『ドリトル先生とめでたい幽霊』




               第十一幕  めでたい幽霊

 先生はこの日は中之島図書館にいました、大阪の市庁のすぐ傍にあるその図書館の中においてです。
 織田作さんについての資料を読んでいます、そうして当然ながら一緒にいる動物の皆にお話しました。
「こうしたところにも残っているからね」
「織田作さんのことが」
「だから今日はここに来たんだね」
「それで資料を読んでいるのね」
「そうなんだね」
「そうだよ、フィールドワークとね」 
 それと合わせてというのです。
「こうしてね」
「資料を読むことも大事だね」
「織田作さんの作品も読んで」
「資料も読んでね」
「学ぶことが大事だね」
「そうだよ、読めば読む程ね」
 そうすればというのです。
「織田作さんのことがわかっているしね」
「そうだよね」
「じゃあ読んでいこう」
「先生頑張ってね」
「応援しているよ」
「資料も読んでいってね」
「そうするよ、大学の図書館でも読んで」 
 そうしてというのです。
「ここでも読んでいるよ、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「どうかしたの?」
「いや、織田作さんのことをこうして書いていてね」
 資料を読みつつ言うのでした。
「集めてくれているのは嬉しいね」
「そうだよね」
「大阪を愛していた人だから」
「その人の資料を保存してくれているなんて」
「嬉しいね」
「いいことだね」
「いいことだよ」
 本当にというのです。
「僕もそう思うよ」
「うん、それじゃあね」
「どんどん読んでいこう」
「そしてそのうえでね」
「いい論文書こうね」
「そうしようね」
「学者なら論文を書く」
 先生は穏やかな顔で言いました。
「学んでね」
「そうしないとね」
「いつも学んで」
「そのうえで」
「それにこんな楽しいことはないしね」 
 先生にとってです。
「学問はね」
「先生はそうだよね」
「まさに学問が一番の楽しみね」
「だから読んでいくね」
「そうするね」
「そうしていくよ、今はね」
 笑顔でこう言ってでした。
 先生は織田作さんの資料を読んでいきました、そのうえで重要な部分はしっかりと書いていってでした。
 図書館を後にしました、それからです。
 大阪の川を見ました、そこで船にも乗りますが。
 皆は船から大阪の街を見て先生に言いました。
「やっぱり水の都だね」
「大阪はそうよね」
「あちこちに橋の名前があるし」
「それでね」
「川もあるんだね」
「そう、そして今はね」
 先生も景色を見つつ言います。
「船から大阪を見ているけれど」
「高層ビルも並んでいてね」
「しかも緑も豊かで」
「その中に大阪城の天守閣も見えるし」
「いい街ね」
「凄くね」
「これが大阪だね、自然もあるんだよ」
 賑やかな街ですがそれもあるというのです。
「そして緑も豊かだから」
「木の都でもあるのね」
「織田作さんの言う通り」
「水の都でもあって」
「木の都でもあるんだ」
「公園や神社やお寺が多くてそこに緑があるからね」
 だからだというのです。
「織田作さんが言った意味とは違っていても」
「木の都でもあるね」
「つまり大阪は水と木の都だね」
「そうなのね」
「そうなるね、大阪は」
 この街はというのです。
「そうした意味でもいい街だよ」
「そういえば織田作さんが生まれたのは天王寺区だけれど」
「あそこは木が多いね」
「今でもね」
「お寺が多いし生圀魂神社とかもあって」
「しかも動物園があってね」
「公園もあるからね」
 だからだというのです。
「木が多いんだ」
「織田作さんはそこで生まれ育ってきたから」
「だから木の都って言ったんだ」
「尚更に」
「そういうことだね」
「そうだね、そして水が多いのも事実で」
 それでというのです。
「水の都でもあるよ」
「その自然の豊かさもいいね」
「淀川や大和川もあるし」
「大阪のこの豊かさも見いくといいね」
「本当にね」
 先生も皆も笑顔でした、皆で船も楽しみました。そうしてからでした。
 先生はお家に戻りましたがここで、でした。
 蛸のお刺身を食べている時に一緒に食べている王子が言いました。
