『ドリトル先生の競馬』




               第二幕  チューリンゲンの騎手

 先生は大学に登校してますは講義を行ってです、そうしてそのうえでご自身の研究室に入ってです。
 最初はミルクティーを飲みながら論文を書いていました、ですが暫くして王子が来て先生にこんなことをお話していました。
「今高等部の乗馬部で面白い子がいるらしいよ」
「面白い子っていうと」
「うん、普通科の子でね」
 学部はこちらでというのです。
「ドイツのチューリンゲン出身でね」
「チューリンゲンだね」
「先生も知ってるよね」
「うん、かつて東ドイツだった地域の一つで」
 先生は競馬観戦の時を思い出しつつ王子にお話しました。
「世界遺産もあったね」
「ワルトブルク城だね」
「あのお城にルターさんがいたんだ」
 宗教改革で有名なこの人がというのです。
「ザクセン公に匿われてね」
「教会の圧力を避けてだね」
「ローマ=カトリック教会のね」
「神聖ローマ帝国皇帝は発言を撤回する様に言ったんだよね」
「教会よりはずっと穏やかだったけれど」 
 それでもというのです。
「神聖ローマ帝国はカトリックの国だったからね」
「皇帝もその立場だったから」
「どうしてもね」
「ルターにそう求めるしかなかったんだ」
 教会を糾弾する一連の発言をです。
「絶対にね」
「そうだったね」
「それでもルターさんは発言を撤回しないで」
「皇帝も断固とした処置を取らざるを得なくなって」
 それでというのです。
「法律の保護買いに置いて」
「それでだったね」
「ルターさんは皇帝や教会に批判的だったザクセン公に匿われて」
「そのお城にいたんだね」
「そしてタンホイザーの舞台でもあるよ」
「ワーグナーさんの歌劇だね」
「そうした場所で」
 それでというのです。
「東ドイツでは有名な場所だったね」
「そのうちの一つだったんだね」
「あの場所はね」
「それでそのチューリンゲンからだよ」
「高等部の乗馬部に入って」
「そしてね」 
 そのうえでというのです。
「筋がいいって評判らしいよ」
「そうなんだね」
「乗馬は日本ではあまりする人いないね」
「うん、する人はいるけれど」
「欧州程メジャーじゃないね」
「それなりに乗ってきた文化はあるよ」
 このこと自体はというのです。
「戦いの時も乗っていたし」
「源義経さんとかだね」
「武士で位のある人もね」
「乗っていたよね」
「二次大戦までは軍隊に騎兵隊もあったし」
「そっちは秋山好古さんだったかな」
「そう、あの人の騎兵隊が活躍したね」
 このお話もです、先生は王子にしました。
「日露戦争の時は」
「そうだったね」
「日本にもそれなりの乗馬文化はあるよ」
「そうだね」
「けれど島国で尚且つ山が多いね」
 先生は今度は日本の地形のお話をしました。
「そうした地形だとね」
「乗馬は発達しないね」
「そう、狭くて山が多いと」
 どうしてもというのです。
「馬に乗りにくいからね」
「馬はやっぱり平地だからね」
「それで広い場所だとね」
「余計にいいね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「乗馬はやっぱり欧州だね」
「日本より乗馬に向いているから」
「盛んでもあるね」
「そういうことだね」
「特に東欧、ポーランドやハンガリーだね」
 こうした地域がというのです。
「物凄く強い騎兵隊も持っていたね」
「ポーランド騎兵は有名だね」
「その強さからね、それでドイツもね」
 今お話に出ているこの国もというのです。
「平地だからね」
「馬に乗る文化が定着しているね」
「かなりね、それでその彼もだね」
「チューリンゲンから来たね」
「乗馬についてはね」
「普通の日本人より親しんでいるね」
「そうなるね」
 こう王子にお話するのでした。
「そして僕よりもね」
「先生馬に乗れるじゃない」
 王子は先生に笑って返しました、二人で一緒の席に座ってそうしてミルクティーを飲みながらのことです。
「それでもそう言うんだ」
