『ドリトル先生の林檎園』




               第六幕  トミー達と合流して

 長野駅の前で、です。先生は動物の皆と一緒にトミーそして王子とお会いしました。そこには王子の執事さんも一緒です。
 王子は先生達と会ってすぐに笑顔で言いました。
「じゃあまずはね」
「まずは?」
「そう、まずはね」
 こう言ったのでした。
「お蕎麦を食べようね」
「王子電車の中でずっとこう言ってたんですよ」
 トミーが王子に顔を向けて笑ってお話しました。
「長野のお蕎麦を食べたいって」
「そうだったんだね」
「いや、神戸というか関西はうどんが主流で」
 このことからお話する王子でした。
「お蕎麦もあるけれど」
「本場かっていうとね」
「違うから」
 だからだというのです。
「是非本場のお蕎麦をと思ってね」
「それでだね」
「ずっと楽しみにしているんだ」
「そうだったんだね」
「それで先生」
 王子は先生に目をきらきらとさせて言いました。
「今からね」
「そのお蕎麦をだね」
「食べられるかな」
 こう先生に尋ねるのでした。
「今から」
「うん、丁度お昼だしね」
 それでと言う先生でした。
「それならね」
「そう、お蕎麦だね」
「お蕎麦を食べて」 
 そしてというのでした。
「長野での旅をはじめようね」
「それでは」
「今からね」
「ここのお蕎麦の美味しいお店をだね」
「紹介してくれるかな」
「いいよ」
 先生は王子の申し出に気さくに答えました。
「それではね」
「今からだね」
「食べよう」
「それじゃあね」
 二人でこうお話してでした、そのうえで。
 先生は王子だけでなく皆と一緒に長野市のお蕎麦の名店の一つに入りました、そこに入ってそうしてです。
 皆でお蕎麦を注文しました、そうしてです。
 まずはせいろを食べてです、王子は言いました。
「これはね」
「絶品だね」
「こんな美味しいお蕎麦あるんだね」
「関西で食べるよりもだね」
「ずっといいよ」
 こう言うのでした。
「本当にね」
「そうだね、しかもね」
「しかも?」
「長野のお蕎麦はね」
 これはといいますと。
「東京みたいにこだわりがないからね」
「ああ、僕達東京とは縁が薄いけれど」
「それでもだね」
「そう、東京はね」
 本当にというのです。
「お蕎麦へのこだわりが凄いんだよね」
「色々粋とかあって」
「東京の人、まあ江戸っ子だね」
「江戸っ子は粋を大事にするから」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「お蕎麦の食べ方もね」
「粋だね」
「それにこだわってるからね」
「色々食べ方も五月蠅いんだね」
「そもそもおつゆも違うしね」
「そういえばこのお店のおつゆも」
 トミーもせいろを食べつつ言います。
「関西のものとは違いますね」
「そうなんだよね、これが」
「関西のおつゆに欠かせないのは昆布」
 ホワイティが言いました。
「どうしてもね」
「昆布がないと」
 それこそと言ったのはダブダブです。
「関西のだしは成り立たないのよね」
「これはもう絶対だよね」 
 トートーも言います。
「関西の和食だとね」
「あのだしがいいんだよ」
 ガブガブも言います。
「もう入れると入れないで全然違うね」
「その昆布があると」
 それこそと言ったのはチーチーでした。
「まさに関西になるね」
「あとお醤油も違うからね」
 このことを指摘したのはジップでした。
「関西は薄口醤油で」
「普通のお醤油も味が違うね」
「そうそう、そっちもね」 
 チープサイドの家族もこうお話します。
「関西と他の地域だと」
「どうもね」
「関東のお醤油はあまり知らないけれど」
「北海道や沖縄では違ってたね」
 オシツオサレツは二つの頭でお話します。
「愛媛でもそうで」
「関西とはお醤油が違ってたよ」
「この長野でもそうだね」
 最後に言ったのは老馬でした。
「やっぱり違うよ」
「もう和食は」
 ここで言ったのはトミーでした。
「お醤油がないと」
「成り立たないよね」
「もうここからはじまるって言っていい位で」
「お醤油がない和食なんてね」
「もう考えられないし」
