『ドリトル先生と姫路城のお姫様』
第十二幕 妹に湯豆腐を
お家に届いたイギリス軍のレーションをすぐに食べてみてです、先生は一緒にいる動物の皆に言いました。
「うん、実際にね」
「美味しいんだ」
「そうなんだ」
「これがね、肉料理も野菜料理もね」
そのどちらもがというのです。
「結構以上にいけるよ」
「ううん、凄いことだね」
「とかくイギリスは食べものでは低評価だったけれど」
「軍隊でもそうだったけれどね」
「それが変わったんだね」
「これは劇的な変化だよ」
先生はこうまで言いました。
「本当にね」
「というか何でイギリスってあそこまでお料理駄目だったの?」
「そもそもね」
「世界的に悪名高くてね」
「散々言われてきたけれど」
「元々土地も水も悪かったからね」
先生が皆の疑問に答えました。
「土壌は下はチョークだったしね」
「だから土地もお水も悪くて」
「周りの海もお魚がね」
「鱈とか鮭はいても」
「あまり漁しなかったし」
「そのこともあったんだね」
「しかも調味料もね」
こちらもというのです。
「殆どなかったしね」
「お塩とお酢ね」
「そればかりでね」
「今はおソースとかケチャップはあるけれど」
「それでもね」
「調味料も香辛料も乏しくて」
この問題もあってというのです。
「シェフの人の腕も求めない文化的土壌があったしね」
「イギリスってお料理の味に何も言わないのよね」
「これといって」
「昔からね」
「それはマナー違反じゃないかって言うのよね」
「マナーってイギリスじゃ厳しいし」
それに反すると紳士淑女じゃないと言われかねないのです、このことはイギリスではかなり辛いことです。
「だからだね」
「イギリスではお料理が発達しなかったんだね」
「今までね」
「そうだったんだよね」
「そう、世界中に植民地を持っても」
日の沈まぬ国と言われた大英帝国の時代です。
「それでもだったからね」
「色々文化や産業は発達しても」
「お料理だけは発達しないで」
「皆イギリス料理って食べないからね」
「今に至るまで」
「これはイギリス人が食に保守的だったから」
このこともあったというのです。
「変わらなかったんだよ」
「色々な要因が重なって」
「その結果だったんだね」
「イギリスのお料理は酷いままだった」
「ずっとそうだったのね」
「そうだよ、けれどこのレーションを食べてみたら」
まだ食べている先生です。
「変わってきているかな」
「それはいいことだね」
「軍隊も食べもの大事だからね」
「人間食べないと生きていられないし」
「美味しいものだとやる気も出るしね」
「第二次世界大戦の時の紅茶とオートミール缶やビスケットだけだと」
それこそと言う先生でした。
「どうしようもないからね」
「栄養的にもよくなさそうだね」
「そういうのばかりだと」
「そうしたことも考えないといけないよね」
「ルイス=キャロルさんのお食事は戦場では辛いね」
「逆にイタリア軍はよかったんだ」
敵であったこの国の軍隊はというのです。
「栄養バランスまでね」
「そう考えると辛いね」
「イギリスの状況って」
「いいものでなかったことはね」
「本当に残念だね」
「そうだね、けれどこのレーションは」
本当にと言う先生でした。
「美味しいからね」
「食べてみて合格」
「先生もそう言える位だね」
「見事なものなんだね」
「うん、そしてこれもね」
ここで先生は紅茶を出しました、そのうえで皆に言いました。
「あるからね」
「あっ、紅茶だね」
「やっぱち紅茶は外せないよね」
「イギリスだからね」
「軍隊でもそうよね」
「これは絶対だね」
先生もにこにこととして言います。
「若しも紅茶がないと」
「イギリス人としてはね」
「どうにも寂しいよね」
「日本でお茶がないことと同じだよね」
「そうなるね」
「だからレーションにもあるよ」
しっかりと入っているというのです。
「嬉しいね」
「というか本当に紅茶がないと」
それこそと言うダブダブでした。
「イギリスって感じがしないわね」
「イギリス人だと紅茶」
チーチーも確かな声で言い切ります。
「先生も毎日飲んでるし」
「先生最近はレモンティーも飲むね」
「アメリカ風にね」
