『ドリトル先生と姫路城のお姫様』




               第七幕  西国の要

 姫路城のお姫様と天主閣でお会いした先生はお家に帰ってから一緒にお城に入ってお姫様と会ったトミーと王子そして動物の皆にこう言いました。
「さて、凄い依頼を受けたけれど」
「先生としてはだね」
「この依頼を必ずね」 
 まさにとです、先生は王子に答えました。
「適えたいね」
「そうだよね」
「そしてね」
「お姫様を喜ばせてあげるね」
「そうさせてもらうよ、そしてね」
「そしてだね」
「最高の宴を見ようね」 
 姫路城で行われるそれをというのです。
「そうしようね」
「そうだね、じゃあ皆でね」
「どうしたものにするか考えていこうね」
「それじゃあね」
「しかし。あのお城は」
 トミーは姫路城のことについて言いました。
「あのままで」
「充分過ぎるまでにだね」
「奇麗ですけれどね」
「そうだね、姫路城はそれだけでね」
「最高のお城ですよね」
「白鷺城の名前に負けない位にね」
 それまでにというのです。
「素晴らしいお城だね」
「本当に」
「僕もそう思うよ、けれどね」
「それをですか」
「うん、お姫様はもっとと言われるから」
 それでというのです。
「どうしようかなって考えているんだ」
「美味しいものは外せないね」
 こう言ったのは食いしん坊のガブガブでした。
「何といっても」
「うん、山海の珍味だね」
「それよね」
 チープサイドの家族がガブガブに応えます。
「日本の美味しい食材を使ってね」
「色々なお料理を作った」
「もうそれだけで凄くなるね」
 老馬もこう言います。
「本当にね」
「あとお酒もだね」 
 ジップはこちらも忘れていません。
「美味しいね」
「場所はあの天守閣かな」
 こう言ったのはチーチーでした。
「お姫様がおられる場所だし」
「あそこが泉鏡花さんの作品の舞台だし」
 このことを指摘したのはポリネシアでした。
「丁度いいじゃない」
「うん、あそこが一番だよ」
 まさにとです、トートーも言いました。
「あそこ以上の場所はないんじゃないかな」
「天守閣全体を使ってパーティーをしたら」
 それこそと言うホワイティでした。
「素敵なものになりそうだね」
「小さい天守閣も使えるし」
 このことはダブダブが言いました。
「あそこしかないわね」
「そうだよね」
「あそこ以外って言われると」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「ちょっとね」
「ないよね」
「うん、あのお城での宴は」
 先生も言うことでした。
「やっぱりね」
「あそこだよね」
「天守閣よね」
「もう第一はね」
「あそこね」
「そうだね、僕もそう思うし」
 それでと言う先生でした。
「お姫様にもお話するよ。あと来週の日曜だね」
「ええ、その時にね」
「またお城に行って」
「お姫様にお話しましょう」
「どういった宴にするか」
「そのことをね」
「そうするから」
 それでと言うのでした。
「その時までに考えていこうね」
「それで結論を出して」
「そうするのかを」
「具体的に決めて」
「来週の日曜日にね」
「お姫様にお話しましょう」
「そうしようね、しかしあのお城は確かに素晴らしいけれど」
 それでもと思う先生でした。
「もっといい方法があるかな」
「あのお城の奇麗さをもっと際立たせて」
「それでお姫様もお客さん達も喜んでくれる」
「勿論兵庫県の妖怪さん達も」
「皆がそうしてくれる様な」
「そういうのがあるかな、まああれだね」
 ここでこうも言った先生でした。
「僕も一つ考えがあるよ」
「考え?」
「考えっていうと」
「何なのかな」
「日本のお城とね、文化かな」
 この二つを出すのでした。
「そこから考えてみようって思ってるんだ」
「具体的にどんなお祭りにするか」
「その二つのことにだね」
「ヒントがある」
「そう思ってるんだ」
