『ドリトル先生と不思議な自衛官』




                第五幕  海上自衛隊のカレー

 堀与さんの案内を受けてです。
 先生達は海上自衛隊の舞鶴の基地港に総監部に倉庫それに学校を観て回っていきます。その中で、です。
 堀与さんは笑ってです、こんなことを言いました。
「私が最初に来た時とは全く変わりましたね」
「そうですか」
「はい、最初に来た時はです」
 先生に暖かい笑顔でお話しました。
「これだけハイテクではなくて」
「海自さんも日進月歩ですからね」
「そうですね、木造の建物が多くて」
「木造ですか」
「それに煉瓦ですね」
「煉瓦はです」
 先生は煉瓦と聞いてこう言いました。
「海軍の伝統ですね」
「はい、流石先生ですね」
 堀与さんは先生の煉瓦についての言葉に笑顔になりました。
「そうです、まさにです」
「煉瓦、赤煉瓦といえば」
「帝国海軍でして」
「そうでしたね」
「江田島の兵学校でも使っていまして」
「今の幹部候補生学校ですね」
「今も使われていて横須賀でもで」
 この街でもというのです。
「それでこの舞鶴でも」
「赤煉瓦の建物がありますね」
「そうでして私が最初に来た時は」
「木造建築とですか」
「赤煉瓦の建物がです」
 その二つがというのです。
「どんどん建てられていましたね」
「どんどん、ですか」
「はい、そうでした」
「そうですか」 
 先生はここで微妙なお顔になりました、ですがそれは一瞬で掘与さんのお話をさらに聞くのでした。
 堀与さんはさらにです、こう言ったのでした。
「コンクリートはいいですね」
「その建築の建物は」
「あの頃はです」
 こう先生に言うのでした。
「貴重でしたが今は違いますね」
「はい、全部コンクリートで」
 先生はすぐに応えました。
「軍事施設らしく」
「堅固ですね」
「そうでしたね」
「あの頃は爪に火を灯す様に」
「そうしてですか」
「日本全体が必死で」 
 それでというのです。
「まさに坂の上の雲を掴もうとしていました」
「そうした状況でしたか」
「そうでした、その頃と比べると」
「今のこの基地は、ですか」
「非常に立派ですね」
 先生に笑顔でお話しました。
「ヘリコプターの基地まであって」
「ヘリコプターも多いですね」
 先生はこの兵器のお話を聞いても言いました。
「海自さんは」
「哨戒機にですね」
「空も万全ですね」
「予算も技術もありますので」
「そうですね」
「あの頃とは違いますね」
 またこうしたことを言うのでした。
「本当に」
「そうですか」
「それでいて昔の雰囲気も残していて」
「海軍の伝統もですね」
「煉瓦もあって学校の建築様式も」
 それもというのです。
「そうですから嬉しいです」
「そうなのですね」
「はい、それでお昼ですが」
 堀与さんはそちらのお話もしました。
「カレーはどうでしょうか」
「海自さんだからですね」
「そうです」
 先生に笑顔で答えたのでした。
「やはりです」
「カレーですね」
「美味しくて栄養があって身体も温まるので」
 だからだというのです。
「こうした寒い時もです」
「最適ですね」
「そうですから、それと」
「それと?」
「今は毎週金曜日にカレーを食べますね」
「自衛隊全体でそうですね」
「昔は違ったんです」 
 こうお話するのでした。
「かつては」
「かつてはカレールーがなくて」
「多くのスパイスを調合してです」
「作っていましたね」
「手間もお金もかかったので」
「戦争前は、ですね」
「そうした状況だったので」
 だからだというのです。
「毎週はとても無理なので」
「それで、ですね」
「時々でした」
「毎週は戦後からですね」
「技術が進歩して食事もです」
 こちらもというのです。
「進歩して」
「カレールーも出来たので」
「そうなりました、あと卵もです」
 こちらもというのです。
「昔はです」
「日本では高価でしたね」
「バナナと卵があそこまで安くなるとは」
 堀与さんは少し苦笑いになって言いました。
「思いませんでしたが」
「そうでしたか」