チープサイドの家族はこのことを指摘します。
「中国茶も日本の色々なお茶も飲むね」
「けれど第一はミルクティーだしね」
「先生もそうだし」
ガブガブも言います。
「やっぱりイギリス人はお茶だね」
「実際皆物凄く飲んでるしね」
イギリスではとです、ポリネシアも言います。
「一日で一億数千杯だからね」
「日本の人口より多いから」
ホワイティはこう表現しました。
「凄いよね」
「それだけ紅茶が大好きな人達だから」
まさにと言うトートーでした。
「レーションにも紅茶があるね」
「紅茶がないと」
ジップが言うことはといいますと。
「イギリス軍は戦えないかな」
「あのロイヤルネービーも紅茶がないと弱いかな」
老馬はふと思いました。
「世界に冠たる海軍も」
「本当に紅茶はイギリス人にとってそこまでのものだから」
「軍隊でもいつも飲んでいて」
最後の言ったのはオシツオサレツでした。
「いざという時のレーションにも入っている」
「もう必需品ってことだね」
「そうだね、これがコーヒーだと」
まさにと言う先生でした。
「イギリス人としてはどうかな」
「あっ、辛いね」
「ちょっと考えられないね」
「戦場でコーヒーとかね」
「イギリス人としてはね」
「そうだね、アメリカ軍ならドーナツとコーヒーだけれど」
これがというのです。
「やっぱりね」
「これがイギリス軍だと」
「紅茶一択だね」
「それもストレートティーかミルクティー」
「どっちかだね」
「僕もそう思うよ、これまでのお料理も美味しかったけれど」
先生はここでレーション全体の感想を言いました。
「一番美味しかったのはね」
「紅茶だね」
「それが一番だったね」
「紅茶が第一」
「そうだったんだね」
「うん、最後の紅茶がね」
まさにというのです。
「一番嬉しくて美味しいね」
「それは何よりだね」
「じゃあ先生も満足したのね」
「そうだよね」
「満足しているからこう言うんだよ」
まさにというのです。
「心からね」
「美味しいものを食べられてイギリスの料理文化の向上も感じられた」
「だからだね」
「本当によかったって思ったのね」
「先生も」
「そうなのね」
「先日の宴もよかったけれど」
姫路城のお姫様が開いたそれもというのです。
「それでもね」
「今回もだね」
「よかった」
「美味しいものを食べられて」
「それでそう思えたのね」
「心からね」
先生は笑顔でした、そしてその笑顔のままお家で論文の執筆に取り掛かりその論文も遂になのでした。
「脱稿してだね」
「さっき学会に送ったよ」
先生は次の日研究室で王子にお話しました。
「泉鏡花のそれをね」
「天守物語だね」
「今回は日本語の論文だけじゃないんだ」
「英語の方でもだね」
「そしてイギリスの学会にも送ったよ」
そちらにもというのです。
「そうしたよ」
「イギリスにも泉鏡花を紹介する為にだね」
「もっと知られてもいい作家さんだからね」
こう思うからとです、先生は王子に言うのでした。
「世界的にね」
「確かにいい作家さんだね」
「日本の幻想文学の歴史は実は長いけれど」
「泉鏡花さんもその中にいるんだね」
「明治から昭和にかけての幻想文学の第一人者だよ」
そう言っていいというのです。
「あの人はね」
「だからイギリスの学会にも論文を送って」
「世界的に知られて欲しいと思っているんだ」
「だから英語でも書いたんだね」
「その分普段よりも時間がかかったけれど」
論文の執筆にというのです。
「けれどね」
「苦労の介はあったかな」
「泉鏡花が世界にもっと知られることを望むよ」
「先生の苦労はいいんだ」
「僕は苦労していたか」
その問題はといいますと。
「別に苦労と思っていないから」
「そうなんだ」
「時間はかかったけれど楽しく調べて書いていたから」
だからだというのです。
「苦労とは思わなかったよ」
「そういえば先生は学問のことだとね」
「いつもこうだね」
「そうだね、それで今みたいに言うんだ」
「そうなんだ、それでね」
それでというのです。
「今回も苦労とは思っていなかったよ」
「そうだったんだ」
「そしてもう次の論文にかかっているよ」
「今度は医学だね」
「心臓のことでね、こっちになったから」
