『ドリトル先生と幸せになる犬』




                第六幕  ふわりの楽しい再会

 先生は動物の皆と一緒にふわりの今のお家に来ました、そしてご主人とお話しました。
「そういうことで」
「ええ、じゃあ俺も一緒に行きます」
 ご主人は先生に笑顔で応えました。
「そうします」
「そうしてくれますか」
「車必要ですよね」
 それでというのです。
「ですから」
「それで、ですね」
「乗って下さい。ただ先生と一緒の動物達は」
「キャンピングカーを用意出来ますので」
 皆が入ることの出来る車をというのです。
「友達の王子が貸してくれます」
「ああ、そうなんですか」
「キャンピングカーの運転出来ますよね」
「ええ、そうした免許も持っています」
「そうですか。それじゃあ」
「お願い出来ますか」
「任せて下さい」
「パパ、何処に行くの?」
 先生達のお話をケージの中で聞いたふわりはご主人に尋ねました。
「一体」
「ああ、ふわりも気にしてますね」
 ご主人はふわりの言葉はわかりません、ですがお話を聞いて気にしていることはわかるので先生にふわりに顔を向けつつ言いました。
「どうも」
「そうですね、ふわりには僕から話します」
「そうしてくれますか」
「はい、何処に行くか」
「俺も一緒ってことをですか」
「そうします」
 先生は実際にふわりに彼女が昔いたペットショップそしてふわりを産んだ両親とその飼い主のところに行くことをお話しました。 
 するとです、ふわりはこう言いました。
「ペットショップの優しい店長さんのことはよく覚えているけれど」
「それでもだね」
「私産まれてすぐは覚えていないの」
「何時から覚えているかな」
「何か優しい犬に囲まれて」
 そうしてというのです。
「優しい人達に笑顔を向けられてね。そのお家を出て」
「そうしてだね」
「オークションとかで色々言われてペットショップに入って」
「それからだね」
「そこからはよく覚えているの」
 そうだというのです。
「けれどそれまではね」
「そうなんだね、けれどそのよく覚えていないね」
「場所に行くのね」
「そうしていいかな」
「パパがずっと一緒ならいいわ」
 これがふわりの返事でした。
「だってパパは絶対に私に悪いことしないから」
「そのこともわかったね」
「ええ、よくね」
 実際にというのです。
「一緒にいてわかったわ」
「そう、今の君のお父さんは絶対に君に悪いことをしないよ」
 先生はふわりに笑顔でお話しました。
「だから心の底から信じていいよ」
「それじゃあね」
「そしてね」
 先生はさらに言いました。
「そのお父さんと一緒にね」
「これからなのね」
「君の想いでの場所に行こうね。そこで君のこともお話するから」
「そうするのね」
「じゃあ行こうね」
「僕達も一緒だからね」
 ホワイティもふわりに言いました。
「仲良くいこうね」
「美味しいものを食べてお喋りもしてね」
 ダブダブはふわりに明るく言いました。
「楽しく行こうね」
「ちょっとした旅行だよ」
 トートーはこう言いました。
「これはね」
「そう、旅行だからね」
 だからだとです、チーチーも明るく言います。
「楽しく行こうね」
「今の君のお父さんも先生も君の前の飼い主達と違うから」
 こう言ったのはジップでした。
「安心してね」
「君を間違っても捨てたりしないよ」
 老馬も言います。
「若し迷子になっても君を必死に探して見付けるよ」
「そうした人達だからね」
「君は安心して行こうね」
 オシツオサレツの二つの頭の言葉も優しいです。
「だからね」
「楽しく一緒に行こうね」
「さて、どんな旅になるかな」
「今から楽しみね」
 チープサイドの家族は実際に楽しそうです。
「日帰りになるでしょうけれど」
「楽しい旅になりそうね」
「じゃあその日になったらね」
 その時にとです、ポリネシアもふわりに言います。
「一緒に行きましょう」
「その日はすぐよ」
