『ドリトル先生と姫路城のお姫様』




               第十一幕  素敵な宴

 宴の日が来ました、そしてでした。
 先生達はその日の夕方お迎えの人の訪問を受けました、先生のお家には動物の皆とトミー、王子がいます。
 お迎えの人はお侍さんの服と袴を着たぬらりひょんでした。
「姫様の爺です」
「そしてですね」
「はい、この度はです」
「姫路城の宴にですね」
「招待させて頂きます」 
 ぬらりひょんは先生に笑顔で言いました、ちょんまげをしていて後頭部かかなり突き出ているお爺さんです。
「これより」
「それでは」
「玄関にどうぞ」
 こう言ってです、ぬらりひょんは先生達をお家の玄関に案内しました。するとそこには牛車が置かれていましたが。
 牛車には人のお顔があります、先生はその牛車を見て言いました。
「朧車ですね」
「ご存知ですか」
「はい、日本の妖怪ですね」
「そして姫様のお車の一つでして」
「このお車で、ですね」
「これからです」
「姫路城に向かうのですね」
「そうして頂きます」
 見れば青い牛が牛車を曳いています、かなり大きな牛です。
「お城まですぐに着きますので」
「すぐですか」
「何しろ空を飛んでいきますので」
「それで、ですね」
「そうです、ではまずはお乗り下さい」
 ぬらりひょんはこう先生にお話してでした、そのうえで。
 皆で一緒に朧車に乗って出発となりました、するとです。 
 ぬらりひょんが付いている朧車は空を飛んででした、先生のお家の玄関から姫路城の方に向かいました。本当にすぐにでした。
 姫路城に着いて先生達は天主閣が完全に見える場所に案内されました、そこにお姫様がお付きの人達と一緒にです。
 もう一人着飾った桃色のお姫様の服を着たお姫様がいました、黒髪で丸い目をしていて姫路城のお姫様より小柄で幼い感じがします。
 そのお姫様が先生に微笑んで声をかけてきました。
「そなたがドリトル先生ですね」
「はい」
 先生は皆と一緒にそのお姫様に帽子を取って深々と一礼してから答えました。
「私がドリトルです」
「お話はお姉様から聞いています」
「そうですか」
「今宵の宴のことを考えてくれたとのことで」
「その考えが実ることを願っています」 
 先生はこうそのお姫様に答えました。
「今宵は」
「そうですね、名乗りが遅れましたが」
 お姫様は先生にあらためて言いました。
「私が亀姫です」
「猪苗代の方ですね」
「そうです、あの辺りの妖怪達の棟梁であり」
 その地位にあってというのです。
「このお城の主富姫様とは義理の姉妹の間柄です」
「そしてこの度は、ですね」
「お姉様のお招きでこちらに来ました」 
 それで今ここにいるというのです。
「そしてです」
「宴もですね」
「楽しませて頂きます」
「それでは」
「さて、宴をはじめようぞ」
 お姫様、亀姫が言う富姫が場に言いました。
「もう馳走や舞台の用意は出来ておるな」
「既に」
 青坊主がお姫様に答えました。
「出来ています」
「それではじゃ」
「今からですね」
「はじめるとしよう」
 こうしてでした、宴がはじまりました。
 すぐに先生達はお姫様達と一緒に用意してもらった座に就きました。用意されてある座布団の上に座るとです。
 すぐにお料理が運ばれてきました、レタスにトマト、セロリや胡瓜にラディッシュが入っていてチーズやオニオンソースがかけられたサラダが最初に出まして。
 ブイヤベース、貝類や茸のアヒージョ、鮭のマリネ、蛸のカルパッチョ、鱈のアクアパッツァ、海老や烏賊や蟹等魚介類のパエリアと次々に出て。
 チーズの盛り合わせ、ソーセージや生ハム、鴨のグリル、豚のカツレツ、ビーフステーキも出て来てです。動物の皆もびっくりして言いました。
「いや、凄いね」
「そうだよね」
「まさに山海の珍味だね」
「どんどん出て来るね」
「海のものも山のものも」
「凄いね」