「本当にね」
「そのことはね」
 トミーはお蕎麦を食べつつ動物の皆に応えました。
「絶対だよ」
「お塩やお砂糖も欠かせないけれど」
「あと味醂もね」
「お味噌はもっとだけれど」
「お酢も忘れたらいけないよ」
「けれどお醤油はね」
「そうした調味料の中でもね」
 特にというのです。
「大事だよね」
「重要だよ」
「何といっても」
「それでそのお醤油はね」
「長野では長野のお醤油だね」
「それを基本として」
 ここでまた先生が言ってきました、粋ではないにしてもそれでも礼儀正しく紳士的な奇麗な食べ方をしています。
「おつゆが作られているからね」
「そうだよね」
「この通りね」
「美味しいね」
「こんな風に」
「そうなんだよ、これが東京だと」
 こちらはどうかといいますと。
「お醤油も辛くてね」
「しかもですよね」
 トミーが先生に応えました。
「おろし大根のお汁を使うから」
「トミーも知ってるね」
「はい、それで辛くて」
「それでね」
「噛まないんですね」
「噛むよりも」
 それよりもというのです。
「飲み込むんだよ」
「喉ごしを味わうんですね」
「むしろ噛んだら」
 東京でお蕎麦を食べる時にです。
「よくないと言われているんだ」
「幾ら麺類でもちょっとは噛まないと」
「そうしないとね」
「どうかって思うけれど」
「消化にもよくないよね」
「食べるにあたって」
「それが東京の食べ方でね」
 いい悪いは別にしてというのです。
「おつゆがそうだからなんだ」
「辛いからだね」
「噛むよりもね」
 先生はお蕎麦を誰よりも美味しそうに食べている王子に答えました。
「それよりもなんだ」
「飲む様になったんだね」
「そうなんだ」
 そうしたことだというのです。
「これがね」
「成程ね、けれど長野だと」
「粋なこだわりもないし」
 そうした辛さが元になるです。
「自由に食べていいよ」
「そうなんだね」
「そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「お蕎麦はこれからも注文するね」
「それはね」
 当然だとです、王子は先生に笑顔で答えました。
「やっぱりね」
「そうだね、じゃあね」
「今からだね」
「せいろのおかわりしようかな」
「ざるもあるよ」
「せいろはもう一杯食べて」
 そしてというのです。
「その後でね」
「ざるだね」
「そうするよ、この美味しさなら」
 それこそというのでした。
「幾らでも食べられるよ」
「それは何よりだね」
「うん、それとね」
「それと?」
「いや、思うことは」
 それはといいますと。
「長野ってどうしてお蕎麦が有名になったのかな」
「ああ、それはここが山国でね」
「それでなんだ」
「甲斐程じゃなくても田んぼが少なくて」
「お米の採れる量が少ないと」
「日本の主食はお米で税もそれで納めていたから」
 それでというのです。
「税、年貢も納めて残りのお米を食べようにも」
「ああ、足りないから」
「だからね」
「お蕎麦を栽培してだね」
「作ったんだよ」
 そうだったというのです。
「それで食べる様になったんだよ」
「そうだったんだ」
「まあ言うならお腹の足しだね」
「それじゃあ足りないから」
「そうして食べはじめてね」
「名物になったんだ」
 そのお蕎麦を食べながらです、先生は王子にお話しました。
「長野県ではね」
「そうした経緯があったんだよ」
「ううん、いい理由じゃないね」
「確かにそうだけれど」
 それでもというのです。
「今じゃこうしてね」
「名物になってるんだ」
「そして僕達もだね」
「食べているんだ」
「そういうことだね、じゃあ僕達は今は」
「どんどん食べていこう」
「それじゃあね」
「そしてね」
 お蕎麦を食べてというのです。
「お蕎麦の後は」
「林檎だね」
「長野県の林檎は神戸でも普通に売ってるけれど」
「折角長野県に来たから」
「食べてみたいしね」
「僕もそうしたよ、そしてね」
「実際にだね」
「美味しかったよ」
 その長野県の林檎はというのです。
「だから王子もね」
「食べればいいね」
「美味しいものは皆で食べる」
「そうすればいいね」
「そうだよ、じゃあね」
