『ドリトル先生と幸せになる犬』




               第三幕  ある一家からの申し出

 先生は大学で研究と講義そして論文の執筆に励んでいました、先生にとっては学問は最高の趣味なのでとても充実した日々です。
 その中で先生にあるお話が来ました。
「先生にですか」
「うん、家に迎えた犬のお話を聞いて欲しいってね」
 先生はトミーに研究室でお話しました。
「申し出てきたんだ」
「この場合はご家族からでなく」
「犬自身からだね」
「そうですね、先生は生きものとお話が出来ますし」
「だからね」
 それでというのです。
「そのお家にお邪魔して」
「犬と会って」
「犬とお話をしてね」
「そのお話を聞くんですね」
「そうするよ」
「わかりました」 
 トミーもここまで聞いて頷きました。
「それではですね」
「今度の日曜にね」
「そのお家にお邪魔して」
「お話を聞くかせてもらうよ」
 先生はトミーに笑顔で応えました、そして。
 トミーに自分のスマートフォンの画像を見せてこうも言いました。
「どうかな」
「トイプードルですね」
 トミーはその画像に映っている濃い茶色、ダークブラウンに近いその毛の色の犬を見て言いました。
「その中でも随分整った外見ですね」
「そうだね、この画像の時もうすぐ三歳でね」
「じゃあ今はですね」
「三歳だね」
 年齢はそれ位だというのです。
「女の子でサイズはタイニーの小さいかティーカップか」
「ティーカップ位ですかね」
「そうだね、トイプードルといってもね」
「かなり小さいですね」
「そのタイプの娘だね」
「足も短いですね」
「ドワーフタイプだね、この娘がこれから会う娘なんだ」
 トミーに穏やかな声でお話しまsた。
「実は」
「そうですか」
「小さくて足が短いトイプードルはね」
 こうした犬はといいますと。
「人気があるんだ」
「それでよくペットショップにもいますね」
「うん、それでこの娘もね」
「ペットショップにいたんですか」
「それで買われて」
「家に迎え入れられたんですか」
「ところが捨てられたんだ」
 先生はここで暗いお顔になりました。
「それでこの画像は保健所にいる時だよ」
「ああ、だからですね」
 ここでトミーはその犬の周りを見ました、コンクリートで鉄格子も見えます。
「こうした場所なんですね」
「保健所に入れられてすぐにこの画像が撮られたんだ」
「それで里親募集されたんですか」
「幸い前の飼い主の親戚の人が捨てられたと聞いてすぐに保健所に行って」
「この娘を引き取ったですね」
「だから里親決定とあるんだ」
 画像の右腕のリボンの様なところにそう書いてあります。
「そうなったんだ」
「よかったですね、ですが」
 トミーはその画像を見つつ先生に深刻なお顔で言いました。
「ペットショップで買ってですか」
「自分達の都合でだよ」
「保健所に捨てたんですね」
「飼い主を探さずにね」
「保健所で飼い主が飼育権放棄して捨てたら」
 どうなるか、トミーはさらに言いました。
「確か保健所によっては」
「何時殺処分になってもおかしくないよ」
「そうですよね」
「というか保健所に送られると」
「殺処分前提ですね」
「そうだよ、命をね」
 大切なそれをというのです。
「こうしてね」
「平気で、ですね」
「捨てる人がね」
「いるんですね」
「家族に迎えてもね」
「酷いことですね」
「日本にもこうした人がいるんだ」
 こうトミーにお話しました。
「そうなんだ」
「イギリスにもいて深刻な問題でしたし」
「今でもだね」
「日本でもですね」
「身勝手、自分勝手な人がいてね」
「命を何とも思わないんですね」
「そうなんだ」
 先生は暗いお顔のままでした。
「まさに自分達だけの人達だよ」
「本当に酷いことですよ」
「こうしたことが少しでも減って殺処分はね」
「なくなればいいですね」
「そうだよ、中には自分の家族が可愛がっていたペットを保健所に送ったと聞いて」
 そうしてというのです。
「その家族をずっと憎んでいる人もいるよ」
「そうした人もいますね」
「その人の気持ちもわかるね」
「人を憎むことはよくないですが」
 それでもとです、トミーは先生に答えました。
