『ドリトル先生と桜島』




                第一幕  鹿児島へ

 ドリトル先生は自宅で皆に言いました。
「今度鹿児島に行くことになったよ」
「今度はどの学問で、ですか?」
「地質学でね」
 こちらでとです、トミーに答えました。
「行くことになったよ」
「地質学ですか」
「鹿児島のそちらを調査をする為にね」
 それでというのです。
「行くことになったよ」
「そうですか」
「うん、あちらには桜島があるね」
「あの有名な火山ですね」
「それがあるからね」
 だからだというのです。
「あの火山をだよ」
「調査してですか」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「論文を書くよ」
「論文はいつも通りですね」
「そうだね、学者ならね」
「論文を書くもので」
「それでね」
「調査をされて」
 そしてとです、トミーも言いました。
「論文を書かれて」
「学会で発表するよ」
「左様ですね」
「それでね」
 先生はさらに言いました。
「歴史のこともね」
「学ばれますか」
「鹿児島というとね」
「幕末ですね」
「そして戦国時代だね」
「そうですよね」
「それに種子島に行けば」
 この島のお話もしました。
「ロケットだね」
「そちらもありますね」
「だからね」
「鹿児島も学ぶものが多いですね」
「だから楽しみだよ」
 見れば先生のお顔はうきうきとしたものになっています。
「今からね」
「それは何よりですね」
「だから楽しみにして行ってきて」
「楽しまれますね」
「そうしてくるよ、食べものもね」
 こちらのお話も忘れません。
「楽しみだしね」
「鹿児島は薩摩芋だね」
「もう何と言っても」
「あれだよね」
「先生もトミーも好きだし」
「私達だって好きよ」
「ジャガイモもいいけれど」
 先生も笑顔で応えます。
「薩摩芋もいいよね」
「そうそう」
「甘くてね」
「焼いても煮ても美味しくて」
「色々なお料理にも使えるし」
「スイーツにもなって」
「栄養もかなりあってね」
 先生はこちらのお話もします。
「しかも痩せた土地でも沢山出来る」
「最高だよね」
「最高の食べものの一つだよ」
「スーパーや八百屋さんでも沢山売ってるし」
「いい食べものだよ」
「その薩摩芋の本場だよ」
 鹿児島県はというのです。
「だから行くとなるとね」
「薩摩芋も食べようね」
「それを使ったお料理も」
「是非ね」
「あとはさつま揚げもあるし」
 このお料理もというのです。
「かるかんやきびなご、ラーメンもあるし」
「色々あるね」
「実際に」
「鹿児島も」
「シロクマにその薩摩芋を使ったピンク色のソフトクリームもあるよ」
 先生はそういったもののお話もしました。
「伊勢海老も安く食べられるそうだし鶏だってお刺身でね」
「それ驚きますよね」
 トミーは鶏のお刺身と聞いて言いました。
「あちらじゃ豚肉もですね」
「生で食べることがあるけれど」
「日本でもですね」
「生が好きなお国柄でもね」
「そうそうないですが」
「鹿児島ではね」
 こちらではというのです。
「あくまで新鮮なもの限定だけれど」
「寄生虫の心配がない」
「鶏や豚もね」
「お刺身にして食べますね」
「そうだよ」
「そうした場所ですね」
「だからね」
 それでというのです。
「食べることもね」
「楽しみにしてですね」
「行って来るよ」
「それでは」
「トミーも来られたら。王子もね」
 彼もというのです。
「よかったらね」
「その時はですね」
「一緒にね」
「行っていいですか」
「調査であると共にね」
「旅行でもありますね」
「旅行もまた学問で」
 そしてというのです。
「楽しんでするもので」
「一緒にいる人は多ければですね」
「多い程いいからね」
 だからだというのです。
「よかったらね」
「僕や王子もですね」
「一緒に来てね」
「そうさせてもらいます」
「そういうことでね、そしてね」
 先生はさらに言いました。
「幕末の歴史もね」
「学べますね」
「西郷隆盛さん、大久保利通さんもね」
「あちらの出身ですね」
