『ドリトル先生の野球』




                第十二幕  入団会見の後で

 その人と阪神タイガースの契約が正式に成立しました、ですがここで先生はその人が出した一つの条件を見てです。
 それで、です。皆にお家で鮟鱇鍋を食べている時にお話しました。
「契約に一つ面白い内容が入っていたね」
「といいますと」
「うん、阪神電車からの出向という条件で入団したね」
 トミーにお鍋の中のお豆腐を食べつつお話します、王子と執事さんも一緒です。
「そうしたね」
「そのことですか」
「あれはかつて村山実さんの阪神との契約条件だったんだ」
「あの伝説の名投手の」
「そう、阪神の大エースでね」
「名球会にも入ってるね」 
 王子は鮟鱇のお肉を食べながら応えました。
「確か」
「そうだよ、二百勝も達成してるしね」
「あの長嶋茂雄さんのライバルでね」
「あの人と数多くの名勝負も繰り広げているんだ」
「凄い人だったね」
「練習の虫という位いつも野球に一生懸命でね」
 それでというのです。
「阪神にかける想いも人一倍で」
「阪神も愛していたんだね」
「だから監督になった時も自ら動いて色々な作業もしていたんだ」
「阪神の為にだね」
「終生その心は阪神にあって」 
 そうしてというのです。
「野球に賭ける想いも立派で」
「スポーツマンとして優れた人だったんだ」
「長嶋さんには絶対に勝ちたいと思って挑み続けて打たれた時もあったけれど」
 それでもというのです。
「長嶋さん自身が自分にアンフェアなボールは一球も投げなかったと証言しているよ」
「一球もなんだ」
「数多くの勝負の中でもね」
 そうだったというのです。
「一番勝ちたい人に対してそうだったんだ」
「じゃあ他の人にも」
「言うまでもないね」
「そうだよね」
「そんな立派な人で」
 それでというのです。
「若し野球選手として大成出来なくてもね」
「阪神の親会社で働ける、生きられる様になんだ」
「ちゃんと契約に条件を入れていたんだ」
「そうした人生設計もある人だったんだ」
「そうだったんだ」
「それでその村山さんと同じ様に」
「彼も契約条件に入れていたけれど」
 先生はここで日本酒を飲みました、お鍋にとてもよく合っています。
「ちゃんとした人だなって思ったよ」
「ご自身の人生を考えている」
「若しもの時までね」
「そう思うと凄い人になるかな」
「そう思ったよ、ポジションは違うけれど」 
 それでもというのです。
「村山さんみたいにね」
「なれるかも知れないね」
「うん、本当にね」
「そうなって欲しいね、先生も」
「心から願ってるよ」
「そうだよね」
「うん、練習熱心で研究熱心で」
 そしてというのです。
「好人物で悪い遊びもしないっていうから」
「有望な人だね」
「かなりね、後は怪我に注意して」
「ちゃんとやっていけば」
「野球選手としてね」
「素晴らしい人になってくれるね」
「きっとね」 
 先生は笑顔で言い切りました。
「まるで村山さんみたいだって思ったのは事実だしね」
「どうしても連想するよね」
「あの人をね」
 先生は笑顔で答えました。
「どうしても」
「そうそう、本当にね」
「同じ逸話を聞くとね」
「どうしてもそう思うよね」
「その人と同じ様になってくれるか」
「そうね」
「背番号でもそうだね」
 先生は動物の皆にそのお話もしました。
「かつて付けていた選手を連想するよね」
「阪神は歴史が長いから余計にね」
「一番だと鳥谷さんでね」
「五番だと新庄さんだし」
「三十一番は掛布さん」
「四十四番は何といってもバースさん」
「そうした人達を想像するね」
 皆でお話します。
 そしてです、皆さらに言いました。
「何ていうかね」
「前に付けていた背番号連想するよね」
「色々な背番号でね」
「そうなるよね」
「うん、ただ前にお話した村山さんはね」
 先生はまたこの人のお話をしました。
「十一番だからね」
「十一番は永久欠番だからね」
「藤村文美雄さんの十番、吉田義雄さんの二十三番と一緒で」
「永久欠番だからね」
