『ドリトル先生と奈良の三山』




                第十二幕  また来たいと

 先生達は最後の一日も奈良を巡りました、今度は興福寺に来ましたがその興福寺の中においてです。先生は皆にこうお話しました。
「昔このお寺は凄い力があったんだよ」
「東大寺みたいに?」
「そうだったの?」
「いや、ずっとかな」
 東大寺よりもというのです。
「力があったかな」
「あのとても大きなお寺よりもなの」
「力があったんだ」
「あんな大仏さんがあるお寺よりも」
「ずっとだったの」
「そう、室町幕府の頃はね」
 江戸時代の前の幕府です、足利尊氏さんが開いています。
「奈良県、大和一国の守護だったしね」
「お寺なのに?」
「お大名さんみたいに」
「当時は守護だったよね」
「大名のお家みたいにそうしていたの」
「そうだよ、お寺だったけれど」
 それでもだったというのです。
「元から力があってね」
「大和一国を治めていた」
「他にも大きなお寺があったのに」
「それに神社だってあったのに」
「お侍さん達もいたのに」
「そうだったんだ」
 まさにというのです。
「百万石と呼ばれていたけれどね」
「凄いね」
「百万石なんて」
「日本じゃ凄い石高よね」
「一口に百万石といっても」
「江戸時代でも相当なものだったよ」
 実際にとです、先生は皆にお話しました。
「百万石になると」
「大名さんだともう天下一?」
「それだけ?」
「もう凄い力がある」
「そんなお大名さんだったのね」
「そう、だから当時の興福寺はね」
 その歴史を感じさせる境内においてお話するのでした。
「もう凄い力があったんだ」
「そうだったのね」
「下手なお大名さんよりも強い」
「そんな感じだったのかしら」
「僧兵も沢山いてね」
 武器を持って戦うお坊さん達のことです、昔はそうしたお坊さん達もいてお寺を守ったりしていたのです。
「それでね」
「戦になっても強かった」
「そうだったの」
「そうだったんだ」
 実際にというのです。
「このお寺はね」
「ううん、凄いお寺だったのね」
「そうだったのね」
「このお寺って」
「そんな歴史があるの」
「そう、そして持っていた書物とかも」
 こちらもというのです。
「かなりあったんだよ」
「力のあるお寺だったから」
「それだけに」
「そうだったんだ、ここはね」
 まさにというのです。
「それだけのお寺だったんだ」
「お経とかも沢山あったのね」
「とても価値のある」
「そうだったの」
「うん、お経を詠んでいると」
 先生はこちらのお話もしました。
「やっぱり心が清らかになるよ」
「聖書と一緒だね」
 ガブガブは先生のお話を聞いてこう言いました。
「それは」
「そうだね、読むと心が奇麗になるなら」
「有り難い教えだから」
 オシツオサレツも二つの頭でお話します。
「それならね」
「本当に同じだね」
「仏教徒の人達にとってお経は聖書なんだね」
 トートーはこう考えました。
「そして仏典も」
「キリスト教の本はとても多いけれど」
 聖書だけでなくとです、ダブダブは言いました。
「仏教もなのね」
「お経ってかなり多いみたいだね」
「お話を聞いてるとね」
 チープサイドの家族は先生のお話を思い出しました。
「相当な数があって」
「一つ一つ学んで覚えてくものみたいだね」
「そのお経も一杯あったのね、ここには」
 ポリネシアは境内をじっくりと見回しています。
「そうだったのね」
「ただ力があるだけじゃなくて」
 ホワイティも言います。
「学問も出来た場所なのね」
「そう思うと先生にはぴったりの場所かな」
 こう言ったのは老馬です。
「じっくりと学問が出来るのなら」
「先生は権力とかには興味がないけれどね」
 ジップはまず力のことからお話しました。
「学問は大好きだからね」
「うん、学問はね」 
 まさにと言う先生でした。
「仏教も凄く面白くて楽しいからね」
「だからだね」
「先生にしてもなのね」
「この興福寺は実に興味深い」
「そうした場所なの」
「そうだよ、仏教学はね」
 それはといいますと。
「素晴らしい学問の一つでね」