「そちらの研究と執筆をだね」
「はじめているよ」
泉鏡花の論文を書き終えてすぐにというのです。
「そしてその後は太宰治について書くよ」
「先生は本当にいつも論文を書いているね」
「学者は論文を書くことが仕事だからね」
それでというのです。
「これからもね」
「論文を書いていくんだね」
「そう、そしてね」
そのうえでというのです。
「発表していくよ」
「それでこそ先生であり本当の学者さんだね」
「その言葉が嬉しいよ」
先生は王子の今の言葉ににこりと笑って答えました。
「僕もね」
「そうなんだ」
「うん、だからね」
それでと言うのでした。
「その言葉を励みにしてね」
「そうしてだね」
「また書いていくよ」
論文をとです、先生は言うのでした。そして王子はその先生に対して笑顔でこうも言ったのでした。
「あとお姫様に言われたことだけれど」
「何かな」
「うん、先生に良縁があることだけれど」
「そのことだね」
「僕もそう思うから」
こう先生に言うのでした。
「きっとね」
「僕も何時かなんだ」
「そう、いい人と結婚してね」
そうしてというのです。
「今以上に幸せになれるよ」
「そうなれば嬉しいね」
「先生みたいないい人いないから」
だからだというのです。
「絶対にその先生に相応しいいい人がね」
「僕の前に現れてくれてだね」
「一緒になってくれるよ、というかね」
王子はわかっているというお顔で述べました。
「もういると思うよ」
「僕の前にかな」
「既にね」
「それは違うんじゃないかな」
「いやいや、先生が気付いていないだけでね」
「もういてくれているんだ」
「後は先生が気付けば」
それでとです、王子はにこりと笑ってお話しました。
「それで幸せになれるよ」
「今以上にだね」
「今以上に幸せな生活がはじまるよ」
結婚してというのです。
「そうなるから」
「ううん、だとしたら誰かな」
先生はここまで聞いて腕を組んで考えるお顔になりました。
「その人は」
「まあじっくり見ればというかちょっと見ればね」
「わかるかな」
「皆わかってるんじゃないかな」
先生の周りの人達はです、このことは王子の言う通りです。
「もうね」
「そうかな」
「絶対にね、そしてね」
「幸せになるんだね」
「本当に今以上にね」
「そうなることを願うよ、しかし先生本当に恋愛の自信はね」
「ないよ」
先生は王子にはっきりと答えました。
「スポーツとそちらのことはね」
「そうだよね」
「運動神経はからっきしで」
こちらは全く駄目です、先生はものごころついた時から運動が出来たことはそれこそただ一度もないのです。
「恋愛もね」
「もててこなかったんだね」
「そうだったからね」
このことは先生が思うにはです。
「もうね」
「恋愛のことはだね」
「自信も何もないよ」
それこそというのです。
「今だってね」
「まあ悪い人に寄られるとね」
「よくないね」
「先生女の人がよくいるお店にも行かないしね」
「日本で言うと銀座にあるみたいなお店だね」
「東京の方だね」
「飲むならバーとかだね」
先生は祖国イギリスのお店からお話をしました。
「日本じゃバーもパブも両方行くね」
「イギリスや紳士はバー、労働者はパブだね」
「そうして分けられているけれど」
それがというのです。
「日本ではお金があれば誰でもどのお店にも入られるから」
「だからだね」
「どっちにも入ってるし」
「日本の居酒屋にもだね」
「入るよ、食べるお店に入って」
「飲んでるね」
「だからお姉さんのお店に入ることは」
このことはというのです。
「僕は興味がないんだ」
「日本にはキャバレーとかキャバクラもあるね」
「あと女の人だとホストクラブだね」
「ああしたお店を行こうと思うことはないね」
一切という返事でした。
「昔からね」
「確かに先生の柄じゃないね」
「王子もそう思うよね」
「だからだね」
「うん、若し先生がそうしたお店に行ったら」
王子は先生に笑ってお話しました。
「誰かが化けてるんじゃないかってね」
「思うね」
「絶対にね」
そう思うというのです。
「その時は」
「そうだろうね。僕はね」
「そうしたお店とは無縁だね」
「食べて飲んでね」
