『ドリトル先生と姫路城のお姫様』
第二幕 姫路城の秘密
王子はお昼ご飯の後も先生の研究実にいました、そこでまずはこんなことを言いました。
「先生も僕も豚骨ラーメン食べたけれど」
「ラーメンはそうだね」
「あのラーメンも美味しいよね」
「僕もそう思うよ、あのスープがいいよね」
先生は王子ににこりと笑って応えました。
「本当に」
「そうだよね」
「濃厚な味がね」
「色も白くてその色を見ただけでね」
「食欲をそそられるんだね」
「うん」
その通りだとです、王子は先生に笑顔で答えました。
「そうだよ、麺は細めでね」
「あれは福岡風だね」
「九州の方だね」
「あの食堂の豚骨ラーメンはね」
「麺もあえてだね」
「そう、細い麺にして」
そうしてというのです。
「福岡のラーメンを再現しているんだ」
「それもいいよね」
「僕もそう思うよ、博多ラーメンだね」
「福岡の中のだね」
「そう、博多のね」
その場所のというのだ。
「屋台でも売っているね」
「ラーメンだよ、あとね」
「あと?」
「紅生姜がいいよね」
「ああ、薬味の」
「そう、豚骨ラーメンの薬味はね」
まさにというのです。
「紅生姜も入っているけれど」
「お葱や胡麻以外にね」
「あれもいいよね」
「そうだね、程よい刺激になっていて」
「美味しいよね」
「だから好きなんだ」
先生もというのです。
「だから今日のお昼もね」
「紅生姜もだね」
「楽しんだよ」
「それは何よりだね」
「炒飯と餃子も美味しかったし」
ラーメンと一緒に食べたこちらのお料理もというのです。
「満喫させてもらったよ」
「それは何よりだよ」
「お腹一杯になったし午後の講義とね」
「論文の方もだね」
「頑張るよ」
「そうするんだね、それで今度の論文は何かな」
「日本の近現代の文学でね」
王子にもお話する先生でした。
「泉鏡花だよ」
「あっ、妖怪好きの」
泉鏡花と聞いてです、すぐにこう言った王子でした。
「あの人だね」
「知ってるんだ」
「結構変わった人だね」
こうも言った王子でした。
「何かと」
「そのことも知ってるんだ」
「何でもかんでも消毒してね」
「チフスに罹ってね」
この病気に感染してからというのです。
「極端にそうなったんだ」
「そうらしいね」
「それで犬と警官の人が苦手で」
「そうだったんだ」
「あれっ、犬が苦手って」
そう聞いてです、犬のジップが困ったお顔になりました。
「それは困るな」
「何で嫌いだったのかな」
チーチーがジップに顔を向けて言いました。
「一体」
「そういえば勝海舟さんも嫌いだったね」
トートーは幕末のこの人のことを思い出しました。
「それもかなり」
「あの人は犬に噛まれたんだったね」
ホワイティはこのことを知っていました。
「そうだったね」
「それで犬が嫌いだったけれど」
「泉鏡花さんもかしら」
チープサイドの家族はお互いでお話しました。
「そうかしら」
「そうじゃないと嫌いにならないね」
「消毒のことはわかるけれど」
ダブダブはそれはと言いました。
「清潔にしないと駄目だからね」
「けれど何でも消毒するのは」
「極端かな」
オシツオサレツは二つの頭で思いました。
「流石に」
「そのことはね」
「お巡りさんが嫌いなのはどうしてかしら」
ポリネシアはこのことが気になりました。
「これも理由があるのかしら」
「何か色々あった人みたいだね」
老馬はこのことを察しました。
「チフスのことにしても」
「人間としての泉鏡花さんにも興味が出て来たね」
ガブガブもそうなりました。
「どんな人だったのか」
「調べたら何かと逸話が多いんだ」
先生もこう言います。
「母親について書かれているかそうした感じの作品が多いしね」
「へえ、そうなんだ」
「お母さんなんだ」
「お母さんがよく出るの」
「お母さんをイメージした作品が」