「学んでいてだね」
「先生としても楽しい」
「そうなの」
「とてもね。僕はキリスト教徒だけれど」
 そして神学者でもありそちらの博士号も持っています、尚且つ国教会の聖職者の資格も持っています。
「仏教もね」
「好きなのね」
「そうなのね」
「そうなんだ、そちらの論文も書いているしね」
 仏教のものもというのです。
「それも楽しくね」
「そうなの」
「それじゃあだね」
「興福寺の経典にも興味がある」
「そうだね」
「興味があるというか大事に保存してもらってね」
 そしてというのです。
「是非ね」
「残しておいて欲しい」
「貴重な文献だから」
「そうして欲しいの」
「うん、どんなことが書かれているかは他の文献で知ることが出来るし」
 そして読めるというのです。
「そこはいいんだ」
「そうなの」
「別に」
「読ませてもらいたいとは思うけれど」
 直接です。
「けれどね」
「それが出来ないなら」
「それならなのね」
「文献とかで読ませてもらう」
「あとコピーとか」
「コピーじゃなくて模写だね」
 それになるというのです。
「写経とかでの写しだね」
「そっちはいいの」
「そうなの」
「それじゃあ欲しくもないのね」
「そうなのね」
「欲しいとは思わないよ」
 先生は無欲さも出しました。
「別にね」
「成程ね」
「その辺りも先生だね」
「先生らしいね」
「無欲なのね」
「うん、読みたいけれど」
 それでもというのです。
「欲しいかというと」
「そこまではいかない」
「オリジナルを読めなくてもいい」
「読めたらいいけれど」
「それでもなのね」
「うん、この興福寺に沢山あるお経もね」
 先生はまたお話しました。
「模写を読ませてもらおうかな」
「これからね」
「じゃあそれからだね」
「今度は薬師寺ね」
「そこに行くのね」
「そうするよ」
 こうお話してそのお経の模写をお寺の人に読ませてもらってからです、先生は今度は薬師寺に向かいました。
 その薬師寺の五重塔を見てです、皆はまた言いました。
「この五重の塔ってね」
「格式のあるお寺によくあるね」
「確かお釈迦様のお骨が収められているのね」
「仏舎利が」
「そう言われているね、それで五重の塔の中でもね」
 先生はその薬師寺の五重の塔を見つつ先生にお話をしました。
「この薬師寺の塔は有名なんだ」
「そうなのね」
「何か見ていたら目立つね」
「格がある?」
「そんな風に見えるね」
「そう、歴史があって」
 そしてというのです。
「五重の塔の中でもね」
「実際になのね」
「格式がある方なのね」
「僕達が思った通り」
「うん、本堂もね」 
 古い昔ながらの日本のお寺そのものの本堂です、屋根の形もその色もまるで平安時代からある様です。
「こうしてね」
「歴史あるね」
「見ているとそれだけでうっとりするわ」
「平安時代の頃に来たみたい」
「奈良時代かしら」
「僕もね」
 実際にと言う先生でした。
「タイムスリップしたみたいだよ」
「その頃の日本にね」
「何かここにいるとね」
「そう思うわよね」
「全くだよ」
 またお話した先生でした。
「ここにも来てよかったよ」
「そうよね」
「歴史も感じ取れて」
「いい場所ね」
「興福寺や薬師寺のことも」
 今日巡ったお寺のこともというのです。
「いずれね」
「論文にだね」
「書くのね」
「そのつもりなのね」
「そうしていきたいね」
 こう皆にお話するのでした。
「こちらも」
「ううん、本当にここに来てよかったね」
「先生にとってね」
「興福寺も薬師寺も」
「そうよね」
「今回学会と論文のフィールドワークで来たけれど」
 しみじみと思うのでした。
「よかったよ」
「そうだよね」
「とても沢山のことを学べたね」
「神道も仏教も」
「歴史も万葉集もね」
「そして三山のことも」
「全部がね」
 まさにというのです。
「本当によかったよ」
「そうだよね」
「先生にとってね」
「奈良に来たことは大きな実りだね」
「それになったわね」
「この実りをね」
 是非にというのです。
「論文、そして今後の学問にもね」
「役立てていく」
「そうしていくのね」
