『ドリトル先生と桜島』




                第十一幕  とんでもない剣道

 先生は動物の皆と一緒にです。
 トミーや王子へのお土産も買いますが鹿児島名産の食べものにお酒に名品と色々なものを買っています。
 ですがここで皆は先生にしっかりと言いました。
「先生、日笠さんの分買った?」
「トミーや王子だけじゃないよ」
「他の学校の人やご近所さんだけじゃなくて」
「それでサラさんにもだけれど」
「そう、サラは僕が神戸に帰った頃にね」
 先生はサラの名前を受けて皆に答えました。
「来日してくるんだよね」
「今度は観光でね」
「お仕事でなくて」
「それで来るんだ」 
 まさにというのです。
「それでサラとね」
「ご主人にお子さん達のね」
「その分もね」
「ちゃんと買うね」
「そうするね」
「そうするよ、勿論日笠さんの分もね」 
 先生は笑顔で言いました。
「買うよ」
「そうそう、忘れないでね」
「日笠さんの分は買おうね」
「それも他の人より沢山ね」
「買っておこうね」
「何でかね」 
 先生は皆に言います。
「皆、トミーも王子もね」
「言うっていうんだね」
「日笠さんには特にって」
「お土産を沢山贈る」
「そしていいものをっていうんだね」
「それはどうしてかな」
 首を傾げさせて言う先生でした。
「本当にね」
「それがわからないからね」
「先生は困るんだよ」
「本当にね」
「このことはね」
「そうだよ、何でかな」
 首を傾げさせて言う先生でした。
「皆そう言うのかな」
「だって先生が気付かないからだよ」
「全くね」
「そこが困るから」
「皆で言うんだよ」
「そうなんだね、けれど皆が言うなら」
 それならと言う先生でした。
「僕もね」
「そうするね」
「そこでお話を聞いてくれるから嬉しいよ」
「先生はそうした人だから」
「お話を聞いてくれるから」
「そうなんだ、まあ兎に角買っておくよ」
 日笠さんの分もというのです。
「しっかりとね」
「うん、そうしようね」
「日笠さんの分も買おうね」
「そうしようね」
「他の人より多くね」
「僕は誰かを贔屓するのはね」 
 特定の人はというのです。
「よくないと思うけれど」
「いや、日笠さんは別じゃないと」
「あの人はね」
「皆もそう言ってるよね」
「王子もトミーも」
「だって皆気になってるから」
「そうだからだよ」
 皆で先生に言います。
「本当にね」
「先生の平等心は大事だけれど」
「それでもね」
「日笠さんは大事にしないと」
「さもないと駄目だよ」
「そうなんだね、わからないけれど」
 兎に角こうしたことは疎い先生でした。
「そうするね」
「そうしてね」
「日笠さんに関しては」
「もっと真剣にだよ」
「必死になっていってね」
「それじゃあね」 
 先生も頷きます、そしてです。
 日笠さんの分は他の人達のものより買いました、皆はそれを見て言いました。
「これでよし」
「本当に毎回こうだからね」
「先生はね」
「公平であれ平等であれ」
「そう意識するのはいいけれど」
「少しは日笠さんのことを考えてね」
 皆で注意する様に言います。
「いいね」
「これからも言うからね」
「お土産の時は」
「他の時もね」
「是非ね」
 こうお話します、そしてです。
 先生はお土産の後でこう言うのでした。
「実は面白いものを観たいけれど」
「面白いもの?」
「っていうと何かな」
「一体」
「剣道だよ」
 それだというのです。
「それだよ」
「あれっ、剣道って何処でもあるよ」
「日本のね」
「日本は剣道の国だから」
「うちの学校でもやってるしね」
「いや、鹿児島の剣道はね」
 まさにと言う先生でした。
「特別なんだ」
「そうなんだ」
「そういえば鹿児島ってお侍多かったね」
「他の藩に比べて」
「それもかなり」
「示現流のお話をしたね」
 先生は皆に言います。
「そうだね」
「そうだったね」
「そういえば」
「薩摩藩って言えばね」
「あの剣道だったね」
「それに加えてね」
 さらにと言う先生でした。
「直新陰流もあるよ」
「ああ、あの」
「勝海舟さんもしていた」
「あの剣術だね」
「この流派もあってね」
 鹿児島にはというのです。
「薩摩藩は強かったんだ」