「早いうちに母親と死に別れてね」
そうなってというのです。
「その母親への想いが作品にもでているんだ」
「そえでなんだ」
「泉鏡花の作品にはお母さんが多いんだ」
「あの人の作風になっているのね」
「そうなんだね」
「そうだよ」
実際にというのです。
「妖怪も多いしね、その妖怪の書き方もね」
「特徴があるんだね」
「そちらについても」
「そうなの」
「そうだよ、水木しげる先生だと」
妖怪といえばこの人というのが日本ですが。
「ユーモラスだけれど」
「そうそう、あの人の妖怪ってね」
「ユーモラスだね」
「怖い時もあるけれど」
「絵柄も影響して」
「それでユーモラスなのよね」
「うん、けれど泉鏡花はね」
この人はといいますと。
「奇麗なんだ」
「妖怪の書き方も違うけれど」
「泉鏡花は奇麗」
「そちらになるのね」
「そうなんだ、奇麗に書いて脇役がユーモラスだね」
そうなっているというのです。
「色々な作品でそうだね」
「奇麗な妖怪がメインで」
「脇役はユーモラス」
「そこは対比だね」
「ちゃんとキャラクタ―を書き分けているんだ」
「そうだよ、そこは創作の基本だね」
書き分け、そして対比はというのです。
「まさに」
「そうだね」
「今の捜索でもそうだしね」
「色々な国のそれでも」
「何時でも変わらないね」
「そう、そして姫路城のお話は」
そちらはといいますと。
「奇麗だよ」
「お姫様だけあって」
「そうなんだね」
「奇麗なんだね」
「主役だし」
「そう、ヒロインだよ」
その作品のというのです。
「人間と妖怪の恋愛ものだよ」
「うわ、今みたいな作品だね」
「ライトノベルとかアニメみたい」
「当時の日本にはもうあったんだ」
「先取りしてるね」
「というか日本って昔からそんな作品あるんだね」
「日本人はそういうことに抵抗がないからね」
人とそれ以外の種族の恋愛や交流について考えたり創作していくことについてだというのです。そうしたことについても。
「それ以前からあるよ」
「そういえばそうかな」
「明治とかの頃より前からあったかな」
「幽霊が子供育てたりとかあったし」
「かぐや姫だって本当は月の人だし」
「浦島太郎の乙姫様も人間じゃないし」
「そう、日本人独自の考えだね」
まさにというのです。
「そうしたことは」
「そこも凄いよね」
「本当にね」
「そうした今あるみたいなストーリーが昔からある」
「日本は凄い国だね」
「そうしたことについても」
「そうだよね、人間と妖怪と神様の垣根がね」
王子も言います。
「他の国と比べてかなり低いね」
「人が死んで神様になったりするしね」
「そうしたことも普通だし」
「日本だとね」
「それも普通だから」
「神社に祀られたら」
王子は動物の皆に応えてさらに言います。
「それでなるからね」
「神道の方でね」
「上杉謙信さんとかね」
「あの人出家したからお坊さんになってたけれど」
「神様になってるし」
「織田信長さんも徳川家康さんも」
「そして豊臣秀吉さんも」
こうした人達もというのです。
「神様になっていてね」
「それで今やね」
「普通に神様だからね」
「そうなっているから」
「人間と神様の垣根も低くて」
「妖怪についても」
「だから恋愛もだね」
まさにと言う王子でした。
「普通に書けるんだね」
「泉鏡花にしてもね。だから泉鏡花は今で言うと」
どうなるかといいますと、先生が言います。
「ファンタジ―小説家だね」
「成程ね」
「そちらの人になるんだ」
「今で言うとね」
「ファンタジー小説家ね」
「ライトノベル作家みたいね」
「そうだよ、純文学と言うと堅苦しいけれど」
それでもというのです。
「そう考えると近寄りやすいね」
「確かにね」
「そうなるよね」
「文学は堅苦しいイメージを持つ必要はない」
「先生はいつも言っているしね」
