『ドリトル先生と琵琶湖の鯰』




                第五幕  滋賀県の北も

 田中さんは先生に朝ご飯を一緒に食べる中で言いました。
「先生、琵琶湖の北の方にもです」
「行ってですね」
「水質を調べましょう」 
 こう提案するのでした。
「今日は」
「はい、琵琶湖の南だけでなく」
 先生も笑顔で応えます、ホテルの朝食はビュッフェで先生も田中さんもそれぞれ好きなものをお皿の上に置いています。田中さんは和風で先生も同じです。
 先生は卵焼きをお箸で食べつつ言いました。
「北側の水質も調べましょう」
「そうしましょう」
「是非。ただ生きものは」
「それは変わらないです」
 田中さんは先生に笑って答えました。
「琵琶湖は」
「そうですね」
「広いといっても湖なので」
 それでというのです。
「そこまではないです」
「そうですね」
「はい、そしてです」
 それにとです、田中さんは先生にさらにお話しました。
「琵琶湖の北もです」
「生きものは同じですね」
「そうです」
 まさにというのです。
「ですからそこはです」
「いいですね」
「そうしてもいいですが」
 それでもというのです。
「構いません」
「そうですか」
「はい、では今日は」
「琵琶湖の北に行ってですね」
「水質調査をしましょう」
「それでは」
「とはいっても今朝も南の方を調べましたね」
 田中さんは笑顔でこうも言いました。
「起きてすぐに」
「そうしましたね、生きものも採集しましたし」
「採集は順調です」
 田中さんは笑顔でお話しました。
「琵琶湖の生きもの達がです」
「採集されてですね」
「神戸の方に送られています」 
 そうなっているというのです。
「そして水族館での展示の用意が進められています」
「いいことですね」
「はい」
 実にとです、田中さんはお漬けものを食べつつ先生に答えました。
「実に、ただ」
「ただといいますと」
「一つ、どうしてもです」
 田中さんはご飯を食べつつ先生に言いました、見れば先生もご飯を食べています。そうしつつお話しています。
「採集したいお魚がいますが」
「ああ、あのお魚ですね」
 先生はご飯を食べつつ応えました。
「確かに」
「琵琶湖といえばですからね」
「あのお魚ですね」
「そうです、ですから」 
 そう思うかこそというのです。
「何とか発見してです」
「採集してですね」
「水族館にと思っていますが」
 それがというのです。
「出来ないでいます」
「残念なことですね」
「まことに」 
 田中さんはお味噌汁を飲みながら応えました、若芽とお豆腐のお味噌汁です。
「そう思っています」
「そうですね、僕もです」
 先生は今度はきんぴら牛蒡を食べながら言いました。
「あのお魚はです」
「是非ですね」
「発見して」
 そうしてというのです。
「採集してです」
「水族館に連れて行きたいですね」
「そう考えています」
「そうですね、ではです」
「琵琶湖の北に行った時もですね」
「あのお魚を探しましょう」
「それでは」
 こうお話してでした、そしてです。
 皆でこの日は琵琶湖の北の方に行きました、そのうえで水質と生きものの調査をしてでした、それからです。
 動物の皆と一緒にある山に入りました、先生はその山に入って皆に言いました。
「ここが小谷城だったんだ」
「あの浅井家の」
「浅井長政さんだね」
「あの人のお城だったんだね」
「そうだよ、山全体をお城にしたかなり堅固なお城だったんだ」
 こう皆にお話しました。
「浅井長政さんも名将だったしね」
「それで織田信長さんも苦労したんだったね」
「攻めるのに」
「そうだったね」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのです。
「何とか攻略したんだ、ただ」
「ただ?」
「ただっていうと」
「どうしたの?」
「織田信長さんは大軍で攻めてね」
 その小谷城をというのです。
「攻略したんだ、ただ最後の最後まで降れば許すって言っていたんだ」
「ああ、妹さんのご主人だったしね」
「お市さんのね」
「だからそう言って」
「それでだったね」
「攻めながらもね、というか対立してからも」
 それからもというのです。
「ずっと降る様に言っていたんだ」
「降れば許す」
「そうするって言っていたんだ」
