『ドリトル先生の林檎園』




               第七幕  幸せの林檎

 先生達は上田にも来ました、そうしてそこで真田家所縁の場所を巡りました、先生はその中で皆に言いました。
「いいね、やっぱりね」
「上田っていうと真田家だよね」
「幸村さんのお家だよね」
「何といっても」
「このお家だよね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「僕もここに来られてね」
「よかったんだね」
「そうなのね」
「先生も幸村さん好きだし」
「それで」
「うん、実は幸村さんはこの上田にはあまりいなかったけれどね」
 先生は明アにこのお話もしました。
「人質として越後にいたり京都や大阪で働いていたりしてね」
「そういえばそうでしたね」
 トミーが先生のお話を聞いて言いました。
「幸村さんは」
「そうなんだ、実はね」
「関ヶ原の後はずっと和歌山の方におられて」
「あそこに謹慎させられていてね」
 そのせいでというのです。
「大坂の陣でね」
「大坂に入って」
「そこで亡くなったからね」
「だからでしたね」
「この上田にはね」
 真田家の場所であり幸村さんの故郷ではありますが。
「その生涯であまりいなかったんだ」
「そうなんですよね」
「そういえば大坂の陣で生き延びたお話があるけれど」
 今度は王子が言ってきました。
「それでもね」
「うん、逃れた先は鹿児島だよね」
「結局上田じゃないからね」
「例え生き残っていたにしても」
 それでもというのです。
「上田じゃないからね」
「そこはどうしてもなんだね」
「そうだよ、上田にはね」
「幸村さんは本当にあまりいなかったんだね」
「そうだったんだ」
「むしろですね」
 トミーはしみじみとして言いました、その上田の地を見ながら。
「大阪の方にですね」
「縁があったかな、あと幸村さん自身は不本意でも」
「和歌山にですね」
「あそこには十数年いたからね」
 関ヶ原の後で謹慎させられていてです。
「お父上と一緒にね」
「ご家族ともですね」
「一緒にいたんだ、ただその時はね」 
 和歌山の頃はといいますと。
「謹慎させられていて」
「やっぱり不本意でしたね」
「このまま人生が終わるのかとも思っていたそうだよ」
「そう思うと悲しいですね」
「けれどね」 
 それがというのです。
「大坂の陣が起こって」
「それで、でしたね」
「そう、戦に出て」
 そしてというのです。
「戦国時代の最後を飾ったんだよ」
「戦国時代ってあれだね」 
「そうそう、大坂の陣で終わりだけれど」
 オシツオサレツが二つの頭でお話します。
「その最後の戦いでね」
「幸村さんが物凄い活躍するから」
「戦国時代の最後は」
「どうしても幸村さんって感じがするわね」
 チープサイドの家族もこうお話します。
「日本風に言うと大トリね」
「それが幸村さんだね」
「最後の最後に凄く悲しいけれど」
 ジップは幸村さんがその戦いで命を落としたことから思いました。
「恰好よかったね」
「まさに義に生き義に死す」
 チーチーの言葉には感慨があります。
「日本のヒーローだよね」
「そのヒーローが戦国時代の最後に出た」 
 ガブガブの言葉にも今は深い思うものがあります。
「素晴らしいことだよね」
「知略も武勇も尽くして家康さんを苦しめ追い詰めた」
 天下を握るこの人をとです、ホワイティも言います。
「そうそう出来ないよね」
「こうした人世界にもそうそういないんじゃないかな」
 老馬はこう考えました。
「ひょっとして」
「武士よね、本物の」 
 ダブダブは幸村さんに憧れを見て言いました。
「幸村さんは」
「武士といっても色々だけれど」
 トートーも幸村さんについて思いを述べました。
「幸村さんこそはだね」
「天下一の武士とか言った人がいたそうだけれど」
 ポリネシアも思うことでした。
「実際にそうよね」
「そう、幸村さんは天下一の兵、つわものと言ったのは確か島津家の人だったけれど」
 先生がその言葉に言及しました。
「実際にね」
「幸村さんはそうだったんだね」
「本物の武士でね」
「天下一のつわものだった」
「そうだったんだね」
「それに相応しい活躍を見せてくれたからね」
 大坂の陣、戦国時代最後の戦いにおいてです。