「これは他の作家にも言えるよ」
泉鏡花以外もというのです。
「泉鏡花以外のね」
「そうなんだね」
「じゃあ夏目漱石さんもかな」
「あと森鴎外さんもね」
「そうなのかしらね」
「純文学と考えると難しい感じがするけれど」
「そう、舞姫とかはね」
先生は森鴎外の代表作を出しました。
「恋愛小説だね」
「あっ、確かに」
「あの作品は恋愛小説だね」
「日本から来た留学生とドイツの女の子の」
「悲恋だね」
「そうなるよ、どうも実際にあったお話みたいだけれど」
そう言われているというのです。
「森鴎外本人かお友達の人のね」
「あの、ちょっとね」
「実際だったあのお話酷くない?」
「女の人捨ててるし」
「そうなってるから」
「そうだね、どうも森鴎外は作品は素晴らしいけれど」
それでもというのです。
「人間としてはね」
「ああ、問題があったね」
「脚気のこととかで」
「先生前そんなお話してたかしら」
「脚気の論文書いてる時に」
「あれだね、脚気は栄養の問題だね」
王子も脚気については知っています。
「ビタミンB1不足でなるね」
「そうだよ」
先生もその通りだと答えます。
「だから麦がいいんだ」
「そうだよね」
「けれど昔の日本人はね」
「白米ばかり食べていて」
「都会や軍隊ではね」
「それで脚気が深刻な問題になっていたんだ」
当時の日本ではです。
「けれど森鴎外は脚気菌があるって思って」
「あの人は細菌学を学んだからね」
「そちらの分野のお医者さんだったからね」
それでというのです。
「意地でも栄養の関係って認めなくて」
「軍医さんだったけれど」
「そう、軍医としてね」
「食べものに麦を送ることを認めなかったんだったね」
「それであの人は陸軍の軍医さんだったけれど」
「陸軍ではかなりの人が脚気で倒れたね」
「そうなったよ、日露戦争の時でもね」
よりによって戦っている時にです。
「陸軍軍医総監、陸軍の軍医で一番偉い人にもなったけれど」
「頑固な人だったんだ」
「頑迷でプライドが高くてね」
「舞姫のことがあの人だったら問題だけれど」
「どうもね」
そうした人だからというのです。
「付き合いにくい人だったみたいだよ、権威にも弱かったしね」
「同じお医者さんでも先生と全然違うね」
王子はここまで聞いて思いました。
「先生は柔軟だしプライドというか天狗じゃないしね」
「偉そうにしても意味ないからね」
「それに権威は気にしないし」
「それはその時代や場所でいつも変わるから」
だからというのです。
「やっぱりね」
「意識しないんだね」
「そうだよ」
「本当に先生とは正反対だね」
「抜群の秀才で当時滅多に出来なかった留学までしてね」
「ドイツにだね」
「当時の医学の最先端も学んで」
そうしてというのです。
「しかもね」
「確かそこでも優秀な成績だったんだね」
「そうだよ、だからね」
それだけにというのです。
「あの人はね」
「凄くだね」
「そうした性格になったんだ」
かなり頑固でプライドが高くて権威主義だったというのです。
「夏目漱石も被害妄想でヒステリックだったけれど」
「何か森鴎外は」
「もっとね」
「問題がある人だね」
「学問はあって文才もあったけれど」
人としてはというのです。
「実際にお付き合いするとなると」
「付き合いにくそうだね」
「夏目漱石よりもね」
「そうみたいだね」
「まあ泉鏡花も癖が強かったけれど」
今の本題のこの人もというのです。
「けれどね」
「それでもだね」
「森鴎外よりははるかにましかな」
「先生森鴎外嫌いかな」
「ううん、嫌いというかね」
「学問をしてだね」
「そういう人だってわかったんだ」
人間としての森鴎外を知ったというのです。
「僕なりにね」
「そういうことなんだね」
「当時のエリート中のエリートだったから」
「大学は今の東大医学部でね」