「いや、僕は乗れるのは老馬だけでね」
 その老馬を見ての言葉です、老馬は他の動物の皆と一緒に研究室の中でくつろいでいます。
「それでね」
「他の馬には乗れないんだね」
「それで駆けることもね」
 馬をそうさせることもというのです。
「出来ないからね」
「本当に乗っているだけだっていうんだ」
「そうだよ、だからね」
「乗馬といってもだね」
「その程度だよ」
 乗れるだけだというのです。
「それ以上は出来ないからね」
「まあ先生にスポーツはね」
「確かに無縁だからね」
「縁のないものだからね」
「実際にね」
 動物の皆もそこはと言いました。
「乗馬にしてもそうだね」
「駆けさせることの時点で駄目で」
「ましてや競技とかね」
「想像も出来ないね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「その彼よりも絶対にね」
「乗馬は落ちるっていうんだ」
「そうだよ」
 王子に笑って答えました。
「実際にね」
「そうなんだ、ただ馬に乗れるだけで」
 王子は笑ってお話してくれた先生にわりかし真面目に返しました。
「結構凄いよ、今の日本だとね」
「今の日本では乗馬は特別だからだね」
「スポーツでもね」
「かなり特別だね」
「本当にね」
「というか乗馬って今の日本だとよ」 
 ガブガブが言ってきました。
「部活としてやっている学校って少ないでしょ」
「大学ならあるけれど」
 トートーも言います。
「高校だと本当に稀だね」
「この学園はあるけれど」
 それでもと言ったのはホワイティでした。
「ある高校って本当に少ないよね」
「野球部やサッカー部、テニス部はあっても」
「乗馬部はないわね」
 チープサイドの家族もこのことを知っていて言います。
「馬を走らせる場所もないし」
「馬自体もいないからね」
「自転車部は最近有名だけれど」
 チーチーはこんなことを言いました。
「馬は違うからね」
「厩舎と餌が必要で」
 それでと言ったのはポリネシアでした。
「日本だとそうした場所がある学校となると」
「高校、都会だともう殆どないね」
「街だと仕方ないね」
 オシツオサレツは二つの頭でお話しました。
「グラウンドの確保自体にも苦労してるから」
「それが馬ともなると」
「このことは欧州でも同じだしね」
 ジップは自分達の故郷のことをここで思い出しました。
「イギリスにしても」
「農村とかならともかく」
 そうした場所の学校ならとです、ダブダブは言いました。
「そこは仕方ないかな」
「今の日本は都会に人が沢山いて」
 最後に老馬が言葉を出しました。
「それで学校もそこに集中しているからね」
「この八条学園はかなり広い敷地でね」
 先生はその皆にお話しました。
「それで大学に農学部もあるね」
「そこで沢山の家畜もいてね」
「馬もいるから」
「それで高等部も乗馬が出来るのね」
「乗馬が出来る場所もあるし」
「ここは特別だよ」
 八条学園はというのです。
「高等部も」
「そうよね」
「この学園ならではね」
「普通の学校だとね」
「乗馬なんて出来ないね」
「日本では特に」
「日本は島国で山も多くて」
 また日本の地形のお話になりました。
「今は特に都市部に人口が集中しているから」
「こと乗馬になると」
「場所もないし」
「お馬さん達を飼うのも大変で」
「それでだね」
「乗馬部がある高校は極めて稀」
「そうなってるわね」
「そうだよ、この学園以外には」
 それこそというのです。
「そうそうないよ」
「農業高校でもだね」
 王子が言ってきました。
「少ないね」
「とにかく場所が必要だからね」
「そうだよね」
「それに施設もね」
 馬を飼うそこがというのです。
「飼育も大変だし」
「馬は生きているしね」
「乗馬は大変だよ」
「特に学校の部活となると」
「本当にね、ただこの学園の高等部は」
 またお話する先生でした。
「本当に特別だよ」
「そうだね」
「そう、そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「僕は何かね」
