『ドリトル先生と牛女』
第三幕 赤い車に乗って
トミーと王子は先生にお家で六甲に行くことになったことをお家の居間で聞くとすぐに二人共目を丸くさせました。
「口裂け女に誘われてですか」
「それでなんだ」
「今度六甲に行かれるんですか」
「そうなったんだね」
「うん、それで今度の日曜日にね」
先生は皆にお話しました。
「行くんだ」
「凄いね、牛女と会うなんて」
王子は驚いたまま言いました。
「いるとは聞いていたけれどね」
「六甲にだね」
「本当にいてね」
そしてというのです。
「会いに行くなんて」
「うん、ただね」
「ただ?」
「どうして牛女に会って欲しいか」
「口裂け女が言ってきたか」
「今はそのことが気になるね」
「病気じゃないですか?」
トミーはこう先生に言いました。
「それで、です」
「診て欲しいんだね」
「そうじゃないですか?」
「それでなんだね」
「先生はお医者さんですからね」
だからだというのです。
「僕はそう思いましたけれど」
「やっぱりそうかな」
「はい、ただ」
「ただ?」
「牛女ってどんな身体の構造なのか」
「そのこともだね」
「ふと考えました」
こう先生にお話しました。
「僕は」
「そうだね、頭が牛で身体が人間だとね」
「どんな身体になるんでしょうか」
「ギリシア神話のミノタウロスと同じだよね」
王子も言ってきました。
「牛女って」
「うん、そうだね」
「日本の妖怪の件が頭が人で身体は牛で」
「それでだね」
「そうなっているけれど」
「僕が思うにね」
先生は王子に自分の考えをお話しました。
「頭は牛でもそれ以外はね」
「人間のものだね」
「頭蓋骨以外の骨格や内臓はね」
「そうなんだね」
「ミノタウロスもお肉食べていたね」
「人間のね」
「あれは歯は何故かライオンのもので」
牛の頭でもです。
「そのせいだったみたいだけれど」
「それで肉食だったんだね」
「牛の頭でもね」
牛は草食です、言うまでもなく。
「そうだったんだ」
「そうだよね」
「そしてね」
それでというのです。
「牛女は人を襲うって話はないし」
「何かトラックに体当たりするとか」
「あれは噂でね」
トミーにすぐに返しました。
「実はとても穏やかな性格らしいから」
「そうしたこともしないですか」
「人も襲わないしね」
それでというのです。
「お肉は食べるかも知れないけれど」
「人は襲ったりしないですね」
「そうみたいだよ」
こう言うのでした。
「あの人は」
「そうですね」
「だからね」
それでというのです。
「人の身体でね」
「それで、ですか」
「別にね」
これといってというのです。
「僕が言っても襲われないし」
「牛女の身体もですね」
「別にね」
「人間のものとですね」
「頭以外は変わらないと思うよ」
「そうですか」
「牛は胃が四つあるけれど」
牛の身体の特徴の一つです。
「それでもね」
「牛女の胃は一つですね」
「そうだと思うよ」
「何か妖怪の身体って」
王子は腕を組み考えるお顔になって言いました。
「考えてみると色々あるね」
「僕もそう思うよ」
「そうだよね」
「その妖怪の身体についてね」
先生は王子に答えてお話しました。
「水木しげる先生が本で書いているよ」
「ああ、あの妖怪漫画の人だね」
「そう、あの人はね」
「妖怪の専門家みたいな人だったね」
「もう妖怪のことなら何でもだけれど」
それでもというのです。
「そうしたこともなんだ」
「妖怪の身体のことも知っていたんだ」
「どうも研究して考証して」
そうしてというのです。
「わかっていたみたいだよ」
「そんなことまでなんだ」
「何処に住んでいてどうした暮らしをしているか」
「それぞれの妖怪のかな」
「そうだよ、本当にね」
実際にというのです。
「あの人は妖怪のことについては誰よりもね」
「知っている人だったんだね」
「そして妖怪を愛していた」
そうしたというのです。
「凄い人だったんだよ」
「まさに妖怪博士だね」
「そうだね、今はね」
先生は王子のお話を聞いて言いました。
「そうなっていてね」
