『ドリトル先生と和歌山の海と山』
第十一幕 高野山に入った人達
先生達は金剛峯寺のお庭の前に来ました、そうして見事なお庭を見つつお寺の人達の許可を得てでした。
ティータイムとなりました、トミーは日本のお茶を飲みながら先生に尋ねました。お菓子も和風のものばかりです。
「まさかここで飲めるなんて」
「うん、高野山の人達からね」
「よく許してもらえましたね」
「その辺りはね」
どうして許してもらえたのかもお話する先生でした。
「僕達に信頼があったからかな」
「そうでしょうね、先生に」
「あれっ、僕になんだ」
「先生は紳士として有名ですから」
いつも礼儀正しくエチケットもしっかりとしています。
「それに王子も」
「僕もなんだ」
お抹茶をのんでいる王子が応えました。
「そうなんだ」
「うん、やっぱりね」
「僕は紳士なのかな」
「一国の後継者として相応しいマナーは備えているよ」
「いや、けれどね」
それでもと言う王子でした。
「日本の皇室の方々と比べたら」
「この日本のだね」
「足元にも及ばないよ」
「王子はそう言うけれど」
それでもというのです。
「充分過ぎる程ね」
「僕も紳士なんだ」
「そう思うよ、僕は」
「そうだといいけれどね」
「皆もね」
今度は動物の皆に言うトミーでした。
「礼儀正しいしね」
「だといいけれどね」
「いつも先生の迷惑にならない様にしてるけれど」
「それだったらね」
「いいんだけれど」
「うん、充分だよ」
こう皆にもお話するのでした。
「だからね」
「お寺の人達からもお許しを得られて」
「それでなんだね」
「こうした場所でティータイムを楽しめる」
「そうなんだね」
「そうだと思うよ、それとね」
さらにお話するトミーでした。
「お茶も出してくれたしね」
「しかもお抹茶をね」
「いや、お抹茶美味しいね」
「日本はお茶の種類も多いけれど」
「お抹茶もいいよね」
動物の皆もトミーの言葉に頷きつつお茶を飲んでそうしてお菓子を食べています、和風ティーセットを楽しんでいます。
「それじゃあね」
「今からね」
「このお茶とお菓子を楽しんで」
「後片付けも忘れない」
「そうしましょう」
「後片付けを忘れたらね」
それこそと言った先生でした。
「それだけで駄目だよ」
「そうだよね」
「後片付けはいつもちゃんとする」
「お茶を楽しんでも楽しんだその場所は汚さない」
「それがエチケットだよね」
「本当の紳士のすることよね」
「そうだよ、そこはちゃんと守って」
そうしてというのです。
「やっていこうね」
「それじゃあね」
「お茶も飲んでね」
「羊羹を食べて」
「あとどら焼きもね」
「そしてお饅頭もね」
「そうしようね、しかし僕達はね」
ここでふと思った先生でした、その思ったことは何かといいますと。
「日本に来てからお饅頭というものを何処でも食べているね」
「あっ、確かに」
「あちこちに旅行に行くけれど」
「それでお菓子を食べる機会も多いけれど」
「お饅頭よく食べるわね」
「神戸でもね」
「何かね」
どうにもと言う先生でした。
「お饅頭は日本のあちこちにあるね」
「各地にね」
「日本のね」
「もうあちこちにあって」
「それで食べてるわよね」
「うん、何かね」
さらにお話する先生でした、そのお饅頭を食べながら。
「何処でも美味しいしね」
「そうそう、お饅頭はね」
「どの場所にもあってね」
「しかも美味しい」
「そうよね」
「大抵はお菓子のお饅頭でね」
日本のお饅頭はというのです。
「程よく甘くて美味しいんだよね」
「それでこの高野山でもね」
「楽しく食べてるね」
「いや、何ていうかね」
「日本で一番親しみの持てるお菓子かな」
「そうだよね」
「僕もそう思うよ、じゃあこのお饅頭も食べて」
そうしてというのでした。
「そしてね」
「お庭も観ようね」
「いや、お庭も立派ね」
「何かこうしたお庭もね」
「日本ならではよね」
「日本の庭園は独特なんだ」
先生はそのお庭のお話もしました。
「欧州やアメリカや中国だと左右対称だよね」
「そうそう、建物自体がね」
「大抵そうなるんだよね」
「宮殿もそうだし」
「お屋敷でもね」
「けれど日本のお庭は違うね」
どう違うかといいますと。
「左右対称にこだわらないで」