「洋食でいい感じだね」
「そうだね」 
 先生も食べながら笑顔になっています。
「ワインも美味しいし」
「本当にここまで出るなんてね」
「凄いよね」
「これがお姫様の宴なんだね」
「催しもいいし」
「うむ、これ位はじゃ」
 お姫様が先生達に微笑んで答えました。
「何でもないぞ」
「これだけの宴がなんだ」
「お姫様には何でもないんだ」
「催しも音楽に舞に凄いけれど」
 琴や笛、三味線等で音楽が奏でられていて着物の妖怪達が舞を舞っています。皆はその舞も見ています。
「これだけの催しが」
「そうなのね」
「妾はこの兵庫、播磨の妖怪の棟梁であるからのう」
 だからだというのです。
「これ位の宴はな」
「何でもなく」
「それで、なんだ」
「普通に宴を開ける」
「それだけのお金があるんだね」
「金は幾らでも持っていて手に入れることが出来る」
 何でもないといったお返事です。
「妖怪は妖怪で銭を稼いでおるからのう」
「それでなんだ」
「お姫様もお金を持っているんだ」
「それもかなり」
「そうじゃ、尚悪事で儲けてはおらぬ」
 そうしたことはしていないというのです。
「そこは安心してたもれ」
「そうなんだね」
「じゃあ奇麗なお金なんだね」
「ちゃんとした」
「そうじゃ、そしてじゃ」
 お姫様はさらにお話します。
「この舞楽の後はな」
「うん、何かな」
「次の催しは」
「一体」
「歌舞伎じゃ」
 こちらの舞台だというのです。
「それも妾達を描いたな」
「天守物語ですね」 
「左様」
 お姫様は題名を挙げたトミーにお顔を少し向けて微笑んで答えました、細くて白い指で白ワインが入っているグラスを持っています。
「それを催す」
「そちらをですか」
「うむ、どうも先生達はあの作品から妾達を知った様じゃしのう」
「はい、実は」
 その通りだとです、先生も答えます。
「あの作品からです」
「妾達を知ったな」
「イギリスにいた時はです」
「全くじゃな」
「泉鏡花も知りませんでした」
 物語を書いたこの人すらというのです。
「まことに」
「そうであるな、だからじゃ」
「あえてですね」
「あの演目とした」
 歌舞伎はというのです。
「そうした、そして歌舞伎の後はな」
「それはですね」
「落語、その後は能で最後は狂言じゃ」
「その順番ですね」
「それで観てもらう」
 こう先生に言うのでした。
「その後でな」
「花火とですね」
「ライトアップとな」
「イルミネーションですか」
「そうなっておる、馳走と美酒を食しながらな」
「それは何よりですね」
「どのお料理も最高の味だよ」
 王子は今はアクアパッツァを食べています、大きな鱈のそれは本当に美味しくて白ワインにもよく合います。
「かなりの量だけれど全部食べられそうだね」
「そうね、これはね」
 ダブダブも食べつつ言います。
「食べられそうね」
「全部ね」
 食いしん坊のガブガブは一番楽しんでいます、尚皆ダブダブとガブガブは鴨や豚は同じ種類なので食べていません。
「いけそうだね」
「あまりにも美味しいと幾らでも食べられる」
「よく言われることだけれど」
 チープサイドの家族も楽しく食べています。
「その通りよね」
「僕達も自分の体重分食べられそうだよ」
「流石に自分の体重以上は食べられないけれど」
 ホワイティも楽しく食べています。
「そこまで食べられそうな感じだね」
「いや、海の幸も山の幸もね」
 どれもと言うジップでした。
「いい素材でね」
「調理も素晴らしいわ」 
 ポリネシアにもこのことはよくわかりました。
「細かい味付けまでしっかりしていて」
「盛り付けもよかったし」
 老馬はこのことが気に入っています。
「芸術品みたいな整いだったね」
「一瞬食べるのを戸惑う位にね」
 それでと言ったのはトートーです。
「見事なものだったよ」
「だから奇麗に食べようって思うね」