「妖怪達と一緒にいるかな」
「そうかも知れないね」
こう言うのでした。
「あの人は」
「人間から妖怪になったんだね」
「大好きなね」
「あの人の作品は僕も読んで観てますけれど」
トミーも言ってきました。
「妖怪がどれだけ魅力的か」
「そのことを描いているよね」
「そして心から妖怪を愛している」
「そのことがわかるね」
「はい」
本当にというのです。
「あの人の作品を読んで観ていますと」
「あそこまで妖怪を知っていて愛した人はいなくて」
「妖怪のことに詳しくて」
「そんな人だから」
「今はですね」
「妖怪になっていて」
そうしてというのです。
「妖怪博士にね」
「なっているかも知れないですね」
「そう思うよ、僕も」
「というかね」
王子はしみじみとした口調で言いました。
「妖怪の身体の構造も感が手見ると面白いね」
「そうだよね」
「牛女についても」
「そうだね、あと僕が思うに件はね」
この妖怪はといいますと。
「胃は四つあるよ」
「牛の身体だからだね」
「生まれてすぐに死ぬけれどね」
「予言をしてだね」
「うん、予言をしなかったら死なないと思うけれど」
それでもというのです。
「その身体についてはね」
「牛の身体だからだね」
「そうだと考えているよ」
「成程ね」
「色々考えていくと」
妖怪のこともというのです。
「面白いよね」
「そうだね」
「これも学問だしね」
「日本だと民俗学になるね」
「うん、そちらの学問だよ」
妖怪のことはというのです。
「都市伝説にしてもね」
「そうだよね」
「だから水木先生はこちらの大家でもあったんだ」
民俗学のというのです。
「普通の民族学者よりもだったんだ」
「妖怪のことに詳しかったんだ」
「そうだったんだ」
「そういえば」
トミーが気付いたお顔になって言いました。
「民俗学は柳田邦男からでしたね」
「そう、あの人からはじまってね」
「確立されましたね」
「民俗学はあの人がはじめて」
そうしてというのです。
「確立したね」
「そうした学問ですね」
「そしてその人からね」
柳田邦男からというのです。
「妖怪のことを書いていたんだ」
「そうでしたね」
「遠野のこととかね」
「東北でしたね」
「あちらの河童や座敷童のことも書いたし」
「それで、でしたね」
「あの人が妖怪のことを学問に取り上げたから」
それでというのです。
「民俗学ではね」
「妖怪も扱いますね」
「そうなんだ」
「それで今もですね」
「民俗学では妖怪のことを扱うし」
「水木先生もですね」
「妖怪のことでね」
まさにこの存在のことでというのです。
「大家の中の大家とね」
「言ってよかったですね」
「それに日本の妖怪の歴史は古くて」
先生はさらにお話しました。
「奈良時代にはね」
「鬼がいましたね」
「神話では八岐大蛇がいたしね」
「それで、ですね」
「日本の妖怪の歴史は古いんだ」
「そうですね」
「そういえばね」
ここでトートーが言ってきました。
「鬼は日本の妖怪の代表の一つだね」
「鬼に天狗に河童にね」
ダブダブも言います。
「変化ね」
「日本は幽霊のお話も多いけれど」
ポリネシアは幽霊のこともお話に出して言います。
「鬼も多いわね」
「特に京都とかね」
「鬼のお話が多いわよ」
チープサイドの家族はかつて自分達が言ったその場所のお話をしました。
「酒呑童子とかね」
「色々あるよね」
「鬼の話って確かに多いね」
ホワイティもそうだと言います。
「日本にはね」
「何か西洋人みたいな姿で」
こう言ったのはチーチーでした。
「金棒持ってるね」
「角生やして虎柄の腰巻き姿で」
老馬も鬼の姿のお話をします。
「毛深くて身体が大きいね」
「童話にもよく出て来るし」
ガブガブは日本の童話のお話を思い出して言います。
「日本の妖怪の代表だね」
「地獄にもいるし」
ジップは日本のそちらを思い出しました。
「本当に鬼はあちこちに出るね」
「山にいるね、鬼は」
「そこから人里にも来るね」
オシツオサレツは鬼の棲み処を指摘しました。