「そうだったのね」
「けれど浅井長政さんは降らずに」
 そうしてというのです。
「戦い続けて」
「そしてなんだ」
「最後は自決して」
「それでこの城も陥ちたんだ」
「そうだったんだ、そしてね」
 それでというのです。
「今はこうしてね」
「もうないんだね」
「陥ちてそうして」
「なくなったのね」
「そうなんだ」
「あの、先生」
 ここでチーチーが先生に尋ねました。
「浅井長政さんって酷いことになったんだよね、死んでから」
「あれね、黄金の髑髏」
 ポリネシアも言います。
「首を髑髏にしてね」
「それで杯にしたんだよね」
 ジップは眉を顰めさせて言いました。
「他の人達と一緒に」
「歴史にはそんなお話もあるけれど」
 トートーも首を傾げさせて言います。
「残酷だよね」
「死んでからもそうするなんてね」
 ホワイティもこう言います。
「とんでもないよね」
「織田信長さんってやっぱり残酷じゃないの?」
「そうよね」
 チープサイドの家族もこう言います。
「それじゃあ」
「そう言うしかないね」
「というか最後まで降れば許すって言ってそれはないよ」
 ガブガブは悲しいお顔で言いました。
「幾ら何でもね」
「騙して殺すつもりだったんじゃないの?」
 老馬は考えるお顔で言いました。
「最初から」
「やっぱり残酷な人だったんじゃないかしら」
 ダブダブも言います。
「織田信長さんって」
「相当残酷じゃないとしないね」
「そんなことはね」
 最後にオシツオサレツが言いました。
「死んだ人の髑髏を杯にするとか」
「それでお酒飲んでいたのかな」
「そのお話は違うみたいだよ」
 先生はどうかと言う皆に落ち着いたお顔で答えました。
「どうもね」
「あれっ、そうなの?」
「そうだったの」
「実際にあったお話じゃないの」
「そうだったの」
「髑髏で杯でお酒を飲むにしても」 
 そもそもというのです。
「織田信長さんはお酒飲まないね」
「あっ、言われてみれば」
「そうだったわ」
「織田信長さんはお酒飲まなかったんだ」
「どうもかなり弱かったらしくて」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「まずこの時点でおかしいね」
「そうだね」
「言われてみれば」
「織田信長さんはお酒飲まないから」
「杯と言われても」
「その時点でなくて」
 それでというのです。
「しかもこれは供養だったんだ」
「自分の敵を死んでも攻撃するんじゃなくて」
「そうだったんだ」
「供養であって」
「そうしたことじゃなかったの」
「そうだよ、髑髏に金粉を塗ってそうして供養するやり方もあったんだ」 
 そうだったというのです。
「昔の日本にはね」
「そうだったんだ」
「物凄く悪趣味な復讐と思っていたら」
「自分の敵に対する」
「そうじゃなかったんだ」
「そうだったんだ、ただ当時の習わしでね」
 先生はこうも言いました。
「浅井長政さん、そして一緒に織田信長さんと戦った朝倉義景さんの子供は男の子は殺されているよ」
「最後まで戦ったから」
「降らなかったから」
「それは仕方なかったのね」
「そうなんだ、あと織田信長さんは実際に許した敵は殺さなかったよ」
 降った人はというのです。
「松永久秀さんもね」
「あっ、あの物凄く悪い人だった」
「斎藤道三さんと同じ位悪かった」
「極悪人だったね」
「色々やって織田信長さんも裏切ったけれど」
 それでもというのです。
「一回目は許して二回目も許そうとしたんだ」
「そうだったんだ」
「二回目はないと言いそうだけれど」
「許しているんだ」
「そうだよ、茶器を差し出せば許すと言ったんだ」
 その二回目の時もというのです。
「松永久秀さんはそ茶器に火薬を入れて爆死したけれどね」
「その死に方も凄いね」
「日本人らしい死に方だと思うよ」
「壮絶な死に方が何ともね」
「潔いっていうか」
「そうだね、けれど本当に織田信長さんはね」
 この人はというのです。
「敵は許していたし何度も言うけれど特に残酷でもなかったんだ」
「そこどうしても誤解するけれど」
「イメージとしてあっても」
「実は違うんだ」
「そうなんだ」
 先生は皆に笑顔でお話しました。
「このことは何度でも言うよ」
「成程ね、しかしここは凄い山だね」
「険しいね」
「ここを登って戦うってなると」