「今からね」
「食べよう」
「そうしよう」
 こうしたことをお話してでした、そのうえで。
 王子は今はお蕎麦を皆と一緒に食べました、せいろもざるも食べてそれから鴨なんばから天婦羅そばを食べましたが。
 その天婦羅そばについて王子はまた言いました。
「昔は海老なんてね」
「それはね」
 先生も王子の言いたいことを察して応えました。
「長野ではね」
「食べられなかったね」
「長野県は山国だからね」
「海がないから」
「食べられるかっていうと」
 それはというのです。
「やっぱりね」
「無理だったね」
「そうだったよ、けれどね」
「今はだね」
「そう、長野県でもね」
 今の様にというのです。
「食べられるよ」
「そうなったね」
「そうなったからには」
 それならというのです、先生は。
「楽しんで食べればいいよ」
「そういうことだよね」
「皆でね」
「それじゃあね」
「それとね」
 さらに言う先生でした。
「この天婦羅そばを食べると」
「ああ、愛媛だね」
「あの時を思い出したね」
「そうだったよね」
「あのお蕎麦も美味しかったね」
「坊ちゃんが食べたあのお蕎麦もね」
「思い出して」
「嬉しい気持ちになったよ」
 そうなったというのです。
「何かね」
「そうだね、それとね」
「それと?」
「もう一つあるんだ」
 それは何かといいますと。
「天婦羅そばは宮沢賢治さんの好物でもあったんだ」
「ああ、あの銀河鉄道の夜の」
「そう。あの人もね」
「そうだったんだね」
「あるお店に入ると」
 その時はといいますと。
「この天婦羅そばとサイダーを注文していたんだ」
「そして飲んで食べていたんだね」
「そうだよ、長野県とはあまり縁のない人かも知れないけれど」
「天婦羅そばにはだね」
「縁があるんだ」
 そうだというのです。
「あの人はね」
「それもまた面白いね」
「意外と文学に縁のあるお蕎麦かも知れないね」
「そう言われるとそうだね」
「そう思いながら食べると余計にいいかもね」
「そうだね、しかし先生はね」
 ここでこうも言った王子でした。
「日本のことに詳しいね」
「日本に来てからそうなったね」
「そうだよね」
「日本に来る前は」
 それこそというのです。
「あまり知らなかったよ」
「そうだったね」
「それがすき焼きを食べて」
 王子が紹介してくれたこのお鍋をというのです。
「それがね」
「変わったね」
「その時からね」
「僕の日本はね」
「あのすき焼きからはじまったね」
「うん、それまでも日本について色々調べていたけれどね」
 この辺り流石先生でしょうか、学問なら何でもという学者さんの。
「それでもね」
「今はだね」
「うん、本当にね」
 実際にというのです。
「こうしてね」
「お蕎麦も食べてね」
「長野県のことも知っていって」
「日本人よりも日本人かも知れないね」
「そうかな」
「だって温泉大好きで」
 このことがあってというのです。
「作務衣もよく着てるしお布団の中で寝て」
「最近日本でもお布団は減ってるかな」
「そちらで寝る人はね」
「けれど畳のお部屋の中でお布団で寝ることは」
「凄くいいんだね」
「これがまた気持ちいいんだ」
 こうして寝ることはというのです。
「凄くね、ベッドもいいけれど」
「お布団もだね」
「本当によくてね」
「今じゃお家ではだね」
「旅館でもね」
 そちらで泊まっている時もというのです。
「お布団だけれど」
「いいんだね」
「うん、凄くね」
 そうだというのです。
「そしてそれもだね」
「先生が日本人よりもね」
「日本人らしくなってるんだね」
「そうも思ったよ、日本語も上手だし」
「このこともだね」
「本当に普通に喋られてるね」
「どうも僕は語学が一番得意みたいだね」
 学問の中でというのです。
「動物語もすぐに覚えてたしね」
「ポリネシアに教えてもらってね」
「そしてね」
「日本語もすぐにマスターして」
「他の言語もね」
「中国語もアラビア語もヒンズー語もわかるよね」
「英語は勿論としてね」
 元々の奥にだけあってです。
「フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語もね」