「日本の妖怪は山にいる種類が多いけれど」
「鬼もそうだね」
「そう、鬼は日本の妖怪の代表の一つでね」
先生もそうだと言います、今も一緒にいる動物の皆に。
「童話でもよく出て来て山にね」
「いるよね」
「それで西洋人みたいな姿でね」
「狂暴で強いね」
「人も襲うし」
「日本では強い、怖いというと鬼でね」
それでというのです。
「その姿は実際に漂流してきた白人の人をモデルにしているという説もあるよ」
「実際にそうだよね」
「先生前にそのことをお話してくれたけれど」
「実際にだね」
「鬼は漂流した人かも知れないんだね」
「そうだよ、そして鬼のこともね」
この妖怪のこともというのです。
「日本の民俗学の中にあるんだ」
「妖怪だからだね」
「それでよね」
「鬼も民俗学の中にあって」
「学問としても学べるんだね」
「そうなんだ、勿論天狗や河童もだよ」
彼等もというのです。
「民俗学で学べるよ」
「それじゃあ牛女もだね」
王子は先生が今度会うというその妖怪のお話をしました。
「そうなるよね」
「勿論だよ」
「やっぱりそうだね」
「僕は件の親戚だと思っているよ」
牛女はそうだというのです。
「逆にしてもね」
「まあそうだろうね」
「牛から生まれたと思うし」
「それで予言するのかな」
「多分ね、ただね」
「ただ?」
「件は予言をしたら死ぬし」
それにというのです。
「牛女もね」
「予言をしたらだね」
「死ぬんじゃないかな」
「そうなんだね」
「うん、そう考えているよ」
実際にというのです。
「僕はね」
「そうなんだね」
「それが一度かどうかはわからないけれどね」
「そういえば戦争中日本の有料者の人のお家に匿われていましたね」
「順番みたいにね」
「じゃあ予言をしていたんですね」
「その力があると思われていただけかも知れないけれど」
それでもというのです。
「予言と関係があることはね」
「事実だね」
「そうだと思うよ」
こう王子にお話しました。
「僕はね」
「そうなんだね」
「まあ僕はね」
先生は少し考えるお顔になって言いました。
「予言は好きじゃないところがあるんだ」
「そうなんだね」
「悪い予言なら避けていい予言ならそうなる様にする」
「それはいいんだね」
「けれど予言に縛られて」
そうしてというのです。
「怖がったり惑わされることはね」
「駄目なんだね」
「そう思うからね」
だからだというのです。
「予言についてはね」
「好きじゃないとことがだね」
「あるんだ」
そうだというのです。
「僕はね」
「そうなんだね」
「日本には予言の漫画もあるね」
「あるね、ノストラダムスとか」
「ああした漫画、本であるけれど」
「日本で物凄く売れたね」
予言の本がです。
「予言の本も」
「人類が滅亡するとかね」
「そうした話に惑わされてね」
「それでだね」
「怖がったりするだけなら」
「予言はよくないんだね」
「そのノストラダムスの漫画ではそれこそ箸が転がっても人類滅亡だったけれど」
その様に言っていたけれどというのです。
「人類は今も存在しているね」
「確か一九九九年?」
「七月にだったね」
「人類は滅亡する」
「そうした予言だったね」
「けれど今も存在しているし」
人類はとです、先生は動物の皆にもお話します。
「そもそも宇宙人とか地震とか戦争とかね」
「色々あったね、滅亡の理由」
「一体どれで滅亡するかわからない位に」
「もう数えきれないだけ言ってたけれど」
「果たしてどれで人類滅亡するのか」
「あと三百人委員会とかあったかしら」
「ああしたお話はギャグと思って」
そうしてというのです。
「読んでいかないとね」
「駄目なんだ」
「そうしていかないと」
「そうなのね」
「予言はあくまで道しるべだよ」
それだというのです。
「事前に何があるかを知ったら」
「いいことならそうなる様にして」
「悪いことならならない様にする」
「それが避けられないと考えず」
「そうしてだね」
「やっていくものでね」
それでというのです。
「だからだよ」
「予言に惑わされない」