「あっ、乗馬部に興味を持ったのかな」
「この前競馬をテレビで観て」
「そのことでもなんだ」
「この学園の高等部の乗馬部もね」
「どんなものかだね」
「少し観てみたくなったよ」
 こう王子に言うのでした。
「だから今日の夕方行ってみようかな」
「そうするんだ」
「高等部まで行ってね」
「それまでに論文を書くのかな」
「そうするよ」
 実際にという返事でした。
「そちらをしっかりと書いて」
「それからだね」
「乗馬部を見に行かせてもらうよ」
「そういうことだね」
「今の論文はアマゾンの蛇についてだけれど」
「アマゾンのなんだ」
「あちらの生態系は凄いからね」
 それでというのです。
「蛇もかなりだからね」  
「アナコンダとかだね」
「そちらを書いているけれど」
「もうすぐ終わりなんだ」
「今日中に終わるよ」
「そうなんだね、先生相変わらず論文書いているね」
「論文を書くのが学者だよ」
 これが先生の返事でした。
「研究をしてね」
「学んでそうしてだね」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「論文を書くものだから」
「それでだね」
「僕はいつも書いているんだ」
 論文、それをというのです。
「そうしているんだ」
「それもあらゆる分野の学問でだね」
「そうだよ、そしてアナコンダとかね」
「アマゾンの蛇にだね」
「書いているけれど」
「アマゾンって蛇も多いんだね」
「物凄くね」
 実際にというのです。
「サンゴヘビなんて蛇もいるし」
「サンゴヘビっていうと」
「外見は奇麗だけれど」 
 それでもというのです。
「猛毒を持っているんだ」
「そうだったね」
「アマゾンは毒蛇もいてね」
「サンゴヘビはその中でもだね」
「とりわけ毒が強いんだ」
「それで注意が必要だね」
「うん、出会った時は」
 先生は王子に真剣なお顔でお話します。
「要注意だよ」
「噛まれたら大変だね」
「本当にね」
「そうだね、まあ日本ではね」
 どうかとです、王子は落ち着いた声で言いました。
「サンゴヘビはいないしね」
「蝮はいてもね」
「そこまで強い毒じゃないからね」
「そうだね、ただ僕蛇だから」
 このことは紛れもない事実でというのです。
「噛まれたらね」
「下手したら死ぬね」
「沖縄のハブはもっと毒が強いよ」
「ハブだね」
「沖縄に行った時もお話したね」
「そうそう、毒が蝮より強くて」
 王子は先生のお話にすぐに応えました。
「要注意なんだよね」
「沖縄では実際にかなり警戒されているね」
「ハブの対策にも熱心だね」
「沖縄は暑いから」
 気候のことからもお話しました。
「蛇が棲息するには最適で」
「ハブも多いんだね」
「だから本当にね」
「ハブに噛まれる人が多いんだね」
「昔からね、だからハブの対策にね」
「熱心なんだ」
「そうだよ、王子の国でもだね」
 今度は王子にも尋ねるのでした。
「王子の国も毒蛇が多いね」
「ボアもいるしね」
 この種類の蛇もというのです。
「大きな蛇もね」
「アフリカも蛇が多いからね」
「だから注意しているよ」
「そのうえで対策を考えている」
「そうしているんだ、そして沖縄も」
「流石に王子の奥によりはましだけれど」
「ハブの害があるから」
 王子もその辺りの事情はわかります。
「熱心んしいているんだ」
「そうだよ、そしてアマゾンの蛇達は」
「とんでもなく多いんだね」
「数も種類もね」
「その蛇達の論文を書いていたんだ」
「そうだよ、尚アナコンダはとても大きいけれど」
 この蛇はというのです。
「毒はないし大人しいよ」
「ただ大きいだけだね」
「そう、ただ大人しい性格でも」
「あまりにも大きいから」
「人間だって人呑みなんだ」
「そのことはボアと同じだね」
「ニシキヘビともだね」
「同じだよ、蛇も大きいと」
 それこそとです、王子は言いました。
「人も飲み込むし」
「羊や山羊だってそうだね」
「家畜も襲われるんだ」
 王子のお国ではです。
