『ドリトル先生と不思議な蛸』
第九幕 不思議な模様の蛸
先生は蛸や烏賊のお刺身を食べた次の日も海の調査をしました、その中でとても多くの生きもの達を見てです。
中にはイソギンチャクもいました、皆そのイソギンチャクを見て言いました。
「思えば不思議な生きものだよね」
「イソギンチャクもね」
「先に毒のある触手があってね」
「真ん中に口があって」
「うん、こうした生きものもね」
先生も言いました。
「海にはいるんだよ」
「さっきアメフラシ見たよ」
「ウミウシもね」
「海には本当に色々な生きものがいるわね」
「まさに命の宝庫ね」
「海は」
「元々生きものは海から生まれたしね」
先生は遥か昔からお話しました。
「だからね」
「今もなのね」
「海には沢山の生きものがいるのね」
「そうなんだね」
「そうだよ、海がなかったら」
地球にというのです。
「果たして命が存在したか」
「そのこともだね」
「わからないんだね」
「若し海がなかったら」
「その時は」
「そうだよ、カンブリア紀はね」
先生は恐竜より昔のお話をしました。
「とても不思議な生きもの達が出て来たね」
「アノマロカリスとかね」
「もう有り得ない位おかしな形の生きものがいるわね」
「イソギンチャクやアメフラシよりも不思議な生きもの達が」「
「一杯出て来たね」
「その生きもの達もだよ」
海がなければというのです。
「果たして出て来たか」
「わからないんだね」
「海がないと」
「そうなのね」
「まさに海は万物の母だよ」
先生はこの言葉を出しました。
「川や湖が父親でね」
「どちらにしてもお水だね」
「お水がないと生きものは出て来なかった」
「この地球でも」
「そういうことね」
「そうなるね、だから今もね」
先生は海を笑顔で見ながらお話しました。
「海には色々な生きもの達がいるんだ」
「そうなのね」
「それでなのね」
「イソギンチャクとかもいて」
「他の生きもの達も」
「そう、いるから」
だからだというのです。
「見ていこうね」
「そうするんだね」
「そして赤くない蛸も探す」
「そうするのね」
「今は」
「そうしようね、しかしね」
ここで、でした。先生は。
海の中のヒトデを見て皆に言いました。
「ヒトデの退治は前も言ったけれどね」
「乾かして焼く」
「そうしないと駄目ね」
「間違っても切ってはいけない」
「切ればね」
「かえって増えるから」
「絶対に駄目ね」
皆もこのことを言います。
「若し切ったらその分増えるから」
「そして余計に困ったことになるから」
「切ってはいけないね」
「魚介類を食べるから駆除しないといけない時も」
「そのことは気をつけないと」
「このことも知らないと」
ヒトデのことをというのです。
「やっぱりね」
「よくないね」
「大変なことになるね」
「だからちゃんとヒトデのことを知って」
「それで学ぶ」
「そうしないと駄目ね」
「そうしないとね」
本当にというのです。
「まずは知ることなんだ」
「そうよね」
「知識は最大の武器である」
「そう言うけれど」
「先生は特にそう言うね」
「まずは知ることだって」
「そうなんだ、僕も学んで」
学問に励んでというのです。
「知っていってるよ、あとさっきね」
「さっき?」
「また何か見付けたの?」
「そうだったの?」
「うん、海胆を見付けたけれど」
この生きものをというのです。
「海胆も美味しいよね」
「そうそう」
「海胆もこれでね」
「また美味しいよね」
「凄くね」
「よく海外から日本にお願いされて輸出しているけれど」
その日本にです。
「そこの人達はいつも不思議に思っているんだ」
「どうして食べるのか」
「海胆みたいなものをね」
「正直機雷にしか見えないしね」
「針が一杯でね」
「普通に食べものに思えないわ」
「けれどその海胆もね」
これもというのです。
「食べるのがね」
「日本人だね」
「他にはナマコも食べるし」
「それで海胆もだから」
「正直凄いよね」
「あと東北だとね」
この地域はといいますと。
「ホヤを食べるね」
「ああ、あれね」
「あの軟体動物ね」
「物凄く変な形だけれど」
「あれも日本人食べるね」
「そうしてるね」
「もう海の幸なら」
