『ドリトル先生と日本の鉄道』
第十二幕 駅弁で乾杯
先生が危惧していた通りにです、鉄道博物館に列車砲の模型を置いたことに反対する人達が動きました。
その人達のホームページを研究室のパソコンで観つつです、先生は動物の皆に言いました。
「予想通りにだね」
「ああ、やっぱりだね」
「こっちに来るんだね」
「列車砲の模型の展示を止めさせる為に」
「その為にだね」
「うん、こうした人達は自分達の主張が全てだからね」
自分達の主張こそが正しく民主的かつ平和的だと考えているというのです。
「だからね」
「それでよね」
「抗議しに来るのね」
「ホームページ見たら署名活動してるしね」
「抗議しに行こうって言ってるし」
「日時まで決めてね」
「平日のお昼にね、本当にね」
先生はここで首を傾げさせてこう言いました。
「普通土曜や日曜に来るけれど」
「お仕事があるからね」
「平日休日の人もいるけれど」
「夜勤の人だってね」
「平日のお昼空いている人がいることは事実だけれど」
「まず夜勤ならね」
先生は夜に働く人達のことからお話しました。
「夜に働くからお昼は寝てるよね」
「だから出て来ないよね」
「普通の人達は」
「平日のお昼には」
「そうだよね」
「うん、それにね」
先生は次はこのお話をしました。
「平日休日の人達もいるよ」
「確かにね」
「土日お仕事の人達がいて」
「それでね」
「平日に来られる人もいるけれど」
「こんな平日のお昼に集合場所を決めて」
そしてというのです。
「大勢の人が集まるとか」
「ちょっとないよね」
「普段何している人達かしら」
「一体」
「いい歳の人達が多いけれど」
「どうして生計を立てているのかしら」
動物の皆も疑問に感じることでした。
それは先生も同じで皆に言いました。
「これが定年で年金で暮らしている人達ならわかるよ」
「そうよね」
「そうした人達がいても」
「それでもね」
「普通に働き盛りの年齢の人達がいるとか」
「それも結構な数がいるから」
「沖縄の基地でもそうなんだよね」
先生は沖縄で見たアメリカ軍の基地の前で平日のお昼に団体で大騒ぎをしている人達について思うのでした。
「あの人達沖縄の方言全然使わないしね」
「本土から来ている人が多くて」
「沖縄の人達がいてもね」
「何かおかしい人多いよね」
「今回抗議に来る人と同じで」
「そう思うと」
本当にというのです。
「あの人達が怪しく思えるよ」
「まともな人じゃないよね」
「どう考えても」
「そんな人達が来るんだね」
「鉄道博物館に」
「そう、そしてその人達がね」
まさにというのです。
「ツイッターでも連絡を取り合っているよ」
「あっ、そうだね」
「先生今度はツイッターチェックしてるけれど」
「かなり広範囲に連絡取り合ってるね」
「それで鉄道博物館に来ようとしているね」
「うん、こうしたものを見ると」
本当にというのです。
「結構な数が来るね、二十人は来るかな」
「多いね」
「抗議の団体としては」
「随分とね」
「うん、ただこの人達の数自体はあまり少ないんだ」
抗議に来る人達はというのです。
「あらゆる活動に顔を出していて色々な団体を立ち上げて同じメンバーが重なっていて」
「あっ、そうなんだ」
「それで実はなの」
「こうした人達の数は少ないの」
「そうなのね」
「そうなんだ、基地や原発や政府批判や平和を叫んだりしているけれど」
そうしたあらゆる活動をしていてもというのです。
「毎日同じ人達が騒いでデモをしているんだ」
「ありとあらゆる活動に」
「そうしているだけなの」
「じゃあ今度こっちに来る人達も」
「沖縄とか原発のデモに出ている人達ね」
「間違いなくね、それで今回はこっちに来るんだ」
その少ない人達がというのです。
「そして僕はね」
「その人達と対するんだね」
「そしてそのうえで学問で向かって」
「そうして収めるんだね」
「そうだよ、必ずね」
こう言ってです、そしてでした。