 ガブガブの口調はまるでお姉さんでした。
「楽しい旅になるわよ」
「わかったわ、その時は一緒に行きましょう」
 ふわりも応えました、そして先生は王子からキャンピングカーを借りました。この時王子は国崎さんのお家に執事さんに運転してもらって自分も先生と一緒にキャンピングカーに乗ってそのうえで来ました。
 そしてです、王子はご主人に言いました。
「僕も一緒に行っていいかな」
「貴方は確か」
「今日本に留学してきているんだ」
 ご主人に笑顔で答えました。
「そうしているんだ」
「その王子様ですね」
「そうだよ、堅苦しいことはなしでね」
 それでというのです。
「これからね」
「はい、ふわりと一緒にですね」
「行こうね」
「乗りましょう」
 先生もご主人に言いました。
「そして楽しい車中の旅を行いながら」
「そうしてですね」
「ふわりに再会を楽しんでもらって」
「それで、ですね」
「お話もしていきましょう」
 こうお話してでした。 
 先生達はキャンピングカーに入って旅に入りました、神戸市の中での小旅行がここではじまりました。
 皆はキャンピングカーの中で美味しいものを飲んで食べてお喋りをしながらまずはペットショップに向かいました、運転はご主人と執事さんが交代でしています。
 その中で王子はふわりを見て言いました。
「本当に可愛い娘だね」
「そうだね」
「こんな可愛い娘はティーカッププードルでもね」
 この種類の子の中でもというのです。
「そうはいないよ」
「可愛いだけじゃなくてね」
 先生は王子に一緒にティーセットを食べながらお話しました、ふわりも他の皆もティーセットを楽しんでいます。
「頭もよくて性格もね」
「凄くいいんだね」
「そうなんだ」
 こう王子にお話しました。
「それで今のお家ではね」
「幸せにだね」
「過ごしているよ、ご家族を笑顔にもしているよ」
「その性格と頭もあって」
「そうしているんだ」
「そうだね、笑顔にしてもらうだけでも」
 王子は言いました。
「有り難いよね」
「そうだね」
「自分を笑顔にしてくれた相手は粗末にしたらね」
「いけないね」
「誰に対してもだけれどね」
「だからこの娘の前の家族はね」
「最低だね」
 王子はこうも言いました。
「本当にね」
「全くだね」
「そう思うよ。それで今からね」
「うん、まずはこの娘がいたペットショップにだね」
「行こうね」
 こう言ってでした。
 先生とふわり達はまずはふわりがいたペットショップに向かいました、そしてペットショップに着くとです。
 ふわりは店長さんを見て尻尾を元気に振って言いました。
「店長さん、お久しぶり」
「ああ、ふわり元気だね」
 店長さんはそのふわりを抱き上げて言いました。
「話を聞いて可哀想にと思ったけれど」
「はい、今はこの通りです」
 先生は店長さんに笑顔でお話しました。
「本当の意味でのご家族に迎えられて」
「幸せになっていますね」
「今までの偽りの幸せ、偽りの家族から」
「そうですね、ペットは家族です」
 店長さんはふわりを抱いて頭を撫でながら先生に真剣なお顔で言いました。
「私達はその家族を迎えてもらう場所として」
「お店を経営していますね」
「はい、そして」
 それでというのです。
「いつも働いていますが」
「そうしたですね」
「おもちゃ扱いの人達にはです」
「絶対にですね」
「二度と渡しません」
「お金でもですね」
「実はふわりのことを店長会議でお話したら」
 そうしたらというのです。
「皆怒って社長もです」
「怒られてですね」
「二度とこんなことがない様に飼い主になる人達に講義を受けてもらって適性チェックもです」
「生きものを飼えるかどうか」
「それを確かめて」
 そうしてというのです。
「そのうえで、です」
「買ってもらってですね」
「飼ってもらいます」
「家族として」
「そんな自分達の子供が生まれて」
「新しいおもちゃが手に入って」