それこそというのです。
「日本人は何でも食べるね」
「食べられそうにないものでも」
「食べてしまうからね」
「本当に凄い人達だよ」
「どんな外見のお魚も食べるし」
「海胆までなんだから」
「しかも食べると美味しいから」
その海胆がというのです。
「不思議だね」
「お寿司にしても絶品だね」
「そうよね」
チープサイドの家族が言いました。
「軍艦巻きにしてね」
「そうして食べたら」
「お醤油と滅茶苦茶合って」
チーチーはにこりとして言いました。
「お刺身みたいにしても食べられるしね」
「丼にしても美味しいよ」
トートーはチーチーに応えました。
「海胆丼だね」
「もう海胆とイクラと蟹を一緒に丼に乗せてね」
「海鮮丼にしたらね」
オシツオサレツは北海道で食べたそれを思い出しています。
「もう最高過ぎるね」
「函館を思い出すよ」
「何であんな機雷みたいなのが美味しいのか」
こう言ったのはジップでした。
「一見わからないけれどね」
「これが食べたら美味しくて」
ポリネシアも認める味です。
「たまらないのよね」
「全く、ファアグラもよく見付けたと思うけれど」
ガブガブはこの珍味を引き合いに出しました。
「海胆も負けていないわ」
「その海胆はこの海にもいるんだね」
ダブダブはこう言いました。
「見ると食べたくなったよ」
「うん、そういえば伊勢では海鮮丼を食べていないから」
それでというのです。
「食べるのもいいね」
「そうだよね」
「それもね」
「またいいね」
「海胆を食べても」
「他のものも」
「そうだね、あとナマコもね」
この生きものもというのです。
「僕は食べたくなったよ」
「ナマコは中華料理でも食べるわね」
「干したものをね」
「高級食材ね」
「そして日本だと生で食べるね」
「あれをぽん酢で食べると」
そうすればというのです。
「本当にね」
「素晴らしいね」
「そうだよね」
「それじゃあね」
「そのナマコもね」
「機会があれば食べましょう」
「是非ね、あとクラゲもね」
先生はクラゲも見て言いました。
「食べたいね」
「そうそう、クラゲも美味しいから」
「これはこれで」
「だからね」
「クラゲも食べて」
「そのうえでなのね」
「皆で楽しもうね、あとこの辺りにはあまりいないけれど」
こうも言う先生でした。
「クラゲにはデンキクラゲもいるからね」
「あれは危ないよね」
「刺されたら大変なことになるから」
「特にカツオノエボシはね」
「要注意よね」
「カツオノエボシには絶対に近寄ったら駄目だよ」
先生はこのことを皆に注意しました。
「間違ってもね」
「そうだよね」
「毒が強いから」
「刺されたら本当に電気にやられたみたいになるから」
「絶対に近寄らない」
「その刺胞には」
「そう、何があってもね」
それこそというのです。
「近寄ったら駄目だよ」
「しかもその刺胞を持っている触手が長いね」
「とてもね」
「本体は小さいけれど」
「それがね」
「だからその危険な範囲も広いんだ」
カツオノエボシはというのです。
「だからね」
「そうしたこともだね」
「頭に入れて」
「そうして注意する」
「そうしないと駄目ね」
「そうだよ、その危険もね」
カツオノエボシのそれもというのです。
「やっぱりね」
「知ることだね」
「大事なことは何かというと」
「やっぱり知ることで」
「それからね」
「そういうことだよ」
こうしたお話もしてでした、先生はその海も調べました、そしてお昼は実際に海鮮丼を食べました。海胆とイクラそれに蟹をふんだんに乗せた贅沢なものを。
おかずのお味噌汁と焼き魚も絶品で皆心から満足しました、そして皆でまた調査に行こうとしましたが。
ここで、先生に携帯で連絡が入りました。連絡を入れたのは調査を依頼している人でした。
「先生実はです」
「何かありましたか?」
「はい、実は」
その人は伊勢のある場所の海岸のことを言いました。
そしてです、先生にこうも言いました。
「そこにです」
「あの蛸がですか」
「今朝遊んでいた人がです」
「発見したんですか」
「はい」
まさにというのです。
「そう言っています」
「わかりました」
先生はそのお話を聞いて言いました。
「ですから」
「午後はですね」