「あとギリシア語もね」
「ラテン語も大丈夫だよ」
「ポーランド語も出来たね」
「うん、欧州の言葉はね」
 こちらはといいますと。
「大体わかるよ」
「そうだよね」
「ラテン語を覚えたらね」 
 それでというのです。
「欧州の言葉はかなり楽なんだよね」
「大体そこから出ているからね」
「特にイタリア語やフランス語やスペイン語はね」
「ラテン語と近いからね」
「ラテン語を覚えると楽なんだ」
 欧州の言語はというのです。
「ドイツ語にしてもね」
「そうだよね」
「そして欧州の言語と中国語は文法が一緒だから」
 今度はこちらの言語のお話をするのでした。
「漢字は覚えるにはコツがいるけれどね」
「アルファベットじゃないからね」
「そして数も多いからね」
 文字のそれもというのです。
「そこが大変だけれどね」
「それでも文法が同じだからね」
「そこから入るといいんだよ」
「そうなんだね」
「あとアラビア語やヒンズー語も覚え方があるよ、ただね」
 不意にです、先生は曇ったお顔になって言うのでした。
「日本語はね」
「そうはいかないよね」
「そうなんだよね」
「日本語の難しさは凄いですね」 
 トミーもこう言います。
「漢字もありますけれど」
「そこに平仮名と片仮名もあってね」
「文法も独特で」
「しかも読み方も色々でね」
「音読みと訓読みですね」
「この二つがあるから」
 だからだというのです。
「とんでもなく難しいんだよ」
「そうですよね」
「欧州ではバスク語が独特だけれど」
「スペインの中にある言語ですね」
「バスク系の人も独特だけれどね」
 民族的にというのです。
「このお話はすると長くなるから今はしないけれど」
「バスク語も独特で」
「そして日本語もね」
 今先生達が使っているこの言語もというのです。
「とんでもなく難しいよ」
「それは僕もわかります」
「こんな難しい言語他にないですよね」
「そう思うよ、僕も」
 実際にと答えた先生でした。
「学べば学ぶ程で」
「そう思われますね」
「日本語についてはね」
 こう言うのでした。
「本当に」
「そうですよね」
「その難しさたるや」
 さらに言う先生でした。
「本当に悪魔の言語だよ」
「とんでもなく難しいってことだね」
「この場合はね」
「まあ実際に日本語難しいからね」
「何でこうなったの?っていう位にね」
「物凄い言語だね」
 動物の皆もこう言います。
「何が何かね」
「ちょっと勉強した位じゃ覚えられないし」
「先生はそう思うと凄いよね」
「イギリスにいた時から日本語マスターしてたし」
「古典もすらすら読めるし」
「昔の言葉も解読出来るしね」
「古文書の解読もね」
 こちらについてもとです、先生はお話しました。
「これまたね」
「大変な技術だよね」
「特に日本語については」
「日本の平安時代とか戦国時代の文とかね」
「そうそう読めないわよね」
「そうだね、平仮名にしてもね」
 この文字もというのです。
「明治維新までずっと多かったから」
「えっ、今よりもだったんだ」
「今でもアルファベットより多いのに」
「それでもなんだ」
「今より多かったの」
「平仮名も」
「そうだったんだ、それを維新の時に整理したんだ」 
 そうしたことがあったというのです。
「そのことも頭に入れておかないといけないしね」
「何から何までね」
「日本語って難しいね」
「ひょっとして難しくなる方向に進歩したの?」
「そうも思えるけれど」
「否定出来ないね、僕も」
 どうにもというのでした、先生も。
「実際に難しいからね」
「そうだよね」
「とんでもない難しさだからね」
「実際にそうだし」
「それだとね」
「先生も否定出来ないことよね」
「文字が三つもあるのは」
 平仮名と片仮名、そして漢字とです。
「そこにローマ字入れると四つなのはね」
「日本だけだしね」
「英語や中国語やアラビア語は文字一つだし」
「ロシア語でもね」
「最近ベトナム語でもそうだね」
「あと韓国語も」
「それが日本語ではね」
 この言語はというのです。
「そうなっているからね」
「特別凄いね」
「本当に何でこうなったか」
