『ドリトル先生と和歌山の海と山』




               第十幕  座禅の後で

 先生達はまずは皆で座禅を組ませてもらいました、イギリスやアフリカ生まれの先生達もようやく日本の座り方に慣れてきていまして。
 それで座禅を組むのは思ったより楽でした、そうして動物の皆もそれぞれの姿勢で座禅を組ませてもらってです。
 座禅を組んでです、そのうえでなのでした。
 座禅の後で動物の皆はしみじみとした口調で言いました。
「ううん、何かね」
「足痺れたりしないよね」
「別に肩をぱしんとやられなくて」
「無我というか?」
「何か深くて大きな世界に入った感じがしたわ」
「宇宙みたいな」
「そう、そうなることがね」 
 先生も皆にお話します。
「座禅をする意味でね」
「それでなんだ」
「僕達もそうなったんだ」
「座禅を組んでそうなったの」
「世界の中に入ったのね」
「座禅のその」
「そうなるよ、そして座禅を組むことを重ねていくとね」
 どうなるかといいますと。
「悟りを開けるとも言われているんだ」
「成程ね」
「そんな風なのね」
「じゃあ先生もね」
「仏教徒だったら」
「そうなっていたね、あと密教も座禅を組むけれどね」
 さらにお話する先生でした。
「やっぱり一番座禅を組むのはね」
「あっ、禅宗ね」
「あちらの宗派ね」
「もう座禅っていったらね」
「禅宗なのね」
「そうだよ、本当に禅宗はね」
 この宗派はというのです。
「座禅を組むことが多いよ」
「それが修行の主だよね」
「何しろ禅っていうからね」
「それだけにね」
「どんどん座禅を組むんだよね」
「そうだよ」
「座禅を組んでいてよく言われることですが」 
 トミーが先生にお話してきました。
「足が痺れるっていいますけれど」
「実は痺れないよね」
「はい、むしろ頭の方が」
「何か痺れるというかね」
「感覚がなくなる感じがしますね」
「そうだね、もっとも長い時間組んでいれば痺れるだろうけれど」
 それでもというのです。
「僕達位の長さではね」
「痺れないんですね」
「そうだよ、それにね」
 さらにお話する先生でした。
「頭が痺れるというか感覚がなくなることはね」
「あの方が感じましたけれど」
「座禅の特徴だね」
「そうですよね」
「あの感覚は不思議だよ」
 先生にしてもです。
「他のことをしてもなることはないね」
「はい、全く」
「ああして無我の極致に至ってね」
「何も考えなくてですね」
「宇宙と一体になる様になって」
 そうしてというのです。
「涅槃に入るというか」
「そうした風になることがですね」
「座禅なんだよ」
「そうですか」
「だから仏教ではね」
「座禅を組むんですね」
「そうだよ」
 こうトミーにお話をしました。
「仏教のお坊さん達はね」
「よくわかりました、それじゃあ」
「うん、僕達もこれからもね」
「機会があればですね」
「座禅を組んでいこうね」
「そうさせてもらいます」
 是非にと言った先生でした、そしてです。
 皆で座禅を終えたので今度は泊まる場所に入りました、そうして今度は食事となるのですがそのお食事はです。
「精進料理だね」
「やっぱりこれよね」
「お寺だしね」
「そうなるよね」
「そうだよ、お寺だからね」
 先生は動物の皆にお話しました。
「精進料理だよ」
「特にこれだよね」
 ガブガブは干物みたいな感じのお豆腐、白くも瑞々しくもなくそうした風になっている独特のお豆腐を見てお話しました。
「高野豆腐だよね」
「これが高野山名物よね」
 ダブダブも言います。
「やっぱり」
「そうそう、高野山の名前も付いてるし」
 チーチーもその高野豆腐を見ています。
「名物だよね」
「梅干しもね」
 ジップはそれを見ています。
「和歌山だからあるね」
「和歌山にあるとね」
 ここで言ったのはホワイティでした。
「梅干しは欠かせないんだね」
「何というか全体的に健康的で」
 トートーはお料理全体を見ています。
「食べても身体によさそうだね」
「ええ、こうしたものを皆食べてるのね」
 ポリネシアの口調はしみじみとしたものでした。
「高野山の人達は」
「質素なのはお坊さんが修行をする場所だからだね」
 老馬はこのことを察しました。
「だからだね」
「精進ものばかりなのも」
「当然よね」 
