『ドリトル先生のダイヤモンド婚式』




                第四幕  優しい老夫婦

 お静さんは自分からです。
 先生の研究室に来てこう言いました。
「田中さんのご夫婦にお話したらね」
「どう言ってくれたのかな」
「ええ、是非ね」
 お静さんは先生に笑顔で答えました。
「お会いしたいってね」
「行ってくれているんだ」
「そうよ」
 こう先生に言いました。
「そうね」
「それは何よりだね」
「ではお会いするわね」
「僕からお二人のお家にお邪魔してね」 
 そうしてというのです。
「そのうえでね」
「お会いするわね」
「そうさせてもらうよ」
「それじゃあお二人と先生の都合のいい日にね」
 その日にというのです。
「案内させてもらうわ」
「お二人のお家にだね」
「そうさせてもらうわ」
 先生に笑顔でお話しました。
「私からね」
「それじゃあね」
「その時また言うわね、ただね」
「ただ?」
「今かかっている曲だけれど」
 お静さんは先生に研究室の中にかかっているクラシックの曲に注目しました、その穏やかで優しさの感じられる曲に対して。
「素敵な曲ね」
「金婚式って曲でね」
「五十年の時ね」
「欧州の方の曲で」
「確かにそんな感じね」
「貴族のご夫婦の金婚式のお祝いに」
 その時にというのです。
「贈られた曲なんだ」
「まさに金婚式の曲ね」
「そうだよ」
 こう答えるのでした。
「その曲だよ」
「成程ね」
「そう、そしてね」
 先生はお静さんにさらに言いました。
「今から三時だから」
「おやつの時間だね」
「そうだね、ティータイムだね」
「だからなのね」
「飲みものを出して」
 そうしてというのです。
「お菓子もね」
「出すのね」
「それで一緒にどうかな」
 こうお静さんに言いました。
「これから」
「私もなのね」
「遠慮は無用だよ」
 笑顔でのお誘いでした。
「だからね」
「これからなのね」
「どうかな」
「それじゃあお言葉に甘えてね」
 お静さんは先生のお誘いに頷きました、そうしてです。
 すぐにティーセットが出されました、今日はロイヤルミルクティーにです。
 冗談は生クリームをサンドしたビスケット、中段は苺のケーキ、下段はドライフルーツです。その三段が出されて。
 皆で食べます、お静さんはその中で言いました。
「いや、こうしたものが普通に食べられるなんてね」
「いいことだね」
「お二人が結婚した時なんてね」
「昭和三十年代だね」
「こうしたものもね」
「そうそうなかったんだね」
「特にケーキがね」
 このスイーツがというのです。
「なかったのよ」
「贅沢なものだったね」
「紅茶もね、ハイカラなもので」
 そうした印象でというのです。
「そうそうはね」
「飲めるものじゃなかったね」
「いつも飲んでる人は」 
 当時はというのです。
「滅多にね」
「いなかったね」
「相当なハイカラ趣味か」
「お金持ちかな」
「そうだったわ、それが今ではね」
「こうしてだね」
「普通に飲めるわ、しかもロイヤルミルクティーなんて」
 この紅茶はというのです。
「聞いたこともなかったわ」
「そんなものだったんだね」
「ホットミルクとホットティーを一緒に入れるのよね」
「そうだよ、今じゃ普通に飲めるね」
「ええ、ただね」
 それでもというのです。
「あの頃はね」
「牛乳もだね」
「冷蔵庫も普及しだした頃で」
「牛乳が沢山あるとあの中で保存するから」
「それもなくて」  
 冷蔵庫もというのです。
「中々ね」
「飲めるものじゃなかったね」
「そうだったわ」
 昭和三十年代はというのです。
「本当にね」
「それが今じゃこうして」
「普通に飲めるわね」
「そうだね、しかもね」  
 先生はお静さんにそのロイヤルミルクティーを飲みつつ笑ってお話しました。
「イギリスのものよりもね」
「日本のものの方がなの」
「美味しいよ」
「そうなのね」
「お水がいいし」
 まずこのことがあってというのです。
「それに牛乳だってね」
「日本の方が美味しいの」
