『ドリトル先生と奇麗な薔薇達』
第二幕 薔薇園でのティーパーティー
八条学園の中にある植物園の薔薇園でティーパーティーが行われる日にです、先生は朝出発する時にトミーに言われました。
「先生、お風呂入りましたね」
「トミーに言われて朝にね」
「昨日の夜も入って」
「朝もね」
「それでいい匂いがしますし。そして」
トミーはさらに言いました。
「一番いいスーツとシャツにネクタイですし」
「今僕が着ているのはね」
「先生が持っている中で」
「そうだね」
「アイロンかけてるわよ」
ガブガブが言ってきました。
「ちゃんとね」
「それも糊を利かせてね」
こう言ったのはトートーです。
「パリっとさせたよ」
「靴も磨いたから」
ポリネシアはこちらのお話をしました。
「ピカピカよ」
「ハンカチだってね」
「オーデコロンをかけたし」
チープサイドの家族もお話します。
「いい香りがするわよ」
「薔薇の香りのね」
「帽子だって奇麗にしたし」
チーチーは先生の頭にあるそれのお話をしました。
「万全だね」
「お髭も剃ったしね」
ダブダブは先生のお顔を見ています。
「万全だね」
「もう何処からどう見ても立派な紳士だよ」
ジップは太鼓判を押しました。
「今の先生はね」
「勿論普段も先生は紳士だけれど」
それでもと言うホワイティでした。
「今は外見が普段以上にそうだよ」
「これなら大丈夫だね」
老馬も太鼓判を押しました。
「ティーパーティーに参加出来るよ」
「日笠さんも目を瞠るよ」
「絶対にね」
オシツオサレツは二つの頭で嬉しそうに言いました。
「先生が普段以上にパリっとしてるから」
「気に入ってくれるよ」
「身だしなみも整えないとね」
先生も言います。
「やっぱり、ただね」
「そこで何でそこまでするか」
「そうは言わないでね」
「普段通りでいいんじゃないかとか」
「そうしたことはね」
「駄目なんだ、どうしてかな」
先生は本当にそう言おうとして皆に止められて首を傾げさせました。
「これはまた」
「いや、だからね」
「そこがわからないのが駄目なのよ」
「先生は」
「僕達も困るよ」
「何かとね」
「そうなんだ、しかしね」
それでもと言う先生でした。
「身だしなみは大事だね」
「そうそう」
「何かとね」
「気付かないならいいし」
「先生ちゃんとしてくれたし」
「そのまま行けばいいよ」
「そうするね、じゃあ行って来るよ」
先生は皆に笑顔で言いました。
「これからね」
「そう、行くだけでいいよ」
「そうしたらきっといいことがあるよ」
「日笠さんも喜んでくれて」
「一つのきっかけになるかもね」
「一つの?どうも皆の言ってることでわからないところがあるね」
先生はまた首を傾げさせてしまいました。
「どうにも。けれどね」
「うん、行って来てね」
「後で気付いてもいいし」
「僕達もやれることやっていくし」
「頑張っていってね」
「ティーパーティーは午前中でしたね」
トミーは時間のことを尋ねました。
「そうだったね」
「うん、それで休日だからね」
先生はトミーに答えました。
「だからお昼からはね」
「お家に戻って」
「そして学問だよ」
「そうされますね」
「今も論文を書いているからね」
だからだというのです。
「本も読んでいるし」
「今回の論文は何についてですか?」
「医学でね、麻酔の歴史についてのね」
「論文ですか」
「うん、麻酔は必要だね」
「手術でも」
「その歴史についてね」
トミーに微笑んでお話します。
「論文を書いているんだ」
「そうなんですね」
「また学会で発表するし」
この論文もというのです。
「お家に帰ったら」
「学問ですね」
「いつも通りね」
「わかりました、じゃあお昼は」
「お家で食べるよ。メニューは何かな」
「野菜炒めと豚の生姜焼きです」
トミーは笑顔で答えました。
「白いご飯と」
「そうなんだ」
「はい、先生も白いご飯お好きですよね」
「大好きだよ」
先生はにこりと笑って答えました。
「パンも好きだけれど」
「日本に来られてから」
「大好きになったよ」