「もう後の人はいないから」
「残念ながらね」
「この三つの背番号は仕方ないよ」
 阪神においてはというのです。
「残念だけれどね」
「そうだよね」
「阪神の場合はね」
「その三つの背番号はね」
「あまりにも特別な背番号だから」
「阪神については」
「また別だね」
「そうだよ、ただ阪神は」
 このチームについてです、先生はこうもお話しました。
「この三つの背番号は特別として他の背番号はね」
「受け継がれているから」
「だからだよね」
「いいんだよね」
「その人も活躍してくれたら」
「背番号の歴史にもなるしね」
「日本は永久欠番が少ないっていう主張もあるけれど」
 それでもというのです。
「多いとそれはそれで問題という見方もあるよ」
「受け継がれるものがないからね」
「背番号の歴史もそれで終わるし」
「そう考えたらね」
「永久欠番が多いのも困りものだね」
「ニューヨークヤンキースなんかはね」
 アメリカのこのチームはといいますと。
「その歴史の中で永久欠番も多いけれど」
「凄い選手も多くて」
「それでなんだ」
「そのチームは永久欠番の人が多いんだね」
「その結果受け継がれる背番号の連想や歴史がその分少なかったり」
 先生はお鍋の中の白菜を食べつつお話しました。
「それにね、永久欠番が多いと今いる選手が付けられる背番号がね」
「あっ、減っていくね」
「その分ね」
「日本じゃ考えられないことだけれど」
「それでもだね」
「減っていくね」
「そう、だから永久欠番はその選手の人の功績を忘れないことでいいことでも」
 それでもというのです。
「多過ぎるとね」
「困るんだね」
「そうだね」
「どうしても」
「そうだよ、まあ普通はないね」
 永久欠番が多くなってその分現役の選手が付けることに困る様なことはというのです。
「一番多い巨人で六つだし」
「六つなんだ」
「っていうかヤンキースって六つじゃ効かないのね」
「そこまで多いんだ」
「あのチームって」
「うん、どれだけあったかな」
 少し考える先生でした。
「一体」
「いや、そこで考えるって」
「それだけで凄いよ」
「永久欠番なんて本来滅多にないのに」
「それが多いって」
「メジャーは名選手も多くてね」 
 それでというのです。
「そうなったけれどヤンキースは確かにね」
「多過ぎるんだ」
「そこまでなの」
「六つじゃきかない位に」
「二十一あるんだ」
 その永久欠番の数がというのです。
「これだけね」
「凄いね」
「それだけあるんだ」
「何かそこまで多いと」
「確かに問題かな」
「日本でも時々話題になるけれどね」
 このヤンキースのことはというのです。
「メジャーに行った日本人選手が入団したりして」
「基本他の国のプロ野球のことはネットで知る位だけれどね」
「日本人選手のことはね」
「普通にテレビでも放送されるね」
「新聞にも載るし」
「まあテレビや新聞の媒体の是非は置いておいて」
 そのうえでお話するというのです。
「ヤンキースにも日本人選手がいたし今もね」
「活躍しているんだ」
「そうなんだね」
「今だって」
「そうだよ、かつては伊良部秀樹投手、松井秀喜選手が活躍していて」
 それでというのです。
「今はあの田中将大投手が在籍しているよ」
「ああ、マー君だね」
「メジャーでも大活躍っていうけれど」
「そのヤンキースにいたんだ」
「あの人そうだったんだ」
 どうも皆彼がメジャーにいてもどのチームにいるかまでは興味がなかったみたいです。その辺り日本にいるせいでメジャーまで興味は向かわないということでしょうか、
「どのチームかまで考えていなかったけれど」
「そのヤンキースだったんだ」
「それはまたね」
「うん、そしてね」 
 先生は皆にさらにお話しました。
「そのヤンキースではね」
「今はだね」
「永久欠番が多過ぎで」
「二十一もあって」
「その分受け継がれる連想とか歴史も限られていて」
「選手の人達も付ける背番号に困るかもね」
「そうだね、まあ阪神は阪神の事情でね」
 それでというのです。