「心を囚われない」
「そのことが大事なんだ」
「予言については」
「そうだよ、地震が起こるなら」
それならというのです。
「被害をね」
「最低限にする」
「それが大事だね」
「避難をしたりして」
「そうするべきなのね」
「だからね」
それでというのです。
「予言に心を支配されて」
「それでだね」
「人類は滅亡するとか言って」
「それで絶望したりしたらよくない」
「そういうことね」
「核戦争が起こってね」
先生は人類が滅亡するそのパターンの一つのお話をしました。
「それでその後にとんでもない世界になるとかね」
「ああ、モヒカンの人達がバイクに乗って暴れ回ってて」
「国家も法律もない世界ね」
「それで拳法の伝承者が歩き回る」
「そうした世界ね」
「そうした世界になるっていう予言もね」
これもというのです。
「核戦争が第三次世界大戦でね」
「第三次世界大戦も予言であったね」
「予言の定番の一つだったわ」
「もうどれだけの本で出て来たか」
「わからない位ね」
「そうした予言もね」
これもというのです。
「あったらどう避けるかが問題で」
「起こるからどうしようもない」
「そう思わないことだね」
「予言については」
「悪いものならそうならない様に努力することだね」
「僕はそう思うよ」
こう皆にお話しました。
「予言については」
「じゃああれですね」
トミーが言ってきました。
「さっきお話に出た漫画ですが」
「箸が転がっても人類滅亡って言う漫画だね」
「眼鏡かけた編集者の人がよく叫ぶ漫画ですね」
「見開きで言うことが多かったね」
「ああした漫画を読んでもですね」
「どうして避けるかを考えるべきでね」
それでというのです。
「絶望しないことだよ」
「それが予言に対する行動ですね」
「というかあの漫画お話の都度人類滅亡の経緯が違うね」
「戦争とか災害とか」
「それにストーリーもキャラクターも荒唐無稽だね」
「あんな何もかもが荒唐無稽な漫画ってないね」
王子も言います。
「実際に」
「そうだよね」
「あの主人公も周りの人達も実在していたら」
「どうなるかな」
「確実に精神病院に入院させられているよ」
先生は精神科医でもあります、その立場から言いました。
「僕は読んでいてこの人達はね」
「精神病患者とだね」
「確信したしね」
「まあそうだよね」
「ああした発言を常にドラッグをしていないで行っていたら」
「それこそだね」
「確実におかしいからね」
そうとしか思えないからだというのです。
「僕としてはね」
「あの人達が実在したら」
「精神病院に入ってもらって」
そうしてというのです。
「治療を受けてもらうよ」
「そうするんだね」
「作中であれだけ異常な発言を異常なテンションで言い続けているから」
だからだというのです。
「僕はね」
「そうするんだね」
「診断を受けさせてもらうにしても」
それでもというのです。
「ぱっと見ただけでね」
「あの人達がおかしいことはわかるんだね」
「本当にね」
実際にというのです。
「あの人達は」
「というかもう何があっても人類滅亡とか言うと」
トミーも言います。
「正気を疑われますね」
「そうだね」
「発言の内容もその前後から見ても」
「異常だね」
「それもテンションが高くて」
「だから僕は確信しているよ」
「あの作品のキャラクター達は実在していたら」
その場合はというのです。
「確実にですね」
「狂気の域に陥っているとね」
「断言されますね」
「電波という言葉があるけれど」
先生は日本で使われているこの言葉も出しました。
「まさにね」
「あの人達は、ですね」
「それを受信しているどころか」
それで済まないで、というのです。
「自分達でね」
「出していますか」
「その域だよ」
「そうですよね」
「日本には数多くの漫画があるけれど」
本当に数えきれないだけあります。
「その中でも屈指の狂気に満ちた漫画だよ」
「屈指ですか」
「うん、小説やアニメやゲームでも」
他の創作のジャンルでもというのです。
