『ドリトル先生の林檎園』




               第二幕  いざ長野へ

 月日が経つのは早いものです、光陰矢の如しといいますがまさにその通りと言うべきでしょうか。
 先生達は明日長野県に向けて出発するその日になりました、トミーはお家で先生に対して笑顔で尋ねました。
「もう用意はですね」
「全部出来ているよ」
 先生も笑顔で答えます。
「もうね」
「そうなんですね」
「今回も皆がしてくれたよ」
「だってね」
 動物の皆が先生の言葉を受けて言います。
「先生ってこうしたことは駄目だから」
「本当にね」
「世間のことは駄目だから」
「生活力は本当に、だから」
「学問以外のことはね」
「だからだよ」
 こう口々に言います。
「こうした時こそ僕達がしっかりしないと」
「先生の身の回りのことは」
「何とかしないとね」
「いつもそう思っているから」
「それでなんだ」
 先生は皆の言葉を受けてからあらためてトミーに言いました。
「僕は今回もね」
「無事にですね」
「旅の身支度を整えることが出来たよ」
「それは何よりですね」
「お土産も忘れないから」
 こちらのお話もする先生でした。
「トミーにも王子にも」
「僕達も後で、ですよ」
「ああ、行ける様になったんだね」
「ですから」
 それでというのです。
「待っていて下さいね」
「それじゃあね」
「王子は楽しみにしていますから」
「長野に行くことをだね」
「それであちらでお蕎麦を食べて」
「林檎もだね」
 こちらも忘れませんでした。
「そうだね」
「どちらも楽しみにしていますから」
「じゃあ君達へのお土産は」
「いいですよ」
 こう先生に言うのでした。
「他の人にお願いします、特に」
「特に?」
「日笠さんにです」
 トミーはここでこの人のお名前を出しました。
「お願いしますね」
「あれっ、ここでも日笠さんなんだ」
 先生はそれが何故かわからないできょとんとなりました。
「そうなんだ」
「はい、絶対にですよ」
「トミーも王子も絶対にそう言うね」
「先生の旅行の前にはですね」
「どうしてかわからないけれど」
「そこでわからないとね」
 動物達も言いました。
「そもそもね」
「先生はそっちも相変わらずだね」
「本当に学問以外は駄目なんだから」
「こうしたこともね」
「折角物凄く素晴らしい性格なのに」
「僕は性格はいいかな」
 このことも今一つ実感のない先生です。
「色々問題点があるよ」
「いや、公平だしね」
「偏見もないしね」
「穏やかだし」
「絶対に怒ったりしないし」
「おおらかでね」
「気遣いもあるし」
 先生のそうした長所も挙げていくのでした。
「そんな人だからね」
「性格は凄くいいよ」
「先生みたいないい人滅多にいないよ」
「このこと本当にだから」
「そうだといいけれどね」
「とにかくですよ」
 また言うトミーでした。
「日笠さんにはです」
「特にだね」
「はい、いいものをです」
 まさにというのです。
「差し上げて下さいね」
「いいプレゼントをだね」
「そうです」
 まさにというのです。
「お願いしますね」
「トミーも皆も言うしね」
 先生がこう言うとです、スマホから着信音が聴こえてきました。それでスマホを確認しますと王子からのメールでした。
「王子も言ってるし」
「日笠さんにはですね」
「うん、プレゼントをね」
 それはと書いてあったのです。
「忘れないでねってね」
「そりゃそうですよ、皆先生のことを大切に思っていますから」
「友達としてだね」
「そうです、僕達は家族でもありますし」
 トミーや動物の皆はそうですし王子も家族と言っていい位のお付き合いです。
「ですから」
「いつも親切にしてくれるんだね」
「そしてです」
「日笠さんにもっていうんだ」
「絶対にお願します」