 チープサイドの家族もお料理を前にしています。
「それにここは山だしね」
「昔は新鮮なものも食べられなかったし」
「高野豆腐みたいなものもあったり」
「あとお餅もだね」
 オシツオサレツは焼き餅も見ています。
「こっちもあるね」
「胡麻豆腐もあるし」
「僕としてはね」
 王子が言うにはです。
「生麩があるのが嬉しいね」
「ああ、生麩だね」
「これもいいよね」
「もちもちとしててね」
「凄く美味しそうだし」
「それじゃあね」
「生麩も食べようね」
 動物の皆は生麩以外のものも見ました、見ればもう一つそのままの生麩以外にも生麩を使ったお料理がありました。
「これもね」
「何だろ、これ」
「こしあんを生麩で包んでるけれど」
「これ何かしら」
「それはあんぷだよ」
 先生はまた皆にお話しました。
「こしあんを生麩で包んだお饅頭で高野山名物の一つだよ」
「そうなんだ」
「そういえばはじめて見るお菓子よ」
「これも美味しそう」
「何かと食べるもの多いわね」
「名物の食べものが」
「そうだね、ただここはね」
 高野山のことをさらにお話した先生でした、先生はもう一つのデザートである弥勒石饅頭も見ています。
「山の奥でしかも修行する場所だね」
「食事は限られていたんだ」
「そうだったんだね」
「だから高野豆腐なんだね」
「こうしたものもあるのね」
「そうだよ、ここはね」
 まさにというのです。
「昔はそうした山の中にあったから」
「新鮮な食べものは手に入りにくくて」
「乾燥させたりした保存の効くものばかり食べてて」
「こうした食べものが多いのね」
「そうだよ、そして精進料理だよ」
 このこともお話した先生でした。
「仏教だからね」
「そうだよね」
「このこともだよね」
「高野山のお料理もね」
「お寺のものだから」
「そうだよ、そうなっているよ」
 まさにというのです。
「ここではね」
「成程ね」
「こうした独特のお料理になったのもね」
「高野山だから」
「お寺だからなのね」
「そうだよ、あとこれもあるよ」
 こう言って飲みものも出した先生でした。
「般若湯もね」
「それお酒でしょ」
「お酒だよね」
「名前は違っても」
「そうだよね」
「そうだよ、お酒だけれど」
 先生もこのことを否定しません、元々嘘は言わない人ですがこの時もそうではっきりと言いました。
「仏教ではこう呼んでね」
「お酒飲んでるんだ」
「そうなのね」
「本当は飲んではいけないけれど」
「そうした風に呼んでなの」
「食べていたんだね」
「そうだよ、だからね」
 それでと言ってです、先生は胡麻豆腐を一口食べてからです。
 その般若湯を飲んでにこりとして言いました。
「うん、美味しいね」
「般若湯もだね」
「そういうことになってるけれど」
「そっちも美味しいのね」
「そうなのね」
「うん、こちらも楽しんでね」
 そうしてと言いつつどんどん飲む先生でした。
「お風呂にも入って寝ようね」
「ううん、何ていうかね」
「先生は何処でもお酒飲むよね」
「あちこちの旅行先で飲んで」
「そして神戸にいても飲むしね」
「お酒は大好きだからね」
 学問、食べることと一緒にです。
「だからね」
「今もだね」
「高野山でも飲むんんだね」
「般若湯ということになってるけれど」
「ここでも」
「そうだよ、それぞれの地域のお酒があるから」
 名物料理と共にです。
「それも楽しまないとね」
「駄目っていうんだね」
「あから今も飲むんだね」
「そうしてるのね」
「そうだよ、いや本当にね」
 飲みつつ言う先生でした。
「般若湯も美味しいよ」
「先生は何処でも先生だね」
 笑顔で言ったのは王子でした、勿論王子も般若湯を飲んでいます。
「お料理もお酒も楽しんでね」
「学問とだね」
「うん、そこは変わらないね」
「そうだね、自分でもそう思うよ」
「何処でも先生だってだね」
「うん、思うよ」 
 先生ご自身もというのです。
「このことはね」
「そうだよね」
「むしろ僕はね」
「自分らしくしないことはだね」
「出来ない方だね」
「スーツで外出しないでスポーツに励んであくせくして」
「そうした風には出来ないね」
 どうしてもというのです。
「僕は」
「そうだよね、じゃあね」
「うん、今もね」
「こうしてだね」
「食べて飲んでね」
「お風呂にも入って」