「このこと日本ではないけれど」
「アフリカではあるね」
「そうだね、それでアマゾンも」
「鰐だって一呑みだし」
 それでというのです。
「人だってそうで」
「家畜もだね」
「だから怖くはあるよ」
 アナコンダはというのです。
「流石に二十メートル以上の個体は実在しないとも言われているけれど」
「二十メートル以上って」
「普通の学説では大きくて十メートル」
「それ位なんだ」
「かつていたティタノボアは十三メートルあったけれど」
「アナコンダはだね」
「そこまで大きくないとされているよ、ただ」
 こうも言う先生でした。
「そうした大きさのアナコンダの目撃談は多いんだ」
「アマゾンで」
「そして僕もね」
「二十メートル以上のアナコンダはいる」
「そう考えているよ」 
 先生としてはです。
「論文には書いていないけれどね」
「いるんだね」
「僕の考えではね」
「目撃談が多いからだね」
「それも昔からね」
「アナコンダは二十メートル以上にもなるんだ」
「アナコンダにしても相当に大きいけれど」
 それでもというのです。
「いることはね」
「いるんだ」
「そう考えているんだ」
「先生はそうなんだ」
「僕は通常の学説はそのまま受け入れないから」
「ちゃんと自分で学んで」
「そうしてね」
 そのうえでというのです。
「自分の説を出す様にしているんだ」
「だからアナコンダにしても」
「二十メートルの個体も」
 それだけの大きさになることもというのです。
「あるとね」
「考えていて」
「そしてね」
 それでというのです。
「機会があれば」
「実際にアマゾンに行って」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「この目で確かめたいと思っているよ」
「フィールドワークだね」
「それを行ってね」
 先生は王子に確かな声で言いました。
「そうも考えているよ」
「アマゾンは大変だけれど」
「先生が行くなら僕達も一緒だし」
「僕達が全力で先生をサポートするよ」
「アマゾンでも」
「そうするよ」
「皆がいてくれたら」
 それならとです、先生は皆に笑顔で応えました。
「僕も頼もしいよ」
「だってね、先生は放っておけないから」
「学問は出来るけれど生活力はないから」
「それに運動神経もないからね」
「危険な場所になんてね」
「一人で行かせられないから」
「そうそう、先生が危険な場所に行くと」
 王子もそのことについて言及しました。
「僕も心配だよ」
「そうだよね、王子も」
「これまで皆で色々な場所に行ったけれど」
「先生だけだとね」
「本当に心配だよ」
「先生は放っておけないのよ」
 皆は王子にも言いました。
「どうしてもね」
「それで若し先生がアマゾンに行くなら」
「その時は僕達も一緒だよ」
「何があってもね」
「いつも一緒にいるんだし」
「アマゾンでも一緒だよ」
「何があってもね」
「皆がいてくれたら先生は大丈夫だよ」
 王子も太鼓判を押しました、皆が一緒にいてくれるならとです。
「本当にね」
「そう、だからね」
「私達も頑張るわよ」
「その時は」
「先生となら例え火の中水の中」
「何処だって行くわよ」
 こう言うのでした、そしてです。
 皆で先生にこうも言うのでした。
「これまで色々な場所に行ったじゃない」
「皆でね」
「だからアマゾンでもね」
「皆で行くなら大丈夫」
「先生の知識と知恵、僕達のサポートがあればね」
「月にも行ったんだしね」
「そうそう、月にも行ったんだから」
 それならとです、王子は先生に言いました。
「もう、だよ」
「アマゾンでもっていうんだね」
「僕は今そう思ったよ」
「そうなんだね」
「大丈夫だよ、それに先生って慎重だから」
 このことも先生の美徳です。
「おかしなこともしないから」
「余計にいいんだね」
「軽率だとアマゾンみたいなところは」
 それこそというのです。
「余計に危ないじゃない」
「それはその通りだね」
「だからね」
 先生が慎重ならというのです。
「余計にいいよ」
「そう言ってくれるね」
