『ドリトル先生の林檎園』
第八幕 林檎園に来て
先生達はこの日は飯田市の林檎園に動物の皆そしてトミーや王子達と一緒にお邪魔しました。するとです。
すぐに温和そうな顔立ちの六十過ぎ位の男の人が先生達を迎えました、その人は下坂さんという人で上下つなぎの作業服を着ています。
その人がです、先生達と挨拶を交えてからです、そのうえであらためてお話をしてくれました。
「この農園では林檎を中心に作っていまして」
「それで、ですか」
「はい、そして林檎からです」
主に作っているこの果物からというのです。
「ティーやお菓子、それにシードルもです」
「造られていますね」
「そうしています」
先生に笑顔でお話してくれます、見れば上下つなぎの薄茶色の作業服がとても似合っています。背が高くて引き締まった体格をしています。
「それで昨日ですね」
「はい、そちらのシードルをいただきまして」
それでとです、先生もお話します。
「そしてです」
「今日は、ですね」
「シードルのことなどをです」
「お聞きしたくて」
「はい」
そしてというのです。
「この農園自体のことも」
「お聞きにですか」
「そうしたいと思いまして」
それでというのです。
「お邪魔しました」
「そうですか」
「はい、あのシードルもとても美味しかったですし」
「あのシードルはうちの自信作なんです」
下坂さんは先生に笑顔でお話してくれました。
「勿論他のものもですが」
「アップルティーもお菓子もですね」
「ジャムも」
そうしたものもというのです。
「全部ですが」
「その中で、ですね」
「やはりシードルですね」
こちらがというのです。
「一番自信があります」
「左様ですか」
「はい、ただ」
「ただ、とは」
「いえ、こうしたものを作る林檎は」
下坂さんは先生にあらためてお話しました、皆を林檎園の中を案内してくれながら。広い林檎園の中で作業服を着た人達が働いています。そして林檎以外のものが栽培されている畑もあります。そこでも働いている人達がいます。
「限られていて」
「紅玉ですね」
「あれが一番です、逆に言えば」
「紅玉は、ですね」
「そのまま食べるには」
これにはというのです。
「どうにもです」
「酸味が強くてですね」
「はい、日本人が食べるには」
どうにもというのです。
「今一つです」
「適していないですね」
「そうです、それでうちの農園でも」
「アップルティーやアップルパイには」
こうしたものにはというのです。
「紅玉を使っています、ただ」
「ただ?」
「今実は困ったことがありまして」
「と、いいますと」
「孫娘の一人が」
「お孫さんがですか」
「今林檎のことで悩んでいて」
それでというのです。
「わしもそれを見まして」
「それで、ですか」
「どうしたものかと思っています」
「そうですか」
「今お話した通り林檎を加工したものにはです」
それにはというのです。
「紅玉が一番ですね」
「そうですね」
「しかしです」
それがというのです。
「孫は他にもいい林檎がないかと言って」
「他の林檎で造っていますか」
「主にアップルティーとアップルパイを」
この二つをというのです。
「工夫していますが」
「そうですか」
「はい、ですが」
「紅玉以外にはですね」
「うちの農園にはないんですが」
「おわかりにはですか」
「なっていなくて」
それでというのです。
「どうにもです」
「そうですか、ですが」
ここで先生は下坂さんに考える顔でこうお話しました。
「紅玉以外の種類で造ってみることはいいことですね」
「色々な種類の林檎で、ですか」
「はい、それも」
「そうなのですか」
「例えば僕はイギリス生まれですが」
このことからもお話する先生でした。
「イギリスでは林檎は青いものが主流です」
「ああ、そうでしたね」
「このことはご存知ですね」
「林檎園をしていますから」
だからだとです、下坂さんは先生に笑顔で答えました。
「ですからわしもそれ位は」
「この場合はです」
「アップルティー等にですね」
「青い林檎を使うので」
「それがイギリスでは主流ですね」
「はい、そうなりますし」
それでというのです。
「紅玉は確かに調理に向いていますが」
「それでもですね」
「他の種類の林檎を使ってみることも」
「いいことですか」
「色々試してです」
そしてというのです。
「見付けてみることもです」
「いいことですか」
「僕はそう思います」
「そうしたものですか」