「尚武の藩だけれど」
「その二つの流派があったんだ」
「示現流だけじゃなくて」
「そのどちらも見ようね、今から」
 こう言うのでした。
「二つの道場にお邪魔して」
「それじゃあね」
「そうしましょう」
「今からね」
「今度は剣術ね」
 皆も頷きました、そしてです。
 先生と皆はまず示現流の道場にお邪魔しました、するとです。
 木の棒にひたすらです。
 右斜め上、左斜め上から木刀の一撃を繰り出し続ける人達がいました、その時の気迫と叫び声があまりにも凄くてです。
 皆唖然としてです、こう言いました。
「凄いね」
「示現流のことは聞いていたけれど」
「実際はこうなんだ」
「こんな凄いことしていたんだ」
「気迫が違うね」
「うん、一撃必殺の剣術でね」 
 先生は驚いている皆にお話しました。
「幕末でも強いので有名だったんだ」
「切った張ったのね」
「幕末でもだね」
「強いので有名だったんだ」
「示現流は」
「新選組でもだよ」 
 京の都で幕府の為に戦っていたこの人達もというのです。
「一撃目は絶対にかわせってね」
「そう言ってたんだ」
「示現流については」
「そうだったんだ」
「そうなんだ、それでね」
 だからだというのです。
「幕末とても恐れられていたんだ」
「これで真剣で攻撃されたら」
「もう終わりだね」
「一撃で真っ二つだね」
「そうだね」
「まさに薩摩藩を象徴するね」
 そこまでのというのです。
「必殺の流派だったんだよ」
「必殺だね」
「まさにそんな流派だね」
「こんなのの一撃受けたら」
「本当に終わりだよ」
「攻撃を刀で防いでも」
 そうしてもというのです。
「その一撃の衝撃で自分の刀まで額にめり込んでだよ」
「倒されたんだ」
「示現流の一撃があまりにも強くて」
「そうなったんだ」
「そうだよ、そうもなるね」 
 先生も猛稽古を見つつ言います。
「恐ろしい流派だよ」
「こんな人達と戦いたくないわね」
 ダブダブも戦慄を禁じ得ません。
「何があっても」
「戦う相手はついてないね」
 ジップも言います。
「本当に」
「こんな流派と戦ったらね」
 しみじみと思うチーチーでした。
「まさに真っ二つだよ」
「一撃をかわせるかっていうけれど」
「それも難しいね」
 オシツオサレツは激しく左右に撃たれ揺れている木の棒を見て思いました。
「こんなの攻撃だとね」
「恐ろしい攻撃だよ」
「しかも突っ込んで来るんだよね、示現流って」
 こう言ったのはトートーでした。
「全く止まらずね」
「一直線に突っ込んで来るなんて」
 ポリネシアはあらためて戦慄を感じました。
「そのことも怖いわ」
「ううん、幕末怖れられたのも当然だよ」
「こんな流派だとね」
 チープサイドの家族も思うことでした。
「一撃で終わりだから」
「防いでもその力で押し切られるならね」
「こんな流派があること自体が信じられないよ」
 老馬にしてみればです。
「流石薩摩藩と言うべきかな」
「鉄砲だけじゃないんだね」
 こう言ったのはガブガブでした。
「薩摩藩は剣術も凄かったんだね」
「そうだよ、この剣術にね」
 それにと言う先生でした。
「後で観させてもらう直新陰流もあってだよ」
「凄く強かったんだ」
「薩摩藩の人達は」
「幕末でも」
「戦国の趣がそのままね」
 まさにというのです。
「残っていてね」
「それでだね」
「こうした流派も存在していて」
「ずっと鍛えていたんだ」
「自分達を」
「それで幕末でもだよ」
 この頃もというのです。
「桁外れの強さだったんだ」
「戦国の考えそのままで」
「自分達を鍛えていたから」
「この流派で」
「それで直新陰流で」
「そうなんだ、しかしね」
 先生も稽古を見て戦慄している顔で言いました。
「百聞は一見に如かずと言うけれど」
「剣道でもそうだね」
「聞くのと見るのでは全然違うわね」
「本当にね」
「違うわね」
「うん、こんな壮絶な流派だとはね」
 先生は皆に言いました。
「思わなかったよ」
「全くだね」
「鬼みたいな凄まじさよ」
「この流派が免許皆伝になったら」
「最強だよ」
「ちなみに明治の元老で総理大臣にもなった松方正義さんはね」
 この人はといいますと。
「この流派の免許皆伝、弓術もそうで馬術にも秀でていたんだ」
