『ドリトル先生とラーメン』




                第十二幕  アンケートの結果が出て

 アンケートの集計が終わり結果が出ました、先生はご自身の研究室でその結果をチェックして言いました。
「一番人気が予想通りだったよ」
「薄口しょうゆの鶏ガララーメンだね」
「それよね」
「関西の学校でアンケート取ったから」
「やっぱり」
「うん、そうなったよ」
 動物の皆にお話しました。
「予想通りね、関西の人それに外国の人がね」
「あのラーメンなんだ」
「外国の人達はこの学園の寮にいるか兵庫県かその周りの府県から通ってるし」
「それじゃあだね」
「関西のラーメンに親しむね」
「そうなるからね」 
 だからだというのです。
「関西のラーメンが人気だよ」
「この八条学園って半分が外国の人なんだよね」
 このことをです、チーチーが指摘しました。
「そして日本人のかなりの割合が関西の人だよ」
「そうなるとやっぱり関西のラーメンが人気あるね」
 ダブダブはチーチーの言葉に続きました。
「そうなるね」
「親しんでいる食べものが一番で」
 それでと言うジップでした。
「ラーメンも同じだってことだね」
「それで他の都道府県から来ている人もそうで」
「そうした人達は出身地のラーメンを一番にするね」
 オシツオサレツは二つの頭で言いました。
「それでアンケートでもね」
「そうした人達の好みも出たね」
「けれど関西の学校でだと」
 ホワイティも言います。
「やっぱり関西のラーメンが強いね」
「ただ関西のラーメンっていっても色々で」
 このことを言ったのは老馬でした。
「僕達が今言ってるのはオーソックスな関西のラーメンだね」
「関西の薄口醤油の鶏ガララーメン」
 トートーは一言で言いました。
「それだね」
「京都とか和歌山とか奈良のラーメンもあるわよ」
 ガブガブはアンケートの結果を見て言いました。
「好きなラーメンの中に」
「関西と言ってもそれぞれラーメンがあって」
 ポリネシアはご当地ラーメンのことを言いました。
「そのこともアンケートに出てるわね」
「いや、九州の豚骨ラーメンに北海道の濃いラーメンに」
「あと東京のお醤油のラーメンもあってね」
 チープサイドの家族もアンケートの結果を見ています。
「面白いわね」
「見てみると」
「そうだね、それで最初に食べた時のコメントも」
 先生はそちらも見ています。
「面白いね」
「そうだよね」
「これもまたね」
「実にね」
「面白いよ」
「面白い日本の麺類とか変わったとか」 
 そうしたというのです。
「色々あるね」
「外国の人からね」
「中国の麺類に似てるって人もいるね」
「おうどんやお蕎麦と違うとか」
「美味しそうとかまずそうか」
「色々だね、けれど嫌いな人は」
 ラーメンをというのです。
「いないね」
「そうだね」
「皆好きって言ってるね」
「まあアンケートに参加してる位だし」
「嫌いな人はいないわね」
「実際ラーメン嫌いな人はそうはいないし」
 先生はこのことも言いました。
「アンケートに参加した人の数も多いよ」
「そうだね」
「先生も大好きだしね」
「そして僕達だってそうだし」
「アンケートの数もね」
「かなりだったね」
「これを一つ一つ紙で集計したら」
 そうしたらというのです。
「かなりの時間がかかったけれど」
「アプリだとね」
「すぐだよね」
「パソコンを使ったら」
「本当にすぐにわかるね」
「時間もかからないし正確にね」
 そうしてというのです。
「わかるからね」
「いいよね」
「本当にね」
「パソコンを使ってのアンケートって」
「かなり便利よ」
「いいアンケートだったよ」
 先生は笑顔でこうも言いました。
「本当にね」
「そうだよね」
「面白くてね」
「しかも何かとわかる」
「そうしたアンケートだったね」
「うん」
 まさにというのです。
「そう思うよ」
「そうだね」
「ラーメンのこともわかったし」