「ですが」
「それでもだね」
「はい、命を大切にしない人は」
「好かれないよ」
「それは当然ですね」
「だって人にも命があるから」
 生きものと同じくです。
「自分以外の人も大事にしないからね」
「だから嫌われますね」
「そうだよ、そしてね」
 さらに言う先生でした。
「そんな人は忌み嫌われるよ」
「己に心、自分しかない人だから」
「そうなるよ、そんな人にはなったら駄目だね」
「全くです」
 トミーもその通りだと頷きました。
「本当に」
「それでこの娘もですね」
「そんな人達に捨てられたんだ」
「辛い過去ですね」
「その娘からお話を聞いて来るよ」
「辛いお話になりますね」
「辛いお話も聞かせてもらうのが医師だよ」
 先生はここでは笑って応えました。
「だからね」
「行って来ますね」
「そうしてくるよ」
 こう言ってでした。
 先生は今は論文を書きました、そして日曜になると動物の皆と一緒にその犬がいるお家に向かいました。
 そのお家まで向かいながら先生は言いました。
「幸い同じ神戸市でよかったね」
「全くだよ」
「電車に乗ってすぐだったし」
「同じ神戸市でよかったわ」
「実際にすぐにここまで来たし」
「地図によるとあと少しだね」
「うん、そうだよ」 
 先生はそのお家の住所をスマートフォンの地図で確認しつつ答えました。
「あと数分だね」
「そうなんだね、じゃあね」
「このまま行こうね」
 オシツオサレツが先生に二つの頭で言いました。
「皆でね」
「先生道案内宜しくね」
「しかし、酷い飼い主達だね」
 ダブダブは先生にお顔を向けて言いました。
「その娘の前の飼い主達は」
「ペットショップで飼っても保健所に捨てるなんて」
 ガブガブも言いました。
「ものじゃないのよ」
「あの、命だって認識あるのかな」
 チーチーはこのことが疑問でした。
「その飼い主達には」
「おもちゃじゃないから」
「というかいい人はおもちゃだって大事にするわよ」
 チープサイドの家族も言います。
「それなのに死んでしまえなんて」
「殺処分もある場所に捨てるなんてね」
「僕そんな人とは絶対に一緒にいたくないね」 
 ホワイティは言い切りました。
「何があっても」
「絶対に裏切るからね」 
 ジップもこう言います。
「自分勝手な理由で」
「何があっても裏切らない先生とは全く違うわ」
 ポリネシアも先生も見ています。
「それこそね」
「本当にそんな飼い主は生きもの飼ったら駄目だよ」
 老馬は怒った声です。
「飼われる生きものが可哀想だね」
「そんな人が親になっても酷いだろうね」
 トートーは考えました。
「自分達の子供もおもちゃ扱いでね」
「皆の言う通りだよ、そんな人が生きものを飼えない様にする」
 そうしたというのです。
「制度にしないといけないね」
「そうだよね」
「命を粗末にする人は生きもの飼ったら駄目だよ」
「先生の言う通りよ」
「そのことはね」
「ペットショップもね、命を商品とだけしか思わないならね」 
 それならというのです。
「よくないよ」
「全くだね」
「命を売買すること自体も問題?」
「それって奴隷と同じじゃないかしら」
「若しかして」
「それを言うと家畜もだけれど。命のことは難しいよ」
 先生は何時になく深刻に皆とお話しました、そしてです。
 そのお家に着きました、お家は国崎さんといって清潔な感じですがちょっと古い感じの一軒家でした。 
 そのお家のチャイムを鳴らすとちょっと威勢のいい感じですが優しい目をした初老の男の人とまだ充分に若い外見の女の人が出て来て先生に穏やかな声で言ってきました。お二人共ご夫婦とのことでした。
「ドリトル先生ですね、待っていました」
「じゃあお話を聞いて下さい」
「うちの娘は居間にいます」
「名前はふわりといいます」
「ふわりちゃんですね、わかりました」
 先生はお二人に微笑んで頷きました。
「ではお邪魔させてもらいます」
「はい、どうぞ」
「お茶を出しますね」
「いえ、お気遣いなく」
 その申し出には謙虚に応えてでした。
 先生はお家の中に上がらせてもらいました、この時も動物の皆も一緒です。
 それで居間に入るとご主人、文太さんというその人が言いました。