「うん、かなりね」
「そうなのね」
「お水の質がいいのは土地がいいからで」
 それでというのです。
「乳牛はその土地に生える草を食べてお水を飲むね」
「そのいいお水をね」
「そうするから」
 だからだというのです。
「牛乳もね」
「美味しくなるのね」
「そうだよ、ちなみにイギリスのお水は硬水だよ」 
 こちらのお水だというのです。
「日本のお水は軟水だよ」
「その違いもあるのね」
「硬水で煎れる紅茶と軟水で煎れる紅茶はまた違うし」
「そのこともあるの」
「その軟水の質がね」
 日本のそれはというのです。
「かなりね」
「いいからなのね」
「美味しいんだ」
「本場のイギリスのものよりも」
「そうなんだ」
 お静さんにその紅茶を飲みながらお話します。
「本当にね」
「成程ね」
「実際にかなり美味しいよ」
「日本のお水ってね」
 オシツオサレツも言ってきました。
「それで煎れる紅茶だってね」
「他のお茶もね」
「牛乳も実際にだよ」
 ホワイティも言います。
「かなり美味しいよ」
「日本って何でも美味しいよ」
 食いしん坊のダブダブはこうまで言いました。
「牛さん達のいる牧場は日本じゃ山の方にあることが多いけれど」
「その山もね」
「美味しいものが一杯なのよね」
 チープサイドの家族も実感していることです。
「山の幸って言ってね」
「美味しいものの宝庫だよ」
「海の幸も凄くてね」
 お家でトミーと共にメインの料理番であるガブガブは流石によく知っています。
「山の幸もなのよね」
「それで紅茶もいいのよね」
 ポリネシアはまさに今飲んでいるそちらのお話をしました。
「これが」
「その牛乳と紅茶が一緒になったら」 
 チーチーは断言しました。
「美味しくて当然だよ」
「だから日本で飲むロイヤルミルクティーは最高なんだ」
 老馬も言い切ります。
「イギリスのもの以上にね」
「勿論お菓子とも合うしね」
 ジップはそちらを見ながら飲んでいます。
「尚更いいんだよね」
「いやあ、素敵なティータイムだよ」
 トートーはご満悦といった風です。
「本当にね」
「そうなのね、ティータイムはイギリスが一番と思っていたら」
 お静さんは皆のお話を聞いて言いました。
「そうでもないのね」
「日本のものもいいよ」
「むしろイギリス以上かも」
「本場を超えてるよ」
「食材がいいから」
「あと作る人もね」
「イギリスの数少ない美味しいものと言われているけれど」 
 先生がまたお話します。
「ティーセットは」
「それでもなの」
「これがね」
「今こうして日本で飲んで食べてる方がなの」
「凄くね」
 これがというのです。
「美味しいよ」
「今お話した理由で」
「そうだよ、しかも今皆が言ったけれど作る人達も」
 彼等もというのです。
「紅茶のパックや牛乳の加工でもね」
「腕がいいのね」
「少しでも美味しくしようと思って」 
 そう考えていてというのです。
「作ってくれているからね」
「美味しいのね」
「そうだよ、日本で努力していない人達は」  
 その人達はといいますと。
「お仕事だと知識人とか野党の政治家の人達とか運動家だけだよ」
「全部一緒じゃない」
「同じ様な考えで立場の人達だね」
「そうした人達で」
 それでというのです。
「全く努力しないでね」
「生きているのね」
「何十年も他の人達の文句を言うだけでね」
「本当に努力しないわね」
「沖縄の基地の前にいる人達なんか」
 それこそというのです。
「迷惑でしかないよ」
「あそこにずっといてね」
「ああした人達位でね」
 努力をしない人達はというのです。
「メーカーの人達だってね」
「努力してるのね」
「そうだよ、だからね」
「これだけの美味しさなのね」
「そうなんだ、だから飲もう」
「そして食べるのね」
「日本と日本のそうした人達に感謝してね」
 そうしつつというのです。
「今はそうしようね」
「それじゃあね」
「十時には軽く喉を潤して一口位で」 
 午前のティータイムはというのです。
「三時はね」
「こうしてよね」