「是非ね、それとね」
 このお話をすることも忘れない先生でした。
「トミーと王子、サラ達へのお土産も買おう」
「そして日笠さんにも」
「買って帰ろうね」
「親しい人達にも」
「皆にね」
「そうしようね」
「そうだね、日笠さんだね」
 この人のことを思い出したみたいに応えた先生でした。
「あの人にも」
「忘れないでね」
「そこは絶対にだよ」
「忘れたら駄目だよ」
「忘れてた?」
「学問のことを考えていたら」 
 ついついというのです。
「忘れかけていたよ」
「危ないわね」
「先生はそうだから」
「むしろトミーや王子よりも忘れたらいけないのに」
「サラさんよりもよ」
「あれっ、三人よりもなんだ」
 先生は皆の言葉にわからないといったお顔で返しました。
「日笠さんは」
「そうだよ」
「あの人のことはね」
「ファーストよ」
「うん、レディーファーストだね」
 ここでこう言った先生でした。
「女性は尊重しないとね」
「そこでまたそう言うし」
「アウトもいいところ」
「相変わらずだけれど」
「先生はねえ」
「何でそう言うの?」
「万葉集や源氏物語にも詳しいのに」
 嘆くばかりの皆でした、薬師寺の五重の塔を見つつ。このことは本当にどうしてもでした。それでまた言うのでした。
「万葉集にもよく書かれているのに」
「源氏の君はいつも苦しんでいたのに」
「それはわかるのに」
「それでどうしてね」
「ご自身のことは」
「こうなのかしら」
「僕自身っていうけれど」
 やっぱりわからないという感じで返す先生でした。
「どういうことかな」
「とにかく日笠さんにもお土産買うのよ」
「それも他の人よりも沢山でかつ豪華に」
「そうするのよ」
「絶対に」
「どうしてかわからないけれど」
 それでもと返した先生でした。
「そうするよ」
「それじゃあね」
「お土産買う時に僕達また言うから」
「しっかりしなさいね」
「頑張ってね」
「それじゃあね」
 先生は皆の言葉に頷きました、そしてです。
 薬師寺から奈良市の商店街に行ってそこでお土産を買います、勿論トミーや王子、サラの分も買ってです。
 日笠さんの分も買いました、その量は。
「言われた通りにね」
「それでいいんだよ」
「それだけ買ってね」
「これならいいわ」
 皆も太鼓判を押します、日笠さんへのお土産を見て。
「合格だよ」
「じゃあこれは全部日笠さん」
「トミー、王子、サラさんの分もよし」
「他の皆の分もね」
「これでいいね。ホテルもチェックアウトしたし」
 こちらも終えた先生でした。
「それじゃあね」
「うん、お土産も持って」
「神戸に帰りましょう」
「今からね」
 こうしてです、先生と動物の皆は神戸への帰路につきました、そうして八条鉄道の奈良駅に入ったのですが。
 そこで、です。電車を待っているとホームに白鹿が来て言ってきました。
「またいらして下さい」
「それじゃあね」
「はい、またお会い出来る時を楽しみにしています」
 先生に笑顔で言うのでした。
「ですから」
「うん、またね」
「奈良に来られますね」
「そうするよ」
 白鹿に笑顔で約束しました。
「絶対にね」
「それでは」
「奈良はいいところだしね」
「そう言って頂くと余計に嬉しいです」
 見れば白鹿は笑顔になっています、そのうえでの返事でした。
「奈良は確かにいい場所です」
「歴史も文学も不思議もあってね」
「気候もいいですし」
「そう、何度も思って言ったけれど」
「日本のはじまりの場所になるだけはですね」
「あるね」
 白鹿にもこう言うのでした。
「本当に」
「そうですね」
「うん、これだけいい条件が揃っている場所だからね」
「まさに国のまほろばです」
「そうした場所だね」
「奈良があればこそです」
 まさにというのです。
「今の日本があると言っても過言ではないです」
「はじまりの場所だからだね」
「そうです」
 まさにというのです。
「この国、今は県ですが」
「奈良あればこそ」
「日本があります」
「そう思うと余計にだよ」
「またですね」
「奈良に来たくなったよ」
 是非にと言うのでした。
「だからまたね」
「はい、お待ちしています」