「えっ、そうなんだ」
「幕末維新では地味な人だかれど」
「維新だと伊藤さんや山縣さんと比べると」
「薩摩だと西郷さんや大久保さんと比べても」
「黒田さんや東郷さん、黒木さんや大山さんと比べても」
「けれど実はね」
 地味というイメージが強い人でもというのです。
「武芸の達人で」
「この示現流もなんだ」
「免許皆伝だったんだ」
「それで弓術も馬術もって」
「滅茶苦茶強いね」
「幕末維新は武芸に秀でた人多いんだ」
 先生は皆にこのこともお話しました。
「山縣さんは槍術免許皆伝でね」
「福沢諭吉さんは居合の達人で」
「坂本龍馬さんは北辰一刀流免許皆伝」
「新選組の人達は言うまでもなし」
「西園寺公望さんも剣術の達人だったね」
「その中でも松方さんはね」
 この人はというのです。
「特にだったんだ」
「強かったんだね」
「じゃあ絶対に戦うべきじゃないね」
「そんな人だったのね」
「そうだよ、人柄も穏やかだったけれど」 
 そうした人だったけれど、というのです。
「実は鍛え抜かれた」
「武芸者だったんだ」
「幕末維新では地味な人でも」
「総理大臣にもなってるけれど」
「けれどお仕事特に財政関係は的確でね」
 松方さんという人はというのです。
「その人柄の為人望もあってね伊藤さんからも頼りにされていたよ」
「伊藤博文さんからもなんだ」
「あの人何かと出て来るけれどね」
「あの人も有能でね」
「物凄く面白い人だけど」
「その伊藤さんが直々に総理大臣やってくれと言った」 
 そうしたというのです。
「そこまでの人だったんだ」
「伊藤さんってそうしたこと多いよね」
「人をスカウトすることがね」
「ヘッドハンティングが得意っていうか」
「そんな人だったね」
「その伊藤さんからもね」
 まさにというのです。
「スカウトされたね」
「そんな人だったんだ」
「松方さんは」
「伊藤さんはこれはっていう人に声かけるけれど」
「そんな人だけれど」
「そうしたんだ、そしてね」 
 そのうえでというのです。
「総理大臣として頑張ったんだ」
「成程ね」
「かなり凄い人だったんだね」
「地味な様で」
「武芸の達人で」
「政治家としても有能だったんだね」
「若い時は苦労もしたけれど」
 それでもというのです。
「大成したんだ」
「成程ね」
「そのこと覚えておくね」
「示現流と一緒にね」
「免許皆伝だったっていうしね」 
 皆は笑顔で言います、そしてです。
 ある人が木を倒したのを見て言いました。
「猛稽古の末にだね」
「遂に木を倒したね」
「折っちゃったね」
「一撃を加え続けて」
「あれが示現流なんだ」
 この流派の稽古だというのです。
「覚えておこうね」
「というかね」
「これは忘れられないわ」
「あまりにも凄くてね」
「稽古もお話もね」
「僕もだよ」
 実はとです、先生は笑って答えました。
「これはね」
「そうだよね」
「とてもね」
「忘れられないよね」
「凄過ぎて」
「そうなったよ、いいものを見せてもらったよ」
 こうも言う先生でした。
「本当にね」
「全くだね」
「あまりにも壮絶で」
「戦慄さえ覚えるね」
「物凄い光景だね」
「そうだね、だからね」 
 それでというのです。
「僕もだよ」
「先生もだよね」
「この目で見るとね」
「本当に違うからね」
「只でさえ剣道は激しいのに」
「防具の上からでも激しく打ち合う」
「そんな武道なのにね」
 皆も頷いて言います。
「スポーツじゃなくてね」
「武道だからね、剣道は」
「柔道や空手、相撲と同じでね」
「大きく区分されると格闘技でね」
「そう、その武道の中でもね」
 とりわけと言う先生でした。
「この示現流はだよ」
「壮絶なまでに激しくて」
「燃え盛る炎みたいだね」
「いや、こんな流派と戦うとなると」
「命が幾つあっても足りないわ」
「そうだよ、しかし薩摩藩は示現流だけじゃなかったんだ」
 先生は皆にあらためて言いました。
「それは言ったね」
「そうそう、直接新陰流」
「この流派も薩摩藩のお家芸だったね」
「示現流と並んで」
「そうだったね」
「その流派も見ようね」
 こうお話してです。
 先生は皆を連れて今度は直新陰流の道場に行きました、するとこの道場では皆物凄い大きくて重そうな木刀を持っています。