先生はその日が来るのを待ちました、その間も学問は進めていました。そしてその日が来てです。先生は鉄道博物館に向かいました。
そうして鉄道博物館に入るとすぐにオシツオサレツが言ってきました。
「さて、いよいよね」
「対決の時が来たね」
こう二つの頭で言うのでした。
「二十人は来るみたいだし」
「用心が必要だね」
「若し先生に指一本でも触れようものなら」
ジップが言いました。
「僕達が許さないよ」
「先生は暴力を振るわないけれどああした人達は何をしてくるか」
チーチーも思うことでした。
「わからないしね」
「先生、安心してね」
「私達はいつも一緒よ」
チープサイドの家族も言います。
「先生に指一本触れさせないよ」
「何があってもね」
「そうよ、先生は暴力を振るわないし暴力に屈しない」
ダブダブも先生を守る気満々です。
「そんな先生に誰が何かさせるのよ」
「何かあったら僕が前に出て」
老馬がいてきました。
「驚かせるよ」
「驚かせたらそれだけで違うしね」
ホワイティも老馬と同じ意見です。
「それで逃げていったらいいよ」
「ゴリラだって暴力は振るわないけれど」
ポリネシアは外見は怖いですが実はどんな生きものよりも温厚で心優しい生きもののお話をしました。
「驚かせて退散させるしね」
「それで終わったらいいよ」
ガブガブも言います。
「逃げていったらね」
「うん、皆で驚かそう」
最後にトートーが言いました。
「先生は暴力は駄目だって言うけれどこれ位ならいいね」
「それ位は自衛手段だよ」
先生もこう言います。
「生きものが驚かせることはね」
「そうだよね」
「それで相手が逃げればいいし」
「自分の身を守る為にはね」
「これ位いいね」
「うん、ただああした人達はこけたりしたらそれで暴力を振るわれたって言うから」
そうした人達だからというのです。
「だからね」
「そのことはだね」
「気をつけて」
「そうしてだね」
「驚かせるべきね」
「うん、さもないとね」
本当にというのです。
「厄介なことになるから」
「何か自分が正しい人って怖いね」
「どんなことでも平気でするから」
「自分が絶対に正しいから許される」
「そう考えているから」
「だからね」
それ故にというのです。
「ああした人達は怖いんだ」
「何でもするから」
「他の人がどうかって思うことも平気で出来る」
「そう思うと本当に怖いね」
「暴走した正義はもう正義じゃないよ」
このことははっきりと認識している先生でした。
「その時点で正義とは全く別のものになるんだ」
「邪悪?」
「正義とは別の」
「そちらになるのかしら」
「そうも言える場合があるよ、若し暴走するけれど正しいことをしていると本気で言える人と会ったら」
その時はといいますと。
「その人とは絶対に関わらない方がいいよ」
「何をするかわからない人だから」
「独善的で」
「だからよね」
「とんでもないこともするから」
「そうした人とは関わらないで離れて見るべきだよ」
暴走しようが正しいことをしていると言える人はというのです。
「そんな人は神様も許さないからね」
「そうして最後はね」
「神罰を受けるね」
「その行いに対して」
「そうされるのね」
「そうなるよ、それでも気付かないだろうけれどね」
そうした人達はというのです。
「関わらないことだよ」
「そもそも」
「そうした方がいいわね」
「そして今回の人達も」
「論破して関わらない方がいいね」
「僕もそう考えているよ、じゃあお茶を飲みながら」
先生は余裕もあります、お茶を飲んでそうしてそうした人達が来るのを待とうというのです。この辺りの余裕も先生ならではです。
「待っていようか」
「うん、じゃあね」
「ああした人達が出て来るのを待とう」
「お茶を飲みながらね」
「今日はレモンティーにしよう」
アメリカでよく飲まれるこのお茶にというのです。
「皆で飲もうね」
「そうしようね」
「今はね」
皆もこう言ってでした、お茶を楽しむのでした。そうしているうちに彼等が抗議を行うという時間になりましたが。