「ですから」
それでというのです。
「お孫さんの試みも」
「いいですか」
「はい、若しかして」
こうもお話する先生でした。
「紅玉以上にいい林檎と出会えるかも知れないです」
「アップルティー等を造るにあたって」
「そうかも知れないです、それに」
「まだありますか」
「人の好みがありますので」
それぞれのというのです。
「紅玉は確かに合いますが」
「紅玉だけとは限らないのですね」
「そうです、ですから」
「孫のやっていることは」
「無駄ではないです、ですから」
「わしもですか」
「悩みとしてご覧になられるのではなく」
そうでなくてというのです。
「お祖父さんとして見守る」
「そうしていけばいいですか」
「僕はそう思いますが」
「試行錯誤も大事ですか」
「そう思います」
「そうですか、考えてみます」
「それでは」
先生は皆にお話しました、そしてです。
先生達は皆とさらにお話していきます、そのお話の後で先生は皆と一緒に林檎のセットを頂きますが。
そこで、です。動物の皆が先生に言いました。
「そうそう、林檎ってね」
「日本では赤いのが主流だけれどね」
「イギリスでは青い林檎だからね」
「そこは違うんだよね」
「どうしてもね」
「アップルパイやアップルティーでもね」
「種類が違うから」
こう言うのでした。
「そこはね」
「本当に違うよね」
「日本とイギリスじゃね」
「赤い林檎と青い林檎で」
「またね」
「違うよね」
「そう、そのことからね」
今回はというのです。
「僕も下坂さんにアドバイスしたんだ」
「そうなんだね」
「それじゃあね」
「それがあの人のお孫さんへの見方変えたね」
「そうなったね」
「そうだよ、じゃあね」
それならと言ってです、そのうえで。
先生はアップルティーを飲んで皆に言いました。
「これは紅玉を使っているね」
「そうだね」
チーチーもそのアップルティーを飲みつつ先生に応えます。
「これはね」
「紅玉の味も覚えると」
ジップも言います。
「わかりやすいね」
「日本の林檎ってそれぞれの味があるけれど」
ガブガブは林檎も好きなのでよくわかっているのです。
「紅玉はその中でも独特だから」
「アメリカの林檎に近い味なんだよね」
こう言ったのは老馬でした。
「日本の他の林檎と違って」
「日本の林檎は甘味が強いけれど」
しみじみとして言ったのはホワイティです。
「紅玉は違うから」
「だから紅玉を使っていると」
「独特の味になるからね」
オシツオサレツは二つの頭でお話します。
「それで今もね」
「僕達にもわかるね」
「ジャムにしても」
「ええ、違うわ」
チープサイドの家族は今はジャムをたっぷりとかけたトーストを食べています、それもかなり美味しいです。
「紅玉だとね」
「独特の味になるからね」
「確かに紅玉は合うね」
トートーも認めることです。
「ティーやお菓子に」
「それは事実よ」
ダブダブも言い切ります。
「まさにね」
「そう、そして」
最後に言ったのはポリネシアでした。
「先生が今言ったけれど」
「そう、紅玉で造ったティーやお菓子は確かに美味しいけれど」
それでもというのです。
「他の種類で造ってもね」
「いいよね」
「そうだよね」
「試してみることも」
「それもね」
「実験じゃないけれど」
先生は学問からもお話しました。
「結局造って食べてみないとね」
「わからないよね」
「そうしないとね」
「どの林檎を使えば一番美味しいか」
「それはね」
「実際にそうしないと」
「そうだよ、経験だよ」
大事なことはというのです。
「色々やってみてね」
「自分で確かめてみる」
「経験が大事よね」
「色々な林檎で造ってみる」
「ティーやお菓子にしても」
「そういうことね」
「そうなんだ、経験を積んでいって」
お料理でもというのです。
「わかっていくからね」
「実験みたいにね」
「それでそのことを見極めて」
「それじゃあね」
「そのことを見極めて」
「そしてそのうえで」
「お孫さんもわかっていくよ、それと」
さらにお話する先生でした。
「下坂さんがお孫さんを心配されていたことは」
「その必要はないよね」
「確かにそうね」
「変なことをしていると思ってたみたいだけれど」
「決して変じゃないね」
「むしろ面白いことをしている」
「そうよね」
「うん、そう思うから」
先生としてはです。
「あの人にもお話させてもらったんだ」
「そうだよね」
「何でもやってみる」