「本格的にね」
「楽しむのね」
「そうしているんだ」
「毎日よね」
「これがコーヒーだったりレモンティーや中国茶だったり日本茶の場合もあるけれど」 
 それでもというのです。
「これがないとね」
「しっくりいかないのね」
「僕はね、だからどんな日でもね」
「毎日楽しんでいるのね」
「三度のお食事と」
 朝食と昼食それに夕食です。
「ティータイムは欠かさないよ」
「そうなのね」
 お静さんは先生のお言葉に笑顔で応えました、そうしてです。
 皆でティータイムを楽しみました、お静さんはその後で帰って先生は皆に見守られながら論文今回は脳外科についてのそれを書いていきました。
 そして次の日お静さんは朝に研究室に来て先生に言ってきました。
「先生今度の日曜時間あるかしら」
「その日にだね」
「田中さんご夫婦が先生も日曜なら時間があるってね」
 その様にというのです。
「言われているから」
「僕に合わせてくれたんだ」
「ええ、先生はお仕事があるから」
 それでというのです。
「日曜はどうかってね」
「お二人は何時でもいいみたいだね」
「だってもうお年寄りだから」
 それでというのです。
「お仕事はね」
「定年を迎えてだね」
「そう、そしてね」
 それでというのです。
「お時間はあるのよ」
「そうなんだね」
「だからね」
「僕に合わせてくれたんだ」
「そうなのよ」
「有り難いことだね」
 先生はそう聞いて素直に感謝しました。
「僕に合わせてくれるなんて」
「そうした気遣いの出来る人達なの」
「そうなんだね」
「お二人共ね」
「そうなんだね、それじゃあ」
「ええ、日曜日の朝にね」
 その時にというのです。
「先生のお家に行くから」
「そうしてだね」
「先生を案内するわね」
「宜しく頼むよ」
「そういうことでね」
「それじゃあね。それとお二人のお家は震災があって」
 それでというのです。
「その時にあたらめて建てたから」
「昔のお家じゃないんだね」
「結婚してからローンでお家を買ったらしいけれど」
「そのお家はだね」
「あの震災でね」  
 神戸を襲ったそれでというのです。
「壊れてしまったの」
「あの震災は大変だったからね」
「けれどお二人もご家族の人達も親戚の人達も皆無事でね」
「それはよかったね」
「お二人もそう言われてるわ」
「それは何よりだね」
「日本は災害が多くて」 
 そうした事情があってというのです。
「それでね」
「地震も多くて」
「神戸も見舞われたから」 
 そうなってしまってというのです。
「大変だったのよ」
「それでお二人のお家もなんだ」
「その時に一旦壊れて」
 そのうえでというのです。
「建て直したのよ」
「そうだったんだ」
「全く、何が一番怖いってね」
 お静さんは前足を腕の様に組んでそのうえで言いました。
「災害、火事や雷、台風でね」
「特に地震なんだ」
「正直空襲よりも厄介よ」 
 こうしたものはというのです。
「先生も思うでしょ」
「日本に来てわかったよ、地震は戦争より怖いね」
「物凄い被害を出すからね」
「台風も凄いけれど」
「地震はね、東京の歴史を観ていたら」
「関東大震災ね」
「あの被害の恐ろしさは」 
 調べてみるとだったのです。
「ぞっとするよ」
「あの時も私は神戸にいたけれど」
「大変だったね」
「もうあっという間にね」 
 それこそというのです。
「あの街が廃墟になったのよ」
「東京全体が」
「そう、あの後で空襲もあったけれど」
「お静さんとしてはなんだ」
「空襲以上にね」
 沢山の人が亡くなったこの時よりもというのです。
「恐ろしかったわ」
「そうだったんだね」
「それで神戸でもね」
「阪神大震災でだね」
「とんでもないことになったから」
 それ故にというのです。
「何が一番怖いかっていうと」
「地震だね」
「そう思っているわ、そしてね」
 それでというのです。
「ご夫婦もよ」
「地震でだね」
「大変な目に遭ったのよ」
「神戸に昔からいる人はそうだね」
「もう随分時が経ったけれど」 
