『ドリトル先生と琵琶湖の鯰』




                第二幕  琵琶湖へ

 先生達は琵琶湖に出発する準備に入っていました、ですが今回は。
「僕達は残ります」
「今回は一緒じゃないよ」 
 トミーと王子が先生に研究室でお話します。
「だからね」
「先生で楽しんできて下さい」
「二人が一緒じゃないなんてね」
 どうかとです、先生は二人の言葉を聞いて言いました。
「そうした旅は久し振りだね」
「僕は大学で研究があるので」
 まずはトミーが答えました。
「サークルのこともありますし」
「確かテニスのだね」
「はい、そちらのこともありまして」
 それでいうのです。
「それで、です」
「それじゃあね」
「はい、そちらを頑張ってきます」
「そういうことでね」
「僕はその時期母国に戻って」
 今度は王子がお話します。
「公務に励んでいくよ」
「それでだね」
「僕もいないよ」
「そうなんですね」
「そう、だからね」
「王子もいないんだね」
「そういうことでね」
 こう先生にお話します。
「楽しんできてね」
「それじゃあね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「琵琶湖にはね」
 そこにはとです、王子は先生に少し真面目なお顔でお話しました。
「行きたいね」
「そう思ってるんだ」
「うん、機会があればね」
「琵琶湖は奇麗だって評判だしね」
「それに日本で一番大きな湖だね」
「そして生態系が面白いんだ」
「そう聞いているからね」
 だからだというのです。
「機会があればね」
「行きたいんだね」
「そう思っているよ」
 実際にというのです。
「僕もね」
「じゃあまたね」
「行きたいね」
「じゃあまたね」
「機会があれば一緒に行こうね」
 王子は先生にこうお話しました。
「そうしようね」
「それではね」
「僕も機会があれば」
 トミーも先生にお話します。
「ご一緒に」
「それじゃあね」
「今回は水族館と一緒のお仕事ですが」
「そうそう、琵琶湖の生きものを選んでね」
「そのうえで、ですよね」
「水族館に持って行くんだ」
「そうしたお仕事ですね」
 こう先生に言うのでした。
「先生の今回のお仕事は」
「そうだよ」
「そうですね、ただ」
「ただっていうと」
「先生は」
 ここでこうも言ったトミーでした。
「琵琶湖には前から行かれたいと思われていましたね」
「そうなんだ」
 先生はトミーに微笑んで答えました。
「旅行で行けたらとも思っていたけれど」
「いい機会でしたね」
「本当にね、だからね」
 それでというのです。
「今回はね」
「いい機会で」
「それでね」
 そのうえでというのです。
「学ばせてもらおうとね」
「考えてますね」
「是非とね」
「それはいいことですね」
「あと皆とはね」
 先生は今も研究室にいる動物の皆も見てお話します。
「一緒だよ」
「そうですよね」
「僕は彼等とは何時でも一緒だから」
 それでというのです。
「今回もね」
「一緒ですね」
「そうだよ、皆が一緒だと」
 それならというのです。
「僕も大丈夫だよ」
「先生、任せておいて」
「先生の周りのことは僕達が全部するから」
「先生はお仕事に専念してね」
「そうしてね」
「頼むよ、今回は水族館から日本の淡水生物の専門家の人が参加してくれるし」
 その人はといいますと。
「田中さんという人がね」
「先生のこのお話を持って来た人だね」
「そうだよ」
 王子にも答えます。
「その人がね」
「来てくれて」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「今回も一緒にね」
「琵琶湖に行くんだ」
「そうなんだ」
「じゃあそのことでも安心だね」
「うん、僕はまだ琵琶湖の淡水生物のことには詳しくないけれど」
「あれっ、そうだったんだ」
「図鑑は読んだけれど」
 それでもというのです。
「それでもね」
「その目ではなんだ」
「琵琶湖には行っていないから」
「フィールドワークをしていないからなんだ」
「そう、だからね」
「詳しくないんだね」