「それぞれの人の好みだけでなく」
「何かとね」
「いや、実にいいアンケートだったから」
 それでと言う先生でした。
「また機会があればこうしたね」
「アンケート取るんだね」
「そして学問の対象にする」
「そうするんだね」
「そうするし」
 それにというのです。
「他の人にもね」
「お話して」
「その人がしようと思えばだね」
「やってもらうのね」
「そうしていくんだね」
「そうするよ、ただ強制はね」
 それはというのでした。
「しないよ」
「先生はそうだね」
「決して強制しないね」
「こうしたことがいいとか言っても」
「それで相談に乗っても」
「それを行うのは自分の意志で」
 それでというのです。
「決めてのことだから」
「そうだよね」
「強制はいけないよね」
「それよりも自分がどうか」
「それが大事だね」
「そうだよ、僕はいいものを紹介して」
 そしてというのです。
「アドバイスはしてもね」
「強制しない」
「そこは本当にしっかりしてるわね」
「先生は」
「民主主義はそうしたものだと考えてるし」
 それにというのです。
「強制してというのは相手の意志もね」
「尊重してないね」
「そうした行為よね」
「そうした場合もあるね」
「だからしないよ、どんな相手も尊重しないと」
 さもないと、というのです。
「人として間違ってるよ」
「そうだね」
「そうした考えを持ってるのも先生のいいところよ」
「じゃあね」
「これからもその考えでいてね」
「是非ね」
「そうさせてもらうよ」
 笑顔で言う先生でした、そしてです。
 アンケートの結果を発表して論文の題材にもしました、学園の皆はアンケートの結果を見てそれぞれ思いました。
 そしてここでサラがいつも通りご主人と一緒にお仕事で来日して先生のお家にもお邪魔したのですが。
 アンケートのお話を聞いてです、先生に言いました。
「打倒と言う人もいれば」
「自分の好きなラーメンが一位じゃないことが不満な人もいるよ」
「それぞれなのね」
「うん、自分の一番好きなラーメンがね」
 先生はサラに居間でちゃぶ台を囲んでお話しました。
「一番じゃないことが不満な人もね」
「多いのね」
「もう一歩も引かないって人もね」
「いるの」
「味噌ラーメンが好きな人がいて」
 それでというのです。
「味噌ラーメンが一番じゃなくて」
「不満なのね」
「そんな人もいるよ」
「何かね」
 サラはそのお話を聞いて言いました。
「アイドルとかスポーツ選手の推しみたいね」
「日本でよくあるね」
「イギリスでもあるけれど」
「日本では特にだね」
「あるわね」
 こう言うのでした。
「そしてそれみたいね」
「ラーメンもだね」
「その辺り日本ね」
「日本人だね」
「推す対象に対してね」
「凄い思い入れがあってね」
「かなりの愛情を持って応援するわね」
 お兄さんに対して言います。
「そうするわね」
「そしてそれがね」
「ラーメンにもなのね」
「出てね」
 先生も言います。
「そうなってるね」
「贔屓のラーメンが一番と確信して」
「アンケートで一番じゃないことがね」
「不満な人もいるのね」
「それで僕も思ったよ」 
 先生自身もというのです。
「アイドルのファン投票にもね」
「似ているって」
「うん、思ったよ」 
 実際にというのです。
「本当にね」
「そうね、日本のアイドルグループってね」
「よくファン投票するね」
「それで誰が一番人気かチェックして」
「そして一番になったら」 
 その人はといいますと。
「ステージでね」
「センターになるわね」
「新曲でもね」
「そうなるわね」
「ラーメンは流石に歌わないけれどね」
「センターにもならないわね」
「けれどね」
 それでもというのです。
「一番じゃないとね」
「好きなラーメンが」
「嫌だって人もいるよ」
「そうなのね。けれど仕方ないでしょ」
 サラは先生のお話をここまで聞いて落ち着いた声で言いました。