「幸村さんの評価が高いのは当然だね」
「むしろこんな人を無視したらね」
「どうかってなるよね」
「武勇も知略もあって」
「しかも立派な人柄でね」
「まさに本物の武士なのに」
「そんな人が無視されたら」
 どうかとです、動物の皆も言いました。
「おかしいよ」
「イギリスだとランスロットさんが無視される様なこと?」
「そうだよね」
「ランスロットさんは実在じゃないけれど」
「そんな風だよね」
「それ位のことよね」
「そうだね、そこまでのことだね」
 先生は動物の皆が円卓の騎士の中で一番有名な人を例えに出してお話することについてその通りだと返しました。
「例えると」
「そうだよね」
「イギリスで言うとね」
「あとホーン=ブロワーさんが無視されるとか」
「そんなところよね」
「この人も実在の人じゃないけれど」
「そうだよ、実在の人だとネルソン提督が無視される様な」
 先生はこの人の名前を出しました。
「そんなレベルだね」
「それってもうね」
「イギリスの歴史としておかしいよ」
「イギリスを救った人なのに」
「トラファルガーで勝ってね」
「幸村さんは確かに敗れたよ」
 このことはネルソン提督とは違います。
「けれど本当に義の為に生きてね」
「義の為に死んでね」
「素晴らしい武勇と知略を見せてね」
「戦国時代の最後を飾ったからね」
「戦国時代は応仁の乱ではじまって大坂の陣で終わったけれど」
 日本の戦乱の時代はというのです。
「その幕を降ろしたのがね」
「まさに幸村さんだよね」
「そうした意味で凄い人だから」
「それだけにね」
「幸村さんは凄いよね」
「無視されたら駄目な人よね」
「絶対にね、そしてその幸村さんをヒーローだとしているのが」
 まさにというのです。
「日本人だよ」
「わかってるってことだね」
「戦いは勝敗だけじゃない」
「敗者でも見るべきものがある」
「そういうことだね」
「義経さんを愛している国だからね」
 源義経さんです、源平の戦いで活躍しても兄である頼朝さんに狙われて最後は攻め滅ぼされたこの人をです。
「幸村さんだってだよ」
「敗れても素晴らしいものを見せたから」
「正しく評価しているんだね」
「幸村さん自身にあるものを」
「それでだね」
「そうだよ、勝ったことつまり結果が全てなら」
 それならというのです。
「もう何でもないよ、結果だけが全てなら」
「意味ないよね」
「それで終わりだよね」
「勝てば官軍ならね」
「そこにあるものは何もないよね」
「敗れた側にも、負けた人にも見るべきものは絶対にあるんだ」
 素晴らしいものはというのです。
「そしてね」
「幸村さんもだね」
「大坂の陣で素晴らしい活躍をしたから」
「今も語り継がれていて」
「僕達も知ってるんだね」
「そういうことだよ」
 まさにという返事でした。
「幸村さんの場合はね」
「大坂の陣が有名だけれど」
 王子がここで先生に言ってきました。
「他の戦でも有名だったね」
「関ヶ原の時だね」
「そう、この上田で戦ってるよね」
「そうなんだ、徳川家の軍勢が大軍でここに攻めてきたけれど」
 そうしてきたけれど、というのです。
「幸村さんとお父上の昌幸さんは勇敢に戦ってね」
「そしてだったね」
「そう、知略も使って」
 そうしてというのです。
「徳川家の大軍をね」
「向こうに回してだよね」
「そうして勝ったんだよね」
「そう思うと凄いね」
「この上田でも戦っていて」
「大坂の陣だけじゃない人だね」
「あの戦で一番有名だけれど」
 このことは事実でも、というのです。
「それだけじゃないことはね」
「覚えておくことだね」
「僕達も」
「じゃあ覚えておくね」
「しっかりとね」
 動物の皆も応えます、そして先生は皆にさらに言いました。
「あと松代もね」
「江戸時代になって移って」
「あちらも真田家に縁がある場所だね」
「そうなんだよね」
「そうだよ、真田家本来の土地じゃないけれど」
 それでもというのです。
「あの地もね」
「しっかりとだね」
「幸村さんに縁があるのね」
「そうなんだね」
「そうだからね」
 それでというのです。
「しっかりと行こうね。しかし」
「しかし?」
「どうしたの、先生」
「何かあったの?」
「思い当たることがあるの?」
「いや、今回の旅は思ったより何もなくて」