「今日はぐっすり寝て」
「そうしてだね」
「また高野山の中を見て回ってね」
 明日もというのです。
「この山のことを学ぶよ」
「フィールドワークを続けるんだね」
「そしてお土産も買うよ」
 このことも忘れない先生でした。
「絶対にね」
「サラさんまた来日するんだよね」
「うん、僕達が神戸に戻った次の日にね」
 まさにその日にというのです。
「神戸に来るんだよ」
「じゃあ今頃は」
「飛行機の中から」
 イギリスから日本に向かうです。
「ご主人と一緒にね」
「そうなんだね」
「いや、サラも忙しいね」
「年に何回も来日してるよね」
「お仕事でね」 
 ご主人が経営している紅茶の会社のです。
「それでね」
「八条グループの人とお話をする為にね」
「年に何度か来日してるよ」
「それで先生のところにも来てるよね」
「あと結構日本の各地も観光してるし」
 お仕事の合間にです。
「この前は金沢に行ったそうだよ」
「ああ、北陸の」
「そう、あそこにね」
「金沢は海の幸と和菓子と」
「金沢城だね」
「あとお庭もあってね」
 こちらも忘れていない王子でした、皆で静かな山の中にあるお寺の建物の中で食事を摂りつつお話をしています。
「そうしたものをだね」
「楽しんでいると思うよ」
「それもいいね」
「そうだよね、サラもね」
 この人もというのです。
「来日して各地を回ってね」
「楽しんでいるんだ」
「そうしているよ」
「じゃあここにもかな」
「何時か来るかもね」
 来日したその時にというのです。
「そうするかもね」
「そうなんだね」
「そうだよ、そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「今の僕達みたいにね」
「お墓地や金堂を回ったり」
「こうして飲んだり食べたりすることもね」
「するかも知れないんだね」
「座禅を組むかどうかはわからないけれど」
 それでもというのです。
「そうしたことを楽しむかもね」
「成程ね」
「それも面白いしね」
「うん、高野山は観光名所でもあるしね」
「そうだよ、マスコットもいるしね」
 先生は高野山にも誕生したそうした存在のお話もしました。
「こうやくんね」
「あの荒野聖を可愛くした感じの」
「そう、彼もいるしね」
「何か日本人ってマスコットキャラ好きだよね」
「ゆるキャラがだね」
「結構あちこちにいるよね」
 日本のです。
「そうだよね」
「その場所とかのシンボルにも宣伝にもなるしね」
「だからだね」
「よく置かれるんだ」
 そうしたマスコットとしてのゆるキャラがです。
「そうなるんだ」
「それでだね」
「滋賀県のひこにゃんや千葉県のふなっしーが代表でね」
「この高野山にもいてだね」
「そうなっているんだ」
「ううん、そういえば和歌山県自体にもいるしね」
「よしむねくんだね」
「あの人と空海さんは」
 まさにと思う先生でした。
「和歌山の代表人物なんだね」
「そうなるよ」
「やっぱりそうなんだね」
「そう、そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「そのこうやくんのグッズもあったらね」
「買うんだ」
「そうするよ」
「サラさんにも大学のお知り合いの人達にも」
「買って帰るよ、ご近所にもね」
「日笠さんにもね」
「勿論だよ」
 ここでも気付かないまま応えた先生でした。
「是非ね」
「いいことだよ、それでね」
「それで?」
「いつも通り日笠さんには他の人より一品多くね」
「またそう言うんだ」
「その品もいいものをね」
 他の人達よりもです。
「忘れないでね」
「皆そう言うしね」
「是非だよ」
「あと先生、一つ気になったことですが」
 今度はトミーが先生にお話しました。
「明日の朝は早いですよね」
「うん、お寺の中にいるからね」
「そうですよね」
「もう日の出位にはね」
「起きるんですね」
「そして御飯を食べてね」
「お寺の中を回るんですね」
 先生にこのことも聞いたトミーでした。
「そうなりますね」
「そうだよ」
 まさにと答えた先生でした。
「明日もね」
「うん、それじゃあね」
「明日も楽しむ為にね」
「今は楽しく食べてお風呂に入って」
「そうして寝てね」
「また明日もね」
「そうしようね、しかしここでもね」