「そうなんだ、ちょっと日本のお城のことを調べなおして」
 そしてというのです。
「日本の文化、この場合はおもてなしかな」
「おもてなしだね」
「このことからだね」
「一体どうするか」
「具体的に」
「そう、そこからね」
 まさにというのです。
「考えていこうかな」
「お城だね、日本のお城は」
 王子が言ってきました。
「天守閣があるのは戦国時代からだね」
「それまでは砦みたいなものでね」
「天守閣はなくて」
「戦国時代から変わり出してね」
「安土桃山時代に定着したんだったね」
「僕達が知っている日本のお城はね。そしてね」
 先生は王子にさらにお話しました。
「姫路城もその頃のお城、江戸時代初期に完成しているから」
「そうだよね」
「天守閣もあるんだ」
「だったら天守閣のあるお城から考えていく?」
 あらためて言う先生でした。
「それなら」
「うん、そしてね」
 そうしてというのでした。
「それならお城が限られるね」
「調べるお城もね」
「しかもあの規模の天守閣となると」
 姫路城位のです。
「限られるしね」
「大阪城、名古屋城、広島城、熊本城、会津若松城等ですか」
「大体それ位だね」
 実際にと答えた先生でした。
「具体的に言うと。あとね」
「あと、といいますと」
「今の皇居、江戸城にもそれだけの天守閣があったし」
「大火で焼けましたね」
 今度はトミーが応えます。
「江戸時代前期の明暦の大火で」
「残念ながらね、けれどあったことは事実だよ」
 このこと自体はというのです。
「それと福井のお城は前は北ノ庄城だったけれど」
「あそこも五層の凄い天守閣があったそうだよ」
「そうだったんですね」
「そして安土城だね」
「ああ、最初の五層の天守閣ですね」
「あのお城は天主閣と書くけれどね」
 先生はお話しながらこの辺りが実に日本語らしいとも思いました、同じ読み方でも漢字が違い意味も違ってくることがです。
「あのお城が本当にね」
「最初の本格的な五層の天守閣ですね」
「そう、天主閣でね」
 それでというのです。
「あそこからはじまったんだよ」
「そうでしたか」
「だからね」
 それでというのです。
「あのお城についてもね」
「調べてみますか」
「うん、そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「日本のおもてなしは」
「もう凄いね」
「細かいところまで気が付いて」
「もうこれぞって言う様な」
「凄いものだから」
「日本のおもてなしは」
 動物の皆も言うことでした。
「果たしてそこから考えると」
「どんなものがいいかしら」
「具体的には」
「そうだね、まず音楽と踊りは欠かせないね」
 この二つはというのです。
「ご馳走とお酒は言うまでもないし」
「あっ、そういえば」
 ここで王子はあることに気付きました、そしてその気付いたことを今先生に対してすぐにお話しました。
「お客さんもお姫様も」
「どうしたのかな」
「うん、日本で生まれ育ってるよね」
「それも僕達よりずっと長くね」
「だったら和食はね」
「そして日本酒もだね」
「少し離れてみる?」
 こう提案するのでした。
「ここはね」
「そうだね」
 先生も王子のその提案に頷きました。
「ここはね」
「確かに和食は美味しいしね」
「姫路は近くに明石があって海の幸も豊富でね」
「山もあってね」
 こちらは六甲の山です。
「海の幸も山の幸も揃うよ」
「その通りだね」
「けれど」
「そこをだね」
「あえて和食にしないで」
 お姫様達が和食に慣れていることからというのです。
「他のお料理にしていこう」
「中華やフレンチだね」
「イタリアやスペインもあるし」
「トルコ料理もいいね」
「うん、とにかくね」
「和食からだね」
「思い切って離れて」
 そしてというのです。
「考えていこうね」
「それじゃあね」
「でしたら」
 ここでトミーが言ったことはといいますと。