「それじゃあね」
 先生は白鹿と笑顔でお別れしてです、そしてです。
 動物の皆と一緒に電車に乗りました、最後に車窓から白鹿に手を振りましたが。
 ここで、です。先生は白鹿が右の前足を振って先生の手を振るのに応えるのを見てです。こんなことを言いました。
「前足を器用に使っているね」
「そうだよね」
「僕達もああしたこと出来るけれど」
「白鹿さんもっと器用だね」
「器用にそうしてるね」
「そうだね、本当にね」
 またお話した先生でした。
「器用だね、ああして見送ってもらったし」
「いい旅だったわね」
「今回の奈良の旅も」
「学会もフィールドワークも」
「そうだったよ、奈良の色々な場所を巡ることが出来てね」
 本当に色々な場所を巡れたことを思い出して笑顔になっている先生でした。
「よかったよ」
「そうだったわね」
「僕達も先生と一緒にいて色々な場所巡ったり」
「いい旅だったよ」
「美味しいものを沢山食べられたし」
「奈良時代のお料理に西瓜にお素麺に大和牛にね」
「美味しいものも一杯あったわ」
 このことも喜ぶ皆でした。
「お酒も美味しかったし」
「そうそう、日本酒がね」
「昔のお酒も美味しかったし」
「濁ったお酒もね」
「そうだったね、よく飲みもしたし」
 このことについてもお話する先生でした。
「僕も満足しているよ」
「じゃあね」
「論文を書いてね」
「そうして皆にお土産を渡しましょう」
「特に日笠さんに」
「まずはよ」
「それはいいね」
「何かすぐにだよね」
 先生は皆の言葉を聞いて言いました。
「皆日笠さんの名前出すね」
「当然だよ」
「出さないでいられないよ」
「先生のことが気が気でないから」
「だからね」
「どうしてかな、考えてもね」
 先生にしてはです、電車はそんなことをお話していながら奈良から大阪に向かっています。大阪から神戸に行くのです。
「僕にはわからないよ」
「そこが先生の困ったところだよ」
「いつも思うけれど」
「先生の場合はね」
「何かと」
「そうなんだ、まあ皆がそう言うなら」
 先生も頷きはします。
「まずは日笠さんに贈らせてもらうね」
「そうしてね」
「先生ご自身の手でね」
「日笠さんへのお土産を全部よ」
「渡してね」
「うん、置きものとかも買ったし」
 それにです。
「お菓子に蘇だってね」
「その蘇何気に大きいんじゃ」
「そうだよね」
「昔あってずっとなかったし」
「奈良の名産だからね」
「凄くいいよ」
「そうだね、珍しいものだからね」
 先生もそう思ってだったのです。
「これはと思ってね」
「買っておいて正解よ」
「トミーと王子には買わなかったけれど」
「サラさんにもね」
「けれどこれでいいんだよ」
「日笠さんにだけ買って」
「公平にすべきじゃないかな」
 ここでこんなことも言った先生でした。
「そうも思ったけれど」
「だから公平とかじゃなくて」
「そうした問題じゃないの」
「こうしたことについては」
「公平とはまた別の問題なんだよ」
「そうなのかな。人は差別したらいけないよ」
 先生は持ち前の平等主義も出しました、先生の素晴らしい美徳のうちの一つであり皆もそれは認めていますが。
 しかしです、それでもなのです。
「こうした時は違うの」
「どうにもね」
「先生はわかっていないけれど」
「そうした問題じゃないのよ」
「どうしてもね」
「それがどうもわからないんだけれどね」
 あくまで平等主義第一で気付いていない先生です。
「僕には」
「まあ言っても今はわからないね」
「先生の場合は」
「けれどここは私達の言う通りにして」
「すぐに神戸に戻られるけれど」
「特急に乗ってるしね」
 だから余計に速いです、奈良から神戸までの特急に乗っているので本当にすぐに着く様になっているのです。
「すぐに着くから」
「じゃあいいわね」
「神戸に着いたら日笠さんのお家に行くの」
「その足でね」
「じゃあメールで日笠さんに連絡するよ」
 携帯を取り出した先生でした。
「これからね」
「うん、そうしてね」
「神戸に着いたらまた連絡するってね」
「お土産を贈りたいからお邪魔したい」
「そうね」