「あの漫画程狂気に満ちた作品はないよ」
「そうでしょうね」
「うん、特に主人公は」
このキャラクターはといいますと。
「絶対に精神病院に入ってもらって」
「治療を受ける必要がありますね」
「極めて深刻な状況にしか思えないから」
だからだというのです。
「本当にね」
「描いていた人達はどう思ってたんでしょうか」
「作品を創る中で」
「一体」
「わからないね、本当に正気とはね」
「思えない作品なので」
「だからね」
それでというのです。
「僕としてもね」
「わからないんですね」
「原作の人も作画の人も」
「他の携わった人達も」
「わからないよ」
本当にというのです。
「正気かどうかね」
「何があっても人類滅亡とかね」
「考えてみれば凄いね」
「そんな作品読んでるとね」
「それで心が支配されたら」
「よくないね」
「だから予言もね」
これ自体もというのです。
「どうするかでね」
「囚われない」
「それが大事なのね」
「いい予言なら実現する」
「悪い予言なら避ける」
「そう努力することだね」
「そう思うよ、僕はね」
先生は動物の皆にお話しました、そしてです。
日曜日朝ご飯を食べるとチャイムが鳴りました、すると。
玄関に口裂け女がいて赤い乗用車が停まっていました、するとです。動物の皆はその車を見て言いました。
「うん、口裂け女の車だね」
「はい、そうですよ」
口裂け女は先生ににこりと笑って答えました。
「言われていますよね」
「実際になんだね」
「口裂け女って赤い車に乗ってるんだ」
「そうしているんだ」
先生と一緒にいる動物の皆も応えました。
「こうしてね」
「そうなんだね」
「成程ね」
「じゃあ三人姉妹なのかしら」
「そのことも」
「学園にいるのは私一人よ」
口裂け女は動物達に笑って答えました。
「それで基本学園から出ないけれど」
「それでもなんだ」
「こうして出る時もあるんだ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
それでというのです。
「今もここにいるのよ」
「それじゃあね」
「今からだね」
「先生を六甲まで送ってくれるのね」
「そうしてくれるのね」
「あんた達も送るわよ」
口裂け女は動物の皆ににこりと笑って答えました。
「そうするわよ」
「けれどその車だと」
「僕達皆入れないよ」
「ちょっとね」
「どうにもね」
「じゃあ僕が皆を連れて行くから」
ここで王子が名乗りました。
「口裂け女さんの車についていってね」
「じゃあ僕も一緒にかな」
トミーも言ってきました。
「今回は」
「ええ、皆来てね」
是非にとです、口裂け女は笑顔で言いました。
「牛女さんも喜んでくれるし」
「じゃあ」
「皆一緒に来てね」
こう言ってでした、そのうえで。
先生は皆と一緒に口裂け女の車に乗って六甲に向かいました、動物の皆は王子のキャンピングカーに乗ってトミーは先生と一緒に口裂け女の車に乗りました。キャンピングカーを運転するのは執事さんです。
皆はすぐに六甲のある場所に着きました、そこはです。
「六甲にこうした場所があるんだ」
「奇麗なお家だね」
「和風の」
「こうしたお家が六甲にあるんだ」
「そうなんだ」
「ええ、このお家が牛女さんのお家よ」
口裂け女は動物の皆にお話しました。
「ここがね」
「そうなんだね」
「牛女さんここに住んでるのね」
「六甲って聞いたけれど」
「ここなんだ」
「そうよ、学園に来ることもあるけれど」
それでもというのです。
「お家はここなのよ」
「ここで一人暮らし?」
「ひょっとして」
「そうなのかな」
「いえ、結構お嬢様でね」
口裂け女は皆にこうもお話しました。
「お付きの人が何人かいてね」
「一緒に暮らしてるんだ」
「このお家に」
「そうなんだね」
「そういえば」
老馬が気付いた様にして言いました。
「ずっと有力者のお家にいたんだったね」
「そこで匿われていたのよね」
ポリネシアも言います。
「転々として」
「それでなんだね」
今度はガブガブが言いました。
「お嬢様なんだね」