 そしてその木刀をです、延々と振っていますが。
「あの木刀何?」
「どう見ても普通の木刀じゃないよ」
「普通の木刀より十倍は重そうだけれど」
「その木刀を皆延々と振ってるけれど」
「これが直新陰流の稽古なのかな」
「あの木刀は十一キロあるんだ」
 先生はまずは木刀からお話しました。
「実はね」
「えっ、十一キロって」
「そんな重い木刀あるんだ」
「それでその木刀を延々と振る」
「それが直新陰流の鍛錬なのね」
「その木刀を一日千回も二千回も振るんだ」
 直新陰流の稽古ではとです、先生はお話しました。
「毎日ね」
「こっちも凄いね」
「十一キロの木刀を一日千回も二千回もって」
「桁外れだね」
「無茶苦茶な稽古じゃない」
「示現流に負けていないよ」
「そうして毎日鍛錬をしているとね」 
 どうなるかといいますと。
「握力や肩の力、腹筋や背筋だけでなくね」
「足腰も凄くなるね」
「とんでもないレベルで」
「そうなるね」
「絶対にね、身体全体の筋肉が極めて発達しないとね」
 それこそと言う先生でした。
「出来ない修行で続けていたらね」
「自然とそうなっていくね」
「全身の筋肉が鍛え上げられて」
「物凄いことになるね」
「絶対にね、それで前にもお話したけれど」
 先生はこの人のお名前をここで出しました。
「勝海舟さんがね」
「ああ、この流派の免許皆伝だったね」
「先生そうお話していたね」
「あの人実はそうだったって」
「頭の回転の速さと度胸で有名だけれど」
 勝海舟という人はというのです。
「実は剣術はね」
「物凄く強かったんだね」
「こんな流派の免許皆伝だから」
「物凄かったんだ」
「もう全身の筋肉が凄かったことは間違いないよ」
 そうだったというのです。
「おそらくヘラクレス、日本で言うと金剛力士だね」
「ああ、奈良のね」
「東大寺のだよね」
「あの仏像だね」
「怖いお顔をした」
「あの仏像達には実はモデルがいたんだ」
 そうだったというのです。
「鎌倉時代だから鎌倉武士の人がだよ」
「モデルになってなんだ」
「それで造られたんだ」
「あの二つの仏像は」
「そうだよ、だから鎌倉武士の人達はね」
 この人達はといいますと。
「ああしたね」
「物凄い身体してたんだ」
「全身筋骨隆々の」
「とんでもなく逞しい身体をしていたんだ」
「質実剛健なお食事に」
 それにというのです。
「常に武芸で鍛えていたからね」
「馬に乗って弓や刀を操る」
「そうした稽古ばかりしていて」
「戦になれば鎧兜を着て戦う」
「そんな人達だったからね」
「もうああしてだよ」
 まさに金剛力士像の様にというのです。
「筋肉モリモリだったんだ」
「そうだったんだね」
「鎌倉武士の人達は」
「それで勝海舟さんもなんだ」
「物凄い身体つきだったんだ」
「実は当時ではやや小柄で」 
 身長のお話もします。
「百四十九センチ程だったらしいけれどね」
「当時の日本の人達って小さかったね」
「確か平均は一五五センチだったね」
「それ位だったね」
「その日本人の中でもね」 
 先生はお話を続けます。
「やや小柄でね」
「それだけだったんだ」
「一五〇センチなかったんだ」
「今から見るとかなり小さいね」
「大人の女の人でもね」
「そうした背だったんだ、ただ坂本龍馬さんは一八〇あったそうだよ」
 勝海舟さんと縁の深かったこの人はというのです。
「何でもね」
「じゃあ龍馬さん相当大きかったね」
「今でも結構な背だし」
「一緒に並んでると目立っただろうね」
「差が凄くて」
「龍馬さんは当時の日本人の間じゃ桁外れに大きかったよ」
 そうだったというのです。
「それでこの人も実は強かったけれどね」
「龍馬さんは北辰一刀流だったね」
「千葉周作さんの」
「有名な流派だよね」
「剣道の中でも」
「そうなんだ、けれど稽古の激しさはね」
 何と言ってもというのです。
「直新陰流は別格だったんだ」
「こんな木刀千回も二千回もとか」
「無茶苦茶じゃない」
「プロレスラー真っ青だよ」
「ここまできたら」
「そうした稽古をしてきたからね」
 だからだというのです。
「薩摩藩のこの流派の人達もだよ」
「強かったんだね」
「それも物凄く」