 今も般若湯を飲みつつお話する先生でした。
「梅干しとお酒いや般若湯は合うね」
「今お酒って言ったし」
「ちゃんと般若湯って言わないとね」
「ここはお寺なんだから」
「言い間違えたら駄目だよ」
「いや、うっかりしたよ」
 先生は動物の皆の突っ込みに笑って応えました。
「じゃあね」
「そう、般若湯飲もうね」
「楽しくね」
「和歌山らしく梅干しも食べて」
「そうしようね」
「是非ね、しかしね」
 飲みつつさらにお話する先生でした。
「本当にこの組み合わせはいいね」
「すっきりしてるね」
 王子もその組み合わせを楽しみつつ言います。
「梅干しと般若湯は」
「そうだね、王子は間違えなかったしね」
「先生を見たからね」
 先にうっかりした先生をというのです。
「だからね」
「間違えななかったんだね」
「そうだよ」
 笑って先生にお話しました。
「そこはね」
「成程ね」
「それでまた言うけれど」
「うん、梅干しはだね」
「本当にいい食べものだよ」
「お酒に合っていてね」
「しかもだよ」
 梅干しを一粒食べてそれからまた般若湯を飲んで楽しみつつまた言った先生でした。お顔は赤くなっています。
「身体にもいいしね」
「そうだよね」
「そう、身体に色々いいものがあるんだ」
 梅干しにはというです。
「だからね」
「この高野山でもだね」
「飲んで楽しもうね」
 こうお話しながらです、先生達は沢山飲んで甘いものも楽しんでからでした。からでした。そうしてです。
 お風呂に入って身も心もすっきりしてでした、ゆっくりと寝てです。
 また次の日も高野山の中を見て回ることになりましたが朝御飯の玄米のお粥と沢庵にはです、動物の皆は少し驚きました。
「これはね」
「いや、お寺らしいわ」
「何ていうかね」
「お粥にお漬けもので」
「しかもね」
「お米が玄米なのもね」
「そうだね、けれどね」
 ここでまたお話した先生でした。
「昔から禅宗やこうした修行に重点を置いているお寺ではね」
「こうした朝御飯なんだ」
「玄米のお粥とお漬けもの」
「毎朝こうしたものを食べてるのね」
「そうなのね」
「そうだよ、あとお供えものはね」
 信者の人達から頂いたものはといいますと。
「全部食べるんだよ」
「全部?」
「全部食べるの」
「それこそ何でも」
「食べないといけないの」
「そうだよ、絶対に残したらいけないんだ」
 頂いたものはというのです。
「もう何があってもね」
「どんなものでもなの」
「残さず食べないといけない」
「好き嫌いとか味とか量に関わらず」
「何があっても」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「このことは守らないといけないんだ」
「厳しいね」
「そうだよね」
「そうしたところも」
「どうにもね」
「そうだね、ただ食べられることはね」
 このことはともお話した先生でした。
「それだけで有り難いよね」
「うん、確かにね」
「そう言われるとね」
「餓えるよりずっといいね」
「食べられる方が」
「そう思うと感謝しないといけないね」
 どうしてもともお話した先生でした。
「やっぱりね」
「確かにね」
「それはその通りよ」
「餓えたらどれだけ悲しいか」
「食べものがないことは」
「そう思うと食べられることは」
 まさにというのです。
「幸せの原点にあるよ」
「そうだね」
「いや、贅沢を言ったらいけないわね」
「そう思うとお寺の考えは正しいよ」
「残さず食べる」
「そのことはね」
「そうしたこともお寺では教えられているんだ」
 先生はさらにお話しました。
「そしてこれも仏教の教えの一つだよ」
「残さず食べる」
「頂いたお供えのものは」
「何があっても」
「そうしないとなのね」
「駄目だよ、では今からね」
 冷たい空気のお寺の中に朝日が差し込んでいます、先生はその中で皆と一緒に玄米のお粥と沢庵を食べました。
 そうして皆で今日もお寺の中を見て回るのですが今回回った場所はといいますと。
 高野山の中でもとりわけ立派な趣の木造の建物でした、そこはといいますと。
「ここが金剛峯寺だよ」
「ええと、金剛峯寺っていうと」
「高野山のことじゃない」
「ってことは高野山の中心?」
「そう呼ぶべき場所なの?」
「そうだよ、真言宗の総本山なんだ」