「本当のことだからね」
 王子は先生ににこりと笑って答えました。
「大丈夫だよ」
「そうなんだね」
「何処でも大丈夫だよ」
 王子の言葉は太鼓判を押したものでした。
「絶対にね」
「じゃあアマゾンに行く時があれば」
「皆に助けてもらいながらね」
「頑張っていくよ」
「そうしていけばいいよ」
「そういうことでね、それと」
 先生はさらに言いました。
「今日の放課後は今話した通りにね」
「うん、高等部の乗馬部に行くんだね」
「そうするよ」
 王子に笑顔で言いました、そうしてです。
 先生は放課後までもしっかりと論文を書きました、勿論論文を書くにあたっての飼料を読むことも忘れていません。
 そして四時になった時にでした。
「さて、ではね」
「今からだね」
「高等部に行って」
「あちらの乗馬部を見るんだね」
「そうするんだね」
「そうするよ」
 こう動物の皆に言いました。
「これからね」
「うん、じゃあね」
「私達も一緒に行かせてもらうわね」
「いつも通り」
「そうさせてもらうわね」
「頼むよ。それとだけれど」
 先生はこうも言いました。
「僕の思うことね」
「思うこと?」
「それは何?」
「一体」
「いや、高校で乗馬っていうのも」
 このこともというのです。
「本当に珍しいね」
「そのことはね」
「確かにそうだね」
「やっぱり場所がないからね」
「馬を走らせるだけの」
「それで馬も」
「だからだよ」
 それでというのです。
「本当に高等部で乗馬部は珍しいね、じゃあ」
「うん、今からね」
「その珍しい部に行きましょう」
「そう思うと楽しみだし」
「それじゃあ」
「そうしようね、それと八条大学は生徒数が多いから」
 今度は先生が今勤務しているそこのお話をしました。
「それでね部活も多いね」
「先生が前にお手伝いした相撲部もそうだし」
「あらゆる部活があるね」
「体育会系も文科系も」
「これは高等部でもでね」
 こちらもというのです。
「相当凄いんだよ」
「そうなんだ」
「あちらも部活多いんだ」
「大学と一緒で」
「そうなのね」
「うん、もう皆が知っている様な部活はね」
 それこそというのです。
「全部ある感じだよ」
「そうした学校なんだ」
「部活動がそんなに多いんだ」
「生徒数も多くて」
「そうした学校なんだ」
「普通科に商業科、工業科、農業科、水産科、看護科、それに特進科ともあってね」
 科も多いというのです。
「それでだからね」
「まあこの学園広いしね」
「学園の敷地面積としては世界屈指よね」
「それだけに設備も凄いし」
「生徒数だってね」
「相当だからね」
「それで高等部もそうした場所でね」
 生徒数も学科も多くてというのです。
「凄いのよ」
「そうなんだね」
「それじゃあ迷わない様にしましょう」
「何なら地図も持って」
「そうして行きましょう」
「地図は持ってるよ」
 そちらはもう用意してあるというのです。
「僕もね」
「あっ、早いね」
「用意がいいね」
「じゃあ地図も持って」
「それで行きましょう」
「僕は高等部には行ったことが殆どないから」
 同じ学園の中でもというのです。
「用心はしておかないとね」
「先生結構方向音痴だしね」
「僕達がいないと結構道に迷うよね」
「だからだね」
「そこは気をつけないとね」
「自分が勤務している場所で迷ったら駄目だよ」
「洒落になってないよ」
 動物の皆も先生に言います。
 そして先生は皆にこうもお話しました。
「全国どころか世界各地から人が来る学園だね」
「そうそう、全体の半分が日本以外の国の人だよね」
「この学園はそうだよね」
「それこそ保育園からだったね」
「生徒さんも学生さんも職員の人達もね」
「半分が日本以外の国の人だね」
「かく言う僕もそうだしね」
 先生は皆に笑ってこのこともお話しました。
「だからだよ」
「そうだよね」
「先生にしてもそうだし」
「僕達もそうだしね」
「確か北朝鮮だけだったね」
「この国にいないのは」
「そうだよ、あの国と日本は国交がないから」
 それでというのです。