「永久欠番は三つで、そしてその三つ以外の背番号にね」
「前に付けていた選手の人の活躍のイメージが残っていて」
「そして歴史もある」
「そうしたものも楽しみながら観る」
「それも大事だよね」
「そう思うよ」
 先生はお酒を飲みつつ皆にお話します。
「彼が付ける背番号にもその歴史があるしね」
「何か阪神の背番号で四四になると」
 ジップがこの背番号について言いました。
「永久欠番じゃなくても凄い重みがあるね」
「バースさんの背番号だからね」
 チーチーはジップのその言葉に応えました。
「何といっても」
「阪神を日本一に導いた最高の助っ人だったわね」 
 ガブガブも言ってきました。
「今も語り継がれる位の」
「そこまでの人だったから」 
 ポリネシアも言います。
「今も重みがあるのね」
「真弓さんの七、岡田さんの十六、田淵さんの二二、江夏さんの二八、井川さんの二九、掛布さんの三一もそうでね」
 ホワイティは他の伝説の人達の名前を挙げていきました。
「金本さんの六、中西さんの十九も入るにしても」
「やっぱり四四は別格だね」
 ダブダブはホワイティの言葉に応えました。
「何といっても」
「バースさんって僕達が聞いても凄いから」
「まさに神様仏様っていう位にね」
 チープサイドの家族もバースという人についてお話します。
「他にこう言われたのって確か」
「前にお話で出た稲尾さんだけっていうしね」
「稲尾さんも物凄い選手だったにしても」
 トートーも言います。
「バースさんは同じだけ凄かったことは確実だからね」
「二年連続三冠王を獲得して」
 それでとお話したのは老馬でした。
「その中で阪神を日本一に導いたんだよね」
「ダイナマイト打線の軸になってね」
「真弓さん、掛布さん、岡田さんと一緒に打ちまくってくれて」
 オシツオサレツの二つの頭の調子もいいものです。
「阪神を日本一にさせてくれた」
「そうした人だったね」
「うん、阪神で四四は本当にね」
 実際にとです、先生もお話します。今度は糸蒟蒻と椎茸を食べています。
「数多くの背番号の中でもファンの人達の間で特別だよ」
「本当にそうだね」
「何といっても」
「バースさんの背番号だから」
「本当にね」
「別格よ」
「阪神ファンの人達が凄いことは」
 まさにとお話する先生でした。
「バースさんを今も深く愛しているからね」
「もう前の世紀のことでも」
「昭和のことだけれど」
「まだバースさんを愛していて」
「あの時の活躍を讃えているのね」
「そんなことが出来るのなんて阪神ファンだけだからね」
 本当にというのです。
「阪神は、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと」
「その日本一から僅か二年後から長い暗黒時代に入ったこともね」
 このことはどうしても少し苦笑いになって言うしかない先生でした。
「阪神なんだよね」
「ああ、そこからね」
「もうとんでもない長さの暗い時代に入ったね」
「負けて負けて負け続ける」
「そんな阪神になったね」
「うん、それでこの時代のことも今も言われているからね」 
 バースさんの様にというのです。
「本当にね」
「難儀なことだね」
「弱かった時もずっと言われるとかね」
「それも阪神なのよね」
「そうだよ、よくも悪くもね」
 例えチームがどうなろうともというのです。
「絵になるのが阪神なんだよ」
「どんな勝ち方をしてもどんな負け方をしても」
「それが絵になるのね」
「他のチームにはないよね」
「そんなことってね」
「ないと思うよ、何があっても華があって」
 それでというのです。
「人の記憶に残るからね」
「普通負ける姿まで絵にならないから」
「そこにまで華がないから」
「そう思うとね」
「阪神にしかない魅力で」
「阪神の凄いことでもあるけれど」
「その凄さがね」
 どうもとです、先生はさらにお話しました。
「チームの魅力なんだよね」
「負ける姿ですら絵になって華がある」
「それは凄いことでも」
「それでもね」
「その有様がずっと語り継がれるとか」