 この建物こそがというのです。
「ここはね」
「そうなんだ」
「ここがなんだね」
「まさに空海さんが開いた高野山の中心で」
「そう言ってもいい場所なんだ」
「昨日回った場所も大事だったけれど」
「ここもなんだ」
「そうなんだ、今日は最初からここに来るつもりだったんだ」
 まさにというのです。
「僕もね」
「それで昨日はだね」
「色々な場所を巡ったけれど」
「ここはあえてなのね」
「今日の為に巡らなかったの」
「そうだよ」
 その通りとお話した先生でした。
 そうしてです、皆で中に入りますが。
 ある位牌を見てです、トミーが驚いて言いました。
「あの、この位牌は」
「あれっ、随分多いね」
「何この位牌の数」
「物凄い数になってるけれど」
「この位牌は何かな」
 動物の皆もその沢山の位牌に目を瞠りました、すると先生がすぐに皆にお話しました。
「これは日本の歴代の天皇陛下の位牌だよ」
「代々って」
「あの物凄く長い歴史の皇室の?」
「日本の代々の天皇陛下の」
「位牌なんだ」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「この位牌はどれもね」
「あの、日本の天皇陛下ってね」
 そのお話を聞いて最初に言ったのはガブガブでした。
「百数十代だよね」
「二千六百年以上の歴史の中でね」
 ダブダブは日本の皇紀からお話します。
「百二十八代だったかしら」
「そんな物凄い数の位牌を置いてるの」
 ポリネシアもびっくりです。
「これはまた」
「いや、空海さんって平安時代の人だから」
 このことを指摘したのはトートーでした。
「その頃からの天皇陛下じゃ」
「それでも普通に千三百年位の歴史あるよ」
 こう言ったのはホワイティです。
「空海さんの頃からにしても」
「どっちにしても凄い数だね」
「そうよね」 
 チープサイドの家族も思うことでした。
「平安時代からにしても」
「長い歴史だから」
「そんな長い頃からの位牌って」
「想像を絶するよ」
 オシツオサレツの二つの頭も驚いていますy。
「お一人も欠けているとは思えないし」
「何しろ帝だしね」
「ううん、歴代の天皇陛下の位牌まであるなんて」
 チーチーも唸っています。
「高野山の凄さがまたわかったよ」
「まさか神武天皇の位牌もあるとか?」
 ひょっとしてと言いつつ思う老馬でした。
「最初の」
「ううん、考えば考える程ね」
 ジップが考えることはといいますと。
「高野山は凄い場所だよ」
「というか流石は護国のお寺だね」
「都の裏鬼門を護る」
「そうした場所だけあるね」
「天皇陛下の位牌まであるなんて」
「そうだね、あとここは高野山の歴代の管長さんの位牌もあってね」
 先生はさらにお話しました。
「日本の歴史の悲劇の舞台もあるんだ」
「悲劇?」
「悲劇っていうと」
「何処でどういったことがあったの?」
「一体」
「そこに今から案内するよ」
 こうお話してです、先生は皆をこの中にある別殿へと案内しました。その別殿の襖に柳と鷺が描かれたお部屋に皆を案内してです。先生は悲しそうな残念そうなお顔になって一緒にいる皆にお話しました。
「このお部屋は柳の間といってね」
「奇麗な襖だね」
 王子はその柳と鷺の襖を見て言いました。
「芸術的価値が高そうだね」
「そうだね、けれどね」
「このお部屋でだね」
「悲劇があったんだよ」
「そうだよね」
「皆は豊臣秀吉さんを知ってるね」
 まずはこの人からお話した先生でした。
「この和歌山でもお話したし」
「そうだったね」
「太閤さんだよね」
「こちらにも来られたっていう」
「大阪城のあの人だよね」
「この人の甥御さんで秀次さんという人がいたんだ」
 次にこの人のお話をしました。
「秀吉さんはお子さんがいなくてね」
「あっ、随分歳を取ってからだね」
「秀頼さんが出来たんだよね」
「そうだったね」
「ずっと子供が出来なくて」
「そうだよ、とにかく長い間お子さんが出来なくてね」
 そうしてというのです。
「秀次さんを跡継ぎにしようとしたんだけれど」
「それでなの?」
「それから秀頼さんが生まれたの」
「そうだったのね」
「秀次さんを跡継ぎにしてから」
「それで秀次さんが邪魔になってね」
 やっぱり悲しいお顔でお話する先生でした。
「この高野山に追いやってね」