「お二人がいなかったら」
 若しもというのです。
「もうね」
「幕末も維新もですね」
「どうなっていたか」
「わからないですね」
「そうだしね」
「鹿児島は幕末、維新において極めて重要ですね」
「山口県と並んでね」
 この県と、というのです。
「何時か山口県にも行きたいけれどね」
「そちらもですね」
「鹿児島、薩摩藩とね」
 そしてというのです。
「山口、長州藩はね」
「幕末、維新で重要ですね」
「あと高知県、土佐藩もね」
 この県もというのです。
「重要だしね」
「高知は坂本龍馬さんだね」
「あの人よね」
「海援隊を立ち上げてね」
「薩長同盟を成立させた」
「そう、ただあの人のお話は実は創作が多いんだ」
 先生はここで動物の皆にお話しました。
「よく物語では後藤象二郎さんや板垣退助さんにいじめられてるね」
「子供の頃ね」
「後藤さんや板垣さんが上士でね」
 オシツオサレツが言いました。
「龍馬さんそれに武市半平太さんが郷士で」
「身分の壁があってね」
「後藤さんや板垣さんが上士を理由にやりたい放題で」
「もう人だって平気で殺して」
 チープサイドの家族はとても嫌そうに言います。
「卑怯なこともして」
「最低だよね」
「何であんな人達が偉人なのかね」
 ガブガブも言います。
「僕わからなかったよ」
「極悪非道の外道だね」
 チーチーの言葉は厳しいものでした。
「物語での土佐藩の偉い人達は」
「けれど実は違っていて」
 ダブダブが言いました。
「あの人達もちゃんと倫理観があったのよね」
「あんな絵に描いた様な悪役じゃなくて」
 ポリネシアも知っていることでした。
「ちゃんとした人達だったのよね」
「そうそう、お殿様の山之容堂さんもそうで」
 トートーはこの人の名前を出しました。
「色々と立場もあったしね」
「物語はあくまで物語で」 
 ホワイティはこう言い切りました。
「ちゃんとわかっていないとね」
「実際の歴史とは違うね」 
 ジップの口調はしみじみとしたものでした。
「物語は」
「創作自体が入っているから」 
 老馬は創作というもののお話をしました。
「事実とはどうしても違うね」
「そうだよ、実は龍馬さんは子供の頃その人達にいじめられていたどころか」
 後藤さんや板垣さんにとです、先生はお話しました。
「会ってもいないよ」
「後藤さんとはじめて会ったのは長崎で」
「幕末の真っ只中で」
「龍馬さんは脱藩していたし」
「もう無関係だったね」
「それで板垣さんとはだよ」
 この人とはというのです。
「会ったことがないよ」
「そうなんだよね」
「同じ土佐藩にいたけれど」
「立場が違っていて」
「お会いすることなかったね」
「そして板垣さんは決して悪い人でなくて」
 創作の世界とは違ってです。
「人を平気で殺すなんてね」
「絶対にしなかったよね」
「後藤さんもそうで」
「むしろ板垣さんって竹を割ったみたいな人で」
「身分が低い人にも寛容だったんだね」
「そうだよ、それで当時脱藩は罪だったけれど」
 龍馬さんがしたことはです。
「それが赦される様に動いていたしね」
「龍馬さんの為にね」
「何か頼まれてそうしたらしけれど」
「悪い人で郷士の人達を平気で殺す様な人なら」
「絶対にしないね」
「そうだよ、ある創作では人を後ろから刺し殺す様なこともしているけれど」
 ある龍馬さんを主人公にした漫画のお話もしました。
「こうしたこともね」
「絶対にしなかったね」
「そんな武士としてどうかと言われることも」
「そして堂々としていて」
「刺客に来た中岡慎太郎さんを説得して」
「後で盟友同士になったんだよね」
「この中岡さんも土佐藩の郷士だったよ」
 龍馬さんと同じくというのです。
「陸援隊を立ち上げたね」
「刺客に来た人を説得して盟友同士になるとか」
「板垣さん凄いわ」
「相当肝が据わってて」
「しかも器もあったのね」
「間違いなくね、そんな人で龍馬さんもね」
 この人もというのです。
「お会いしたことはなくても」
「それでもだよね」
「何かこうした人がいて」
「頼れるってね」
「同志の志士の人達に紹介してたんだよね」