「先生、ちょっといいかな」
「何かな」
「いや、織田作さんはもう亡くなってるけれど」
 それでもというのです。
「何か今もね」
「大阪にだね」
「息吹を感じるね」
「うん、僕もそう思うよ」
 先生も確かにと答えます、そうしてです。
 韮ともやしそれに四角く小さく切った厚揚げを胡椒やバジルを利かせたうえで炒めたものと中華風のスープを楽しみつつ言いました。
「何しろ今もね」
「織田作さんが行き来していた場所があるから」
「だからね」
 その為にというのです。
「織田作さんの息吹をね」
「感じることが出来るね」
「写真も残っているしね」
 織田作さんのというのです。
「だからね」
「尚更だね」
「織田作さんを感じられるんだ」
「というか」
 ホワイティが首を傾げさせて言ってきました。
「まだ大阪におられない?織田作さん」
「そうだよね」
 ダブダブはホワイティの言葉に頷きました。
「そんな感じするよね」
「本当にまだおられない?」
 ジップは本気で考えていました。
「そんな気がして仕方ないよ」
「もうお亡くなりになっていても」
 それでもとです、ポリネシアは言いました。
「魂はね」
「そんな気がして仕方ないけれど」
 トートーはどうにもと言いました。
「どうなのかな」
「まだおられたらいいね」
「大阪の街にね」
 チープサイドの家族も言います。
「それで大阪の街を巡ってね」
「楽しんでいたらね」
「あれだけ大阪が好きなら」
 老馬はその目を真剣なものにさせています。
「おられても不思議じゃないよ」
「今もおられて欲しいね」
 チーチーは素直に自分の気持ちを言いました。
「織田作さんには」
「若くして亡くなったけれど」
「魂は不滅だから」
 オシツオサレツは魂のお話をしました。
「だからね」
「是非共ね」
「おられたらお会いしたいわ」
 ガブガブも自分の気持ちを述べました。
「是非ね」
「そうだよね、おられるのかな」
 王子も言います。見ればご飯だけでなくお酒もあります。ご飯を食べた後でお酒も楽しむつもりなのです。
「織田作さんは」
「どうだろうね、確かに魂は不滅だし」
 それにとです、先生も言います。
「そして生まれ変わりもね」
「するね」
「日本人の宗教ではね」
「そうだね」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「この世に留まりもね」
「するね」
「魂魄と言って」
「魂は一つじゃないんだ」
「うん、同じ魂でもね」
 それでもというのです。
「幾つかあって守護霊にもなったり生まれ変わったりもして」
「それでなんだ」
「この世に留まったりもね」
「するんだね」
「ただあまりにも怨みが深いと」
「その複数の魂も」
「一つに留まって」
 そうなってというのです。
「怨霊になるのかもね」
「日本は怨霊のお話もあるね」
「多いよね」
「日本で一番怖い存在だね」
「鬼や妖怪よりもね」
 遥かにとです、先生は揚げでご飯を食べながら言いました。
「怨霊はね」
「怖いね」
「魔王にもなってね」
「そうだよね」
「織田作さんはまずなっていないけれどね」
「そんな作風でもないし」
「そうした人でもね」
 人間性を見てもというのです、作品に出ているそして言われているそちらをです。
「ないから」
「だからだね」
「そう、別にね」
 これといってというのです。
「怨霊になることはね」
「ないね」
「僕は確信しているよ」
「織田作さんについては」
「そうした人じゃないよ」
「そうだね」
「ただ大阪が本当に好きで愛していたから」
 だからだというのです。
「魂は今もね」
「大阪にだね」
「おられるかもね」
「そうなんだね」
「そうも思うよ」
 こう言うのでした、そしてです。
 先生は晩ご飯ではです、ご飯を食べた後で日本酒を残った蛸のお刺身とお野菜と揚げを炒めたものを肴にして楽しみました。
 その後で織田作さんの作品を文庫に集めたものを読みました、それはそれぞれの作家さんの作品をそれぞれそうしたものの中の一冊で。
 いづも屋の入り口の絵が表紙にありました、その本を読んでです。
 先生は翌朝朝ご飯の納豆ご飯に昨日の夜の残りをおかずを食べつつ言いました、蛸のお刺身は酢のものになっています。