 長野県に行ってもというのです。
「プレゼント買って下さいね」
「それじゃあね」
 先生も頷きました、そうしてでした。
 日笠さんのことを確かに約束しました、その後で。
 先生はトミーにあらためて言いました。
「じゃあ僕がいない間はね」
「はい、お家のことは任せて下さい」
「お掃除をしてだね」
「そしてです」
 さらにと言うのです。
「出る時はです」
「戸締りもだね」
「任せて下さい」
「それじゃあね、これが僕だとね」
 とにかく世事のことは駄目な先生はです。
「どうしてもね」
「そこでそう言われるのは」
「よくないかな」
「はい、そうしたことはです」
 先生に笑顔でお話するのでした。
「こうした時はです」
「言わないでね」
「そしてです」
「気持ちよくだね」
「長野県に行って下さい」
「そうさせてもらうね、じゃあ明日はね」
 今度は翌日のお話をする先生でした。
「朝早くに出発するよ」
「そうされますね」
「朝ご飯は電車の中で食べるよ」
「そうされますね」
「お握りを買って食べようかな」
 先生はこちらをと思うのでした。
「明日の朝は」
「お握りですか」
「うん、お握りは素敵な食べものだね」
「先生もよく召し上がられていますね」
「日本にいると何処にでもあるね」
 それこそどんなお店にも置いてあります。
「駅の中でもね」
「駅の中のお店でもですね」
「売っているからね」
「それでそちらで買って」
「食べようって思ってるよ」
 こうトミーにお話するのでした。
「だから明日の朝はね」
「朝ご飯はですね」
「作らなくていいから」
「わかりました」
 トミーは先生ににこりと笑って答えました、そしてです。
 先生はこの日は早くから寝てです、そのうえで。
 朝早くに起きて動物の皆と一緒にお家を出ました、ですがそこでトミーは先生を笑顔で見送りました。
「では行ってらっしゃい」
「あっ、起きなくてもいいのに」
「いえ、先生が出られるなら」
 それならというのです。
「是非ですよ」
「見送ってくれるんだ」
「そうです、じゃあ長野では」
「論文を発表してね」
「フィールドワークもですね」
「してくるからね」
 こう言ってでした、そのうえで。
 先生はトミーと手を振って一時のお別れをしてでした。まずは八条鉄道の神戸駅に向かいました。そうしてです。
 予約していた貨物列車の動物を運搬する車両に入りました、そうして皆と一緒に駅のお店の中で買ったお握りとお茶を口にするのですが。
 ここで、です。皆は先生に言いました。
「じゃあ後はね」
「長野の松本駅まで行くのね」
「この車両に乗ったままね」
「そうするのよね」
「そうだよ」
 その通りだとです、先生は皆に答えました。
「後は車窓から景色を楽しむか寝るかして」
「鉄道の旅を楽しむ」
「そうするんだね」
「いつもの鉄道の旅だね」
「そうだよ、旅は鉄道のそれもいいよね」
 本当にと言う先生でした。
「やっぱりね」
「電車に乗ったら」
 トートーが先生に言ってきました。
「後はもう気楽だよね」
「安全にすぐに目的の場所に行ける」
 ホワイティはトートーにお顔を向けて言いました。
「いいものだよね」
「船や車もいいけれど」
「鉄道の旅もいいものだよ」
 オシツオサレツの目はにこにことなっています。
「カタコト揺られる雰囲気もいいし」
「先生も言ったけれど車窓から見る景色もいいしね」
「今回も電車でよかったかしら」
 ポリネシアも思うことでした。
「安全でのどかな旅のはじまりになるから」
「しかも速いし」
 こう言ったのはガブガブでした。
「車で行くよりもね」
「そうそう、電車は車より速いんだよ」
 ジップはガブガブに言いました。
「常に百キロ以上で走ってるからね」
「のどかな旅でもね」
 それでもと言ったのはチーチーです。