「ふわり、先生が来たぞ」
「ワン」
 わかったわパパと先生に聞こえる声で、でした。
 トミーに見せた画像の姿そのままの可愛らしいダークブラウンに近い毛の色の足の短いティーカッププードルの女の子がでした。
 清潔でティーカッププードルのお家としては広いケージから出てきました、そして先生の前に来ました。
「はじめまして」
「僕がドリトルだよ」
 先生は座布団の前に座ってその犬、ふわりと呼ばれた娘に応えました。
「宜しくね」
「全ての生きものとお友達っていう」
「そう言ってもらえてるよ」
「そうなのね」
「そして僕とこれからね」
「お話をよね」
「してくれるかな、君が落ち込んでいると聞いて」
 そうしてというのです。
「君のご家族から君のお話を聞いて欲しいって言われたんだ」
「私いらないって捨てられたから」 
 ふわりは俯いて先生に言いました。
「だから。それで今のパパもママも。そしてお兄ちゃんも」
「君を捨てるとかな」
「心配で」
「それはないよ。今のご家族は君を捨てないよ」
「そうなの?」
「そうした人達だから君を引き取ったからね」
 だからだというのです。
「そうしたことはね」
「しないの」
「君と絶対に離れないよ。ただね」
「ただ?」
「君のことをご家族にお話してご家族に君のことをもっとよく知ってもらって君に愛情を持って欲しいから」
 それでとです、先生はふわりに言いました。見れば尻尾がとても短いですし身体の毛はふわふわもこもこで足も短いので本当にぬいぐるみみたいです。
「君が生まれてからここに来るまでのことを話してくれるかな」
「わかったわ。私生まれた場所はよく覚えてないの」 
 ふわりは先生の優しいお顔と言葉に安心してお話をはじめました。
「犬のパパとママが生まれた私と兄弟、お兄ちゃん二匹と一緒にずっと大事にしてくれたのは覚えてるわ」
「生まれた時はだね」
「それで暫くしてね」
 生まれてから暫く経ってというのです。
「人が大勢いる場所に犬のパパとママから引き離されて」
「そうしてだね」
「お兄ちゃん達と一緒に何かお金がどうとか言われて」
 そうしてというのです。
「ペットショップに引き取られたの」
「それはオークションだね」
「オークション?」
「日本ではペットショップの人達の間でオークションをしてね」
 そうしてというのです。
「生きものの値段を決めているんだ」
「そうだったの」
「それで君は値段は決まって」
 そうしてというのだ。
「ペットショップに引き取られたんだ」
「そうだったのね」
「お兄さん達とは別れたね」
「私一匹だけそのペットショップに入って」
 そしてというのです。
「お兄ちゃん達とはずっと会ってないわ」
「そうだね」
「どうなったのかしら、それでペットショップに入って」
 そしてというのです。
「また暫くそこにいたら」
「そうしたらだね」
「前のママとパパがペットショップにいた私を見たの」 
「そうしたらだね」
「ママが私を見て一目惚れしたの」
 ふわりはこのことは嬉しそうにお話しました。
「こんな可愛い娘はいないって。パパに言ってね」
「君を買ったんだね」
「百万近くしたとか言ってたわ」
 その値段はというのです。
「何かね」
「百万近くだね」
「ええ、それですぐに私をお家に連れて帰って」 
 飼ってというのです。
「今日から私はママとパパの娘と言ってくれたの。その時おトイレもご飯も首輪もおもちゃも一杯買ってくれたわ」
「それで飼われたんだね」
「そうなの。ママもパパも特にママはね」
 ふわりは先生にさらにお話しました。
「私を可愛いって言ってくれて」
「最初に見た時と同じで」
「毎日とってもとっても可愛がってくれたの」
「どんな風にかな」
「ブラッシングしてくれてお散歩に一日二回連れて行ってくれて」
 そしてというのです。
「美味しいご飯とミルクも一日三回くれて」
「ケージはどうだったかな」
「なかったわ」
 そうだったというのです。
「ペットショップの人はね」
「ケージは必要だね」
「そう言って」
 そしてというのです。
「用意したけれど」
「すぐになんだ」
「お家に着いたらケージは物置に入れて」