 チーチーは実際に礼儀正しく食べています、このことは他の動物の皆も同じで先生と同じだけ紳士そして淑女になっています。
「自然と」
「催しも奇麗だし」
「そちらも素敵だしね」
 オシツオサレツはそちらにも注目しています。
「これならね」
「本当に最高の宴だね」
「ワインも」
 先生は今食べているステーキに合わせて赤ワインを飲んでいます、そのワインの味について言うのです。
「素敵な味でね」
「気に入ってくれたか、酒も」
「これは日本のワインですね」
「左様、仏蘭西や伊太利亜からのワインも持っておるが」
 しかしというのです。
「今はこのワインが一番美味いと思ってな」
「それで、ですね」
「このワインを出したのじゃ」
「赤も白もですね」
「そうじゃ、では酒もな」
「心雪ゆくまでですね」
「楽しんでもらいたい」
 言いながらご自身も飲むお姫様です、グラスを持つ手が実に艶めかしいです。
「こちらもな」
「そうさせてもらいます」
「その様にな」
「洋食とワインもいいですね」
 富姫はお姫様の右隣にいます、そこで飲んで食べています。
「和食もいいですが」
「そうであるな」
「あまり食べたことはないですが」
「時にはこうした宴もよいな」
「実に」
「そうじゃな、ではな」
「これからは」
「時折洋食も出すとしよう」
 宴にというのです。
「中華も考えるか」
「満漢全席ですね」
「あれもな」
「では今度私の方で宴を開きましたら」
「満漢全席をか」
「出させて頂きます」
「その時を楽しみにしておるぞ」 
 お姫様は富姫に妖艶な微笑みを向けて答えました。
「まことに」
「その時もまた」
「共に楽しもうぞ」
「それでは」
「さて、お主達もじゃ」
 お姫様は周りにいる妖怪達にも声をかけました。
「それぞれの勤めが終わったならな」
「はい、その時はですね」
「私共も」
「馳走と美酒を用意しておる」
 今自分達が食べているものをというのです。
「存分に楽しむのじゃ、そして催しもな」
「わかりました、それでは」
「その様に」
 お姫様のお付きの姫路城の妖怪達だけでなく富姫と一緒にここに来ている猪苗代の妖怪達もでした。
 富姫に言われて頷きました、そしてでした。
 皆で楽しく飲んで食べてです、天守物語も楽しんで。
 その後は落語でした、剽軽なそれの後で能の幽幻の世界が姿を現しましたが。
 動物の皆は能の舞台に思わず息を飲んでしまいました。
「こんな世界あるんだ」
「この世にあるのにこの世にないみたいな」
「そんな舞台ね」
「不思議な空間があってそこに何かがある」
「そんな神秘的なね」
「独特の世界よね」
「これが能じゃ」 
 お姫様も皆に応えます。
「よいものであろう」
「いや、本当にね」
「この世界にないみたいな」
「物凄い世界だね」
「能を本格的に観ると」
「こうしたものなんだね」
「そうじゃ、では観ていくぞ」
 お姫様は微笑んでいます、そうして舞台を観ていて。
 最後の最後まで皆で観てです、舞台が終わって言うのでした。
「見事であった、やはり能はいいのう」
「ここまで見事な能の舞台は」 
 先生も素晴らしい舞台を観て感動したお顔になっています。そのうえでの言葉です。
「この目で観たことはなかったです」
「ではよい経験になったのう」
「はい」
 その通りだとです、先生はお姫様に答えました。
「能はこうしたものですね」
「そうじゃ、そしてじゃ」
「この能の舞台をですね」
「忘れぬことじゃ」
 お姫様は先生にこうも言いました。
「よいな」
「それでは」
「さて、次は狂言じゃが」
「これも面白いですよね」
「演目は蝸牛じゃ」
 これを行うというのです。
「よい演目じゃ」
「そうですね、では」
「それも楽しんでもらいたい」
「そうさせてもらいます」
「そしてじゃ」
「狂言の後で」
「いよいよじゃ」
 お姫様はアヒージョを食べつつ言いました、貝類も茸もガーリックと一緒に熱いオリーブの中でよく煮られていてとても美味しいです。