「そうするね」
 先生も頷いてです、電車の旅に本格的に入りました。皆でサンドイッチとフルーツと赤ワインのお弁当を楽しみながらです。
 そのうえで神戸に戻りました、そうして日笠さんにまた連絡をしますと。
「すぐに返信が来たよ」
「よし、いい感じだね」
「流石日笠さんね」
「ナイス反応」
「じゃあ日笠さんのお家に行って」
「そうしてね」
「うん、お邪魔してね」
 そしてと答えた先生でした。
「後はね」
「お土産を渡そう」
「全部ね」
「そうするんだよ」
「絶対に」
「わかったよ」
「荷物は僕が持つから」
 老馬は自分の背中を見つつ先生に言ってきました。
「背中に置いて」
「僕も持つよ」
「だから多い荷物でも問題ないからね」
 オシツオサレツも二つの頭で先生に言います。
「だからね」
「すぐに行こう」
「僕の背中も使っていいよ」 
 ガブガブも言ってきます。
「先生が重いならね」
「こうしたことも考えておいたから、僕達で」
 ジップも背中を見せています、自分の背中も使ってというのです。
「日笠さんのお家に行こうね」
「先生の助けになることなら何でもするからね」
 チーチーは手に持つと言っています。
「僕達が傍にいる限り」
「過保護かしらとも思うけれど」
 ちょっと笑って言ったダブダブでした。
「先生放って置けないのよね」
「こうしたことは特にね」
「先生は立派な紳士だけれど」
 チープサイドの家族もこうお話をします。
「苦手なことは全然駄目だから」
「僕達でカバーしてあげないとって思って」
「先生って変なことで頼りないところがあるのよね」
 ポリネシアの言葉と目は困った様でそれでいてとても暖かいものでした。
「だから余計に魅力的で」
「助けてあげようって思うんだよね」 
 トートーの言葉と目もとても暖かいです。
「僕達の方がずっと助けられているけれど」
「だから先生いいね」
 最後にホワイティが先生に言いました。
「今から日笠さんのところに行きましょう」
「皆どうして助けてくれるのか今もわからないけれど」
 本当にどうしてもです、先生の場合は。
「今から行こうね」
「そうしよう」
「いざ日笠さんのところに」
「そうしましょう」
「是非ね」
 先生も応えてでした、そのうえで。
 実際に日笠さんのお家に向かってお家の前に到着するとチャイムを鳴らしました、そして日笠さんにお土産を全部渡しますと。尚先生は自分が持てる荷物は全部持てるだけ持って皆に負担はかけまいとしました。
 日笠さんは満面の笑顔になってです、先生にお礼を言いました。
「どれも味わってずっと大事にさせてもらいます」
「そうしてくれるんですね」
「はい」
 その笑顔でのお返事でした。
「絶対に」
「それは何よりです」
「先生からのプレゼントですから」
「いえ、それは」
「プレゼントだよね、先生」
 皆はお土産と言おうとした先生にすかさず言いました。
「そうだよね」
「違うの?」
「お土産じゃないよね」
「プレゼントだよね」
「あれっ、それは」
 正直な先生はお土産と言おうとします、ですが周りの皆が許しません。
「プレゼントだよね」
「違うって言わないでね」
「お土産じゃないから」
「そこはしっかりね」
「認めてね」
「じゃあ」
「皆何をお話してるのかわかりませんが」 
 日笠さんはまだ動物の言葉を完全に理解してはいません、それが出来ているのは先生以外にはトミーと王子だけです。
「ですがプレゼントですね」
「そうなるでしょうか」
 動物の皆に言われてこう返した先生でした。
「それでは」
「有り難うございます、本当に」
「いえ、お礼は」
「本当に心からです」
 感謝しているというのです。
「どのお土産も美味しそうですし」
「お菓子も蘇もですね」
「本当にどれも」
 日笠さんは笑顔のまま言います。
「素敵ですね」
「そう言って頂けますと僕も」
「嬉しいですか」
「はい、ではまた何処かに行くことがあれば」
 先生にとってはよくあることです。
「またです」
「こうしてですか」
「贈らせて頂きます」
「ではその時を」
「楽しみにですか」