「織田作さんおられるみたいだよ」
「えっ、そうなんだ」
「おられると思っていたけれど」
「実はそうなんだ」
「織田作さんは」
「昨日読んだ文庫本の最後の作者紹介みたいなページに書いてあったんだ」 
 そこにというのです。
「織田作さんが亡くなった後でね」
「その時になんだ」
「お話があったんだ」
「そうしたお話が」
「織田作さんの幽霊が馴染みの煙草屋でピロポンを買いに来たってね」 
 そうしたというのです。
「お話があるんだ」
「そうなんだ」
「織田作さんは亡くなったけれど」
「それでもなのね」
「織田作さんは大阪におられるんだ」
「そうかもね、嘘か本当かわからないけれど」
 先生は昨日の残りのスープを飲みつつ皆にお話します。
「織田作さんは若くして亡くなっても」
「魂は大阪にあって」
「若しかして今もおられるんだ」
「大阪の街に」
「そうみたいだよ」
 こう言ってでした、先生は思い出したお顔になって言いました。
「そういえば皆も擦れ違ったね」
「擦れ違った?」
「擦れ違ったっていうと」
「どの人?」
「そんな人沢山いるけれど」
「ほら、マントに着流しでね」
 いぶかしむ皆にこの人のお話をしました。
「帽子を被った」
「ああ、あの人」
「王子も擦れ違った」
「それで先生もそうした」
「あの人ね」
「そう、あの人は」 
 先生は強い声で言いました。
「織田作さんの銅像だね」
「そうだね」
「言われてみればね」
「織田作さんだよ」
「あの銅像の織田作さんよ」
「そのままの服装だよ」
 皆も言われてみればと頷きました。
「誰かって思ったら」
「あの織田作さんの銅像なんだ」
「織田作さんはやっぱり生きているんだ」
「魂は」
「身体はなくなっても」
「うん、身体はなくなってもね」
 それでもとです、先生はそのお話もしました。
「魂は不滅だね」
「そうなんだよね」
「キリスト教でもそうだし」
「仏教でもだね」
「神道でもそうで」
「天理教でもね」
「多くの宗教がそう言っていてね」
 それでというのです。
「日本の宗教でもそうでね」
「神社やお寺に親しんでいた織田作さんだし」
「やっぱり日本的に神仏に触れていたし」
「だったらね」
「織田作さんも日本の宗教の中にいたから」
「その魂もね」
「日本の信仰の通りにね」 
 先生が今いるこの国のというのです。
「あって」
「大阪におられるんだ」
「それで今も大阪を愛していて」
「大阪にいることを楽しんでいるのね」
「そうなんだ」
「そうかも知れないね、本当に大阪を愛していたから」
 そうした人だったからだというのです。
「今もね」
「その魂はだね」
「大阪にあるんだ」
「それで煙草屋でヒロポンを買ったんだ」
「そうだったんだ」
「ヒロポンは覚醒剤でね」
 先生は今度はこちらのお話をしました。
「今は絶対に売買や使用は駄目だけれど」
「それでも当時は法律で使ってもよくて」
「普通に売られていたんだね」
「街の煙草屋さんでも」
「そうだったんだね」
「そうだよ、それでね」
 そのうえでというのです。
「結核で身体も大変だったけれど」
「それでもだね」
「ヒロポンを打って何とか奮い立たせて」
「そうして書いていたってね」
「先生言っていたね」
「それで注射ダコが出来てね」
 ヒロポンを打っていてというのです。
「打つのに苦労したって話もあるよ」
「そこまでして書いていたのね」
「結核で大変だったけれど」
「ヒロポンまで打って書いていたのね」
「そこまでして」
「そうみたいだね、覚醒剤は身体の中のエネルギーを強引に引き出すから」 
 そうした効果があるというのです。
「例え重度の結核でもだよ」
「身体が奮い立つんだ」
「死にそうな状況でも」
「それでも」
「うん、そしてね」
 そこまでしてというのです。
「書いていたんだ」
「覚醒剤って栄養じゃなくてね」
「エネルギーを補給しているんじゃなくて」
「強引に引き出していて」
「余計に体力を消耗するんだよね」
「気力も」
「だから使ったらね」
 覚醒剤をというのです。
「絶対に駄目なんだ」
「身体の中のエネルギーを強引に引き出して」
「それで元気にさせているだけで」
「実は身体に無理をさせているから」