「そちらに行ってくれますか」
「わかりました」
先生はすぐに答えました。
「それではです」
「午後はですね」
「そちらに向かいます」
「そうしてくれますか」
「では」
先生は携帯の向こうにいる人に答えてでした。
そうして実際に午後の予定を変更してそうしてその場所に行きました、そこは平和な海水浴場のすぐ近くで。
皆海水浴場の方を見ながら言いました。
「皆楽しく泳いでるね」
「そうよね」
「家族の人も若い男女の人達もいて」
「それでね」
「遊んでるね」
「けれどね」
それでもというのです。
「僕達はここでだね」
「調査だね」
「あの人達に危害が及ぶ前にね」
「騒動になる前にね」
「うん、若しいたらだよ」
その時はとです、先生も言います。
「大変なことだからね」
「若し見たってお話が本当なら」
「今日の午後ここで遊んでいた子供達が見たのよね」
「その赤くない蛸を」
「それでお家に帰ってお母さんに行って」
「県庁にお母さんがそんな蛸いるのって言って」
「僕達にもお話が来たよ、だからね」
それでというのです。
「僕達はね」
「今からだね」
「ここを調査して」
「そしてだね」
「若しその蛸がいたら」
「どうするか」
「うん、写真に撮って詳しくね」
先生は皆にさらに言いました。
「報告するよ」
「実際にその蛸がいるって」
「そうするんだね」
「それじゃあね」
「今からね」
「皆で調べよう」
「この海辺をね」
見れば岩がとても多い海辺です、如何にも蛸がいそうな場所です。皆は先生を中心としてそのうえで、でした。
その場所を調べました、暫くはこれといって気になる生きものはいませんでした。ですが先生がでした。
周りにいる皆にこう言いました。
「いたよ」
「いたの」
「その蛸が」
「本当にいたの」
「この場所に」
「うん、いたよ」
実際にというのです。
「こっちに来て見てみて」
「うん、わかったよ」
「その蛸をね」
「そうするわ」
「今からね」
「是非ね」
こう言ってでした。
皆は先生のところに集まりました、そして先生が指差した先を観ますと。
そこに不思議な蛸がいました、何とです。
全身黄色と青のストライブ模様です、赤いものは何処にもありません。皆その不思議な蛸を見てでした。
目を丸くしてです、こう言いました。
「何この蛸」
「見たこともないよ」
「あの、黄色と青って」
「赤くないし」
「こんな蛸いるの」
「日本に」
「うん、これはヒョウモンダコだよ」
先生は皆にその蛸の名前を言いました。
「これはね」
「ヒョウモンダコっていうんだ」
「そんな蛸もいるんだ」
「赤くない蛸が」
「そしてこんな模様の蛸が」
「うん、そしてね」
先生は皆にです、その蛸を持っているカメラで撮影しました。それも何度も。
水中カメラも出して撮影します、そしてです。
周りもしきりに撮影して言いました。
「写真、画像の証拠はね」
「今ね」
「物凄く撮ったね」
「日時も入れたり」
「完璧な証拠ね」
「そしてこの蛸だけれど」
先生はさらに言いました。
「墨を吐かずに毒を持っているんだ」
「毒をなんだ」
「じゃあ毒の息を吐くとか?」
「墨じゃなくて」
「いや、噛んでね」
そうしてというのです。
「そしてなんだ」
「毒を相手の身体に入れるのね」
「噛んだ相手の」
「そうしてくるんだ」
「だから迂闊に近寄ったらね」
そうしたらというのです。
「危ないんだ、河豚と同じ毒も持っているから」
「えっ、河豚って」
「猛毒じゃない」
「あたったら死ぬ様な」
「物凄い毒だよ」
「その毒もあるから」
だからだというのです。
「凄くね」
「危険なんだね」
「あの蛸は」
「物凄い猛毒で噛んでくるから」
「それで」
「しかしね」
皆はその蛸、ずっとその場にいてじっとしているそれを見て言いました。
「これまで散々探したけれどね」
「もう随分とね」
「それで伊勢の色々な生きものを見て」
「蛸だって一杯見てきたのに」
「これまでずっと見付からなかったって」
「どうしてかしら」
「実はあの蛸は珍しい蛸なんだ」
先生はいぶかしむ皆にお話しました。
「個体数が非常に少ないんだ」
「ああ、そうなんだ」
「数が少ない蛸なの」
「物凄く」