「龍馬さんも」
「お互いお会いしたことはなかったことは事実で」
 それでというのです。
「聞いているだけだったけれど」
「何か凄い人がいるってね」
「お互い聞いていて」
「それで助け合う」
「そうした間柄だったんだね」
「確かに龍馬さんは上士の人達が嫌いでね」
 そうしてというのです。
「身分制度がなくなることを望んでいたけれど」
「それでもよね」
「板垣さんのことを聞いていて」
「ちゃんと評価していたのよね」
「お会いしたことはなくても」
「この通り幕末でもね」
 この時代のこともというのです。
「色々創作の題材になってるけれど」
「事実とは違う」
「そうしたことが多いのね」
「歴史を題材にしていても」
「脚色されているんだね」
「シェークスピアでもそうだね」
 先生は祖国のあまりにも有名な作家さんのお名前も出しました。
「かなり創作が入ってるね」
「そうそう」
「あの人の作品もそうなのよね」
「その実は」
「あくまで戯曲で」
「お芝居の為に書かれていて」
「マクベスもリチャード三世もね」
 書かれている歴史上の人達もというのです。
「実際は違うというのがね」
「歴史だね」
「事実なんだよね」
「シェークスピアの作品とは違って」
「実際の人となりは違うわね」
「果たして本当にリチャード三世は狡猾な極悪人だったか」
 先生は考えるお顔で述べました。
「よく調べる必要があってね」
「日本でもそれは同じで」
「幕末もそうで」
「後藤さんや板垣さんは本当に悪人だったか」
「龍馬さんをいじめていたか」
「実は違うんだ、龍馬さんが子供の頃いじめられっ子だったことは事実でも」
 それでもというのです。
「後藤さんや板垣さんは無関係だよ」
「そこを敢えて登場させて」
「後藤さんや板垣さんを敵役にすると」
「当時の身分を書いて」
「龍馬さんが身分制度を嫌って変えようとした」
「そう思うはじまりになるね」
「確かに土佐藩は身分制度が厳しくてね」
 先生はまた事実をお話しました。
「龍馬さんは否定してね」
「変えようとした」
「そのことは事実だよね」
「けれど上士の人達にいじめられていた」
「そのことはどうかというと」
「違っていてね」
 その実はです。
「創作は創作でね」
「事実は事実」
「そこはわからないとね」
「やっぱりね」
「よくないね」
「そうだよ」
 こう皆にお話します。
「これは何時のどの国の歴史も同じだけれど」
「幕末もそうで」
「じゃあ西郷さんと大久保さんもだね」
「鹿児島の人達のことも」
「そこはわかって」 
 そうしてというのです。
「しっかりと学んでいかないとね」
「そういうことだね」
「じゃあ僕達もそうするね」
「先生と一緒に鹿児島に行ったら」
「その時はね」
「勿論皆は一緒だよ」
 動物の皆はというのです。
「だって皆はいつも僕と一緒だね」
「その通りだよ」
「私達は何があっても一緒よ」
「先生とは離れないよ」
「先生がいないと僕達駄目だしね」
「だからね」
「僕だってだよ」
 先生にしてもというのです。
「皆がいてくれないとね」
「先生家事出来ないしね」
「世間のことは全く駄目だから」
「僕達がいないとね」
「何も出来ないよね」
「いや、本当に世間のことはね」 
 先生ご自身も言うことでした。
「駄目なんだよね」
「だからだよ」
「勿論鹿児島でも一緒だよ」
「先生何かと任せてね」
「周りのことは皆僕達がするから」
「そうさせてもらうからね」
「宜しくね、しかし僕は一人では生きられないね」
 ここでこうも思った先生でした。
「何も出来ないからね」
「一人で生きられる人はいないじゃないですか」
 トミーが先生に微笑んで言ってきました。
「先生もいつもそう言っておられますね」
「それはね」
 先生もそれはと応えます。
「実際にね」
「そう思われていますね」
「うん」
 その通りだと答える先生でした。
「そうだけれどね」
「なら先生もですよ」
「一人で生きられないからだね」
「そうしたことを言う必要はないですよ」
「世間のことが出来なくても」
「その為に僕達がいるんですから」 