「そうだったのね」
「そうだよ、示現流も恐れられていたけれど」
 それと共にというのです。
「直新陰流もだよ」
「恐れられていて」
「警戒されていたんだね」
「強いって」
「その様に」
「実際坂本龍馬さんを暗殺したのは」
 この事件のお話もです、先生はしました。
「その頃新選組だっていう説が濃厚だったんだ」
「それで事件前に伊東甲子太郎さんも言っていたね」
「龍馬さん本人に新選組に気をつけろって」
「自分も新選組だがって前置きしたうえで」
「そうしていたね」
「それで岩倉具視さんも言っていたんだ」
 幕末維新にお公家さんそして政治家として活躍したこの人もというのです。
「新選組がやったってね」
「それ皆思っていて」
「龍馬さんを尊敬している土佐藩の人が自分がやったって人出て来ても」
「お前なんぞが坂本先生殺せるかって言ったのよね」
「その人は新選組がやったって思っていて」
「それでその人は近藤勇さんを捕まえるとね」
 新選組の局長だったこの人をです。
「すぐに処刑したんだ」
「打ち首にしたんだよね」
「武士で死にたかった近藤さんを」
「切腹させずに」
「それで晒し首にしたのよね」
「思えば近藤さんも色々やったからね」 
 先生はここで難しいお顔になりました。
「新選組は恰好いいイメージがあっても」
「そうそう、実はね」
「新選組って暗殺とか騙し討ち多いから」
「それも内部でね」
「結構ヤクザ映画みたいなところあるわよね」
「裏切り裏切られで」
「近藤さんもその中心にいたからね」 
 その暗殺と騙し討ち、裏切りの中にというのです。
「だからね」
「因果応報かな」
「望まない結末を迎えたのは」
「武士になりたくてなって喜んでいたのに」
「切腹出来なかったことは」
「そうかもね、それでそうなった伏線はね」
 それはというのです。
「龍馬さん暗殺の実行犯が新選組だった」
「その説が支配的で」
「当時は皆がそう思っていたから」
「それでだね」
「近藤さんもそうなったのね」
「けれど実はね」
 龍馬さんを暗殺した人はといいますと。
「それは佐々木只三郎というね」
「直新陰流の人だったんだよね」
「実は」
「龍馬さんを暗殺したのは」
「そうだったね」
「そうだったみたいだよ、この人がだよ」 
 まさにというのです。
「自分が龍馬さんを殺したってね」
「言ったんだね」
「自分から」
「そうだったんだね」
「それで違うと言われたけれど」
 それでもというのです。
「この人も強かったんだ」
「直新陰流で」
「この流派で」
「それでなんだ」
「うん、かなりの強さだったらしいよ」
 先生は実際にとです、皆にお話しました。
「この佐々木さんって人もね」
「そうなんだね、けれど何かおかしいよ」
 ここでジップはふと気付いて言いました。
「龍馬さんを暗殺した人が直新陰流の人なら」
「あっ、そうだね」
 トートーはジップの言葉にはっとなりました。
「薩摩藩のお家芸で勝海舟さんが免許皆伝だね」
「それじゃあまさか」 
 老馬もはっとなりました。
「龍馬さん暗殺を命じたのは」
「薩摩藩の人か勝つさん!?」
 ホワイティはまさかというお顔です。
「そうなるね」
「いや、そんな筈ないよ」
「流石にね」
 チープサイドの家族も信じられないといった感じです。
「龍馬さん薩長同盟成立させたし」
「勝さんにとっても盟友だったし」
「どっちもないんじゃないかな」 
 首を傾げさせてです、チーチーは言いました。
「流石に」
「けれど直新陰流は薩摩藩のお家芸だし」
 それでとです、ポリネシアは言いました。
「勝さんもなだ」
「どちらかが龍馬さん暗殺の黒幕かしら」
 ダブダブも信じられないといった表情です。
「そうなのかしら」
「流石に違うと思うよ」 
 ガブガブも信じようとしません。
「薩摩藩も勝さんも」
「ううん、信じられないよ」
「龍馬さん暗殺がどちらかって」
 オシツオサレツ二つの頭を捻っています。
「勝さんもまさかだし」
「当時薩摩藩って言うと西郷さん大久保さんだけれど」
「それがね、西郷さんも勝さんも器が大きい人でね」 
 先生は何とです。
 否定していないお顔です、そのうえで皆にお話しました。
「よくも悪くも清濁併せ呑む人だったんだ」