 それでというのです。
「意外に思ってるんだ」
「ああ、そのことね」
「先生の旅は色々とあるからね」
「普段から何かと頼まれたりするし」
「そして先生がそれを解決する」
「そうした風だからね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「今回何もないのは意外がな」
「そう言うとだよ」
 王子がここで先生に笑って言いました。
「これがね」
「うん、言った側からだよね」
「何かあったりするじゃない」
「そうだね、言われてみるとね」
 どうかとです、先生も笑って応えます。
「僕の旅はね」
「そうだよね」
「絶対に何かあるね」
「そして先生がその何かに向かう」
「それが常だよね」
「だからね」
 それでというのです。
「今回もだよ」
「何かあるっていうんだね」
「僕もそうだと思うよ」
「だとすると」
 本当にという先生でした。
「そろそろかな」
「そうじゃないかな」
「じゃあその何かにね」
「先生もだね」
「向かう気構えはしておくよ」
 是非にと言ってです、そのうえで。
 先生達は上田をよく見て回ってそうして三時にまた林檎のティーセットを注文して食べますがふとです。
 トミーがアップルパイとアップルティーを口にしてから先生に言いました。
「美味しいですが」
「ちょっと、だね」
「何かアメリカのものと違いますね」
「そうだね、この林檎のティーセットは」
 先生は干し林檎を食べつつ応えます、他には林檎のジャムをかけたヨーグルトもあってやっぱり林檎尽くしです。
「紅玉を使っているけれどね」
「それでもですよね」
「うん、アメリカの林檎とはね」
「また違いますね」
「アメリカの林檎はね」
 こちらはというのです。
「どうしてもね」
「アメリカの林檎の味で」
「紅玉はね」
「アップルパイとかに向いていてもですね」
「そう、日本で作っているから」
 それでというのです。
「どうしてもね」
「日本の林檎になって」
「アメリカの味とはね」
「また違うんですね」
「そうなんだ」
 こうトミーにお話します。
「土やお水の関係でね」
「そういうことですね」
「使う林檎の種類と」
「林檎の産地によってですね」
「違ってくるんだ」
「アップルパイとかの味もですね」
「どうしてもそうなるんだ」
 これが先生のお話でした。
「それはやっぱりね」
「当然のことですね」
「そう、日本で紅玉を使っても」
「完全にアメリカの味にはならないですね」
「そうだよ、日本の味になるんだよ」
 日本の林檎を使えばというのです。
「そうなるんだよ」
「そういうことですね」
「そこは仕方ないから」
「受け入れるしかないですね」
「そういうことでね、ただね」
 こうも言う先生でした。
「紅玉のお話をしたけれど」
「この林檎は、ですね」
「林檎独特の酸味が強くてね」
 そのお陰でというのです。
「アップルパイやアップルティーにはね」
「向いていますね」
「そうなんだ、日本人は林檎をそのまま食べることが多いね」
「そうですね、果物全体が」
 トミーは先生のそのお言葉に頷きました。
「そのまま食べられることが多いですね」
「他の国に比べてね」
「だから林檎もですね」
「そのまま食べることが多くて」
 それでというのです。
「そちらに向いている種類が多いけれどね」
「日本の林檎は」
「そう、けれどね」
「そのまま食べて美味しい林檎よりも」
「紅玉はね」 
 こちらの種類の林檎はというのです。
「調理してね」
「そうして食べる方がですね」
「美味しいしね」
「そうしたものに似ていますね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「そこはわかっておいてね」
「わかりました」
 トミーも先生の言葉に頷きました。
「そういうことですね」
「そうだよ、それとね」
「それと?」
「林檎のお話をしたから」
 だからだというのです。
「ちょっと林檎酒も飲みたくなったね」
「シードルですね」
「僕はあのお酒も好きだからね」
 にこりと笑って言う先生でした。
「だからね」
「それで、ですね」
「そう、今夜はそれを飲もうかな」
「いいですね、ただ」
 ここでこうも言ったトミーでした。