「それで飼育放棄して挙句に捨てるなんて」
 そんなことはというのです。
「とてもです」
「許せないですね」
「はい、ですから」
 それでというのです。
「そうしたことが決まりました」
「全てのお店で、ですか」
「はい、企業としましても」
 お店だけでなくというのです。
「そうなりました」
「宜しくお願いします、命のことですから」 
 それでとです、店長さんも応えました。
「くれぐれも」
「そうしていきます」
「私みたいな娘が少しでも減るなら」
 ふわりもご主人の腕の中で言いました。
「嬉しいわ。店長さんもお元気だし」
「この娘は私がこの店に店長に来た時に来まして」
 店長さんは今度はふわりを見ながら先生にお話しました。
「他の子達と可愛がっていたんですよ」
「幸せになる様にですね」
「はい、皆幸せになってもらいたいです」
 こう先生に答えました。
「ですからその為に」
「講習やチェックをですね」
「してもらう様になりました、それが面倒だと飼うことを諦めるなら」
「もうですね」
「はい、最初からです」
「飼わない方がいいですね」
「命を預かる、家族として一緒にいるのですから」
 だからだというのです。
「そこまでしてもらって。衝動買いして後で嫌だとか」
「言って欲しくないですね」
「ましてやふわりみたいに捨てるなんて」
「論外ですよね」
「そんなことがない様に」
 これからはというのです。
「これからは」
「そうしていきますね」
「はい、買う人達にも飼う前に考えてもらって」
「そして知ってもらって」
「適性もチェックして」
「慎重にですね」
「飼ってもらいます、もういらないとか言う人には絶対に売りません」
 命を預かっているからというのです。
 ペットショップではこうしたお話をしました、そしてです。
 先生達は店長さんとお別れをしました、この時ふわりは店長さんに言いました。
「店長さん、また会いましょう」
「そう言っています」
 先生が通訳して店長さんにお話しました。
「またと」
「そうですか、私はもうすぐ転勤ですが」
「そうでしたか」
「その前にふわりの姿を見られてよかったです」
「幸せなその姿を」
「はい、本当に」 
 笑顔で言いました、そしてその笑顔で先生達と別れました。
 先生は次にふわりを産んだ両親と彼等の飼い主の人達のお家に行きました、ふわりは自分と同じ位の大きさと毛の色の大人のティーカッププードルとタイニープードルの夫婦に会いました。するとまずです。
 ふわりはその丸い目をさらに丸くさせて言いました。
「ひょっとして私を産んでくれた」
「そう、彼等がだよ」
 先生がふわりにお話します。
「君の実のね」
「パパとママなのね」
「そうだよ」
 こう言うのでした。
「彼等が君を産んでくれてミルクをあげていたんだ」
「そう言われると思い出したわ」
 ふわりもでした。
「私お兄ちゃん達と一緒にね」
「ここで生まれたね」
「それで五十日位ここにいたわ」
 奇麗なお家の中を見回して言いました、見れば赤ちゃん犬が四匹います。
「物心つくまでね」
「そうだったね」
「ええ。それで犬のパパとママがね」
「君を優しく育てていたね」
「そうしていたわ」
「チェリー?」
「チェリーね」
 その犬達もでした、ふわりを見て言いました。
「まさかもう一度会えるなんて」
「思わなかったよ」
「そしてね」
「そんなことになっていたなんて」
「うん、今話した通りね」
 先生はふわりの両親にもうふわりの過去のことをお話しています、それでとても暗いお顔になっています。
「酷いことになっていたんだ」
「あの、僕達もね」
「チェリーが幸せになる為に産んで」
「お父さんとお母さんもそうなって欲しいって」
「このお家で大事に育ててくれたのよ」
「それでペットショップに送って」
「幸せになることを願って見送ったのに」
 二匹で先生に言います。
「それなのに」
「そんなことになっていたなんて」