「いいものじゃないね」
「どうもね、昔グリーンウェルっていう助っ人を獲得したけれど」
 先生は皆にこうしたお話もしました。
「高い契約金と年棒を出したのに」
「活躍しなかったの?」
「それって結構どのチームでもあることじゃ」
「阪神確かに昔はバッターで多かったけれど」
「まあ他のチームにね」
「いや、キャンプに来なくてペナントはじまっても中々来なくて」
 それでというのです。
「やっと来たと思ったら少し試合に出て」
「まさかと思うけれど」
「すぐに帰って」
「そのままいなくなったとか」
「うん、実際にすぐに帰国して引退したんだ」
 そうなったというのです。
「神様の声を聞いたとか言って」
「それ嘘だよね」
「多分ね」
 先生もその辺りは見ています。
「何か代理人の人が問題があって」
「それでなんだ」
「色々あったらしいけれど」
「その助っ人の人のことはだね」
「阪神にとっては今も悪い意味でネタだよ」
 こう王子にお話するのでした。
「どうもね」
「そうなんだね」
「幻の助っ人と呼ぶ人もいるから」
 そのグリーンウェルという人をです。
「シニカルにね」
「ある意味サイン持ってたら凄いね」
「滅茶苦茶貴重よね」
「殆ど試合に出なかったみたいだし」
「それじゃあね」
「そんな人になるわね」
「うん、僕もその人のサインを持っていたら」
 先生は動物の皆にもお話しました。
「家宝だと思うよ」
「そうよね」
「何といってもね」
「ある意味において」
「そんなものになるね」
「本当にね、ただ普通に価値ある人のサインが多いのも」
 このこともというのです。
「阪神だよ」
「沢山の名選手もいたしね」
「監督さんやコーチの人も多かったし」
「そのことも思うとね」
「そうしたサインも多いね」
「阪神の場合は」
「若しもだよ」
 先生は少し真剣になってです、皆にお話しました。
「戦前の景浦将さんのサインを持っていたら本当に家宝ものだよ」
「確か戦前に活躍された人で」
 トミーは先生にその景浦という人について応えました。
「戦死されてますね」
「二次大戦でね」
「巨人の沢村栄治さんと同じですね」
「あの戦争で戦死している野球選手も多いんだ」
「そうした時代ですね」
「中日の石丸進一さんは特攻隊として散華しているしね」
「そうした野球選手も多いですか」
 トミーは先生のお話に悲しいお顔になりました。
「そうでしたか」
「そうだよ、日本の野球にもそうした歴史があるんだ」
「戦争もあった」
「甲子園球場も工場だった時があるしね」
「そうですか、何かそのことについても」
「色々調べると重要なことがわかってくるよ」
 先生はトミーにお話しました。
「その頃の野球のことについてもね」
「イギリスも戦争の中でスポーツはどうだったか」
「深く辛い歴史があるね」
「そうですね、戦争は避けられない時もありますが」
「しなければいけない時もね」
「その時に苦しみがあることは忘れてはいけないですね」
 二人でこうしたお話をしました、そしてです。
 先生は皆に野球のお話をさらにしていきました、その人の契約成立のことを心からお祝いしながらです。
 そして後日です、シリーズが行われている時にサラが来日してきました。サラはいつも通りお仕事でご主人と一緒に来ていますが。
 サラはいつも通り先生のお家に来てこんなことを言いました。
「日本って本当とお相撲と野球が好きね」
「スポーツではだね」
「ええ、あと剣道と柔道もね」
「そうだね、ただ後の二つはね」
「角界や球界みたいなものはないから」
 サラは先生に玄米茶を飲みつつお話します。
「だからね」
「テレビとかでああした放送はないね」
「あそこまでのものはね」
「どうしてもね」
「そうね、風物詩になる位ではないわね」
「うん、それでサラは大阪から来たね」
「そうよ」
 サラは先生にすぐに答えました。
「新空港からね」
「そうなんだね」
「それで神戸でお仕事のお話してるけれど」
 サラは先生にさらにお話します。
「いつも通り大阪見物楽しんでるわ」