「もうね」
「そのことはだね」
「そう、一番になるラーメンがあれば」
「二番三番にもね」
「投票ってそうでしょ」
 そうしたものだというのです。
「一番になるアイドルの人やラーメンもあれば」
「二番三番もね」
「なっていくわ」
「僕もそれはわかっていたよ」
「当然なるものだしね」
「いや、それがね」
 先生はあらためて言いました。
「それぞれの好きなラーメンへのこだわり、愛情が」
「出たのね」
「特に日本人でね。福岡の人だと」 
 この県から神戸の八条学園に来ている人はといいますと。
「細い麺で豚骨スープの」
「そのラーメンが一番ね」
「もうこのラーメンでないと」
 さもないと、というのです。
「食べた気がしないって位ね」
「こだわり、愛情があるのね」
「そんな人もいるよ」
「凄いわね、私もラーメン食べるけれど」
 サラは考えるお顔で言いました。
「日本に来たら。それにイギリスでもね」
「最近はラーメンを食べられるね」
「日本料理でね。中華街の麺とはまた違って」
 それでというのです。
「独特の美味しさがあるわ」
「そうだね」
「何か日本人は中華料理と思っているけれど」
 それでもというのです。
「ラーメンは日本料理よ」
「そうだよね、他の国から見れば」
「それでイギリスで食べる時もあるし」
「来日したらだね」
「うちの人も結構好きだから」
 ご主人もというのです。
「私もね」
「食べるんだね」
「ええ、ただ今回の来日では」
「何を食べるのかな」
「蛸をご馳走になる予定なの」
「たこ焼きかな」
「それとお刺身ね」
 蛸のそれをというのです。
「いただく予定よ」
「そうなんだ」
「接待をさせてもらって」
 それでというのです。
「その時にね」
「蛸をいただくんだね」
「そうなの。明石に案内させてもらって」
「ああ、それだと明石焼きも食べるね」
「そう聞いてるわ、たこ焼きにお刺身に」
 そうしたお料理に加えてというのです。
「明石焼きもね」
「それはいいね、ただね」
「ただ?」
「今回も機会があったら」
「ラーメンもっていうのね」
「食べたらいいよ」
「そうね、じゃあうちの人と一緒に」 
 夫婦揃ってというのです。
「時間を見付けてね」
「食べるね」
「そうさせてもらうわ、来てすぐにおうどんをいただいたけれど」
 こちらの麺をというのです。
「きつねうどんをね」
「大坂名物のだね」
「そう、関西新空港を出て電車で難波駅まで行って」
 そうしてというのです。
「そこの立ち食いのね」
「お店でだね」
「いただいたわ」
「それで美味しかったかな」
「とてもね、手軽に食べられて」
 そうしてというのです。
「しかもね」
「それはよかったね」
「ええ、あのおうどんは大阪名物よね」
「その一つだよ」
「兄さんも好きね」
「おうどん自体が好きでね」
「それだけの味ね、立ち食いそばというけれど」
 それでもというのでした。
「けれどね」
「うん、お蕎麦だけでなくてね」
「おうどんもあるのよね」
「それで特に関西ではね」
「おうどんがよく食べられるのね」
「立ち食いそば屋さんでもね」
 お蕎麦といってもというのです。
「そうなってるよ」
「そうね、あと難波には」
 サラはこの街のことからもお話しました。
「立ち食いラーメンのお店もあるわね」
「金龍ラーメンだね」
「あのラーメンもいいわね」
「そう、だから機会があればと言ったけれど」
 ラーメンを食べようとです。
「よかったらね」
「金龍ラーメンね」
「ホテルはあそこだね」
「ええ、難波の八条ホテルにね」
「取ってるね」
「神戸の方の場合もあるけれど」
 こちらの八条ホテルにというのです。
「今回はね」
「難波の方だね」
「あちらのホテルよ」
「だったらね」 
 それならというのです。
「行くといいよ」
「そうさせてもらうわね」
「あと難波だったら」
 さらに言う先生でした。
「ラーメン一座という場所があってね」