「花火じゃ」
「冬の花火ですね」
「太宰じゃな」
 お姫様はその冬の花火を書いた人の名前を出しました。
「あの人であるが」
「これはと思いまして」
「さて、ではな」
「あの作品とは違って」
「楽しむとしよう」
「冬の花火は」
 亀姫が言うにはです。
「スキー場では多いです」
「うむ、六甲でもな」
「打ち上げられますね」
「そうであるがのう」
「私達が楽しむことは」
「なかったからのう」
 それでというのです。
「何かとじゃ」
「楽しみですね」
「不安もあるがのう」
「冬の夜空に花火が合うか」
「それがな」
「だからですね」
「不安も感じる、しかしな」
 それと共にというのです。
「それ以上に楽しみである」
「どういったものかと」
「何かとな、ではな」
「これからですね」
「花火も観ようぞ」 
 狂言の後で、というのです。
 そしてそのうえで狂言の蝸牛が終わってからでした、花火となりましたが天守閣の後ろの夜空に咲く大輪を観てです。
 お姫様は頷いてから言いました。
「これからはな」
「冬もですね」
「花火を打ち上げようぞ」
 そうすると言うのです。
「そしてじゃ」
「そうしてですね」
「そうじゃ、楽しむ」
 まさにというのです。
「雨や雪の時以外はな」
「雨にしても雪にしても」
「それはそれでよいからのう」
「雨なぞ降るもおかしですね」
「それじゃ」
 お姫様は富姫が出した枕草子の言葉に応えました。
「まさにじゃ」
「雨もですね」
「そして雪もじゃ」
 こちらもというのです。
「そういったものもよいからな」
「降った時はそちらを楽しみ」
「そして今はじゃ」
「こうしてですね」
「花火を楽しもうぞ」
 こう言って花火を観るのでした、大輪達が次々に咲いています。
「これからもな」
「ではこちらでも」
「花火を打ち上げるか」
「冬も。流石にお昼は無理ですが」
「ははは、幾ら何でも昼の花火はのう」
「ないですね」
「全く意味がないわ」
 それこそというのです。
「冬の花火はあってもな」
「昼の花火はですね」
「そもそも見えぬわ」
 夜空に打ち上げる時と違ってというのです。
「だからそれはないわ」
「そうですね」
「花火は夜じゃ」
 その時だというのです。
「まさにな」
「それは絶対ですね」
「思えば冬でも夜は夜じゃ」
「だから冬の夜もですね」
「よい」 
 お姫様は今このことを確かだと考えました。
「それがわかった」
「そうですね、ですから私も」
「猪苗代でもずあな」
「してみます」
「妾を読んでくれてか」
「そうさせて頂きます」
「ではな、しかしな」
 ここでこうも言ったお姫様でした。
「花火もよくなったのう」
「昔と比べて」
「このナイアガラなぞな」
 今は黄色いナイアガラがバチバチと音を立てて咲いています、柳も思わせる形のそれを観つつ亀姫に言うのです。
「なかったからのう」
「かつては」
「種類が増えて全体の質もじゃ」
「まことによくなって」
「見応えがさらによくなった」
 まさにというのです。
「だからよいのう」
「本当にそうですね」
「こうして楽しめるわ」
「太宰治の言うこととは違い」
「太宰はあくまで当時の人間じゃ」
 昭和の前期の人だというのです。
「明治の末に生まれてな」
「それではですね」
「当時冬に花火なぞなかった」
「ではですね」
「そうなることもじゃ」
 冬の花火が意味がないと言う様なことを言うこともというのです。
「当然であろうな、妾達もそう思っておったし」
「それならですね」
「太宰が不明な訳ではない」
「あくまで当時の考えですね」
「そうじゃ、そして今の妾達はな」
「この様にしてですね」
「観ていこうぞ」
 こう言って実際にでした。
 お姫様達は花火を最初から最後まで堪能しました、その間もご馳走もお酒も楽しんでいますがここで、です。