「在日の人はいるけれど」
「それでもだね」
「北朝鮮から来ている人はいなかったわね」
「その人達だけは」
「この学園には」
「そして他の国の人達はね」
 まさに北朝鮮の人達以外はというのです。
「いるんだよ」
「特に中国やアメリカの人が多いかな」
「東南アジアの人達も」
「中南米やアフリカからも大勢来てるし」
「欧州はかえって少ないかもね」
「その辺りはそうかもね。それで」
 先生はさらに言いました。
「世界各国、日本全土から人が来るから」
「寮もあるよね」
「それも沢山ね」
「学園の敷地内にあって」
「そこから学校に通ってるね」
「道に迷って寮とかに行かない様に」
 笑って言う先生でした。
「注意しないとね」
「そうそう、そこはね」
「間違えて女の子の寮なんかに行ったら」
「それだけで誤解されるからね」
「それは禁物だね」
「まあ先生はね」
 ポリネシアが言ってきました。
「紳士だからね」
「女の人におかしなことはしないから」
 トートーもこのことはわかっています。
「例え何があっても」
「これだけ女性を尊重する人いないよ」
「誰に対しても公平だしね」
 チープサイドの家族もこうお話します。
「それこそ間違ってもね」
「女の人に変なことしないよ」
「寮とかに近付いても」
 それでもと言うガブダブでした。
「絶対に安心出来るわ」
「というか先生が道に迷わない限り女子寮に近付くとか」
 ジップも言います。
「絶対にないね」
「けれど誤解されるなら」
 ホワイティはジップに応えて言いました。
「最初からしない方がいいからね」
「そうだよね、だから今回もね」
 まさにとです、チーチーは言うのでした。
「僕達が一緒じゃないと」
「地図に僕達がいれば」
「先生も大丈夫だよ」
 オシツオサレツは先生に二つの頭で保証しました。
「安心してね」
「女子寮に間違えていくことはないよ」
「もうそれこそだよ」
 ダブダブも太鼓判を押しました。
「先生が誤解されることもないよ」
「誤解されるとそれだけで厄介だから」
 最後に老馬が言いました。
「最初からないに限るからね」
「その通りだね、では今から行こうね」
 先生は皆の言葉にその通りと頷いてでした。
 そのうえで研究室を後にして高等部に向かいました、高等部は大学の正門を出て向かい側にその正門がありましたが。
 ふと門のところに立っているコートを着たマスクをしている女の人を見てです、動物の皆は彼等でお話しました。
「黒髪のロングヘアで」
「しかも切れ長の目」
「尚且つコートにマスクって」
「あの人がね」
「学園で有名な」
 まさにというのです。
「口裂け女?」
「あの妖怪だよね」
「この学園多いけれど」
「学園全体で怪談話が百以上あるっていうし」
「それだよね」
「間違いなくわよね」
「そうかも知れないね」
 先生も否定しませんでした。
「この学園は本当にそうしたお話多いからね」
「そうそう、とてもね」
「本当に百以上あるかお知れないし」
「そう考えたらね」
「口裂け女もね」
「やっぱりいるわよね」
「いてもね」
 実際にそうでもというのです。
「不思議じゃないからね」
「そうだよね」
「じゃあ今の人は」
「実際にかもね」
「口裂け女かも知れないわね」
「別に口裂け女でもね」
 先生はさっきの人が本当にそうであってもと言うのでした、四時の学園の中を皆と一緒に歩きながら。
「人に危害を加えないならいいしね」
「そうそう、妖怪でも幽霊でもね」
「人に危害加えなかったらいいし」
「イギリスでもそうだし」
「イギリスは妖怪や幽霊のお話多いし」
 皆で祖国のこのこともお話します。
「確か世界一だよね」
「そうしたお話の数は」
「妖怪じゃなくて妖精だけれど」
「もうそうしたお話が一杯あって」
「人に危害を加えないならね」
「それでいいからね」
 だからだというのです。
「日本、ひいてはこの学園でもだよ」
「人に危害を加えないなら」
「それでいいわね」
「じゃあそういうことで」
「口裂け女も問題なしね」
