生として出るんだね」
「ロシア軍の士官じゃなくて」
「ありのままね」
「そう頼まれてるんだ、けれどね」 
 それでもというのです。
「断っているよ、団長さんはそれでもと言うけれど」
「先生は出たくないね」
「どうしても」
「先生ショーに出るの好きじゃないから」
「それでだね」
「何度も断るよ、出るつもりはないよ」
 全くというのです。
「本当にね」
「うん、出るならね」 
 チーチーが言ってきました。
「僕達の方がいいね」
「お芝居だって出来るしね」
 ダブダブが続きます。
「だからね」
「先生が出るよりもね」
「私達が出ることね」
 チープサイドの家族も言います。
「その方がいいわね」
「ずっとね」
「というかそう言ったら?」
 ジップは先生に提案しました。
「ここは」
「そうそう、僕また頑張るよ」
 ガブガブはかなり乗り気です。
「またスターとして頑張るよ」
「さて、どんなお芝居になるか」
 ホワイティも言います。
「今から楽しみだよ」
「先生が出なくてもね」
「僕達がいるからね」
 オシツオサレツは二つの頭で言います。
「安心していいよ」
「団長さんだってね」
「じゃあ先生そう言おう」
 トートーも先生に言います。
「先生の代わりに僕達が出るってね」
「じゃあこれで決まりね」 
 ポリネシアはきっぱりと言いました。
「私達が出るってことで」
「じゃあそういうことでね」
 老馬の言葉はあっさりしたものでした。
「決まったよ」
「皆がそう言うなら」
 それならとです、先生も応えました。
「団長さんにお話するね」
「そう、先生は僕達の監督」
「劇団の支配人ということでね」
「表には出ないで」
「頑張ってね」
「そうするね」
 先生もそれならと応えました。
「僕もね」
「うん、それじゃあね」
「先生団長さんにお話してね」
「先生じゃなくて僕達が出る」
「そうするってことでね」
「お話してみるよ」
 こう言ってまたお酒を飲みます、そして次の日団長さんにお話すると団長さんは目を丸くさせて言いました。
「そういえば先生は以前」
「はい、イギリスでです」
 先生は団長さんに答えました。
「サーカス団に関わっていまして」
「お芝居をしていましたね」
「皆が」
「そうでしたね」
「オーケストラもしまして」 
 そうしてというのです。
「お芝居もです」
「それならです」
 団長さんは笑顔で応えました。
「是非です」
「それで宜しいですか」
「はい」 
 笑顔での返事でした。
「それでは」
「そうさせて頂きます」
「そしてです」
 そのうえでというのでした。
「何時行って頂くかはです」
「そのことはですか」
「こちらで考えて先生とお話して」
「そすいてですね」
「これから決めていきましょう」
「わかりました」
 今度は先生が笑顔になって応えました。
「そうしましょう」
「それでは」
「それでなのですが」
 こうも言う先生でした。
「実はお芝居の台本は今もありまして」
「イギリスにおられた頃の」
「練習も彼等が自主的にです」
「やってくれますか」
「僕が何も言わなくても」
「それならですね」
「はい、もうです」
 それこそというのです。
「何時上演するかということが決まれば」
「それからはですね」
「彼等がお芝居をしてくれるので」
「先生が言うことはないですか」
「そうです、ただ監督として」
 その立場でというのです。
「関ります」
「監督は必要ですね」
「そうですよね」
「お芝居をするなら」
「スポーツのチームもそうで」
「それで、です」
 その為にというのです。
「僕は監督としてです」
「関わられますか」
「はい」
 そうするというのです。
「ただ僕は見守るだけで」
「何も言うことはないですか」
「危険なことはさせない」
「それだけですね」
「そのことに徹します」
「そうですか」
「皆そのこともわかってくれていますが」
「彼等はですね」
 団長さんは今も先生と一緒にいる彼等を見て頷きました、
「そうなのですね」
「はい、僕とは以心伝心で」
「ツーカーの関係ですね」
「長い間家族と一緒にいますので」
 だからだというのです。
「言葉を交えてもわかって」
「交えなくてもですね」