「よくも悪くもって」
「この場合怖い答えが出るけれど」
「暗殺もしていたって」
「西郷さんも勝さんも」
「お二人共狙われていたんだよ」
 西郷さんも勝さんもというのです。
「狙われるならね」
「狙う」
「逆もあるんだ」
「その場合も」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「お二人もだよ、ただ勝さんに龍馬さんを殺す理由はね」
「ないよね」
「龍馬さん幕府にも好意的だったのに」
「平和な方法での維新考えていたから」
「討幕派は討幕派でも」
「戦争を好む人かっていうとね」
 龍馬さんはというのです。
「違うからね」
「それよりも貿易をしてね」
「それで思いきり国力を蓄えて」
「日本を豊かにして強くする」
「そう考えていた人で」
「戦争で無駄に時間と命と国力を使うよりもね」
 それよりもというのです。
「穏健な方法を考えていたよ」
「そうだったね」
「あの人は」
「だからね」
「幕府にも好意的だし」
「じゃあね」
「勝さんに暗殺する理由はないね」
 皆で言いました。
「そもそも勝さんって暗殺する人?」
「それを命じる人?」
「違うよね」
「それは」
「僕もそう思うよ」
 先生もというのです。
「勝海舟さんはそんな人じゃないよ」
「イメージ違うよね」
「どう考えても」
「自分から人を殺す人でもないし」
「黒幕になる人でもないね」
「お調子者なところもあるけれど」
 勝海舟さんはというのです。
「陰謀家じゃないからね」
「それじゃあ勝さんじゃないね」
「それはよかったよ」
「勝さんが黒幕じゃなかったら」
「それなら」
「けれど」
 それならそれで、です。皆は暗い顔になってお話しました。
「だとするとね」
「薩摩藩?」
「それで当時薩摩藩を動かしていた西郷さん?」
「そして西郷さんの盟友で軍師だった大久保さんかな」
「実は以前から言われているんだ」
 西郷さん達が龍馬さん暗殺の黒幕ではないか、というのです。
「薩摩藩はどうも龍馬さんが邪魔になっていたみたいだから」
「それならなんだ」
「西郷さんが大久保さんとお話して」
「それで暗殺を命じた」
「そうかも知れないんだ」
「西郷さんの下には薩摩藩の志士の人達が集まっていてね」
 大久保さんを筆頭としてというのです。
「西郷さんがやってくれって言われたら」
「その通りに動く」
「例えそれが暗殺でも」
「そうしていたんだ」
「薩摩藩の志士の人達は」
「西郷さんには人を惹き付けるカリスマもあってね」
 それでというのです。
「後に明治帝も気に入られた位だから」
「それで西南戦争が終わってもだね」
「西郷は逆賊ではないと言われたんだったね」
「西郷さんの人柄に帝も魅了されていて」
「どんな人かご存知だったからこそ」
「それで死後すぐに名誉を回復されてね」 
 明治帝ご自身がというのです。
「高い位を与えられているよ」
「凄いね」
「流石西郷さんだね」
「器が大きくてカリスマも備えていた」
「そんな人だったんだね」
「だからその西郷さんが龍馬さんが薩摩藩にとって邪魔だと判断して」
 そうしてというのです。
「暗殺を命じたらね」
「その佐々木さんも動いたんだ」
「そうしたんだ」
「その可能性があるんだ」
「佐々木さんは京都見廻組にいて幕府の方にいたけれど」
 そうであってもというのです。
「それでもね」
「直新陰流の縁で」
「薩摩藩のお家芸の」
「その可能性もあるんだ」
「西郷さんが黒幕だって」
「佐々木さんが実行犯でなくてもね」
 そうであってもというのです。
「当時薩摩藩と龍馬さんの考えは違っていたし」
「薩摩藩幕府と戦争したがってたね」
「後で戊辰戦争にもなったし」
「江戸城総攻撃は回避されたけれど」
「それでもね」
「その為に色々挑発とかしていたしね」
 幕府に対してです。
「そこで幕府に好意的な龍馬さんはどうか」
「ううん、怪しいね」
「そうなると」
「西郷さんがね」
「どうにも」
「西郷さんは暗殺も命じたことがあったのは事実だしね」 
 そうだったというのです。
「桐野智秋さんみたいな西郷さんを慕う物凄い刺客もいたよ」
「幕末って暗殺多いけれど」
「岡田以蔵さんとか」