「長野県は確かに林檎の産地ですけれど」
「それでもだね」
「シードルは造っているでしょうか」
「林檎自体が有名でだね」
「シードルは」
「あったらだよ」
 その場合はというのです。
「その時はね」
「飲まれたいですか」
「うん、飲んで」
 そしてというのです。
「そうしてね」
「楽しみたいですね」
「長野県の地酒も楽しんだし」
 日本酒のそれをというのです。
「その後はね」
「シードルもですね」
「そう思ったからね」
 だからだというのです。
「今夜ね」
「じゃあ」
「飲もうね」  
 シードルがあればというのです、そうしたお話もしながら先生はこの夜はシードルが飲めればと思っていました。
 するとです、宿泊先の近くにあるお店にでした。
 そのシードルがありました、それで先生は皆に笑顔で言いました。
「これこそがね」
「うん、まさにだよね」
「神様のプレゼントだよね」
「先生がシードルを飲みたいって思ったから」
「プレゼントしてくれたんだよ」
「こうしてね」
「そうだね、神様に感謝しないと」
 動物の皆に笑顔で応える先生でした。
「いけないね」
「そうだね、じゃあね」
「神様に感謝して」
「そのうえでね」
「これからシードルを飲みましょう」
「そうしようね」
「是非ね、日本は色々なお酒が売られているけれど」
 このことは事実でもというのです。
「シードルはね」
「案外ないよね」
「どうしてもね」
「縁が薄いお酒ね」
「日本では」
「それで売っているから」
 そのお店にはというのです。
「今からね」
「入ってだね」
「それで飲むんだね」
「今からね」
「そうするんだね」
「そうしようね」
 そのお店は普通の居酒屋です、日本の趣が粋といいますか独特の風情を見せています。そのお店の中にです。
 先生は皆と一緒に入ってです、席に皆で座ってそうしてシードルを注文して飲んでみました。するとです。
 その味がとてもよくてです、笑顔で言いました。
「いや、やっぱりね」
「シードル美味しいよね」
「そのお酒も」
「日本酒もいいけれどね」
「ビールやワインも」
「けれどこっちのお酒もいいよね」
「シードルもね」
 先生は飲みつつ応えます、もうおつまみも注文していて席には焼き鳥や冷奴といったものがあります。
「いいね」
「本当に日本じゃあまりないけれどね」
「リンゴ酒はあるけれどね」
「こっちは結構あるよね」
「中華料理店とかでもあって」
「あれはあれで美味しいけれどね」
「そう、けれどね」
 それでもというのです。
「このシードルとはね」
「林檎酒はちょっと違うね」
「どうもね」
「何かが違うんだよね」
「どうにもね」
「そう、それがね」
 どうもというのです。
「僕は残念に思っていたけれど」
「それがね」
「このお店では飲めるから」
「だからだね」
「このお店はじっくり楽しもうね」
「今日はシードルを飲んでね」
「そうしようね、どうやらこのシードルは」
 楽しく飲みつつ言う先生でした。
「長野県の林檎から造ってるね」
「あっ、あんたそれがわかるんだね」
 先生の今のお話にです、カウンターからゴマ塩頭のおじさんが言ってきました。お顔立ちも服装も如何にも居酒屋の親父さんという感じです。
「通だね」
「そうですか?」
「そうだよ、うちのシードルはな」
「長野産の林檎から造った」
「本場のね」
 まさにというのです。
「シードルだよ」
「長野県のですね」
「そうなんだよ、うちの自慢の一つでね」
 親父さんは先生に笑顔で言いました。
「それがわかるのは嬉しいよ」
「そうですか」
「だからな」 
 それでというのでした。
「どんどん飲んでくれよ」
「そうさせてもらいます」
「こんな美味しいお酒造ってるの誰かな」
 王子もそのシードルを飲みつつ言いました。
「一体」
「そのこと気になるよね」
 トミーも王子の言葉に応えました。
「こんな美味しいお酒を誰が造っているのか」
「そのことがね」
「気になるね」
「そうだよね」
「ああ、それだったらな」
 親父さんは二人に応えてそうしてでした、そのうえでこのシードルを誰が造ってくれているのか教えてくれました。その人はといいますと。
「飯田の山のところの人でね」
「ああ、山の標高のあるところだと」
 先生は親父さんのお話からすぐにわかりました。