「目的地には速く着くんだよね」
「しかも日本だと事故も少ないから」
 老馬もこのことをいいと考えています。
「いいんだよね」
「世界的に車の事故よりもずっと少ないわよ」
 ダブダブはこのことを指摘しました。
「そう考えると本当に安全よ」
「だから鉄道の旅はいいね」
「本当にそうよね」
 最後にチープサイドの家族がお話します。
「安全でのどかで速い」
「しかも景色も寝ることも楽しめるから」
「これがいいんだよね、まあ僕は飛行機はね」
 こちらを使うことはといいますと。
「嫌いじゃなくなったけれどね」
「好きかっていつおね」
「別にそうでもないよね」
「日本にも船で来たしね」
「あの旅もよかったね」
「うん、今は飛行機も大丈夫になったけれど」
 それでもというのです。
「僕としてはね」
「鉄道が好きで」
「それで船も好きね」
「そうよね」
「そうだよ、車も好きだけれど」
 車についてはこう言った先生でした。
「僕は運転出来ないからね」
「そうそう、車の運転もね」
「先生駄目なのよね」
「先生不器用だから」
「あと運動神経もないし」
「だからね」
 そのせいでというのです。
「車の免許を取ろうと思わなくて」
「今もだよね」
「車の免許持ってないね」
「そうだよね」
「だからね」
 それでというのです。
「車の旅の時は」
「先生は乗せてもらうだけ」
「運転の楽しみは味わえない」
「そういうことだね」
「そうなんだよね、だから電車での移動は」
 先生は皆と一緒にお握りを食べつつ言いました、中に梅が入っていて海苔に覆われているお握りはとても美味しいです。
「凄く好きだよ」
「そうだよね」
「じゃあ松本駅までね」
「カタコト揺られていこう」
「皆でね」
「そうしていようね、ちなみに長野県に行くのは」
 先生は今度はこんなことを言いました。
「中山道だよ」
「愛知県や静岡県の方に行かないでね」
「長野県に行く道よね」
「そこから東京に向かう道で」
「日本の重要な道の一つだね」
「そうだよ、東海道でなくても」
 それでもというのです。
「その次位にね」
「大事な道だよね」
「日本の交通では」
「そうだよね」
「そうだよ、その道を通って」
 今回はというのです。
「僕達は旅をするんだよ」
「それも楽しみね」
「それじゃあ今からね」
「長野に向かいましょうね」
「そうしようね、そろそろ出発だよ」
 先生がこう言った時にでした、出発を知らせる放送が入ってです。
 電車は出発しました、電車はすぐに神戸駅を出発してです。
 線路を走りはじめました、先生は車窓から神戸市の街並を見つつ動物の皆に穏やかな笑顔で言うのでした。
「日本は鉄道大国でもあるから」
「だからよね」
「こうして鉄道の旅も楽しめる」
「そうなんだよね」
「僕達も」
「そうだよ、あと食べものもね」
 こちらのお話もする先生でした。
「美味しいしね」
「駅弁だね」
「あれいいよね」
「それぞれの駅で個性があって」
「美味しいんだよね」
「どれもね」
「今回はお昼に食べるよ」 
 電車の中でというのです。
「だから楽しみにしておいてね」
「もう買ってるんだよね」
「そうよね」
「それでお昼になったら」
「その時にね」
「皆で食べようね」
 こう皆にお話するのでした。
「是非ね」
「そして十時にはティータイム」
「こちらは僕達が用意しているからね」
「先生も期待していてね」
「絶対に出すから」
「そうしておいてね」
「是非ね、電車の中で飲むお茶もね」
 ここで言うお茶は紅茶です、先生達が今飲んでいる日本の緑茶とは違います。お茶といっても色々です。
「美味しいからね」
「先生は十時と三時はお茶だし」
「どっちの時間でも飲まないとだからね」
「そしてティーセットも必要ね」
「どちらの時も」
「十時は軽くで」
 あくまで、です。