「それがわからない位で」
「凄いよね」
「全くだよ、けれど」
 それでもと言う先生でした。
「学んでいて面白いよ」
「そこでそう言うのが先生だね」
「そうだね」
 オシツオサレツが二つの頭でお話します。
「学問のことなら何でもで」
「そう言うのがね」
「だから日本文学にも詳しいんだね」
 トートーの口調はしみじみとしたものでした。
「原語で読めるし」
「そして日本のことにも詳しいんだね」
 ホワイティもこう言います。
「この国のことにも」
「というか今の先生は」
「日本人より日本に詳しいところがあるし」
 チープサイドの家族もこう言います。
「物凄い日本通だよね」
「日本語についてもだし」
「今だってこんなお話も出来るし」
 ガブガブも思うことでした。
「先生の日本への知識は凄いものがあるよ」
「日本語もこれだけ知っていたら」
 それこそと言うダブダブでした。
「立派な日本語学者さんよ」
「実際にそちらの論文も書いてるね」
 チーチーはこのことを知っています。
「それも幾つか」
「日本語の文章もすらすら書けるし」
 ポリネシアも見ていて感心していることです。
「お話する感じも自然だから」
「そういえば先生の言葉ってそれぞれの言語に合ってるね」
 ジップはこのことに気付きました。
「英語の訛りがないよ」
「色々な言語を喋られるだけじゃないんだよね」
 最後に言ったのは老馬でした。
「それぞれの言語を奇麗に喋って書けるんだよね」
「やっぱり先生は語学が一番得意かな」
 王子も皆のお話を聞いて思いました。
「学問の中でも」
「いや、僕は医者だからね」
 先生は王子に笑って返しました。
「だからね」
「医学がだね」
「一番得意だよ、ただね」
「ただっていうと」
「流石にブラックジャックみたいにはね」
 この漫画の主人公の様にはというのです。
「いかないよ」
「あの漫画みたいに鮮やかにはだね」
「手術は出来ないよ」
「確かに先生はそんなキャラクターじゃないね」
「うん、天才ではないから」
 そこは間違ってもというのです。
「ただどうも一度読むとね」
「すぐに頭に入るんだね」
「それでよく覚えられるんだ」
「だから学問が得意なんだね」
「そうだと思うよ、有り難いことにね」
「そして医学もだね」
「やっぱり一番自信があるね」
 とはいっても先生は自信家かというと決してそうではありません、そして慢心したりすることはもっとありません。
「学問の中で」
「自分のお仕事だね」
「思える位ではあるよ」
「そうなんだね」
「うん、ただね」
「ただっていうと」
「僕はどうも得意不得意がはっきりしているから」
 それでというのです。
「運動とかは駄目だね」
「そちらの能力はないんだね」
「もうスポーツは何をしても」
 それこそというのです。
「駄目だからね」
「それは僕も知ってるけれどね」
「ダンスも駄目でね」
「あと歌もね」
「音痴だね」 
 こちらも苦手だというのです。
「それもかなりね」
「あれっ、音痴なんだ」
「うん、実はね」
 先生はお蕎麦を食べつつ少し困ったお顔を見せました。
「そうなんだ」
「それじゃあ先生の場合は」
「もう運動とか音楽はね」
「全く駄目ってことだね」
「そういう人間なんだ」 
 これが先生の言葉でした。
「僕はね、それでこの外見だしね」
「もてたことはないっていうんだね」
「そうだよ」
 ここでもこんなことを言うのでした。
「本当にね、ただな」
「ただ?」
「最近皆が色々言うんだよね」
 ここで動物の皆を見るのでした。
「結婚のことをね」
「ああ、それは当然だよ」
 まさにとです、王子は先生のその発言に納得して頷きました。
「僕だってそう思うしね」
「僕もですよ」
 トミーも言ってきました。
「結婚出来ますよ」
「先生ならね」
「そうだよね」 
 トミーは王子にお顔を向けて応えました。
「先生さえ気付けばね」
「それで結婚出来るよね」
「そうだよね」
「本当にね」
「そんな筈がないよ」
 先生だけが笑って言いました。
「僕が結婚出来るなんてね」
「先生って正直自己評価が低いね」
 王子は先生にやれやれといったお顔で言いました。