鉄道博物館の外は静かです、それで動物の皆は言いました。
「あれっ、静かね」
「そうだよね」
「妙にね」
「そろそろ大声で叫んでいる筈なのに」
「沖縄の時みたいにね」
「プラカード出したりして」
「うん、その筈だけれどね」
それでもとです、先生も言いました。
そうして皆と一緒に鉄道博物館の外に出るとでした。
プラカードやメガホンを持っている人達が学園の警備員の人達に囲まれてです、こう言われていました。
「不法侵入ですよね」
「許可得ていませんよね」
「正門のチェックマイクロバスで突破しましたけれど」
「それじゃあ帰って下さい」
こう言われていました、そしてです。
学園の警備責任者の人がその人達に言いました。
「完全に不法侵入です、警察に通報しました」
「おい、何言ってるんだ」
「俺達は抗議しに来たんだぞ」
「この博物館は列車砲の模型を動かしているんだぞ」
「兵器の模型なんて飾るな」
「戦争を想起させるでしょ」
その人達は責任者の人に口々に抗議しました。
「戦争反対よ」
「また戦争をしたいのか」
「そんなの間違ってるでしょ」
「そんなもの展示させる方が問題だぞ」
「それは貴方達の主張で主張をすることは護られるべきです」
責任者の人は背筋を伸ばしてこのことは絶対だと言い切りました。
「しかしです」
「しかし?」
「しかし、何だ」
「貴方達は不法侵入罪です」
このことは絶対だというのです。
「警察に通報し学園から正式に刑事告訴します」
「おい、俺達は犯罪者か」
「馬鹿を言うな」
「戦争反対と言っているだけよ」
「平和を守る為に活動しているのに」
「犯罪は犯罪です」
責任者の人はあくまでこのことを指摘するだけでした、そしてです。
抗議する人達が喚いて騒いでいる最中にです、警察のパトカーが何台も来てその人達を拘束してでした。
連行していきます、先生はその一部始終を見てから皆に言いました。
「独善の末路だね」
「不法侵入はまずいよね」
「そんなことをしたら」
「そうよね」
「犯罪だから」
「ああなるのは当然だね」
「そうだね、何かもうね」
それこそというのです。
「言ったすぐ傍から神罰を受けるなんてね」
「自業自得にしても」
「急過ぎるね」
「まあそんなこともあるにしても」
「先生と対する前に終わったわね」
「そうだね、けれど終わったから」
それでと言った先生でした。
「それじゃあね」
「うん、もう先生のすることはないし」
「研究室に帰ろうね」
「そしてね」
「学問をしようね」
「そうしようね」
先生もこう答えてでした、宮田さんにことの事情をお話してでした。
そしてです、宮田さんも笑顔で言いました。
「よかったですね、ああした人達はです」
「独善的で、ですね」
「法律さえ無視しますから」
「ああした結末を迎えますね」
「彼等には間違いなく前科がつきます」
「現行犯ですからね」
「そうなります、幾らおかしな人達でも」
それでもというのです。
「前科がつきますと」
「それで、ですね」
「社会的にどうかという目で見られますので」
「大人しくなりますね」
「そうなります、その分。例えそうならなくても」
ああした活動を続けていてもというのです。
「人は見ていますからね」
「信頼をなくしてですね」
「末路は同じです、では」
「はい、僕達はですね」
「このお話はこれで終わりにしまして」
「学問に戻りますか」
「そうしましょう、今日は遠足で近所の小学校の子供達が来るんですよ」
ここで笑顔になって言う宮田さんでした。
「ですから」
「それで、ですね」
「列車砲が動くのも観てもらいます」
「博物館の他のものもですね」
「観てもらって」
そしてというのです。
「楽しく学んでもらいます」
「子供達に」
「学問は子供の時からですね」
「はい、そして一生です」
その間と答えた先生でした。
「学んでです」
「そうしてですね」
「学問となりますので」
だからだというのです。
「子供の頃から。興味を持てば」
「その時からですね」