「ううん、何かね」
「聞いた記憶があるけれど」
「ひょっとして」
「このお部屋で」
「そうなんだ、ここでね」
 まさにとお話する先生でした。
「秀吉さんに切腹させられたんだ」
「このお部屋で」
「そうさせられたんだ」
「叔父さんの秀吉さんに」
「そうさせられたの」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのです。
「秀次さんの奥さんやお子さん達も処刑されたんだ」
「酷いね」
「あまりにもね」
「秀吉さんそうしたことをしたんだ」
「甥御さんもそのご家族も」
「皆そうしたんだ」
「晩年の秀吉さんはそうしたことが多いんだ」
 残酷なお話がというのです。
「どうも天下人になってお歳を経てからね」
「確かあれですよね」
 トミーが言ってきました。
「弟の秀長さんがお亡くなりになって」
「そうなんだ、ずっと秀吉さんを助けて何かあると止めてきた人がね」
「いなくなってなんだ」
「秀吉さんを止める人がいなくなって」 
 そうなってしまってというのです。
「そうした行動も多くなったみたいだね」
「そうだったんだ」
「思えば悲しいことだね」
 こうも言った先生でした、悲しいお顔のまま。
「折角天下人になってもね」
「弟さんに先立たれて」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「甥御さんにもそうしてね」
「お子さんの秀頼さんもだね」
「うん、秀吉さんが亡くなった後でね」
「大坂の陣でね」
「自決してしまうんだ」
 この戦に敗れてです。
「生き延びたって説もあるけれど」
「そうなってしまって」
「そう、結局豊臣家の天下はね」
「秀吉さん一代だったんだ」
「そうして終わってしまったんだ」
 折角天下人になったのにというのです。
「残念ながらね」
「そうなんだね、けれどね」
「自業自得かな」
「そうも思うよ。自分の甥御さんとその奥さんとお子さん達も処刑するとか」
 それこそと言う王子でした。
「酷いことをしたらね」
「跡を継ごうとした秀頼さんが滅ぶこともだね」
「お子さんが死んだのは悲しいことだけれど」
「それでもだね」
「因果応報かな」
 どうしてもと言う先生でした。
「本当にね」
「そうした考えもあるかな」
「秀頼さんには生き延びて欲しいけれど」
 先生がお話した通りにです。
「けれどね」
「秀吉さんご自身はだね」
「天下を失ったことはね」
「自業自得じゃないかな」
 どうしてもというのです。
「やっぱりね」
「ううん、そうなるかもね」
 先生も否定出来ませんでした。
「酷いことをしたらね」
「報いがあるよ」
 どうしてもというのです。
「それが因果応報だよ」
「仏教の教えというかね」
 因果応報、それはといいますと。
「やっぱり人間悪いことをしたらね」
「報いがあるよね」
「そうだけれどね」
「豊臣家の天下がなくなったことはね」
「秀吉さん自身のせいなんだね」
「人間酷いことをしたら」
 それこそというのです。
「本当に報いがあるよ」
「それは事実だよ」
「しかし。秀吉さんはどうしたんでしょうか」
 トミーも襖の間を見つつ悲しいお顔で思いました。
「最初はそんなことする人じゃなかったですよね」
「うん、むしろ無闇な殺生をしないね」
「そのお人柄で人気があったんですよね」
「天下無双の人たらしと呼ばれた位のね」
 そこまでの人だったというのです。
「そうした人だったんだ」
「けれどそうした人が」
「うん、天下人になった晩年はね」
 それまでの天下無双の人たらしとまで言われたお人柄の人がです。誰からも親しまれ魅了された程の。
「そうしたこともする様になったんだ」
「弟さんがいなくなって」
「その時からね」
「弟さんの存在が大きかったんですね」
「そうなんだ、秀吉さんにとってはね」
 まさにというのです。
「そこまでの人だったんだけれどね」
「おられなくなって」
「そうしたこともする様になったんだ」
「そうですか」
「そして王子の言う通りね」
「豊臣家もですね」
「天下人でなくなって滅んだんだ」
 大坂の陣においてです。
「そうなってしまったんだ」
「そうですか」
「若しも秀次さんが生きていたら」
「まだ幼い秀頼さんの他にですね」