「三時はね」
「おやつだよね」
「十時はそれぞれ一口位で」
「三時は本格的」
「三段のね」
「そうなっているからね、まあ今日のティーセットは」
 そちらはどうなるかといいますと。
「松本市でとなるね」
「その頃には到着してるのね」
「本当に電車は速いね」
「神戸から長野って遠いのに」
「三時までに着くなんて」
「この貨物列車は松本駅まで停まらないから」
 それでというのです。
「だからだよ」
「それでなんだ」
「結構速いんだ」
「そうなのね」
「そうだよ、だから三時にはね」
 つまりティータイムにはというのです。
「もう松本駅に着いてるよ」
「じゃあそこでね」
「皆でお茶を楽しみましょう」
「三時はね」
「そこで紅茶とティ―セットね」
「そうなるよ、ただ今日のティータイムは」
 少し考えるお顔になって言うのでした。
「和風がいいかな」
「お茶はお抹茶か何かで」
「それでお菓子は和菓子」
「それでいくのね」
「今日の三時のティータイムは」
「そうなるかな、お団子やお饅頭を食べて」
 そしてというのです。
「楽しむかな」
「いいね、そっちも」
「和風のティータイムもね」
「先生好きになったしね」
「うん、まあそうしたお話はね」
 それはといいますと。
「松本駅に着いて」
「そこで決めればいいわね」
「その時に」
「確かに決めればいいね」
「それで食べればいいね」
「そうだね、じゃあね」
 また言う先生でした。
「今はお握りも食べようね」
「いいね、朝のお握りも」
「食べやすくて美味しい」
「よくこんな食べものあるね」
「日本には」
「そうだね、このお握りはね」
 まさにというのです。
「日本の最高のソウルフードの一つだろうね」
「皆大好きだし」
「どのお店でも売っていてね」
「手軽だし」
「しかも凄く美味しいから」
「だからね」
 いいというお顔で言う先生でした。
「僕もこうした時はね」
「よく食べるよね」
「最近サンドイッチよりも多いよね」
「旅行の時とか何かあると食べる時に」
「パン系より多くなったね」
「どうにも」
「そうだね」
 ご自身でもこう思う先生でした。
「そうあったね」
「そうだよね」
「先生本当にお握り好きになったね」
「来日してから」
「日本に来るまで知らなかったのに」
「今じゃすっかりお気に入りだね」
「そうなったよ」
 言いつつまた食べる先生でした。
「だから今はね」
「皆で食べようね」
「景色を見ながら」
「そのうえでね」
 動物の皆もお話しつつお握りを食べています、お握りは誰が食べてもかなり美味しいものなので皆も楽しみました。
 貨物列車は神戸からどんどん進んでいきます、皆お昼は先生がお話した通り駅弁を食べました。そして三時になる前にです。
 松本駅に着きました、そうしてすぐに駅の喫茶店でティーセットを頼みました。そのセットはといいますと。
 アップルティーにアップルパイ、干し林檎にスライスした林檎と林檎尽くしです。そのセットを食べつつです。
 先生は皆にです、こう言いました。
「長野に来て早速だね」
「うん、林檎だね」
「いきなり林檎ってなったね」
「いや、早速ってね」
「いいことだね」
「うん、食べたかったけれど」
 セットの中の林檎を食べつつ言いました。
「こうして着いてすぐ食べられるなんてね」
「幸先いいね」
「よく出て来たって感じだよね」
「本当にね」
「長野の林檎尽くしのティーセットっていいね」
「長野県に来たって実感があるよ」
「しかもよ」
 ダブダブが言ってきました、先生と一緒に長野の林檎のティーセットを心ゆくまで楽しみながらです。
「林檎は栄養がとてもあるから」
「その方面からもいいんだよね」
 ジップはダブダブのその言葉に頷きつつ食べます。
「林檎は」
「この甘さとね」
 しみじみとして言うのはホワイティでした。