「大人しい性格っていうし」
ジップは伝え聞く牛女の性格のことを言いました。
「それじゃあだね」
「お嬢様なのね」
ダブダブははっきりと言いました。
「牛女さんは」
「それでこうしたお家に住んでるんだね」
「そうなのね」
チープサイドの家族は二階建てで結構な大きさのお家を見ています、見ますとお庭も結構な広さでよく整っています。
「お嬢様だから」
「それでだね」
「いや、本当にいいお家だよ」
トートーも言います。
「上品でね」
「風情もあるよ」
ホワイティはこのことを言いました。
「中々ね」
「しかも気候もいいね」
チーチーは涼しいものを感じました。
「ここは」
「冬は寒いだろうけれどね」
「それ以外は最適だね」
オシツオサレツは二つの頭で言います。
「まあ牛さんは寒さに強いし」
「冬も大丈夫かな」
「牛女さんは暑いのが苦手よ」
口裂け女も皆に言います。
「だから冬もね」
「寒い方がいいんだ」
「牛さんだから」
「そうなのね」
「そうなの、だからここにお家を持っていて」
そうしてというのです。
「静かに暮らしているの」
「そういうことだね。それじゃあ」
先生は口裂け女に言いました。
「これから」
「中に入って下さい」
「そうさせてもらいますね」
先生は口裂け女に礼儀正しく応えました、そうしてです。
お家の中に入りますとすぐに牛の頭をした大正時代の書生さんを思わせる格好の人が出て来ました。
その人は先生達を見るとすぐに尋ねてきました。
「ドリトル先生ですね」
「はい」
先生はその人にも礼儀正しく答えました。
「そうです」
「そうですか、よくぞおいで下さいました」
「はじめまして」
お互いに深々と挨拶します、そしてです。
その人は先生にこう言いました。
「僕はお嬢様の従者でして」
「そうですか」
「名前を潤一郎といいます」
「潤一郎さんですか」
「名前は。姓は件といいますと」
「といいますと」
「実は僕もこのお屋敷にいる人達も」
皆というのです。
「牛から生まれまして」
「牛の頭をお持ちなんですね」
「そうした妖怪でして」
それでというのです。
「それで件とは逆ですが」
「姓はですね」
「そうなっています」
「そうなのですね」
「お嬢様も同じ姓です」
「件というのですか」
「はい」
そうだというのです。
「お嬢様が決められました」
「姓のことは」
「そして名前もつけてくれました」
「では皆さんは」
「お嬢様は家族とです」
その様にというのです。
「言われています」
「左様ですか」
「はい、そして」
牛の青年さんはさらに言いました。
「これよりです」
「牛女さんにですね」
「お会いして下さい」
「それでは」
こうしてでした、先生達はお家の中に案内してもらいました。お家の中も非常に清潔で上品な和風の内装でした。
そのお家の中の居間に入るとでした、そこには。
振袖の桃色の地で赤の牡丹と白い雪の模様の着物にえんじ色の奇麗な帯をきた牛の頭の女の人がいました。女の人は正座していて先生に深々と頭を下げました。
そうしてです、先生にこう言いました。
「はじめまして、牛女といいます」
「貴女がですね」
「名前は件一葉といいます」
「よいお名前ですね」
「有り難うございます、実は」
牛女さんは先生に一呼吸置いてからお話しました。
「先生に診察して欲しいのですが」
「それで、ですか」
「お呼びしました」
「僕が医者だからですね」
「人も生きものも診られますね」
「はい、どちらも」
先生は牛女さんにその通りだと答えました。
「僕は」
「そして相手が誰でも分け隔てしない」
牛女さんはこのことも言いました。
「妖怪でも」
「誰もが命がありますので」
「公平なのですね」
「そうする様に心掛けています」
「そうした方なので」
「呼んで頂きましたか」
「はい、実はです」
牛女さんは先生にあらためて言いました。
「近頃歯が痛みまして」
「歯がですか」
「そちらを見て頂きたいのです」
「そうでしたか」
「お願い出来るでしょうか」
「喜んで」