「そこに行ってもラーメンいただけるのね」
「それも日本各地の有名な」 
 そうしたというのです。
「お店のラーメンが食べられるよ」
「それじゃあ行ってみるわね」
「うん、そうしてね」
「そうするわ、それで兄さんも」
 ここでサラは。
 先生をじっと見てです、こう言いました。
「行ったかしら」
「行ったよ、いい場所だよ」
 にこりとしてです、先生は答えました。
「色々なラーメンを食べられてね」
「それならね」
「それなら?」
「日笠さんだったわね」
 この人のお名前を出すのでした。
「あの人を誘ってよ」
「ラーメン一座に行くんだ」
「そうしなさいね」
 こう言うのでした。
「いいね」
「あれっ、サラもそう言うんだ」
「貴方達も言ったのね」
 サラはここで皆を見て彼等に言いました。
「そうなのね」
「うん、言ったよ」
「勿論ね」
「いい機会だしね」
「是非にって言ったわ」
「僕達もね」
「考えることは同じね、当然よ」 
 まさにと言う先生でした。
「それはね」
「そうだよね」
「それじゃあね」
「サラさんもだね」
「ここはね」
「先生と日笠さんは」
「二人でね」
 また言うサラでした。
「行くべきよ」
「そうだよね」
「何があっても」
「それでも」
「いい、兄さん」
 サラは先生を見据えて言いました。
「ここはね」
「日笠さんをなんだ」
「ラーメン一座に一緒に行きましょうってね」
 その様にというのです。
「誘うのよ」
「そうしないと駄目かな」
「絶対にね」
 それこそというのです。
「もうこの世が終わってね」
「最後の審判の時になってもかな」
「それでもよ、日笠さんのところに行って」
 そしてというのです。
「そのうえでね」
「日笠さんを誘って」
「そしてよ」
 そのうえでというのです。
「いいわね」
「日笠さんと一緒に行くんだね」
「ラーメン一座でね」
「日笠さんに断られるかもね」
 先生は考えるお顔で言いました。
「日笠さんにも予定があるし」
「予定がずっと詰まってるなんてどれだけ忙しいのよ」 
 サラは先生の今の言葉にむっとして返しました。
「そんなことはね」
「ないかな」
「有り得ないわよ」
 絶対にというのです。
「だからね」
「日笠さんにだね」
「誘いをかけるの、いいわね」
「そうすればいいんだ」
「そうしたら」
 サラは真剣なお顔で告げました。
「今忙しても何とかね」
「日笠さんの方からだよ」
「予定空けてくれるよ」
「そして是非にってね」
「先生に言うわ」
 皆も言ってきました。
「間違いなくね」
「だから先生声をかけるんだよ」
「二人でラーメン一座に行こうって」
「そうね」
「サラも皆も言うなら」 
 それならと言う先生でした。
「僕もね」
「そうそう、お話してね」
「明日にでもね」
「日笠さんのところに行って」
「そのうえでね」
「そうするね」
 先生も頷きました、そしてサラはご主人のところに戻ってそれからは先生はいつも通りの日常を過ごしました。
 その翌日動物園で働いている日笠さんのところに行って今度ラーメン一座に二人で行きませんかとお誘いをかけると。
 日笠さんはお顔をぱっと明るくさせてでした、こう言いました。
「はい、是非」
「一緒に行ってくれますか」
「それで何時行きますか?」
 その明るいお顔で先生に尋ねて来ました。
「一体」
「日笠さんは何時がいいですか?」
「私ですか?今度は土曜日がお休みです」
「その日ですか」
「はい、今度の土曜日は」
 先生に強い声で言うのでした。
「お休みです」
「僕もです。それじゃあ」
「土曜日に行きましょう」
「そうしましょう」
「あの十時にです」
 日笠さんはさらに言いました。
「八条駅の時計台の前で待ち合わせしませんか」
「十時にですね」
「はい、あちらで」
「わかりました、では」
「宜しくお願いします。それで待ち合わせて」
 さらに言う日笠さんでした。