「はい、ですがその卵もです」
 こちらの食べものもというのです。
「昔は高くてアイスクリームでもです」
「使われていませんでしたね」
「若し使っていれば」 
 そのアイスクリームはというのです。
「高級でした」
「そうでしたね、戦前の日本では」
「卵焼きもオムレツもそうで」
 贅沢なものだったというのです。
「大和ではオムライスが人気だったそうですが」
「カレーと共に」
「あまりです、特に下士官や水兵はです」
「そうは食べられなかったですね」
「今はオムライスも何でもないものですね」
「僕も好きで結構食べています」
 先生はオムライスの味を思い出しつつお話しました。
「いい日本のお料理ですね」
「洋食の中のですね」
「よくあんなものを考え出してくれました」
 こうまで言う先生でした。
「オムレツの生地の中にチキンライスがあって」
「その組み合わせがいいですね」
「最高です」
 こう言うのでした。
「そう思います」
「それは何よりです。そのオムライスもです」
「かつてはですね」
「贅沢でした」
 今は誰もが普通に食べられる食べものでもというのです。
「そうでした、本当にです」
「かつてはですね」
「日本全体が爪に火を灯す様で」
 それでというのです。
「今の様にはです」
「豊かでなく」
「まさにはじまったばかりの」
 そうしたというのです。
「大変な。ですがとても明るい」
「そうした時代でしたか」
「そうでした。ですが今の発展している我が国も」
 その日本もというのです。
「いいですね、これからもです」
「日本は、ですね」
「発展します、やろうという気があれば」
 そうであると、というのです。
「これからもさらにです」
「発展出来ますね」
「そうなります、ではカレーも」
「はい、頂きます」
 先生は皆と一緒に笑顔で応えてでした。
 堀与さんと王子に執事さんそれと動物の皆と一緒にカレーを食べました、海自さんのカレーはとても美味しかったです。
 昼食の後で少し休憩となって堀与さんは総監部でやることがあって一時には皆のところに戻るとお話してです。
 そちらに行きました、すると王子は休憩場所に入った基地の中の喫茶店におい手紅茶を飲みつつ言いました。
「何かあの人って」
「堀与さんだね」
「言葉に鹿児島の訛りがあるね」
「王子も気付いたね」
「うん、それに英語も喋ってくれて」
 そしてと一緒にいる先生にお話しました。
「国際法についてもだったけれど」
「どちらも凄かったね」
「けれどその英語も」
 こちらもというのです。
「やっぱりね」
「鹿児島のだね」
「訛りがあるね」
「しかもあれは昔のものだよ」 
 先生はミルクティーを飲みつつ指摘しました。
「昔の鹿児島弁だよ」
「薩摩弁っていった」
「それだよ」
「あっ、確かね」
 チーチーがそのお話を聞いて言いました。
「昔の薩摩弁って凄く独特だったね」
「そうそう、もう他のところの人が聞いてもわからない様に」
 ポリネシアが応えました。
「敢えて独特にしたのよね」
「幕府とかから隠密が入って来ても何お話してるかわからない様に」
 それでと言うダブダブでした。
「わかりにくくしたんだね」
「それで実際にかなりわかりにくかったんだったね」
 ホワイティも言います。
「昔の薩摩弁は」
「それで幕末維新で他の藩の人達が苦労したんだったね」 
「何言ってるかわからなくて」
 チープサイドの家族もお話します。
「じゃっどんとか言われても」
「何それだったんだよね」
「おいこらってのも薩摩弁だけれど」
 それでもとです、ジップは言いました。
「怒ってるんじゃなくて普通に言うことだったそうだしね」
「いや、その言葉の訛りって」
 老馬は少し驚いて言いました。
「結構凄いね」
「今の鹿児島の人もわからないのよね」 
 ガブガブはこのことを言いました。
「確かね」
「それも当然だね」
「あまりにも複雑だから」
 オシツオサレツは先生を見てお話しました。
「先生でもないとね」
「そうそうわからないね」
「先生は日本語の方言も学んでいるから」 
 トートーはそれでと言いました。