「そう、だから伊勢でもね」
この地域でもというのです。
「そうそうね」
「僕達も見なかったんだ」
「本当に色々な場所を隈なく調査したけれど」
「それでもなんだ」
「見付からなかったんだ」
「以前浜松でも目撃されたけれど」
それでもというのです。
「個体数はね」
「非常に少なくて」
「今僕達が発見したことも」
「かなり凄いことなんだ」
「うん、よくね」
本当にというのです。
「発見出来たよ」
「そこまでなんだ」
「そこまでのものなんだ」
「それでその蛸がいたから」
「だからなんだ」
「これまで僕達も発見出来なかったんだ、けれどね」
それでもとです、先生は皆に言いました。
「いることがはっきりしたから」
「それでどうするか」
「問題はそれからだね」
「ヒョウモンダコがいるなら」
「それならだね」
「どうするかが大事でね」
それでというのです。
「これまでも言ってきたけれど」
「怖がることはない」
「そうよね」
「ヒョウモンダコのことをよく知って」
「どうするかね」
「そうだよ、では写真は撮れるだけ撮ったし」
それでというのです。
「まずは県庁の方に連絡をしてね」
「いるって」
「それでだね」
「それからよね」
「明日も調査の予定が入っていたけれど」
それでもというのです。
「明日は県庁に行こう」
「そしてだね」
「今回のことを報告して」
「対策もお話するね」
「そうするよ、怖がることはないよ」
先生はヒョウモンダコについてまたこのことを言いました。
「注意すればいいんだ」
「どういった蛸か知って」
「それでだよね」
「そのうえでどうするか」
「問題はそこね」
「そう、だからね」
先生は皆に穏やかな声でお話しました。
「まずは皆に知ってもらおう」
「ヒョウモンダコのことを」
「そうしてもらうことだね」
「まず大事なことは」
「それからだね」
「そう、ここはね」
先生はいつもの穏やかな声で言ってでした。
引き続き海の調査をしてそれが終わってからホテルに帰りました、今夜は鯛のお造りがメインでしたが。
その鯛を見てです、先生は言いました。
「今夜も凄いね」
「そうだよね」
「最近毎日お刺身食べてるけれどね」
「不思議と飽きないよね」
「色々な魚介酢類のお刺身食べてるから」
「他のお料理も一杯あるし」
このこともあってとです、皆も言います。
「だからだね」
「全然飽きないね」
「そうだよね」
「じゃあ一緒に食べよう」
「今夜もね」
「そうしようね」
「お酒も飲んでね、日本酒もね」
先生は徳利にあるそれも見ました。
「いいよね」
「もう先生すっかり日本酒に馴染んでるね」
「そうなったわね」
「イギリスにいた時は飲んでなかったけれど」
「今はね」
「そうなったよ、エールやウイスキーもいいけれど」
それでもというのです。
「この日本酒もね」
「いいんだね」
「お刺身にも合っていて」
「それで」
「凄くいいよ、じゃあ食べようね」
先生が言ってでした、皆は鯛のお造りを中心とした今夜のご馳走を食べはじめました。その中で、でした。
先生はお酒を飲みつつこんなことを言いました。
「ヒョウモンダコの毒はテトロドキシンなんだ」
「それだよね」
「それって河豚の毒だね」
「あの蛸は河豚と同じ毒だね」
「それを持ってるんだね」
「そうなんだ、その河豚もね」
このお魚のお話をするのでした。
「美味しいよね」
「物凄くね」
「毒はあるけれど」
「それで今の季節は旬じゃないけれど」
「河豚も美味しいよね」
「そうだよね」
「うん、お刺身にしてもいいし」
今は鯛のお刺身を食べつつ言います。
「唐揚げにしてもいいしね」
「あとお鍋にしてもね」
「白子もいいよね」
「皮だってね」
「種類によって食べていい場所と悪い場所があるけれど」
毒のある部分は食べられません。
「本当に美味しいね」
「だからまた食べようね」
「河豚もね」
「そうしようね」
「秋か冬にね」
「そうしようね」
先生も笑顔で応えます。
「あのお魚も好きだからね」
「しかしあの蛸がその河豚と同じ毒を持ってるなんて」
こう言ったのはガブガブでした。
「思わなかった」
「そうだよね、河豚には毒があってもね」
ダブダブも言います。