「使ったら駄目なのよね」
「だから使っているとね」
 そうすればというのです。
「筋肉も骨もボロボロになって」
「精神もおかしくなって」
「幻覚や幻聴に襲われて」
「もうとんでもないことになるんだよね」
「だから使用が禁止されたけれど」
 法律でそうなったというのです。
「けれどね」
「当時はそうじゃなくて」
「織田作さんはそれを使ってまで書いていた」
「そうだったのね」
「そこまでして書いていたんだ」
「作家さんの執念だけれど」
 先生歯悲しい目になって言いました。
「悲しいね」
「そうだね」
「そこまでして書くなんて」
「本当にね」
「けれどね、亡くなってね」
 それからというのです。
「織田作さんの魂は大阪にね」
「ずっとあるんだね」
「そこまでして書いて」
「大阪を愛していて」
「大阪の人達を」
「それでだね」
「そうだよ、今も大阪にいるのかもね」
 こう言うのでした。
「あの人は」
「そう思うと何か嬉しいね」
「あの人が今も大阪におられると思うと」
「何か自然とそう思えて」
「ほっこりするわね」
「そうだね、幽霊といってもね」
 そうした存在でもというのです。
「決して悪い存在じゃないから」
「あくまで人間だからね」
「魂だけの存在で」
「身体がないだけで」
「人間の心だからね」
「それでだからね」
「そう、その人が恐ろしいと幽霊も恐ろしい存在になって」
 先生は皆にお話しました。
「そして楽しい人、いい人ならね」
「楽しい幽霊になって」
「いい幽霊になるよね」
「必然的にね」
「そうなるね」
「そうだよ、幽霊はね」
 まさにというのです。
「人間だよ」
「だから怨みを飲んで死んだ人は怨霊になる」
「そうした人って生きている時から恐ろしいね」
「怨みを持っているから」
「だからね」
「そうだよ、日本の怨霊を見ると」
 その人達をというのです。
「生きていた時、死ぬ間際は鬼気迫るものがあるね」
「そうだよね」
「生きながら魔王になっている」
「そして死んでもね」
「魔王になっているね」
「そうだよ、魔王はね」
 まさにというのです。
「生きている頃からだよ」
「そうだよね」
「怨みによってそうなって」
「その時に人間でなくなっていて」
「魔王になっているね」
「既にね、だからね」 
 先生は日本の歴史にも出て来る彼等のことを思いながら言いました、先生はその人達のことに悲しいものも見ながら言うのでした。
「人間が一番怖いというのが日本の考えで」
「幽霊は何か」
「人間との違いは」
「身体があるかどうか」
「それ位の違いでね」
「他にどう違いがあるか」
「ないんだよ」
 これがというのです。
「これが」
「そうだよね」
「それは織田作さんにも言えて」
「織田作さんはどうか」
「あの人については」
「あの人が楽しい、大阪と大阪の人達を愛しているなら」
 それならというのです。
「楽しい幽霊だよ、だからめでたい幽霊ともね」
「言われているんだ」
「織田作さんの幽霊も」
「そういうことだね」
「そうだよ、あの人は調べてみても悪人じゃないよ」
 そうした人ではないというのです。
「絶対にね」
「聞いてみてもそうだね」
「織田作さんって人は」
「だらしない人を書いていても」
「織田作さんの生き方を見ていても」
「うん、犯罪なんてしていないし」
 それも絶対にというのです。
「だからね」
「それじゃあね」
「織田作さんが幽霊になっても」
「怨霊じゃないね」
「絶対に」
「怖くもないね」
「うん、だから織田作さんが亡くなっても」
 それでもというのです。
「そうしたお話があって」
「実際にだね」
「じゃあ擦れ違ったかも知れないけれど」
「それでもね」
「織田作さんの幽霊と会えても」
「怖がることはないよ」
 先生は笑顔で言いました。
「じゃあまた大阪に行こうね」
「そうしようね」
「何か色々お話したけれど」
「幽霊も怖くないってことで」
「織田作さんの幽霊でも」
「楽しく行けるね」
 皆もこう言ってそうしてでした。 
 先生はこの日は楽しく過ごしました、そのうえで。
 先生は再びフィールドワークに向かいました、今回は織田作さんの生地の辺りに行ってそれからでした。