「やっぱり図鑑で観て」
 そしてというのです。
「そのうえでね」
「実際にその場所で観ることだね」
「フィールドワークもしないとね」
 どうしてもというのです。
「それでだよ」
「今みたいに言うんだね」
「そうなんだ、僕はね」
「まだ琵琶湖の生きもののことには詳しくないんだ」
「だからね」
「是非だね」
「琵琶湖に行きたいよ」
 絶対にというのです。
「そうしたいよ」
「それじゃあだね」
「楽しみにしているよ」
「あと近江牛とか鯖素麺とか鮒寿司もだね」
 王子は笑顔で滋賀県の名物も出しました。
「そうしたものもだね」
「うん、是非ね」
「食べたいね」
「そう思ってるよ」
「そうだよね、やっぱり」
 こう言うのでした。
「食べる方もね」
「楽しみだよ」
「そして草津もありますね」
 トミーは温泉のお話もしました。
「有名な温泉が」
「そうそう、滋賀県も名所が多いからね」
「そうした場所にも行かれますね」
「史跡研修、歴史も学びたいし」
 先生はこちらも忘れていません。
「安土城の跡に行って彦根城にもね」
「行かれますか」
「そうしたいと思ってるよ、足を伸ばして佐和山とか小谷城の跡にも行きたいね」
「滋賀県もお城多いですね」
「滋賀県は古来から日本の交通の要衝だったからね」
 それでというのです。
「攻防があってね」
「お城も多いんですね」
「そうだよ、あと都もあったし」
「大津にですね」 
 トミーはこのことは最初から知っていました」
「あちらにですね」
「そうだよ、あそこにあってね」
「大友皇子がおられましたね」
「即位されていたとも言われているね」
「そうでしたね」
「明日香から出てね」
 そうしてというのです。
「あちらにね」
「都を置いていましたね」
「そうだったんだ」
 当時はというのです。
「また明日香に戻ったけれど」
「天武帝がそうされましたね」
「それでも都だった時期があるのは事実だよ」
 歴史的にそうだというのです。
「本当にね」
「そのことも覚えておくべきですね」
「そう、日本の首都の推移も面白いよ」
「そのことも学問のしがいがありますね」
「実はこの兵庫県にあった時期もあるし」
「福原ですね」
 トミーはまた即答しました。
「そうでしたね」
「そう、平清盛さんが移したね」
「あの人本当はいい人だったんだよね」
 王子が清盛さんについてこう述べました。
「そうだよね」
「うん、実はね」
 その通りとです、先生は王子に答えました。
「穏やかで寛大でね」
「器が大きくて」
「慈悲深い人だったんだ」
「身内にも家臣にも優しい人だったね」
「むしろ源頼朝さんよりもね」
 敵であるこの人よりもというのです。
「いい人だったよ」
「頼朝さんは何かね」 
 王子はこの人についてはどうかというお顔で言いました。
「敵というか自分に邪魔と見たらね」
「すぐにどうかしようっていう人だったね」
「うん、暗いイメージがあるね」
「だから日本でも人気がないんだ」
「それもかなりだね」
「日本の歴史上でも屈指の不人気さだよ」
 頼朝さんについてはです。
「そうだよ」
「そうした人だね」
「うん、それでお話を戻すけれど」
「福原にも都があったんだね」
「あと南北朝時代は南朝の都は吉野にあったね」
 奈良県のその場所にというのです。
「僕達も行ったね」
「奈良県と和歌山県の境でニホンオオカミを発見した時にね」
「その時に入ったけれど」
「あそこが南朝の都だったね」
「そうだったんだ」
「日本の首都も色々移ってるんだね」
 王子の口調はしみじみとしたものになっています。
「そうだね」
「その辺りイギリス、イングランドと違うよ」
「先生のお国はずっと首都はロンドンだからね」
 王子もこう言います。
「基本的に」
「もうロンドン以外の首都はね」
「ちょっとイングランドでは考えられないかな」
「歴史的にもね」
「そうだね」
「そのイングランド、イギリスと違ってね」
「日本は歴史によって首都が変わっている一面もあるんだね」
 ここで、です。王子はこうも言いました。
「千年の間京都が首都でも」
「そうだよ、平安京がね」