「そうだよ」
「そこで優秀な成績で」
「留学までして」
そちらでも優秀な成績で、です。
「軍医としても出世して」
「そんな人だったから」
文字通りのエリート中のエリートだったからです。
「人間としてはそうなった」
「そういうことだね」
二人でこうお話しました。
そしてです、先生はまた言いました。
「まあ泉鏡花はご愛敬かな」
「その色々な逸話もだね」
「森鴎外は細菌学の権威だったから細菌を警戒していてね」
「泉鏡花はチフスになってだね」
「細菌を警戒していたけれどね」
「確か旅行の時はいつもアルコールランプを持って行ってたんだったね」
「お水を飲むね」
その時にというのです。
「火を使ってね」
「沸騰させて消毒して」
「そうして飲む為にだよ」
「お水は実際にだからね」
王子も言います。
「熱消毒したらね」
「いいからね」
「だからお湯を飲む様になったね」
「そう、そこでお湯が味気ないから」
「お茶を飲む様にもなったね」
「ティムールが率いる軍隊がそうだったんだ」
お水をそのまま飲むと危ないので熱傷毒してお湯にしてから飲んでいてそれが味気ないので、だったというのです。
「そこからお茶が広まったよ」
「そうしたお話もあるね」
「そうだよ、それでね」
先生はさらにお話します。
「泉鏡花もお湯を飲んでいたから」
「旅行先でもアルコールランプ持ち歩いていたんだ」
「そうなんだ、食べものはお豆腐が好きだったけれど」
「冷奴じゃないね」
「湯豆腐を食べていたんだ」
ここでも熱消毒でした。
「冷奴は絶対に食べなかったんだ」
「やっぱりそうだね」
「湯豆腐は美味しいけれどね」
先生は少し笑って言いました。
「夏はね」
「あまり、だよね」
「どうにもね」
王子に言うのでした。
「食べたくないね」
「熱いからね」
「暑い時に熱いものを食べるのもいいけれど」
それでもというのです。
「それでもね」
「汗を思いきりかきたくないなら」
「食べたくないね」
「そうだよね、他の鍋ものもね」
「あとカレーライスやおうどんもね」
「ラーメンだってそうだね」
「日本は暑い時は冷たいものだね」
そうしたものを食べるというのです。
「そして逆にね」
「今みたいなね」
「寒い時は熱いものだね」
「だから今湯豆腐はいいね」
「そうだよね」
こちらはというのです。
「本当に」
「うん、あと豆腐とは書かなかったね」
「あれっ、どういうこと?」
「泉鏡花はね」
またこの人のお話になるのでした。
「この人はね」
「そうだったんだ」
「豆府と書いたんだ」
「へえ、豆府ね」
「豆腐の腐は腐るだからね」
そうなるからだというのです。
「とかく極端な潔癖症だったから」
「それでなんだ」
「豆府と書いたんだ」
「成程ね」
「それとジップ達はどうしてかって言ってたけれど」
その皆も見つつさらにお話するのでした。
「狂犬病があるね」
「あっ、それだね」
「僕達にはないけれど」
「昔は日本にも狂犬病があったんだ」
「言われてみれば」
「そうだったわ」
「それを恐れてね」
その為にというのです。
「泉鏡花は犬嫌いだったんだ」
「そうだったんだ」
「言われてわかったわ」
「イスラム教と同じ理由ね」
「狂犬病を怖がっていたの」
「昔の日本にはまだあったからね」
狂犬病という恐ろしい病気がです。
「イスラム教で何故犬の唾液が不浄か」
「狂犬病になるからね」
王子が言ってきました。
「だからだね」
「うん、それでコーランでも定められているんだ」
犬の唾液が不浄とです。
「豚肉はあたりやすいしね」
「だからだね」
「あとね」
「あと?」
「湯豆腐だけでなくとにかくね」
「熱したものを食べていたんだ」
「鍋ものでも完全に火を通して」
そうして食べててというのです。
「お酒も沸騰させるまで火を通してね」
「そこまでした熱燗を飲んでいたんだ」