「そうですよね」
「お握りもね」
こちらもというのです。
「凄くね」
「お好きですね」
「お寿司だってね」
「今度お握り握りますね」
「そうしてくれるんだ」
「はい、そして」
そのうえでというのです
「中にもです」
「具を入れてくれるんだ」
「海苔も巻いて」
そうもしてというのです。
「そうもして」
「そうなんだ、特にね」
「中の具にですね」
「梅干しがあったら」
それならというのです。
「尚更ね」
「いいですね」
「僕はね」
「日本に来てから梅干しもお好きになりましたね」
「お話は聞いていたよ」
梅干しのというのです。
「けれど実際に食べてみたら」
「美味しいですね」
「あの酸っぱさがね」
「いいですね」
「お昼も梅干し出してくれるかな」
「はい、それじゃあ」
トミーもそれならと応えました、こうしたお話もしてです。
先生はティーパーティーに出席しました、日笠さんは膝までのタイトスカートのネイビーブルーのスーツにネクタイといった服装でヒールです、そして先生にご自身から笑顔で挨拶をしました。
「先生おはようございます」
「おはようございます」
先生も笑顔で応えました。
「では今日は宜しくお願いします」
「こちらこそ、では席に座って」
「お茶にお菓子に」
「薔薇を楽しみましょう」
先生をじっと見てでした。
日笠さんは応えました、そしてです。
二人で向かい合って白い椅子に着席しました、そしてテーブルを挟んでです。
ティーセットに紅茶を楽しみました、ティーセットはどんなものかといいますと。
「上段がスコーンで」
「中段がケーキですね」
「そして下段は苺やオレンジとサンドイッチ」
「サンドイッチの中は生クリームとピーチですね」
「豪勢なセットですね」
「そうですね、それにです」
日笠さんは紅茶を飲みながら言いました。
「紅茶はミルクティーですね」
「本格的なイギリス風のティーセットですね」
「やはり先生としては」
「はい、ティーセットは毎日楽しんでいますが」
「イギリス風がですね」
「一番よく楽しんでいます」
先生も紅茶を飲んでいます、そのうえでのお返事です。
「飲むお茶もです」
「ミルクティーが一番多いですね」
「はい」
そうだというのです。
「お家でも飲んでいます」
「そうですか」
「それで今日もですか」
「今こうして」
「お茶とお菓子を楽しんで」
そうしてとです、先生は。
薔薇園にお顔をやりました、そしてうっとりとして言いました。
「薔薇もです」
「素敵な薔薇園ですよね」
「この植物園の薔薇園は」
「赤に白に黄色にピンクに」
「紫の薔薇もありますね」
「黒薔薇も」
「青薔薇もあります、かつてはです」
先生は青薔薇も見てお話しました。
「青薔薇はありませんでしたね」
「チューリップもそうでしたね」
「どちらのお花も青を否定するものがありまして」
「それで、でしたね」
「青い薔薇やチューリップはありませんでした」
「そうでしたね」
「それが科学によって」
この分野の技術によってというのです。
「遺伝子操作が行われ」
「青いものが入る様になって」
「そうしてです」
「青薔薇が生まれましたね」
「青いチューリップも。青薔薇は有り得ないものという意味の言葉でもありましたが」
それがというのです。
「今ではです」
「ありますね」
「有り得ない事柄も」
「有り得る様になりますね」
「文明の進歩によって」
先生はケーキを食べながらお話しました。
「そうなります」
「そうですね」
「そしてこの薔薇園にも」
「青薔薇がありますね」
「この青い薔薇達を見て」
そうしてというのです。
「僕は科学は素晴らしいと思います」
「その都度ですか」
「そうです、人は不可能だったことも可能に出来ます
「そうなっていきますね」
「何処までも進歩、発展して」
「不可能が可能になっていく」
「それが人間です、そうした意味でも青薔薇が好きです」
このお花がというのです。
「薔薇は全て好きですが」
「赤薔薇や白薔薇も」
「イギリスの国花ですし」
「尚更ですね」