 先生の世間のことを支える為にというのです。
「ですから」
「こうしたことはだね」
「言うことはないです」
 またこう言うのでした。
「何も」
「そうなんだね」
「それよりも先生はです」
 先生にあらためて言いました。
「学問のことにです」
「励むことだね」
「はい」
 そうすべきだというのです。
「それが先生のされるべきことですから」
「学問自体がだね」
「僕達はそう思っていますから」
 こう言うのでした。
「そうされて下さい」
「そこまで言ってくれるならね」
「鹿児島でもですね」
「そうしてくるよ」
 是非にと答えた先生でした。
「僕もね」
「はい、それでは」
「鹿児島に行ったら」
「皆とですね」
「皆に助けてもらって」
 そうしつつというのです。
「一緒にね」
「学問に励まれますね」
「そうしてくるよ」
 こう答えるのでした。
「是非ね」
「そうされて下さい」
「ではね」
「はい、しかし」
「しかし?」
「鹿児島といいますと」
 トミーはこの場所のお話をしました。
「どうしても桜島がです」
「調査の対象のだね」
「目立ちますね」
「うん、何といってもね」
「桜島は鹿児島の象徴ですね」
「昔からね」
「そうですよね」
 トミーも応えました。
「やっぱり」
「それこそ人間があそこに住む前からね」
「あそこにあって」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「ずっとだよ」
「噴火しているんですね」
「そうなんだ、そして毎日みたいに噴火しているからね」 
 その為にというのです。
「鹿児島県の土壌はね」
「火山灰に覆われていますね」
「そうなんだ」
「それで知られていますね」
「あれだけ活発な火山は世界的にもそうないよ」
 先生はこうも言いました。
「本当にね」
「そうですよね」
「今だってね」
「毎日みたいに噴火して」
「火山灰を降らしているからね」
「それであの県には火山灰用のゴミ袋もありますね」
「そうなんだ」
 そうなっているというのです。
「あちらはね」
「鹿児島県の地域性ですね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「もうね」
「桜島が毎日みたいに噴火して」
「それで火山灰が土壌になっていてね」
「鹿児島県の土壌になっていますね」
「だから長い間お米があまり採れなくて」
 日本人の主食であるこれがというのです。
「苦労してきたんだ」
「だから薩摩芋が日本に入って」
「凄く助かったんだよ」 
 この作物がというのです。
「鹿児島県昔の薩摩藩の人達はね」
「そういえば薩摩藩の志士の人って貧しい出の人多いね」
「そうそう、西郷さんも大久保さんもで」
「黒田清隆さんもよね」
「松方正義さんも」
「うん、薩摩藩は八十万石近くの石高を幕府に定められたけれど」
 先生は皆に薩摩藩の事情をお話しました。
「実際は三十八万石しかなくて」
「半分位?」
「それだとね」
「八十万石近くでも実際は三十八万石位だと」
「もうね」
「そんな風だったからね」
 だからだというのです。
「財政は苦しかったし江戸から遠いね」
「うん、かなりね」
「九州の南の端にあるから」
「かなり遠いよ」
「どうしてもね」
「参勤交代で行き来するにも」 
 薩摩藩から江戸まで、です。
「幕府は一年ごとに交代でする様に言ったけれどね」
「それも大名行列でね」
「それぞれのお大名の石高に合った規模で」
「一年ごとにやっていたのよね」
「江戸時代の大名の人達は」
「鹿児島から東京までを行き来するなんてね」
 それこそというのです。
「当時一人でもかなり旅費がかかったのに」
「それも大名行列になると」
「かなりの旅費になるね」
「しかも遠いしね」
「それを八十万石近くの規模でやっていたんだ」 
 薩摩藩はというのです。
「実際は三十八万石位なのに」
「それも遠路はるばる」
「そう考えるとね」
「薩摩藩の参勤交代は大変だったね」
「そうだったね」
「そうだよ、しかも薩摩藩はお侍が多かったんだ」 