「目や仕草でもです」
 こうしたものでもというのです。
「よくです」
「わかりますね」
「はい」
 そうだというのです。
「よく」
「そうした間柄ですが」
「若し彼等がいないと」 
 それならというのです。
「僕は日常生活もです」
「過ごせないですか」
「はい、僕は家事が苦手で」
 そうであってというのです。
「彼等がしてくれるので」
「だからですか」
「はい、若しです」
 それこそというのです。
「彼等がいないと」
「どうしようもないですか」
「そうです」
 そうだというのです。
「トミーもいて王子もいて」
「それで、ですか」
「はい」
 まさにというのです。
「僕は暮らしていけています」
「そうしたこともあって」
「それで、です」
「先生は彼等とはですね」
「頼りにもしていますし」
 それにというのです。
「一緒にもいて絆もあるので」
「だからですか」
「言葉を交えずとも」
 それでもというのです。
「お互いに考えがわかり」
「理解し合えるのですね」
「そうなのです」
「人と人よりもですね」
 団長さんは先生のお話を聞いて言いました。
「生半可な関係よりも」
「はい、僕達はです」
「強く深いつながりがあって」
「それで、です」
 その為にというのです。
「わかります」
「素晴らしいですね」
「そう言って頂けますか」
「心から思いますので」
「だからですか」
「それに彼等の言葉もわかりますね」
「わかります」 
 先生はすぐに答えました。
「それぞれの生きものの言葉が」
「そうですね」
「虫の言葉もです」 
 それもというのです。
「わかる様になりました」
「そうなりましたか」
「学んで」
「虫の言葉もおわかりとは」
「それで言葉をアルファベットにしまして」
 虫のそれをというのです。
「カブトムシ、コオロギ、アリ、バッタと色々ですが」
「訳してもいますか」
「そして辞典も作っています」
「それぞれの虫の言葉も」
「日本では秋に虫達が鳴きますね」
「はい、いいものですよね」
 団長さんは笑顔で答えました。
「あの声は」
「実はです」
「実は?」
「僕は最初そうは思えなかったのです」
 先生は真面目にお話しました。
「あの音色が素晴らしいものだと」
「そういえば」 
 団長さんも言われてはっとなりました。
「日本人とギリシャ人以外は」
「そうです、ああした虫の音色を聴きましても」
「音楽とは思えず」
「雑音としかです」
「思えないですね」
「そのことはお聞きになったことがありますね」
「学生時代に」
 その時にというのです。
「聞きました」
「八条学園におられたので」
「今我々がいる八条学園は世界中から人が集まってきます」
 団長さんはこのことをお話しました。
「ですから」
「世界中の人の考えや嗜好も聞けますね」
「それで聞きました」
「虫の音色はです」
「日本人とギリシャ人以外は素敵な音楽に聴こえず」
「雑音に聞こえます」
「そうですね」
 団長さんは先生に答えました。
「これが」
「それで僕もです」
「最初は雑音でしたか」
「ですか彼等の言葉を学んでいるうちに」
 そうしているうちにというのです。
「素敵な音楽とです」
「感じる様になりましたか」
「そうです」
 こう団長さんに答えました。
「今は」
「そうですか」
「そして日本に来て」
 そうしてというのです。
「日本に親しみまして」
「秋に彼等の音色を聴いて」
「本格的にです」
「音楽だと感じる様になりましたか」
「若し虫達の言葉を学ばず日本に来なければ」 
 そうすればというのです。
「とてもです」
「音楽とはですね」
「思いませんでした、それで言葉がわかる虫達もいますので」
 それでというのです。
「会話も出来ます」
「それでは情報収集も楽ですね」
「そうですね、ですが個人情報に興味はありません」 
 先生はこのことをきっぱりと断りました。
「人のプライベートは侵害しない」
「立ち入らないことですね」
「個人情報もです」
「そうなのですね」
「それが紳士としてです」
「あるべき姿ですね」
「そう考えていますので」 
 だからだというのです、先生は団長さんに温和ですが確かな表情と声でこのことをお話していくのでした。