「まさかあの蛸にもなんてね」
「というか毒のある蛸なんてね」
トートーはこのこと自体に言いました。
「普通考えないね」
「しかもあの模様だよ」
ホワイティはヒョウモンダコのその模様について言いました。
「普通いるとか思わないよ」
「海には色々な生きものがいるけれど」
「あんな蛸もいるなんてね」
チープサイドの家族もお話します。
「普通は思わないわ」
「そうだよね」
「先生は最初から知っていたみたいだけれど」
そうした蛸もいることはとです、ジップは指摘しました。
「普通の人はまず思わないね」
「図鑑にも載っていないんじゃないかしら」
ポリネシアは少し機微を傾げさせて言いました。
「流石に」
「図鑑といっても限りがあるしね」
「載っている生きものについては」
オシツオサレツは今も二つの頭で言いました。
「海の生きものの図鑑でも」
「あの蛸はどうかな」
「マダコやミズダコなら載ってるけれど」
老馬は具体的な蛸の名前を出しました。
「あの蛸はね」
「数もかなり少ないっていうし」
チーチーは個体数のお話をしました。
「それだとね」
「僕達も実際にかなり巡ってやっとという感じだったね」
先生もこう言いました。
「そうだったね」
「うん、本当にね」
「やっとという感じだったよ」
「伊勢の海をかなり探したけれど」
「他の生きものや水質の調査をしたけれど」
「それでもね」
「やっとだったね」
皆もこう言います。
「そう思うとね」
「数もかなり少ない蛸で」
「姿を見るだけでもかなり稀」
「そんな蛸だね」
「そうだよ、僕も日本で見たのははじめてだよ」
先生にしてもというのです。
「実際にね」
「先生これまで海も色々見てきたけれどね」
「沖縄でもそうだったしね」
「神戸の海もでね」
「それでもだね」
「そして目撃の報告もね」
他の人達のそれもというのです。
「実はあったらニュースになる」
「そこまでのものだね」
「ヒョウモンダコっていう蛸は」
「そこまで珍しい蛸で」
「そんなに見られないのね」
「むしろ見た人がいたら」
それならというのです。
「かえって運がいいかもね」
「そこまでなんだ」
「かえって運がいいんだ」
「毒がある蛸でも」
「それでもなんだ」
「そこまで珍しいよ、僕達にしてもね」
先生にしてもというのです。
「もういないのかもって思っていたね」
「そうだったね」
「もうとか思っていたね」
「実際にね」
「そうもね」
「いや、そんな蛸だから」
だからだというのです。
「本当に見付けられてよかったよ」
「稀少な生きものを目に出来て」
「そして安全をどうするか」
「そうしたことも考えられるから」
「だからだね」
「いるかいないかわからないと」
その場合はというのです。
「不安になるね」
「いたらどうしよう」
「そう思ってね」
「いなかったらいいとも思うけれど」
「やっぱり不安になるよ」
「だからね」
それでというのです。
「不安になるよ、だからね」
「それでだね」
「今回はヒョウモンダコが実際にいたから」
「それでどうするか」
「具体的なお話になるか」
「いいよ、じゃあ明日はね」
是非にと言うのでした。
「県庁に行こうね」
「津市だよね」
「三重県の県庁はそこにあったね」
「そうだったね」
「そうだよ、三重県の県庁は津市にあるんだ」
先生もこう答えます。
「日本では県庁はその県と同じ名前の都市の場合が多いけれどね」
「奈良家だと奈良市でね」
「大阪府だと大阪市で」
「そうして一緒の場合が多いけれど」
「三重県は違うわね」
「そうした場合もあるんだ」
県の名前と県庁がある街の名前が違う場合があるというのです。
「そこは覚えておこうね」
「そうだよね」
「絶対に一緒とは限らないわね」
「県によって違う」
「三重県もそうだね」
「そうだよ、それで津市はこの伊勢と離れているから」
このこともです、先生は皆にお話しました。
「明日は電車か車でね」
「あちらまで行くね」
「その津市まで」
「そうするのね」
「そうしようね」
先生は皆にお酒を飲みながらお話しました。
「明日は」
「うん、じゃあね」
「明日はそうしよう」
「皆で行ってね」
「そしてお仕事をしよう」
「そうしようね」