「思い切ってフランスかイタリアで」
「そちらのお料理でいくんだね」
「そういうお国でどうでしょうか」
「そうだね、どちらも海の幸も山の幸も使うし」
「スペイン料理もですね」
「かなりいいね」
「ブイヤベースやアクアパッツァやアヒージョで」
 それでと言うトミーでした。
「海の幸を食べて。ステーキやグリルで」
「山の幸もだね」
「食べていけば」 
 それでというのです。
「いいと思います」
「うん、乳製品を使ってもいいし」
「パスタもいいですね」
「トミーの言う通りだよ、ただね」
「ただといいますと」
「これがね」 
 ここで笑って言う先生でした、その言うことはといいますと。
「間違ってもイギリス料理はね」
「おもてなしにはですか」
「使えないね」
「それは」
 トミーは先生の今のお話に微妙なお顔になってこう言いました。
「自虐的では」
「そうかな」
「はい、イギリス料理も調理の仕方で」
「美味しくなるんだね」
「実際に大学の食堂で食べるイギリス料理は美味しいですね」
「調理がしっかりしていてね」
 それでというのです。
「しかも盛り付けもいいから」
「そうですよね」
「お魚のパイなんかもね」
 イギリス料理の定番の一つです。
「ちゃんと作っていて美味しいね」
「ですから」
「イギリス料理も馬鹿に出来ないんだね」
「僕はそう思います」
 こう先生に言うのでした。
「実際に」
「ううん、けれどね」
「イギリス料理はですか」
「メジャーなものはね」
 それはといいますと。
「ティーセットとビーフシチューとね」
「フィッシュアンドチップスですか」
「あと朝食だね」
「朝食を宴に出すと」 
 動物達が言ってきました。
「ちょっとね」
「違うよね」
「何これってなるよ」
「目玉焼きとかトーストとかね」
「普通は宴に出さないね」
「宴は夜に出すけれど」
「どうにも」
 こうそれぞれ言います。
「じゃあこれはないね」
「フィッシュアンドチップスもね」
「ビーフシチューはあっても」
「他にもこれはってお料理はあっても」
「それでもね」
「全体として決め手にかけるね」
「そう、それがね」
 まさにと言う先生でした。
「イギリス料理だからね」
「じゃあ外して」
「そうしていって」
「他のお料理を選ぶ」
「そうしていくんだね」
「そう考えているよ、まあ一国にこだわることはないかな」
 お料理のジャンルはと言う先生でした。
「海の幸も山の幸も沢山あるし」
「洋食は洋食?」
「日本で言うと」
「洋食って実は日本のお料理のジャンルの一つだけれど」
「その括りで考えていって」
「そのうえでお姫様にお話するんだね」
「そう考えているよ、あとね」
 さらに言う先生でした。
「お城を飾ることと催しもね」
「それもだね」
「しっかり考えていくね」
「これからは」
「来週の日曜までに」
「そうしていこうね」
 こうお話してでした、先生は皆と一緒に晩ご飯を食べました。今日のお料理はキャベツを細かく刻んでアンチョビーとガーリックで味付けしオリーブオイルで炒めたものと鱈のフライ、玉葱と人参のコンソメスープです。
 そのお料理を前にして先生は言いました。
「いや、今日も美味しそうだね」
「そうよね」
「キャベツの炒めものといいね」
「スープも美味しそうだし」
「鱈のフライもいいし」
「楽しめそうだね」
「そうだね、今日もね」
 先生はまた動物の皆に応えました。
「楽しめるね」
「鱈はイギリスでも食べるけれど」
「料理の仕方が限らてるから」
「そこが問題だよね」
「どうにも」
「そうだね、他のお料理もね」
 どうにもと言うのでした。
「充実していないからね」
「どうもね」
「そこが問題だよね」
「お野菜のお料理とかスープもね」
「アンチョビーとか使わなくて」
「どうにもね」
「今一つ質素なのよね」
 皆も言います、そしてでした。
 王子もです、こう言いました。