 ふとです、動物の皆はあることに気付きました。その気付いたことは一体どういったものかといいますと。
「あったかいよね」
「僕達のいる場所はね」
「冬の夜にお外にいるのに」
「それでもね」
「寒くないよね」
「暖かいね」
「快適だよね」
「だって僕達がいるからね」
 こう言ってきたのは鬼火でした、観れば場に何十といます。
「僕達が篝火にもなっていてね」
「そして暖房にもなっているんだよ」
「僕達がこれだけいれば暖かいよ」
「自然とね」
 こう動物の皆にお話します。
「だから安心してね」
「冬の夜にお外にいてもね」
「暖かいからね」
「冷えることはないよ」
「しかも暖かい馳走に酒じゃ」
 お姫様はこちらをお話に出します。
「暖かくなって当然じゃ」
「それにワインだと」
 先生は動物の皆に飲んでいる酒のお話をします、ビールも用意されていますが先生達は今は飲んでいません。
「身体が暖まるからね」
「あっ、そうだね」
「ワインはそうだよね」
「ビールは身体が冷えるけれどね」
「ワインは身体を暖める」
「だからね」
「そう、それでだよ」 
 このこともあってというのです。
「今僕達は暖かいんだ」
「そうだよね」
「それじゃあね」
「この暖かさも楽しんで」
「宴を続けるんだね」
「花火は終わった」
 それならと言うお姫様でした。
「では次はライトアップとじゃ」
「イルミネーションですね」
「その二つじゃ」
 亀姫に笑顔で答えました。
「これからはじまるぞ」
「それでは」
「さて、その光じゃが」
「あれですか?電気も」
「ははは、それもよいがじゃ」
 それでもと笑ってです、お姫様は亀姫に答えました。
「妾達は妖怪じゃな」
「では妖怪ならではのですね」
「光を使った」
 ライトアップとイルミネーションにというのです。
「妖怪蛍じゃ」
「あれですか」
「うむ、あの者達に命じてな」
 そうしてというのです。
「ライトアップとイルミネーションをさせた」
「その二つを」
「ではな」
「今からですね」
「見せようぞ」
 お姫様は両手をぽんぽんと叩きました、するとです。
 天守閣が白い光でライトアップされました、天主閣の光が照らされてそうしてなのでした。
 夜空に照らし出されます、そしてお城のあちこちにです。
 白や赤、青、黄色、緑、橙、紫と様々な光でお姫様や妖怪達が映し出されました。その光の姿を見てです。
 亀姫はこう言いました。
「これはまた」
「どうであろうか」
「素晴らしいですね」
「うむ、妖怪蛍は一色だけ出すのではないのう」
「様々な色の光を出せますね」
「だからじゃ」
 それでというのです。
「あの者達に命じてな」
「ライトアップとイルミネーションをさせたのですか」
「左様じゃ、しかも妖怪蛍は死なぬ」
 蛍の寿命は短いですが。
「だからじゃ」
「冬もですね」
「こうして光を出せる」
「それで、ですね」
「飾った、ただな」
「ただ?」
「そうじゃ、ではな」
 お姫様はあらためて言いました。
「これからも見ようぞ」
「それでは」
 亀姫も頷きます、そしてです。
 そのまま映像を見ていますがここで、でした。イルミネーションの中にです。
 先生とトミーと王子、そして動物の皆の姿もあります。先生は光で描かれている自分達を見て言いました。
「僕達までいるし」
「うむ、当然じゃ」
 お姫様は先生にも言いました。
「先生が今回の宴のことを考えてくれたのじゃ」
「だからですか」
「先生達の姿があることもじゃ」
「当然ですか」
「そうじゃ、だからじゃ」 
 まさにその為にというのです。
「先生達の姿もあるぞ」
「そうですか」
「そしてじゃ」
 さらに言うお姫様でした。
「よい出来であろう」
「はい」
 実際にとです、先生はお姫様に答えました。
「凄いですね」
「僕達もいるしね」
「光で描かれてね」
 オシツオサレツが二つの頭で言いました。
「まさかこんな風に描かれるとはね」