「首都でもだね」
「明日香から大津に移ったり」
「難波とか移ったり」
「平城京に落ち着く前後もね」
 この時もというのです。
「移ったりしているよ」
「それで平安京になったね」
「桓武帝の時にね」
「本当に色々移ったね」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのです。
「それは歴史にある通りだよ」
「中々面白い首都の移転の歴史だね」
「そのことも学べるし」
 大津宮跡に行ってというのです。
「そのこともね」
「先生は楽しみなんだね」
「そうなんだ」
 実際にとです、先生は王子に答えました。
「歴史的には飛鳥時代、戦国時代、江戸時代を主に学べるよ」
「江戸時代もなんだ」
「だって彦根城は井伊家のお城だからね」
「あっ、幕末の」
 井伊家と聞いて王子はすぐに言いました。
「大老の」
「井伊直弼さんのお城だよ」
「そうだったね」
「さっき頼朝さんの名前を出したけれどね」
「この人の評判も悪いね」
「評判の悪さではね」
 それこそとです、先生は王子にお話しました。
「日本の歴史では双璧かも知れないよ」
「嫌な双璧だね」
「実際に人気がないからね」
 源頼朝さんも井伊直弼さんもというのです。
「そう言うんだ」
「そういうことだね」
「ただ井伊直弼さんは彦根では評価が高いよ」
「地元ではだね」
「流石にね」
 そうなっているというのです。
「あちらではね」
「そうなんだね」
「その彦根城にも行きたいね」
「あの、先生」
 ダブダブが先生にここで聞いてきました。
「滋賀県も地域多くない?」
「そういえばそうだね」
「彦根とか大津とかね」
 チープサイドの家族も言います。
「草津とか」
「佐和山とかもそうだし」
「何か同じ県に幾つも地域があるのって」
 トートーは滋賀県以外のこともお話しました。
「日本の特色かな」
「同じ県内でも地域によって違ったりするわよね」
 ポリネシアはトートーに応えて言いました。
「今私達がいる兵庫県でも」
「神戸に姫路、西宮に赤穂とあって」
 チーチーはさらに言います。
「明石市や三木市もあるけれど」
「同じ県内でここまで違うのってなってるよ」
 ジップも言うのでした。
「同じ兵庫県でも」
「それで滋賀県でもだね」
「地域ごとの違いが顕著なんだ」
 オシツオサレツが二つの頭でいいました。
「日本の他の都道府県と同じで」
「そうなのかな」
「何かここまで地域ごとに違うってね」
 ホワイティは首を傾げさせました。
「そうないんじゃ」
「都道府県で一括りにしても」
 それでもとです、ガブガブも言います。
「それで終わりじゃないね」
「というか何でこんなに地域ごとの違いがあるのかな」
 老馬はそこが疑問でした。
「そもそも」
「それは日本には藩があったからだよ」
 先生は皆にお話しました。
「江戸時代にね」
「ああ、三百も藩があったね」
「あの頃の日本は」
「それぞれの藩が治めていて」
「日本はとても沢山の国がある状況だったね」
「その藩があったからね」
 それでというのです。
「だからだよ」
「それでなんだ」
「日本の都道府県の中でも地域ごとの違いがあるんだ」
「藩ごとに違っていたから」
「それでなの」
「そうだよ、僕達が今いる兵庫県でもそうで」
 そしてとです、先生はさらにお話します。
「そしてね」
「他の都道府県も同じだね」
「滋賀県にしても」
「そういうことなのね」
「例えば彦根は彦根藩だったんだ」
 この藩の場所だったというのです。
「井伊家が治めていたね」
「それで彦根は彦根で」
「同じ滋賀県でも他の地域とは違う」
「そうした地域なのね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「そうしたことも見ていくとわかって面白いよ」
「イギリスにもそういうのあるけれどね」
「同じイギリスの中でも」
「州ごとに違っていて」
「地域ごとの個性ってあるね」
「特にね」
 動物の皆はさらに言いました。
「四つの国で違うからね」
「イギリスの場合は」