「栄養も備えているって最高だよ」
「この赤さが」
 チーチーは色を見ています。
「余計に食欲をそそるし」
「イギリスの林檎は青いのが主流でも」
 イギリスのことを思い出したのはポリネシアです。
「私達も今じゃ赤い林檎に慣れてきたわね」
「最初はね」
「赤い林檎が多くて違うって思ったけれど」
 チープサイドの家族は日本に来たての頃を思い出しています。
「今じゃね」
「これもってなってるね」
「実際に美味しいしね」
 今度はガブガブが言います、勿論美味しく食べています。
「赤い林檎も」
「その林檎を食べて」
 そしてと言うトートーでした。
「今は楽しんでるね」
「いや、いいティータイムだよ」
「いつもと同じくね」
 オシツオサレツは二つの頭で食べつつお話します。
「それじゃあね」
「今はじっくり楽しもうね」
「先生もそうしてるし」
 老馬は先生を見ています。
「僕達もね」
「そうしようね、折角長野県に来たし」
「皆で食べて」
「来てすぐに林檎を食べられたことを神様に感謝して」
「楽しもうね」
「そしてね」
 さらに言う先生でした。
「今日は旅館に泊まって」
「それでだね」
「旅館のお料理を楽しむ」
「そうするんだね」
「そうだよ、そして明日は」
 そちらのお話もする先生でした。
「出来たらお昼にね」
「お蕎麦だね」
「お蕎麦食べるんだね」
「明日は」
「そうしようね、今日は林檎を食べたし」
 それならというのです。
「明日はだよ」
「お蕎麦の番だね」
「色々なお蕎麦があるけれど」
「とにかくお蕎麦を食べて」
「それで楽しむんだね」
「そうしようね」 
 アップルパイを食べてそれからアップルティーを飲んでです、先生は皆に笑顔でお話するのでした。
「是非共ね」
「お蕎麦も楽しみだね」
「どれだけ美味しいのかな」
「長野のお蕎麦は本当に美味しいけれど」
「どんな味かしら」
「それを確かめることもね」
 先生は思わず笑顔になってそれで言いました。
「いいことだしね」
「コシが凄いのかな」
「風味がいいのかしら」
「果たして長野県のお蕎麦はどんな味か」
「食べてみてのお楽しみね」
「そうだね、しかし長野県はね」
 今度はこの県のお話をする先生でした。
「この松本市でもね」
「まだ南の方だよね」
「結構進んだ感じだけれど」
「先生が長野県に入ったって電車の中で言ってからもね」
「随分進んだけれど」
「それでもね」
「そう、まだね」
 かなり進んでもというのです、県内を。
「まだ南の方でね」
「北もかなりあるのよね」
「そうだよね」
「長野県は」
「そうした県よね」
「そうなんだ、だからね」
 それでというのです。
「つくづく広い県だって思うよ」
「そうだよね」
「つくづく広い県だね」
「北海道も広かったけれど」
「長野県もだね」
「だからここは昔はね」
 先生は今度は干し林檎を食べつつ皆にお話しました。
「結構沢山の藩に分かれていたんだ」
「江戸時代のお話だね」
「藩っていうと」
「そうだよね」
「そうだよ、国としては一つだったけれど」
 日本の中にあるそれとしてはというのです。
「藩はね」
「一つじゃなくて」
「幾つもの藩があった」
「そうしたところだったの」
「戦国時代までも沢山の国人、欧州で言うなら領主がいたんだ」
 江戸時代より前はそうだったというのです。
「それでやっぱりそれぞれ分かれていたんだ」
「随分複雑だったんだ」
「それぞれ分かれていたって」
「長野県ってそうだったんだ」
「何しろ山に囲まれていて」
 長野県はというのです。
「そしてその中に盆地が幾つもあるからね」
「そうした地形だから」
「幾つもの藩や領主さんに分かれていたんだ」
「江戸時代までは」
「そうだったんだよ、だから長野県っていう一つの場所だという考えは」