 お静さんは遠い目でお話しました。
「あの時は大変だったわ」
「街が崩壊してね」
「自衛隊の人達や沢山のボランティアの人達が来てくれてね」
「助かったね」
「ええ、自衛隊の人達は立派だったわ」
「物凄く頑張ってくれたね」
「それでどれだけの人達が助かったか」
 先生にこのことをお話します。
「そのことはよかったわ、けれどね」
「地震自体がだね」
「嫌よ、一番起こって欲しくないわ」
「災害の中でも」
「戦争は政治で避けられてもね」 
 そうなってもというのです。
「災害はそうはいかないでしょ」
「人間の力ではね」
「だからね」
 それでというのです。
「災害は戦争よりも怖くて」
「起こって欲しくなくて」
「そしてね」
「迷惑なものだね」
「その中でも地震がよ」
「一番怖いね」
「そのことがわかったわ、関東大震災とかを見てもだけれど」
 それでもというのです。
「阪神大震災ではね」
「その身で経験して」
「わかったわ、そしてその震災をね」
「お二人は乗り越えて」
「そうしてよ」
「今も一緒におられるんだね」
「そうよ、辛いことだけでなくね」 
 地震等だけでなくというのです。
「悲しいことも楽しいことも嬉しいこともね」
「一緒にだね」
「六十年の間ね」
「共に経験してきたんだね」
「それも支え合ってね」
「だからこそ強い絆だね」
「そうよ、そしてその絆を育んできた人達とね」
 まさにというのです。
「一緒に会いに行きましょう」
「それじゃあね」 
 先生はお静さんの言葉に笑顔で頷きました、そうしてです。
 日曜の朝に三丁目の田中さんのお家にお静さんに案内されて動物の皆と一緒に会いに行きました、するとです。
 清潔で静かなたたずまいの一軒家にです、白髪頭でとても穏やかなお顔立ちの老夫婦がおられて迎えてくれました。お二人共静かな服装です。
 そのお二人がです、先生に微笑んで挨拶してくれました。
「はじめまして」
「はじめまして」
 先生も笑顔で挨拶を返しました、そうしてです。
 それぞれ自己紹介をしてです、先生はお二人にお話しました。
「お静さんからお話は聞いています」
「そうなのですか」
「六十年ですね」 
 ご主人に応えて言いました。
「結婚されて」
「はい、有り難いことにです」
 ご主人は先生に微笑んだまま答えました、見れば本当に穏やかなお顔です。
「そうなりました」
「長い様であっという間でした」
 奥さんも言います、この人も穏やかなお顔です。
「この六十年」
「そうなのですね」
「まさかです」
 奥さんはこうも言いました。
「これだけ一緒にいられるとは思っていませんでした」
「お互い高校を卒業してです」
 またご主人がお話します。
「就職して同じ職場で知り合いまして」
「うちの人が一年先輩でして」
「それで仕事のことを教えているうちにです」
「仲がよくなりまして」
「それで一緒に住む様になって」
「結婚しました」
「あの時は何もなかったですね」 
 ご主人は笑ってお話しました。
「古いアパートに二人で住みはじめて」
「テレビがなくて」
 そしてというのです。
「冷蔵庫も洗濯機もなくて」
「そんな中ではじまって」
「子供が生まれまして」
「自転車を買って」
「それからテレビや冷蔵庫も買って」
「洗濯機も買ってでした」
 お二人で懐かしいものを見る目でお話しました。
「前のお家を建てて」
「ローンが大変でしたけれど」
「免許も取ってです」
「車も買いました」
「それで孫も生まれて」
「地震もありましたけれど」
「曾孫も生まれてです」
 そうしてというのです。
「気付けば六十年です」
「今はパソコンもスマートフォンも持っています」
「もう車の免許は返しましたが」
「こうしてです」
「一緒に暮らしています」
「幸せに」
「子供は息子が二人、末に娘がいて」
 今度はお子さん達のお話をしました。
「三人共結婚しまして」
「孫は七人います」
「三人共子供が出来てです」
「それで皆結婚しまして」
「曾孫は十人です」