「イングランドとスコットランド、ウェールズとアイルランド」
「その四つの地域でね」
「個性が違うんだよね」
「そのことは世界的に有名だね」
 先生は皆に微笑んで応えました。
「イギリスの四つの国の違いは」
「そうそう」
「イギリスの旗にも出ているし」
「あのユニオンジャックにもね」
「しっかり出ているしね」
「そのこともわかるとね」
 実際にというのです。
「面白いしね」
「日本もそれは同じだね」
「そういえば北海道と沖縄で全然違うし」
「むしろ藩が三百以上もあったから」
「その分地域ごとの個性が出ているんだ」
「そうだよ、滋賀県のそうしたところも学びたいよ」
 滋賀県のそうしたところも学びたい、こう言ってでした。
 先生は滋賀県に行く準備をにこにことして進めていきました、勿論動物の皆もお手伝いをしています。そしてです。
 その中でもティータイムは忘れていません、先生は今はお抹茶を飲んで和風のティ―セットを楽しんでいますが。
 ふとです、先生はこんなことを言いました。
「安土城を築いた織田信長さんだけれど」
「あの人がどうかしたの?」
「日本の歴史でもかなり有名な人だけれど」
「あの人に何か」
「あの人は実はお酒は駄目でね」
 飲めなくてというのです。
「その分お茶が好きだったみたいだよ」
「へえ、そうだったんだ」
「何かお酒凄く飲む感じだったけれど」
「実は飲めなくて」
「お茶が好きだったんだ」
「下戸だったらしくて」
 それでというのです。
「お酒はほんの少し飲んだら酔い潰れる位だったらしいんだ」
「ほんの少しでなんだ」
「酔い潰れていたんだ」
「そうだったんだ」
「飲んでも一口か二口位だったらしいんだ」
 そこまでだったというのです。
「どうもね」
「それでお茶が好きで」
「茶道もだね」
「そちらもしていたんだ」
「そうなんだ、それで甘いものが好きで」
 こう言ってでした、先生は。 
 その甘いものも食べます、今日のお菓子は和風のお茶菓子のとても甘いゼリーに中にこし餡が入った白いお団子そしてどら焼きです。
 そうしたものを食べつつ言うのでした。
「お菓子もね」
「食べていたんだ」
「そうだったんだ」
「そうみたいだよ、当時お菓子は高価だったけれど」
 それでもというのです。
「そこは天下人だったからね」
「食べていて」
「それでだったんだ」
「お茶菓子にしていたんだ」
「今の僕達みたいに」
「そうみたいだよ、とにかくあの人はお酒は飲めなかったんだ」
 このことは事実だというのです。
「意外かも知れないけれどね」
「意外というかね」
「何かキャラクターじゃないね」
「凄く怒りっぽいイメージあるし」
「お酒も毎日浴びる様に飲む」
「それで酒乱って感じだったけれど」
「実はあまり怒らない人でね」
 怒りっぽいかというとです。
「それでお酒もだったんだ」
「ううん、意外だね」
「これまで思っていた信長さんと全然違うね」
「鳴かぬなら殺してしまえっていうけれど」
「そういう人じゃないんだ」
「不必要に人は殺さなかったし」
 もう一つ言われているこのこともなかったというのです。
「悪人には容赦しなかったけれどね、敵には寛容だったし」
「何か全然違うね」
「僕達が思っていた姿と」
「どうもね」
「そこは違ったのね」
「全くね、鳴かぬならも」 
 この言葉もというのです。
「実は鳴かせてやろうだったんだ」
「それ秀吉さんだけれど」
「信長さんもだったんだ」
「そうだったんだ」
「そうだよ、斬新な人だったことは確かだけれど」
 それでもというのです。
「決して残酷でも短気でもない」
「そんな人だったんだ」
「それで甘いものが好きで」
「お茶も好きな人だったんだね」
「そうだよ、茶道が好きなのは最初から有名だったけれど」
 先生は今度はお抹茶を飲んでお話します。
「信長さんの実像は最近調べられた限りではね」
「以前言われたこととは違っていて」
「お酒も飲まなくて」
「短気でも苛烈でもない」
「そんな人だったのね」
「むしろ気の長い人で信仰心もね」
 ないと言われていたそれもというのです。
「実はあの人なりにあったんだ」