「わかるけれどね」
「うん、ただ僕もそのままでお話されたら」
 その薩摩弁をです。
「わからないね」
「そうなんだね」
「先生でも」
「あまりにも独特だから」
「日本の方言の中でも」
「津軽弁もだけれどね」
 こちらの方言もというのです。
「かなりわかりにくいよ」
「言葉の訛りがね」
「かなり凄いから」
「それでだね」
「わからないよ、そして堀与さんの言葉はね」
 ミルクティーを一口飲んで言いました。
「それがあったよ」
「ううん、そうなんだね」
「普通にお話していても」
「英語でも」
「そうなのね」
「あと国際法についてね」
 先生は堀与さんがお話してくれたこのことについてもお話しました。
「かなりの知識があったね」
「海自さんって国際法かなり学んでるんだったね」
「特に士官の人は」
「そのうえで勤務しているのよね」
「国際法を常に守って」
「自衛隊は真面目に守っているよ」
 その国際法をというのです。
「世界一と言っていいんじゃないかな」
「そのこともいいことだね」
「そうしたものを守ることも」
「ちゃんと学んでね」
「そのうえでということは」
「このことは戦前からでね」
 国際法を学んでいることはです。
「東郷平八郎さんは国際法の権威でもあったんだ」
「へえ、そうだったんだ」
「あの人国際法の権威でもあったのね」
「ただ提督として優れていただけでなくて」
「国際法にも詳しかったんだ」
「そうだったんだ」 
 このこともお話するのでした。
「あの人はね」
「成程ね」
「そのことははじめて知ったけれど」
「ただ軍人として立派であるだけでなくて」
「国際法にも詳しい」
「そうした意味でも優れていたんだ」
 そうだったというのです。
「最高の軍人と言ってよかったんだ」
「ううん、尚更凄いね」
「立派な軍人だったんだ」
「本当に」
「国際法に詳しいということでも」
「僕も調べていて唸ったよ」 
 先生はそうなったというのです。
「凄い提督さんだと思っていたけれど」
「それだけじゃなくて」
「国際法の権威でもあって」
「そちらでも凄かった」
「そんな人だったんだね」
「そのことをちゃんとね」
 それこそというのです。
「学んでいくとね」
「いいね」
「そうだね」
「あの人について詳しく学ぶ」
「そうしていくことだね」
「日本人もね、そういえば」
 ここで先生はふと気付いて言いました。
「堀与さん何処かで見たかな」
「何処かって?」
「いや、何かね」
 王子に応えて言いました。
「それが何処かはわからないけれど」
「それでもなんだ」
「そんな気がするんだ」
「知り合いの人かな」
「いや、どうだったかな」
 先生は首を傾げさせて応えました。
「そこまではね」
「わからないんだ」
「そうだけれどね」
「先生お会いしてきた人多いしね」
 王子もミルクティーを飲んでいます、そのうえで先生に応えました。
「だからだね」
「その中におられるかな」
「似ている人が」
「どうだったかな」
「例えばね」
 王子はこうも言いました。
「絵とか写真でも」
「芸術のだね」
「あと資料で」
「学問の時のだね」
「それでかな」
「そうかも知れないね」
 先生も否定しませんでした。
「学んでいるとね」
「肖像画とか写真も見るね」
「うん、人のね」
「そうだね」
「だからね」
「その中で記憶にあるとなると」
「ちょっと誰かはね」
 それこそというのです。
「わからないね」
「そうだね、それで堀与さん薩摩弁の訛りがあるとしたら」
「出身はだね」
「そっちかな」
 鹿児島ではとです、王子は思いました。
「どうかな」
「その可能性はあるね」
 先生も否定しませんでした。
「やっぱりね」
「そうだよね」
「ただ昔の薩摩弁は」
「今は鹿児島県でもだね」
「知っていてね」
 そうしてというのです。
「喋られて理解出来る人は」
「僅かなんだ」
「うん、そうだからね」
 それでというのです。
「それを使うとなると」
「かなり限られているね」
「堀与さんは四十代前半みたいだけれど」
「その年齢で昔の薩摩弁となると」