「皆大きくなっています」
「どの子も色々ありましたけれど」
 それでもというのです。
「皆今は健康です」
「真面目に暮らしてくれています」
「ヤクザにもならずに」
「ちゃんと働いて生きていてくれています」
「それは何よりですね」
 先生はご夫婦のお話を聞いて笑顔で言いました。
「お子さん達もそうですと」
「はい、色々ありはしました」
「六十年の間に」
「震災があったり子供や孫が大きな怪我や病気をしたり」
「私達にもそうしたことがありました」
 お二人にもというのです。
「怪我をしたり大きな病気をしたり」
「喧嘩をして離婚も考えたり」
「仕事のことで悩んだり」
「親戚の揉めごとに巻き込まれたり」
「生きていると何かとあるからね」
 お静さんはそれはと答えました。
「順風満帆に見えてもね」
「色々あったよ」
「本当にね」
 ご夫婦はお静さんに親しく応えました。
「危ないこともあったわ」
「何度もね」
「詐欺師に声をかけられたり」
「近所にヤクザ屋さんが来たりね」
「孫がいじめに遭ったり」
「別の孫が事故を起こしたり」
「曾孫の娘がぐれた時期もあったり」
 お二人で過去のことを思い出してお話します。
「思い出すとね」
「厄介ごとも多かったわ」
「お互いの親も亡くなったし」
「お葬式もあったから」
「一緒になってから」
「六十年の間にね」
「そうよね、そして楽しいことや嬉しいこともよね」
 お静さんはこちらのお話もしました。
「あったわね」
「その方がずっと多いね」
「これまでの間ね」
「子供も孫も曾孫も生まれて」
「電化製品や車がお家に入って来て」
「いい人に出会えて」
「自分達のお家も建てられて」
 その楽しいこと嬉しいことのお話もするお二人でした。
「旅行に行ったり」
「美味しいものを食べて」
「昔はなかったものを食べたりして」
「どれだけ楽しかったか」
「ファミコンなんてものでも遊べたし」
「今はパソコンもスマートフォンもあって」
「ええ、あの頃からね」
 お静さんは昭和三十年代のお話もしました。
「随分発展したしね」
「まるで別世界だよ」 
 ご主人が応えました。
「今から見るとね」
「そうよね」
「あの頃は世の中がこうなるなんて」
「夢にも思わなかったわね」
「そうだったよ」
 まさにというのです。
「本当に」
「そうだったわね」
「うん、その間色々素晴らしいものにも出会えて」
「よかったわね」
「そうだったよ、だからね」
 それでというのです。
「困ったことも多かったけれど」
「それ以上になのね」
「素晴らしいことに出会えているよ」
「幸せに思っているかしら」
「最高にね」
 まさにというのです。
「この六十年の間は」
「不満はあるかしら」
「特にないよ」
「私もそうよ」
 奥さんも言ってきました。
「六十年次から次に授かりものがあって」
「それでなのね」
「ええ、もうね」
 それこそというのです。
「不満はね」
「ないのね」
「そうよ」 
 こうお静さんに言うのでした。
「私達はね」
「幸せに思っていて不満もない」
「そうよ」
「それは何よりね」 
 笑顔で、です。お静さんはここまで聞いて言いました。
「本当に。そのお二人のダイアモンド婚式の時は」
「もうすぐだよ」
「その日はね」
「その時に私からも贈りものをするわね」
「別にいいよ」
「気持ちだけで充分よ」
 お二人はお静さんに謙虚な声で答えました。
「お祝いしてくれるだけで」
「それだけでね」
「そうはいかないわ、お二人とは結婚する前からじゃない」 
 その頃からというのです。
「お付き合いだから」
「それでなんだ」
「贈りものをしてくれるの」
「そうよ、だからね」
 それでというのです。
「楽しみにしておいてね」
「それじゃあ」
「無碍に断るのも失礼だし」
「そうさせてもらうわね」
「僕からもです」
 先生も言ってきました。
「そうさせてもらいます」
「先生からもですか」
「そうしてくれますか」
「お静さんに紹介してもらったのも縁ですから」
 だからだというのです。