「神も仏も信じないんじゃなかったのね」
「そこも違ったんだ」
「そうも言われていたけれど」
「そうだったんだ」
「お坊さんとお話をしたり安土城の天守閣にあらゆる宗教の絵を入れたりしていたんだ」
 そうもしていたというのです。
「安土城の石垣に墓石やお地蔵さんを入れたけれど」
「それとんでもないって言われてるよね」
「神仏を恐れないって」
「そう言われてるね」
「これも実は霊力を集めてね」
 墓石やお地蔵さんにあるそれをというのです。
「お城の結界にしようって考えていたみたいだよ」
「聞けば聞く程違うね」
「これまで言われていた信長さんとね」
「本当に全然違うね」
「というか甘いもの好きって」
「無茶苦茶合わないよ」
「それが事実でね」
 先生はゼリーを食べながら言いました。
「本当にお酒は駄目だったんだ」
「日本人にはそうした人結構多いけれどね」
「お酒が全く駄目だって人がね」
「それでも信長さんもなのね」
「そうした人だったのね」
「うん、歴史は面白いね」
 先生はこうも言いました。
「そうしたこともわかるから」
「学んでいるとね」
「実際にそうなるからね」
「確かに面白いね」
「日本の歴史も」
「そうだね、滋賀県はその織田信長さんとも縁が深いから」
 それでというのです。
「行くことが楽しみだよ、勿論琵琶湖もね」
「今回行く目的の場所もね」
「行くことが楽しみなのね」
「そうなんだね」
「あの湖の生態系は本当に面白いからね」
 だからだというのです。
「調べられることが楽しみだよ」
「先生の楽しみだらけ」
「今回の旅行もそうね」
「じゃあその琵琶湖に行って」
「全てを満喫するのね」
「学問をね」 
 こう言って先生はまたお茶を飲みました、そうしたお話もしつつ滋賀県へ行く準備を進めていました。ですが。
 田中さんが先生の研究室に来て熱心にあることをお話しました。そのあることは一体何かといいますと。
「出来るだけ多くの種類の生きものを水族館に連れて行きたいですが」
「特にですか」
「はい、あの魚をです」
 何といってもというのです。
「連れて行きたいです」
「それはわかります」
 先生にしてもというお返事でした。
「あのお魚は」
「そうですよね、何といってもです」
「琵琶湖ならですね」
「あのお魚ですから」
 だからだというのです。
「是非にと考えています」
「やはりそうですね」
「これは私だけの意見ではなくです」
「水族館全体で、ですか」
「そう考えていまして」
 それでというのです。
「水族館そして学園の意志でもあります」
「そうですか」
「学園長も許可してくれました」
 学園全体、学園の中にある水族館の最高責任者でもあるこの人もというのです。
「ですから」
「あのお魚は、ですね」
「絶対にです」
「水族館にですか」
「連れて行きたいです」
「そうですね、そういえば」
 先生は田中さんにお話しました。
「八条水族館は兵庫県のお魚、淡水のそれも紹介していますが」
「それでもですね」
「琵琶湖のものは確かにいなくて」
「あのお魚もですね」
「いないので」
 それでというのです。
「絶好の機会だと思います」
「先生もそう思われますね」
「はい、僕は水族館だけでなく動物園や植物園は存在すべきだと考えています」
 先生は田中さんに知的な表情でお話しました。
「学問の為にもなります」
「来訪してくれる人達が見てですね」
「学んでくれますし」
 学者としてお話するのでした。
「そしてです」
「それにですか」
「はい、それに」
「さらにですか」
「その生きものの保護にもなります」
「動物園や植物園で飼育して」
「そこから生態等も調べられますし」
 それにというのです。
「その保護もです」
「出来るからですね」
「非常にいいと思っています」
「最近実は」
 田中さんは先生に曇ったお顔でお話しました。
「よく動物園や水族館が批判されます」
「狭い場所に閉じ込めて野性のままにしていないからですね」
「それは自然の摂理に反するとか動物虐待とか」
「そう言われてですね」
「そうです、ですから」
 それでというのです。