「それでだね」
「お家に着いたらすぐに私をお部屋の中で可愛がってくれたの」
「そうだったんだね」
「毎日奇麗なクッションやソファーの上で寝て」
 寝る時のお話もしました。
「気持ちよかったわ。柔らかくて温かくて」
「お父さんやお母さんのベッドでもかな」
「寝たわ。ママもパパもいつも笑顔で」
 そしてというのです。
「お洋服やおリボンもね」
「着せたり付けたりだね」
「してくれたわ。美容院にも連れて行ってくれて」
 そうしたこともしてというのです。
「私をいつも奇麗にしてくれたの」
「本当に可愛がってもらっていたんだ」
「そうなの。それでお洋服やおリボンは」
 ふわりは特にそちらのお話をしました。
「今のお家にもあるの」
「そうなんだね」
「このお家ではまだ着せてもらってないけれど」
 それでもというのです。
「とても奇麗なピンク色のものとか赤とか白とか」
「ドレスみたいな」
「そうした服を着た私を撮ってくれて」
「それでだね」
「インスタグラムって場所にも投稿して」
 そしてというのです。
「大人気って私に言ってくれたの」
「お姫様みたいだね」
「そうも言ってくれたわ」
 ふわりのことをというのです。
「いつもね、それでお誕生日やクリスマスの時は」
「お祝いだね」
「私の為にパパが犬用のケーキを買ってきてくれて」
「美味しかったかな」
「凄くね、楽しかったわ」
「本当に楽しかったんだね」
「毎日ね。それでね」
 ふわりは先生にさらにお話した。
「その幸せな毎日がね」
「ずっとだね」
「続くって思ってたの。けれど」
「それがだね」
「ある日ね、ママが私に言ったの」
 ふわりは先生に言葉のトーンを変えて言いました。
「私がもうすぐお姉ちゃんになるって」
「子供が出来たのかな」
「赤ちゃんがね。ママが私に自分のお腹を見せてくれて」
 そしてというのです。
「優しくお腹に近寄せてくれて」
「それでだね」
「言ってくれたの」
「そうだったんだね」
「それでパパが会社から帰って」
 その時にというのです。
「おめでとう、おめでとうって言ったら」
「お父さんも喜んでくれたね」
「物凄くね」
 そうだったというのです。
「あの時は本当に嬉しかったわ」
「お父さんとお母さんに子供が出来て」
「それで私がお姉ちゃんになって」
 そうなってというのです。
「皆がもっともっと幸せになるんだってね」
「思ってだね」
「私本当に嬉しかったの、それでね」
 ふわりは先生にさらにお話しました。
「私ママのお腹が大きくなって。風船みたいにそうなっていくのを見て」
「どうだったのかな」
 ふわりの丸い黒目のきらきらした目を見ながら尋ねました。
「一体」
「私考えたの」
 ふわりは先生にすぐに答えました、その純粋な目で。
「どうしたらいいお姉ちゃんになれるかって」
「そうだね」
「赤ちゃんを助けてあげて」
 そうしてというのです。
「ママとパパのお手伝い出来る様な」
「そうしたことが出来る」
「いいお姉ちゃんになれるかってね」
「考えたんだね」
「一杯一杯考えたの」
 そうしたとです、ふわりは先生に答えました。
「赤ちゃんが産まれるまでね」
「どんなことを考えたのかな」
 先生はふわりに優しい顔と目で尋ねました。
「それで」
「まず赤ちゃんが泣いたらね」
 その時はといいますと。
「そのことを見付けて」
「そしてだね」
「すぐにママに知らせてあげて」
 そうしてというのです。
「ママが赤ちゃんをあやして泣くのを止める様にして」
「それはいいことだね」
「そうよね、それでおむつもね」
 赤ちゃんのそれもというのです。
「ママとパパに持って来てあげて」
「咥えてだね」
「うん、そうしてあげてね」
「そのこともいいことだね」
「そして赤ちゃんにもね」 
 赤ちゃん自身にもというのです。
「私のおもちゃを貸してあげて」
「遊んでもらうんだね」
「そうして楽しんでもらおうってね」
 その様にというのです。
「一杯一杯考えたの」
「それで赤ちゃんが産まれたら」
「そうしてあげようって考えて」
 そしてというのです。
「楽しみに待っていたの」
「そうだったんだね」