 そうした考えはといいますと。
「明治になってからだね」
「それまでは信濃っていう一つの国でも」
「それでもだね」
「一つの国って意識はなくて」
「それぞれ分かれていたのね」
「そうだったんだ、だから諏訪や松本、木曽、上田、松代、長野、高梨、佐久とね」
 先生は地名も挙げていきました、長野県のそれを。
「地域の差があるんだ」
「上田は真田家ね」
「あの家の領地だったよね」
「真田幸村さんのお家の」
「そうだよね」
「そうだよ、ただ江戸時代からは」
 この時代になると、というのです。
「真田家は松代に移らされているから」
「あっ、そうなんだ」
「真田家はそうなったんだ」
「上田から松代になんだ」
「移らさせられたの」
「そうなったんだよ、だから真田家は」
 江戸時代はというのです。
「松代と考えてもいいんだ」
「上田じゃなくて」
「松代」
「そちらなのね」
「それで幕末までずっと残っていたんだ」
 松代にというのです。
「幕府には好まれていなかったけれど」
「幸村さん大坂の陣で家康さん追い詰めたからね」
「物凄く強くて」
「それでね」
「あと一歩までってなったから」
「関ヶ原の戦いでは関ヶ原にいなかったけれど」
 それでもというのです。
「上田城で徳川秀忠さんの軍勢を足止めしたし」
「ああ、そうだったね」
「後で将軍になる人の軍勢だね」
「上田城に攻めてきたから足止めして」
「その時に散々困らせたんだったね」
「このこともあってね」
 関ヶ原の時もというのです。
「幕府からよく思われていなかったんだ」
「そうだったんだね」
「何ていうか複雑なお話ね」
「幸村さんの活躍は凄かったけれど」
「戦った幕府には面白いことじゃなかったのね」
「だからね」
 そうであったからだというのです。
「真田家は結構大変だったみたいだよ」
「幕府に好かれてなくて」
「生き残りに苦労した」
「そうだったんだ」
「そうだよ、ただ」
 ここでこうも言った先生でした。
「面白いお話もあってね、大坂の陣では」
「っていうち?」
「どういったお話かな」
「面白いお話っていうと」
「一体」
「大坂の陣で幸村さんや豊臣秀頼さんが実は生きていたって話があるけれど」
 このお話からです、先生は皆にお話するのでした。
「秀頼さんの息子さんもね」
「生きていたんだ」
「そうだったんだ」
「実はっていうお話があるのね」
「あの人も」
「幕府に捕らえられて京都で処刑されたとあるけれど」
 そう言われているけれど、というのです。
「実は家臣の人に連れられて落ち延びたとか岸和田の方の藩に匿われて」
「へえ、岸和田って大阪府の南にある」
「だんじり祭りで有名なところよね」
「あの物凄く豪快なお祭りの」
「あそこにあった藩でなんだ」
「それで分家されて大名になった人がいるけれど」
 その岸和田の方にあった藩のです。
「この分家された人が実はね」
「秀頼さんの子供だった」
「そんなお話があったんだ」
「実はって」
「この藩にはずっと当主代々にだけ伝えられているお話があって」
 さらにお話する先生でした。
「秀頼さんは実は落ち延びていたっていうんだ」
「じゃあ本当にかしら」
「秀頼さんは生きていたのかな」
「大坂の陣で死なないで」
「そうだったのかな」
「そうかもね、幸村さんも実はっていうし」
 この人にしてもというのです。
「正史では死んだとなってるけれど」
「実はだね」
「幸村さんは生きていたし」
「秀頼さんもそうだった」
「そして秀頼さんの息子さんも」
「若し秀頼さんの子供が大名になっていたとしたら」
 この仮定からお話する先生でした。
「幕府は実は知っていたかも知れないけれど」
「知らない振りをしていた」
「その分家の人は実は秀頼さんの息子だったけれど」
「そうだったんだ」