先生の好みはです。
「そうして楽しむのが好きだから」
「そうだよね」
「お姉さんに囲まれてっていうのは」
どうにもというのです。
「僕の柄じゃないよ」
「それは僕も言うよ」
「そうだよね」
「どう考えてもね」
「僕はそんな楽しみはしなくてだね」
「することもね」
「本当に想像出来ないね」
こう言うのでした。
「やっぱり」
「というか先生だと」
「お酒はね」
「いつもみたいに美味しいものを食べてね」
「そうしつつ楽しむものだからね」
「そんな女の子に囲まれてとか」
「どう考えても合わないね」
「浮気とかね」
そうしたこともというのです。
「先生の柄じゃないね」
「そうだね」
「うん、そういうのじゃなくて」
「僕が女の人と交際するとなると」
「一人の人とね」
「ずっとだね」
「そうなるね」
こう先生に言うのでした。
「本当に」
「うん、というか女の人と交際したことがないから」
そもそもというのです。
「僕はね」
「そうだね、というかね」
「若しもだね」
「縁が出来たら」
その時はというのです。
「先生もね」
「その人とだね」
「一途に交際をして」
「結婚をして」
「幸せになるべきで」
「その人はだね」
「もうね」
既にというのです。
「先生の近くにいるかもね」
「そうであるといいね」
「幸い日本は宗教に寛容だから」
ここでこうも言った王子でした。
「宗教が違ってもね」
「うん、結婚する人とね」
「大抵問題にならないよ」
「そう、日本では夫婦で宗教が違うこともね」
「多いよね」
「ご主人が浄土真宗で奥さんが臨済宗とかね」
「普通にあるよね」
「もうそれは当たり前でね」
それこそ何でもないことです。
「仏教徒の人が神社にお参りしてもね」
「何でもないね」
「天理教の会長さんが神社の神主さんやお寺のお坊さんとお付き合いがあっても」
「何でもないね」
「牧師さんと神父さんが一緒のお酒を飲むこともね」
「普通のことで」
「カトリックの人とプロテスタントの人が結婚しても」
こうしたことがあってもというのです。
「本当にね」
「何でもないね」
「日本だとね」
「だからね」
「僕は国教会だけれど」
「奥さんがどの宗教でもね」
その違いはというのです。
「何でもないことだから」
「宗教面で結婚のことはだね」
「気にしなくていいから」
「そのこともいいことだね」
「奥さんが改宗しなくてもいいし」
「僕もだね」
「そうした心配は無用だから」
「そのことでも結婚しやすいから」
「だからね」
それでというのです。
「先生も日本での結婚をね」
「考えるべきだね」
「もう日本に永住するつもりだね」
「実はもう国籍もね」
最も重要なこの問題もというのです。
「そろそろね」
「日本にしようって考えてるね」
「大学教授という職業もあるしね」
「そちらのことはだね」
「何でも僕が悪いことをしないとね」
そうしたことをしない限りはというのです。
「保証されているそうだから」
「それじゃあだね」
「うん、日本にすっかり入ったし」
身体も心もです。
「馴染んでるしね」
「それならだね」
「もうね」
それこそというのです。
「日本に永住して」
「国籍も日本に移して」
「そう考えているから」
だからだというのです。
「僕もね」
「真剣に考えているんだ」
「そうなんだ」
「じゃあ余計にね」
「日本での結婚をだね」
「前向きに考えていって」
そしてというのです。
「幸せになろうよ」
「王子もそこまで言うし」
「じゃあね」
王子は先生に笑顔でお話しました、そしてです。
王子が自分の講義に言ってからでした、動物の皆と一緒になると皆にもその国籍のお話をするのでした。
「本当に前向きに考えているから」
「国籍のことはだね」
「日本人になることは」
「真剣に考えているの」
「前向きに」
「そうだよ」
こう言うのでした。
「本気でね」
「そうなのね」
「先生すっかり日本に馴染んでるけれど」
「本当の意味で日本人になるんだ」
「そうも考えているの」
「そうなんだ、そしてね」
そのうえでというのです。
「本気で結婚も考えてみようかな」
「というか考えてね」
「いつも言ってるけれど」
「僕達もそう願ってるから」