 織田作さんのお墓を参りました、そこで先生は感慨を込めて言いました。
「何か織田作さんにね」
「挨拶したくなるね」
 チーチーが言ってきました。
「どうも」
「織田作さん来たよってね」 
 ジップも言います。
「そうしたくなるね」
「このお寺に来たら」
 織田作さんのお墓があるこのお寺にとです、ダブダブは言いました。
「そうなるね」
「私達宗教は違うけれど」
 ガブガブはキリスト教徒であることから言いました、だから先生と一緒に教会に参拝もしているのです。
「そうした気持ちになるわね」
「織田作さんは確かにここにいるね」
 ホワイティもそう考えています。
「大阪のこの場所に」
「だからそう思えるのね」
 ポリネシアも織田作さんのお墓を見ています。
「私達も」
「織田作さんこんにちは」
「また来たわよ」
 チープサイドの家族は笑顔で実際に挨拶をしました。
「お元気?」
「僕達はこの通り元気だよ」
「大阪の街は素敵な場所だよね」
 トートーも織田作さんのお墓に言いました。
「賑やかで人情があって」
「ずっとここにいたい位だよ」
 こう言ったのは老馬です。
「本当にね」
「織田作さんが好きな理由もわかるよ」
「それも心から」
 オシツオサレツの二つの頭にある目も笑っています。
「こんな素敵な街だから」
「愛しているんだね」
「全くだね、織田作さんこんにちは」
 先生も微笑んで挨拶をしました。
「今日も来させてもらったよ」
「よお来たな」
 ここで、でした。先生達の後ろからです。
 男の人の声がしました、皆その声の方を振り向きますと。
 あのマントに着流しと帽子を身に着けた面長で小さな目の男の人がいました、先生も皆もその人を見て思わず声をあげました。
「織田作さん!?」
「織田作さんだよね」
「まさか本当にいたんだ」
「今も」
「亡くなられても」
「それでも」
「そやで、私は確かに死んだけど」
 その人、織田作之助さんは皆に笑顔で答えました。見れば影がありません。
「この通りな」
「幽霊になってもなんですね」
「大阪におって」
 そしてとです、先生に答えました。
「今もやねん」
「大阪で暮らしておられますか」
「そやで、大阪が大好きで」
 この街がというのです。
「大阪の人達もな」
「今もですね」
「大好きやねん」 
 こう先生に言うのでした。
「ほんまにな」
「そうですか」
「先生と皆は見てたから」
 織田作さんは先生に笑顔でお話しました。
「私のことを調べてくれてるのは」
「織田作さんの作品にですね」
「私にな」
 それにというのだ。
「大阪と大阪の人達も」
「そうでしたか」
「おおきに」
 これも笑顔での言葉でした。
「大阪のことを学んでくれて」
「あれっ、勉強じゃないんだ」
「そこはそう言うんだ」
「確かに先生は学問が好きだけれど」
「ここで勉強するとは言わないんだね」
「勉強は商売でまけてもらう時によお使う言葉や」
 織田作さんはその皆に笑顔で答えました。
「そのまけてもらうことで売る方も買う方も知るさかい」
「商売のことを」
「それでそう言うんだ」
「成程ね」
「面白い言葉だね」
「それで私も言うたんや」
 今の様にというのです。
「学んでるって」
「成程な」
「そういうことだね」
「その言葉面白いね」
「関西の言葉だね」
「それも大阪の」
「そや、大阪やさかい」
 それでというのです、織田作さんも。
「言葉もそうなるで」
「そうなんだね」
「あと織田作さんの言葉作品のまま?」
「そのままの関西弁?」
「大阪の言葉だよね」
「そうだよね」
「これが大阪の言葉で今もやろ」
 織田作さんは笑って言いました。
「今は多少河内や和泉の言葉も入ってるけど」
「摂津の言葉だった?」
「本来の大阪の言葉は」
「そうなる?」
「そうなるな、しかし私が死んでから」 
 それからのこともです、織田作さんは言いました。
「大阪も色々あったな」
「そうですね、ですが」
「そのことをやな」
「ここで立ち話も何ですし」
 先生は織田作さんにお話しました。
「美味しいものでも食べながら」
「そやな、ほなな」 
 織田作さんは先生のお話を受けてご自身から提案しました。
「コーヒー飲みながら話そか」
「コーヒーですか」