「それでママのお腹がこれまで以上に大きくなって」
 ふわりはさらにお話しました。
「毎日行っていたお散歩も行かなくなって」
「動けなくなってだね」
「そうなの、ずっと寝ている様になって」
「それじゃあパパはどうしていたのかな」
「お仕事をしていたから」
 それでというのです。
「お散歩は行かなかったわ、いつもお散歩はママとパパが一緒だったけれど」
「そうだったんだね」
「パパも赤ちゃんのベッドやおもちゃを用意して」
 そうしてというのです。
「私のお散歩には行かなくなったの」
「君はずっとお家にいる様になったんだね」
「遊んでくれることもブラッシングをしてくれることもね」
 そうしたこともというのです。
「なくなって二人共ご飯もね」
「忘れる様になったのかな」
「そんな時も出来たけれど」
「君は我慢したんだね」
「だって私お姉ちゃんになるから」
 だからだというのです。
「ママとパパを困らせたらいけないから」
「そう思ってだね」
「我慢したの」
「ずっとだね」
「お散歩も遊ぶこともブラッシングもね」
「ご飯もだね」
「全部我慢したの、そしてママが暫く入院して」
 そうしてというのです。
「赤ちゃんを連れてお家に帰ったら」
「どうしたのかな」
「私一生懸命にママに言ったの」
「どう言ったのかな」
「ママおめでとう、私いいお姉ちゃんになる為に一杯一杯考えたからこれから頑張るねって」  
 その様にというのです。
「言ったの、一生懸命にね」
「ママをお迎えしてだね」
「お家の玄関でね、けれどね」
「ママは返事をしなかったね」
「幾ら私が話しかけても。これまで話しかけたら絶対に笑顔を向けて応えてくれたのに」
 ふわりはここで悲しいお顔になりました。
「ずっと応えてくれなくて最後はね」
「どうだったのかな」
「静かにしなさいって怒って」
 そしてというのです。
「その日からママもパパも赤ちゃんばかり見て赤ちゃんばかり可愛がって」
「君にはどうなったのかな」
「私赤ちゃんがお家に来たら静かにしなさいって怒られて」
「ケージの中に入れられたのかな」
「これまで使っていなかったケージが出されて」
 そうしてというのです。
「そこに入れられて」
「ケージの扉は閉められたね」
「そうなったの、それから一日中ケージに入れられて」
 そうなってというのです。
「ママもパパも私を振り向いてくれなくなったの」
「当然お散歩も遊ぶこともブラッシングもだね」
「全然なくなったわ」 
 ふわりは穏やかですが真剣に自分のお話を聞いてくれる先生に正直に答えました。
「ご飯も一日一回入れて。何も言わないでざっと入れて終わりで」
「ミルクはどうかな」
「お水になったわ、食器も洗ってもらえなくなって」
「これまでは洗ってくれたんだね」
「いつも奇麗にね」
 そうだったというのです。
「それが全然でケージの中はクッションもベッドもなくて」
「固くて冷たかったね」
「私はそこで寝ておトイレも」
「お掃除もあまりだね」
「そうなって。私はここだよって幾らママとパパに言っても」
 それでもというのです。
「応えてくれなくて時々赤ちゃんが泣いたって」
「怒ってきたんだね」
「話し掛けるのはそれだけになって」
 怒るだけになってというのです。
「赤ちゃんが泣いたことを知らせても」
「怒られたね、君は」
「ええ・・・・・・」
 ふわりは先生に項垂れて答えました。
「私ママとパパの役に立ちたかったのに」
「怒られて」
「どうしたらいいのって思って」
「困ったね」
「ママが怒った、あんな怖い顔はじめて見たし」
「そんなに怒ったんだね」
「それでママが困ってるって思って」 
 それでというのです。
「ママにもパパにも御免なさいって」
「君は思ったね」
「泣いて。それでその夜ママが朝から晩まで吠えて五月蠅いったらありゃしないってお仕事から帰ったパパにお話してたの」
「そうだったんだ」
「赤ちゃんもママも困るって。赤ちゃん生まれたばかりなのに」
「それでパパはどうママに応えたのかな」
「わかった、何とかするよって」
 その様にというのです。
「答えて次の日ね」
「どうなったのかな」
「久し振りにケージから出してもらって」
「そしてだね」