「このスープとかはイギリス風かな」
「そう言っていいね」
 先生は王子に答えました。
「フランス風と言っていいかも知れないけれど」
「イギリスでも普通に食べるからね」
「そうだね」
「うん、それじゃあ今日もね」
「食べようね」
「そうしようね」
 こう言って皆で晩ご飯を食べます、すると。 
 味はとてもいいです、皆はキャベツの炒めものを食べてそうして先生に対して笑顔で口々に言いました。
「オリーブオイルがいいね」
「オイルの味付け自体がね」
「アンチョビーにガーリック」
「この二つもね」
「素敵な味付けになってるね」
「アンチョビーは素敵な調味料だね」
 しみじみとして言う先生でした。
「お魚を調味料にするなんてね」
「日本で言うと鰹節ですね」
 トミーが言ってきました。
「言うなら。ただ」
「うん、アンチョビーとは使い方が違うね」
「鰹節は」
「うん、それでもお魚を調味料にすることは」
「同じと言えますね」
「そしてね」
 また言った先生でした。
「こうして味付けに使うとね」
「美味しいですね」
「うん、これはね」
「あっ、宴にもですね」
「使えるかな」
 こうトミーに言うのでした。
「ひょっとしてだけれど」
「いけると思います」
 トミーは先生に確かな声で答えました。
「それも充分に」
「そうだよね」
「狙えますよ」
「イタリア料理も出せるね」
 アンチョビーを使うそれもというのです。
「これは」
「そう思います」
「和食に親しんでいる人に洋食を出す」
 トートーは目を光らせて言いました。
「いい考えだしね」
「しかも国にこだわらないとなると」
 ダブダブはお料理のことから考えています。
「凄い幅になるわね」
「オリーブオイルもあるし」
 ジップはその味も今楽しんでいます。
「美味しいお料理どんどん出せるよ」
「胡椒やソースの使い方も」
 ここで言ったのはホワイティでした。
「洋食は和食にないよさがあるね」
「和食は和食のよさがあるけれど」
「洋食は洋食でね」
 チープサイドの家族も言います。
「素敵な味で」
「絶対に宴に出すといいね」
「イギリス料理はともかくとして」
 ポリネシアもこちらは起きました。
「フランスやイタリア、スペインだとね」
「姫様達も喜んでくれるよ」
 絶対にと言ったチーチーでした。
「間違いなく」
「さて、ではね」
「メニューも考えていく?」
 オシツオサレツは二つの頭でお話します。
「僕達で」
「そうする?」
「他にも色々考えていくべきでも」
 老馬はお料理以外のことも考えています。
「お料理もだね」
「色々なメニューがあるし」
 ガブガブはかなり楽しそうです。
「皆で考えていこうね」
「そちらもね、しかしあの奇麗な姫路城を今以上に奇麗に見せてお姫様達に楽しんでもらうとなるとね」
 まさにと言った先生でした、ウスターソースをかけた鱈のフライで白いご飯を食べています。これがまた美味しいものでした。
 その味を楽しみつつ先生は皆に言うのでした。
「どうしたものかな」
「ううん、音楽に舞にだね」
「あと観劇?」
「こうしたものは先生が提案して」
「皆にやってもらうんだね」
「うん、しかしね」
 それでもと言った先生でした。
「もっとあるね」
「音楽に舞にね」
「観劇以外にも」
「そうなんだね」
「日本のその観劇は格式が高いと」
 それはといいますと。
「能になるんだね」
「あっ、歌舞伎じゃなくて」
「能なんだ」
「そっちなのね」
「うん、他には狂言とかもあるけれど」
 それでもというのです。
「能が第一だよ」
「何か能って独特だよね」
「静かで空間が多い感じだけれど」
「その中に色々あるみたいな」
「そんなものよね」
「そうだね、歌舞伎や狂言も深い世界だけれど」
 それでもとです、先生は今度はとても温かいスープを飲みつつ皆にお話しました。暖かいお部屋の中でそれはとても美味しいです。
「能もだからね」
「凄く難しい気がするけれど」