「バーにも行ったけどな」
「東京で、ですね」
「銀座のルパンとかな、けど」
 それでもというのです。
「私はやっぱり」
「コーヒーですね」
「実は酒はあまり得意やないねん」
 そうだというのです。
「太宰さんや安吾さんとは飲んでたけど」
「甘いものお好きですね」
「そやからあそこにも行ったんや」
「夫婦善哉にも」
「そやねん」
 こう言うのでした。
「その実は」
「そうですね、それでは」
「コーヒー飲みに行こか」
 織田作さんは笑顔で言いました。
「これから」
「それでは」
 先生は笑顔で頷いて動物の皆もでした。
 笑顔で頷いてそのうえでお寺を出てです。
 喫茶店に入りました、するとお店の人も織田作さんを見て笑顔で席に案内してくれました。その席に座ってです。
 織田作さんはコーヒーを注文しました、先生と皆は紅茶でした。織田作さんは先生の注文を見て言いました。
「先生は英吉利の人やったな」
「はい、もう国籍は日本になりましたが」 
 先生はその紅茶を手に織田作さんに応えました、織田作さんの手にはコーヒーがあってそれぞれの香りがします。
「ですが」
「生まれはあちらやさかい」
「それでコーヒーも飲みますが」
「一番は紅茶やな」
「それもミルクティーです」
 見れば先生の紅茶はそちらです。
「これがです」
「一番ええな」
「僕にとっては」
「そやねんな、それ先生に話したいことはな」
「はい、何でしょうか」
「私と大阪のことや」
 こちらのことだというのです。
「私は知っての通り今は幽霊や」
「そうですね」
「東京で新年早々亡くなったけど」
 それでもというのです。
「大阪に連れて帰ってもらってお葬式もしてもらって」
「そうしてですね」
「大阪にお墓建ててもらってな」
 そうしてというのです。
「大阪に戻って来て」
「それからですか」
「あんまり大阪と大阪の人が好きやさかい」
「大阪に留まられていますか」
「そや、煙草屋でヒロポン買うたのも」 
 このお話もというのです。
「実際のことや」
「そうですね」
「私は幽霊になってもな」
「大阪におられて」
「それでヒロポンも買うて」
「コーヒーもですね」
「こうして飲んで」 
 実際にコーヒーも飲んでいます。
「それでな」
「そうしてですね」
「馴染みのお店にもな」
「自由軒や夫婦善哉にですね」
「今も通って大阪のあちこちをな」
「巡っておられますか」
「ずっとな、しかし大阪も変わるわ」
 織田作さんは笑ってこうも言いました。
「私が生きてた頃からやが」
「あの頃からですね」
「三十年の間、空襲もあったしな」
「どんどん変わって」
「そしてな」 
 そのうえでというのです。
「死んでからは特に」
「変わりましたね」
「この辺りもそやしな、上本町かてな」
「昔はですね」
「ハイハイタウンなんてなかったし近鉄さんの周りもな」
 そこもというのです、ハイハイタウンの向かい側の。
「もっとな」
「違いましたか」
「新世界なんか映画館が一杯あったんや」
 通天閣の方もというのです。
「通天閣もまた建って」
「それで映画館は」
「パチンコ屋ばかりになって天下茶屋とか住吉も」
「変わりましたか」
「戦争前と直後と」 
 それにというのです。
「昭和と平成でそして今もな」
「令和でも」
「ほんま変わったわ」 
 こう言うのでした。
「テレビや冷蔵庫や洗濯機も出て来たし」
「ああ、そういえばそうだったね」
「織田作さんの頃なかったね、どれも」
「精々ラジオね」
「それ位だったね」
「ラジオでも相当なもんやったんや」
 織田作さんは動物の皆にもお話しました。
「昔はな」
「そうだったね」
「テレビとか出て来たのは戦後だから」
「大体昭和三十年代だね」
「あの頃に出て来たね」
「どれも見た時何やこれって思った」
 テレビも洗濯機も冷蔵庫もというのです。
「それでこんな凄いもん広まるんかって思ったら」
「あっという間だったね」
「皆に広まったね」
「日本でもそうだったね」
「それで四十年代にはカラーテレビが出て来て」
「やっぱり皆観る様になったね」
「しかも万博もあった」
 織田作さんは笑顔でこちらのお話もしました。
「花の万博もあったしな」
「大阪にとっていいことに」