「ちょっとね」
 どうにもという口調でお話するのでした。
「いないんじゃないかな」
「そうなんだね」
「うん、鹿児島弁なら兎も角」
 今現在のというのです。
「ちょっと合わないね」
「そこが不思議なんだね」
「僕はね」
 そう思うというのです。
「どうにもね」
「今の鹿児島弁も流れを汲んでるね」
「薩摩弁のね」
「それじゃないかな」
「そうかもね、じゃあね」
「うん、少しだね」
「ご本人に聞いてみようか」
 堀与さんご自身にというのです。
「よかったらね」
「生まれは何処か」
「自衛隊は日本各地から人が集まるから」
「そうだよね」
「特に幹部になると」
 即ち士官にというのです。
「転勤も多いし」
「日本各地を移っていくね」
「海外にもね」
 日本だけでなくというのです。
「行くこともあるよ」
「駐在武官や留学でだね」
「そう、そうした職務でね」
「行くことになるね」
「そこはね」
「他の国の軍人さんと同じだね」
「そうだからね」
 それ故にというのです。
「あの人もね」
「舞鶴にいても」
「鹿児島の人でもね」
 そちらの出身でもというのです。
「別にね」
「不思議じゃないね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「自衛隊ではね」
「それじゃあ」
「まずはお聞きする?」
「堀与さんに」
「そうするのね」
「何処となくね」
 こうお話してでした。
 実際に喫茶店に堀与さんが来ると先生は何処となく尋ねました。
「そういえばご出身を聞いていなかったですね」
「福岡ですが」
「福岡の方ですか」
「はい、それが何か」
「いや、言葉に九州の訛りがあったので」
 先生は同じ九州なら有り得るかもと思いつつ応えました。
「若しやと思いまして」
「よく言われます、それも鹿児島のですね」
 堀与さんは笑ってこうも言いました。
「そちらの」
「はい、それも薩摩弁の」
「そうですね、言われます」
「そうでしたか」
 内心驚きつつです、先生は応えました。
「そう言われますか」
「よく。生まれは福岡ですが」
 それでもというのです。
「実際鹿児島に縁がありまして」
「それで、ですね」
「鹿児島昔の方言がです」
「出ますか」
「そうなのです」
「かなり高齢の方の言葉を聞いてでしょうか」
 先生は堀与さんに尋ねました、堀与さんも喫茶店の飲みものを注文しましたが飲んでいるのはコーヒーです。
「それで」
「そうなりますね」
 否定しない返事でした。
「それは」
「そうですか」
「はい、あとです」 
 堀与さんはさらにお話しました。
「カレーはいただきましたね」
「美味しかったです」
「では後は」
「後はといいますと」
「ビーフシチューにです」
 このお料理にというのです。
「肉じゃがをです」
「いただくといいですか」
「是非、どちらもです」
 先生に笑顔で言うのでした。
「召し上がって頂ければ」
「堀与さんとしてはですね」
「嬉しいです」
 こうお話するのでした。
「まことに」
「だからですね」
「舞鶴にいる間にです」
「食べるといいですね」
「どちらも美味しくて温まって」
 身体がというのです。
「栄養満点なので」
「いいですね」
「是非共」
「しかし凄いですね」
 ここで、でした。王子は笑って堀与さんに言いました。
「ビーフシチューが肉じゃがになるなんて」
「調味料が変わるとですね」
「そうなるなんて」
 それはというのです。
「凄いですね」
「いや、あの時はまさかと思いました」
 堀与さんは王子にも笑顔で応えました。
「ビーフシチューがあの様になるとは」
「そうですよね、しかも美味しいですから」
「奇跡ですね、ただそこに糸蒟蒻が入りますと」
 肉じゃがにです。
「尚更です」
「美味しいですね」
「はい」 
 そうだというのです。
「流石にビーフシチューに糸蒟蒻は入っていないですね」
「そうですよね」
「肉じゃがも時代と共にです」
「変わっていますか」
「はい、そして」
 それにというのです。
「ビーフシチューもです」