 このこともです、先生はお話しました。
「実はね」
「ただ遠くて実際の石高が少ないだけじゃなくて」
「お侍さんも多かったんだ」
「そうだったの」
「例えを言うとね」
 先生はお話しました。
「加賀藩百万石の前田家で二万二千位だったんだ」
「百万石でそれだけなんだ」
「確か前田家って石川県だったね」
「あそこだったね」
「そう、あそこにあって実際の石高もそれ位でね」
 百万石だったというのです。
「厳密に言うと百十七万石位だったかな」
「薩摩藩の実際の三倍位だね」
「それだとね」
「そうよね」
「それで二万二千に対して」
 加賀藩のお侍はというのです。
「薩摩藩は五万だよ」
「えっ、多いね」
「前田家の二倍以上じゃない」
「物凄く多いよ」
「それだと」
「お侍の数だけ俸禄を支払わないといけないから」
 だからだというのです。
「余計にだよ」
「薩摩藩は大変で」
「薩摩藩の人は貧乏な人が多いんだ」
「そうなんだね」
「そうだよ、五万ものお侍に三十八万石で俸禄を出すとなると」 
 そうなると、というのです。
「必然的にそれぞれの俸禄は少なくなるね」
「そうだよね」
「正直言って無理あるね」
「考えてみたら」
「その無理が江戸時代の間ずっと続いたからね」
 それ故にというのです。
「西郷さんも大久保さんもだよ」
「貧しかったんだね」
「俸禄が少なくて」
「そのせいで」
「身分が低かったこともあるけれど」
 西郷さん達はです。
「薩摩藩のそうした事情があったんだ」
「成程ね」
「だから西郷さん達貧しかったんだ」
「色々大変なお話があるけれど」
「そういうことだったんだ」
「そうだよ、西郷さんなんてね」
 先生はこの人のお話をここでしました。
「お豆腐屋さんをおから屋さんだって思っていたんだ」
「おからってあれだよね」
「お豆腐の搾りカスだよね」
「兎の餌にもするし」
「僕達も油をたっぷり使って炒めて食べてるね」
「あれはあれで美味しいね」
「けれどお豆腐を貧しくて買えなくてね」
 そうした事情があってというのです。
「おからしか買ってなくてだよ」
「おから屋さんと思っていたんだ」
「そうだったんだね」
「西郷さんは」
「そうだよ、そこまで貧しかったんだ」
 西郷さんはというのです。
「お豆腐を見てお父さんがこんなご馳走どうしたんだっていう位にね」
「あの、江戸時代お豆腐ってご馳走じゃないよね」
 食いしん坊のガブガブが言ってきました。
「確か」
「もう皆普通に食べていた筈だよ」
 もの知りのトートーも言います。
「確かね」
「そのお豆腐がご馳走で」
 ガブガブも驚きを隠せません。
「それでおからばかり食べていたって」
「物凄く貧しかったんだね」
「西郷さんのお家は」 
 チープサイドの家族もお話します。
「考えてみたら」
「おからって物凄く安いから」
「ううん、何ていうかね」
 ジップは思わず唸りました。
「幕末の偉い人だからお金持ちかもって思ったら」
「これが全然違うからね」
 ホワイティはジップに応えました。
「最初驚いたわ」
「それも西郷さんだけじゃないからね」
 ポリネシアは他の人のお話をしました。
「大久保さんも黒田さんも松方さんもだから」
「それはどうしてかというと」 
 老馬は言いました。
「薩摩藩のそうした事情があったからだね」
「お米があまり採れなくて実際の石高は少なくてね」
 チーチーは先生のお話をまとめてそのうえで言いました。
「おまけにお侍が多過ぎて俸禄が少なくて」
「しかも参勤交代の苦労もあるね」
「これ凄かったんだよね、江戸時代」 
 オシツオサレツはこちらのお話をしました。
「だったらお金がないのもね」
「当然だね」
「だからあまりよくない方法でお金を手に入れてもいたよ」
 先生は皆に薩摩藩のこうした事情もお話しました。
「密貿易をしたりお砂糖を無理に作らせて売ったり」
「ううん、何か闇深いね」
「そうだね、薩摩藩って」
「密貿易とかして」
「お砂糖も無理になんて」
「そうだったんだ、それで薩摩藩は幕府によく思われていなくて」
 この事情もお話するのでした。