「学問をはじめるべきです」
「興味を持てばですか」
「それが何十歳でもです」
例えお年寄りでもというのです。
「興味を持てばです」
「そこからですね」
「はじめるべきですから」
だからだというのです。
「子供の頃からでもいいですが」
「大人になってからでもですね」
「いいと思います、日本には四十の手習いという言葉がありますね」
「はい」
宮田さんも先生にその通りだと答えます。
「古い言葉ですが」
「この言葉の通りです」
「何歳でもですね」
「興味を持てば」
その時点でというのです。
「はじめればいいのです」
「それでは先生も」
「どの学問も興味を持ってからです」
「そこからはじめられていますか」
「そうしています。医学も他の学問も」
「そうでしたか」
「人は生きている限り興味を持てば」
先生は宮田さんにさらにお話しました。
「そこからそのことをはじめればいいです」
「それだけですね」
「はい、そうです」
それでというのです。
「ですから子供達が今鉄道に興味を持ってくれれば」
「有り難いですね」
「そう考えています、では新幹線もSLもリニアモーターカーもですね」
その模型達もというのです。
「観てもらいますね」
「そちらの模型も。そして」
「博物館の他のものも」
「全て観てもらいます、楽しんでもらいます」
そうして学んでもらうというのです。
「是非、ただ」
「ただ?」
「そうした日に抗議に来るとは」
宮田さんはあの列車砲の模型を展示しない様に抗議しに来て不法侵入で捕まった人達のことも思いました。
「本当に独善的ですね」
「全くですね、子供達の前で抗議なんて」
「何を考えているのか」
「そして他の博物館の中で観ている人達のことも」
「考えていないのですね」
他の人達のことは一切というのです。
「それで騒ぐなぞ」
「その時点で正義ではないですね」
「正義は暴走すれば」
「その時点で正義でなくなりますね」
宮田さんとお話してもこう思うことしきりでした、そしてこのお話の後で先生は宮田さんと別れてです。
研究室に戻ってこの日は夕方まで論文の執筆と講義を行いました、先生はこの日も学問に励んでいました。
そして夜にお家でトミーにこのことをお話するとトミーは先生にこう言いました。
「よかったですね」
「僕がお話をする前に終わってかな」
「その人達が皆逮捕されて」
そうなってというのです。
「本当によかったですよ」
「警備員の人達と警察の人達にはご苦労だったけれどね」
「そんな迷惑な人達が先生と会わずに逮捕されたなら」
「それでいいんだね」
「はい、そういえば学園で話題になってしましたね」
「鉄道博物館の前で騒動があったってだね」
「野党の市会議員の人もいたとか」
「あっ、そうだったんだ」
このことにはおやと思った先生でした。
「政治家の人もいたんだ」
「それで今ネットでも話題になっていますよ」
市会議員が現行犯逮捕されたとです。
「不法侵入で捕まったと」
「ちょっとしたニュースだね」
「そうですね、ですがその人も終わりですね」
「政治家が現行犯逮捕されるとかね」
「もう選挙にも通りませんね」
「そう思うよ、正門でのチェックを強引に突破して鉄道博物館の前まで来たっていうから」
「不法侵入罪ですね」
トミーもそうなると言いました。
「確実に」
「そうだよね、じゃあね」
「その人達には絶対に前科がついて」
「その分リスクが付いて回るね」
「そうなりますね、自業自得ですよ」
トミーはこうも言いました。
「本当に、そして」
「僕とそうした人達が会わなかったことは」
「よかったです、幾ら先生が覚悟されていても」
学問でそうした人達の独善で向かおうと決意していてもというのです。
「そもそもです」
「対しないことがだね」
「第一ですから」
それだけにというのです。
「本当によかったです」
「事前に防がれてこそ」
「最善ですから」
何かが起こる前にというのです。
「何といいましても」
「その通りだね、ではね」