「電車で、ですね」
「難波まで行きまして」
「そうしてですね」
「行きましょう」
 そのラーメン一座にというのです。
「そうしましょう」
「そうですね、では」
「楽しみにしています」
 物凄く嬉しそうに言う日笠さんでした、その日笠さんとやり取りをしてからです。
 先生はご自身の研究室に戻りました、そのうえで紅茶を飲みながらぽつりとしてこんなことを言いました。
「いや、日笠さんの方が積極的だったね」
「やっぱりね」
「絶対にそうなると思ったよ」
「僕達から見てもね」
「間違いなくね」
 日笠さんに言うのを見ていた皆も言います、先生のすぐ後ろでじっと見守っていたのです。まさにいつも通り。
「ああなると思ったよ」
「予想通りだったし」
「いや、もうね」
「先生が言えばね」
「日笠さんの方が動くって」
「いや、僕の方でね」 
 先生は次々に言う皆にどうかというお顔で言いました。
「色々決めさせてもらおうと思ったら」
「日笠さんの方がしてくれて」
「意外だっていうんだね」
「先生としては」
「かなりね、ああなるなんて」 
 それこそというのです。
「思わなかった、けれどね」
「お話は決まったよ」
「じゃあ先生行って来てね」
「日笠さんと二人でね」
「難波のラーメン一座行って来てね」
「そうさせてもらうね、しかしね」
 先生はここでこうも言いました。
「皆今回あれこれと急かしてるね」
「それは当然だよ」
「僕達も必死なんだから」
「サラさんだってよ」
「先生にもっと幸せになって欲しいから」
「だからね」
「今で最高に幸せだけれどね」
 先生が思うにです。
「それでもなんだ」
「幸せには際限がないよね」
「もう何処までもでしょ」
「科学や学問の進歩も永遠で」
「幸せだって」
「いや、それでも僕の幸せはね」
 先生ご自身のそれはというのです。
「本当にね」
「今でだね」
「最高だっていうんだ」
「僕達がいてトミーも王子もいて」
「お家もお仕事も安定した収入もあって」
「美味しいものを飲んで食べられて」
「学問を好きなだけ出来て」
 皆もここで言います。
「満足しているから」
「最高に幸せだっていうんだね」
「そうだね」
「そうだよ、最高だよ」
 先生の笑顔は何一つ疑っていないものでした。
「これ以上はない、満足しているよ」
「先生は無欲だからね」
「そこでそう思うんだよね」
「もうね」
「それならね」
「まさにね、だからね」
 それでというのです。
「もう充分だよ」
「先生がそう思ってもよ」
 ポリネシアは先生にぴしゃりとした口調で告げました。
「幸せには際限がないから」
「先生だってね」
 まさにと言うダブダブでした。
「もっと幸せになれるよ」
「本当にそうだから」
 ジップはダブダブに続きました。
「もっと欲を張ってね」
「まあ先生に欲を張れって言ってもね」 
 ガブガブは少し苦笑いで言いました。
「難しいけれど」
「先生の無欲さは凄いから」
 チーチーもよく知っていることです。
「今の状況で満足するのも当然かな」
「けれどここで満足しないで」
 ホワイティは先生に強い声で告げました。
「もっと幸せになろうね」
「僕達もトミーも王子もいてね」
 そしてと言うトートーでした。
「学問が出来て美味しいもの飲んで食べられてお仕事と収入があってもね」
「まだまだ幸せになれるよ」
 老馬は断言しました。
「本当にね」
「無欲は先生の美徳の一つだけれど」
「もっと欲を張っていいのよ」
 チープサイドの家族も言います。
「今以上にね」
「満足しないで」
「ほら、先生あるじゃない」
「今あるもの以外の幸せが」
 オシツオサレツも先生に言いました。
「考えてみてね」
「すぐにわかるよ」
「何かな。それは」
 先生は全くわからないで首を傾げさせました。
「今僕が持っているもの以外の幸せが」
「あるよ」
「ほら、先生独身だね」
「彼女さんいないし」
「それなら」