「実力以上に」
「そうかな」
「そうだよ、慢心したり自信過剰にならないことはいいことだけれど」
 それでもというのです。
「自己評価が低いことはね」
「低いかな」
「うん、低いよ」
 こう言うのでした。
「本当にね、結婚はね」
「出来るんだ」
「そう、出来るから」
 絶対にというのでした。
「もう少し自信を持ってね」
「それでなんだ」
「結婚を目指すとね」
 それでというのです。
「絶対にいいよ」
「目指せばお気付きになられます」
 ここでこう言ったのは王子の執事さんでした、見れば王子の横でしっかりとお蕎麦を食べています。
「それで全ては上手くいきます」
「そうですか?」
「私もそう思います」
「執事さんもですか」
「はい、如何でしょうか」
「いや、本当に」 
 先生だけがこう言います。
「僕はもてないですから」
「そう思い込まれることがです」
「よくないですか」
「やはり先生が自己評価が低いです」
「そうですか」
「はい、本当に」
 実際にというのです。
「先生のお人柄を見てです」
「結局一番大事なのは人格だからね」
「そうそう、そのことが大事だし」
「幾らお顔やスタイルがよくてね」
「お金も地位も持っていてもね」
「性格が悪いと」
 それならとです、動物の皆も言うのでした。
「どうしようもないからね」
「それだとね」
「先生は性格が凄くいいから」
「それじゃあね」
「絶対に結婚出来るし」
「幸せはもう神様が傍に置かれているし」
「そうなのかな、けれど」 
 それでもとです、まだ言う先生でした。ですが。
 皆はそんな先生に笑顔を見せてです、トミーがその皆を代表して言いました。
「神様は見ていますよ」
「そう言われると信じられるよ」
「はい、信じて下さい」
「是非共ね、それでだけれど」
 先生はトミーの言葉を受けて皆にあらためて言いました。
「今度は上田と川中島に行こうね」
「川中島っていうと」
 この地域の名前を聞いてです、すぐに笑顔になった王子でした。
「戦国時代のね」
「そう、有名だよね」
「川中島の戦いでね」
「あまりにも有名な古戦場だからね」
 それ故にというのです。
「長野県に来たから」
「だからだね」
「そう、是非ね」
 ここはというのです。
「来てみたかったし」
「今回を機会にだね」
「一緒にね」
 まさにというのです。
「あそこに行こうね」
「それじゃあね」 
「そして上田、あと松代もかな」
 先生はこの地域もと言うのでした。
「余裕があったら行こうかな」
「松代もなんだ」
「うん、あちらにもね」
「余裕があったらなんだ」
「行こうかな」
 こう言ったのでした。
「あそこも真田家に縁があった場所だからね」
「ああ、そういえば」 
 トミーは先生のお話を聞いて頷きました。
「上田から松代に移ってますね、真田家は」
「幸村さんのお兄さんがね」
「真田信之さんでしたね」
「あの人がね」
 まさにというのでした。
「あちらに移ったからね」
「だからですね」
「真田家はあちらにも縁があって」
 そしてというのです。
「明治維新までずっとあちらにいたんだ」
「二百数十年もですか」
「そうだったんだ」
「かなり長い間ですね」
「実は幕府に無理に移らさせられたんだ」
 先祖代々の時上田からそうさせられたというのです。
「真田家は幕府に嫌われていたからね」
「それわかるね」
「幸村さんの活躍見ればね」
「家康さん危ないところだったしね」
「真田丸でも煮え湯飲まされてるし」
「関ヶ原の時もだったし」
 動物の皆もその辺りの事情はわかります」
「そういえば徳川家って真田家に勝ってないんだよね」
「ずっとね」
「真田家が武田家の家臣だった時からね」
「全く勝ってないんだったね」
「そうなんだ、実は家康さんは武田家には自分だけで勝ったことがなくてね」
 先生もこのお話をします。
「三方ヶ原では惨敗したしね」
「この時が一番危なかったんだよね」
「本当に命が危なくて」
「すんでのところで助かって」
「何とかお城に逃げ込んだんだったね」
「長篠では殆ど信長さんだったし」
 この人と武田家の戦だったというのです。
「この戦の後でもずっと武田家には劣勢だったしね」