「そちらもだね」
「それでこの時期の大阪は」
「野球、阪神で持ちきりだね」
「そうね、けれどね」
 それでもというのです。
「野球に興味のない私でもね」
「観ていてだね」
「自然と活気と親しみやすさを受けるわ」
「僕は日本に来てね」
 ここでこうも言ったのでした。
「最初野球に興味はなかったけれど」
「それがなのね」
「今ではね」
「阪神ファンになったのね」
「そうなんだ」
 サラににこりと笑ってお話します。
「これがね」
「変わったということね」
「かなりね、応援していて楽しいチームだよ」
「スポーツに興味のなかった兄さんがそうなる位だからね」
「阪神は別だよ」
「そうみたいね、それで大阪のことだけれど」
 ここでサラはこんなことも言いました。
「一つ思うことは」
「どうしたのかな」
「ええ、阪神一色になっているけれど」
 それでもというのです。
「大阪の食べものは健在ね」
「それはだね」
「そうも思ったわ」
「そうだね、そこはね」
「変わらないわね」
「美味しいままだね」
「たこ焼きもお好み焼きもね、それに」 
 サラはくすりと笑ってです、先生にこうも言いました。
「夫婦善哉もね」
「あっ、あの」
 夫婦善哉と聞いてホワイティは思わず声をあげました。
「サラさんあちらに行ったんだ」
「サラさん最近よくあのお店に行ってるね」
「来日する度にね」
 チープサイドの家族もお話します。
「ご主人と一緒にね」
「二人で行ってるね」
「元々夫婦で行くお店だしね」
 こう言ったのはトートーでした。
「あのお店は」
「織田作之助さんの作品でもそうだったね」
 老馬はこのお店が出ていて作品名にもなっている小説のお話をしました。
「夫婦で行ってたね」
「お椀が二つ出てね」
 笑顔で言ったのはガブガブです。
「量が多く見えるししかも二つで夫婦なのよね」
「二人で食べたら四つだけれど」 
 それでもと言ったのはジップです。
「それはそれかもね」
「どちらにしてもカップルか夫婦で行くお店ね」
 ポリネシアもこう言います。
「あのお店は」
「サラさんセンスあるよ」
 チーチーは来日すればご主人といつもそのお店に行くサラのその行いに思うのでした。
「凄くね」
「夫婦で行って仲良く食べる」
「確かにいいことだよ」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「あのお店美味しいし」
「夫婦でいつも行っていいね」
「うん、サラさんが行くなら」
 最後にダブダブが言います。
「それなら」
「僕もよく行ってるね」
 先生は皆に皆が言いたいことに気付かないまま応えます。
「大阪に行けばね」
「美味しいものを食べにね」
「あと文学のフィールドワークに」
「それで行くけれど」
「それでもね」
「サラさんとは違うよね」
「あれっ、違うかな」
 違うと言われてもです、先生は気付きません。
 そしてです、こうも言いました。
「僕とサラじゃ」
「ええ、違うわね」
 サラもこう言ってきました。
「それは」
「そうなんだ」
「私は夫婦で行ってね」
「小説の主人公達みたいにだね」
「そうしてるけれど」
「僕の場合は」
「一人でしょ」
「一人と二人じゃかなり違うんだ」
「そうよ、ああしたお店に行く場合はね」
 こう先生にお話するのでした。
「本当にね」
「そんなものなんだ」
「だからね」
 サラは先生に強い口調でお話します。
「兄さんは誰かに声をかけて行ってね」
「誰かがいないけれど」
「試しに日笠さんに声をかけてきたら?」
 こう言ったのでした。
「そうしたら?」
「サラもあの人のこと知ってるんだ」
「だって皆がいつもお話してるのよ」
 サラはその皆を見つつお話します。
「だったらね」
「サラも知ってるんだ」
「そうよ、お会いしたことはないけれど」
 それでもというのです。
「知ってるよ」
「そうなんだ」
「もう何も言わなくていいから日笠さんに一緒に夫婦善哉行こうって声をかけるの」
 もう有無を言わさない口調でした。
「それでその後で一緒に西宮神宮にでも行って」