「はい、心配ごともなくなって」
「鉄道博物館は列車砲の模型を展示し続けられるよ」
「軍事に興味がある人から大人気で」
「鉄道に興味がある人からもだね」
「凄い人気みたいですね」
トミーは普通の人達の意見のことをお話しました・
「どうやら」
「うん、そうみたいだね」
「それは何よりですね」
「そうした人達が正しいんだよ」
「普通に興味を持つ人がですね」
「ああした暴走して自分達の正義を声高に騒ぐ人よりも」
ずっと、というのです。
「正しいんだよ」
「実際はそうですよね」
「僕はそう思うよ、ではね」
「はい、このことはですね」
「一件落着ということで」
「先生も安心ですね」
「彼等はもう来ないだろうし」
あの抗議をしに来る人達はです。
「抗議に来る以前だったから」
「抗議のメールよりもですね」
「何でも応援のメールの方が遥かに多いし」
そうなっているというのです。
「だからね」
「もうこのままいけますね」
「少しのクレームは気にしていたら仕方ないよ」
「何でもそうですよね」
「そうだよ、そのクレームが通るのなら」
それならというのです。
「もう世の中はね」
「どうしようもないですよね」
「最大多数の最大幸福と言ってね」
「民主主義で言われる言葉ですね」
「確かに少数派、マイノリティのことも考えないといけないけれど」
「クレーマーは別ですね」
「クレーマーはね」
こうした人達はというのです。
「もう気にしていたら仕方ないよ」
「その人達の意見を聞いていたら」
「きりがないから」
だからだというのです。
「もう一切気にしないで」
「やるべきことを進めていくだけですね」
「大体クレーマーの人はわかるね」
「もう声高に自分の意見だけ主張して」
「周りや他の人のことを一切考えないね」
「それで自分の意見が絶対だと言いますね」
「正しい、圧倒的な世論だとね」
自分の主張こそがというのです。
「皆そう思っているとかね、詭弁も使うし」
「そうした人達ですから」
「もうすぐにわかるから」
「少数派を尊重してもですね」
「クレーマーは聞いたらいけないんだ」
そうするとおかしなことになるしきりがないからです。
「暴走した正義はその時点で正義でなくなるしね」
「そうですね、それで正しいことをしていると言っても」
「説得力がないね」
「暴走する、自制心がないですね」
トミーもこう考えることでした。
「自制心のないヒーローが正義を掲げたら」
「こんなに怖いこともないしね」
「だからもうその時点で、ですね」
暴走したらです。
「正義でなくなりますね」
「それで普通に正しいことをしていると言えたら」
「正義を馬鹿にするなですね」
「そう言われるよ、みっともないことだよ」
こうも言う先生でした。
「そんなことはね」
「本当にそうですね」
「それでね」
さらにお話する先生でした。
「鉄道博物館もね」
「そうしていきますね」
「これからもね」
「いいことですね。あと先生サラさんから連絡は来ましたか?」
「サラから?」
「はい、今回もお仕事で来日されるとか」
「ああ、そういえばそんなメールが来ていたよ」
先生も言われて思い出しました。
「来週来日するってね」
「そうですか、じゃあうちにもですね」
「来てくれるね」
「そうですよね」
「そうだ、それならね」
サラが日本に来るならとです、先生は明るいお顔になって言いました。
「いい考えがあるよ」
「どんなお考えですか?」
「うん、駅弁を一杯買って」
「サラさんにご馳走するんですね」
「鉄道博物館で買って」
買う場所はやっぱりこちらでした。
「そしてね」
「サラさんにも食べてもらいますか」
「皆で食べてね」
「サラさんもそうで」
「それでね」
是非にと言うのでした。
「楽しんでもらおう」
「いいことですね」
「イギリスにはないからね」
ダブダブがしみじみとして言ってきました。
「駅弁なんてものは」
「鉄道の中でお弁当を食べるなんて」
ホワイティも言います。
「サンドイッチ位で」