「長篠の戦の後でもって」
「相当だよね」
「まだまだ武田家は強くて」
「徳川家では敵わなかったのかな」
「そうだったんだ、まだ武田家は強かったんだ」
 長篠の戦いで負けてもというのです。
「その武田家にずっと劣勢で武田家が滅んで真田家が残っていてもね」
「その真田家には勝てなくて」
「関ヶ原でも大坂の陣でもそうで」
「それで真田家が嫌いだったんだ」
「それで何度がお取り潰しも考えたしね」
 幕府もそうしようちしたというのです。
「結局しなかったけれどね」
「ううん、それで松代に移らさせられたんだね」
 王子はここまで聞いてこのことを理解しました。
「何というかね」
「真田家も色々あったんだよ」
「そうみたいだね」
「けれど幕末までね」
「続いたんだね」
「そうだったんだよ」
「幸村さんみたいに粘り強かったんだね」
 こうも思った王子でした。
「つまりは」
「そうだね、結局最後まで残ったからね」
「随分と粘り強いお家だったんだね」
「諦めない戦をしていたしね」
「どんな敵でもだね」
「知恵も武芸も使ってね」
「だから恰好いいしね」
 王子はお蕎麦を食べつつ笑顔で言いました、王子のお蕎麦も皆のお蕎麦もあと少しだけになっています。
「そうした戦いのことも」
「そうだよね」
「特に幸村さんが恰好いいね」
「その人柄もね」
「うん、ただ真田家全体がなんだ」
「そうだよ、知恵と勇気を兼ね備えていて」
 そしてというのです。
「凄く強くてね」
「恰好いいんだね」
「武士というには少し特殊で」
「忍の格好よさも入ってるんだよね」
「十勇士のこともあってね」
「あの人達は実在じゃないんだよね」
「モデルになった人達も入れたら実在していたよ」
 先生は王子にもこのことをお話しました。
「巷談や創作の世界だけかというと」
「そうでもないんだ」
「そうなんだ」
「そうだったんだ、実在とも言えるんだ」
「十勇士の人達もね」
「成程ね、じゃあその真田家所縁の場所にも」
「皆で行こうね」
 こう言うのでした、王子にも他の皆にも。
「そうしようね」
「それじゃあね」
 王子が皆を代表して頷きました、そしてです。
 王子はお蕎麦の残りを食べて先生に言いました。
「さて、じゃあね」
「お蕎麦を食べたらだね」
「長野市を案内してくれるんだね」
「うん、そうさせてもらうと」
 先生は王子に笑顔で答えました。
「是非ね」
「そうだよね」
「それとね」
「それと?」
「林檎も食べようね」
 先生はこちらも忘れていませんでした。
「そうしようね」
「ああ、林檎もだね」
「食べようね」
「やっぱりだね」
「そう、しっかりとね」
 長野県名物のこれもというのです。
「食べようね」
「そうだよね、林檎もね」
「忘れたらいけないから」
 長野県に来たならというのです。
「あと梨もね」
「わかってるね」
「あと長野牛も」
「牛も?」
「うん、和牛はね」
 こちらの牛達はといいますと。
「日本の各都道府県にあるね」
「うん、多くの都道府県にね」
「神戸牛もそうだけれどね」
「結構色々な場所にあってね」
「奈良県も滋賀県も三重県もね」
「岐阜県も有名で」
「それでね」
 そうした他の都道府県の牛達と同じくというのです。
「長野県の牛もね」
「食べたいんだ」
「そう、そしてね」
 王子は先生に笑顔でさらに言いました。
「食べる時はね」
「何かな」
「すき焼きがいいよ」
 こう言ったのでした。
「ここはね」
「すき焼きだね」
「長野県の畑や山の幸を使って」
「いいね、葱に茸にね」
「お豆腐は大豆はアメリカ産でも」
 それでもというのです。
「日本で作っているし」
「そちらもで」
「そして糸蒟蒻や麩も」
 それもというのです。
「入れて」
「長野県の幸をふんだんに使った」
「そうしてね」
「皆で食べよう」
「是非共ね」
 こうしたお話をしてでした、そうしてです。
 今は長野市の観光を楽しみました、これもまた先生達にとって楽しい旅でした。そして旅はさらに続くのでした。








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