「林檎にいい気温ですからね」
「そうだよ、だからな」
「飯田のそこで、ですか」
「林檎を作っていてな」
「シードルもですね」
「それで他のもな」
 林檎から造るものもというのです。
「一杯造って売ってるんだよ」
「ジャム等もですね」
「アップルパイとかお菓子もな」
 そうしたものもというのです。
「造ってるよ」
「そうなんですね」
「そうさ、興味があるならそこに行ってみるかい?」
「はい」
 それならとです、先生は親父さんに笑顔で応えました。
「明日にでも飯田の方に」
「それじゃあね」
「ああ、あんたのことはそっちに連絡しておこうかい?」
「林檎農家の方にですね」
「そうしていいかい?」
「宜しくお願いします」
 こうして先生が親父さんにご自身と皆のこともお話しました、そしてそのうえで親父さんに農家の人に連絡してもらいました、これででした。
 先生達は明日飯田の林檎農家の人のところにお伺いすることになりました、先生はこのことが決まってから皆にあらためて笑顔で言いました。
「明日も楽しみだね」
「うん、そうだよね」
「明日は本格的に林檎に触れられるね」
「明日は何処に行こうかって思ってたけれど」
「決まったね」
「飯田ね」
「そこに行こうね」
「是非ね、いやこんな美味しいシードルは」 
 またシードルを飲んで言う先生でした。
「そうそうないからね」
「そうだよね」
「欧州じゃシードルよく飲むけれど」
「日本人はどうしても林檎はそのまま食べることが多いから」
「シードルも少ないけれど」
「このシードルは素敵な味ね」
「そうだね、とはいっても」
 ここでおつまみの焼き鳥や冷奴を見てです、先生はこうも言いました。
「焼き鳥や冷奴だと」
「日本酒かビールだよな」
 親父さんが笑顔で言ってきました。
「そっちだよな」
「それか白ワインですね」
「そうなるよな、地酒もあるぜ」
 長野の、というのです。
「それで飲むかい?」
「それでは」
「おう、どんどん飲みな」
 親父さんは笑顔で言ってその長野の地酒も出してくれました、それでそのお酒を楽しく飲んででした。
 その後で先生はお店を出てから旅館に戻って皆と一緒に旅館のお風呂でくつろぎますがその時にでした。
 湯舟の中で、です。こう言いました。
「じゃあ明日はね」
「飯田の方に行ってね」
「それでだよね」
「林檎農家の人のお家にお邪魔して」
「林檎園を見せてもらうんだね」
「シードルの造り方とかね」
 そうしてもらうというのです。
「今から楽しみだよ」
「そうだね、ただね」
「林檎って日本に入ったのは比較的新しいのに」 
 チープサイドの家族が言ってきました。
「それがね」
「随分定着しているのは凄いね」
「まるでこの長野県にずっとあったみたいじゃない」
 ダブダブも言います。
「それこそね」
「そうだよね、お蕎麦や梨と一緒に」
 トートーも言います。
「ずっと長野県にあった感じだよ」
「それで義仲さんや幸村さんも林檎を食べていた」
 こう言ったのはポリネシアでした。
「そうした風ね」
「そんなことはないのに」
「そう思える位定着してるよ」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「長野県といえば林檎」
「もうそんなイメージだね」
「いや、凄いね」
 まさにと言ったホワイティでした。
「そこまでになるなんて」
「何か日本ってそういうこと多いね」
 ガブガブはこのことを指摘しました。
「新しく入ったものが完全に定着しているとか」
「他のお野菜や果物もそうだし」
 チーチーも言うことでした。
「林檎もね」
「そうそう、定着していて」
 それでと言うジップでした。
「皆食べてるね」
「そうなるなんて」
 最後に言ったのは老馬でした。
「これも日本ならではかな」
「そうだね、新しいものを受け入れて」
 先生は日本の湯舟の中で言いました。
「そしてね」
「完全に日本のものにして」
「そしてだよね」
「こうして長野県でもね」
「楽しんでるよね」
「そうだよね」
「そう、本当にね」
 まさにというのでした。
「この国は農業でも面白い国だよ」
「新しいものをいいと思ったらすぐに受け入れて」
「それで自分達のものにする」
「農業でもね」