「相手にされなくなって無視されて」
「そして保健所に捨てられてもういらないなんて」
「そうなっていたんだ」
 こう二匹に言うのでした。
「この娘は」
「そうなんだね」
「私達の子供が」
「他の子はどうなっているか」
「とても心配だわ」
 先生のお話を聞いてです。
 優しい顔立ちの初老の人が先生に言ってきました、隣に同じ位の年齢の女の人もいます。この人達がふわりの両親の飼い主の人達のご夫婦です。ブリーダーをしながらお店をやっています。
「あの、私達もです」
「ペットショップにですね」
「いいお店ですから」
 それでというのです。
「オークションを経て収入にもしていますが」
「この娘達が幸せになる様にですね」
「送り出しています」
「どの娘も大切な子なんです」
 奥さんも言ってきました。
「ですから」
「ブリーダーをされていて」
「そうしてです、今もです」
「四匹の子がいますね」
「この子達もです」
 四匹の生まれたばかりのトイプードルおそらくタイニーかティーカップになるであろうその子達を見つつお話します。
「是非です」
「幸せになってもらう為にですね」
「ディックとミニーっていうんですが」
 ご主人がふわりの両親を見ながら彼等の名前を言いました。
「この子達を飼いながら」
「子供を産んでもらってですね」
「その子達を里親に出しています」
 ペットショップを通じてです。
「いいお店ですからきっとです」
「いい人達に貰われていくとですね」
「思っていたんですが」
「それが、ですか」
 奥さんは項垂れて言いました。
「そんなことになっていたなんて」
「そんなこともあったんです」
「この娘は誰からもずっと愛される様にと願って」
 それでというのです。
「チェリーと名付けました」
「チェリーは皆から愛される果物ですからね」
「そうです」
「名付けましたね」
「はい、血統書での名前は」
「そうでしたか」
「それでいい人に愛されていると思っていたら」
 それがというのです。
「そんなことになっていたなんて」
「すぐに全部の子の現状を確かめました」
 ご主人も言いました。
「お店にも手伝ってもらって」
「そうしてですね」
「どの子も確かめまして」
「どうでしたか」
「幸いです」
 ほっとしたお顔での言葉でした。
「どの子もいい家庭で暮らしています」
「それはよかったですね」
「ですがこれからは」
 ご主人は先生に言いました。
「二度とです」
「ふわり、チェリーみたいな子が出ない様にですね」
「ご家族に定期的にです」
「状況を聞くことにしますね」
「そうします」
 絶対にというのです。
「これからは」
「そうされますね」
「どういったご家族に引き取られたかも」
「そうしてですね」
「そうしていきます」
「それがいいと思います、中にはです」
 先生はご主人に言いました。
「とんでもない人もいますから」
「動物を虐待して喜ぶ人もですね」
「はい、いますから」
 だからだというのです。
「これからはです」
「そうしていきますね」
「はい」
 実際にというのです。
「そうしていきます」
「それがいいです、命ですから」
「気をつけないといけないですね」
「はい、この娘のご家族みたいな人達もいれば」
 ふわりを見つつ言います。
「前のです」
「そうした人達もいますね」
「そして中には」 
 さらにというのです。
「虐待もです」
「もっと酷いですね」
「前の飼い主の人達も下手をしますと」
「そうしたことをですね」
「する様になっていたかも知れません」
「そうですか」
「そうした自分勝手で愛情のない人達は」
 そうした人達はというのです。
「やがてです」
「暴力もですね」
「振るう様になっても」
「おかしくないですね」
「平気で捨てる位ですから」
「そう思います、ですから」
 先生はさらに言いました。
「もうです」
「そうした人達の手に渡らない」
「そういう状況にすることですね」