「物凄く大変だね」
「何といっても」
「だから堅固なお城だったんだ」
 険しい山全体をお城にしたからだというのです。
「本当に織田信長さんも苦労したんだ」
「このお城を攻めるにあたって」
「大変な苦労をして」
「それで攻略した」
「大軍を使って」
「そうだよ、ちなみに織田信長さんは大軍で動員して戦う人で」
 それが織田信長さんの戦い方だったというのです。
「奇襲とかは殆どしなかったんだ」
「へえ、そうだったんだ」
「あの桶狭間では少数で攻めたけれど」
「大軍で戦う人で」
「桶狭間は例外なんだ」
「そうだよ、あくまで例外でね」
 桶狭間の戦いはというのです。
「それ以降は常にね」
「大軍を動かしてだったんだ」
「戦う人で」
「少ない数では戦わない」
「そうした人だったんだね」
「アニメで戦争は数だぜって言葉があったけれど」
 日本のロボットアニメの台詞も出しました。
「これは実際だからね」
「やっぱり大軍だね」
「大軍の方が強いね」
「それで織田信長さんもだね」
「戦いの時は大軍を動員していた」
「殆どの場合そうしていたんだ」
「それで勝っていったんだ、負けたこともあるけれど」
 それでもというのです。
「天下人になったのはね」
「それはだね」
「大軍を使ってのことで」
「それで勝ってきたから」
「天下人になったんだ」
「そうなんだ、それでこのお城も大軍で攻めたから」
 堅固な小谷城もというのです。
「勝ったんだよ」
「成程ね」
「どんな堅固なお城も大軍で攻めると攻め落とせる」
「そういうことだね」
「そうだよ、絶対に攻め落とせないお城はないしね」
 先生は皆と一緒に山の中を進みつつお話します。
「このお城も攻めたんだ」
「成程ね」
「そういうことだね」
「どうなるかって思ったら」
「そういうことだね」
「そうだよ、しかしこうして山を登ると」
 どうかとです、先生はまた言いました。
「いい運動になるね」
「そうだね」
「結構な山だし」
「こうした山を登るとね」
「いい運動になるね」
「そうなるよ、僕はスポーツはしないけれど」 
 それでもというのです。
「こうした運動はね」
「いいよね」
「先生お散歩は好きだしね」
「丁度いいよね」
「こうして歩くことも」
 このこともというのです。
「いい運動だしね」
「というか先生確かに太めだけれどね」
「健康に影響する程じゃないからね」
「そこまでじゃないからね」
「まだいいんだよね」
「というか先生健康だね」
「健康そのものだしね」
 動物の皆も言います。
「やっぱり毎日結構歩いてるからね」
「毎日一万歩は歩いてるよね」
「滋賀県に来てからもそうだしね」
「それだけ歩くとね」
「やっぱり健康だね」
「うん、スポーツは全く駄目でも」
 それでもというのです。
「歩くこと自体はね」
「先生嫌いじゃないしね」
「学校でもよく歩くし」
「それで移動してるし」
「それでだね」
「山登りも苦にはならないね」
「いや、日本の山は険しいから」
 それでというのです。
「登ると疲れるよ」
「まあ日本の山は険しいね」
「しかも山ばかりだし」
「このことはね」
「仕方ないね」
「うん、だからね」
 それでというのです。
「日本で困ったことかな」
「まあそれはね」
「仕方ないと言えば仕方ないね」
「日本は山国だから」
「かなりの部分が山の国だから」
「そのことはわかっていたしね」
 先生にしてもです。
「受け入れてはいるよ」
「そうだよね」
「それで今も登っているね」
「そうしているね」
「実際に」
「そう、そしてね」 
 それでというのです。
「史跡研修もしているよ」
「その史跡が山っていうのもね」
「日本らしいね」
「山と海には困らない国にしても」
「本当に日本らしいわ」
「そうだね、あと山に住んでいる人達もいたよ」
 先生はその山の中でこうもお話しました。
「そうだったよ、山の民というね」
「そうだったんだ」
「日本って農耕民族だけれど」
「そんな人達もいたんだ」
「そうだったの」
「今もおられるみたいだよ」
 過去形ではなくというのです。
「どうもね」
「あれっ、そうだったんだ」
「今もおられるんだ」
「もういないって思ったら」
「そうなんだね」
「うん、僕もよく知らないけれど」
 それでもというのです。
「そう聞いているよ」