「宜しくお願いします」
「わかりました、先生は真の紳士ですね」
「そう言って頂けますか」
「人のプライベートは尊重し立ち入らないことはです」
「紳士ですか」
「真の紳士ならです」
 団長さんは先生に言いました。
「そうしたことはしないので」
「だからですか」
「今もお話させて頂きます」
「そうなのですね」
「まことに」
 団長さんは心からお話しました、そしてです。
 先生にサーカス団のお話もしました、そのお話の後で夜に一緒に飲む約束もしましたがその後で、です。
 研究室で、です。皆は先生に言いました。
「虫の言葉がわかるってね」
「考えてみたら凄いね」
「アリやカブトムシの言葉がわかるって」
「かなりね」
「凄いよね」
「最初は理解出来るかどうか不安だったよ」
 先生は皆にもお話しました。
「けれどじっくり学んでいってね」
「わかる様になったね」
「虫の言葉も」
「色々な虫の言葉が」
「虫じゃないけれど蜘蛛やダンゴムシの言葉もね」
「わかる様になったね」
「虫の種類は非常に多くてね」
 それでと言う先生でした。
「まだわからないものが多いけれど」
「それでもだよね」
「かなりわかる様になってるね」
「それは事実だよ」
「先生もね」
「そうだといいね、そしてね」
 そうしてというのです。
「今も学んでいるよ」
「虫の言葉もね」
「海底生物の言葉もでね」
「ダイオウグソクムシの言葉もわかるね」
「それで鳥羽水族館でもお話したね」
「うん、ただあの時は」 
 先生は鳥羽水族館でそのダイオウグソクムシとお話した時のことを思い出して皆に考えるお顔でお話しました。
「彼がずっと食べずにいられる理由はわからなかったね」
「そうだったね」
「本人もわからなかったしね」
「何年も食べないで平気な理由が」
「それがね」
「そのことは残念だけれど」
 ダイオウグソクムシが何年も食べなくて平気なそれはというのです。
「けれど会話は出来るよ」
「そうだね」
「先生本当に色々な言葉がわかるね」
「人間の言葉だってね」
「そうだよね」
「そうだよ、あと生きものの言葉は大抵アルファベットや漢字で表現出来て」 
 そうであってというのです。
「辞書にしやすいよ、一種類の文字と英語の様な文法でね」
「通じるね」
「訳することも出来るね」
「そうだね」
「まさに」
「そう、そしてね」
 それでというのです。
「結構わかりやすいよ、日本語よりずっとね」
「ああ、日本語はね」
「僕達が今いる国の言語はね」
「かなりわかりにくいね」
「これがね」
「文字が三種類もあってね」
 そしてと言う先生でした。
「文法も独特で読み方もね」
「色々あるからね」
「音読みとか訓読みとか」
「訓読読みなんてのもあるし」
「難しいよね」
「本当に」
「だから虫の言葉よりもだよ」 
 先生は言いました。
「日本語は難しいよ」
「勿論僕達の言葉よりもね」
「日本語は難しいよね」
「これが」
「そうだよね」
「そうだよ、僕が学ぶのに一番苦労した言葉だよ」
 日本語はというのです。
「本当にね」
「そこまで難しいってね」
「つくづく恐ろしいね、日本語って」
「日本に来て長いけれどまだ難しいって思うしね」
「これは」
「恐ろしい進化を遂げた文字だよ」
 先生は日本語についてこうも言いました。
「他の国の言語が難しいと言っても」
「日本人はね」
「よく言うけれどね」
「違うのよね」
「日本語の方が難しいから」
「それも遥かに」
「その日本語に慣れ親しんでいるから」
 だからだというのです。
「かえってね」
「他の言語に馴染めないんだね」
「日本人って」
「あまりにも難しくて独特な言語の中にいるから」
「他の言語についてはね」
「慣れないんだね」
「あまりにも独自の進化を遂げた言語だからね」
 日本語はというのです。
「そうだと考える時もあるよ」
「英語が難しいってね」
「日本語より遥かに簡単だから」
「頭の中で使ってもね」
「考えることにね」
「僕はもう基本頭の中で使う言語は日本語になっているけれど」
 先生の思考に用いる言語はというのです。
「やっぱりね」
「難しいよね」
「これがまた」