「そうそう、むしろそうしないでね」
「中にお池を置いたりそこにお魚を買ったり」
「橋なんかもあったりしてね」
「草木もあって」
「石も一見ばらばらに置いていて」
「けれどそれが奇麗に置かれていて、実は」
「そうしたものよね」
「日本のお庭は」
「そう、それがね」
まさにというのです。
「日本のお庭なんだよ」
「そうなったのがね」
まさにと言ったのはチーチーでした。
「日本の文化の一つだよね」
「左右対称にこだわらないでね」
今度はトートーが言ってきました。
「自然の調和っていうかね」
「人の手を入れていても」
ダブダブも言います。
「自然の趣を出すのよね」
「その自然を出すのがね」
「まさに日本よね」
チープサイドの家族も気付いていることでした。
「人の手が加えられているけれど」
「自然の様子をよしとするのよね」
「あの感じがね」
まさにと言ったのはジップでした。
「いいけれど」
「このお庭もそうで」
ホワイティはお庭の隅から隅までを見ています。
「観ていてうっとりとするね」
「風流っていうのかな」
老馬はこの言葉が自然に出ました。
「これは」
「日本のお庭の趣は」
まさにと言ったのはガブガブでした。
「人の手を加えつつも自然の調和を出しているのは」
「ううん、四季も一日のうつろいも考えているし」
「何時観てもそれぞれの美しさが感じられてね」
四季でも時間でもです、オシツオサレツも思いました。
「お昼もいいし夜も」
「春夏秋冬でね」
「そうだね、枕草子みたいにね」
先生は物凄く有名な古典をお話に出しました。
「日本のお庭はこの季節だけってことはないね」
「それぞれの季節でね」
「絵になるよね」
「朝もお昼も夜も」
「そして夕方も」
一日の時間によってもというのです。
「観ていていいって思って」
「飽きないのよね」
「暑くても寒くても」
「明るくても暗くても」
「うん、このよさを楽しみつつね」
そうしてというのです。
「お茶とお菓子も楽しもうね」
「そうしようね」
「今日で高野山も終わりだし」
「あと少しで神戸に戻るし」
「そうしましょう」
「是非ね、それとね」
こうもお話した先生でした。
「昔はこの普通に飲んでいるお茶が凄く高かったことを思うと」
「お菓子もね」
「そしてお庭の見事さも楽しんで」
「ここまで揃うとね」
「凄く贅沢よね」
「今の僕達は」
「そうだよ、凄く贅沢に楽しんでいるよ」
心から思う先生でした。
「これ以上はないまでにね」
「そうよね」
「こんな奇麗なお庭を観ながら」
「お茶とお菓子も楽しむ」
「それはね」
「本当に贅沢な遊びよね」
「そう思うよ」
心から思う先生でした。
「僕もね、じゃあね」
「今からね」
「お茶を飲んでね」
「そしてお菓子も食べて」
「次はお昼ね」
「そちらも楽しもうね」
「そうしようね」
笑顔で言った先生でした、そうして皆でお茶もお菓子もお庭も全部心から楽しんでそれからでした。
金剛峯寺の他の場所も巡ってお昼はお寺の中で食べてです。帰る時間まで皆でお寺の中を見て回りましたが。
ふとです、動物の皆は高野山の木々を見て思うのでした。
「大きな木が多いね」
「うん、どうもね」
「それで木の声が聞こえてくるみたいな」
「そんな気がするね」
「どうにも」
「そうだね、神聖な感じがしてね」
それでと応えた先生でした、動物の皆に。
「木の香りもしてね」
「そうしてね」
「普通にだよね」
「木の声を感じる」
「そんな風に思えるよね」
「そうだね、ギリシア神話だとね」
先生は子供の頃から親しんでいるこの神話のことを思い出しました。
「ニンフがいるよね」
「うん、木でも何でもね」
「ニンフがいるよね、ギリシア神話では」
「森自体にもいてね」
「湖や海にも」
「あらゆる場所にニンフがいるよね」
「それは日本も同じでね」
この国もというのです。
「むしろギリシア以上に万物が宿っていると考えているね」
「そうだよね」
「八百万の神っていうし」
「何にでも神様がいて」
「木にもだよね」
「そして木の一本一本にね」
まさにこの高野山の木の全てにというのです。
「魂が宿っていると考えているからね」
「物凄い多いけれどね、木が」
「この高野山は」
「というか日本の山って何処も木が一杯だけれど」