「そうする国だね」
「そうだよ、それが日本で」
 それでというのです。
「林檎もだよ」
「それで長野県じゃね」
「こんなに作ってるんんだね」
「それも楽しくね」
「そうしているんだね」
「そうだよ、じゃあ明日はね」 
 いよいよというのです。
「その林檎を見に行こうね」
「そうしようね」
「日本の林檎を見に行こうね」
「作っている場所をね」
「是非ね、それと」
 さらにと言う先生でした。
「さっきまた幸村さんや義仲さんの名前が出たね」
「うん、長野県の英雄だよね」
「あと藤村さんもそうだけれど」
「特に幸村さんはそうだよね」
「実際は長野県にいた時期は少なかったけれど」
「あの人達が林檎を食べていたと思うと」
 それはというのです。
「面白いよね」
「そうだよね」
「それはね」
「実際に面白いね」
「そんなことはなくても」
「面白いお話だね」
「そう想像することも」
 それもというのです。
「面白いね」
「そうだよね」
「じゃあ明日もね」
「幸村さんのことを考えながら」
「そしてだね」
「飯田に行くんだね」
「そうしようね」
「赤に赤でね」
 林檎の赤に真田家の赤だというもです。
「いいね」
「ああ、真田家って赤だったね」
「ドラマとかでいつも赤尽くしだね」
「赤い具足に旗にね」
「兜も赤で」
「全部赤だね」
「あれは元々武田家の赤なんだよ」 
 真田家が仕えていたこの家のというのです。
「それが真田家に受け継がれていてね」
「それでだよね」
「赤尽くしなんだね」
「赤い具足に旗にで」
「そうなってるんだね」
「そうだよ、それと日本の林檎は赤が多いから」
 それでというのです。
「赤に赤だね」
「そうだね」
「じゃあその赤と赤でね」
「想像することも楽しむ」
「それもするんだね」
「幸村さんが十勇士の人達と一緒に林檎を食べて」
 そしてというのです。
「楽しくお話をしていたらいい光景だね」
「そうだよね」
「実際はそうしたことなくても」
「そんな風景もいいよね」
「絵にしてもいいかも」
「漫画にしてもいいかもね」
「そう思うと」 
 王子も湯舟の中で言いました。
「幸村さんは是非生きていて欲しいね」
「大坂の陣からだね」
「うん」
 その通りだというのでした。
「秀頼さんと一緒にね」
「そのことは言われてるけれど」
 逃げ延びたとです。
「鹿児島の方にお墓もあるし」
「幸村さんのだね」
「秀頼さんのお墓もね」
「じゃあ本当かな」
「まあ公にはね」
 こちらの記録ではというのです。
「大坂の陣で討ち死にしているよ」
「武運つたなくだね」
「けれど首が三つあったというし」
「影武者かな」
「若し本当に幸村さんが死んでいても首は一つだね」
「実際にね」
「知略も凄い人だったから影武者がいてもね」
 この場合もというのです。
「実際にいたらしいから」
「それじゃあ」
「そう、それでね」 
 だからだというのです。
「幸村さんもね」
「影武者かな」
「そうも言われているしね」
「じゃあ本当にわからないんだ」
「うん、どうも秀頼さんの息子さんも」 
 この人もというのです。
「捕まって京都で斬られたとあるけれど」
「その実は」
「家臣の人に連れられて落ち延びたという説があれば」
 その他にというのです。
「岸和田の木下家に匿われていたとも言われてるんだ」
「木下家は確か」
 そのお家の名前を聞いてトミーが言いました。
「秀吉さんの正室のねねさんの実家ですね」
「お兄さんの家だよ」
「じゃあ秀頼さんとも近いですね」
「そうなるね、実のお母さんじゃないけれど」
「それじゃあ」
「うん、秀頼さんの息子さんをこっそりね」
 先生はトミーにお話しました。
「落ち延びたところを」
「匿っていたんですね」
「後でこの家次男さんが分家して小さな大名になってるけれど」
「その次男さんが実は」
「そう言われているんだ」
「よく幕府にばれなかったね」
 王子はこのことを不思議に思いました。
「そのお家に秘かに秀頼さんが逃げ延びたってお話もあったらしいけれど」
「当主さんの一子相伝のね」
「そうだったしね」
「秀頼さんもそうで」
「息子さんも」
「実はってお話もあるんだ」
「そっちの方が有力なんだね」
 王子もお話を聞いて思いました。
「むしろ」
「そうだね、あの人の方がね」