「そうだったんだ」
「そのお酒を泉燗と呼んでいた位だよ」
「そこまで有名だったんだ」
「文壇ではね」
その様にというのです。
「そうも言われていた位なんだ」
「そのお話面白いね」
「あと潔癖症のあまり蛇や蛙みたいな変わった外見の生きものは嫌っていたし」
「蛙とか?」
「海老もね、食べることもしなかったよ」
「海老凄く美味しいのに」
王子はそう聞いて残念に思いました。
「あと蛙も」
「僕もそう思うけれどね」
「泉鏡花は食べなかったんだ」
「そうだったんだよ」
「そこまでいくと凄いね」
「そして畳に手をつけてお辞儀しなかったしね」
日本ではそれが礼儀でもです。
「手の甲をつけてだったんだ」
「それも潔癖症だからかな」
「畳が汚いと思ってね」
「そこまでいくと極端だね」
「手に持って食べるものも持った部分は食べなかったしね」
「お寿司とかお握りとかも」
王子はこのことには流石に驚きました。
「じゃあお箸で食べるとか」
「そうだったかもね」
「ううん、そこまでいくと奇行かな」
「だから変わった人だともね」
「言われていたんだ」
「そうだよ、当時からね」
生前からというのです。
「そのことでも有名だったんだ」
「やっぱりそうなんだね」
「そして師事する人に凄い崇拝の念を抱いていたんだ」
「確かあの人のお師匠さんは」
「尾崎紅葉だよ」
先生はもう一人有名な人をお話に出しました。
「この人が泉鏡花のお師匠さんだったんだ」
「金色夜叉のだね」
「そうだよ、この人がいて泉鏡花は世に出たから」
「そう言ってもいい位だったんだね」
「うん、だから終生お釈迦様のお母さんを崇拝して」
そしてというのです。
「そのうえでね」
「尾崎紅葉さんもなんだ」
「崇拝していたんだ」
「そのことも面白いね」
「そうだよね、だから泉鏡花を調べていると」
「楽しんだ」
「作品も多いうえに名作もかなりあるから」
肝心のそちらもというのです。
「だからね」
「研究のしがいもあるんだね」
「本当にね」
笑顔で言う先生でした。
「今回の論文も楽しんで書いているよ」
「それはいいことね」
「そうだね、じゃあ今回はね」
「泉鏡花の論文をだね」
「研究して書いていくよ」
こう言ってでした、そのうえで。
先生は午後の講義を教えて論文も書いて調べていきました、それが終わってそのうえでなのでした。
お家でも論文を書いていますが書いている時に動物の皆に言われました。
「泉鏡花って何かね」
「色々あるとは聞いていたけれど」
「変わったところもあるし」
「おや、って思うところもあるわね」
「私達にしてみると」
「そうだね、確かに清潔なのはいいけれど」
それでもと言う先生でした。
「ただね」
「それでもね」
「そこまでって思うわね」
「今だと常に手を拭いている人?」
「ウェットティッシュで」
「そうかもね、生ものは絶対に食べなかったから」
このこともお話する先生でした。
「熱したものでないとね」
「ううん、何ていうか」
「そこまでだとね」
「どうにもね」
「極端過ぎるよ」
「僕もイギリスにいた時は生ものは殆ど食べなかったけれど」
それでもと言う先生でした。
「今じゃね」
「先生お刺身大好きだからね」
「あとカルパッチョも食べるし」
「お寿司だって好きだし」
「そうなったしね」
「やっぱり昔は違うからね」
先生は昔の衛生のことをお話するのでした。
「生ものも新鮮さがすぐに落ちたし冷凍技術もね」
「ああ、なかったね」
「戦争前の日本でもね」
「それで生ものは今よりずっと危険だったね」
「そのこともあるね」
「そうだよ、だからね」
それ故にというのです。
「泉鏡花もかなり気をつけていたんだ」
「生ものには注意は今もだし」
「昔だった余計にってことね」
「あの人チフスにも罹ったっていうし」
「余計にそうなったのね」