「最近抗議も来たりします」
「それは極論です」 
 先生は田中さんの今のお話に曇ったお顔で答えました。
「どうにも」
「そう言われますね」
「はい、むしろ自然のままで置くとです」
 そうしたらというのです。
「かえってです」
「絶滅してしまう場合もありますね」
「そうです、ですから」
「動物園や水族館はあっていいですね」
「そうした人達が言う動物の保護の為にも」 
 この視点からもというのです。
「いいと思います」
「そうですか」
「はい、ですからそうした人達にはです」
 どうすべきかもです、先生はお話しました。
「しっかりとした反論を行えばです」
「いいですね」
「僕はそう考えています」
「そうですか」
「その人達にあるのは勘違いか狂信です」
「そうしたものにはですね」
「しっかりとした反論を行えば」
 そうすればとです、先生はお話しました。
「少なくとも学問的には問題ありません」
「学問的にはですか」
「中にはそれでも納得せずにです」
「行動に移す人もいますね」
「最近動物保護団体やヴィーガンの人達でも目立ちますね」
 先生は田中さんに曇ったお顔でさらにお話しました。
「発言だけでなく行動も極端なものになる人が」
「テロさえ行いますね」
「そうした人もいて」
 それでというのです。
「気をつけないといけないです」
「こうした人達にはですか」
「もう法律そして警察の問題です」
「学問ではなく」
「はい、世の中話し合いが通じない人もです」
 とても無念そうにです、先生は言いました。
「いるので」
「今お話している様に」
「そうした人達にはです」
「法律や警察ですね」
「幾ら正しいと自分が思っていても」
 そうであってもというのです。
「それが正しいとは限らず暴走すれば」
「それで、ですか」
「もう正しくないのですから」
 暴走した時点でというのです。
「ですから」
「暴走し行動に出る人にはですね」
「残念ですが学問での話し合いではなく」
「法律や警察ですね」
「そうしたもので対処するしかないです」
「そうですか」
「僕は暴力は否定しています」
 それは断じてです。
「ですから暴力に訴える人もです」
「否定していて」
「その暴力も振るわせない様にして若し振るえば」
 その時はというのです。
「暴力で対するのではなくです」
「法律ですか」
「そして警察で対処すべきと考えています」
「そういうことですね」
「若し暴走しても正しいことをしている人がいるとすれば」
 今度はです、先生は悲しいお顔になって言いました。
「もうその人は正しくなく」
「間違っていますか」
「そうです、邪悪になっているかも知れません」
 正しいどころかというのです。
「そこに品性がなく自分と意見が違う相手を全否定するなら」
「もう、ですね」
「邪悪な何かになっている可能性がより高いです」
「そしてその何かがですか」
「極端な行動に出ることもです」
「有り得ますか」
「はい」 
 実際にというのです。
「僕はそうした人達にならない様に心掛けているつもりです」
「否定されていますね」
「そうです、ですから動物園や水族館についても」
「あっていいとですね」
「考えています、否定している人達はおおむねです」
「先生が今言われたことがわかっていない」
「そうした人達で容易に極論に向かい」
 そしてというのです。
「声高に主張しますが」
「論理的、学問的に反論をし」
「それでも無理な時や法律や警察です」
「そうしたもので対処すればいいですね」
「警察は法律でコントロールされていますね」
「日本では特に」
「だからいいのです、自警団とは違います」
 先生はこの人達についてはこう言いました。
「自警団は自分達がしています、法律の下にはありません」
「そこが警察と違いますね」
「ですから法律のコントロールが効かず」
 そしてというのです。
「容易に暴走しマフィア化もします」
「実際にマフィアのルーツの一つでしたね、自警団は」
「ですから自警団よりもです」
「警察ですね」
「そちらの方がいいと考えています」
「そこには法律による秩序があるので」