「山イコール森なのが日本よね」
動物の皆もしみじみと思うことでした。
「岩山ってね」
「日本じゃ日本アルプス位かな」
「あと火山とかは」
「火山も木が一杯な場合もあるし」
「そこはね」
「うん、特に高野山はこうした場所だから」
先生はまた皆にお話しました。
「余計にだよね」
「木の声を感じそうだよ」
「静かなこの中で」
「修行をしていたら聞こえる様になる?」
「悟りを開いたら」
「そうかもね、僕はキリスト教徒だけれど」
それでもなのでした。
「出家したらね」
「高野山に入るの?」
「ここに」
「それで修行をして」
「悟りを開くの」
「そうしたいとも思ったよ」
信じている宗教は違えどです。
「皆と一緒に木を持っているとね、それかね」
「それか?」
「それかっていうと?」
「悟りを開く以外にあるの」
「まだ何か」
「神主さんか山伏さんか」
こうした人達のことも思い出したのです。
「山に入ってね」
「ああ、そっちだね」
「そうした人達にもなれるんだったね日本は」
「陰陽師だっているし」
「色々な宗教がある国だからね」
「うん、そうした人達にもね」
先生は皆にお話しました。
「なることもね」
「考えたんだ」
「実際に」
「そうだったんだね」
「どうもね、しかしね」
さらにお話した先生でした。
「僕はあくまでキリスト教徒だから」
「現実にはね」
「そうしたことはないよね」
「出家したりとか山に入ったりとか」
「悟りを開いたりとかも」
「ないよ、ただ仏教や神道を学んでいると」
本当にというのでした。
「その深さに素晴らしさを感じてやまないよ」
「先生はあらゆるものにそう言うよね」
王子は先生のお言葉を聞いて先生ご自身に言いました。
「そうだよね」
「うん、あらゆる学問についてね」
「どの国のどの民族にもそうだし」
「宗教にもね」
「何でもそうだよね」
「そうだね、自分でもそう思うよ」
「何でも受け入れて何でも学んでいく」
まさにあらゆるものをです。
「それが先生だね、昔で言うとね」
「昔っていうと?」
「博物学者だね」
こうした学者さんになるというのです。
「先生はね」
「ああ、博物学者だね」
「あらゆるものを学んでいるからね」
「そうなるかな、本職はお医者さんだけれど」
「何か日本に来て特にね」
とりわけというのです。
「先生はあらゆる学問に精を出して学んでいるからね」
「だからなんだ」
「もうお医者さんであってもね」
「博物学者だね」
「そうなっていると思うよ」
「そうなんだ、日本の博物学者というと」
ここでまた思い出した先生でした、今度思い出したのはある学者さんでその学者さんはどなたかといいますと。
「南方熊楠さんはね」
「名前は聞いたことがあるけれど」
「うん、十九世紀から二十世紀の日本の学者さんでね」
「博物学者だったんだ」
「そうなんだ、その人がね」
「ひょっとして」
「そう、この和歌山の生まれなんだ」
そうだというのです。
「大英博物館でも学んでいたんだ」
「イギリスに行って」
「そうだったんだ」
「成程ね」
「その人もここに来ていたね」
「和歌山だけだってだね」
「この人はとにかくあらゆるものを学んでいたんだ」
そうした人だったというのです。
「僕もかくありたいと思うまでにね」
「凄い人だったんだ」
「そうだったんだ」
「じゃあ先生は何時か」
「南方熊楠さんみたいな人になりたいよ」
「そうした学者さんにだね」
「そう思っているよ、とにかく凄い人でね」
それでというのです。
「民俗学に生物学にってね」
「何でもなんだ」
「学んでいたんだ」
「まさに先生だね」
「僕もその人は知ってますけれど」
ここで言ってきたのはトミーでした。
「先生とは性格は全く違いますね」
「あの人はだね」
「はい、お酒が好きなのは一緒ですが」
それでもというのです。
「もう何処でも吐けるし」
「食べたものをね」
「それで粗野で身なりには無頓着だったところもあるし」
「変わった人だとあるね」
「そうした人ですから」
いつも紳士な先生とはというのです。
「本当に全然違いますね」
「そうなんだね」
「はい、あの人は天才で」
そうしてというのです。
「天才特有の強烈な個性があった人ですね」