「ケースに入れてもらって」
「遠くにお散歩に行くって思ったね」
「ええ。車に乗せてもらって」
 そしてというのです。
「行くかなって。ママと赤ちゃんも一緒だったし」
「ママとパパはその時君を見たかな」
「ケージから出してくれてケースに入れてくれたら」
 そうしたらというのです。
「もう全然だったわ、後ろの座席にケースごと置かれて」
「全くだね」
「私の方を見ないで」
「君をだね」
「ええ、何か暗くて寒い場所に連れて来て」
「ママはどうしたのかな」
「赤ちゃんを抱いてどっかに行ったわ」
 そうしたというのです。
「それでパパが若い男の人にね」
「お話したね」
「私の性格が変わって」
 そうしてというのです。
「朝から晩まで吠えて」
「赤ちゃんが産まれたばかりでだね」
「ええ、それでね」
「ママも赤ちゃんも参ってだね」
「もういらないって言って」
 そうしてというのです。
「私を置いてパパも何処かに行って」
「君はケースから出されてだね」
「暗くて寒い寒い場所に出されて」
「置いて行かれたね」
「必死にママとパパをずっと呼んだけれど」
 ふわりは泣いて言いました。
「来てくれなくて。ずっと待っていたのに」
「暗くて寒い場所で」
「そこにいる人達がいらなくなった犬や猫が送られる場所がこの保健所だって聞いたわ」
「そこでもう君は自分がいらないって思ったね」
「いい娘にしていたらきっとママとパパが迎えに来てくれると思っていたのに」
 それでもというのです。
「ママもパパも来ないから」
「いらないとだね」
「自分で思って。待っている私が馬鹿みたいって思って」
 そうしてというのです。
「何日もいてもう悲しくて苦しくて辛くて」
「立っていることもだね」
「出来なくなって瞼が重くなって」
「寝たんだね」
「それでお散歩に行って」
 そうしてというのです。
「ママとパパとね」
「夢を見たのかな」
「ええ、それでね」
 そうしてというのです。
「また噴水に入ったら怒られるかなとか今度はママを困らせないから御免なさいってね」
「そうしたことをだね」
「考えて寝て夢の中でママに呼ばれて野原でママ大好きって思って駆けていって」
 ママのところにというのです。
「ママに抱っこされる夢を見たの」
「そしてそこでだね」
「目が覚めたら」 
 その時はというのです。
「今のパパとママ、お兄ちゃんにね」
「迎えられていたんだね」
「そうだったの。私ママとパパを困らせて」
 項垂れて泣いて、そうして言うのでした。
「いいお姉ちゃんになれなかったいらない娘なのね」
「君は自分でそう思ってるのね」
「ええ。だからこのお家からも」
「そう思っていて」
「今も不安で怖いの」
「そうだね。はっきり言うよ」
 先生はふわりのお話をここまで聞いてでした。
 一呼吸置いてです、そうしてからふわりに言いました。
「君はいらない娘じゃないよ」
「そうなの?」
「そう、全くね」
「そうかしら」
「少なくともこの家の人達はそう思ってるよ」
「今のパパとママは」
「お兄さんもね」
 家族皆がというのです。
「そう思ってるよ、だからもう君はいらないと言われることはね」
「ないの」
「そうだよ、そして君に困らせられるともね」
 そうしたこともというのです。
「一切ね」
「ないの」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「全然ね」
「そうなのね」
「そしてね」
 先生はふわりにさらにお話しました。
「君は全く悪くなかったよ」
「前のママとパパを困らせてなかったの」
「君の話は全部聞いたよ、そしてね」
「そして?」
「君は嘘を吐いていない、全部ね」
 まさにというのです。
「真実をね」
「言ってたの」
「嘘を言うのは人間だけだよ」
 先生はふわりにこのことも言いました。
「一切ね」
「私嘘は言ってないわ」
「それはわかるよ。君は全部ね」
「真実をなの」
「言っているから」
 だからだというのです。
「全部わかったよ」
「そうなの」
「そしてその真実を聞いて」
 そしてというのです。
「僕は君にはっきり言うよ」
「私は悪くないの」
「全くね」