「変わっていますか」
「あの頃食べたものとは」
「そうですよね」
「それに前にイギリスに行って」
 そうしてというのです。
「その時にビーフシチューを食べましたが」
「どうでしたか?」
 イギリス生まれの先生が尋ねました。
「そちらは」
「あの時のビーフシチューよりずっと美味しかったですが」
「それでもですか」
「日本で食べる方がです」
「美味しかったですか」
「あの時のイギリスはあまりにも凄い国で」 
 それでというのです。
「何もかもに驚いてお料理もです」
「凄かったですか」
「はい、はじめて食べて海軍の士官のものだったので」
「普通のお料理ではなかったですね」
「今の自衛隊は誰もが同じものを食べていますが」   
 基地そして艦内のです。
「昔は。海軍は違っていまして」
「士官の人は軍属のコックの人達が作った」
「はい、お金を支払ったうえで」
 士官の人達がです。
「そうした贅沢なものでしたが」
「イギリス海軍に倣っていましたね」
「メニューも。そしてその元のです」
「イギリス海軍の士官のお食事はよかったですね」
「そうでしたので」
「美味しかったですね」
「ですがこの前いただきますと」
 そうすると、というのです。
「これが随分とです」
「よくなかったですか」
「お話は聞いていました」
 イギリスのお食事のことをです。
「それがです」
「お話通りでしたね」
「ご自身で言われますか」
「はい、そう思いましたので」 
 実際にというのです。
「その様に」
「イギリスのお料理は有名だからね」
 ホワイティが言いました。
「まずいってね」
「海軍のお食事は兎も角」
 ポリネシアも言います。
「普通のお食事は酷いものよ」
「もうどれだけまずいか」
 ジップはそれこそと言いました。
「世界的に有名だからね」
「実際に日本に来て痛感してるよ」
 ダブダブは食いしん坊として言います。
「イギリスのお食事は酷いよ」
「いや、火加減も味付けもね」
 トートーはどちらもと言いました。
「なってないよね」
「どんな素材でも生かしきれないね」
「そうよね」
 チープサイドの家族から見てもです。
「どうにもね」
「どんなお料理でもね」
「メニューも酷いわね」
 ガブガブはきっぱりと言いました。
「何それっていう様な」
「他の国から見ると」
 チーチーはそこに日本を入れてお話します。
「とんでもないものもあるよ」
「だからイギリス料理っていうとね」
 老馬はそれはと言いました。
「まずいっていうのが代名詞になってるね」
「流石に美味しいお店もあるけれど」
「シェフの人がちゃんとしてて」
 オシツオサレツは二つの頭でお話します。
「けれどね」
「そうしたお店でないとね」
「彼等は何を言っているのでしょうか」
 堀与さんは皆が言ったことを聞いて先生に尋ねました。
「一体」
「あっ、生きものの言葉はですね」
「私はわかりません」
「そうですね、実は」
 先生は皆が言ったことをそのまま通訳して説明しました、すると堀与さんは笑ってこう言ったのでした。
「ああ、夏目君もおそらくは」
「夏目君といいますと」
「夏目金之助君です」
「夏目漱石さんですか」
「おわかりですか」
「あの人についても学んだことがありまして」
 それでというのです。
「松山にも行ったことがあります」
「そうでしたか」
「あの人もイギリスに行かれていましたね」
「随分塞ぎ込んでいたとです」
 堀与さんはこう返しました。
「聞いています」
「そうらしいですね」
「おそらく食事も」
「合わなかったのですね」
「ジャムやアイスクリームはよかった様ですが」 
 お口に合ったというのです。
「ですが」
「他のものはですね」
「合わなかったのでしょうね」
「あの人もですね」
「そして」
 それでというのです。
「さらにです」
「塞ぎ込んで」
「大変だった様ですね」
「ロンドンでの暮らしはよくなかったと」
 夏目漱石さんのそれはというのです。
「知られていますね」
「それは私も聞いていました」
「そうでしたか」
「はい、ただ」 
 堀与さんはさらに言いました。