「色々普請とかも言われてね」
「それでまたお金使って」
「余計に大変だったの」
「これまでお話したことに加えて」
「お殿様が贅沢もしたりしたしね」  
 問題はさらにありました。
「借金もしてね」
「密貿易とかでも足りなくて」
「それでもなんだ」
「普請もあって」
「お殿様の贅沢もあって」
「それが凄い額になってね」
 借金がというのです。
「五百万両にもなったよ」
「五百万両っかなりだよね」
「江戸時代って千両で凄かったから」
「千両箱とかいうしね」
「それだとね」
「人間一人一年生きられるのに十両だよ」
 先生はお話しました。
「そう言われていたよ」
「それで五百万って」
「とんでもないね」
「五十万の人が一年暮らせる位って」
「一つの藩の借金としてはね」
「とんでもなくてね」
 それだけの額でというのです。
「証文焼いて二百五十年かけて返すって言ったんだ」
「その五百万両を?」
「二百五十年かけて」
「それで返すことにしたの」
「一年二万両ずつね」
 先生は一年辺りの額のお話もしました。
「そうしたんだ」
「強引な踏み倒しだよね」
「どうにもね」
「そんなことまでしたんだね」
「薩摩藩って」
「その歴史はね、ただ西郷さんはね」
 またこの人のお話をしました。
「凄い人だね」
「そうだよね」
「恰好いいよね」
「頭がよくて器も大きくて」
「そして人格者でね」
「ああした人がいてくれたからね」
 先生は西郷さんのことは皆に笑顔でお話しました。
「幕末も維新もね」
「日本は乗り切って」
「今に至るね」
「西郷さんがいたから」
「そうなったね」
「西郷さんと大久保さんはね」
 このお二人はというのです。
「幕末、維新の時にだよ」
「凄い貢献をしてくれた」
「そのことは事実ね」
「紛れもなく」
「そうでね」 
 それでというのです。
「このことは称賛されるべきだよ」
「薩摩藩は何かとあった藩でも」
「それでもだね」
「そうした人達を出してくれた」
「そうした場所でもあるね」
「そうだよ、そして僕達はね」
 先生はさらにお話しました。
「その鹿児島に行くんだよ」
「あの、先生」
 またトミーが先生が聞いてきました。
「確か東郷平八郎さんも」
「うん、日本海軍の偉大な提督さんだね」
「世界的に有名な」
「日本海海戦に大勝利を収めたね」
「あの人もでしたね」
「そうだよ、鹿児島出身だよ」
 先生はトミーに笑顔で答えました。
「あの人もね」
「そうでしたね」
「薩摩藩の人でね」 
 その出身はというのです。
「新政府軍の海軍に入って」
「そこで経験を積んでましたね」
「戊辰戦争にも参加していたよ」
 維新の時のこの戦争にというのです。
「それで幕府軍とも戦ったよ」
「幕府の海軍というと榎本武揚さんですね」
「あの人が率いる海軍とも戦っているよ」
「そうだったんですね」
「それで榎本さんが降伏した時助命を嘆願して認めてもらったのがね」
「黒田さんでしたね」
「そうだったんだ、面白い歴史の流れだね」 
 先生はトミーににこにことしてお話しました。
「これもまた」
「本当にそうですね」
「これ以降榎本さんは黒田さんの無二の盟友となったよ」
「かつては敵同士だったのに」
「黒田さんに命を助けられてね」
「漫画みたいな展開ですが」
「現実になってね、そして東郷さんはね」
 この人のお話を戻しました。
「海軍で頭角を表してイギリスにも留学していたんだ」
「当時のイギリスと言えば」
「世界一の大国でね」
「海軍と言えばイギリスでしたね」
「そのイギリスに留学してだよ」
 そうしてというのです。
「戦略戦術等に国際法も学んで」
「大提督になりましたね」
「日清戦争で活躍して」
「日露戦争でもですね」
「戦争の勝敗を決した戦いの一つのね」
 まさにそれのというのです。
「日本海海戦にだよ」
「大勝利を収めて」
「歴史に名を残してね」
「日本を勝利に導きましたね」
「あの海戦と奉天会戦に勝って」
 そうなってというのです。
「日本は日露戦争に勝ったよ」
「素晴らしいことですね」
「陸軍にも大山巌さん達鹿児島の人達がいたしね」