 秀頼さんの息子さんの方がとです、先生は王子に答えました。
「むしろね」
「ううん、本当に幕府にばれなかったね」
「顔を知ってる人がいたか」
 幕府にです。
「秀頼さんの息子さんのね」
「そのこともあってかな」
「あと幕府も実はわかっていても」
「死んだということになってるから」
「その人が何も言わないとね」
 それならというのです。
「いいということにして」
「言わなかったんだ」
「徳川幕府はそんなところもあったからね」
「あえて見逃すってことがだね」
「そこは頼朝さんと違ったから」
 敵は皆殺しにしていたこの人とはというのです。
「家康さんでもそうだったしね」
「優しい政権だったね、そういえば」
「徳川幕府はね」
「だからなんだ」
「血は最低限でいい」
 それが徳川幕府の考えだったというのです。
「新選組でも無用な殺戮はしていないしね」
「結構色々やっていても」
「幕府は最後までそうだったから」
 それでというのです。
「秀頼さんの息子さんもね」
「あえて見逃していたんだ」
「そして幸村さんも」
「大坂の陣で死んだのなら」
「公でそうなっていたらね」
 それでというのです。
「もういいとね」
「していた可能性もだね」
「あったかもね」
「鹿児島に逃れていても」
「実際幸村さんの長男さんは大坂の陣で切腹したと言われているけれど」
 まずはこの人からお話するのでした。
「生存説は置いておいて次男さんや娘さんは仙台藩で生きているんだ」
「徳川家を物凄く苦しめた人の子供なのに」
「そうだよ、奥さんも生き残っているよ」
 幸村さんのこの人もというのです。
「しかも長生きしているんだ」
「そうだったんだ」
「うん、そこは頼朝さんと違うから」
「頼朝さんだったら」
 王子はこの人が義仲さんや義経さんそして平家の人達に対してしたことから思うのでした。一体どうかとです。
「幸村さんの次男さんもね」
「殺してるね」
「奥さんや娘さんまではわからないけれど」
「そして幸村さんを匿ってるとか思ったら」
「秀頼さんもね」
「鹿児島、薩摩藩にね」
「かなり疑いの目を向けて」
 そしてというのです。
「戦もね」
「していたかもね」
「そこは全然違うんだね」
「頼朝さんはそんな人だったから」
 先生もどうかというお顔でお話します。
「今も評判が悪いんだよ」
「最初の武士の政権を開いた人でも」
「冷酷で暗いイメージが強いから」
「実際にそんな人ってね」
「王子も思ってるね」
「好きじゃないね」
 実際にというのです。
「世界の歴史じゃ結構あることかも知れないけれど」
「それでもやっていいかはね」
「別だしね」
 だからだというのです。
「僕もね」
「そして僕もね」
「先生は誰かを殺すとか絶対に出来ないからね」
「どんな生きものに対してもね。食べる時も」
 何でも食べる先生ですが。
「その命に感謝して」
「そうしてだよね」
「食べているからね」
「僕は菜食主義でも命を奪っていると思っているしね」
「野菜や果物だって生きているしね」
「植物もね。生きていると食べるけれど」
 そうしないといけないというのです。
「それならね」
「絶対にその命を頂くね」
「そう、だからね」 
 それでというのです。
「食べる時は」
「その命にだね」
「感謝して」
 そうしてというのです。
「食べているよ」
「そうだよね」
「命は」 
 それはとうのです。
「何でもあるからね」
「林檎にもだね」
「勿論だよ、ではその林檎達にね」
「明日は感謝しに行く日でもあるね」
「いつも以上にね」
 まさにというのです。
「そうした日になるから」
「明日も楽しみだね」
「そういうことだよ、さて」
 ここまでお話してです、先生は今度はお酒を飲みました。今度は長野県の地酒ですがそのお酒はです。
 そのお酒を飲んでです、先生はまた言いました。
「シードルもいいけれど」
「地酒もいいよね」
「そう、長野のね」
「それじゃあだね」
「今日も飲もう」
「そうしようね」
 王子も笑顔で応えてそうしてでした。
 皆で楽しく飲んで夜を過ごしました、そのうえで明日のことを考えるのでした。








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