「彼の弟子筋の芥川君は」
「芥川龍之介ですね」
「非常に優秀で」
 そうであってというのです。
「機関学校で英語を教えてくれていました」
「作家になる前そしてなって暫くは」
「はい、彼は抜群の秀才で」
 そうであってというのです。
「英語の本もです」
「どんどん読破していましたね」
「そうでした」
「英語に堪能で」
「漢文にも強くてです」
「古文もよく読めましたね」
「実に凄い若者でした」 
 芥川という人についてこう言うのでした。
「彼は」
「それで有名でしたね」
「ですが夏目君も芥川君も」
 二人共というのです。
「まだやれるのでは」
「そうした時にですね」
「世を去りました、無常ですね」
 先生に達観した様に言いました。
「世の中というものは」
「人の一生はわからなくて」
「そうです、芥川君の自殺は」
 この人がそれによって人生を終えたことはというのです。
「今も言われていますね」
「はい、何かと」 
 先生も否定しません。
「議論され続けていますね」
「研究もされていますね」
「文学において」
「あの小説は碌でもない者が書くとされていて」
「学者になるとですね」
「とてもです」
 それこそというのです。
「読む様なものとはです」
「明治の初期はそう思われていましたね」
「今とは全く違いまして」 
 それでというのです。
「何かとです」
「否定されていましたね」
「そうでした。ですが」
 それがというのです。
「今は違いますね。夏目君も」
「文豪として知られています」
「誰もが知っている様な」
「そうです」
「そうですね、あの頃は」 
 さらにお話するのでした。
「夏目君は帝大を出て院まで進み留学もした」
「優秀な学者さんであり教師ですね」
「そうなると思われていました」
「そこが違いますね」
「この時代では文豪ですが」
 そう思われているけれど、というのです。
「あの頃はです」
「そう思われていましたか」
「それで結構癇癪餅ちでそそっかしい」
「そうしたところもあると」
「そうした人物ともです」
「言われていましたね」
「頑固で。私はよく彼はよく知りませんが」
 それでもというのです。
「そうした人物とです」
「評判でしたね」
「そうでした、あとです」 
 堀与さんはさらにお話しました。
「今の建物は大きいですね」
「大きいですか」
「いや、ただ立派になっただけでなく」
 それだけではなくというのです。
「大きくもなりました」
「そうですか」
「昔の日本人は小さかったですね」
「あっ、そうでしたね」
 王子もそれはと応えました。
「昔の日本人は」
「伊藤公で一五五位で」
「伊藤博文さんですね」
「今から見ますと」 
 二十一世紀の日本人からしてみればというのです。
「随分とです」
「小さかったんですね」
「他の人達もそうで」
「小さかったですね」
「私もそうで芥川君も」
 この人もというのです。
「一六四でしたね」
「今から見ると小柄ですね」
「当時はそれで普通位でしたが」
 それでもというのです。
「今はそうですね。ただ吉之助さあと一蔵さあは」
「ええと、その人達は」
 王子は今度出た二つのお名前を聞いてまずは自分の歴史の知識を辿ってそのうえで堀与さんに答えました。
「西郷隆盛さんと大久保利通さんですね」
「そうです、二人共一七五越えていて」
「そうですと当時は」
「かなり目立っていました」
「やっぱりそうですね」
「私から見てもです」
 それこそと言うのでした。
「かなり大柄で」
「目立ちましたか」
「はい、しかし吉之助さあは仕事が出来ると凄く褒めてくれて」 
「あの人はですね」
「一鞍さあは逆にあれこれ訂正を求めてきて」 
 そ9してというのです。
「厳しかったですね、同じ仕事をしても」
「言われることは違いましたか」
「対象的でした」
 お二人はというのです。
「まことに」
「よく言われていますね」
「実際にそうでして」
 それでというのです。
「今思うと個性が出て面白かったです」
「そうでしたか」
「はい、そして黒田卿も」 