「頼むよ、そのことも」
「国籍のこともだけれど」
「宗教に寛容な国だし」
このこともあってというのです。
「そちらでの心配もないしね」
「先生宗教や考えの押し付けしないしね」
「他の宗派、宗教も尊重するし」
「そのこともいいね」
先生ご自身は敬虔な国教会の信者さんでもです、かつ神学において博士号を持っているまでに学問も積んでいます。
「それじゃあね」
「そのことも含めてね」
「結婚考えていこう」
「そうしていきましょうね」
「そうするね」
先生は応えました、そしてここでオシツオサレツが二つの頭で言いました。
「王子の言う通りだから」
「良縁は傍にあるからね」
言うのはこのことでした。
「だからね」
「早く気付いてね」
「先生が気付けば」
それでとです、老馬も言いました。
「そこから幸せがはじまるよ」
「今以上の幸せがね」
ジップも言います。
「絶対にはじまるよ」
「先生は暴力は振るわないしギャンブルも女遊びもしないから」
先生の長所を挙げていくジップでした。
「真面目でもの静か、ちゃんとした収入もお家もある」
「これだけでも充分過ぎるし」
チーチーが挙げる長所はといいますと。
「尚且つ公平な紳士だよ」
「学問は何でも出来てね」
ホワイティも戦士絵の長所を挙げます。
「こんなに長所があるんだから」
「それでいい人が来ない筈がないよ」
ガブガブも大小判を押します。
「そもそもね」
「お顔?太ってる?別にね」
「外見じゃ人はわからないから」
チープサイドの家族もこう言います。
「確かな人はわかるから」
「そうそう、絶対にね」
「ましてあの人はもう最初からわかっておられるね」
トートーはあえて誰か言いません。
「じゃあ問題なしだよ」
「後は先生が気付くだけ」
ダブダブもこう言います。
「それだけよ」
「じゃあいいわね」
ポリネシアの助言はといいますと。
「周りをよく見てね」
「そうするね、しかし誰かいてくれるのなら」
それならとも言う先生でした。
「果たして誰なのかな」
「それはもうね」
「先生が気付かないとね」
「皆わかってるけれど」
「先生が自分で気付かないと」
「このことはね」
「どうしようもないから」
こう言うのでした、皆も。
そうしてです、皆は先生にあらためて言うことがありました。その言うことは一体何かといいますと。
「それはそうとね、先生」
「サラさんもうすぐ来日するけれど」
「本当に夜ならね」
「湯豆腐ご馳走しようね」
「そうしましょうね」
「そうそう、あんな美味しいものを紹介しないと」
先生も皆に応えて言います。
「駄目だね」
「やっぱりそうだよね」
「あんな美味しいものサラさんにも紹介しないと」
「折角寒い季節に来日するから」
「そのことはね」
「忘れないよ、それとね」
さらに言う先生でした。
「僕が思うにはね」
「思うにはっていうと」
「何かな」
「先生が今度思うことは」
「それは何かしら」
「うん、お酒は何がいいから」
湯豆腐と一緒にサラに出すこちらのことも考えるのでした。
「一体」
「ううん、そうだね」
「そこは別に考えなくてもいいんじゃない?」
「日本酒でね」
「それで」
「そうだね、それも泉鏡花みたいに熱燗にするんじゃなくて」
この人から今回は色々なことがはじまってもというのです。
「そこは別にいいね」
「うん、じゃあね」
「それじゃあね」
「サラさんが夜にお邪魔するならね」
「湯豆腐をご馳走しましょう」
「お酒は普通の日本酒で」
「そうするよ」
こう皆に言ってでした。
サラが来日して先生のお家にお邪魔した時に夜だったので先生は皆と一緒に湯豆腐を出しました、するとです。
サラはご主人と一緒でしたが鍋の中のお豆腐たちを見てそのうえで目を丸くさせてそのうえで言いました。
「お豆腐は知ってるけれど」
「こうした食べ方は知らなかったんだね」
「ええ、中国のお料理とも違うわね」
「日本ではこうしてね」
「お豆腐だけで茹でて食べることもあると聞いてたけれど」
「それがこのお料理でね」
先生は妹さんに微笑んでお話しました。
「湯豆腐というんだ」
「そうなのね」
「それでね」
先生はさらにお話します。
「これが凄く美味しいから」
「だからなのね」