「思いもしなかったよ」
「しかも凄く奇麗だし」
 ダブダブは満足しています。
「これはいいね」
「この宴でまた驚いたよ」
 ホワイティはイルミネーションの中にいる自分を見ています。
「僕もいるし」
「僕そっくりじゃない」
 ガブガブも自分を見ています。
「美形でね」
「しかも動いてるし」
「動きもそっくりでね」
 チープサイドの家族は動くイルミネーションを見て感動しています。
「動くイルミネーションもいいよね」
「こういったのもね」
「楽しそうに飛んだり走ったり」
 ポリネシアもにこにこととしています。
「私達がそうしてるわね」
「実際の僕達みたいにね」
 実際のジップも光のジップも尻尾をぱたぱたとさせています。
「動いてるね」
「妖怪蛍の光だっていうけれど」
 トートーはお姫様の言葉から思うのでした。
「ああしてまとまって動けるって凄いね」
「そんなことそうそう出来ないよ」
 老馬も思うことでした。
「妖怪だからかな」
「頭いいのかな」
 最後にチーチーが言いました。
「妖怪蛍って」
「左様、あの者達は妾が言った通りに動く」
 お姫様が皆にお話しました。
「話も出来るしちゃんとどうせよと言えるのじゃ」
「それでなんだ」
「ああして飾って動いて」
「そうしたことが出来るんだね」
「そうした蛍達なんだ」
「左様、よい者達じゃ」
 お姫様はにこりと笑ってこうも言いました。
「妾の自慢の一つじゃ」
「自慢になるよね」
「こうして奇麗に飾ってくれるなら」
「普通のライトアップやイルミネーションよりも凄いよ」
「ライトアップの光も動いてるしね」
「そうであるな、それでじゃが」
 お姫様はさら言いました。
「もう馳走はあらかた食べたのう」
「あっ、気付いたら」
「皆全部食べてるね」 
 トミーも王子も気付けばでした。
「あまりにも美味しくてね」
「どんどん食べてね」
「いつもよりずっと食べてるね」
「流石にお腹一杯になったよ」
「その腹とは別の腹を使ってもらう」
 お姫様は楽しそうに述べました。
「ここはな」
「デザートですね」
 先生はお姫様の言わんとしていることを察して言いました。
「そちらですね」
「うむ、ここまできたらな」
「最後はですね」
「デザートじゃ」
 そちらの順番だというのです。
「だからじゃ」
「最後はデザートを食べて」
「宴を終えよう。それでじゃが」
「それでといいますと」
「帰りも送る」
 その時もというのです。
「先生達はしこたま酔ってるしのう」
「だからですね」
「送ってじゃ」
 そしてというのです。
「後は家で休むのじゃ」
「それでは」
「して妾達はじゃ」
 お姫様はまた亀姫を見てお話します。
「宴の後は風呂じゃ」
「最後の最後はですね」
「それを楽しもうぞ」
「やはり一日の最後は湯ですね」
「はじまりに入るのもよいがのう」
「こうした宴の後は」
「身体を清める為にもな」
 まさにというのです。
「湯が最もよい」
「その通りですね」
「それでじゃが」
 お姫様はさらに言いました。
「湯は時を開けるぞ」
「酔いを醒まして」
「それからじゃ。しこたま酔ったままの風呂はよくない」
 だからだというのです。
「これは妾達妖怪も同じであるからのう」
「そうですね、死なぬとしても」
「身体によくないのは確かじゃ」
「だからですね」
「酔いを醒ましてな」
「そのうえで」
「入ろうぞ。もう酒を飲み終えて暫く経ってじゃ」
 そしてというのです。
「宴も終わって少し経つとな」
「さらに酔いも醒めるので」
「それから入ろうぞ」
「それがいいですね」
「とにかく宴が終わってすぐはな」
「入らないですね」
「時を置いて共に入ろうぞ」
 こう亀姫にお話するのでした。
「今宵もな」
「それでは」
「さて、それでじゃが」
 ここまでお話してでした、お姫様はまた先生に言いました。
「それでデザートじゃが」
「はい、そちらですね」