「徐々に静かに入っていく感じで」
「観ているとね」
「じんとくるね」
「そうだね、お姫様にはね」
 その能のというのです。
「演目もお話しようかな、そしてね」
「音楽や舞についても」
「そういうのもだね」
「お話するんだね」
「あと歌舞伎や狂言のお話もしたけれど」
 さらにと言うのでした。
「そっちもお話しようかな」
「宴の時に出したらどうか」
「そうお話するんだね」
「来週の日曜日に」
「そうもね、しかし思うことは」
 それはといいますと。
「日本の宴は欧州や中国のものに負けないね」
「深い文化があるね」
「能や音楽も舞もあって」
「何かと」
「静かに進み深みが凄い」
 実にというのです。
「凄いものだよ」
「よくこんな宴考えついたね」
「日本人は」
「長い歴史の中で出来ていったにしても」
「凄いものだね」
「全くだよ、じゃあ色々と考えていくよ」 
 あらためて言う先生でした、そして皆と一緒に晩ご飯を楽しんでそうしてデザートのお饅頭の後はといいますと。
 先生はお風呂に入ってから本を読んでいました、その本はといいますと。
「あれっ、太宰治?」
「そうだよ」
 今日は先生のお家にお泊りすることになった王子に読みながら答えます。
「泉鏡花の後はね」
「その人について調べるんだ」
「それで今からね」
 まだ泉鏡花の論文を書いていてもというのです。
「下調べをしているんだ」
「そうなんだ」
「太宰は日本ではかなり有名な作家だね」
「日本人なら誰でも知ってるね」
 まさにとです、王子は先生に答えました。
「そこまでの作家だね」
「芥川龍之介と並ぶ位にね」
「そうだね、そしてね」
 それでと言うのでした。
「あの人は最期もね」
「芥川と同じだったね」
「自殺してるよね」
「心中したことは違うけれど」
 芥川とそこはです。
「自殺していることはね」
「同じだね」
「そう、そしてね」
 それでと言うのでした。
「太宰は芥川を終生尊敬していたんだ」
「そう言われるとね」
「一脈通じるところがあるね」
「うん、どうもね」
「多分ね」
 先生はロックのウイスキーを飲みつつお話しました、太宰の本を読みながらそのうえで飲んでもいるのです。
「太宰は芥川を尊敬していて」
「人生もなんだ」
「意識していたと思うよ」
「作風もかな」
「作風はかなり違う筈だけれどね」
「何か一脈通じるよね」
「うん、どうもね」
 これがというのです。
「そんな感じあるよね」
「そうだよね」
「それがね」
 まさにというのです。
「読んでいてわかるよ」
「太宰の作品を」
「芥川の作品もね、芥川の作品は」
 今度はこちらのお話もしたのでした。
「後期がね」
「自殺する前だね」
「作風が一変してね」
 これまでの作風と全くというのです。
「暗鬱な作品、狂気を感じさせる作品が多くなってね」
「自殺が近いことをだね」
「感じさせるものになっているよ」
「それが問題だよね」
「また太宰も晩年の作品はね」
 この人の場合も自殺する前です。
「作風が変わっているんだ」
「自殺が近いことを感じさせるんだ」
「そんな風なんだ」
 この人についてもというのです。
「あの人についても」
「そこで自殺をかな」
「そう、本当にね」
 実際にというのです。
「していくしね」
「そのことからも作風が違うのに一脈通じるとかな」
「思えるのかな」
 その様にというのです。
「芥川と太宰は」
「そうなんだね」
「あと太宰は津軽出身だね」
「あっ、そうだね」
 そのことを言われて思い出した王子でした。
「あの人は」
「そう、青森のね」
「あちらの大地主の家の出だったね」
「そうだよ、寒い場所の出身だよ」
「青森は日本ではかなり寒いからね」
「そこの生まれで湯豆腐が好きだったみたいだよ」
「あれっ、湯豆腐って」 
 そう聞いてでした、王子はおやという顔になって言いました。
「泉鏡花の好物だね」
「それであの人もね」