「っていうとモーツァルトみたいな?」
「あとベートーベンとか」
「ゴッホやゴーガンもそうだったし」
「ミケランジェロも」
動物の皆はすぐにこうした人達を思い出しました。
「何かね」
「強烈な個性を持っていて」
「傍から見ると変わっている」
「そうした人だったね」
「それで南方熊楠さんも」
「そうした人だったのね」
「そうなんだ」
トミーは皆にもお話しました。
「相当な人だったんだよ」
「ううん、何かね」
「天才って呼ばれる人はどうもね」
「そうした人が多いね、確かに」
「変わった人が」
「どうしても」
動物の皆も思うのでした。
「それで南方さんって人もだね」
「人間としては凄い変わった人で」
「色々とお話が残ってるんだ」
「そうした逸話が」
「うん、例えばね」
先生がお話しました。
「飲んで吐くよね」
「うわ、何かね」
「吐くのはよくないわね」
「飲んでも」
「先生はそれはしないし」
「何があってもね」
「それも好きな時に吐けるんだ」
飲んだり食べたものをです。
「そうしたことが出来たしね」
「それになの」
「まだあるの」
「おトイレ、昔のだよ」
日本のです。
「隅に生えていた茸を詳しく見たりね」
「そうしたこともしてたの」
「何ていうかね」
「それも変わってるわ」
「おトイレの隅の茸に興味持つとか」
「そうしたことも」
「そうした人でね」
それでというのです。
「あの人は本当に変わった人だったよ」
「ううん、先生も変わってるって言えば変わってるけれど」
「何かとね」
「紳士だけれどね」
「個性があるって意味ではね」
「変わってるけれど」
「南方熊楠さんは」
この人はと思う動物の皆でした。
「確かにね」
「相当に変わってるわ」
「何時でも吐けておトイレの茸見るとか」
「かなりね」
「先生も天才だけれど」
「その人位には」
「いや、僕は天才じゃないよ」
先生は皆のお話に笑顔で言いました。
「全然ね」
「そうかな」
「九十九パーセントの努力はしてるし」
「色々な学問について」
「それで閃きもあるし」
「天才じゃないかな」
「そうだといいけれどね、ただ僕はそう考えてるよ」
ご自身は天才ではないとです。
「別にね、ただその人はね」
「うん、南方熊楠さんはね」
「相当に変わってるわね」
「何ていうか」
「どうにもね」
「かなりよね」
「うん、あの人は」
まさにというのです、動物の皆は。
「先生よりずっと強烈ね」
「そんな人がおられたのね」
「そうだったんだ、理系と文系の学問が両方出来るだけでもね」
先生ご自身もそうですが今はそのご自身のことは考えていません。
「やっぱり凄いよ」
「そうだよね」
「本当にね」
「そうした人がだね」
「博物学者なの」
「そうだよ」
「というと」
ここでふと気付いたのは老馬でした。
「空海さんも博物学者だったのかな」
「ああ、今で言う」
「そうした人だったかもっていうのね」
チープサイドの家族も老馬に応えて言いました。
「そういえば仏教学にね」
「地質学もだし」
「あらゆる学問を備えていたっていうし」
今言ったのはトートーでした。
「そうなるね」
「うん、何ていうか」
ジップはトートーの言葉に頷きました。
「そんな感じがするね」
「空海さんは学者さんでもあったから」
チーチーもこのことはわかっています。
「それでなんだね」
「いや、面白いね」
ホワイティは空海さんが博物学者だと考えて思うのでした。
「空海さんはそうした人でもあるって考えると」
「学者さんか書道家か宗教家か」
ダブダブも考えるのでした。
「それともゴーストバスターか日本を護る人か」
「はたしてどうした人か」
ポリネシアはダブダブに続きました。
「そのことを考えるのも面白いわね」
「空海さんについてもね」
「博物学者って考えるのもいいね」
オシツオサレツは二つの頭で思いました。
「南方さんに強烈な個性ではなかったみたいだけれど」
「それでもね」
「空海さんと南方さんって人を同時に考えると」
最後に言ったのはガブガブでした。
「これまた色々な発見があるみたいだね」
「そうだね、そして南方さんもね」
先生は皆にあらためてお話しました。
「この場所を歩いていたんだよ」
「そうだったんだ」
「僕達が歩いているこの場所を」