「薔薇は昔からイギリスで愛されていまして」
そうであってというのです。
「お家の象徴にもなりました」
「あっ、薔薇戦争では」
日笠さんはこの戦争のことを思い出しました。
「そうでしたね」
「ヨーク家とランカスター家が王位を争いましたね」
「それぞれの家が薔薇を象徴して」
「白薔薇と赤薔薇を」
「ヨ−ク家が白薔薇でしたね」
「ランカスター家が赤薔薇でした」
「そして三十年の間戦ったのですね」
日笠さんは先生にお話しました。
「そうでしたね」
「そうです、そうしたこともありましたし」
「薔薇はイギリスにとって特別なお花ですね」
「そうなっています、それで僕も好きです」
先生もというのです。
「とても」
「では今ここにおられて」
「幸せです」
「それは何よりです」
「はい、薔薇は本当にいいですね」
日笠さんににこりと笑って言うのでした。
「最高のお花の一つです」
「そう言ってもらって私も幸せです」
「日笠さんもですね」
「そうです、先生をお誘いしてよかったです」
こうも言うのでした。
「本当に」
「そこまで言って頂けるとは」
「薔薇がお好きだとは思っていましたが」
「大好きです」
「それは何よりです、ただ日本では長い間」
「薔薇は欧州のイメージが強いですか」
「そうですね」
日笠さんは否定せずに答えました。
「日本には数多くのお花がありますが」
「薔薇は欧州のイメージが強いですね」
「日本を象徴するお花は」
「やはり桜ですね」
「はい、桜はです」
日笠さんはスコーンを食べつつまさにと答えました。
「日本を象徴する」
「そうしたお花ですね」
「ですからあらゆる場所に植えられていまして」
「学校では特にですね」
「そして春になりますと」
「咲き誇りますね」
「そうなります」
先生にまさにと答えました。
「日本中で。そしてお花見といいますと」
「桜を見ますね」
「日本では」
「そうですね、それがイギリスではです」
「薔薇になりますか」
「強いて言いますと」
その薔薇達を見て日笠さんにお話するのでした。
「そうなります」
「そうですか」
「はい、そして」
先生はさらにお話しました。
「もっと言えばローマ帝国でもです」
「薔薇は好まれていましたね」
「はい」
そうだったというのです。
「あのネロもです」
「薔薇が好きだったのですね」
「長い間暴君と呼ばれていましたが」
この人はというのです。
「実はです」
「違いましたね」
「そうでした、暴君というのは」
この悪名はというのです。
「キリスト教を弾圧したからで」
「それからのことですね」
「キリスト教徒はネロ以前から弾圧されていました」
「ネロが最初ではありませんでしたね」
「帝国にある多くの宗教や皇帝の権威を認めなかったので」
その為にというのです。
「言うならば不穏分子だったので」
「弾圧されていたんですね」
「ネロが問題ではなく」
「帝国を認めなかったので」
「弾圧されていました、ですがネロはしっかりとローマの国家戦略を理解していて」
そうしてというのです。
「政治を行い平民や奴隷にも寛容で」
「政治はよかったのですね」
「火災の際も陣頭指揮を執りましたし」
そうもしていたというのです。
「有名なローマの火災ですが」
「その時にですね」
「はい」
まさにというのです。
「火の粉が降りかかることもものともせず」
「陣頭指揮を執って」
「後の救済政策も街の債権も行いました」
「いい皇帝でしたか」
「全体に見て。ただ短気なところがあり」
性格的にというのです。
「そして平民や奴隷に寛容で貴族達から反発を受けギリシア文化が好きで」
「そのことも問題だったのですか」
「ローマ固有の文化を貴ぶ保守派の人達からも好まれていませんでした」
「大カトーの様な」
「そうです、しかも自分では軍隊を率いたことがないので」
「そうだったのですね」
「軍隊を動かせても」
それは出来てもというのです。
「自分は率いられませんでした」
「それが問題だったのですか」
「ローマ皇帝は時として自ら軍を率いて戦うものだったので」