「そこからわかってくる」
「だからだね」
「いいね、それと」
さらに食べつつ言う先生でした。
「もう一つ思うことは」
「それは?」
「それはっていうと」
「何かしら」
「それは」
「うん、こうしたものはイギリスでも食べられるけれど」
そして飲めるというのです。
「日本のものの方が美味しいかな」
「こっちもね」
「そんな感じがするね」
「どうしても」
「このことは否定出来ないわね」
「僕達も食べてそう思うよ」
「林檎自体もだし」
肝心の素材もというのです。
「土壌もいいしね」
「日本の方がね」
「この長野県でもね」
「山が多いにしても」
「元々の土地がいいね」
「イギリスに比べて」
「イギリスは」
本当にというのです、先生も。
「林檎でもお料理はね」
「負けてるかな」
「日本に」
「何かお料理はね」
「イギリスは中々だよね」
「どうしてもね」
「そうだね」
また言う先生でした。
「そこは仕方ないかな」
「イギリスだとね」
「イギリスはお料理は弱いね」
「昔からだしね」
「これがいいって言われたことないから」
「アップルティーとかもね」
「日本よりも駄目で」
先生はその紅玉から造られたアップルティーを飲んで言いました、その味は確かに美味しいですがそれでもです。
少し残念なお顔になって言った先生でした。
「アメリカと比べてもね」
「アメリカはよく食べるよね」
「そうだよね」
「アメリカは林檎よく食べるね」
「それで林檎を造ったお料理もね」
「そのアメリカと比べてもね」
「アメリカのものの方が美味しいよ、ただ」
ここでまた言った先生でした。
「アメリカのお料理は実は美味しいよ」
「そうだよね」
「あの国はね」
「お料理悪くないよね」
「お肉のお料理だけじゃなくて」
「他のお料理もね」
「美味しいよ」
動物の皆もこのことはよく知っています。
「ボリュームもあるし」
「それでいてお値段も安いし」
「お料理は悪くないよ」
「あの国のお料理色々言われてるけれど」
「うん、イギリスよりもずっとね」
まさにというのです。
「いいよ」
「だよね」
「林檎を使ったお料理にしても」
「アメリカは広いけれどいい土壌の場所も多いし」
「そのこともあるし」
「素材もよくて」
「そう、あの国のはじまりは」
このことからお話する先生でした。
「イギリスからの移民からはじまったけれど」
「それでもだよね」
「アメリカのお料理はね」
「今はイギリスよりずっと美味しいね」
「本当に」
「土壌がよくて」
それにというのです。
「世界中から移民も来たしね」
「そのことも大きいね」
「イギリスからだけじゃないからね、あの国は」
「フランスやイタリアからも来てるし」
「日本や中国からもね」
「世界中から移民が来て」
「そのそれぞれの国の料理も入っていますからね」
トミーは林檎のケーキを食べながら言いました、そのケーキもかなりいい味で食べていて楽しいです。
そしてです、こうも言いました。
「だからね」
「美味しいよね」
「そうなんですよね」
「軍隊の食事も」
それもと言う先生でした。
「アメリカとイギリスじゃね」
「全く違いますからね」
「最近イギリスの軍隊の食事も変わって」
「あっ、何かレーションも」
「結構いいって言われているけれどね」
「動画サイトとかで言ってますね」
トミーはこちらから得た知識を出しました。
「そうでしたね」
「はい、そうしたところでね」
「イギリス軍の食事が紹介されていて」
「それを見るとね」
「美味しいですね」
「うん、結構ね」
そうだというのです。
「これがね」
「そうした評判ですね」
「イギリスも変わってきたかな」
「そうかも知れないですね」
「うん、そう思うと」
それならというのです。
「イギリスは違うかな」
「そうなったかも知れないですね」
「ただね、アメリカ軍はね」
今度はこの国の軍隊のお話をしました。
「もっとよさそうだよね」
「そうみたいですね」
「あの国はね」
「沢山の国から移民が来て」
「そう、そしてね」
それでというのです。
「そのお料理も入ってきているから」
「軍隊の食事も違っていて」
王子も言います。
「イギリスよりずっといいかも知れないね」
「本当にね、そう思うと」
まさにというのです。
「イギリスも確かによくなったにしても」
「日本やアメリカとは」
「落ちるかな、まだまだ」
「先生はそう思うんだね」
「どうしてもね、こうした林檎料理にしても」