「それでなんだ」
「住吉大社でも八条神宮でもいいけれど」
「神社にお参りしてなんだ」
「キリスト教徒だけれど気にしなくてね」
 ここでも有無を言わせない口調でした。
「日笠さんと一緒にね、それで兄さんの幸せを願って来てね」
「それじゃあね」
「そしてその時はね」 
 サラは今度は動物の皆にお顔を向けて彼等に言いました。
「貴方達はね」
「わかってるよ、サラさん」
「僕達もね」
「だから安心して」
「その時のことはね」
「もうね」
「貴方達は留守番で」
 サラは皆にはそうしてもらうことにしました。
「そしてね」
「先生はその日はね」
「日笠さんと一緒だね」
「一緒に夫婦善哉に行って」
「そしてだね」
「そう、そうして少しでも」
 先生を見つつです、サラは言うのでした。強い決意に満ちたお顔で。
「進めていかないとね」
「進めていくっていうと」
「兄さんでも気付くポイントに来たらその時にわかってね」
「その時になんだ」
「そう、もう気付かないから」
 このことはもうサラもわかっています。
「だからね」
「それでなんだ」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「もうね」
「これでいいのね」
「いいよ、ただね」
「ただ?」
「一つ思うことは」
 それは何かといいますと。
「兄さんってこのこと子供の頃から変わらないわね」
「子供の?」
「兄さんの周りにはお友達は多いけれど」
 それでもというのです。
「他の感情を抱く人も多いのよ」
「というと」
「そこに気付かないのがね」
 本当にというのです。
「兄さんだから」
「駄目だっていうんだ」
「そうよ、しっかりしてね」
「それじゃあ」
「そう、それでね」
 サラはさらに言いました。
「今度ね」
「日笠さんとだね」
「行ってきてね」
「その頃にはシリーズ終わってるしね」
「今は何戦目なの?」
「昨日福岡で五戦目が終わってソフトバンク三勝阪神二勝だよ」
「阪神劣勢ね」
「どうなるかわからないけれど」
 シリーズの方はです。
「今日は移動日でね」
「また明日からなのね」
「甲子園で試合だよ、だから明日と明後日でね」
「シリーズ終わるのね」
「決着がついてるよ」
「そうなるといいわね、私と主人はあと数日日本にいてね」
 そうしてとです、サラは自分のお話もしました。
「主人と二人でね」
「お仕事をしていくんだね」
「神戸に留まってね、ホテルに滞在して」
「頑張ってね」
「お互いにね、けれど」
 ここでこうも言ったサラでした。
「私福岡にも行ったことがあるけれど」
「昨日まで試合のあった」
「あの街もいい街ね」
「活気に満ちていてね」
「ラーメンも鶏も河豚も美味しくて」
「博多の河豚だね」
「どれも堪能したわ、また機会があればね」
「その福岡にもだね」
「行きたいわね」 
 笑顔でお話するのでした、サラは先生に福岡のお話もしてそのすぐ後で夕食だったのでそちらにも誘われてお好み焼きをご馳走になりました。
 そして先生はサラが強引に決めた通りに日笠さんを夫婦善哉にお誘いすると日笠さんは笑顔で快諾してくれました。 
 そのうえで約束の日に八条駅で待ち合わせをして一緒に電車に乗って大阪まで行って。
 夫婦善哉だけでなく自由軒のカレーも食べてでした、その後で。
 先生はこれまたサラが強引に決めた通りに神社に行くことにしましたがその神社は日笠さんのお勧めで西宮神宮となりました、大阪から神戸への帰り道にあってしかも阪神が日本一になったのでそのことに感謝したいことと。
 日笠さんが心からお願いしたいことがあるとのことなのでそちらになりました。
 こうして二人で西宮神宮に参拝しているとです。
 この時にです、ふとでした。
 先生はあの八条大学から阪神への入団が決定したキャッチャーの人を見ました、見ればトレーニングウェアを着ていてです。
 引き締まったお顔で真面目にでした、神様にお願いをしてそれから神宮を出ると走って何処かに行きました。