「飲みものは紅茶じゃ」
 こちらからお話するのでした。
「ミルクティーじゃ」
「そちらですか」
「うむ、先生の好みでな」
「僕の好みに合わせてくれたんですか」
「それでそちらにした」
 飲みものはというのです。
「仏蘭西や伊太利亜は珈琲が多いというがな」
「スペインもそうですね」
「そうじゃな、しかしな」
「ここはですか」
「また言うがこの度の宴は先生あってこそじゃ」
 それでここまでのものになっているからだというのです。
「それでじゃ」
「ここはですね」
「ミルクティーにした、そしてデザートは」
 いよいよそちらにお話がきました。
「三段のティーセットじゃ」
「おお、それですか」
「洋食でここまで出して英吉利がないのもと思ってのう」
「イギリスのものはないと思っていましたが」
「先生のお国じゃぞ」
 それならというのです。
「なくてどうする」
「そこまで気を使ってくれるとは」
「これも当然のこと、だからじゃ」
「最後のデザートはですか」
「ミルクティーとティーセットじゃ」
 イギリスのそれだというのです。
「そしてセットの内容はな」
「どういったものですか?」
「まず冗談はクッキーでじゃ」
「クッキーですか」
「そして中段はシュークリーム」
 お姫様も楽しそうにお話します。
「最後はバウンドケーキとなっておる」
「本当に本格的なイギリスのものですね」
「食材は日本じゃな」
「しかしです」
「英吉利の料理が出てか」
「僕としては嬉しいです」
 こうお姫様に言うのでした。
「本当に」
「ならよいがのう」
「あまり評価されないので」
 イギリス料理はというのです。
「ですから」
「しかしじゃ、ティーセットはよいぞ」
「それにビーフシチューやローストビーフも」
 亀姫も言ってきます。
「いいかと」
「調理次第でよくなるのではないか」
 これがお姫様の考えでした。
「実は」
「そうですよね」
「向こうの料理人の腕がではないのか」
 こうも言うのでした。
「結局は」
「食材と職人の腕が確かなら」
「大抵の料理は美味くなるからのう」
「そう思いますと」
「英吉利の料理が悪いというのは」
「料理人の腕でしょうか」
「盛り付けが悪いとも聞くが」
 お姫様はこちらのお話もしました。
「それも料理人の腕」
「そのうちですね」
「結局は料理人じゃ」
 この人達の腕次第だというのです。
「まことにな」
「だからですね」
「英吉利も料理人の腕がよいとな」
「自然と美味しいものを食べられますね」
「そう思うがのう」
「最近何とか変わったそうです」
 先生は二人のお姫様にこうお話しました。
「本当に何とかですが」
「左様か」
「軍隊の食事にしましても」
「美味くなっておるか」
「はい、そう聞いています」
「そういえば先生もうレーション食べた?」  
 王子が先生に尋ねました。
「イギリス軍のそれは」
「ああ、まだなんだ」
「そうなんだ」
「あと少しで届くから」
「それで食べてみるんだ」
「大戦中のレ−ションは酷かったけれど」
 それでもというのです。
「最近はね」
「よくなっているんだ」
「どうやらね、だから食べることも楽しみだよ」
「それはいいことだね」
「うん、本当にね」
「英吉利は長い間繁栄の時代があったのにね」
 王子はかつての大英帝国のお話をしました。
「それでもだったね」
「お料理だけはよくならなかったからね」
「そこが問題だったけれど」
「それをね」
 何とかというのです。
「よくしていく為に」
「ここはだね」
「うん、食べるよ」
「届いたらだね」
「すぐにね」
 こうお話する先生でした、そして最後にです。
 先生達はデザートを食べました、ライトアップやイルミネーションを観ながらそのうえでなのでした。
 ミルクティーを飲んでティーセットを食べます、ここでなのでした。
 お姫様は先生に微笑んで尋ねました。
「してどうじゃ」