 そうだというのです。
「一切ね」
「けれどどうして私はママとパパにいらないって言われたの?」
 ふわりは自分は悪くないと言ってくれる先生に聞きました。
「どうしてなの?」
「それは彼等がとても酷い人だからだよ」
「ママとパパが」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「彼等は君を家族と思っていなかったんだ」
「まさか」
「まさかだよ、一切ね」
 先生はふわりにはっきりと答えました。
「君を娘と言ったけれど」
「それで毎日可愛がってくれたわ」
「可愛いって言ってだね」
「とってもとっても。ケーキも買ってくれたし」
「それは遊んでいただけなんだ」
 先生は言いました。
「君を娘として愛していたんじゃなくて」
「どういうことなの?」
「君をおもちゃとしてね」
「おもちゃ?」
「そうだよ、君をおもちゃと思ってね」
 そうしてというのです。
「それでなんだ」
「遊んでいたの」
「それだけだよ、そして間違いなくね」
 先生は確信を持って言いました。
「赤ちゃんもね」
「おもちゃなの」
「君の前のママとパパにとってはね」
「まさか、そんな」
「君の代わりの新しいおもちゃが手に入ったから」
 驚くふわりに言うのでした。
「彼等は君を捨ててね」
「赤ちゃんで遊んでるの」
「新しいおもちゃでね」
「私はママとパパのおもちゃだったの」
「そうだよ、彼等にとって君はそうだったんだ」
「だから飽きて。けれど私おもちゃには飽きないで」
 ケージやお部屋の中にある自分のおもちゃ達を見てです、ふわりは先生に答えました。
「それでずっと大事にしてるけれど」
「そんな人もいるよ。古いおもちゃに飽きたらもう捨てるって人がね」
「そうなの」
「君の前のママとパパはそうした人で」
 そしてというのです。
「君に飽きたから捨てたんだ、けれど今のパパとママは」
「お兄ちゃんも」
「君を家族と思っているよ」
 おもちゃでなく、というのです。
「命のあるね」
「そうなの」
「だから彼等は君を捨てないよ」
「絶対になの」
「そう、君はもう本当の家族を手に入れたんだ」
 先生はふわりに微笑んで言いました。
「今ね」
「そうなのね」
「だから君は一生この家でね」
 ここでというのです。
「前のお家よりずっと楽しい幸せな日々を過ごせるよ」
「先生がそう言うなら」
「僕が嘘を吐いていないのはわかるかな」
「ええ、何か凄くね」
 ふわりは先生に答えました。
「わかるわ」
「わかってくれるんだね」
「先生のお言葉には先生のお心が出ているのがわかるわ」
 ふわりにもです。
「だから」
「僕も嘘を言っているつもりはないよ」 
 決してというのです。
「だからね」
「それでなのね」
「うん、君はここで本当の一生がはじまったんだ」
「そうなのね」
「多分君は三ヶ月か四ヶ月で前のお家に来たね」
 先生は日本で生きものが売られるには生後四十九日を経る必要がありそこからオークションとペットショップへの輸送、そしてふわりが言う暫くペットショップにいたという言葉からふわりが買われた時を推測しました。
「そうだったね」
「それ位だったわ」
 ふわりもそう答えました。
「それで前のお家に来て二年少しでね」
「ママのお腹が大きくなって」
「赤ちゃんが産まれて三ヶ月はね」
「ずっとケージの中だったね」
「それで多分十日位前にね」
「捨てられてだね」
「何日か保健所にいて」
 そしてというのです。
「このお家に連れて来てもらったの」
「そうなってるね」
「もう三歳になったわ」
「その三年よりも遥かにね」
「私はなの」
「ずっと楽しい幸せな日々を過ごせるよ」
 そうなるというのです。
「もう絶対にいらないと言われないね」
「そうしたなの」
「最高に幸せな日々を過ごせるよ」
「私もそう思うわ」
 動物の皆はこれまでずっと先生とふわりのお話を聞いていました、ですがここでまずはガブガブがふわりに言いました。
「私達人を見たらわかるの」
「その人がどういう人かね」
「大体ね」
 チープサイドの家族もふわりに言います。
「わかるから」
「見ればね」
「君の今のご両親はとてもいい人達だよ」