「そういうことだね、しかし生ものが食べられないと」
このことについてまた言う先生でした。
「僕としてはね」
「困るよね」
「先生本当に生もの好きだから」
「若しお刺身やカルパッチョが食べられないと」
「先生お酒の肴でよく食べるから」
「お酒にお刺身なんて」
それこそと言う先生でした。
「最高なのにね」
「それがないとなると」
「本当に先生イギリスに戻る?」
「イギリスにもお刺身ないけれど」
「そうなる?」
「いや、この場合イギリスに戻っても意味ないよ」
お刺身が食べられなくなってもというのです。
「だからそうした理由では戻らないよ」
「そうなるのね」
「まあとにかくそこは先生と泉鏡花さんは違うわね」
「生ものを食べるし」
「極端な潔癖症でもないから」
「だからね、あと今日の晩御飯は何かな」
「湯豆腐です」
トミーが台所から言ってきました。
「安くていい湯豆腐が沢山手に入りまして」
「だからなんだ」
「はい、それとホッケの開きです」
こちらもあるというのです。
「そしてもやしをごま油で味付けしました」
「いいね、じゃあ今日はね」
「飲まれますか」
「そうさせてもらおうかな」
笑顔で言う先生でした。
「今日は」
「湯豆腐のお話をしたらね」
「湯豆腐が出て来たね」
オシツオサレツが二つの頭で言ってきました。
「まさに言えば何とやら」
「そういうことだね」
「もう寒いし丁度いいわね」
ポリネシアは湯豆腐の温かさから述べました。
「冬だしね」
「日本の冬も冷えるからね」
チーチーはその日本の冬のことをお話しました。
「イギリスよりはましにしても」
「欧州の寒さはまた凄いからね」
ジップはイギリスの寒さを思い出しています。
「何かとね」
「イギリスでもスコットランドなんかもう」
ホワイティはあの地域のことに言及します。
「とんでもないからね」
「その寒さと比べたらましでも」
ダブダブも欧州の冬の寒さを思い出しました。
「日本の冬も寒いから」
「その寒さには熱いもので」
トートーは楽しそうに言います。
「湯豆腐はいいものだね」
「昆布でだしを取ったお湯で煮るだけなのに」
ジップは湯豆腐の具体的なお料理の仕方を述べます。
「物凄く美味しいよね」
「シンプルイズベストだね」
ガブガブは湯豆腐をこう評価しました。
「まさに」
「そうだね、後はポン酢かお醤油で味付けして食べる」
老馬はどうして食べるのかを言います。
「それだけだけれど美味しいんだよね」
「さて、じゃあね」
「今日は湯豆腐ね」
チープサイドの家族もとても楽しみにしています。
「ホッケともやしもあるし」
「楽しみね」
「さて、お酒は何がいいかな」
先生もすっかり乗り気です、湯豆腐と聞いて。
「今晩は」
「ここは熱燗だよね」
「泉鏡花さんに倣って」
「湯豆腐だし」
「それなら」
「そうだね、日本酒で」
先生も動物の皆に応えて言いました。
「熱燗がいいね」
「わかりました」
トミーも応えてきました。
「今日は熱燗ですね」
「それにしてくれるかな」
「そうさせてもらいますね」
「別に沸騰するまでじゃなくていいから」
「そこまで熱くしたら」
それこそと言うトミーでした。
「アルコールが飛びますね」
「うん、結構そうなるね」
「そこまでしますか」
「泉鏡花はそうだったんだ」
「細菌恐怖症でも」
トミーも首を傾げさせて言います。
「極端ですね」
「だからチフスになったからね」
「それで、なんですね」
「お水もお湯にしてね」
熱消毒をしてです。
「そしてね」
「そこからですね」
「飲む様にしていたから」
だからだというのです。
「そのことを考えると」
「お酒もね」
「熱燗で」
「沸騰する位だったんだ、それもぐらぐらとした感じになるまで」
そこまで沸騰させてというのです。
「沸騰させてからね」
「飲んでいたんですか」