「そういうことです」
 先生ははっきりとお話しました。
「警察はあるべきですし」
「法律もですね」
「確かに存在すべきです」
「水族館も動物園も法律の下にありますし」
「博物館法によって」
「はい、若しそれを否定するなら」
 動物園や水族館をです。
「その時はですね」
「法律を変えるべきです」
「世論として出して」
「そして国会に法案として出してもらって」
 政治家の人達にというのです。
「そのうえで、です」
「法律として成立させるべきですね」
「そうすべきであって」
「テロ等暴力に訴えてはですね」
「あってはならないです」 
 こうはっきりと言いました。
「まことに」
「左様ですね」
「それがあるべき姿でまことに自分が正しいことをしているから暴走してもいいというのなら」
「大きな間違いですね」
「もうその時点で」
 暴走をいいというその時点でというのです。
「間違っています」
「では」
「今回のことは僕はやるべきと考えています」
 勿論そこには暴走はありません、暴走は先生には全く無縁のことですし。
「琵琶湖に行きましょう」
「それでは」
 田中さんは笑顔で応えました、そうしてでした。
 先生達は田中さんとさらにお話しました、琵琶湖のことを。
 その後で自宅に帰ると皆に言われました。
「先生今日もよかったよ」
「水族館とか法律のお話がね」
「やっぱり先生はしっかりした考え持ってるね」
「尊敬出来る考えよ」
「うん、僕は自分が正しいならいいという考えはね」
 先生は今度は皆にお話しました。
「よくないと思っているからね、若しそこに悪意が加わったら」
「最悪よね」
「暴走してそこに悪意があったら」
「もう正しいって言っていてもね」
「とんでもないことになるよ」
「田中さんにも邪悪という言葉を出したけれど」 
 先生はさらに言いました。
「もうね」
「それで、だよね」
「最悪の事態になるよね」
「本当に」
「吐き気を催す邪悪って言葉があるけれど」 
 まさにという口調での言葉でした。
「自分が正しいから暴走していてもいいと考えていてね」
「そこに悪意が入ったら」
「もうだね」
「その時点で邪悪で」
「吐き気を催す位なんだ」
「そうなって碌でもない存在になるよ」
 先生は眉を曇らせてお話しました。
「そうなるとね」
「歴史でもいたね、そんな人達」
「そうよね」
 チープサイドの家族もここで言います。
「十字軍とかね」
「あと革命の時とか」
「正しいから暴走していいって言って」
「それでそこに悪意が入っていて」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「もう何やってもいいってなって」
「碌でもないことする人いるね」
「魔女狩りでもいたね、そんな人」
 チーチーは眉を顰めさせて言いました。
「本当に邪悪だったよ」
「そうした人日本にいるとも思うけれど」
 ダブダブもどうかという感じになっています。
「最悪ね、そうした人は」
「誰でもそんな人になったら」
 ホワイティも言いました。
「人間として終わりだね」
「人間として終わって」
 そしてとです、トートーは指摘しました。
「そこから果てしなく駄目になっていくね」
「人間じゃなくなるのかな」
 ジップはこう考えました。
「そうした風になると」
「というか何かしらの悪意が正義に入ったら」
 ポリネシアは蒼白になっている声でした。
「もう正義を理由にやりたい放題になるじゃない」
「そんな人達放置したら大変だよ」 
 ガブガブはとんでもないといった口調で言い切りました。
「しかも暴走していたら」
「その人達がいる場所は完全に終わるね」
 老馬が最後に言いました。
「いなくなってもその後に残るものはね」
「何もないね」
「若しその時何もなくても」
「後でどうなるか」
「言うまでもないわよ」
「そうだよ、そんな人達にこそ法律があるんだ」
 まさにとです、先生も皆に言います。
「若しこの人達が自警団かそうしたものになってるからって政府が放置したら」
「マフィアになって」
「とんでもないことになるよね」