「湯豆腐が好きだったんだ」
「それで奥さんがいつもかなり買ってね」
「食べていたんだ」
「それでお酒もよく飲んだんだ」
 太宰治はそうだったというのです。
「熱燗とは限らなかったみたいだけれどね」
「熱燗はあれだね」
「もう泉鏡花だね」
「あの人みたいに何でも熱してじゃなかったんだ」
「そこは違ったみたいだよ、それと」
 まさにと言う先生でした。
「太宰の作品を読んでいると何か」
「何か?」
「何か感じそうだってね」
「思えるんだ」
「不思議とね」
「じゃあ宴についても」
「何かヒントが出るかな」
 こうも言ったのでした。
「ひょっとしたら」
「出たらいいね」
 王子は先生のそのお話に笑顔で応えました。
「そこからも」
「たまたま読んでいるものから何か出る」
「そういうこともだね」
「世の中にはあるね」
「そうそう、普通にね」
 そうしたことはというのです。
「それでね」
「今もだね」
「読んでいてそう思うんだ」
「宴で何かヒントが出たら」
「有り難いね」
 本当にというのです。
「心から思ってるよ」
「そうだね、じゃあ太宰の作品も」
「どんどん読んでいくよ」
「それで今は何を読んでるのかな」
 太宰のどの作品をとです、王子は尋ねました。
「それで」
「新ハムレットだよ」
 この作品をというのです。
「それを読んでるんだ」
「ハムレットなんだ」
「ハムレットはハムレットでも」
「太宰のハムレットだね」
「だからまた趣が違うよ」
「ふうん、そうなんだ」
「だからね」
 それでというのです。
「また違うから」
「読んでいて面白いんだ」
「シェークスピアも独特の作風があるけれど」
「太宰もそうだよね」
「太宰節っていうかね」
「ああ、それあるよね」
 先生が今出した太宰節という言葉についてです、王子は気付いたお顔になってそのうえでこう言ったのでした。
「太宰の作品って」
「そうだね、それがね」
「その新ハムレットにもなんだ」
「出ているかな」
 そうかも知れないというのです。
「これがね」
「そうなんだね」
「僕は実はその太宰節が好きでね」
 先生はウイスキーも楽しみつつ王子にお話しました。
「読んでいて出たらついね」
「笑顔になるんだ」
「うん、出たなってね」
 そう思ってというのです。
「つい笑顔になってしまうよ」
「そうなんだね」
「あと新ハムレットの次は」
 先生は今読んでいる作品の次はということもお話しました。
「後期の作品だけれど冬の花火もね」
「それ普通にあるじゃない」
 冬の花火と聞いて王子はすぐに言いました。
「スキー場に」
「昔はスキー場はなかったじゃない」
「ああ、昔の日本には」
「スキーが日本にメジャーになったのは戦後だよ」
「戦前は珍しかったんだ」
「まだまだね、戦後暫くも」
 日本ではというのです。
「スキーは日本ではメジャーでなくて花火なんて」
「スキー場であげる様になったのは最近かな」
「そうだからね」
「じゃあ冬の花火は」
「太宰の頃は考えられないものだったんだ」
「そうだったんだ」
「日本ではね」
 太宰だけでなく日本自体でというのです。
「花火といえば夏」
「季語にもなってるね」
「江戸時代から大々的に打ち上げられる様になってね」
「日本では夏がそうで」
「今もだからね」
「スキー場で打ち上げてもだね」
「もう夏って決まってるから」
 日本ではというのです。
「太宰も作品に書いていたらしいよ」
「成程ね」
「本当に最近だよ」
 まさにともいう先生でした。
「スキー場でも花火が打ち上げられる様になったのは」
「成程ね」
「太宰もその時代の人だから」
 昭和前期に活躍した作家さんです。
「その時代の感性や常識からね」
「考えて書いているんだ」
「そうしたものだから」
 それ故にというのです。
「冬の花火は常識じゃなかったんだ」
「変わったもの、考えられないものだったんだ」
「意味がないとか場違いとか」
「そんなものだったんだ」