「そうだよね」
「非常にね」
「うん、最初はかなり苦労したよ」 
 頭の中で思考に使うにもというのです。
「英語の方がずっと楽だよ」
「それでどうして英語の方が難しいのか」
「だから日本語に親しみ過ぎてるからだよ」
「あまりにも難しい言語にね」
「そのせいよ」
「そうだよ、ただ日本にいる生きものはね」 
 彼等はといいますと。
「普通にね」
「それぞれの生きものの言葉を使っていて」
「喋って思考にも使っているけれど」
「日本語もわかるね」
「そうだね」
「お静さんなんかそうだね」
 猫又である彼女のお話をしました。
「日本語わかってるね」
「それで喋ってるよ」
 ジップが言ってきました。
「流暢にね」
「読み書きも出来るしね」
 トートーはお静さんのこのことをお話しました。
「人間みたいに」
「それが出来るのは猫又だからだね」
 老馬はお静さんが読み書きが出来る理由がわかっています。
「だからだね」
「けれど猫又って猫よ」
 ダブダブは老馬にきっぱりと指摘しました。
「猫が五十年生きたらなるのよ」
「そうしてなるから」
 だからと言うチーチーでした。
「猫って言ってもいいね」
「それでお静さんは日本で生まれ育ってるから」
「日本語を聞いて生きてきたし」
 チープサイドの家族はそれでとお話しました。
「だから日本語がわかる様になって」
「喋ることも読み書きも出来るね」
「日本にいる生きものは日本語もわかる」
 ホワイティは考えるお顔になって言いました。
「僕達もそうなっているしね」
「私達元々英語はわかったしね」 
 ポリネシアはこのことを言いました。
「イギリスにずっといたから」
「そこにいればそこの言葉がわかる」
 ガブガブは笑顔で言いました。
「これは真理かな」
「真理かな」
「そうなのかな」
 オシツオサレルの二つの頭はガブガブのその言葉に傾げさせられました。
「ちょっと違うんじゃないかな」
「どうにも」
「真理と言えばそうなるかな」
 先生はガブガブの言葉に一理あるという感じでした。
「そうなるかな」
「そうなんだ」
「そうなるんだ」
「その国にいればその国の人間の言葉がわかる」
「そうなんだね」
「そうなるんだね」
「うん、真理と言えるし」
 さらに言う先生でした。
「自然とも言えるかな」
「どっちでもあるんだ」
「そうなんだ」
「人間の言葉はそれぞれの国や民族で違って」
「分かれているけれど」
「人間もそれぞれの国にいて」 
 そうであってというのです。
「いつも聞いてわかる様になるしね」
「だからだね」
「日本にいたらいつも日本語を聞くから」
「それでわかる様になるんだね」
「生きものも」
「そうだよ、そしてね」 
 そうであってというのです。
「学んでね」
「読み書きが出来るね」
「そうなるね」
「そうだよね」
「そうだよ、だからサーカス団の皆も」
 彼等もというのです。
「ちゃんとね」
「日本語わかるね」
「日本にいるから」
「団長さんも他のスタッフの人達も日本語喋ってるし」
「わかるんだね」
「太郎だってね。太郎はインドゾウでね」
 この種類の象であってというのです。
「本来名前はインドのものになるね」
「ああ、インドゾウならね」
「インドの名前になるのも当然だね」
「言われてみれば」
「そうだね」
「そうだけれど」
 それでもというのです。
「日本に生まれたからね」
「日本の名前になって」
「ずっと日本で暮らしているし」
「それでだね」
「日本語も理解しているね」
「僕が日本語で話しかけてもだよ」
 太郎にというのです。
「問題なくね」
「わかるね」
「それで象語で返してくるね」
「そうしてくるね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「そうしてくるよ」
「そうだよね」
「そう考えると面白いね」
「とてもね」
「そうだね」
「生きものにも言語があって」
「それぞれの国の人の言葉もわかるってね」
 皆笑顔で言います。
「それで先生は色々な生きものの言葉がわかって」
「それぞれの国の言語もわかるからね」
「言語については特に強いね」
「学問の中でも」
「実は色々な言語がわかってね」