「いなくなったと思っていたら」
「実は違うんだ」
「そうなの」
「うん、どうもね」
 先生は皆にさらにお話をしました。
「おられるらしいよ、ただ何処におられるかはね」
「わからないんだ」
「そうなんだね」
「先生も」
「ネットで言われていることで」
 こちらでというのです。
「真相は本当に不明だけれど」
「おられるかも知れない」
「そうなんだね」
「もうおられないと思っていたら」
「まだおられるんだね」
「その様だよ、日本人は元々縄文系の人と弥生系の人の混血で」
 日本人のルーツのお話にもなりました。
「農耕民族で平地に暮らしているね」
「そうそう」
「あと海にもね」
「基本農耕民族でね」
「海洋民族の色もあるね」
「それが日本人だね」
「その縄文系の人と弥生系の人が混血して」
 そしてというのです。
「中国や東南アジア、南洋も人達も来てね」
「混血して農耕や漁業で暮らしていた」
「それが多くの日本人だね」
「大和民族っていう人達だね」
「そうだよ、あとアイヌ系の人達もいて」 
 北海道にいるこの人達のお話もしました。
「この人達は狩猟民族だね」
「この人達は縄文系の血が濃いんだったっけ」
「確かね」
「そうだったよね」
「うん、そしてこの人達も大和民族と混血しているよ」
 この人達もというのです。
「日本人はあまり混血に抵抗がないからね」
「それも日本人の特色だね」
「中国や東南アジアから来た人達とも混血して」
「今だってハーフの人結構多いわよ」
「アメリカやフィリピンの人達とのハーフの人とかね」
「それで混血して形成されていった人達だけれど」 
 それでもというのです。
「その人達とは別の人達もいてね」
「それが山の民だね」
「あの人達ね」
「農耕や漁業で暮らしていない」
「そしてアイヌの人達とも違うね」
「そうだよ、古事記や日本書紀でもうこの人達と思われる存在が出ていて」
 そしてというのです。
「鬼や土蜘蛛もだよ」
「あの妖怪達もなんだ」
「日本の童話でよく出て来る」
「その人達もなんだ」
「山の民達なんだ」
「そう言われているよ」
 その妖怪達の正体はというのです。
「実はね」
「成程ね」
「そういえば鬼も土蜘蛛も山にいるよ」
「日本の妖怪って山にいる種類が多いけれど」
「あと山姥とか山爺とかもそうだったと言われているよ」
 この山に棲む妖怪達もというのです。
「山は昔は多くの日本人にとって異世界だったからね」
「あっ、平地じゃないから」
「田畑や町がある」
「大抵の日本人がいる場所じゃないから」
「だからだね」
「そうだよ、そこがね」
 まさにというのです。
「重要なポイントなんだ」
「成程ね」
「日本の童話で山が何か違うと思っていたら」
「鬼とかの妖怪が多いって思ったら」
「そうした事情があったんだ」
「そうだよ、そして滋賀県も山が多いから」 
 日本だけあってです。
「おそらくね」
「山の民もいたんだね」
「そうなのね」
「そしてこの小谷城だった場所にも」
「山だから」
「おられたかも知れないね」
「ただ鬼ってね」
 ふとです、トートーが気付きました。
「日本人の恰好してないね」
「白人に近いね」
「言われてみたら」
 オシツオサレツはその白人の先生も見てお話します。
「その外見は」
「どうにもね」
「大柄で毛深くて髪の毛が縮れているとか」
「あと身体が赤いのもね」 
 チープサイドの家族は童話に出て来る鬼の外見を思い出していて言います。
「白いお肌って血が透けてね」
「赤くなるね」
「お肉を食べるのもね」
 このことはチーチーが言いました。
「肉食で白人だね」
「葡萄が好きで血を飲むって」
 ダブダブはこのことを指摘しました。
「血って赤ワインじゃないかしら」
「これ前から言われてたかな」
 こう言ったのはジップでした。
「僕達も聞いた気がするし」
「酒呑童子とかもそうだね」
 ホワイティは鬼の中でも特に有名なこの鬼の名前を出しました。
「日本人の感じしないね」
「人を食べていたことは作り話でも」
 それでもとです、ポリネシアは言いました。
「その外見は気になるわね」
「じゃあ白人の人も日本に来ていたのかな」 
 ガブガブはこう考えました。
「それで鬼と思われたのかな」
「戦国時代に来た白人の人達も鬼って言われてたみたいだし」
 最後に老馬が言いました。