先生は牛女さんに笑顔で応えました。
「そうさせて頂きます」
「そうですか。では」
「早速ですか」
「お口の中を見せて頂けるでしょうか」
「それでは」
こうしてでした、先生は。
牛女さんのお口の中を診察してそうして言いました。
「虫歯がありますね」
「そうですか」
「ですから」
それでというのです。
「歯もです」
「痛んでいるのですね」
「左の右の奥歯がです」
そこがというのです。
「結構酷いです」
「では」
「すぐに治療しましょう」
「抜かなくていいのですか」
「そこまではいっていません」
結構酷いにしてもというのです。
「ですから」
「治療してですか」
「痛まない様にしましょう」
「では」
「ただ。何度か手術が必要なので」
先生は牛女さんにこうも言いました。
「ですから」
「お家ではですか」
「難しいので」
「それなら」
ここで口裂け女が言ってきました。
「学園の敷地内にある病院で」
「八条病院ですね」
「あそこに入って」
そうしてというのです。
「治療しましょう」
「それでは」
牛女さんは口裂け女の言葉に応えました。
「先生がよければ」
「僕はそれで」
構わないとです、先生も答えました。
「病院の許可が出れば」
「それは大丈夫ですよ」
口裂け女は先生に明るく応えました。
「あの病院も学園の中にありますね」
「だから妖怪のことはですか」
「知っていまして」
それでというのです。
「理解もです」
「してくれていますか」
「ですから手術室を使うことも」
このこともというのです。
「出来るので」
「それで、ですね」
「はい」
まさにというのです。
「手術室も使えます」
「そうなんですね」
「ですから」
それでというのです。
「病院の方には私からお話しますので」
「それで、ですね」
「後はです」
「僕が病院に行って」
「手術をして下さい」
「それでは」
「その様に」
こうお話してでした。
手術のお話は決まりました、それが終わるとです。
皆は牛女さんに山海の珍味を出してもらって宴となりました、その中で王子はこんなことを言いました。
「妖怪も虫歯になるんだね」
「はい、死ぬことはないですが」
牛女さんは猪の味噌漬けを焼いたものを食べる王子に言いました。
「それでもです」
「虫歯になったりするんだ」
「怪我もしますし」
それにというのです。
「病気にもです」
「なるんだね」
「胃潰瘍にも」
「胃潰瘍にもなるんだ」
「はい、実は」
「牛女さんの胃は幾つかな」
「一つです」
牛女さんははっきりと答えました。
「そちらは」
「一つだね」
「はい」
そうだというのです。
「そこは牛と違います」
「じゃあ身体自体もだね」
「人間のものです」
「どうかなって思っていたけれど」
王子は今度は鮎の塩焼きを食べつつ言いました。
「そうなんだね」
「頭は牛でもです」
「身体はだね」
「人間です」
「歯は牛の歯だったよ」
先生が蛸のお刺身を食べつつ言います。
「診たらね」
「そうだったんだ」
「かなり丈夫な歯だよ」
「牛の歯だけあってだね」
「うん、よく磨かれてもいたけれど」
「甘いもの好きだったのかな」
「実は」
牛女さんはこのことは恥ずかしそうに言いました。
「私は甘いものが好きで最近ライムジュースが特に」
「ライムって歯に悪いからね」
「おそらくそのせいですね」
「うん、ライムはビタミン補給にはいいけれど」
王子は牛女さんにお話しました。
「歯にはね」
「よくないですね」
「だから気をつけないとね」
「わかりました」
「昔はイギリス海軍でもライムを絞ってラム酒に入れて飲んでいたけれど」
トミーは言いました。
「歯に悪かったんだね」
「そうだね」
王子はトミーのその言葉に頷きました。
「水兵さんとか虫歯多かっただろうね」
「そうだね」
「ビタミンを摂らないと壊血病にもなるけれど」
「虫歯になるとね」
「それはそれで問題だったね」
「そうだね」
トミーは柚を入れたお野菜の酢の物を食べつつ言いました、そうしたお話をしながらそのうえで今は牛女さんと一緒に食べました。