『ドリトル先生と奈良の三山』




               第二幕  日本の古都

 先生達が奈良に出発する日にです、王子は朝に先生のお家にお邪魔して見送りに来てくれました。
 そこで、です。王子は先生に笑顔で言いました。
「今度は奈良だね」
「そうだよ」
 その通りとです、先生も答えます。
「北の方にね」
「奈良盆地だったね」
「あそこにかつての日本の首都があったんだよ」
「平城京や飛鳥だね」
「そうした場所にあったんだ」
「そうだったね」
「もう線百年以上昔のことだけれどね」
「その千三百年ってのが凄いね」
 王子は感嘆と共に言いました。
「僕の国なんか影も形もなかったよ」
「イングランドもまだまだね」
「できたてかな」
「そんな頃でね」
 それでというのです。
「アーサー王は五世紀でね」
「それから二百年かそれ位経ってなんだ」
「日本の飛鳥に都が出来ていたんだよ」
「アーサー王の頃に日本の皇室はあったよね」
「そうだよ、ただね」
「飛鳥に都があっても」
「まだまだ小さかったみたいだよ」
 その頃の日本の都はというのです。
「遣隋使が七世紀はじめだね」
「その頃だったね」
「その頃より前にはもう皇室を中心とした国があったんだ」
 そうだったというのです。
「日本ではね」
「そうだったんだね」
「そう、それとね」
「それと?」
「平城京は城塞都市だったんだ」
「日本では珍しいね」
「平城京や平安京は中国の長安をモデルにしていて」
 そうしてというのです。
「城塞都市だったんだ」
「日本は城下町だよね」
「そうだよ」
 実際にというのです。
「大抵はね」
「それが平城京や平安京は」
「街を壁で囲んでいるね」
「欧州や中国の街だったんだ」
「そうだったんだよ」
「それは珍しいね」
 日本ではとです、王子は考えるお顔で先生に応えました。
「日本ってことを考えると」
「そうだね、僕もね」
「そう思うんだね」
「最初はそうした街並みも取り入れていたんだ」
「中国からだね」
「当時の官吏の服も完全に隋や唐のものだったしね」
 そちらもというのです。
「奈良時代の日本の文化は唐の影響がとても強いんだ」
「街といい服といい」
「他のものもね」
「そこから日本文化が出て来るんだ」
「そうだよ」 
 先生は王子にこのこともお話しました。
「平安時代の頃からね」
「飛鳥時代や奈良時代はまだなんだ」
「古墳や土偶、そして装飾品や和歌には出ていてもね」
「まだなんだね」
「強くはね」
 どうしてもというのです。
「出ていなかったんだ」
「そうだったんだ」
「それで京都に都が移って」
「そこからね」
「次第になんだ」
「日本独自の色が出て来たんだ」
「文字もだね」
 王子はここで文字をお話に出しました。
「平仮名とか片仮名とか」
「そう、それも出て来たんだよ」
「それで日本独自の文化もなんだ」
「出て来たんだ」
「そうなんだね」
「文字は漢字だったけれど」
 奈良時代はです。
「その前にも文字があったという人がいるよ」
「あっ、そうなんだ」
「神代文字ってね」
「何、その文字」
「韓国のハングルに似た形の文字で」
「ああ、あれだね」
「古代の日本で使われていたという説があるんだ」
「それは本当なの?」
 王子の先生への今の問いはかなり疑わし気でした。
「漢字から平仮名、片仮名が出来て」
「それが通説だね」
「日本の文字が形成されたっていうけれど」
「僕もそう考えているけれどね」
「そうした文字があるともだね」
「言われていてね」
 そしてというのです。
「僕も今調べているんだ」
「調べてるんだ」
「僕は平仮名、片仮名がはじまりとは思っているけれど」
「神代文字が本当にあったのか」
「それも調べているんだ」
「そんな文字が本当にあったら」
 王子はかなり興味深そうに述べました。
「日本の歴史が変わるね」
「うん、文字は極めて重要だからね」 
 その存在自体がです、文字から記録が残りそして文学等も書かれるからです。このことはどの文字も同じです。
「それでね」
「若し神代文字が本当にあったら」
「これは凄いことだよ」
「そんなこともあるんだね」
「日本にはね」
「何か色々と謎のある国なんだね」
「歴史があるだけにね」
 その歴史が古いだけにです。
「そしてその歴史はね」
「奈良からだね」
「はじまっているんだ」
「そうなんだね、じゃあその奈良に」
「今から行って来るからね」
「帰ったらお話聞かせてね」
「お土産も買って来るよ」
 先生は王子にこのことを約束しました。
「絶対にね」
「先生絶対にお土産買って来てくれるよね」
「これは礼儀だからね」
「だからなんだ」
「絶対にね」
 買って来るというのです。
「そうするからね」
「今回もだね」
「うん、王子にトミーにね」
「日笠さんにもだよ」
 王子はすかさず言いました。
「忘れないでね」
「そうだね、日笠さんも大切なお友達だからね」
「いや、お友達っていうか」
「何かな」
「いや、何かじゃなくてね」