「いやいや、僕はもてないんだよ」
 思い込みが全く変わらない先生でした。
「生まれてこのかたね」
「恋愛の経験がない」
「女性にもてたことがない」
「一度もだね」
「運動はからっきしで」
 それでというのです。
「乗馬や水泳位は出来ても」
「それでもだよね」
「陸上競技や球技は出来なくて」
「格闘技もさっぱり」
「スポーツに縁なしだね」
「そして恋愛ともだよ」
 こちらのこともというのです。
「無縁だよ、本当にずっとね」
「生まれてからだね」
「恋愛の経験はない」
「そうだっていうんだね」
「女性から告白されたことなんて」
 それこそというのです。
「もうね」
「一切だね」
「もうだね」
「女性からもてない」
「恋愛の経験はなし」
「僕は同性愛の趣味はないけれど」
 実際にその趣味はありません、ですが否定はしていません。特に日本では同性愛が歴史的に普通えあることをよく知っています。
「そちらのお話もね」
「ああ、それはないね」
「言われてみれば」
「先生ってね」
「そっちのお話はないね」
「全くね」 
 それこそというのです。
「ないよ、そして女性からもね」
「果たしてそうか」
「先生が気付いてないだけとか?」
「周りよく見たらわからないかな」
「それでね」
「いやいや、僕がもてることはないから」
 本当にこう思い込んで止まらない先生でした。
「絶対にね」
「そう言うけれどね」
「先生は紳士だよ」
「女性を尊重して」
「鹿も公平で優しくて穏やかで」
「そんな人だよ」
 先生の人柄を言うのでした。
「もてないかな」
「人は中身なのに」
「外見よりもずっとね」
「それならね」
「しかも」
 皆は先生にさらに言いました。
「先生大学の教授さんでね」
「社会的地位もあるし」
「教授さんって相当だよ」
「しかも収入もあるしね」
「ここまで条件が揃っていたら」
 それならというのです。
「もうね」
「もてるよ」
「女性からね」
「それもいい人から」
「心ある人はわかるから」
「先生がどんな人か」
「人は顔じゃない」
「外見じゃないから」
 まさにというのです。
「だからね」
「先生ならだよ」
「もてない筈がないよ」
「それもとびきりいい人から好きになってもらって」
「素敵な恋愛が出来て」
「結婚だって」
「僕が結婚ねえ」 
 そう言われても首を傾げさせる先生でした。
「ないよ」
「先生がそう言ってもね」
「実際はどうかな」
「よく見てね」
「そこはね」
「そんな人いるなんて」
 やっぱりこう言う先生でした。
「想像出来ないよ」
「やれやれだね」
「まあそんな先生でもね」
「僕達もいるし」
「トミーも王子もいるし」
「サラさんもだしね」
 それでと言う皆でした。
「それじゃあね」
「大丈夫ね」
「何時かきっとね」
「先生は今以上に幸せになれるよ」
「そうかな」
 また首を傾げさせる先生でした、そんなやり取りをしてです。
 先生はお家に帰ると今度はトミーそれにお家に来ていた王子に晩ご飯を食べながらこんなことを言われました。
「先生よかったですね」
「大きな一歩だよ」
 先生に言います、今日の献立はハンバーグにザワークラフトそして青菜のお味噌汁にお漬けものといったものでご飯もあります。
「色々言いたいところはあるけれど」
「是非土曜日行って下さいね」
「うん、二人でね」
 それでと応える先生でした。
「行って来るよ」
「頑張って来て下さいね」
「吉報を待っているよ」
「吉報と言われても」
 それでもとです、先生は応えました。
「日笠さんはお友達だから別にね」
「いや、お友達って」
「いつも思うけれど」
 トミーも王子も先生の今の言葉には呆れるばかりでした。
「違うよ、先生」
「そのことは」
「日笠さんはお友達って」
「どうにもですよ」
「違うかな。けれどお友達って言わないで」
 日笠さんをというのです。
「何て言うかな」
「何てかじゃないですよ」
「もうそこはね」