「今も野球の助っ人で赤鬼とか言うね」
「そうした説もあるよ、僕も鬼の外見は白人だと思っているよ」
 先生にしてもでした。
「ペルシャ辺りから東アジアに来た人が海に出てね」
「日本に来て」
「それでなんだ」
「山に棲んでいて」
「鬼だって思われたんだ」
「酒呑童子がそうみたいだね、ナマハゲは漢の武帝と関係があるとされているけれど」
 それでもというのです。
「これは伝説にしてもね」
「漢の武帝って中国の皇帝さんだよね」
「紀元前の頃の」
「仙人とか好きだったみたいだけれど」
「あの人が日本に来ていたとはね」
「考えられないわね」
「これはないと思うよ」
 先生は皆にお話しました。
「流石にね」
「そうだよね」
「幾ら何でもそれはないわね」
「皇帝さんがどうして日本に来ていたか」
「それ自体がどうして、だしね」
「これは伝説だと思うよ、ただね」
 それでもというのです。
「ナマハゲの姿も鬼だね」
「というかあれ鬼だよね」
「どう見ても」
「あの姿は」
「ナマハゲも」
「あれも白人じゃないかな」
 先生は腕を組んで考えるお顔で言いました。
「僕はそう思うよ」
「ううん、大昔に白人の人も日本に来ていて」
「その人達も鬼かも知れないのね」
「そう思われていた」
「その可能性があるのね」
「どうもね、しかしね」
 さらに言う先生でした。
「日本は山のことも色々学べるね」
「全くだね」
「何かとね」
「面白いことがわかるわね」
「学んでいると」
 動物の皆は先生のお話に応えます、そしてです。
 先生は小谷城の跡を去ってからお昼ご飯を食べて股水質調査に戻りました、田中さんはその結果について先生に言いました。
「今のところは改善していますね」
「そのことはですね」
「いいことだと思います」
 こう先生にお話するのでした。
「本当に、ただ」
「楽観は出来ないですね」
「少し油断したら」
 それでというのです。
「また悪化します」
「環境はそうしたものですね」
「今回僕達は主に生物採集を行っていますが」
「はい、水族館に送る為に」
「研究と展示にです」
「種の保存ですね」
「いざという時の、その為のことですが」
 それでもというのです。
「しかしです」
「水質調査もですね」
「行っていまして」
「その結果は、ですね」
「喜ぶべき状況なのはです」
 このことはというのです。
「事実です、ですが」
「これに楽観しないことですね」
「環境のことはいつも注意しないと」 
 田中さんは先生に真剣なお顔でお話しました。
「本当にです」
「すぐに悪くなるので」
「ですから」
「常に気をつけて」
「そしてです」
「守っていくべきですね」
「いい状況を、本当に油断しますと」
 それでというのです。
「悪くなるので」
「それは本当に、ですからね」
 先生も真剣なお顔で応えます。
「少し油断しますと」
「それで、ですね」
「悪化して」
 そしてというのです。
「大変なことになります」
「琵琶湖もそうでしたね」
「日本も一時期環境汚染が深刻でした」
「そうでしたね」
「海も川も」
「そして湖も」
「空気も汚れていて」
 そうなっていてというのです。
「公害も深刻化していました」
「水俣病や四日市喘息ですね」
「イタイイタイ病もありました」
「イギリスもそうでしたが」
「日本もでした」
 このことは同じだったというのです、日本もイギリスも。
「それで、です」
「何とかしなければと考える様になって」
「それで、ですね」
「水質にしてもチェックして」
「改善をですね」
「考えていって」
 田中さんは先生にお話しました。
「何とかです」
「今の状況にですね」
「なりました」
 そうなったというのです。
「まだまだ改善しなければならないですが」
「それでもですね」
「今の状況までです」
「戻りましたね」
「本当にこの琵琶湖も一時期大変な状況でした」 
 そうだったというのです。
「まことに。ですから」
「もっとよくしていくのですね」
「そうです、産業も大事ですが」
「環境も大事ですね」
「難しいですね、人間は発展したいですが」
「環境も守りたい」
「矛盾しているとは思います」
 田中さんはここでは少し苦笑いになって言いました。
「このことは」
「いえ、それはです」
 先生は田中さんに確かな微笑みで答えました。