今度はジャムをかけたトーストを食べますがそれも本当にです、先生が知っているイギリスの味とは違います。
「イギリスはこれからかな」
「他の文化の分野ではいいよね」
「誇れるね」
先生は王子にすぐに答えました。
「文学も科学もね」
「そうだよね」
「あらゆる文化の部門がね」
「けれど苦手なものがあって」
「それがお料理だね」
「元々の土壌も悪いことがあって」
イギリスのというのです。
「そこから味には色々言わない」
「そうしたエチケットもイギリスにあるね」
「そのこともあって」
「イギリスはね」
「お料理はずっとよくならかったのは事実だね」
「林檎料理も」
「そう思うと残念だね、それでも」
ここでこうも言った先生でした。
「日本はいい意味でね」
「料理の味についても言って」
「土壌もお水もよくて」
「食べものが美味しいね」
「そう、しかもアメリカみたいに移民は多くないけれど」
このことはアメリカと違います、アメリカは移民が形成した国ですが日本はそうした国ではないのです。
「世界各国の文化を取り入れて」
「お料理もね」
「それでね」
そのうえでというのです。
「こうしたお料理もあるんだよ」
「そうなるね」
「これはいいことだよ、後は」
「後は?」
「いや、一つ気になることは」
それはといいますと。
「お孫さんはどうしてね」
「アップルパイとかを紅玉以外で造ってみているか」
「そこがね」
「先生は気になるんだ」
「ただより美味しいものを生み出そうとしているのか」
「それだと何もないかな」
「うん、けれど目的は色々だね」
美味しいものを造ろうとするそれもというのです。
「そうだね」
「そうだね、例えば」
ここで王子は言いました。
「好きな人へのプレゼントとか」
「それもあるしね」
「うん、よくある話だね」
「だからね」
「こうしたことについては」
「理由は色々だよ」
そうだというのです。
「だから僕はそこも気になるんだ、まあプライベートにはね」
「人のね」
「立ち入らないことだけれど」
「それも紳士のマナーだね」
「人のプライベートを検索することは」
先生はこのことについてはどうかというお顔で言いました。
「よくないから」
「当然のことだね」
「というかね」
ここで動物の皆が言いました。
「人の個人情報狙う奴いるけれど」
「そういうことする奴って大抵悪者だね」
「脅したり悪用するから」
「絶対に悪い奴だよね」
「そんなことする奴はね」
「それが常だね」
「僕もそう思うしね、悪人はね」
先生は動物の皆にもお話します。
「個人情報を狙うことが多いね」
「プライベートを検索したりして」
「それで悪いことに使うから」
「そうしたことをするから」
「善人か悪人を見極めることの一つだね」
「このことは」
「そして先生は」
動物の皆は先生をあらためて見て思うのでした。
「そうしたこともしないから」
「いい人でね」
「そして紳士だね」
「それも立派な」
「いい人か紳士かはわからないけれど」
それでもと答える先生でした。
「そうした人ではありたいね」
「先生としてはね」
「どうしてもね」
「悪人や無頼漢でいるより」
「そちらの方でありたいよね」
「そう思うよ、僕としては」
本当にと言ってです、そしてでした。
先生は今は皆と一緒に林檎料理をアップルティーと共に楽しみました、そしてそれが終わってからでした。
皆であらためて農園の中を見て回らせてもらおうとするとです、そこに薄茶色のつなぎの作業服を着た長い癖のある黒髪を左右でツインテールにした少し吊り目のはっきりとした顔立ちの二十歳位の女の子が来ました。背は一六八位で胸がかなり目立っています。
その人から前から来たのを見てです、動物の皆は目を瞠って言いました。
「うわ、奇麗な人だね」
「モデルさんみたいね」
「作業服の着こなしもいいし」
「ここで働いている人みたいだけれど」
「ここにはこんな美人さんもいるのね」
「これはまた凄い美人さんだね」
「あの、ドリトル先生ですよね」
その人が先生に言ってきました。
「そうですよね」
「はい」
先生はその人に笑顔で答えました。
「僕がそうです」
「あっ、砕けた口調でいいですから」
女の人から先生に言ってきました。
「そこは」
「いいんですか」
「はい、あたしはこの口調ですけれど」
礼儀作法を守ったそれだというのです。
「それでお願いします」
「何か悪いけれど」
「悪くないですよ、先生達はお客様ですから」