「はい、紅茶もセットも」
「どちらもじゃな」
「非常に美味しいです」
「それは何よりじゃ」
「日本のティーセットは本当に美味しいですね」
「英吉利のものに負けておらぬか」
 お姫様も紅茶を飲んでいます、白い手に白いカップを持っています。
「そうであればよいが」
「負けていません」
「ならよい、やはりな」
「お茶もお菓子もですね」
「美味いに限る」
「特に最後の最後に飲んで食べるならば」
「そうでなければじゃ」
 まさにというのです。
「よくないからのう」
「だからですね」
「美味いならじゃ」
 お姫様にしてもなのです。
「何より。ではな」
「はい、宴の最後に」
「共に楽しもうぞ」
 ミルクティーとティーセットをというのです、こうお話してでした。
 先生達は最後の最後まで楽しんでそうしてでした。お家まで送ってもらいましたがお家に着いてから動物の皆に言われました。
「凄くよかったね」
「ご馳走もお酒もね」
「能も狂言も歌舞伎も」
「落語も歌も踊りも演奏も」
「花火もあってね」
「ライトアップにイルミネーション」
「本当にね、デザートまでね」
 先生も満足しきったお顔になっています。
「とてもよかったね」
「今回もいい経験させてもらったね」
「いつものことだけれど」
「姫路城も奇麗だったし」
「とれも素敵な経験だったよ」
「全くだね、じゃあね」
 それでとです、先生はこうも言いました。
「これからだけれど」
「これから?」
「これからっていうと」
「うん、泉鏡花の論文を書き終えて」
 そしてというのです。
「次の論文も書いて」
「それでよね」
「まだやることあるよね」
「先生は」
「そう、講義もあるし」
 大学のそれもあります、先生は大学教授なのでこちらの方も熱心に考えて行わないといけないのです。
「それにね」
「しかもだよね」
「イギリス軍のレーションも食べないといけないしね」
「他にも色々あるよね」
「何かと」
「それにです」
 トミーも先生に言ってきました。
「サラさんも来られますよ」
「あっ、そうだったね」
「またご主人のお仕事の関係で」
「そうだったね、来日してだね」
「このお家にも来られますよ」
「サラはよく来日してね」
 そしてと言う先生でした。
「来日したらね」
「絶対にこのお家に来てくれますね」
「有り難いよね」
 にこりと笑ってです、先生はトミーに応えました。
「いつも来てくれてね」
「やっぱり兄妹だからですよ」
「うちに来てくれるんだね」
「今度はお昼でしょうか」
「どうかな、夜だったらね」
「その時だとどうされますか?」
「うん、湯豆腐をご馳走しようかな」
 こう言うのでした。
「ここはね」
「湯豆腐ですか」
「今回は泉鏡花のことから色々はじまったしね」
 それで姫路城にも行ってお姫様にお会いして宴の提案をして招いてもらってと色々あったからだというのです。
「だからね」
「それで、ですね」
「そう、そしてね」
 それでというのです。
「サラは湯豆腐どころかお豆腐自体を知らないかも知れないしね」
「最近イギリスでも和食のお店ありますよ」
「じゃあ知ってるかな」
「ひょっとしたらご存知かも知れないですね」
「サラさんも来日の機会多いしね」
 王子も言ってきました。
「ひょっとしたらだよ」
「知ってるかな」
「湯豆腐って日本じゃメジャーなお料理だしね」
「そういえばお豆腐自体がね」
「だから知ってるかも知れないよ」
「よく考えてみればそうだね、けれど美味しいから」
 湯豆腐が、とです。先生は考えて皆に言いました。
「サラが今度うちに来たらね」
「その時が夜だったらだね」
「湯豆腐をご馳走しよう」
 こう決めました、楽しい宴の後で先生は皆とこの時も楽しい時間を過ごしました。








▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る