「うん、けれどこれがね」
 先生は王子にあらためてお話しました。
「今はね」
「スキー場にも打ち上げられる様になって」
「それでだね」
「定着したね、冬の夜空の花火も」
「絵になってね」
「いいものだって思える様になったんだ」
 今の日本ではというのです。
「変われば変わるね」
「そうだね、花火工場の人も大喜びだね」
「冬も花火が売れる様になってね」
「そうなったからね」
「いい商売元が出来たね」
「本当にね」
 まさにというのです。
「いいことだよ」
「花火工場の人達には」
「そして花火職人の人達にもね」
「いいお仕事先だね」
「夏だけで冬はどうなのかってなっていたのが」
 まさにというのです。
「変わったんだ」
「じゃあ今太宰がいたら」
「その作品を書くにしても」
「タイトルは違っていたね」
「そうなっていたと思うよ」 
「どんなタイトルになっていたかな」
「ううん、ちょっとわからないね」
 そう言われるとどうにもでした、先生も。
「それは」
「冬のお素麺かな」
「お素麺は夏に食べるしね」
「そうなるかな」
「それはどうかな、ちょっと違うんじゃないかな」
「じゃあ向日葵かな」
「向日葵も夏だしね」
 このお花もです。
「実際に」
「それか朝顔とか」
「そう言われるとか」
「そんなのかな」
「最近はね」
 先生はまた言いました。
「朝顔も向日葵もね」
「どちらの夏のお花もだね」
「ビニールハウスの中だと」
「あっ、ビニールハウスの中は暖かいしね」
「日差しもいいしね」
 普通に冬の自然の中にいるよりも遥かにです。
「だからだよ」
「そうしたお花も育つね」
「そうだよ、ビニールハウスはいいものだよ」
 こうも言う先生でした。
「お陰で冬でも夏のお野菜や果物が食べられるよ」
「旬のものでなくてもね」
「確かに旬のものが一番美味しいけれど」
 それでもというのです。
「色々食べたくなるね」
「うん、冬の葡萄とかね」
「そうした風に出来るから」
「ビニールハウスはいいんだね」
「そうだよ、何かの漫画でビニールハウスで採れたお野菜の栄養素が少ないとか主張していたけれど」
「それは間違いだね」
「その漫画はあまりにも酷いから」
 もう全体がというのです。
「はっきり言えばおかしな運動家の主張ばかりで」
「それでだね」
「自然食崇拝が強過ぎて、というか」
 どうにもというお顔で言う先生でした。
「反文明、反資本主義、反企業とね」
「何か反ばかりだね」
「そんな主張でね」
「酷いんだね」
「それでビニールハウスで採れた野菜の栄養素が低いとか。前にも話したと思うけれど」
「その季節や土壌や気候のことを考慮して」
 そうしてというのです。
「そのうえでね」
「数字を観ないといけないね」
「何処で採れたかね」
「見ないとだね」
「さもないとね」
 それこそというのです。
「危険だよ、何でも鵜呑みにしたらいけないけれど」
「その漫画は」
「特にね」
「鵜呑みにしたらいけないね」
「むしろ絶対に信じてはいけない」
 その主張はというのです。
「そうした漫画だよ」
「随分なんだね」
「ビニールハウスがどれだけ素晴らしいものか」
 農業や食事においてというのです。
「そのことを理解しないとね」
「駄目だよね」
「本当にね、それでお話を戻して」
「冬の花火はだね」
「今じゃ向日葵とかになると思ったけれど」
 それはと言うのでした。
「また違うかな」
「今じゃ冬でも向日葵も朝顔も咲くからね、ただ冬の日本に合うか」
 向日葵や朝顔はというのです。
「それはね」
「どうとも言えないから」
「やっぱりこっちかな」
「冬の朝顔か向日葵だね」
「今言うとね」
 そうなるのではと言う先生でした、そうして今は太宰の新ハムレットを読んで次の論文に備えるのでした。








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