「そう、ただこの学園の口裂け女は驚かせるだけだけれど」
 先生は今度は口裂け女のお話もしました。
「あたし奇麗?って聞いてきてね」
「いいえって言ったらそこのままで」
「はいって言ったらマスク取るんだよね」
「それで耳まで裂けたお顔見せてね」
「これでも美人かって言って」
「それで驚かせてくるのよね」
「それだけだけれど」
 この学園の口裂け女はというです。
「それで実際もそうだったらしいけれど」
「ああ、何かね」
「先生前にお話してくれたね」
「口裂け女のお話は色々尾鰭がついてね」
「滅茶苦茶なお話になっていったんだよね」
「それもどんどん」
「三人連れとかカップルになったり」
 その口裂け女のお話はというのです。
「人に襲い掛かったリしてね」
「鉈とか包丁持って」
「美人って言うと襲う様になったんだよね」
「それでいいえって答えてもそうなって」
「それで人も殺す様になって」
「車で移動するとかオートバイ並の速さで走って来るとか」
「あと大鎌で電話ボックス真っ二つにしたとか」
 そうしたお話を皆でするのでした。
「ポマードが嫌いとか」
「それでポマードって言ったら逃げるとか」
「べっこう飴が好きで」
「それ与えたら追いかけて来ないとかね」
「もうそこは色々だったよ」
 本当にというのです。
「都市伝説、今の怪談話の一つでね」
「それでだったんだね」
「もうお話に尾鰭が付いてね」
「それでだよね」
「訳のわからないことになって」
「凄くなったんだね」
「そうだよ、けれど実際は」
 本来の口裂け女はといいますと。
「ただ驚かせるだけだからね」
「というか滅茶苦茶だよね」
「大鎌で電話ボックス真っ二つにするとかね」
「人を殺したりとか」
「もう無茶苦茶じゃない」
「子供が怖がるわよ」
「実際に子供が皆怖がってね」
 事実そうなってというのです。
「日本全体がそうなっていたんだ」
「ああ、やっぱり」
「やっぱりそうなったんだ」
「それはそうなるよね」
「当然として」
「そうならない筈がないよ」
「こうしたことは世界中にあるけれど」
 怪談話に尾鰭がついてとんでもない騒動になってしまうことはというのです。
「それでもね」
「日本でもそうで」
「口裂け女のお話も然り」
「そういうことね」
「要するに」
「そうだよ、しかしこれはかなり極端だよ」
 口裂け女のお話はというのです。
「お話が大きくなった事例としては」
「尾鰭がついてね」
「それで日本全体で騒動になることは」
「それはだね」
「本当に」
「あとトイレの花子さんやテケテケとか」
 先生はこうした妖怪の名前も出しました。
「他にも色々あるけれどね」
「口裂け女は極端なんだね」
「お話が大きくなったということで」
「そうなのね」
「うん、そうした意味でも面白いよ」
 先生は正門口裂け女ではないかという人がいた方を見ながら皆にお話しました。
「口裂け女のお話はね」
「そうしてだよね」
「他のことでもだよね」
「妖怪のお話も面白いよね」
「日本の妖怪のお話も」
「イギリスは確かに妖精や妖怪のお話が多いよ」
 先生もお国のお話をします。
「けれどね」
「日本もだよね」
「随分多いね」
「もう何ていうかね」
「あれこれとあって」
「それでだよね」
「何度か調べて論文を書いてきたけれど」
 日本の妖怪そして幽霊のこともというのです。
「その度に楽しい思いをさせてもらっているよ」
「学問は楽しく」
「そうしていくものだし」
「楽しいとね」
「それだけでいいことね」
「だからだよ」
 先生は皆にさらにお話しました。
「さっきの人は僕の予想ではね」
「やっぱり口裂け女よね」
「そうよね」
「それでその口裂け女を見ても」
「楽しいのね」
「うん、この世界にいるのは人間や動物、植物だけではないんだ」
 先生はこうも考えています、その学問の中でこのことを確信する様になったのです。
「神様もおられて」
「妖精もいるよね」
「そして幽霊も」
「それが世の中だね」
「そうだよ、幽霊と人間の違いは」
 これはといいますと。
「身体があるかないかだね」