だからだというのです。
「ですから」
「だからなんだ」
「はい、それでこれからのこの農園の案内役はあたしがします」
「貴女がだね」
「お祖父ちゃんに代わって、お祖父ちゃんこれから用事で長野の方に行きますんで」
長野市にというのです。
「あたしがやらせてもらいます」
「では宜しくね」
「はい、こっちこそ」
「そういうことでね、ただ貴女が下坂さんのお孫さんなんだ」
「下坂優花里っていいます」
自分から名乗ってくれました。
「高校を卒業してからこっちで働いています」
「高校を卒業してなんだ」
「はい、高校は農業高校で」
「将来この農園で働くからだね」
「そのことが決まってましたから」
それでというのです、もう案内ははじまっていて優花里さんは先生達を農園の中を先導して歩きながら案内しています。
見事な林檎園に加工品を造る場所、特にシードルの製造工場が目立ちます。働いている人達の表情は明るくて活気に満ちています。
その中を案内しながらです、優花里さんは言うのでした。
「ですから」
「高校は農業科で」
「それで卒業してすぐに」
「ここに就職したんだね」
「家族全員働いてます」
「家族経営だね」
「はい、ただ家族だけじゃ人手が足りなくて」
「そうだね、広くて規模も大きいからね」
先生は特にシードル工場を見ています、そこは結構な大きさです。
「だからだね」
「そうなんです、ですから」
「沢山の人も雇ってるね」
「そうしています、忙しいですが」
それだけにというのです。
「収益は結構あって」
「生活には困ってないかな」
「お陰様で、まあそっちは困ってないですが」
それでもとです、優花里さんはここで難しいお顔になりました。
そしてです、先生にこんなことを言いました。
「悩みはない訳じゃないですね」
「そういえばお祖父さんが言ってたけれど」
「アップルパイやアップルティーのことですね」
「貴女は色々な種類の林檎を使って造ってるんだね」
「時間のある時はそうして造って」
そしてというのです。
「食べています、試しに」
「紅玉以外の種類の林檎でもだね」
「そうしています」
「それはどうしてかな」
「今友達が入院してまして」
優花里さんは少し暗いお顔になって先生にお話しました。
「ちょっとしたことで」
「それでなんだ」
「盲腸の手術で」
お友達が入院している理由も言うのでした。
「退院した時にお祝いで」
「食べてもらおうとだね」
「それで飲んでもらおうと」
考えてというのです。
「一番美味しい林檎を使ったものをと考えて」
「造ってるんだ」
「紅玉を使うことは確かにオーソドックスですが」
それでもというのです。
「何かですね」
「オーソドックスだとだね」
「どうもってなりまして」
「それでだね」
「はい、色々やってみています」
「そういうことだね」
「はい、ただ」
どうしてもというのでした。
「何かこう」
「これはっていうアップルパイやアップルティーがだね」
「出来ないですね、紅玉以外ですと」
「日本の林檎は多くの種類がそのまま食べる為のものでね」
「調理して食べるとなると」
「少し違うからね」
「そちらは紅玉なんですよね」
このことは優花里さんもわかっているのでした。
「けれどそれが」
「どうかとだね」
「あたし思いまして」
「今色々とやってるんだ」
「はい、うちは幸い結構な種類の林檎を作ってますから」
勿論売る為です。
「それならってなって」
「その色々な種類の林檎達を使って」
「造ってます」
「そうした事情があったんだね」
「いや、けれどまだ」
「これはっていうものがだね」
「造れてないです、難しいですね」
こう言うのでした。
「アップルパイやアップルティーも」
「美味しいものを造ろうと思えば」
「本当に」
こうしたお話をしてでした、先生は再び農園の中を案内してもらいました。その後でお昼となりましたが。
お昼のメニューも農園で食べさせてもらいました、この農園の鶏を使ったお料理に畑のお野菜を使った炒めものにです。
デザートに林檎があります、そしてお酒はシードルです。
そのシードルを飲んでいる先生にチープサイドの家族が言います。
「考えてる人だね」
「しっかりとね」
「お友達の為で」
「退院祝いになんて」
「そこからはじまって一番美味しいものを探し出そうなんて」
「そうそう出来ないよ」
今度はオシツオサレツが二つの頭で言います。
「お祖父さんは心配してたけれど」