「豊臣家は残っていたかもね」
「天下人にもですか」
「なり続けていたかも知れないね」
 こうもお話した先生でした。
「ひょっとしたらだけれど」
「そう思うとここで、ですね」
「豊臣家が滅んだと言っていいかも知れないね」
「そうですか」
「その悲劇があった部屋なんだ」
「そうした場所も高野山にはあるんですね」
「長い歴史の中でね」
 この高野山のです。
「そうしたこともあったんだよ」
「修行やそうしたことばかりじゃないんですね」
「世の常だね、謎もあってね」
「信長さんのお墓みたいに」
「そうしたこともあったんだよ」
「そうですか」
「うん、では悲しいお話はこれで終わって」
 先生も悲しいお話は苦手です、それでお話を終わらせたのです。もう目は秀次さんが切腹したお部屋から離れています。
「今度はお茶を飲もうか」
「ああ、寒いしね」
「朝だし余計に冷えるよね」
「だからだね」
「ここは」
「そう、この別殿ではお茶を振舞ってくれるし」
 それでというのです。
「ここはね」
「お茶をご馳走になって」
「そうしてだね」
「あったまって」
「それで美味しい思いもする」
「そうしようっていうんだね」
「そうしようね、あとお願いをしてね」
 さらにお話をする先生でした。
「十時になったらね」
「ティータイムだね」
「いつもの」
「それを楽しむんだね」
「そうしよう、いつも通りにね」
 午前のティータイムをというのです。
「そうしようね」
「いいね、じゃあね」
「まずはお茶を飲もう」
「そうしてね」
「悲しい思いを忘れようね」
「そうしようね、悲しい思いばかりだとね」
 それこそというのです。
「心が塞ぎ込んでしまうしね」
「シェークスピアも悲劇ばかり観てるとね」
「悲しい気持ちになるし」
「ハムレットとかロミオとジュリエットとか」
「そうした作品ばかりだと」
「だからね」
 それでというのです。
「悲しい気持ちは切り替えて」
「お茶を飲んで」
「そうしてまた他の場所を巡って」
「学んでいってね」
「そうしていこうね」
「高野山は本当に色々な場所があるから」
 それ故にというのです。
「そうしていこうね」
「うん、じゃあね」
「さらに観ていこうね」
「そして気分転換にね」
「今はお茶を飲もうね」
 動物の皆も応えてです、そのうえで実際に皆でお茶を頂いて楽しく飲んででした。その後で再びです。
 皆で金剛峯寺の中を見て回ります、すると最初に王子が気付きました。
「あれっ、屋根の上にね」
「桶があるね」
「うん、あれは何かな」
「防火の桶だよ」
 先生は王子にすぐに答えました。
「何かあったその時の為のね」
「水を入れてだね」
「火を消す為のね」
 まさにその為のというのです。
「桶だよ」
「そうだったんだ」
「そう、ただね」
「ただ?」
「あの桶があるのは今はここだけなんだ」
 先生はこうもお話しました。
「この高野山でね」
「あっ、そうなんだ」
「今はもうね」
「ああ、消火器とかあるしね」
「それにね」
「消防署もあるし」
「流石に大きな火事だとわからないけれど」
 それでもというのです。
「そうしたことも整ってるからね」
「だからだね」
「もう桶よりもね」
「消火器や最悪消防署の人達がだね」
「高野山の中にも消火担当の人達もおられるだろうし」
「あっ、そういえば」
 王子は先生の今のお話で思い出したことがありました、その思い出したことは何かといいますと。
「天理教の神殿もね」
「奈良のだね」
「すぐそこにね」
 神殿のです。
「消防隊が控えてるよ」
「天理教の人達のね」
「もうすぐに動ける様になってるね」
「そうしたものも必要だからね」
 宗教施設にもです。
「だからね」
「そうした用意をしておいて」
「いつも万が一に備えているんだ」
「成程ね」
「そうしたものが整っているからね、今は」
 あらためてお話をした先生でした。
「だからだよ」
「もう桶はだね」
「ここだけにしかなくなっているんだ」
「成程ね」
 王子も頷きました、そうしてです。
 皆は金剛峯寺のお庭にも向かいました、そうしていると十時になって遂に先生のお楽しみの時間となりました。








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