 今度はこの人のお話をしました。
「背は当時の人でしたが面倒見がよくて」
「いい人でしたか」
「お酒が入ると困りましたが」
 このことは苦笑いを浮かべてお話しました。
「ですが細君に何かする様な」
「酔ってもですね」
「そんなことはしない人でした」
「その実は」
「いい人でしたよ、器も大きくて努力家で」
「教科書で言われている様とは違いますか」
「ああ、教科書に書かれていることは間違いが多いです」
 堀与さんはそちらは否定しました。
「その実は」
「言われている様にですね」
「そうです。間違いが多いだけでなく」
 それに加えてというのです。
「嘘それも意図的なものがです」
「多いですか」
「読んでいて呆れる位にです」
 そこまでというのです。
「そうした嘘や間違いが多いです」
「若しかして間違いも」
「はい、私が思う様に意図的にです」
「間違えていて」
「嘘と同じですね」
 それならというのです。
「そうしたものばかりの」
「酷い内容ですね」
「そうです」
「そうですか」
「はい、そして時間になりましたので」 
 それでとです、せんせいはまた言いました。
「午後もです」
「案内してくれますね」
「そうさせてもらいます」
 こうしてでした。
 皆は午後も堀与さんの案内を受けてそのうえで舞鶴の海上自衛隊の施設を観て回りました、そうしてでした。
 見学が終わるとホテルに戻りました、するとすぐに夕食のディナーを出してくれましたがビーフシチューもありまして。
 そのビーフシチューを食べてです、先生は笑顔で言いました。
「美味しいね」
「そうだね」
「とても美味しいね」
「シチューの味もよくて」
「お肉もお野菜もよく煮込まれていて」
「最高だよ、これなら」
 皆に応えつつ言うのでした。
「赤ワインにも合うね」
「そうだね」
「じゃあ赤ワインも飲んでね」
「何か海軍士官のお食事だね」
「ビーフシチューにワインだと」
「他のメニューもね」
 白魚のムニエルにオムレツに野菜料理にです、メインディッシュは合鴨のローストでデザートはアイスクリームです。
「そうだね」
「うん、いいよね」
「アイスまであるし」
「オムレツもあって」
「いい具合だね」
「そうだね、こうしてビーフシチューを食べると」
 どうかというのでした。
「海軍の感じがするね」
「カレーと並んでね」
「それじゃあ肉じゃがも食べたくなるね」
「そちらも」
「そうなるよね」
「後で飲みに行くけれど」
 その時にはというのです。
「是非ね」
「その時にだね」
「肉じゃがを食べるね」
「そうするね」
「そうするよ、東郷さんにとっては」
 この人にとってはというのです。
「本当にどちらもね」
「思い出の料理で」
「海軍から日本中に広まって」
「それで定着したね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「本当にね」
「そうだよね」
「カレーと同じくね」
「海軍からはじまったお料理だね」
「特に肉じゃがはそう言っていいね」
「そう言えるよ、だから食べようね」
 飲みに行った時にというのです。
「絶対に」
「いいよね、何かね」
 王子もビーフシチューを食べています、そのうえで言うのでした。
「舞鶴は寒いから尚更ね」
「ビーフシチューが美味しくて」
「肉じゃがもね」
「いいね」
「そう思えるよ」
 こう先生にお話するのでした。
「本当にね」
「そうだね」
「堀与さんが言う通りにね」
「温まるお料理というのもいいね」
「全くだね、じゃあ飲む時は」
「他のものも注文するけれど」
 それと共にというのです。
「肉じゃがはね」
「欠かせないね」
「この舞鶴だとね」
 絶対にというのです。
「そうだね」
「うん、じゃあね」
「肉じゃがも食べよう」
 こう言ってでした。
 皆でディナーの後は飲みに行って肉じゃがも食べるのでした、こちらの東郷さんに縁のある食べものも美味しかったのでした。








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