「それもあって」
「大阪は増々賑やかになった」
「そうだったね」
「それで球場もあったな」
 こちらのお話もするのでした。
「今はなんぱパークスになってるけどな」
「ああ、あそこもだね」
「大阪球場だね」
「あの球場もあったね」
「大阪には」
「あれも出来た時はえらいハイカラな球場で」
 その大阪球場はというのです。
「そこの選手もよかったんや」
「野村さんとか杉浦さんとか」
「あと広瀬さんだよね」
「穴吹さんや岡本さんもいて」
「凄く強かったんだね」
「鶴岡親分もよかった」
 監督さんもというのです。
「残念ながら今は九州の方に行ってもうたけどな」
「今のソフトバンクだね」
「すっかり福岡のチームになったわね」
「今じゃもうね」
「そうなってるわね」
「それで日本橋はアニメやゲームの場所になってあちこち変わったけど」
 それでもとです、織田作さんは言いました。
「私の馴染みの店や場所も残ってるしな」
「自由軒とかいずも屋とか」
「それに夫婦善哉も」
「織田作さんそうしたところを巡ってるのね」
「今も」
「道頓堀も行ってるし大阪の隅から隅までな」
 それこそというのです。
「巡ってうどんとか串カツとかたこ焼きも楽しんでるで」
「それで大阪の人ともだね」
「会って見ているのね」
「そうなんだね」
「そやで、大阪は今も大好きや」
 そうだというのです。
「そして大阪の人達もな」
「大好きなのね」
「今も尚」
「そうなんだね」
「もうここ以外にはおれんわ」
 大阪以外の場所にはというのです。
「そやから私はな」
「これからもですね」
「ここにおるで」
 こう先生に答えました。
「そうするで」
「やはりそうですか」
「ほんま大阪やないと」
 それこそというのです。
「そして大阪から離れたら」
「織田作さんとしてはですね」
「あかんわ、そやから東京で死んだ時どないなるって思った」 
 その街でお亡くなりになった時はというのです。
「大阪で死にたかったのに。けどな」
「大阪に戻してもらって」
「そこで葬式してもらってお墓も建ててもらってな」
「よかったですね」
「ほっとしたわ」
 その時はというのです。
「ほんまよかったわ」
「そして今はですね」
「ここにおってな」
 大阪にというのです。
「楽しくやってる、もう絶対にや」
「大阪から離れないですね」
「そや、何があっても私は大阪におって」
「大阪の人と一緒に暮らされますね」
「そうするで」
 こう言うのでした。
「ほんま他の場所は考えられんわ」
「そうですね、僕も織田作さんはです」
「大阪のモンって思うな」
「はい」
 先生は笑顔で答えました。
「まことに」
「そこが太宰さんや安吾さんとちゃうねん」
「大阪に全てがありますね」
「そやからここにずっとおってな」
「書いてこられましたね」
「そや、それにな」
 織田作さんはさらに言いました。
「今はかみさんも一緒やし」
「奥さんもですか」
「そや、死に別れた時は悲しかったけど」
 それでもというのです。
「今はな」
「ご一緒で」
「楽しくやってるで、えらい騒ぎになって結婚出来たし」
「そうらしいですね」
「あの時はな」
「大変でしたね」
「かみさん喫茶店の女中さんやったけどな」
 奥さんのことを温かい目でお話しました。
「ハイデルベルグ、京都の」
「クラシックの音楽が流れるお店でしたね」
「えらいハイカラな店でそこにおってな」
「借金でお店のご主人の、でしたね」
「それやったが友達が手伝ってくれて」
 そうしてというのです。
「梯子使って二階から連れ出してな」
「夜にですね」
「それでその日から一緒に暮らして」
 そうしてというのです。
「結婚してん」
「そうでしたね」
「執筆してる間お茶出したり漢字調べてくれて」
「今もですね」
「一緒に暮らしてるわ、かみさんのこともっと話してええか」
「はい、お願いします」
「そう言ってくれるんやったらな」
 織田作さんは先生の返事にさらに笑顔になりました、そうしてです。
 お話をはじめました、コーヒーと紅茶の香りがその場を包むその中で。








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