「南方さんも歩いていて」
「そうして色々調べてもいたんだ」
「そうだったんだ、和歌山に生まれてね」
そうしてというのです。
「歴史に名を残した人の一人だよ」
「成程ね」
「和歌山も色々ね」
「何ていうかね」
「吉宗さんがいて蜜柑や梅干しがあって」
「海の幸も豊富でね」
「この高野山があって」
そうしてでした。
「忍者のお話もあって」
「根来衆ね」
「色々と面白いわ」
「ここに来てよかったよ」
「また色々なことを知ることが出来て」
「そうだよね、ただね」
王子も動物の皆の言葉に頷いてです、そして。
ふとです、王子は先生にこうした人のことを尋ねました。
「ただ、何かスポーツとか武芸は」
「忍者はいてもだね」
「武将の人とかはいたのかな、和歌山は」
「雑賀孫一さんがいたけれどね」
「戦国時代の」
「うん、あの人はね」
「雑賀衆で」
少し根来衆と混同している王子でした。
「忍者でもあったんだよね」
「ううん、鉄砲を専門的に使う人達だったかな」
「あれっ、忍者じゃなかったんだ」
「その辺りは諸説あるんだ」
「そうだったんだ」
「確かに創作の世界だと忍者である場合もあるね」
先生は小説やゲームでの雑賀孫一さんのお話もしました。
「そういえばね」
「そうなんだね」
「鉄砲を使ったり忍者だったりして」
「何か凄いね」
「織田信長さんとも戦ったしね」
戦国時代といえばまさにこの人です、それでここでもこの人が登場するのでした。
「それで勝っているんだよ」
「そうだったね」
「強かったんだ」
「それで有名なんだね」
「うん、とてもね」
「その人がいたね」
王子はあらためて思いました。
「強い人だと」
「そうだよ、あとスポーツだとね」
こちらの人のお話もした先生でした。
「西本幸雄さんもおられたよ」
「あっ、阪急や近鉄の監督だった」
「そう、最初は大毎の監督をしてたね」
「八回のリーグ優勝をしたんだよね」
「あの人も和歌山の人なんだ」
この県の出身だというのです。
「そうだったんだ」
「へえ、関西の人だとは思っていたけれど」
「和歌山出身だったんだ」
「それは意外だね」
「何しろ和歌山は南海だからね」
ここで笑ってお話をした先生でした。
「南海も阪急も近鉄も昔は球団を持っていたね」
「そうそう、ホークスにブレーブスにバファローズに」
「三球団で競り合っていたんだよ」
関西の鉄道会社を親会社とするチーム同士で、です。
「今は阪神だけになったけれどね」
「あのチームだね」
「あのチームはリーグも違うしね」
三球団はパリーグで阪神はセリーグです。
「それに阪神はまた特別だからね」
「独特の魅力があるからね」
「だから置いておいて」
阪神はです。
「とにかくパリーグの三球団は鉄道会社が親会社でね」
「西本さんは阪急と近鉄だから」
「南海とはね」
どうしてもです。
「ライバルであってね」
「馴染みがないどころかね」
「敵だったんだね」
「和歌山の会社とはね」
どうしてもだったのです。
「そうだったんだよ」
「そうなんだね、けれどだね」
「和歌山出身だったんだ」
そうだったというのです。
「実はね」
「そのことは面白いね」
「南海に関わるのある場所出身でね」
「ずっと南海の敵だったなんてね」
「そこは面白いよね」
「そうだね」
王子は先生に笑って応えました。
「このことは」
「しかも西本さんはお酒が飲めなかったんだ」
「あれっ、そうだったんだ」
「そう、甘いものがお好きでね」
「へえ、じゃあ僕達みたいに梅干しや海の幸で飲んだりとかは」
「しなかったんだ」
そうだったのです、実は。
「これは南海の監督だった野村克也さんもだったんだ」
「ああ、あの人ずっと南海の人で」
「そう、現役時代の殆どと最初に監督を務めたチームはね」
「南海だったね」
「西本さんと長い間戦ってきた人だけれど」
「あの人も飲めないんだ」
「そうだよ」
このこともお話した先生でした。
「ライバル同士だったけれど」
「そこは一緒だったんだね」
「しかもね」
さらになのでした。
「お互いに認め合ってもいたんだ」
「ライバル同士でだね」
「そうでもあったんだ」
「そこも面白いね」
「スポーツマンらしいね」
王子は西本さんと野村さんのことを聞いてあらためて思いました。