 こちらにもというのです。
「薩長閥というとよくないイメージもあるけれど」
「当時の政府を引っ張っていましたね」
「長州藩、山口の人達と一緒にね」
「そうでしたね」
「それも歴史だよ、そしてね」
「先生はその人達のこともですね」
「学んでくるよ」
 鹿児島に行ってというのです。
「そうしてくるよ」
「わかりました、じゃあ僕は」
「行けたらだね」
「行かせてもらいますね」
「王子もそうだね」
「王子ともお話してみます?」
「そうだね、聞いてみるよ」
 こう答えてでした。
 先生は実際にご自身のスマートフォンで王子に連絡を取りました、そうしてお話をすると王子はスマートフォンの向こうから言いました。
「うん、行くことが出来たらね」
「それならだね」
「ご一緒させてもらうよ」
「宜しくね」
「うん、しかしね」
「しかし?」
「先生も色々な学問に励んでいて」
 スマートフォンの向こうの先生に笑顔でお話しました。
「色々な場所にもね」
「行ってるね」
「日本のね」
「思えばそうだね」
「日本に来てね」
 先生がです。
「何かとね」
「行ってるね」
「そうだね」
「沖縄にも北海道にも行ってね」
「東北にも長野にも行って」
「松山にも行ってね」
「関西全域も行ったし」
 そうしてというのです。
「今度はだね」
「そうだよ、九州でね」
「鹿児島だね」
「そこに行くんだ」
 そうするというのです。
「これからね」
「そうだね、僕も行くことが出来たらね」
 それならというのです。
「その時はね」
「一緒にだね」
「行かせてもらうよ」
「ではね」
「あとね」
 王子は先生にこうも言いました。
「自衛隊の基地もね」
「ああ、鹿屋のだね」
「行ってきたらどうかな」
「そのつもりだよ」
 先生は笑顔で応えました。
「鹿児島に行くのならね」
「あちらにもだね」
「行くよ、鹿屋だね」
「そう、あそこだよ」 
 王子もまさにと答えました。
「あちらにね」
「行ってだね」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「自衛隊そしてかつての日本海軍特にね」
「特攻隊の人達だね」
「あの人達のことを学ぶよ」
「そうするね」
「絶対にね」
「そうしたらいいよ、何ていうかね」 
 王子は悲しい様な切ない様な声で言いました。
「悲しくてそしてとてもね」
「奇麗だね」
「何て言うのかな、悲痛美かな」
「特攻隊の人達はね」
「日本の為に全てを、命を懸けてね」
「特攻をしてね」
 そうしてとです、先生も言います。
「敵を倒したんだ」
「世界でそんなことした人達ってね」
「いないよ」
「そうだね」
「苦しい状況でもね」
 戦争がというのです。
「そこまでするなんてね」
「信じらないし」
「これ以上はない位に悲しくて」
「そして奇麗だね」
「それがね」
 まさにというのです。
「悲痛美だよ」
「そうした奇麗もあるんだね」
「そうなんだ」
「それが特攻隊にはあるんですね」
「特攻隊の資料は江田島にもあるよ」
「海軍兵学校だった場所に」
「今は海上自衛隊幹部候補生学校だね」
 そちらになっているというのです。
「そうだね」
「そこにもあって」
「うん、そしてね」
「鹿屋にもだね」
「あそこの基地から飛び立ってね」
 特攻隊の人達はというのです。
「そしてね」
「皆だったね」
「散華したんだ」
 先生は悲しい声をお顔でお話しました。
「その鹿屋のね」
「特攻隊の資料館にも」
「行って来るよ」
 そうするというのです。
「絶対にね」
「そうするね、じゃあね」
「王子もだね」
「行くことが出来たら」 
 そうであるならというのです。
「行かせてもらうよ」
「それではね」
「楽しみにしているよ」
「そうしてくれるね」
「是非ね」
 先生は皆に笑顔で言いました、そうしてです。
 鹿児島に行く日にあちらでの日程のこともお話しました、先生は今度は九州の最南端に行くのでした。








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