「矛盾していません、僕は人間は進歩していいです」
「発展してですか」
「そうです、それと共に」
「環境もですか」
「守る義務があります」
 こう言うのでした。
「その両方を果たしていくべきです」
「そうですか」
「進歩しなくていいと言う人もいるでしょうが」
「それは、ですか」
「今の生活以上に幸せな生活をしたいのなら」
 そう思うならというのです。
「成り立たないから、これでいいと満足すれば」
「そこで進歩しないですね」
「そうかと。文明の進歩はです」
「あっていいのですね」
「むしろ僕は進歩すべきとさえです」
「お考えですか」
「自然に帰れと言いましても」
 ルソーの言葉も出しました。
「出来るかといいますと」
「それは」
「無理ですね」
「大抵の人はそうですね」
「そうですね、人はやはり文明的な生活を送りたいのです」
 それが人間というものだというのです。
「ですから」
「それで、ですか」
「そうです、ならです」
「発展していくべきですか」
「そもそも文明と野蛮どちらがいいか」
「文明ですね」
 田中さんは即座に答えました。
「自然とそちらがいいとなります」
「左様ですね、それが答えかと」
「では進歩、発展すると共に」
「そしてです」
 そのうえでというのです。
「環境もです」
「守っていくべきですね」
「それの両立が絶対なので」
「これからもですね」
「琵琶湖も然りです」
 今自分達が前にしているこの湖もというのです。
「やはりです」
「環境を守っていくべきですね」
「私はそう考えています」
「そうですか、難しくとも」
「そうしていくべきです、難しいといいましても」
 それでもというのです。
「今お話した通りにです」
「環境は、ですか」
「守っていけるので」
 だからだというのです。
「努力していくべきです」
「両方を」
「僕はそう考えます」
「成程、そうしたお考えですか」
「そうです、絶え間ない努力がです」
 それこそがというのです。
「両方を支えます」
「成程、先生のお考えはしっかりしていますね」
「そうでしょうか」
 先生は首を傾げさせつつ田中さんに応えました。
「僕は」
「はい、世の中文明を否定してです」
 そうしてというのです。
「自分は文明的な暮らしを満喫する」
「そうした人は確かにいますね」
「そうですね、例えば原発反対を唱えますが」
 それでもというのです。
「自分は電気を好き放題使う」
「原発の代わりの電力もですね」
「それを出さずに」 
「原発反対ですね」
「それを言う人もいます」
「原子力の力は凄いです」
 発電でもとです、先生は言いました。
「その供給される電力も」
「確かにそうですね」
「それに代わる電力となると」
「何か、ですね」
「太陽光や風力で賄えるか」
 原子力の代わりにというのです。
「それだけのものか。科学的な検証をしないとです」
「今の生活は出来ないですね」
「電力面では、それをしないで言うなら」
「無責任ですね」
「原発で事故が起こっても」
 それでもというのです。
「その事故の原因をはっきりさせて」
「そしてですか」
「そのうえで、です」
「対策を講じておくべきですね」
「若しそれが人災なら」
 その場合はといいますと。
「その人に責任を取ってもらう」
「そうあるべきですね」
「そうですから」
 それでというのです。
「原発の是非もです」
「あるから駄目なのではなく」
「若し反対ならです」
「今の文明生活を維持したいなら」
「電力は必要ですから」
 どうしてもというのです。
「それならです」
「原子力の代わりの電力の供給源を出す」
「さもなければです」
「今の生活を捨てることですね」
「そうなります、どちらも嫌だというのは」
「出来ないですね」
「若しもです」
 ここで先生は眉を曇らせて言いました。
「自分だけがいい暮らしをしてです」
「他の人にするなということはですね」
「あまりにも自分勝手で卑怯です」
 先生は言い切りました。
「断じてなりません」
「それは、ですね」
「人として」
「その通りですね、ですが」
「それがですか」
「日本には。知識人に多いですが」
 この立場の人達にというのです。
「自分はよくてです」
「他の人はですね」
「我慢しろと言う人が。マスコミなぞ電力を使い放題ですね」
「テレビ局も新聞社もそうですね」