「サラさんも行ってましたよね」
「絶対にって」
「絶対も何もないよ」
 また言う先生でした。
「本当にね」
「日笠さんはですね」
「先生のお友達だね」
「それも大切な」
「そう言うんだね」
「そうだよ。だからね」 
 それでというのです。
「二人で仲良く礼儀正しくね」
「ラーメン一座に行かれて」
「楽しんで来るんだね」
「一緒にラーメンを食べてね」 
 他に何の思惑もない言葉でした。
「帰って来るよ」
「それだけっていうのが」
「駄目なんだよ」 
 まさにとです、トミーも王子も言いました。
「全く以てね」
「そのことが」
「何でこう言われるのかな」
「いや、言いますから」
「誰だってね」
 また二人で言います。
「本当にね」
「僕達じゃなくても」
「皆も言うしね」
 先生は動物の皆を見て二人に応えました。
「そうね、けれど決まったから」
「そうそう、土曜日に行くことはね」
「決まったよ」
「それじゃあ先生いいね」
「二人で行って来てね」
 皆はそれならと告げました。
「いいね」
「それじゃあね」
「是非頑張ってね」
「ラーメン一座行って来てね」
「そしてひょっとしたら」
 微かな希望を持っての言葉も出ました。
「何処か別の場所に寄りたかったら」
「それならね」
「是非寄ってね」
「日笠さんが言ってもそうしてね」
「何もないよ」
 先生の考えは変わりません。
「本当にね」
「まあね」
「そう言っても日笠さんがいるなら」
「何か気付いたら乗ってね」
「あの人が言って来てもね」
「ははは、ラーメンを食べに行くだけだから」
 今度は笑って言いました。
「お友達とね」
「だから何もない」
「食べに行って帰る」
「それだけだから」
「三時には帰って来て」
 そうしてというのです。
「今度はお茶かな」
「ティータイムだね」
「それを楽しむのね」
「そうするよ」
 三時までに帰ってというのです。
「是非ね」
「やれやれだね」
「そんな時はティータイムなんてどうでもいいでしょ」
「どうせなら日笠さんと一緒にでしょ」
「もうね」
「いや、やっぱりティータイムはね」
 先生は真面目に答えました。
「皆と一緒に、だよね」
「僕達のことはどうでもいいのに」
「この際」
「律儀なんだから先生は」
「こうしたところも先生の長所だけれど」
「こうした時はいいのに」
「律儀でなくても」
「いやいや、そうはいかないから」
 決してと言うのでした。
「本当にね」
「やれやれだよ」
「まあ先生にとってはティータイムは絶対だけれど」
「三食と学問と一緒に欠かせないものだけれど」
「僕達と一緒にティータイムは」
「だから帰って来るよ」
 三時までにはというのです。
「期待していてね」
「期待したくないよ」
「土曜日ばかりは」
「本当に僕達のことはいいから」
「ティータイムは日笠さんとどう?」
「お二人でね」
 皆で強く言います。
「本当にね」
「そうしたら?」
「難波にもティーセットいいお店あるよね」
「それじゃあそこでね」
「気持ちだけ受け取っておくよ」
 皆に好意があるのはわかるのでこう返しました。
「そのうえでね」
「やれやれだよ」
「まあ今は二人で行くならいい?」
「そこで妥協する?」
「そうする」
 それならとでした。
 皆も無理矢理納得して妥協しました、そうしてあらためて先生に対して口々に強く言ったのでした。
「じゃあ頑張ってね」
「日笠さんと二人でね」
「ラーメン一座行って来てね」
「そうさせてもらうよ」
 わからないままでした。
 先生は頷いて日笠さんとラーメン一座に行きました、ただ三時にお家で紅茶を飲む先生には皆はまだまだこれからと思うのでした。


ドリトル先生とラーメン   完


                  2023・9・11








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