「その可能性もあるんだね」
「そうなんだ、まあ真実はわからないけれど」
 それでもというのです。
「そんなお話もあるんだ」
「面白いお話だね」
「長野県っていうとやっぱり幸村さんだけれど」
「あの人が本当に生きていて」
「仕えていた秀頼さん達が生きていたら」
「報われるね、あの戦いが」
「そうだね、だから僕としてもね」
 今の先生の目はとても温かいものでした、普段から先生の目はそうですが今は普段以上にそうなっています。
「是非と、ってね」
「思ってるんだね」
「幸村さんが実は生きていたなら嬉しい」
「秀頼さんも息子さんも」
「そうだっていうんだね」
「実際当時生きているのじゃないかってよく言われていたんだ」
 大坂の陣が終わった直後はというのです。
「そうね」
「そうだったんだね」
「戦いが終わった直後は」
「そんなお話があったんだ」
「そうなんだ、何しろ落城したけれど」
 大坂城、豊臣家のお城がでる。
「その時に亡骸は見付からなかったし」
「確かお城は燃えて爆発までして」
「切腹した後でそうなったから」
「もう亡骸もだね」
「見付からなかったんだ」
「そうだったから」
 それでというのです。
「見付かっていないから」
「実はって言われているんだ」
「秀頼さんは生きていたんじゃないかって」
「その実は」
「さっき話した岸和田藩が助けたとも言われているよ」
 こうしたお話もあるというのです。
「だから岸和田藩に伝わっているんだ」
「当主の人だけに代々だね」
「それって凄いお話だね」
「当主の人にだけ代々っていうと信憑性あるね」
「嘘なら伝えないだろうし」
「噂で済ませるわね」
「僕もそこが気になってるし」
 その代々秘かにというところがというのです。
「若しかしたらってね」
「思ってるんだね」
「先生にしても」
「そうなんだね」
「そうなんだ、幸村さんも首が三つ見付かったとか」
 今度は幸村さんのお話でした。
「そんなお話もあるし」
「何か凄いね」
「本当に幸村さん達が実はって思えてきたわ」
「けれど本当にそうであったなら」
「嬉しいね」
「夢があるしね」
 先生は温かい目のままでした、そうして干し林檎を食べてその美味しさに目を細めてからこうも言いました。
「あと電車の中では和風ティーセットのお話をしたね」
「そうそう、けれどね」
「今は林檎で揃えてるから」
「言ってもそうなるとは限らない」
「今回もそうだね」
「うん、このことがね」
 どうにもと言うのでした。
「面白いね」
「全くだね」
「言って考えていてもその時にならないとわからない」
「世の中ってそうだね」
「時として」
「そうしたものだよ、それじゃあ」
 あらためて言う先生でした。
「和風ティーセットは明日かな」
「明日飲んで食べるのね」
「明日の三時に」
「そうするんだ」
「そうしようかな、まあ明日もね」
 その時もというのです。
「三時にならないとわからないけれど」
「結局はそうだね」
「けれどその時にはっきりすることだし」
「若し本当に和風セットになるなら」
「それを楽しもうね」
「是非ね、そして今は」
 あらためて言う先生でした。
「折角だからね」
「このセットをね」
「皆で楽しみましょう」
「是非ね」
「長野県にいるんだしね」
「そうしようね」
 こうしたお話をしつつです、先生達は長野県名産の林檎のティーセットを満喫しました。そうしてです。
 その後で松本市を歩いて街自体をフィールドワークしますがその中で先生は一緒にいる皆に言うのでした。
「いや、こうしたね」
 まさにというのでした。
「街並もいいね」
「盆地もだね」
「周りが山に囲まれた街っていうのもね」
「独特だね」
「そうだね、盆地はね」
 先生はその盆地のお話もするのでした。
「日本には多いね」
「山が多い国だしね」