「させて頂きます、そして私も」
 日笠さんにしてもというのです。
「是非です」
「出張や旅行の時はですか」
「先生にプレゼントをさせて頂きます」
「有り難いですね」
「お誕生日にも」
 日笠さんから言ってきました。
「そうさせて頂きます」
「僕の誕生日にですか」
「そうです」
 まさにその日にというのです。
「そうさせて頂きます」
「そうですか、では」
「はい、その時は」
「宜しくお願いします」
「それでなのですが」
 また日笠さんから言ってきました。
「申し訳ないですが今から兄夫婦のところに呼ばれていまして」
「そうなのですか」
「プレゼントを頂きましたが」
 先生に申し訳なさそうというか残念そうにお話します。
「これで、です」
「今日はですね」
「お別れになりますね」
「そうですか、では」
「はい、また」
「学園で」
 こうお話してそうしてでした、日笠さんは先生からのお土産を全部満面の笑顔で受け取ってお部屋を後にしました。
 そしてです、先生はトミーと王子にもです。お土産を渡してまたお仕事で日本に来たサラにもでした。
 お土産を贈りました、そうして言うのでした。
「どうかな」
「面白いお菓子ばかりね」
 サラは先生に笑顔で応えました、サラは今は先生のお家にお邪魔していてちゃぶ台でお抹茶と和菓子の和風ティーセットを楽しんでいます。
「どれも」
「これ全部奈良のお菓子だから」
「日本のね」
「そうなんだ」
「イギリスに帰ってから家族で食べるわね」
「そうしてね」
「それとだけれど」
 サラはティーセットの三色団子も食べています、上のお皿にそれがあって真ん中のお皿にはお饅頭、下には羊羹があります。
「兄さん蘇っていう食べものも買ったのよね」
「さっきお話した通りにね」
「そしてその蘇は日笠さんって人にあげたの」
「そうだよ、昔の日本のチーズをね」
「それで私に贈っていないお土産も色々と」
「皆のアドバイスに従ってね」
 一緒にティータイムを楽しんでいる皆を見てサラに答えました。
「そうしてね」
「そこでアドバイスを聞いたのはよかったわ」
「そうなんだ」
「兄さんじゃどうせ」
 サラはお兄さんである先生の性格をよく知っていて言うのでした。
「トミー君や王子様と同じものを買おうと思ってたわよね」
「サラともね」
「公平によね」
「贔屓や差別はよくないよ」
「その誰にも公平なのは兄さんのいいところの一つよ」
 このことは紛れもない事実だというのです。
「本当にね。ただね」
「サラも日笠さんにはっていうのね」
「そうよ、そうした時はね」
「公平じゃなくていいんだ」
「その人は特別扱いでいいのよ」
「お友達も学生さんも家族も贔屓したら」
「そうじゃない人はいいの」
 少し怒って言うサラでした、お抹茶を飲む先生に。
「誰にでも贔屓や差別はよくないけれど」
「それでもなんだ」
「兄さんの場合は日笠さんはね」
「特別扱いでいいんだ」
「そのことはよく覚えておいてね」
「そうしたものなんだね」
「贔屓や差別は駄目でも特別扱いでいい人はね」
「いるんだね」
「このことは何度も言うから」
 サラにしてもというのです。
「いいわね」
「何かよくわからないけれど」
「わかってね」
「無理にもだね」
「そう、いいわね」
「何か皆と同じことを言うね」
「だって同じことを思うからよ」
 だからだというのです。
「同じことを言うのも当然よ」
「そうなんだ」
「そう、じゃあいいわね」
「日笠さんにはだね」
「今回はそれで正解だったし」
「これからもかな」
「そう、これからもよ」
 まさにというのです。
「日笠さんって人にはね」
「特別にだね」
「そういうことをしていくのよ」
「公平でないと駄目と思うけれど」
「だからそういうものでもないの」
「どうしてもわからないけれど」
「わかっていないならこれからも動物の皆や私の言うことを聞くの」
「トミーの言葉も王子の言葉も」
 先生は彼等の名前も出しました。
「そうなのかな」
「日笠さんについてはね」
「それじゃあ」
「そう、くれぐれもね」
「そうするね」
「人や動物の言葉をよく聞くのも先生のいいところだから」