「桜田門外の変もあったし」
「新選組だってそうだったし」
「その中でもね」
 まさにというのです。
「西郷さんは中心にいた一人だし大久保さんは基本政治の人でも」
「西郷さんの軍師だしね」
「それもお互いに絶対の信頼を抱き合っている」
「暗殺も提案していたかもね」
「その都度ね」
「そして西郷さんと話し合ってね」
 お二人でというのです。
「志士の人達に暗殺を命じていたかも知れないよ」
「桐野さんみたいな人に」
「そうしていたかも知れないんだ」
「それで龍馬さんも」
「若しかしたら」
「この事件の黒幕は色々説があるけれど」 
 それでもというのです。
「その中でもね」
「薩摩藩はだね」
「そして西郷さんはなのね」
「可能性が高いんだ」
「黒幕である」
「そうだと思うよ、僕もまだ学んでる最中だけれど」
 この事件に関してです。
「西郷さん黒幕説は有力だよ」
「それに直新陰流が絡んでいる」
「この物凄い流派が」
「そうでもあるのね」
「そうだよ、真相は中々明らかにならないだろうけれど」 
 それでもというのです。
「今のところはね」
「西郷さんは怪しい」
「物凄く立派な人だけれど」
「日本の為に貢献してくれたけれど」
「その中でね」
 どうもというのです。
「そうしたこともね」
「あったかも知れないんだ」
「そう思うと複雑だね」
「どうにもね」
「西郷さんにそんなことがあったのならね」
「それはね」
「僕もだよ、西郷さんが黒幕であって欲しくないけれど」
 それでもというのです。
「結構怪しいものがあるのは確かだよ、そしてね」
「そして?」
「そしてっていうと」
「暗殺は突発的な通り魔みたいなものでないのなら」
 それならというのです。
「まず黒幕がね」
「いるのね」
「どんな事件でも」
「そうなんだね」
「そして龍馬さん暗殺はね」
 この事件はといいますと。
「通り魔的な事件か」
「違うよね」
「どうにも」
「そんな気がするね」
「この事件は」
「まず違うね」 
 先生は皆に考えるお顔でお話しました。
「それでわざわざ宿屋に押し入ってね」
「龍馬さんを暗殺するか」
「中岡慎太郎さん共々」
「そう考えるとね」
「ないよね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「僕もそれはないと考えているから」
「それじゃあだね」
「計画的で」
「黒幕がいるね」
「うん、突発的な事件とはね」
 その様にはというのです。
「やっぱり思えないね」
「通り魔みたいな」
「いきなりとかね」
「確かにないよね」
「計画的なものだね」
「そして西郷さんが黒幕の可能性はね」
 どうしてもというのです。
「否定出来ないよ」
「そうであって欲しくないけれど」
「可能性はあるんだね」
「それも高いかも」
「そうなんだね」
「そうした時代だったしね」
 幕末はというのです。
「新選組も暗殺多かったしね」
「そうだよね」
「芹沢鴨さんという伊東甲子太郎さんといい」
「身内同士での暗殺多かったね」
「外にもそうだったしね」
「あの人達もそうでね」
 それでというのです。
「志士の人達もだよ、龍馬さんは暗殺される側で」
「する側じゃなかったね」
「あの人は」
「そうした人じゃないね」
「けれど幼馴染みで親しかった武市半平太さんがね」
 この人がというのです。
「やっぱり龍馬さんの幼馴染みの岡田以蔵さんを使って」
「ああ、武市さんね」
「武市さんは有名だよね」
「あの人は」
「何かとね」
「そう、暗殺に手を染めていて」 
 それでというのです。
「沢山の人を暗殺しているからね」
「そんな時代だったから」
「西郷さんもなんだ」
「その中にいたんだね」
「そうだよ、だから若し西郷さんが龍馬さん暗殺の黒幕でも」
 例えそうであってもというのです。
「そうした時代だった」
「そういうことだね」
「結局は」
「仕方ないことだったんだね」
「そうだよ、いいか悪いかは別にしてね」
 こうお話してでした。
 先生は直新陰流の道場も後にしました。地質調査の中の一幕でした。








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