「それも当然のことだよね」
「山に囲まれた場所が多いのもね」
「当然だね」
「そう、僕達が住んでいる神戸は」
 こちらのお話もします。
「前が海で後ろは山だね」
「そうした地形だよね」
「それも日本によくある場所だけれど」
「和歌山もそうだしね」
「他にもそうした場所あるね」
「そして盆地もね」
 松本市の様なというのです。
「多いんだよ」
「奈良もそうだったしね」
「僕達が前にフィールドワークで行ったね」
「奈良市も行ったし明日香村にも行ったし」
「奈良三山も行ったね」
「あそこもね」
 その奈良もというのです。
「盆地だったね」
「周りが山に囲まれていて」
「まさに盆地だったね」
「京都もそうだし」
「この松本もだね」
「そうなんだ、そして長野県は盆地ごとに」
 まさにというのです。
「街があるんだ、それで武田信玄さんも」
「ああ、あの人もいたね」
「信玄さんは元々山梨の人だけれどね」
「ここに兵を送ってね」
「自分の国にしたんだね」
「その信玄さんもね」
 戦国大名として物凄く有名なこの人もというのです。
「盆地の一つ一つをね」
「攻め取っていったんだ」
「そうしていたんだ」
「一つ一つを」
「そうしていたんだ」
「そうだよ、そしてね」
 そのうえでというのです。
「長野県、当時信濃と言われていた国をね」
「完全に手に入れたんだね」
「盆地一つ一つ攻めていって」
「そんな風にして」
「途中負けたりもしたけれど」
 戦いにです。
「粘り強く進めていってね」
「そしてだね」
「遂に一つの国をにした」
「そうだったんだね」
「そうだったんだ、そして全て手に入れてから」
 長野県、昔は信濃と呼ばれた場所をというのです。
「上杉謙信さんと戦ったんだ」
「あの凄く強い人だね」
「新潟県の人だよね」
「昔は越後といったね」
「川中島で五回戦って」
 そしてというのです。
「引き分けだったんだ」
「決着はつかなかったんだよね」
「激戦も経たけれど」
「それでもね」
「引き分けに終わったんだね」
「若しもだよ」
 こうも言う先生でした。
「お二人が巡り合わないとね」
「どうなっていたかね」
「信玄さんと謙信さんが戦わなかったら」
「川中島でそうならなかったら」
「そう考えても面白いね」
「そうだね、けれどあの人達は戦って」
 日本の戦国時代でも有名な戦いです、沢山の人達が川中島で刀や槍を振るって命を賭けて戦ったのです。
「川中島も有名になったね」
「若し戦わないとね」
「そうならなかったら」
「川中島も有名じゃなかったね」
「そうだね」
「木曽も諏訪も行きたいし」
 今度は行きたい場所のお話をする先生でした。
「上田、そしてね」
「その川中島もだよね」
「行きたいよね」
「是非ね、日本の歴史の中でも」
 とりわけという言葉でした。
「関ヶ原は有名な戦場跡だからね」
「そうだよね」
「あそこは特にだよね」
「桶狭間とか長篠とか厳島とか色々あるけれど」
「関ヶ原と並ぶ位有名だよね」
「戦国時代の戦があった場所だと」
「そうだよ、そこに行って」
 そしてというのです。
「よく見ていきたいね」
「じゃあ僕達もね」
「先生と一緒に関ヶ原に行きたいよ」
「是非共ね」
「そうさせてもらうよ」
「有り難いね、皆が一緒だと」
 それこそという先生でした。
「やっぱり嬉しいよ」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「じゃあ皆で川中島にも行こうね」
「折角長野県に来たし」
「それならね」
 宣誓と皆は長野県に着いてすぐにこうしたお話をしました、そのうえでこれからのことを考えていくのでした。









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