「少なくともアドバイス通りには出来ているかな」
 お話を聞いてというのです。
「中には必死にしようとしていても出来ない人もいるけれどね」
「そうした人もいるの」
「人のお話をその人はちゃんと聞いてるんだ」
 その人なりにしっかりと、というのです。
「そうしてなおそうとしていても」
「出来ないのね」
「言った人の望む様にはね」
「それは人の話を聞かないんじゃないのね」
「出来ない、期待に添えないだから」
「また違うのね」
「うん、そうだよ」
「まあアドバイスをしても絶対に自分の言う通りにしろっていうのも」
 ここでこうも考えたサラでした。
「それもよくないわね」
「強制、押し付けだね」
「兄さんそれもしないわね」
「一方的に人の話を聞かない人と決めることはね」
「また違うってことね」
「そうだよ、またね」
「そのこともわかったわ、そういえば兄さんはスポーツとか家事は」
 こうしたことです、先生の場合は。
「昔から全然だからね」
「そうだよね」
「この場合は出来ないよね」
「僕も残念だけれどね」
「そうよね」
「人はどうしても出来ないことがあるよ」
 先生はこのことを残念な表情でお話しました。
「実際に」
「私もそうだしね」
「そこもわからないとね」
「他人は自分と違うし」
「完全に自分の言う通りになれ、とはね」
「無理ね」
「それはね」
 またお話した先生でした。
「幾ら何でもね」
「そうしたものね」
「うん、けれどこうしたことはね」
「是非ね」
「聞いてね」
 そしてというのです。
「出来る様にしていくよ」
「努力してなのね」
「そうしていくから」
 こう約束した先生でした。
「僕もね」
「お願いするわね、さて」 
 ここでサラもお茶を飲んで言いました。
「私前も奈良に行ったけれど」
「まただね」
「行きたいわ」
「いいところだからね」
「そう、ただね」
「ただ?」
「兄さんはやっぱり学問で行ったのよね」
 こうお兄さんに聞くのでした。
「学者さんだし」
「観光も楽しんだけれどね」
「そうよね、ただね」
「ただ?」
「私は主人や子供達と一緒よ」
「そして僕は動物の皆とね」
「一回他の誰かと行ってみるのもいいわね」
 笑って先生にお話しました。
「それもね」
「それはどういうことかな」
「言ったままよ」
「その時は留守番するから」
 動物の皆がここでサラに合わせて先生に言ってきました。
「安心してね」
「その時はね」
「トミー達と一緒にね」
「ううん、誰と行くのかな」
 そう言われてもわからない先生でした、ついつい首を傾げさせています。
「一体」
「そこはおいおいわかるわ」
 サラがお兄さんに言います。
「けれど兄さんも考えておいてね」
「うん、じゃあね」
「そういうことでね、兄さんも少しずつでも」
 それが殆ど前に進まない様なものでもというのです。
「前に進んでいってね」
「またよくわからないお話だけれど」
「それでもね」
「わかる様にだね」
「無理にでもね、じゃあお茶とお菓子を楽しんで」
 和風ティーセット、それをです。
「イギリスに帰るわね」
「また来てね」
「兄さんも元気でね」
「お互いにね」
 兄妹で笑顔でやり取りをします、そうしてでした。
 先生は奈良の楽しい思い出をサラにサラにお話しました、そしてその後で論文も書くのでした。そちらも楽しく。


ドリトル先生と奈良の三山   完


                  2017・9・11



無事に奈良から帰宅、と。
美姫 「楽しめたようで良かったわね」
だな。まあ、例によって日笠さんに関しては相変わらずだが。
美姫 「多少は進んでいる……かしら?」
難しい所だな。何せ、肝心の先生がな。
美姫 「皆も頑張っているけれどね」
まあ、こればっかりは仕方ないのかもな。
美姫 「今後、少しは前進するのかしらね」
どうなる事か。
美姫 「今回も投稿ありがとうございました」
今回も楽しませてもらいました。
美姫 「それじゃ〜ね〜」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る