「自分達は公共だからいいと言って」 
 そしてというのです。
「他の人はです」
「それはあまりにもです」
「やはり卑怯ですね」
「僕もそう思います、まことに発展と環境はです」
 そのどちらもというのです。
「両立すべきであり」
「それで、ですね」
「人類は歩んでいくべきです」
「そうなりますね」
「そうです、今お話した原子力も」
 こちらもというのです。
「僕はあっていいと思います」
「人類の発展に必要ですか」
「そうです、感情的に反対するよりもです」
 それよりもというのです。
「科学的に考え」
「そのうえで、ですか」
「どうして利用すべきか、また使うべきでないなら」
「そう思うならですね」
「代わりのものを出すべきです」
 それが筋だというのです。
「間違っても決め付けと断定はです」
「あってはならないですか」
「それは科学的でないですし」
 先生は田中さんにさらにお話しました。
「それ以上に学問的でもです」
「ないですか」
「ですから」
 それ故にというのです。
「僕はあってはならないとです」
「お考えですか」
「世の中そうした考えの人も多いですが」
「先生は違いますか」
「そうありたいと考えています」
 その様にというのです。
「常に」
「そうですか」
「これは菜食主義も同じでしょうか」
「ヴィーガンですね」
「そうです、自分達がそうであることはいいですが」 
 それでもというのです。
「他の人に強制してです」
「自分と違う考えの人に攻撃することは」
「あってはならないです」
 このことはというのです。
「やはり」
「そうですね、最近そうした人もいますね」
「暴走した正義は正義ではないです」
 断じてというのです。
「その時点で」
「だからですか」
「はい、暴走しても正しいことをしているという人は」
 まさにというのです。
「もう既に正義ではないです」
「むしろ悪ですね」
「魔女狩りは何であったか」
「言わずもがなですね」
「あれはヒステリーによる暴走でしたが」
「自分が正義と思っていてもですね」
「それは主観であり」 
 それに過ぎず、というのです。
「もう他の人から見ればです」
「悪ですか」
「それも吐き気を催す位のものか」
 先生はさらに言いました。
「自分が悪とは気付いていない」
「そうしたですか」
「最もドス黒い悪になっています」
「魔女狩りはそうですね」
「そうした人はもう手遅れかも知れません」
「暴走しても自分達が正しいと言うのなら」
「悪事を繰り返し」
 そしてというのです。
「果ては破滅です」
「そうなりますか」
「そこまでの悪はもう神も救えないでしょう、むしろ」
「神の裁きを受けますか」
「そうした人こそです」
 こう田中さんにお話するのでした。
「僕はそう考えます」
「そうですか、確かにそうですね」
 田中さんも先生にその通りだと答えます。
「ヤクザ屋さんは自分達は悪だとわかっているので」
「自覚していると違いますね」
「案外そこにある悪意も歯止めが効きます」
「そうですね、しかし自分が悪と気付いておらず」
「暴走してもいいというのなら」
「もう止まりません、悪意がそこにあるなら」
 その場合はといいますと。
「悪意も歯止めが効かず」
「何処までも肥大化しかつ暴走しますね」
「そして最後はです」
「最もドス黒い悪になりますか」
「僕はそう思います、何はともあれ正義も理性や良識、客観性がなくてはなりません」
 こうしたものが備わっていないといけないというのです。
「若しそうしたものがなければ」
「正義ではなく」
「最悪の悪となるでしょう」
「原発反対もヴィーガンも同じですね」
「環境もです、文明にしても」
「自分が絶対に正しいと思うなかれ」
「常に間違いはないかと意識して」
 そしてというのです。
「考えていき行いに注意する」
「そうでないと駄目ですね」
「僕はそう考えます、そのうえで」
「文明を発展させてですね」
「環境を保護していくべきです」 
 田中さんに落ち着いた声でお話しました。
「まことに」
「そこまでお考えとは」
 田中さんは先生の考えに感嘆しました、そうして人類の文明と環境のお話をさらにしていくのでした。








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