 その人を見てから日笠さんと一緒に八条町に帰ってです、それから。
 日笠さんをお家まで送ってからお家に帰ってその人のお話をすると皆まさかというお顔になってお話しました。
「まさかと思うけれど」
「神戸から西宮までランニングしてるとか」
「それはないよね」
「幾ら何でも」
「わからないね、けれどトレーニングしていることはね」
 このことはとです、先生は皆にお話しました。
「間違いないね」
「そうだね」
「契約してもだね」
「そこで喜ばないで」
「真面目に練習してるんだ」
「今も」
「そうみたいだね、こうした時期に真面目に汗をかける選手は」
 それこそとです、先生は皆にお話しました。
「凄いよ」
「そうだよね」
「寒いから怪我には注意だけれど」
「こうした時にも汗をかく」
「そのことはいいことだね」
「本当にね、汗をかいて」
 そしてというのです。
「身体を作っておかないとね」
「スポーツ選手はね」
「何といってもそれが仕事だから」
「いつもストイックであれ」
「そう思うといいことね」
「うん、いいものを見ることが出来てね」
 先生は皆ににこりと笑ってお話します。
「僕は幸せだよ」
「そうだね」
「ファンとしてはね」
「僕達もそのお話を聞けてよかったし」
「先生の気持ちよくわかるよ」
「本当にね」
「ただね」
 ここで皆言うのでした、先生に。
「そこでどうなの?」
「先生としては」
「今日は幸せと言ったけれど」
「日笠さんとはどうなの?」
「一体全体」
「うん、楽しく色々な場所を巡れてね」
 先生は皆に素直にお話しました、何も隠さずに。
「お話も出来てね」
「楽しい時間を過ごせたね」
「素敵な」
「そうなのね」
「本当にね。日笠さんもいつもにこにことしていたし」 
 先生は日笠さんのお話もしました。
「楽しんでくれたみたいで何よりだよ」
「まあ今はね」
「ここでベストだね」
「ベストとすべきね」
「先生が日笠さんと楽しい時間を過ごした」
「そして日笠さんもそう出来てね」
「それでベストだね」
 まさにというのです。
「本当にね」
「それでよしだね」
「先生はね」
「あくまで今は」
「ここで満足しましょう」
「僕達はいなかったけれど」
「日笠さんもしっかりした人でし」
 皆も日笠さんのお話をします。
「それならね」
「問題ないから」
「後は日笠さんの努力で頑張ってもらって」
「進めていってもらいましょう」
「サラさんもいてくれてるしね」
「皆全力で日笠さん応援してるね」
 先生はこのことはわかりました。
「本当に」
「するよ、それは」
 今日も先生のお家に遊びに来ている王子が答えました。
「僕達にしてみればね」
「いつもだね」
「そう、本当に応援しているから」
「それはどうしてかな」
「日笠さんの幸せの為で」 
 王子はさらにお話しました。
「先生の幸せの為だよ」
「僕の為でもあるんだね」
「そうだよ、本当に頑張って欲しいよ」
 王子は心から言いました。
「本当にね」
「そうだよね」
「絶対にね」
「日笠さんには頑張って欲しいわ」
「何かとね」
 動物の皆も言います、そしてです。
 トミーはここでこうも言いました。
「じゃあ先生また日笠さんにです」
「僕からだね」
「お誘いかけて下さいね」
「うん、サラも言うしね」
「はい、あの人も頑張っていますから」
 あのキャッチャーの人もというのです。
「それで、です」
「僕もだね」
「日笠さんに声をかけていって下さいね」
「そうさせてもらうよ」
 先生はこう応えはしました、ですが先生が今以上に幸せになるのはまだ先のことなのでした。
 そしてその野球選手は阪神に入団して。
 一年目から活躍して攻守共に阪神の主力選手となってでした、そのうえで。
 最後は名球会に入るまでの人になりました、全ては先生が見込んだ通りの人でした。


ドリトル先生の野球   完


                    2020・1・11








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