「そのことを整えていけば」
 そうすればというのです。
「こうした事態がかなり減ると思います」
「それでも完全にはなくならないですね」
「どうしても」
「この世に犯罪がなくならないことと同じです」 
 それはというのです。
「どうしても色々な状況で」
「こうしたことは起こりますか」
「折角家族にした子を捨てることは」
「そう思います、人間は業を持っています」
 そうした生きものだからだというのです。
「ですから」
「どうしてもですか」
「そうしたことは起こりますか」
「ですが減らすことは出来ます」
 それは可能だというのです。
「ですから」
「そうしたことをしていくことですね」
「これからは」
「ちゃんと家族に迎えた人達をチェックして」
「そして定期的に状況を確認する」
「それが大事ですね」
「こうしたことを減らす為には」
「そうです、一緒にやっていきましょう」 
 こうお話してでした。
 先生はふわりの両親とそのご家族にこのことについてさらにお話していきました、その後でなのでした。
 先生はそのお家にする為にその人達とお別れの挨拶をしましたが。
 ここで、です。ふわりは自分の実のお父さんとお母さんに言いました。
「犬のパパとママでいいのよね」
「そうだよ、今お前はふわりだからね」
「チェリーという名前もあるけれどね」
 ふわりの両親は自分達の子供に優しい声でお話しました。
「だからね」
「私達は犬のパパとママだよ」
「お前には今は人間のパパとママもいるのよ」
「今一緒に暮らしている人達がね」
「その人達はとてもいい人達だよ」
「そちらにいる人もね」
 国崎さんのご主人も見てふわりに言うのでした。
「だから安心してね」
「その人達を心から愛して信じるんだよ」
「その人達もお前を心から愛してくれているから」
「そうするんだよ」
「うん、そうするね」
 ふわりは自分の犬の両親に明るい顔と声で応えました。
「私これから今までよりもっともっと幸せになるね」
「そうなるんだ」
「それが私達の願いだからね」
 ふわりの犬の両親もこう言いました、そして自分達の娘の顔をそれぞれ優しく舐めてあげました。その後で、でした。
 先生達はキャンピングカーに入って帰路につきました、その中で先生はふわりからさらにお話を聞きました。
「じゃあ前の飼い主の人達はだね」
「ええ、前のママはお腹が大きくなってね」
「ずっと寝る様になってからだね」
「前にお話したわね」
「お散歩に行かなくなってだね」
「ご飯も忘れる様になってね」 
 そうしてというのです。
「私を振り向かなくなったの」
「それで病院に行って」
「前のパパはずっと帰りが遅くなって」
「多分病院にも行っていたね」
 お仕事から帰ってとです、先生は察しました。
「そうだね」
「私はそこはわからないけれど」
「きっとそうだね」
「そうなの」
「それで前のパパは君をお散歩にはだね」
「前のママと一緒に行ってたけれど」
 それでもというのです。
「一人だとね」
「連れて行かなかったね」
「そうだったの」
「成程ね、じゃあ君は前の飼い主さんのお腹が大きくなってからは」
「ずっとお散歩に行ってなくてね」
 それでというのです。
「お家の中を歩き回っていたの」
「我慢していたんだね」
「行きたかったけれどね」
 そのお散歩にです。
「けれど私お姉ちゃんになるから」
「ずっと我慢していたね」
「前のママをずっと見ていたの」
「見守っていたんだね」
「前のママも大変そうだったし中に赤ちゃんがいたから」
 だからだというのです。
「そうしていたの」
「そうだったね」
「それで前のママが病院に行った時は寂しかったけれど」
「その時も我慢したね」
「そうしたの」
「その時もお姉ちゃんになると思ってだね」
「お姉ちゃんになって前のママとパパと赤ちゃんを助けないといけないって思って」
 それでというのです。
「ずっと我慢したよ」
「偉いね」