「そいえば」
日笠さんも言われて気付きました。
「ローマ帝国を築いたカエサルもでしたね」
「その基礎を固めましたね」
「ローマが帝国になるにあたって」
「彼もそうでしたね」
「軍隊を率いていましたね」
「代々の皇帝は戦争になりますと」
その時はというのです。
「軍を率いることもありました」
「そうだったのですね」
「ローマ皇帝はインペラトールとも呼ばれ」
「それが英語のエンペラーの語源ですね」
「そうです、これは軍の最高司令官です」
「その意味がありますか」
「そうです、その軍の最高司令官が自分では軍を率いることが出来ないことは」
このことはといいますと。
「致命的な弱点でした、そこを衝かれ」
「確か反乱を起こされて」
「失脚して自殺していますね」
「そうでしたね」
「そうです、そのネロはです」
この人についてさらにお話するのでした。
「薔薇をこよなく愛していて」
「それで、ですか」
「薔薇に囲まれて暮らしていて」
そうであってというのです。
「薔薇の花が入ったプールに入り」
「泳いでいたのですか」
「食事にもです」
こちらにもというのです。
「薔薇は食べられるので」
「花びらがですね」
「そうですから」
だからだというのです。
「薔薇が入ったサラダを食べて」
「サラダですか」
「薔薇の香りがするお水を飲み」
飲みものもそうだったというのです。
「薔薇のプティングを食べていました」
「本当に薔薇が好きだったのですね」
「そうでした」
こう日笠さんにお話しました。
「あの人は」
「意外といいますか」
「言われていた姿と違いますね」
「はい」
日笠さんはまさにと答えました。
「そうした人だったのですね」
「そうです、それにです」
先生はさらにお話します。
「当時は民衆の支持も高かったです」
「貴族にはよく思われていなくても」
「民衆の為の政治を行い」
そうであってというのです。
「気前もよかったので」
「支持は高かったのですね」
「ですから死んだ後も」
自害してというのです。
「生きていてまた帰って来るとです」
「言われていたのですね」
「死んだと思っていた人達も」
「ネロを支持していたのですか」
「それでお墓にはお花が絶えなかったそうです」
そうだったというのです。
「そこまでです」
「ネロは支持されていましたか」
「政治自体はいいと言っていいもので」
そうであってというのです。
「民衆、平民や奴隷のことを考えたいたので」
「いい皇帝だったのですね」
「そうでした」
「実は暴君出なかったのですね」
「キリスト教が定着してから」
「キリスト教を弾圧したので」
「そうだったので」
だからだというのです。
「悪く言われる様になりました」
「そうでしたか」
「そうです、善政を行い芸術と薔薇を愛してです」
「民衆のことを考えてても」
「状況が変われば」
先生は薔薇の香りの中で紅茶を飲みつつお話しました、その雰囲気を決して悪いものではないと思いながら。
「そうしたところもです」
「変わりますか」
「そうです、そして薔薇はローマの頃もです」
「愛されていたのですね」
「あのクレオパトラも好きで」
美貌で知られたこの人もというのです。
「アントニウスを出迎える時に」
「薔薇を用いたのですね」
「船一面に薔薇の花を敷き詰めて」
そうしてというのです。
「出迎えたのです」
「凄い演出ですね」
「そうですね、兎角薔薇はです」
サンドイッチを食べる日笠さんにお話しました。
「この様にです」
「昔からですね」
「愛されているお花です」
「そうですか」
「そして」
先生はさらにお話しました。
「先程薔薇を食べられるというお話をしましたが」
「そのことですか」
「薔薇のジャムもありますね」
「そうですね」
日笠さんも頷きました、そしてです。
自分の手元を見てです、先生に言いました。
「薔薇のジャムはこちらにもあります」
「ジャムも楽しみませんか」
「そうですね」
先生の言葉に笑顔で応えました。
「それでは」
「薔薇のジャムも素敵ですよね」