「その必要はなかったね」
「ああしたことなら問題なしだね」
ガブガブも太鼓判を押します。
「温かく見守手あげるべきだよ」
「むしろそうしないと」
今言ったのはダブダブです。
「駄目よね」
「ここは是非だね」
ジップも皆と同じ意見です。
「下坂さんとしては見守ってあげないと」
「そこでどうかと言うのは」
ホワイティが思うことはといいますと。
「お祖父さんとしてどうかってなるね」
「ちゃんと造ったものを食べてるっていうし」
トートーはこのことに注目しています。
「いいじゃない」
「造ったものを駄目だと言って捨てるならよくないけれど」
チーチーはトートーと同じ意見です。
「ちゃんと食べてるならいいしね」
「それならいいし」
老馬も思うことです。
「むしろいいことじゃないかな」
「紅玉が果たして一番いいか」
最後に言ったのはポリネシアでした。
「ちゃんと調べる意味でもいいことね」
「一番いいと思ったことが実はそうじゃなくて」
先生はチキンステーキを美味しく食べつつ言います、勿論お酒のシードルも美味しく飲んでいます。
「他にもあることはね」
「常よね」
「学問でもそうだよね」
「そのことを色々調べて確かめて学問はあるし」
「栄えていってるし」
「食べものだってそうだし」
「これはいいことだよ、それもお友達の為なら」
それならというのです。
「尚いいよ」
「いいことからはじまってるしね」
「いいことからいいものが出て来るならね」
「これはもう最高のことだよね」
「何といっても」
「そう、だからね」
それ故にというのです。
「今回のことはね」
「いいよね」
「そうだね」
「じゃあ僕達にしてもね」
「応援させてもらおうね」
「そうさせてもらいましょう」
「是非ね、人としてね」
このことから言う先生でした。
「そうさせてもらおうね」
「それがいいですね」
トミーはパンを食べつつ先生のお言葉に応えました、シードルはパンによく合っているので食事が進みます。
「僕達は」
「そう、そして下坂さんも」
「ご本人に言われた通りに」
「そう、見守るべきだよ」
ここはというのです。
「是非ね」
「それもお祖父さんならですね」
「余計にね」
血縁のある人ならというのです。
「そうするべきだよ」
「そういうものですね」
「親や祖父母の人達が見守ってくれると」
そうであればというのです。
「こんな心強いことはないからね」
「だからですね」
「ここは見守ってあげるべきだよ」
「心配するんじゃなくて」
「温かくてね、あとね」
ここで先生はこうも言いました。
「僕の見立てではね」
「先生の、ですか」
「うん、この農園の林檎達を見たけれど」
その種類をです。
「紅玉以上にアップルティーとかにいい林檎はないね」
「そうですか」
「うん、けれど試してみることはね」
そうした状況でもというのです。
「悪いことじゃないんだ」
「そうなんですね」
「そう、だからね」
「先生としてはですね」
「見守ってあげるべきとね」
その様にというのです。
「思っているよ」
「そうした状況でもですね」
「何でも駄目なら」
そう決めつけることはというのです。
「何もはじまらないよ」
「よくもならないですね」
「あれも駄目、これも駄目、出来る筈がないと思うなら」
先生は否定を込めて言うのでした。
「学問はしない方がいいよ」
「そうしたものですね」
「どうなのか、出来ると見て」
「やることですね」
「そして常にもっとよくなるとね」
「完成はないんですね」
「そうだよ、神のおられる場所は人間は永遠に至れないよ」
今度は神学からもお話するのでした。
「それだけ神と人間は違う、けれどね」
「神のおられる場所にですね」
「そう、近付くことは出来るから」
だからだというのです。
「駄目とか出来ないとか無理とかね」
「そうしたことはですね」
「そうしたことこそ否定して」
そうしてというのです。
「学ぶ、色々としてみる」
「それが学問ですね」
「そう、だからね」
それ故にというのです。
「優花里さんもね」
「ああしていっていいんですね」
「僕は素晴らしいことだと思うよ」
「結果はわかっていても」
「そう、やってみて」
「わかることもですね」
「大事なことだからね、ただね」
「ただ?」
「確かに紅玉は林檎料理に向いているけれど」
この農園の林檎で最も、というのです。
「それは事実でもね」
「それでもですね」
「自分でやってみて経験としてわかる」