 トートーも言いました。
「奇麗で立派な心を持ったね」
「そしてお兄さんの匂いを感じたけれど」
 ダブダブも言ってきました。
「とてもいい人の匂いだよ」
「事実貴女はこのお家で嫌な思いをしたことはない筈よ」
 ポリネシアもこのことはわかりました。
「来て間もなくても」
「そもそも君を粗末にする人がわざわざ先生に君のお話を聞いてもらいたいと思わないよ」
 ホワイティは断言しました。
「完全に放っておくよ」
「大体君を保健所から助けないよ」
 老馬はこのことを言いました。
「駆けつけてね」
「それで君を早速大事にしているよね」
 チーチーはふわりを見て言いました。
「見たところケージもお皿もおトイレも奇麗だしね」
「ブラッシングもしてもらってケージの扉も開いてるね」
「お散歩も行ってる感じだね」
 オシツオサレツはふわりをまじまじと見て言いました、見れば不安そうでもストレスは今は少ない感じです。だからこうしたことも察したのです。
「そうだよね」
「君を家族だって思ってる何よりの証拠だよ」
「あの人達は君を絶対におもちゃとは思わないから」
 ジップは自分と同じ犬であるふわりに強く言いました。
「安心していいよ」
「生きものを平気で捨てる人には独特の嫌なものがあるんだ」
 先生はあらゆる生きものの味方なのでわかるのです。
「自分勝手で身勝手で」
「そうだよね」
「もうそれが出てるんだよね」
「何も言わなくても」
「目の光や人相に」
「それに仕草に」
「普通のお仕事をしていてもならず者みたいなんだ」
 そうした人はとです、先生は皆に応えつつふわりに言いました。
「君の今のご両親は口は少し悪いだろうけれど」
「私を家族と思ってくれて」
「大事にしてね」
 そうしてというのです。
「絶対にだよ」
「いらないって思わないのね」
「それで君を無視してお散歩をしなくなったりもね」 
 そうしたこともというのです。
「絶対にね」
「ないのね」
「ないよ」
 ふわりに笑顔で答えました。
「だからね」
「安心していいのね」
「そうだよ、安心していいよ」
 こうふわりに言いました。
「君のこれ以上はないまでに楽しくて幸せな一生はこの家に迎えられて」
「それでなの」
「はじまっているんだ」
「それじゃあ」
「今のご家族を心から信じて愛して」
「暮らせばいいのね」
「ご家族も君を愛してくれるからね」
 ふわりが愛するだけでなくというのです。
「そうしていくんだ」
「わかったわ、じゃあ私はね」
「これからだね」
「すぐには無理でも」
 やっぱり捨てられた、いらないと言われて悲しい気持ちはあります。その悲しみはすぐには消えてなくならないというのです。
「それでもね」
「うん、徐々にでいいよ」
 先生もこう答えました。
「それはね」
「少しずつでいいの」
「何でも一気は無理だから」
 それでというのです。
「君もね」
「徐々になのね」
「今のご家族を信じて愛していくといいよ」
 こうふわりに言いました。
「あの人達は君がそうするに値する人達だから」
「じゃあ前のママとパパは」
「君、いやこの世の誰にも信じられたり愛される価値のない人達だよ」
 先生はこの人達についてはこう言いました。
「全くね」
「そうなの?」
「命を粗末にする人達はね」
 先生は悲しいお顔で言いました。
「それはこれからどんどんわかるよ」
「そうなの」
「うん、けれど今のご家族は違うから」
「今のパパとママとお兄ちゃんは」
「だからね」
「私は信じていいのね」
「そう、信じてね」
 そうしてというのです。
「愛情を以て接したらいいよ」
「困らないの、そうしてね」
「あの人達は全くね、じゃあね」
「ええ、これからは」
「君は幸せになるんだ」 
 こうふわりに言いました。
「いいね」
「わかったわ。そうしていくわ」
 ふわりも先生に応えました、そうしてです。
 ふわりは先生に今のお家のこともお話しました、そのお話はとても幸せなものでした。そのお話が終わるとふわりは自分からケージに戻って丸くなって寝ました。








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