先生は皆にお話してまたお酒を飲みました、そうしてです。
野菜と生麩を煮たものを食べてこんなことを言いました。
「このお野菜もいいし生麩もね」
「いいよね」
「生麩もね」
「これも美味しいね」
「そうよね」
「うん、かなり美味しくて」
それでというのです。
「あるとそれだけで美味しくなるね」
「このもちもちした食感がいいんだよね」
「お餅に似てるけれどお餅とはまた違う」
「この食管がよくて」
「それで食べられるね」
「お吸いものにも合うし」
今はお味噌汁ですがそちらにも合うというのです。
「本当にいい食べものだよ」
「上品な感じもするし」
「そちらも食べましょう」
「皆でね」
「うん、海を見て」
見れば海は次第にでした。
夕暮れから夜の闇に入ろうとしています、それまで赤かったのが急激に黒くなっていきます。先生はその海も見ています。
「楽しもうね」
「こんな優雅な楽しみもあるんだね」
「お刺身や色々な和食を食べてね」
「お酒も飲んで」
「そうしながら海を見る」
「優雅だよね」
「優雅でね」
それに加えてというのです。
「風流だね」
「そっちもあるんだ」
「日本や中国にある言葉だね」
「僕達は風流も楽しんでいるんだね」
「今はそうしてるのね」
「そうだよ、この風流もね」
これもというのです。
「素敵だね」
「本当にね」
「じゃあその風流も楽しみましょう」
「海を見ながら」
「皆でそうしようね」
「是非ね。昔の人だと」
日本のというのです。
「ここで和歌や俳句も詠んでいたよ」
「うわ、それはいいね」
「ここで和歌や俳句を詠むとか」
「まさに歌人」
「優雅や風流にいる人よ」
「これはお公家さんだけじゃなくてね」
詠む人はというのです。
「お侍さんやお坊さん、神主さんも。そして字を書くことが出来たら」
「普通の人も?」
「お百姓さんや町人の人達もなの」
「詠んでいたの」
「そうだったんだ、万葉集には防人の人の作品もあるよ」
そうした人のものもというのです。
「だからね」
「普通の人も詠んでいたんだね」
「身分のある人達だけじゃなかった」
「和歌や俳句を詠む人は」
「日本ではそうだったんだ」
「戦前でも軍人さんがよく詠んでいたしね」
この人達もというのです。
「和歌をね」
「そう言えば辞世の句ってあるわね」
「そうそう、日本にはね」
「それもあるね」
「切腹の前とか詠むね」
「忠臣蔵でもそうしていたよ」
「武士の嗜みの一つだったんだ」
和歌はというのです。
「そうだったんだ」
「成程ね」
「そこまで皆が詠んでいたんだ」
「和歌、それに俳句は」
「今も川柳とかあるし」
「詠まれているわね」
「僕も詠んだことがあるけれど」
かつて学園でそうしたことも思い出します。
「いいものだね」
「そうよね」
「ただいつも出るかっていうと」
「先生もそこまでじゃないね」
「いつもは詠えないわね」
「いつも詠えるのは」
その和歌や俳句をです。
「もう日本語をかなり身に着けていないとね」
「詠えないね」
「そうはね」
「先生も日本に来て長くて」
「国籍も日本になって」
「普段は日本語を喋る様になったけれど」
「そして頭の中で考える言語もね」
これもというのです。
「日本語になったけれどね」
「日本に来て暫くは英語だったね」
「先生色々な言語を使えるけれど」
「頭の中の言語は英語だったね」
「それもキングスイングリッシュだったね」
「そうだったけれど」
それがというのです。
「今はね」
「日本語になったね」
「本当に日本語に馴染んだね」
「頭の中の言葉までそうなる位に」
「喋る調子も自然だし」
「そうなったけれど」
それでもというのです。
「まだね」
「和歌や俳句をいつも詠める様になるには」
「まだなんだ」
「先生でもそこまでじゃない」
「そうなのね」
「そうなるには」
本当にというのです。
「まだまだだよ」
「まだまだ先で」
「それでだね」
「まだ学ぶ必要があるのね」
「先生も」
「日本語をね、学ぶんじゃなくて馴染むことだね」
こちらだというのです。
「むしろね」
「馴染むんだ」
「学ぶんじゃなくて」
「今よりも馴染む」
「そうなるんだ」
「そうだと思うよ、そしてね」