「このことが大事なんですね」
「経験もまた学問に重要だからね」
それだけにというのです。
「優花里さんは今貴重なことを学んでいるんだ」
「そうですか」
「多分紅玉に落ち着くけれど」
「いいことですね」
「それでね、しかも林檎を食べているなら」
調理したそれをとです、先生は今度は林檎を沢山入れたサラダを食べました。生野菜の中にある林檎も美味しいです。
「身体にもいいしね」
「そのこともいいですよね」
「林檎は医者いらずだよ」
「ドイツの言葉でしたね」
「そう、そこまで身体にいいから」
それだけ栄養が豊富だからだというのです。
「健康の為にもね」
「食べるといいですね」
「トマトや人参もね」
見ればサラダの中にトマトもあります、人参は野菜炒めの中にあります。お野菜も実に豊富です。デザートの林檎のタルトだけではないです。
「身体にいいけれど」
「林檎もですね」
「身体に凄くいいんだよ」
「苺もそうだし」
王子はこちらのお野菜の名前も出しつつシードルを飲みました。
「赤いお野菜や果物は身体にいいんだね」
「そうしたものが多いね」
「そうだよね」
「だからね、林檎はね」
「食べて悪いことはないね」
「そう、健康の為にも」
ただ美味しいだけでなくてというのです。
「いいんだよ」
「それじゃあ優花里さんも」
「いいものをね」
「食べているんだね」
「本当にね、シードルにしても」
このお酒もというのです。
「いいしね」
「飲んでだよね」
「この美味しさはワインに負けないよ」
先生は楽しく飲んでいます、それでお顔が赤くなっています。
「本当に」
「そうだよね、日本じゃワイン程飲まれていないれど」
「この美味しさは知るとね」
飲んで、というのです。
「嫌いになれる筈がないよ」
「その通りだね」
「それとね」
さらに飲んで言う先生でした。
「ここのシードルは特にね」
「美味しいね」
「うん、いい味だよ」
「これなら幾らでも飲めるね」
「そう思うよ、甘いお酒は」
シードルがまさにそれです。
「ジュースの様でまたジュースと違う」
「そのよさがあるね」
「全くだよ、そして今日は」
「先生が楽しみにしていた通り」
「楽しい一日になっているね」
「そうだよね」
「正確に言えば今日もかな」
こうも言う先生でした。
「そなるかな」
「毎日楽しいからだね」
「だからね、毎日楽しいと」
先生が思っている様にです。
「最高に幸せだね」
「そうだよね、本当に」
「楽しく思える」
このことがというのです。
「幸せの原点だよ」
「そのこと自体がだね」
「まさにね」
こうも言うのでした。
「本当にね」
「先生は何でも楽しく思えるから」
「毎日ね」
「最高に幸せなんだろうね」
「幸せはすぐ近くにあるものだよ」
「青い鳥だってそうだったしね」
「そう、青い鳥は案外すぐ傍にいるから」
そうなっているというのです。
「だからね」
「先生にしても」
「幸せについてはすぐ傍にある」
「そう思ってるんだね」
「うん、実際にそうじゃないかな」
「ささやかでだね」
「すぐ傍にあるものだよ、つまり」
先生は幸せについてさらにお話しました。
「気付けばね」
「そこにだね」
「幸せはあるものなんだよ」
「その通りかも知れないね、幾ら贅沢を出来ても」
それでもと言う王子でした、先生のお話を聞いて。
「それでもね」
「そうだよね」
「幸せかっていうと」
「限らないね」
「そうだね、じゃあ」
「そうだよ、僕はね」
「幸せだね」
「とてもね、これ以上はない位に」
「それはどうかと思うけれどね」
王子は先生の今のお話には笑って応えました。
「またね」
「いや、本当にね」
「これ以上はっていうんだ」
「そう、幸せだから」
先生はあくまでこう思っています、ですが皆はそんな先生に優しいながらもやれやれといった表情を見せています。
そうしてです、動物の皆も言うのでした。
「もっとね」
「幸せになってもいいのに」
「それでなれるのに」
「今言った通り気付けばね」
「もう一羽青い鳥がいるんじゃない?」
「そうじゃない?」
「いや、もう充分いるからね」
ですが先生だけはこう言うのでした。
「満足しているよ」
「無欲なのはいいことだけれど」
「先生はすぐに満足するから」
「幸せって感じて終わるから」
「やれやれね」
「もっと幸せを求めてもいいのに」
皆はわかっていますが先生だけは本当にわかっていません、先生の青い鳥は実はもう一羽いるということに。