「ああした人達が蔓延ったら」
「いつも犯罪を行うからね」
「そうなってしまうから」
 だからだというのです。
「放置したらその政府の国は終わってしまうよ、若しマフィアがいなくなってもね」
「それで終わりじゃないんだね」
「そんな自警団があって」
「それでマフィア化したのをほったらかしにしていたら」
「もうね」
「マフィアがいなくなっていても」
「悪質な犯罪者を放置している政府を見て市民はどう思うか」
 その場合のこともお話するのでした。
「そして政府を潰そうと言う人達が見たら」
「言うまでもないね」
「もう潰れるね」
「その時は」
「その政府は」
「やがてそうなるよ、日常的に犯罪を犯す組織の存在を知っていてい放置する」
 そのことはというのです。
「もう市民を守る気もないんだから」
「完全に終わりだね」
「そうなったら」
「完全に終わって」
「市民も去るし」
「政府を潰そうという人達が出たら」
「完全に潰せるよ、市民もその政府の為に何もしないよ」
 一切というのです。
「自分達を守ろうともしない政府にはね」
「そういうことだね」
「そしてその国は終わる」
「そうなるんだね」
「だから僕はそうした人達はよくないと言うし」 
 自分が正しいのだから暴走してもいいと言う人達はというのです。
「そこに悪意が入っているならね」
「絶対にあってはならない」
「若しそんな人達がいれば否定して」
「そして何かするなら法律だっていうんだね」
「そのうえで若し彼等が実際に行動に移して放置するならね」 
 その場合はというのです。
「その場所は終わってしまうと言うんだよ」
「成程ね」
「そこまで考えるのは流石先生だね」
「先生は法学者でもあるしね」
「法律のことも知っているし」
「そう、法律は確かなものであるべきで守るべきものでもある」
 先生はとても理知的なお顔で言いました。
「そういうものなんだよ」
「そうだよね」
「そんな人達が水族館に何かしようものなら」
「否定すべきだね」
「そうだよね」
「そう、法律でね。僕は話し合いで通じたら最善だと考えているけれど」
 それでもというのです。
「本当に残念なことにね」
「そんな人もいるから」
「もうそうした人にはね」
「法律しかないね」
「そして警察だね」
「そうだよ、まあ今のところそんな人達は直接こちらには来ていないよ」 
 八条学園の中の水族館にはです。
「だから安心していいよ」
「今のところないなら」
「それならだね」
「そうした人達が来た時のことで」
「その時にどうするかで」
「今のところはね」
「そうだよ、じゃあ晩ご飯の後はお風呂に入って」
 先生は微笑んであらためて言いました。
「飲もうかな」
「今日は何を飲まれますか?」
「日本酒にしようかな」 
 先生はトミーに笑顔で答えました。
「そちらにしようかな」
「日本酒ですか」
「うん、琵琶湖のお話をしてるとね」
「滋賀県のお酒が飲みたくなったんですか」
「今うちには滋賀県のお酒はないけれどね」 
 それでもというのです。
「そうしたお話をしていると」
「それならですか」
「せめてと思ってね」
「琵琶湖は日本にあるからですね」
「日本酒と思ってね」
 それでというのです。
「そちらにしたいけれどいいかな」
「はい、おつまみは何にしますか?」
「何があるかな」
「梅干しと枝豆があります」
「じゃあどちらもいいかな」
「はい、すぐに持って来ますね」
「織田信長さんは飲めなかったけれど僕は飲めるからね」 
 だからだというのです。
「楽しませてもらうよ」
「わかりました、それじゃあ」
「そしてね」
 先生はさらに言いました。
「今日もぐっすりと寝るよ」
「飲まれた後で、ですね」
「そうさせてもらうよ」
「わかりました、それじゃあ」
「はい、持って来ますね」
 早速一升瓶と杯それに梅干しと枝豆が持って来られてです。先生はこの日も飲んで楽しみました。そうして飲みながらも皆と楽しくお話をしました。








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