「何かイギリスってお弁当も弱いね」
トートーは祖国のこのことを思いました。
「冷凍食品ばかりで」
「朝御飯はいいけれど」
食いしん坊のガブガブにはいいことではありますが。
「それでもね」
「朝御飯を三食ずっと食べればいいっていうのは」
チーチーは首を傾げさせて言いました。
「誉めてないからね」
「それで肝心のサンドイッチも」
ジップはイギリス発祥のことのお料理自体に言うのでした。
「他の国の方がいいし」
「日本のサンドイッチってね」
「物凄く美味しいしね」
チープサイドの家族も認めることです。
「イギリスの超えてるわ」
「中の具もパンの生地もね」
「それで駅弁なんて」
ポリネシアはこちらのお話に戻しました。
「日本はどれだけ凄いか」
「その駅弁をサラさんに食べてもらうことも」
「いいことだね」
オシツオサレツは二つの頭でお話しました。
「じゃあね」
「是非一杯買っていこう」
「もうこれはっていう駅弁をうんと買って」
最後に言ったのは老馬でした。
「サラさんに何種類も買ってもらおうね」
「王子も呼ぼうね」
先生はこの人のことも忘れていません。
「あとね」
「あと?」
「あとっていうと?」
「このことは」
「うん、お酒も用意しよう」
こちらもというのです。
「そうしよう」
「お酒もなんだ」
「それも用意してだね」
「駅弁を食べながら」
「お酒も飲むんだね」
「是非そうしようね」
こう言ってでした、先生はサラの来日に合わせて駅弁を沢山買って日本酒も用意しました。そのうえで、です。
サラがお家に来ると実際にその沢山の駅弁とお酒を出しました。そうするとあるものが出て来てです。
サラは驚いてです、先生に言いました。
「お弁当こんなにあるの」
「お弁当はお弁当でもね」
「違うの?」
「駅弁だよ」
「あっ、日本のそれぞれの駅で売っている」
「それなんだ」
まさにというのです。
「それをサラに食べてもらいたくてね」
「こんなに沢山用意してくれたの」
「お酒もあるからね」
先生はサラにこうも言いました。
「だからね」
「駅弁を肴にしてなの」
「そちらも楽しんでね」
「わかったわ、しかしね」
「しかし?」
「駅弁ってこんなにあるの」
物凄く多いそれを見て言うのでした。
「何十とあるじゃない」
「いや、これはほんの一部なんだ」
「これでなの」
「日本は駅が多いからね」
それでとです、先生は笑顔でお話しました。
「それだけにね」
「駅弁も多くて」
「ここに用意したのはほんの一部なんだ」
「遥かにあるのね」
「日本全国にね」
「日本は駅弁もそうなのね」
サラはその駅弁達を見つつ腕を組んで唸りました。
「つくづく凄い国ね」
「全くだよね」
「イギリスにはこんなのとてもないわ」
「本当にサンドイッチ位でね」
「つくづく我が国の食文化は弱いわね」
「否定出来ないところが辛いね」
「お弁当といったら」
それこそというのです。
「パンかサンドイッチ」
「それ位だね」
「おかずは入れるけれど」
「それでもだね」
「こんなに駅ごとに食材を用意することはね」
「本当にないね」
「じゃあ何を食べようかしら」
サラはその駅弁達を見つつ言いました。
「迷うわね」
「好きなのを選んでいいから」
「そうしてなの」
「そう、本当にね」
好きな食べものをというのです。
「サラが好きなのを食べていいから」
「じゃあこれにするわ」
サラはいか飯を選びました。
「私はね」
「いか飯なんだ」
「烏賊の中に御飯が入っているのよね」
「味付けしてね」
「美味しいのよね」
「うん、かなり美味しいよ」
先生もこのことを保証します。
「だから楽しんでね」
「そうして食べさせてもらうわ」
「それじゃあね」
サラも頷いてでした、そうしてです。
皆それぞれ選んで食べていきます、ですがサラはいか飯を食べながら先生に対してこんなことを言ってきました。
「兄さんこれだけのおもてなしをするなら」
「大したおもてなしじゃないよ」
「大したおもてなしよ」
お酒も飲みつつ言います。