「皆で食べようね」
「ご馳走になります」
サラのお隣にいる端正な紳士の人、彼女のご主人がここで先生に言いました。背は高くて姿勢もよくびしっとしたスーツを着ています。
「この度は」
「はい、どうぞ」
「遠慮しなくていいから」
サラはご主人に微笑んで言いました。
「兄さんはそういうことは好きじゃないから」
「そうなんだね」
「ええ、だからね」
それでというのです。
「私達もね」
「遠慮しないで」
「そしてね」
「この湯豆腐もだね」
「食べましょう」
「お豆腐は一杯ありますから」
トミーもサラ達に笑顔で言います。
「遠慮しないで下さい」
「お金かかったでしょう」
「いえ、日本じゃお豆腐は凄く安いんですよ」
「そうなの」
「ですから沢山買っても」
そうして湯豆腐として食べてもというのです。
「あまり大したお金にならないですから」
「だからなのね」
「どんどん食べて下さい」
トミーはまたサラに言いました。
「そうして下さい」
「それじゃあね」
「そう、皆で湯豆腐を食べて」
王子もいて言います。
「お酒も飲んで楽しもうね」
「お酒は冷えの日本酒だよ」
先生がお酒のお話をしました。
「そちらにしたよ」
「日本酒ね」
「うん、熱しようとも思ったけれど」
「冷え、普通のお酒にしたのね」
「そうなんだ」
こうサラに言うのでした。
「そちらにね」
「そうなのね」
「それじゃあね」
「ええ、お酒もね」
「楽しんでね、こちらも一杯あるからね」
「日本では日本酒も安いのね」
「うん、そうだよ」
その通りだというのです。
「だからね」
「こちらもなのね」
「楽しんでね、じゃあ食べよう」
こうして動物の皆も入れて湯豆腐とお酒を楽しみはじめました、そうしてサラはご主人と一緒に湯豆腐と日本酒を口にしてです。
すぐにです、先生に笑顔で言いました。
「ええ、確かにね」
「美味しいね」
「とてもね、あっさりしていてね」
「イギリスにはない味だね」
「日本ならではの」
まさにというのです。
「素敵な味ね」
「幾らでも食べられるね」
「そんな感じね、それでお酒ともね」
「合うね」
「日本酒と一緒に食べると」
その湯豆腐をです。
「どんどん食べて飲めそうよ」
「それが湯豆腐なんだ、そしてね」
「そしてっていうと」
「日本の泉鏡花や太宰治といった作家さん達も好きだったんだよ」
「ええと、どちらもはじめて聞く人達ね」
サラはお二人の名前を聞いて目を瞬かせました。
「ちょっとね」
「知らないんだね、二人共」
「日本の作家さんで知っている人は」
サラが知っている人はといいますと。
「川端康成は知ってるわ」
「雪国の人だね」
「ノーベル文学賞のね」
「うん、その人は世界的に有名だね」
「けれどね」
それでもというのです。
「他の人は紫式部は知っていても」
「源氏物語の人だね」
「これといってね」
「うん、まだ日本文学は世界に知られていないね」
「私が文学に疎いだけかも知れないわよ」
「いや、そのことを最近感じているんだ」
こうサラにお話しました。
「僕もね」
「日本文学のことを」
「世界的にまだね」
「知られていないっていうのね」
「日本はかなり有名な国だね」
「ええ、経済的にも文化的にもね」
「メジャーな国の一つと言っていいね」
世界の中でというのです。
「太平洋だと日本、アメリカ、中国だね」
「大体その三国よね」
「アジアでも凄く有名な国の一つで漫画も有名だね」
「けれど文学もなのね」
「そう、凄いから」
サラに湯豆腐を食べつつ御話します。
「是非ね」
「もっと知られるべきだっていうのね」
「泉鏡花も太宰治も。特にこの前僕は泉鏡花の論文も書いたし」
「どんな作品を書いた人なの?」
サラは具体的に尋ねました。
「それで」
「僕は天守物語という作品についての論文を書いたけれど妖怪や幽幻の世界を書いた」
「妖怪、イギリスで言う妖精ね」
「そう、その妖怪や人間の恋愛を書いたりしたんだ」
「ファンタジーな世界ね」
「言うならファンタジー作品の草分けかな」
「そう聞くと」
サラはおちょこでお酒を飲みつつ言いました。
「トールキンさんみたいなものね」
「言うならそうだね、日本のね」
「ファンタジー作家だったのね」