「そこは」
「そうだね、そして西本さんもひょっとしたら」
「高野山にも来られていたかも知れないんだね」
「阪急だから西宮、近鉄だから三輪の神社に優勝祈願していたかも知れないけれど」
それでもというのです。
「神社もこっちでね」
「高野山もだね」
「お参りしていたかも知れないね」
「そしてこの道もだね」
「歩いていたかもね」
「そう思うと高野山は」
しみじみと思う王子でした。
「沢山の人が入ってきた場所なんだね」
「修行、そしてお参りにね」
「そうなんだね」
「悲しいこともあったけれど」
秀次さんのことをここでまた思い出した先生でした。
「それでもね」
「その長い歴史の中でだね」
「沢山の人が入ったこともね」
「事実だね」
「そうなんだ、そうした場所なんだ」
まさにというのです。
「この高野山はね」
「空海さんが開かれてから」
「今までね」
その千数百年以上の長い歴史の中で、です。
「そうしてきたんだよ」
「そう思うと凄いね」
「そうだね、今日でこの山を降りて神戸に戻るけれど」
「まただね」
「来たいね」
心から思う先生でした。
「是非ね」
「そうだね、また来てね」
「学びたいね」
高野山のこと、空海さんのこと、ひいては真言宗のことをです。
「そうしたいね」
「そうだね、あと帰る時は」
この時のこともお話した王子でした。
「もうね」
「高速でだね」
「一気に帰ろうね」
神戸までというのです。
「そうしようね」
「うん、是非ね」
「あとね」
さらに言った王子でした。
「夜だけれど、帰るの」
「そうだね」
「帰ったらね」
その時のこともお話する王子でした。
「もう寝るよね」
「そうなるね」
「お風呂に入って」
「それからね」
「そうだね、僕もだよ」
「御飯はお弁当でね」
王子はさらに言いました。
「車の中で食べようね」
「キャンピングカーの中でね」
「そこで食べようね」
「お弁当でしたら」
トミーが言ってきました。
「ここで買えますね」
「高野山でね」
「皆の分を買って」
「そうしてね」
「お土産も買って」
このことも忘れないトミーでした。
「帰りましょう」
「是非そうしようね」
「はい、皆の分も買いますよね」
「当然だよ、サラに学校の人達にご近所にお静さんに」
猫又のお静さんのことも忘れない先生でした、ですがある人のことはトミーの方から言うのでした。
「日笠さんもですよ」
「日笠さんも勿論だよ」
「絶対に忘れないで」
「そうするよ」
「忘れないで下さいね」
日笠さんのことは絶対にというのです。
「くれぐれも」
「わかってるよ」
「そうそう、他の人のこともだけれど」
「日笠さんは特によ」
「先生忘れないでね」
「何があってもね」
「それはわかってるけれど」
それでもとも思う先生でした。
「何か皆日笠さんのことはいつも強く言うね」
「そこは忘れたら駄目だから」
「何としてもよ」
「僕達も言うよ」
「他のこと以上にね」
「そうなんだね、日笠さんは大切なお友達だしね」
ご自身はこう考えています。
「だからね」
「そこでそう言うのはアウトよ」
「先生、注意してね」
「くれぐれも」
「日笠さんはお友達かどうか」
「そこはちゃんと考えてね」
「何でそこまで言うかいつも不思議だけれど」
ついつい周りを見回しつつも首を傾げさせてしまった先生でした。
「日笠さんのことは大事にしないとね」
「まずはそこからよ」
「全然進展しないけれど」
「全く先生ときたら」
「これからどうなるやら」
日笠さんとのことはやれやれと思う皆でした、ですがそれでもです。
皆で高野山の中を回ってそうしてでした、そのうえで。
いよいよ帰る時になって皆でお土産とお弁当を買ってキャンピングカーに乗せました。そうしてなのでした。
ふとです、先生は梅干しを買って思うのでした。
「何か最後までね」
「梅干しだったね」
「和歌山は」
「空海さんとね」
「梅干しだったね」
「そうだね、感慨深いね」
動物の皆に梅干しを見つつ笑顔でお話する先生でした。
「ずっと梅干しと一緒だったって思うと」
「梅干しをよく肴にしたし」
「それで飲んでもきたし」
「そう思うとね」
「余計によね」
「うん、感慨があるよ」
心から思う先生でした。
「空海さんは梅干しを食べていたかどうかはわからないけれど」