「そうだったんだよ、泉鏡花は」
「そこまでは普通ないですね」
「そうだと思うけれどね、僕も」
「日本酒だけじゃないですけれどね」
「熱くして飲むことはね」
このこと自体はというのです。
「日本酒よりは少ないと思うけれど」
「あるにはありますけれど」
「泉鏡花はまた極端だったね」
「本当に極端な潔癖症だったんですね」
「あの人はそうだったんだ」
まさにというのです。
「僕が今話した通りにね」
「じゃあ先生は普通にですね」
「普通の熱燗で頼むよ」
「そうさせてもらいます」
「是非ね、あとね」
「あと?」
「お風呂を先に入っていいかな」
トミーにこちらのことも尋ねたのでした。
「今から」
「ご飯の前にですね」
「そうしていいかな」
「はい、どうぞ」
トミーは先生に笑顔で答えました。
「やっぱり飲むのならですね」
「先にお風呂に入った方がいいね」
「はい、ですから」
それでと言うトミーでした。
「今からですね」
「お風呂に入って」
「ご飯ですね」
「そうさせてもらうよ」
「その様に」
「今から楽しみだよ」
先生は湯豆腐と熱燗の話をまたしました。
「温まるね」
「そうですね、湯豆腐に熱燗となると」
「そういえば泉鏡花は金沢の人だったよ」
「あちらの人ですか」
「そうだよ、実はね」
今度は泉鏡花の出身のお話になりました。
「あちらの人なんだ」
「そこまでは考えませんでした」
トミーは泉鏡花のお話の中で述べました。
「実は」
「そうだったんだね、トミーは」
「けれどあちらの人でしたか」
「ひょっとすると潔癖症以外にもね」
「湯豆腐と熱燗が好きだった理由がありますね」
「金沢は冬寒いからね」
それでというのです。
「雪が深くてね」
「だから温かいものが好きだった」
「ひょっとするとこれも理由だったかな」
「そうかも知れないんですね」
「理由は一つとは限らないからね」
「どんなことでも」
「そう、だからね」
それでというのです。
「あの人にしてもね」
「出身地も関係するかも知れないですか」
「僕はそうも思うよ」
「そうですか」
「金沢にも一度行かないとね」
「泉鏡花について調べるうえで」
「うん、調べるにあたって」
まさにというのです。
「現地調査は基本だね」
「はい、フィールドワークは」
「今回は天守物語についてでそこまではしないけれど」
金沢までは行かないけれどというのです。
「それでもね」
「金沢にですね」
「そう行ってね」
そのうえでというのです。
「フィールドワークに励むよ」
「そうされますね」
「泉鏡花自身に詳しく書くのなら」
「その時はですね」
「絶対に金沢に行くよ」
そうするというのです。
「太宰治について調べるうえで青森に行くのは絶対だしね」
「あっ、そうですね」
トミーは太宰治と聞いて述べました。
「あの人は津軽出身で」
「特に出身地が関係する人だからね」
「そうですよね」
「織田作之助もそうだけれどね」
「あの人は大阪で」
「大阪を舞台にした作品が多いね」
それ故にというのです。
「だから織田作之助の論文を書くのなら」
「大阪に行くことですね」
「そして太宰治もね」
「青森の津軽に行って」
「あの場所を見て回ってですね」
「調べることが必要だよ」
太宰治の出身地から太宰を知ることだというのです。
「これは多くの作家さんでも言えるね」
「出身地を調べる」
「そう、日本の作家さんだけじゃないよ」
「他の国の作家さんもですね」
「その通りだよ、勿論イギリスの作家さんもだよ」
先生の出身地のこの人達もというのです。
「やっぱりね」
「出身地を見て回ることですね」
「それが大事だよ、だからね」
それでというのです。
「泉鏡花にしてもね」
「あの人自身についてじっくり書くのなら」
「金沢に行かないといけないよ」
この国にというのです。