先生は早速ジャムの蓋を開けて日笠さんにどうぞと言ってサンドイッチを渡してもらってその表面にジャムを塗りつつお話しました。
「苺やブルーベリーのジャムも美味しくて」
「いえ、私はこれまで」
「召し上がられたことはないですか」
「実は」
そうだというのです。
「今回がです」
「はじめてですか」
「薔薇のジャムをいただくのは」
「そうなのですね、これがです」
先生はその日笠さんに笑顔で応えました。
「中々いいものなので」
「それで、ですね」
「召し上がられても」
そうしてもというのです。
「いいですので」
「それで、ですね」
「召し上がられて下さい」
「それでは」
日笠さんは微笑んで頷きました、そしてです。
薔薇のジャム、深紅のそれを塗ったサンドイッチを一口食べました。先生も同じ様にしたサンドイッチを食べています、そのうえで日笠さんに尋ねました。
「如何でしょうか」
「美味しいですね」
日笠さんは笑顔で答えました。
「甘くて香りもです」
「薔薇の香りがしますね」
「そのこともです」
まさにというのです。
「素晴らしいです」
「そうですね、この通りです」
「薔薇のジャムも美味しいですね」
「こうして食べられることもです」
「薔薇のいいところですね」
「はい」
まさにというのです。
「僕はそう思いますが」
「そうですね」
日笠さんも笑顔で頷きました。
「薔薇は素敵なお花です、それに」
「それにといいますと」
「先生は私のサンドイッチにジャムを塗ってくれましたが」
「それが何か」
「そのお気遣いが」
このことがというのです。
「とてもです」
「嬉しいですか」
「はい」
そうだというのです。
「ご一緒させてもらってよかったです」
「そうなのですか」
「とても」
笑顔で言うのでした。
「またご一緒したいです」
「そう言われるなら」
先生はにこりと笑って応えました。
「宜しくお願いします」
「それでは」
明るくお話をしてでした。
日笠さんはティーセットと紅茶を楽しんでです。
薔薇を観てその香りもそうしました、そうしてまたこちらでティーパーティーが行われたら一緒にと約束をしました。
先生はそれからお家に帰りました、そのうえで皆にパーティーのことをお話すると皆笑顔で言いました。
「合格だよ」
「百点満点だよ」
「先生のよさが出たわ」
「最高だよ」
「そんなにいいかな、別にね」
遠征は居間でお茶を飲みつつ少しきょとんとして応えました。
「僕はね」
「いやいや、よかったよ」
「先生ファインプレーじゃない」
「薔薇の歴史もお話して」
「ジャムも塗ってあげたんだから」
「そんなにいいことかな」
先生は今度は首を傾げさせて言いました。
「別にね」
「普通だっていうんだね」
「先生は」
「そうなのね」
「そうじゃないかな、紳士でありたいと思っていて」
先生としてはです。
「それでね」
「それでだね」
「ジャムを塗ってあげたね」
「自分から」
「レディーファーストでね」
それでというのです。
「やっていってるよ」
「そうだよね」
「それがいいのよ」
「紳士であることは先生の魅力の一つだよ」
「それを出せてね」
「そうなんだね、まあ皆がいいって言ってくれるなら」
それならと言う先生でした。
「僕としてはね」
「いいね」
「そうだね」
「先生は」
「それならね」
こうしたお話をしてでした。
先生はスーツから作務衣に着替えてくつろぎに入りました、そしてお昼ご飯となりましたがその時にです。
ふとです、トミーが言いました。
「薔薇は食べられても和食では」
「使われないね」
先生はすぐに応えました。
「どうも」
「そうですよね」
「白いご飯に薔薇はね」
老馬が言いました。
「白と赤でよくても」
「日本の国旗の色のもなってね」
トートーは赤と白と聞いてこう言いました。
「色合いはいいけれど」
「味はね」
どうもと言うジップでした。
「合いそうにないね」
「パンでしょ、薔薇には」
ガブガブはきっぱりと言いました。
「ジャムでもそうだし」
「サラダとかプティングに使っても」
「ご飯やお刺身には合わないね」