「これはね、それでよ」
「それで?」
「もっとね」
こう言うのでした。
「女の人におもてなしをしたら」
「僕がかい?」
「そうしたらいいのよ」
「だから僕はね」
笑ってです、先生は言うのでした。
「女の人には縁がなくて」
「そこでそう言うことがよ」
「駄目っていうんだね」
「そうよ、そこでいつも諦めるのがね」
「駄目だっていうんだね」
「兄さんの悪い癖よ」
自分の得意でないことは出来ないからと言って諦めることはです、本当に先生の悪い癖の一つだというのです。
「スポーツは実際に適性ないけれど」
「そして女の人もね」
「違うわ」
サラは日本酒をお酒を飲む為のお湯呑みで飲んでいます、そうしつつお酒の美味しさを楽しみながら言うのでした。
「兄さんは昔からね」
「昔から?」
「そうよ、本当にね」
実際にというのです。
「実は、だから」
「女の人もなんだ」
「誘うべきよ」
「そうなるんだね」
「兄さんみたいないい人いないわよ」
サラははっきりと言い切りました。
「人間としてね」
「人間性が大事だからなんだ」
「そう、しかもちゃんとしたお仕事もお家もあるでしょ」
「それはね」
「それじゃあね」
ここまで揃っていると、というのです。
「絶対にいい人と巡り合えるし」
「その人にだね」
「こうすればいいのよ」
「おもてなしをすればいいんだ」
「そう、私が保証するわ」
「そうだといいれどね」
「あと兄さんは服のセンスもいいから」
そちらもというのです。
「今の作務衣姿なんかいいじゃない」
「似合ってるからな」
「凄くね、それいい服ね」
「日本じゃお坊さんがよく着るんだ」
「そうなの」
「肉体作業、お掃除とかする時にね」
「仏教のお坊さんがよね」
お坊さんと聞いてです、サラはすぐにそちらの人だと察して先生に尋ねました。
「そうするのよね」
「そうだよ、日本のね」
「その人達が着る服なのね。いい服よ」
「動きやすくて快適だよ」
「いい服選んでるわ、あとね」
さらに言うサラでした。
「いつものスーツもね」
「いいんだね」
「色合いとかね。ネクタイピンとか帽子も」
「紳士でありたいと思っていてね」
「いつも身だしなみは。なのね」
「ちゃんとしておきたいしね」
この辺り先生らしい真面目さが出ているのです、だからいつもしっかりとスーツで身を包んでいるのです。
「だからね」
「それでなのね」
「穏やかな感じの色を選んでね」
「それもいいわ。いつもアイロンをかけて埃も取っていて」
「これはいつも皆がしてくれるんだ」
トミーや動物の皆がです。
「お陰で助かっているよ」
「そのセットもあって」
「僕は服のセンスもいいっていうんだ」
「そうよ。その服装もポイント高いから」
「紳士って感じがしますよ」
「まさにっていうね」
それぞれのお弁当を楽しんでいるトミーと王子も言ってきました。
「だからね」
「そのこともいいと思いますよ、僕達も」
「私が見てもなし」
また言うサラでした。
「だからね」
「そのこともいいんだ」
「背も高いし」
先生は一八〇あります。
「温和な顔立ちでね」
「顔はよくないよ」
「人相がいいっていうの」
「人相なんだ」
「幾ら顔立ちがよくても人相が悪いと」
どうかとです、サラは次のお弁当の蟹飯のそれを手に取りつつ先生にお話しました。
「駄目でしょ」
「うん、人相って大事だよね」
「美形でもヤクザ屋さんの人相だとどうかしら」
「もう台無しだよ」
「そうでしょ。だからね」
「僕は人相もいいからなんだ」
「もてない筈がないの」
この結論を言うサラでした。
「絶対にね」
「それじゃあ」
「そう、自信を持ってね」
「おもてなしをすればいいんだ」
「これだっていう女の人がいたらね」
「そういえばいたわね、兄さんにも」
トミーや王子から日笠さんのことはある程度聞いています、それでサラもこうしたことを言ったのです。
「じゃあその人をおもてなしすればいいわね」
「あれっ、僕にはそんな人いないよ」
「ああ、そこは駄目ね」