「その様に」
「そうですか、それでは」
「宜しくお願いします」
「その時を楽しみに待っていて下さい」 
 こうお話してでした。
 先生達はご夫婦と一時のお別れの挨拶をしてでした。
 そのうえで先生のお家に帰りました、そうしてです。
 先生はお静さんそれに皆と一緒にお昼ご飯昨日の夜の残りである肉じゃがとけんちん汁を食べながらお話をしました、そこでお静さんは言いました。
「贈りものだけれど」
「そのことね」
「お静さんは何がいいと考えているのかな」
「服よ」  
 そちらだとです、お静さんは先生に前足でお箸と茶碗を持って後ろ足で正座して座って食べながら答えました。
「それをね」
「プレゼントするつもりなんだ」
「冬だからお二人に暖かいね」
「そうした服をなんだ」
「考えているの」
「そうなんだね」
「それで先生はどうするのかしら」
 お静さんも先生に尋ねました。
「プレゼントは」
「今考えているよ」
「じっくり考えてね」
「そうして決めればいいわ」
 チープサイドの家族が言ってきました。
「このことは」
「まだ時間があるしね」
「物事はじっくり考える」
 ポリネシアも言ってきました。
「それが先生だしね」
「今回もそうしましょう」 
 ガブガブも提案しました。
「ここは」
「僕もそれがいいと思うよ」  
 トートーはガブガブの意見に賛成でした。
「じっくり考えるべきだよ」
「お二人のことをよく知って」
 ホワイティはご夫婦のお話をしました。
「それで好きなものをあげよう」
「そうだね」
 今度はジップが言いました。
「それがいいね」
「お静さんは知ってるかな」
 チーチーはお静さんを見ています。
「ご夫婦とお付き合い長いしね」
「だったらね」
 それならとです、ダブダブは言いました。
「そうしよう」
「それが一番だね」 
 老馬はダブダブに賛成しました。
「お静さんに聞くことが」
「僕達はご夫婦と初対面でね」
「よく知らないから」 
 オシツオサレツは二つの頭で言いました。
「だからね」
「そうしよう」
「ええ、聞いて」
 お静さんもそれでいいと答えました。
「是非ね」
「そうさせてもらうね」
 先生もお静さんに応えました。
「今から」
「ええ、実はお二人時計が好きなの」
 お静さんは先生にそれだとお話しました。
「それもクラシックなギリシア文字の木製の」
「趣のあるものかな」
「壁に飾らないでね」
 そうしてというのです。
「置くね、そうした趣のある時計がね」
「お好きなんだ」
「そうなの、だからね」
 それでというのです。
「そうしたものをプレゼントしたらね」
「いいんだ」
「私はそう思うわ」
「わかったよ、じゃあね」 
 それならとです、先生は応えました。
「そうした時計をね」
「プレゼントするのね」
「そうさせてもらうよ」
「それじゃあ決まりかしら」
「そうだね、ただね」
「ただ?」
「いや、あっさりと決まったけれど」
 それでもというのです。
「何かあっさりと決まり過ぎて」
「それでなの」
「まだ何かありそうだよ」
「そう言えば先生って色々とある人ね」
「一つのことをしようと思えばね」 
 そうした時はというのです。
「本当にね」
「色々と起こるわね」
「だから少し旅行に出ても」
 そうしてもというのです。
「大冒険になったりとか」
「するわね」
「だからね」
 そうしたことが多いからだというのです。
「僕としては」
「今回もなの」
「何かあるかもね」
「プレゼントにする時計買って」
「ダイアモンド婚式の時にプレゼントして終わりか」
「そうならないかも知れないのね」
「そうかもね、けれどそれでもだよ」
 先生はお静さんに笑顔で答えました。
「是非ね」
「プレゼントするのね」
「そうさせてもらうよ」
「決めたのなら」
「それならね」
 まさにというのです。
「そうさせてもらうよ」
「じゃあ私もよ」
「是非にだね」
「プレゼントさせてもらうから。一緒に時計を探しましょう」
 ご夫婦にプレゼントするそれをというのです。