オシツオサレツは二つの頭で言いました。
「お醤油には」
「お味噌にも」
「和菓子ならいける?」
「工夫したらね」
チープサイドの家族はそちらのことを考えました。
「それなら」
「洋菓子みたいにね」
「けれどご飯には合わないね」
どうにもとです、ホワイティは言いました。
「やっぱり」
「何かピンとこないわね」
ポリネシアも首を傾げさせます。
「和食には」
「欧州のお料理だね、薔薇は」
食いしん坊のダブダブは自分の考えをお話します。
「何と言っても」
「敢えて使うなら洋食かな」
チーチーはこちらのジャンルのお料理を言いました。
「日本のお料理で薔薇を使うならね」
「パンにジャムを塗るならね」
それならと言う先生でした。
「いいね」
「そうだよね」
「それならね」
「問題ないね」
「そうしたら」
「うん、日本料理は和食だけでないから」
そうであるからだとです、先生も言います。
「洋食ならいけるかもね」
「そうだよね」
「じゃあそうしたお料理あったら食べてみよう」
「お店であったら」
「ジャム以外にね」
「そうしてみようね、ご飯に赤いものと言えば」
先生は白いご飯を食べつつ言いました。
「何と言ってもね」
「梅干しだよね」
「特にご飯の真ん中に置くといいよね」
「赤と白で色合いも奇麗で」
「まさに日本の国旗になるしね」
「日の丸弁当だね」
先生は笑顔で言いました。
「まさに」
「そうそう、あれね」
「日本のお弁当って多いよね」
「おかずがあってもね」
「ご飯の真ん中に梅干しを置くのが」
「日本の国旗にするのが」
「梅干しはご飯に合うし」
それにと言う先生でした。
「防腐にもなるしね」
「いいこと尽くしだよね」
「日の丸弁当は」
「何かと」
「これをはじめたのは誰かというと」
その梅干を食べつつ言う先生でした。
「乃木希典大将なんだ」
「ああ、あの」
「日清戦争と日露戦争で活躍した」
「あの人だね」
「そうだよ、あの人がね」
先生はご飯も食べつつ言います。
「最初にはじめたそうだよ」
「そうなんだね」
「それは意外だね」
「あの人がはじめたなんて」
「日の丸弁当を」
「質素な人でね」
乃木大将という人はというのです。
「若い頃は放蕩もしたそうだけれど」
「それがだね」
「僕達が知ってる乃木大将になったんだね」
「質素で謹厳実直な」
「そんな人になったんだ」
「そうなんだ」
まさにというのです。
「あの人はね」
「最初からじゃなかったんだ」
「当初はそんな人だったんだ」
「放蕩もした」
「そんな人だったんだ」
「行いをあらためて」
そうしてというのです。
「家のお食事は稗ご飯にして」
「ああ、稗ね」
「稗をご飯に入れてたんだ」
「そうして食べていたんだ」
「お家では」
「それでも外では奮発して」
そうしてというのです。
「白いご飯でね」
「真ん中に梅干しを置いて」
「それでだね」
「それを食べていたんだね」
「あの人は」
「そうだよ、世界的にはずっと評価の高い人だけれど」
乃木大将ご自身のお話もするのでした。
「戦後日本では長い間評価が低かったね」
「そうだね」
「そうだよね」
「どうも」
「無能とか言われてたね」
「戦争が下手だったって」
「全く違うよ」
その評価はというのです。
「日露戦争での旅順のことがよく言われるけれど」
「中々攻め落とせないで」
「損害が多過ぎて」
「二人の息子さんも戦死させて」
「そう言われてるね」
「うん、けれどね」
それでもというのです。
「あの要塞はとても堅固でね」
「中々攻め落とせなかったね」
「何でも日本軍人も弾薬も足りなくて」
「そんな中で攻めたから」
「苦戦は当然だったね」
「親友でもあった児玉源太郎さんが来て指揮権を譲って」
そうしてというのです。
「一緒に戦ったけれど」
「それでもだね」
「乃木大将の役割は大きかったよね」
「あの戦いでも」
「僅か五ヶ月で」
それだけでというのです。
「旅順要塞を陥落させたって」
「そうだね」
「そう言われてるね」
「日本以外の国では」
「そうね」