先生はお酒を飲みいよいよ夜の闇の中に入ろうとしている海を見つつお話しました。
「僕は何時かね」
「自然とだね」
「和歌を詠える様になるのね」
「俳句も」
「そうなりたいんだね」
「そう思っているよ、ちなみに新選組の芹沢鴨さんも和歌を詠んでいたよ」
この人もというのです。
「それが残っているんだ」
「ああ、あの初代局長の」
「あの人だね」
「何か酒乱で乱暴者で」
「とんでもない人だったっていうけれど」
「それがどうも確かに酒乱の気はあったけれど」
先生は皆に芹沢鴨という人についてもお話しました。
「器が大きくて親分肌で気さくなところもあってね」
「へえ、そうだったんだ」
「只の乱暴者じゃなかったんだ」
「ドラマとかじゃそうした人なのに」
「実際のところは」
「人望があったんだ、しかも腕が立って度胸も凄くてね」
こうした要素も備わっていたというのです。
「和歌を詠んだことからわかるけれどそれなりの教養もあったから」
「人の上に立つのに相応しい?」
「そうした人だったんだ」
「近藤勇さんと同じで」
「新選組の局長に相応しい人だったんだ」
「だから当時新選組はこの人の派閥が主流で」
それでというのです。
「近藤さん達は少数派だったんだ」
「近藤さん達が正しい様に描かれているけれど」
「その実はだったんだ」
「芹沢さんに人望があって」
「多くの人がついていっていたんだ」
「うん、ただこの人は勤皇派でね」
そちらの人だったというのです。
「その気持ちが凄く強くて」
「あっ、新選組って幕府だから」
「幕府の京都の警察だったし」
「要するに」
「そうした人が新選組のトップだとね」
勤皇の考えが強い人がです。
「幕府としても困るよね」
「そうだよね」
「しかも人望がある」
「そんな人が幕府の警察のトップだと」
「何時勤皇派につくかわからないよ」
「しかも大勢の人を引き連れて」
「だから闇討ちに遭ってね」
そうしてというのです。
「ああなったみたいだよ」
「そうだったんだ」
「日頃の行いがあまりにも悪くてああなったんじゃないんだ」
「何時勤皇派につくかわからない」
「そうした人だったから」
「幕府もっと言えば新選組を預かっている会津藩がね」
この藩がというのです。
「近藤さん達に言ったそうだよ」
「ううん、実はそうだったんだ」
「芹沢さんも和歌詠んだんだ」
「そこまでの教養ある人だったの」
「実は歴史ってね」
これはといいますと。
「真実でないことが真実であることも多いんだ」
「そうなのね」
「真実だと思っていたら」
「それが違っていて」
「実は、っていうことが多い」
「そうなのね」
「だから新選組もよく調べたら」
そうしたらというのです。
「最近まで言われていたこととね」
「真実は違って」
「実はなのね」
「芹沢鴨さんもそうした人だったの」
「確かに酒乱の気はあったけれど」
それでもとです、皆も言いました。
「器が大きくって親分肌で教養もあった」
「そんな人だったのね」
「実際の芹沢さんは」
「その器の大きさを示すエピソードもあるよ」
芹沢鴨という人にはというのです。
「剽軽なところもあったりお葬式で暇そうにしている子供達に落書きを書いて遊んであげたりね」
「単に粗暴なだけでそういうのないね」
「じゃあやっぱり器が大きかったんだ」
「そうした一面もあって」
「多くの人がついてきたんだ」
「そうだよ、調べてみたら面白い人だよ」
こうも言う先生でした。
「新選組のドラマとかでは悪役だけれど」
「実際に悪役かっていうと」
「そうとも言い切れない」
「そうした人なのね」
「そうみたいだね、そしてその新選組はね」
この人達自体のお話もしました。
「鳥羽の戦いでは負けているよ」
「京都から移って」
「それで戦って」
「負けたんだったね」
「それで関東の方に落ち延びていったね」
「そうだったんだ」
先生は皆に鳥羽の方を指差してお話しました。
「これも歴史だね」
「新選組は三重県とも関係あったとかね」
「歴史も面白いね」
「そういうこともあったのね」
「そうなんだ、歴史も凄く面白いよ」
先生は皆にそうしたお話もしました、そして明日津市の県庁に行くこともお話しました。また一つお話が動こうとしていました。