 先生はここまで聞いてあらためて思いました。
「君みたいな我慢強い子はそうはいないよ」
「そうなの」
「けれどだよね」 
 王子は顔を顰めさせて言いました。
「前の飼い主の人達はそんな君を捨てたんだね」
「ええ、そうですよ」 
 国崎さんのご主人は王子にお顔を顰めさせて言いました。
「もういらないで」
「性格が変わったって言って」
「朝から晩まで吠える様になって」
「奥さんと赤ちゃんが参って」
「子供も生まれたばかりとかで」
「それなら里親に預けるか一時的でも知り合いに飼ってもらうよ」
 王子は言いました。
「最初から一欠片でも愛情があれば」
「そうですよね」
「おもちゃとしか思ってないから」
 その実はです。
「平気で保健所に捨てられるんだよ」
「もう皆それがわかったんで」
「親戚全員が縁切りしたんだね」
「法事の場で聞かれて平気で言って全員でそこから叩き出してでした」
 法事の場からです。
「それで法的に正式にです」
「義絶だね」
「そうしてやりました、もう赤の他人です」
「犬は吠える、鳴くものだよ」
 先生は言いました。
「人が話すのと同じだよ」
「そうだよね」
「うん、犬が鳴くのが嫌なら」
 それならというのです。
「もうね」
「最初からだね」
「犬と一緒にいたらいけないよ」
「もうその時点でおかしいね」
「犬を飼うのなら当然だよ」
「そうだね、そして犬もだね」
 王子は先生に応えて言いました。
「鳴くにはね」
「理由があるよ」
「そうだよね」
「まあね」 
 ここで先生はこうも言いました。
「トイプードルは元々狩猟犬だね」
「そうそう、スタンダードプードルがそうでね」
「トイプードル自身も使ってたみたいだしね」
「それじゃあよく鳴くね」
「大体吠えるって言葉にもうね」
「否定的でね」
「邪魔だ、愛情なんてないってね」
 そうしたというのです。
「感情が出ているよ」
「邪魔だってね」
「うん、そしてトイプードルはね」
 先生はお話を戻しました。
「元々狩猟犬で小さいから」
「小型犬はよく鳴くからね」
「そうだよ、そして鳴くにはね」
「理由があるね」
「ずっと可愛がってもらってそれが凄く嬉しかったのに」
 それがというのです。
「赤ちゃん生まれてその日から一日中ケージに閉じ込められてね」
「お散歩も行かないでね」
「遊ぶこともブラッシングもなしでね」
「飼い主達は赤ちゃんばかり見てるんだ」
「そんなことされたら」
「こんなの人間でも訴えるよ」
「そこから出せってね」
 王子は怒った声で言いました。
「そうなるね」
「そうだよ、ケージを齧ったりね」
「そんなことをするね」
「当然としてね」
「ずっと入れられたままだとね」
「けれどこの娘はそんなこともしなかったね」
 先生はふわりを見て言いました。
「聞く限りだと」
「ケージは齧ったらいけないから」
 ふわりもこう答えました。
「だからね」
「そうしたことはしなかったね」
「私そんなお行儀悪いことはしないよ」
 また言いました。
「絶対に」
「そうだね」
「それでね」 
 ふわりはさらに言いました。
「ケージの中はベッドも古いもので」
「おもちゃもだね」
「何もなかったけれど」
 それでもというのです。
「私赤ちゃん泣いたら前のママに教えたし」
「他にはどうして鳴いたのかな」
「私はここだよってね」
 今ケージの中にいることを知らせていたというのです。
「それでなの」
「鳴いていたね」
「だってずっと返事なかったから」
「中に出してとはだね」
「鳴かなかったよ」
 一度も、そうした返事でした。
「確かにお外に出たかったけれど」
「そのことは我慢したね」
「それでね」
「自分の居場所を知らせていたね」
「聞こえないの?って」
「ここまで聞いてもいい娘だね」
 老馬も思いました。
「本当にね」
「というかこんないい娘滅多にいないよ」
「僕が見てもそうだよ」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「本当にね」