「そしてだよ」
先生は乃木大将についてさらにお話しました。
「次の奉天の戦いでは」
「大活躍したよね」
「あの人の率いる第三軍が攻めまくって」
「そして勝ったよね」
「他の軍が苦戦する中で」
日本軍のというのです。
「あの人の軍が活躍して」
「そしてだね」
「あの会戦で勝ったね」
「そう思うとね」
「あの人は凄いね」
「乃木大将は率いる将兵の人達の全力を引き出させて」
そうしてというのです。
「士気を極めて高いまま維持する人だったんだ」
「それ凄いよね」
「滅多にない能力だよ」
「そんな能力あってね」
「戦ったからね」
「稀有な名将だったよ」
そうだったというのです。
「あの人はね」
「そうだよね」
「どう見てもね」
「公平に見たらそうだね」
「物凄い名将だね」
「あの人は」
「それをよくわかっていた方は」
どなたかといいますと。
「明治天皇だったんだよ」
「そうだよね」
「あの方が一番ご存知だったね」
「乃木大将がどんな人か」
「よくね」
「そうだったよ、そしてね」
そうしてというのです。
「乃木大将を更迭しろって言う意見が出ても」
「そうされなかったね」
「あくまで乃木大将に任せたね」
「あの方は」
「そうだよ、乃木大将ならば」
そうであればというのです。
「部下の人達も戦える」
「そのことをご存知だったから」
「第三軍を任せて」
「最後まで戦って」
「そして要塞を攻め落として」
「奉天でも勝ったね」
「そしてあの会見もだったね」
先生はご飯を食べつつ言いました。
「師水営のね」
「そうそう、あの会見ね」
「あの会見は素晴らしかったね」
「本当に」
「降伏した敵将に帯剣での会見を認めて」
「礼を尽くしてね」
「軍人というのは戦争に勝つことが大事だけれど」
先生は真面目なお顔で言いました。
「それだけじゃないね」
「国家を背負ってるからね」
「恥ずかしい行いは駄目だよね」
「絶対に」
「それこそね」
「そう、何があってもね」
それこそというのです。
「そしてそれをね」
「あの人は果たしたよね」
「降伏した敵将に礼を尽くして」
「そして世界的に評価されたね」
「日本の名声を上げたね」
「そうしたからね」
だからだというのです。
「本当にね」
「素晴らしい軍人さんだよね」
「名将であって」
「そうであると共にね」
「だからね」
それでというのです。
「僕も言うよ」
「あの人は名将であって」
「そして素晴らしい軍人だったって」
「そう言うのね」
「先生も」
「そうだよ」
こう言うのでした。
「あの人はね」
「そうだよね」
「何でか戦後の日本ではずっと評価低かったし」
「当時でもだよね」
「随分批判されたんだよね」
「日本からしたら焦っていたからね」
そうだったというのです。
「一国も早く旅順要塞を攻め落としたかったのに」
「それがだね」
「日本から見て思う様にいかなかった」
「損害も出て」
「それで焦ってたんだね」
「物凄く堅固な要塞で」
またこのことを指摘する先生でした。
「人も弾薬も足りなかったんだ」
「それじゃあね」
「攻め落とせないのも道理だね」
「堅固な要塞で」
「人も弾薬も足りないなら」
「そうだよ、けれど攻略して」
旅順要塞をというのだ。
「そこにいる艦隊を壊滅させないとね」
「バルチック海からはるばるロシアの艦隊が来ていたし」
「旅順の艦隊と合流されたらね」
「戦力がアップしてもう日本海軍じゃ勝てない」
「そうした状況だったからだね」
「焦っていたんだ」
当時の日本はというのです。
「それで当時は乃木大将は何をやっているんだってね」
「なってだね」
「それで批判していたんだね」
「けれどその実は」
「乃木大将は凄かったね」
「そうだよ、その乃木大将がね」
まさにというのです。
「はじめたのがね」
「日の丸弁当だね」
「白いご飯の真ん中に梅干しを置いた」
「そのお弁当だね」
「そうなんだよ」
笑顔で言ってでした。
先生はご飯を梅干を食べました、その白と赤の色合いもとても奇麗でそちらからも楽しめる食べ方でした。