「明治から昭和にかけて活躍したね」
「日本はその頃からファンタジーのジャンルがあったのね」
「そう思うと凄いね」
「漫画やゲームだけじゃないのね」
また言うサラでした、ご主人のお碗にお豆腐を入れてあげながら。
「そうなのね」
「簡単に言うとね」
「そうなのね、ただね」
「ただっていうと」
「いや、作品のレベルも高いのよね」
「かなりね」
「だったらこれからメジャーになっていくかしら」
サラは先生に考えるお顔で言いました。
「それなら」
「そうなって欲しいからね」
「兄さんも論文書いたのね」
「英語でも論文を書いてイギリスの学会に発表したよ」
「そうしたのね」
「日本語の論文も書いたけれどね」
そして日本の学会で発表したというのです。
「英語でも書いたよ」
「日本文学を世界に紹介する為にも」
「そうしてみたよ、どうもイギリス文学に比べると知られていないからね」
「イギリス文学は有名だから」
「そうだね、けれどね」
「日本文学も負けていないのね」
「イギリス文学にね」
まさにというのです。
「そう思うからこそ」
「兄さんも本気ね」
「本気で論文を書いてね」
そうしてというのです。
「各国に知らせていきたいよ」
「兄さんの目的がまた一つ増えたってことね」
「そうなるね」
「そのことはわかったわ、じゃあね」
ここであらためて言うサラでした。
「兄さんはね」
「僕は?」
「もうそろそろね」
こうお兄さんに言うのでした。
「結婚もね」
「ああ、そのことだね」
「真剣に考えてる?」
「そうなってきたよ」
「じゃあ早く血痕してね」
「国籍も日本に移そうと考えてるし」
「じゃあ日本に永住するのね」
「そのつもりだよ」
「そうなの、日本人になるのね」
「完全にね」
「じゃあイギリス系日本人ね」
「そうなるね」
先生はサラに笑って答えました。
「国籍を移したらね」
「そうよね」
「日本は国籍を取る手続きが大変らしいけれど」
「それでもなのね」
「うん、日本人国籍を取って」
そしてというのです。
「そうしてね」
「日本に永住して」
「ずっとここにいたいよ」
日本、そして神戸にというのです。
「そう思っているよ」
「そこまで思うならね」
サラはお兄さんの言葉を聞いて笑顔で応えました。
「そうしたらいいわ」
「サラもそう思うね」
「そしていい人とね」
「結婚してだね」
「家庭を持って」
そうしてというのです。
「幸せになってね」
「是非だね」
「ええ、そうなってね」
「うん、僕も結婚はね」
「ずっと縁がないって思い込んでいたでしょ」
「そうでもないみたいだから」
お姫様に言われたことを思い出しながらサラに答えます。
「だったらね」
「それじゃあね」
「もうね」
「前向きに考えていくのね」
「そうしていくよ」
こう言うのでした。
「これからはね」
「そうしてくれたら私も嬉しいわ」
「妻はいつもお義兄さんのことをお話しているんですよ」
ここでサラのご主人が先生に笑顔でお話してきました。
「本当に」
「そうなんですね」
「日本で立派に学者として働いている、とても優しくていい人だと」
「生活力はないけれどね」
このことは少し苦笑いで言うサラでした。
「兄さんみたいないい人いないことはね」
「いつも言っているんですよ」
「子供達にも言ってるわよ」
「僕のことをだね」
「ええ、だから日本に永住してもね」
国籍を取ってというのです。
「そうしてもね」
「これからもだね」
「幸せにね」
「過ごして欲しいんだね」
「そうしてね」
サラは先生に湯豆腐を食べつつ言いました、その湯豆腐はとても温かくてそれでこうも言ったのでした。
「湯豆腐って美味しいわね」
「そうだね」
「とても温かくてね」
「お酒にも合って」
「これもまた和食だよ」
日本のお料理の一つだというのです。
「だからね」
「それでなのね」
「サラもまた日本に来たら」
「その時はなのね」
「食べたらどうかな」
「ええ、それじゃあね」
それならとです、サラも頷いてでした。
先生とご主人そして皆と一緒に湯豆腐とお酒を楽しむのでした。暖かい湯豆腐は本当に美味しいものでした。
ドリトル先生の姫路城のお姫様 完
2019・1・11