「はじめて見る位だよ」
「よく我慢したね」
 トートーは言葉でふわりの肩を叩きました。
「ずっとね」
「そんな目に遭ったら僕だったら怒るよ」
 チーチーは自分の感情を述べました。
「絶対にね」
「僕もだよ」
「私だってそうよ」
 チープサイドの家族もチーチーと同じでした。
「そんな風に扱われたら」
「ずっとケージに入れられて無視って」
「おもちゃもなくてベッドも古いもの」
 ガブガブもプリプリと怒っています。
「完全な飼育放棄ね」
「もう生きもの飼う資格なし」
 ホワイティは言い切りました。
「何度聞いても思うよ」
「どうせ赤ちゃんも同じ目に遭うわ」
 ポリネシアは赤ちゃんのお話をしました。
「そんな人達だとね」
「何でこんないい娘がそんな目に遭わないといけないのかな」
 老馬はこう思いました。
「理不尽だよ」
「そんな人達こそそうした目に遭うべきだよ」 
 ダブダブは言いました、やっぱり怒っています。
「むしろね」
「こんなに我慢強くて我儘も言わなくて思いやりがあるのに」
 ジップは同じ犬として思いました。
「酷い目に遭うなんておかしいよ」
「うん、僕も皆と同じ意見だよ」
 先生は皆の言葉に頷きました。
「本当にね」
「そうだよね」
「世の中おかしいよ」
「こんな娘は最初から幸せになるべきなのに」
「ご両親もご両親の飼い主の人達もペットショップの人もそう思っていたのに」
「それで生まれて大事にされてきたのに」
「そんな人達に飼われたなんてね」
 皆ふわりを見ながら先生に言いました。
「だからちゃんとしないと駄目だね」
「お店でチェックして」
「両親の飼い主さん、ブリーダーさん達だね」
「その人達もちゃんとしてね」
「ふわりみたいな娘が出ない様にしないと」
「本当に駄目よ」
「全くだよ、ましてペット業界には裏社会も入ってきているとね」
 先生は暗いお顔でこうも言いました。
「言われているし」
「裏社会ってヤクザ屋さん?」
「ヤクザ屋さんも関わってるんだ」
「そうなの」
「そうなんだ、噂ではね」
 先生は皆にこのお話もしました。
「ブリーダーも誰でもなれるしね」
「ヤクザ屋さんでもなれるのね」
「そうなんだね」
「そしてペットショップも」
「そうなのかな」
「育てるのもね」
 こちらのこともというのです。
「出来るね」
「免許とかないし」
「別にヤクザ屋さんがやっても問題なしね」
「だからなんだ」
「そうしたこともあるんだ」
「そうなんだ、だからこちらにも光を当てないと」
 さもないと、というのです。
「やっぱりよくないね」
「ペット業界も色々あるんだね」
「命を扱う世界なのにそうした人達が関わる」
「そうしたこともあって」
「命が粗末にされる」
「そうしたこともあるんだ」
「そうなんだ」
 これがというのです。
「残念ながらね」
「だから何とかしないと駄目だね」
「ふわりみたいな娘を減らす為にも」
「ヤクザ屋さんのこともあるし」
「余計にだね」
「そう思うよ」 
 先生は悲しいお顔で言いました。
「ふわりの前の飼い主の人達はこんなこと考えなかっただろうけれどね」
「そんな連中じゃないですよ」
 国崎さんのご主人が答えました。
「子供の頃から」
「やっぱりそうですか」
「二人共身勝手で飽きっぽくて無責任で」
「それで、ですね」
「自分達以外はです」
 それこそというのです。
「自分達の都合で平気で切り捨てる」
「そんな人達ですか」
「ですから」
「ふわりもですね」
「平気で捨てたんですよ」
「そうですか」
「俺はこうなるって思ってました」
 ご主人は先生に苦い顔でお話しました。
「あいつ等がふわりを飼ったと聞いた時に」
「やがて捨てると」
「ええ、邪険にして」
 そしてというのです。
「何時かは」
「そうでしたか」
「そしてです」
「実際にですね」
「保健所に捨てたと聞いて」
 それでというのです。