「当時はまだなかったのね、梅干し」
「平安時代の日本には」
「そうだったの」
「うん、日本の食文化は時代によって違うしね」
それでというのです。
「奈良時代の食事は今とかなり違ったね」
「うん、奈良で食べたけれど」
「確かにかなり違ったわ」
「それも相当にね」
「まるで別物みたいに」
「違っていたよ」
「それで梅干しもなんだ」
「古代から梅は食べていたみたいだけれど」
先生はこのことは知っていました。
「けれどね」
「梅干しはあったか」
「そう言われるとなんだ」
「わからないの」
「僕達が食べている梅干しは十世紀にはあったけれど」
その頃にはというのです。
「当時の村上天皇が昆布茶とその梅干しで病を治されたとあるけれど」
「空海さんの後?」
「そうよね」
「空海さんは平安時代の最初の頃の人で」
「村上天皇より先の人だよね」
「だからその頃にそうした梅干しはあったかな」
先生はいささか疑問に思うのでした。
「そして空海さんは食べていたか」
「それはなんだ」
「どうもわからないの」
「梅干しについては」
「梅を食べるのは中国からで空海さんは中国に行っていたけれど」
それでもというのです。
「果たしてね」
「空海さんが梅干しを食べていたかまでは」
「わからないのね」
「どうにも」
「そこまではね、まあそれでもね」
空海さんと梅干の関係については不明でもというのです。
「僕達の今回の旅に梅干しはかなり関わっていたね」
「空海さんとね」
「本当に色々な場所を巡ったけれど」
「その中でもね」
「梅干しは特にだったわね」
「そうだったよ、そしてね」
さらに言う先生でした。
「お土産にも買ったし」
「暫く梅干しとは関係ありそう」
「そうだね」
「これからもね」
「神戸でも食べるし」
「関係は続くわね」
「そうなるね、梅干しのお茶漬けに」
まずはこちらを思う先生でした。
「何といってもね」
「梅干しを肴にして」
「そうして飲むのね」
「ここでそうしてきたし」
「これからも」
「そうして飲む時もあるよ」
梅干しを肴に日本酒を楽しむというのです。
「これからもね、上杉謙信さんみたいに」
「あの人のお墓もこの高野山にあったし」
「まさかと思ったけれど」
「謙信さんのお墓も見たし」
「このことも感慨があるわね」
「うん、色々あって学べて」
本当にでした、先生としては。
「今回も満足出来た旅だったよ」
「そうだよね」
「じゃあ満足してね」
「家まで帰ろうね」
「これから」
「是非ね」
笑顔で応えてです、先生もでした。
皆で荷物もお土産もお弁当もキャンピングカーに積んでそうしてでした、皆でそのキャンピングカーに乗り込んで。
出発しました、先生はこの時後ろを振り向いて思いました。
「名残り惜しいね」
「これで去ると思うとね」
「お家に帰ると思うと」
「やっぱりね」
「名残り惜しいわね」
「そうだね」
こう皆にも応えます。
「いつも思うけれどね」
「旅行の終わりの時は」
「それがフィールドワークでも何でもね」
「やっぱりね」
「寂しいよね」
「名残り惜しく感じるよね」
「そう思うよ、けれど二度と来られないかというとね」
それはといいますと」
「そうじゃないからね」
「機会があればまた来られるし」
「それじゃあね」
「名残り惜しいと思うよりも」
「むしろね」
「また来よう」
「そう思うべきね」
皆も笑顔で先生に言います。
「じゃあ先生」
「また来ようね」
「高野山にも和歌山の他の場所にも」
「そうしようね」
「うん、また機会があればね」
本当にという先生でした。
「和歌山に来ようね」
「じゃあ今はね」
「和歌山よさらば」
「また会う日まで」
「そうしようね」
こう皆にお話してでした、先生は高野山を後にしました。そうして後はお家に帰るのでした。皆と一緒に。
高野山でティータイムか。
美姫 「楽しそうで何よりよね」
うんうん。高野山も一通り巡って、下山して。
美姫 「後は帰るだけね」
例によって、皆から日笠さんの事を言われているのに。
美姫 「こちらは相変わらずね」
だよな。次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」
ではでは。