「そうしましょう」
「それじゃあね」
「これからね、しかしね」
 こうも言うお静さんでした。
「時計も色々あるわ」
「クラシックなものもね」
 ご夫婦にプレゼントすることに決めたそちらもというのです。
「そうだね」
「そうよね、どうしても」
「そこから選ぶとなると」
「ただ時計屋さんに行くだけじゃね」
「駄目だね」
 先生はお静さんに返しました。
「記念のプレゼントだからしっかりしたものを選ばないと」
「そうよね」
「うん、ここはじっくりとね」
「選ぶわね」
「そうしようか」
「それがいいわね」
 お静さんも賛成しました。
「何といっても」
「そうだね」
「先生時計わかる?」
 お静さんは先生に尋ねました。
「よし悪しが」
「ううん、そうした趣味はね」
「ないの」
「時計は使えたら」
 それならというのです。
「それでね」
「いいんだ」
「そうした考えだから」 
 それでというのです。
「長持ちさせる自信はあってね」
「そうしてきているの」
「けれどね」
 それでもというのです。
「長持ちさせられても」
「いい時計というと」
「懐中時計は好きだけれど」
「あら、古風ね」
「昔から使っているからね」   
 それでというのです。
「腕時計より馴染んでいるよ」
「そうなのね」
「それでもいい時計となると」
「これがなの」
「日本の時計は素晴らしいよ」  
「スイスの時計が有名でしょ」
 お静さんはすぐにこう返しました。
「時計といったら」
「いやいや、安くて質がよくてしかも長持ちする」 
 先生はお静さんにすぐに答えました。
「だからね」
「日本の時計がいいの」
「世界屈指だよ」
「日本の時計のよさは知っていたけれど」
「スイスの方がかな」
「上だと思っていたわ」
「僕は思うよ、世界一だよ」
 日本の時計はというのです。
「本当にね」
「じゃあ日本の時計から選ぶのかしら」
 お静さんは先生に尋ねました。
「そうするのかしら」
「それがいいかもね」
 先生も否定しません。
「やっぱり」
「日本ね」
「そう、この国のものでね」
「先生がそう言うなら」
 お静さんはあらためて言いました。
「そうしましょう」
「そういうことでね」
「私も服選ぶしね」
「うん、お互いにね」
「プレゼント考えていきましょう」
「そうしていこうね」
 先生は笑顔で応えました、ですが。
 ここでお静さんはこうも言いました。
「神戸で服はおかしいかしら」
「ああ、服なら京都だね」
「大坂は食いだおれ、神戸は履きだおれでね」
「京都は着だおれだね」
「そう言うからね」
「神戸は靴だね」
 先生は今自分達がいるその街のことを言いました、もうこの街のことも学んでとてもよく知っています。
「そうだね」
「昔からね」
「それがこの街でね」
 それでというのです。
「靴ならね」
「もう神戸よ」
「そうだね」
「それで食べものはね」
「大阪でね」
 あの街でというのです。
「そしてね」
「服は京都だね」
「だからね」
「そうだね、しかし京都の服は」
「高いわ」
 お静さんは少し苦笑いで答えました。
「京都の服っていったらね」
「呉服だからね」
「そう、日本の着物だから」
 それでというのです。
「生地は絹で」
「それも上等の」
「しかもよ」
 上等の絹に加えてというのです。
「西陣織でね」
「色合いもね」
「物凄いからね」
「もうその値段ときたら」
「嘘みたいよ」
 そこまで高いというのです。
「本当にね」
「そうしたものだからね」
「困るわ、けれどね」
「贈りものにするならだね」
「いいものにしたいから」
 それでというのです。
「私もね」
「考えているんだね」
「いいものをってね」 
 その様にというのです、こうお話してです。
 先生達はプレゼントのお話をしていきました、それは先生達にとってとても大きなそして素晴らしい思い出になるものでした。








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