 先生はそれでと言いました。
「色々な文献もそのまま読めるからね」
「色々な学問もわかるんだ」
「語学以外も」
「文学にしろそうで」
「歴史学や神学や法学もだね」
「哲学もね。まずラテン語がわかれば」
 この言語がというのです。
「昔の神学、キリスト教の本はラテン語で書かれているからね」
「すぐに読めてね」
「学びやすいよね」
「ラテン語がわかるなら」
「それならね」
「そう、そしてね」 
 そうであってというのです。
「神学がわかれば」
「神学は学問の幹だって言うね」
「先生もね」
「まず神学を理解する」
「そこから哲学と法学もってなるって」
「文学もね、そして医学も学べば」
 先生はお医者さんなので言えます。
「博物学となるよ」
「先生はまさに博物学者だね」
「今もね」
「だからあらゆる学問を学んでいるね」
「そうしているね」
「そうだよ、今もそうしているんだ」
 実際にと言う先生でした。
「生物学も学んでいるしね」
「植物学だってね」
「工学だって学んでいるし」
「数学だってね」
「それじゃあね」
「これからも博物学者としてだね」
「あらゆる学問を学んでいくよ」
 皆に笑顔で言います、そうしたお話をした夜に先生は団長さんが紹介した焼肉屋さんに入ってです。
 そのうえで焼肉を食べてお酒を飲みますが団長さんは網の上にあるホルモンを見ながら先生に言いました。
「こうしてホルモンを食べて」
「ビールを飲むとですね」
「最高です」
「確かに美味しいですね」
 先生もビールを飲みつつ応えます。
「僕もそう思います」
「左様ですね」
「ビール自体も美味しくて」
 大きなジョッキを片手に言います。
「そしてです」
「焼いたホルモンを食べますと」
「ビールがどんどん進んで」
「ホルモンもですよね」
「これまたどんどん食べられて」
 そうなってというのです。
「まことにです」
「最高ですね」
「全く以て、日本ではこうした飲み方もありますね」
「ビールとホルモンの組み合わせも」
「いいですね、病みつきになります」
「だから私もです」
 団長さんはお箸でホルモンをお皿に取ってタレに漬けて食べてから言いました。
「時々です」
「こうしてですね」
「楽しんでいます」
 そうしているというのです。
「この通り」
「いいですよね」
「先生はお好きなものは」
「何でも食べます」
 先生はにこりとして答えました。
「こうして焼肉も好きで」
「では和食は」
「どれも好きです」
 そうだというのです。
「お刺身や天婦羅も」
「ではそういったもので飲むことも」
「好きです」
「そうなのですね」
「お刺身いいですね、それに」
 先生はさらに言いました。
「お寿司もです」
「お好きですか」
「おうどんやお蕎麦も好きで」 
 そうしたものもというのです。
「おでんもです」
「それはまた通ですね」
「通ですか」
「おでんまでとは」 
 団長さんは唸る様に応えました。
「それはまた」
「通ですか」
「日本の」
「そう言っていいのですね」
「おでんはいいですね」 
 今度は笑顔で言いました。
「冬は」
「はい。温まりますね」
「美味しいです」
「冬はお鍋に粕汁におうどんに」
「おでんですね」
「そうだと思います」
「そう言われるのがです」
 まさにというのです。
「通です」
「日本のことについて」
「完全に日本人になられていますね」
「そう言って頂けるとです」 
 先生はにこりと笑って応えました。
「僕も嬉しいです」
「日本に来られて日本人になられて」
「そう言って頂けると」
 ホルモンを食べつつ答えました。
「嬉しいです、では今度おでんをです」
「召し上がられますか」
「はい」
 そうするというのです。
「是非」
「今日はホルモンを食べて」
「またおでんもです」
「そうですか、では召し上がられて下さい」
「そうさせてもらいます」 
 笑顔で言ってそうしてでした。
 先生は団長さんと一緒にホルモンとビールを楽しみました、そうしてお家に帰ると皆におでんのお話もしたのでした。








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