「是非ね、縁のある場所にもね」
「だから今度姫路城に行かれるんですね」
「そうだよ、あのお城にね」
「天守物語の舞台の」
「あそこに行くよ」
フィールドワークにというのです。
「是非ね」
「そうされますね、ただ」
「ただっていうと」
「先生が何処かに行かれると何かが起こりますよね」
「ああ、そういえばね」
「ですから姫路城でも」
若しかしたらとです、トミーは先生に言うのでした。
「何かあるかも知れないですね」
「あっ、あるかもね」
「先生の場合よくあるからね」
「これまで色々な場所に行ったけれど」
「結構色々あったから」
「だからね」
「皆が言う通りですよ」
トミーはお料理の用意をしながら先生にお話します。
「その時は何かあったら」
「そのことに応じてだね」
「皆に助けてもらって下さいね」
動物の皆にというのです。
「いつも通り」
「うん、僕はこれまでね」
先生も過去の様々なことを思い出しつつトミーに応えます。
「皆に助けてもらってきたからね」
「先生任せてね」
「何かあっても僕達がいるから」
「安心してね」
「私達がいる限り先生は安心よ」
「絶対に大丈夫だから」
「そうだね、皆がいてくれるから」
それでと応えた先生でした。
「僕は安心出来るよ」
「その通りだよ」
「先生の背中にはいつも私達がいるのよ」
「横にもね」
「先生が困ったらいつも僕達がいるから」
「うん、その時は頼むよ」
先生は動物の皆に笑顔で応えました。
「本当にね」
「そしてね」
「何があろうともね」
「安心して対応してね」
「例え全く知らない世界に行っても」
「そしてとんでもないものが出てきても」
「僕達がいるから」
それならと言うのです、そうしてでした。
先生達はまずはお風呂に入ってから晩御飯を食べました、湯豆腐とホッケそしてもやしを食べて熱燗も飲みます。
すると先生は皆に言いました。
「いいね」
「そうだよね」
「湯豆腐と熱燗の組み合わせも」
「かなりいいわ」
「これはね」
「そうだね、身体がね」
まさにと言う先生でした。
「中から思いきり温まるね」
「まさに冬向きね」
「冬の寒さも乗り切れるよ」
「こんな組み合わせがあるなんて」
「これはいいね」
「うん、夏はどうかと思うけれど」
もう身体がぽかぽかとなっている中で言う先生でした。
「これはね」
「本当に冬はいいわ」
「今の季節は」
「じゃあじっくりあったまって」
「そのうえでね」
「楽しみましょう」
「是非共ね」
こう言ってでした、先生は湯豆腐も熱燗も楽しみました。勿論ご飯も食べますしホッケやもやしもです。
そうして気付くとでした。
「あっ、もうお豆腐ないね」
「かなりあったのにね」
「お鍋の中にもないし」
「用意していたお椀の中にもないし」
「奇麗に食べたね」
「うん、お豆腐はもうないよ」
トミーもこう皆に言います。
「ホッケももやしもね」
「いやあ、よく食べたね」
「それもあっという間に」
「食べ過ぎな位ね」
「それだけ食べたと思うけれど」
「何かまだ食べられそうね」
「それも同じ量だけ」
「お豆腐自体もかなり質がよかったんだね」
先生もしみじみとした口調で言います。
「だからね」
「かなり食べられたんだね」
「それもあっという間に」
「熱燗とも合ったし」
「よかったのね」
「そうだね、確かにまだ食べられそうだけれど」
それでもと言う先生でした。
「かなり食べたのは事実だし」
「満腹してるね」
「お腹としてはね」
「そうなってるね」
「うん、そもそもお豆腐もないしね」
勿論ホッケももやしもです、皆奇麗に食べ終えています。
「それじゃあね」
「ご馳走様でした」
皆でこう言いました、そして先生はデザートの羊羹を食べてです。
論文を書く為に文献や他の人の論文を読んでいきました、こうしたこともまた先生にとっては幸せな時間です。