先生の鈍感さにはこう言ったサラでした。
「全く。それで全部台無しよ」
「台無しって何がかな」
「兄さんの気付いていないことについてよ」
「そうなんだ」
「そう、けれど兄さんは気付いたら」
その時はというのです。
「きっと素晴らしいことが起こるわ」
「そうだといいね」
「日本に入ることになったこともそうだしね」
「日本に来られたことはね」
「僕にとっていいことだね」
「皆にとってもね」
こう先生に言うのでした。
「そうなのよ」
「そうなんだね」
「ええ、それとね」
サラはさらに言いました。
「兄さん体重も減ったでしょ」
「有り難いことにね」
「脂肪率も減ってね」
「健康になったよ」
「そのこともいいことね、駅弁もね」
これもというのです。
「ヘルシーだしね」
「カロリーは少ないね」
「それもいいことね」
「そうだね」
「何ていうか」
さらに言うサラでした。
「兄さんにとってはいいこと尽くめね、日本は」
「そう思うよ、実際にね」
「沖縄も行ってるしね」
「いい場所だよ、あと大阪にはいつも行くしね」
「あの街ね、賑やかな」
「そうだね、あんないい街はないね」
「お笑いもあって」
サラはこちらのお話もしました。
「いい場所よね」
「お笑いも盛んな街だね」
「野球もサッカーもあるけれど」
「大阪はお笑いと食べものがね」
何といってもというのです。
「有名だよ」
「そうした街ね」
「そしてね」
「そして?」
「もう一つあるんだ」
大阪には、というのです。
「文学もあるんだ」
「あら、そうなの」
「だからサラも大阪を楽しむといいよ」
「そうさせてもらうわね」
「恋愛小説もあるしね」
「大阪の恋愛小説ね、だったらね」
サラは先生のお話を聞いて先生にこう返しました。
「兄さんもその人と行ったらいいのよ」
「大阪にだね」
「そう、電車で行って」
神戸からというのです。
「そうしてね」
「大阪を楽しむといいんだ」
「その人とね」
「その人っていうけれど」
首を傾げさせて返した先生でした。
「僕はね」
「だから兄さんはそこが駄目なの」
「そうなんだ」
「そう、その駄目さがね」
どうにもというのです。
「兄さんの困ったところよ、けれどね」
「先生も何時かきっとね」
「いい人とそうなれますから」
「その時が来ることはもう決まっているし」
「僕達は待っていましょう」
「そうね、気長にね」
サラは王子とトミーに笑って応えました。
「待っていましょう」
「そうそう、その日をね」
「楽しく」
「何がどうかわからないけれど大阪は好きだし電車もね」
その両方がというのです。
「僕は好きだしね」
「じゃあ行ってきなさいよ」
「その人とかな」
「兄さんからお誘いもかけてもいいしね」
「本当にいたらいいね」
「いないと思ってたらいないの」
こうも言ったサラでした。
「そしていると思ったらね」
「いるんだね」
「そうよ、だからね」
「僕もそうした人とだね」
「一緒に電車に乗って大阪に行って」
「楽しんでだね」
「幸せになってね、私だってね」
かく言うサラもというのです。
「うちの人とは今もいつも一緒だしね」
「あっ、そういえば今日ご主人は」
「大阪に買いものに行ってるわ」
その大阪にというのです。
「たこ焼きを買いにね」
「それでサラにだね」
「たこ焼きを食べさせてくれるのよ、あとお好み焼きもね」
「いいね、じゃあ駅弁を楽しんで」
「そうしたのも楽しんでくるわ」
「鉄道にも乗るね」
このことも聞いた先生でした。
「そうするね」
「イギリスには関西新空港から戻るけれど」
その時にというのです。
「空港までは南海線を使うから」
「ああ、あの私鉄だね」
「乗り心地いいし楽しんでくるわ」
「そうするといいよ」
先生は南海線を使うと答えたサラに笑顔で応えました。
「少しだけれど鉄道の旅を楽しんできてね」
「そうさせてもらうわ」
サラも笑顔で応えます、そうして今は先生達と楽しく駅弁を食べるのでした。
ドリトル先生と日本の鉄道 完
2018・9・11