「すぐにです」
「助けたんですね」
「それでうちで飼いました」
「家族として」
「だから俺達はです」
「ふわりをですね」
「あいつ等の家にいた時よりずっと幸せにします」
 こう言うのでした。
「それで、です」
「一生ですね」
「大事にします」
「家族として」
「そうします」
 先生にも約束するのでした。
「おもちゃじゃないですから」
「そうです、おもちゃじゃないです」
「命あるものは」
「皆そうなんです」
「そしてふわりもですね」
「はい」
 その通りという返事でした。
「ですから」
「それで、ですね」
「はい、絶対にです」
「一生ですね」
「一緒にいますから」
「そうですね、貴方達なら大丈夫です」
 先生も微笑んで言いました。
「これからもこの娘をお願いします」
「ええ、あと動画ですが」
 ご主人は先生に応えながらお話しました。
「今撮ってです」
「そうしてですか」
「投稿しています、毎日」
「それでどうなっていますか」
「ティーカッププードルの女の子はそれ自体が人気があって」
 それでというのです。
「しかもあの外見で頭と性格のよさなので」
「人気が出ていますか」
「はい、もう大人気で」
 それでというのです。
「一回の動画が何十万もです」
「視聴されていますか」
「そうなっています」
「それはいいことですね」
「ええ、これでいいんですね」
「種は蒔かれています」
 先生は微笑んで言いました。
「ですから」
「これで、ですか」
「また一つ起きます」
「そうですか」
「動画の投稿はこのまま続けて下さい」 
 先生はご主人に言いました。
「是非」
「それじゃあ」
「はい、しかし本当にです」
 先生はふわりを見てあらためて思うのでした。
「ふわりはいい娘ですね」
「そうですよね」
「ずっと家族の人達を見ていますよね」
「温かい目で」
 ご主人も答えました。
「そうしてくれています」
「そうした娘ですね」
「あいつ等にもそうだったんですね」
「絶対にそうですね」 
 このことは間違いないというのです。
「本当に」
「けれどあいつ等はですね」
「おもちゃですから」
 そう思っているからというのです。
「そうしたこともです」
「気付かなかったんですね」
「そうだと思います」
「絶対にそうですね」
「そしてです」
 それでというのです。
「零点の人に百点もののよさはわからないですね」
「そうですね」
「ですから」
「あいつ等はですね」
「ふわりの本当の素晴らしさをわかるレベルの人達じゃなかったんです」
「そういうことですね」
「ですから」
 それでというのです。
「捨てました、ですが」
「反省したらですか」
「僕はいいと思います、しかし」
 それでもとです、先生はさらに言いました。
「多分ですが」
「多分?」
「はい」
 悲しい顔での返事でした。
「おそらくです」
「反省しないですか」
「ご主人もそう思われますね」
「そんな連中じゃないです」
 ご主人もこう答えました。
「あいつ等は」
「そうですね」
「これまで一度もです」
「お二人共ですね」
「そんなことしないで生きてきましたから」
「そうですね、お話を聞いて思いました」
 こうご主人に答えました。
「僕も」
「そうですね」
「ですが僅かでも可能性があるなら」
「やってみることですね」
「それが学問ですから。それに」
 先生はさらに言いました。
「人の心に期待もしたいですから」
「反省して心を入れ替える、ですか」
「そうもしたいですから」
「だからですね」
「ここはこのままです」
 ことを進めてもらうというのです、そうお話してでした。
 先生は今は帰路につきました、お家に帰ったふわりはご主人に連れられてお家の中に入りました。先生達はそんなふわりを見送ってそれぞれのお家に帰って休みました。








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