「あっ、そう言われたら」
「幽霊は魂だから」
「魂だけの存在でね」
「身体がないだけで」
「人間ね」
「そうだよ、違いはあまりないよ」
 身体のあるなしだけだというのです。
「その実はね」
「そうだよね」
「日本じゃ生霊と死霊があるけれど」
「生霊は身体から魂が出ていて」
「死霊は身体が死んでいる」
「その違いで」
「魂だね」
 これのことだというのです。
「だから幽霊は人間とね」
「実は変わらないのね」
「全く違う様に言われていても」
「その実は」
「そうなんだ」
「そうだよ、その違いは」
 本当にというのです。
「些細なものなんだ」
「そうに過ぎないんだ」
「何ていうかね」
「人間と幽霊って別かって思ったら」
「そうでもないんだね」
「よく日本では怨霊のお話があるね」
 先生はこちらの幽霊のお話もしました。
「日本では一番怖いね」
「あっ、確かに」
「魔王にもなるし」
「悪魔よりもずっと怖いね」
「日本には鬼がいるけれど」
「日本の鬼がね」
「その鬼より怖いかもね」
 皆も日本の怨霊の知識があります、これも先生に教えてもらったことです。妖怪のことと同じです。
「物凄い力があってね」
「心も怖いよね」
「怨みと憎しみばかりで」
「とんでもない存在だよね」
「怨霊は生きていてもなるからね」
 死んでからなるものではないというのです。
「そのまま身体から出てね」
「生霊の怨霊ね」
「そういえば日本にそうしたお話もあったわ」
「吉備津の釜?」
「あの怪談だったね」
「じゃあ人間は生きていても」
「そう、魂が大事だからね」
 それでというのです。
「そこから怨霊になることもあるんだ」
「ううん、じゃあ本当にね」
「人間と幽霊って違わないんだ」
「身体があるかないかだけで」
「これといって」
「そうだよ、特に日本ではね」
 この国ではというのです。
「そうした考えだね」
「言われてみれば」
「確かに」
「そうなるね」
「先生の言う通りだよ」
「人間と幽霊の関係はあまりないね」
「僕は前からそう考えていたけれど」
 それがというのです。
「日本に来てから確信する様になったよ」
「そうなんだね」
「このことについても」
「日本に来てから」
「それではっきりしたんだ」
「日本人の幽霊観を見てね」
 それでというのです。
「わかったんだ」
「そうなんだね」
「まあ確かにね」
「日本人は幽霊の考えについても独特で」
「身体があるかないか」
「それだけのことだからね」
「そう、生霊と死霊を見ても」
 それでもというのです。
「わかったしね」
「それで怨霊が一番怖いけれど」
「日本だと」
「つまり人間が一番怖い」
「そうした考えでもあるのね」
「そうだね、人間と幽霊の違いはあまりなくて」
 それでというのです。
「怨霊の力を見ると」
「正直鬼や天狗より強いし」
「もう絶大だから」
「そうしたのを見るとね」
「日本ではね」
「人間が一番怖いね」
「魔王や邪神の名前は出せても」
 それでもとです、先生はお話しました。
「日本で怨霊は名前出せない場合が多いからね」
「そうそう、それあるよね」
「怨念があまりにも凄くて」
「祟りが気になるから」
「どうしてもね」
「何百年とか千年前の人でも」
 そうした遥かな昔の人でもというのです。
「丁重に弔わないと今も祟られるってお話があるね」
「そのお話日本結構あるよね」
「マクベスの幽霊より怖いし」
「もう普通にね」
「僕達も気をつけないとね」
「危ないよね」
「そう、間違ってもそうした怨霊を馬鹿にしたらいけないんだ」
 先生は温厚な中に真剣なものを含めてお話しました。
「本当に祟られかねないからね」
「やっぱり人間が一番怖いね」
「少なくとも日本ではそうね」
「悪魔の魔王や古代の邪神より怖い」
「それが人間なんだね」
 動物の皆も思うことでした、そうしたお話をしつつ高等部の乗馬部のグラウンドに向かうのでした。








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