 王子はここでは難しいお顔で言うのでした、先生がこうしたことには本当に鈍感なので困ってです。
「何というか」
「言いたいことがわからないけれど」
「つまりあれだよ」
「あれ?」
「そう、日笠さんには一番いいお土産をだよ」
「買わないとなんだ」
「駄目だよ」
 こう言うのでした。
「いいね」
「一番なんだ」
「そう、一番いいお土産をだよ」
 まさにというのです。
「あげるんだ」
「それじゃあ」
「そのことは守ってね」
「そうさせてもらうよ」
 こう答えた先生でした、そしてです。
 そうしたお話をしてでした、先生は動物の皆と一緒に奈良に向かうことになりました。まずは神戸駅に出てです。
 そこから奈良に行く、八条鉄道の直行での電車に乗りました。車両は動物用の車両で先生も一緒に乗ります。 
 その列車に乗ってです、動物の皆は先生に言いました。
「じゃあね」
「今からだね」
「奈良に行くんだね」
「今回の旅のはじまりだね」
「そうだよ、列車が動いたら」
 まさに今からとです、先生も皆に応えます。
「旅のはじまりだよ」
「今回は学問で行くね」
「そうした旅だね」
「神戸から奈良はまだ近いけれど」
「着くまで少し時間がかかるね」
「奈良に着いたらね」 
 先生は皆にそこからのこともお話しました。
「まずはホテルに入るよ」
「そしてだね」
「ホテルに入ってだね」
「それからね」
「楽しむんだね」
「学問を」
「明日からね、明日はまずは学会に出て」
 奈良に行わるそれにです。
「そしてね」
「色々とだね」
「奈良をフィールドワークだね」
「そうしていくんだね」
「そうするよ、奈良市の神社仏閣を観て回るけれど」
 その中でというのです。
「何といってもね」
「大仏さんだね」
「論文を書くし」
「特に観るんだね」
「そうだよ、奈良の大仏さんを観る為に」
 まさにというのです。
「東大寺に行くよ」
「その大仏さんのある」
「そこにだね」
「行ってだね」
「そして学ぶんだね」
「絶対にそうするよ、春日大社や唐招提寺とかも行くけれど」
 それでもというのです。
「何といってもね」
「東大寺だね」
「あそこは特にだね」
「観に行く」
「そうしていくんだね」
「そうだよ、あの大仏さんは観て」
 さらに言う先生でした。
「是非学ぶよ」
「あの大仏さん動かないよね」
「そうならないわよね」
 チープサイドの家族はここでこんなことをお話しました、ここで電車が動いていよいよ出発となりました。
「別にね」
「そうならないよね」
「何か動きそうだけれどね」
 チーチーはチープサイドの家族のその言葉に頷きました。
「あの大仏さんって」
「座ってるけれど何かあったら立ち上がって」 
 ガブガブも言います。
「人を助ける為に活躍するとか」
「あっ、それあるかも」
 ジップも応えます。
「日本の危機の為にとかね」
「実際に日本を護る大仏さんよね」
 ダブダブはこのことから言うのでした。
「それならね」
「日本を護る為に立ち上がる」
 トートーはいささか楽しそうです。
「そうなるかも」
「そうなったら特撮だね」
「日本のね」
 オシツオサレツはこちらのジャンルを思い出しました。
「あれだよね」
「実際に動いたら」
「あの天井突き破るかしら」
 ポリネシアは大仏さんが動き出した場合を思いました。
「その時は」
「実際にそうなりそうだね」
 老馬もこう思いました。
「その時は」
「動き出しそうだからね、写真とか観ていたら」
 最後にホワイティが言いました。
「あの大仏さんは」
「動かないからね」
 先生は皆に笑ってお話しました。
「立ち上がることもないよ」
「そうした造りなんだね」
「別にだね」
「動かないんだ」
「立ち上がりもしない」
「そうなの」
「そうだよ、まあ動いたら確かに凄いね」
 先生もこのことは笑ってお話しました。
「立ち上がったりしてね」
「ついつい想像したけれど」
「流石にそれはなくて」
「座っているだけなのね」
「あのお寺の中で」
「そう、本堂の中でね」
 物凄く大きなそこでというのです。
「そうして日本を護っているんだ」
「仏様のご加護で」
「今もそうしているんだね」
「そうだよ、その為に造られたしね」
 その奈良時代にです。
「当時の日本は疫病とかが流行して大変だったし」
「戦争とかもあったりして」
「それでなんだ」
「世が乱れていてそれを時の帝が憂いてね」
 聖武帝です、帝はその世の中を誰よりも憂いて心配されていたのです。
「日本、そして日本の人達のことを護ってもらう為に」
「あの大仏さんを造ったんだ」
「あんなとてつもなく大きな大仏さんを」
「そうしたんだ」
「鹿まで連れて来て」
「ああ、鹿はね」
 奈良の鹿のお話にもなりました。
「あれはまた違うよ」
「えっ、違うの」
「大仏さんのお供じゃないの」
「そうじゃなかったんだ」
「あの鹿達春日大社の神様の使いなんだ」
 大仏さんとは関係がなくて、というのです。
「仏様じゃなくて神様の方なんだ」
「日本の」
「そちらだったの」
「何かと思っていたら」
「そうだったのね」
「そうだよ、また違うんだ」
 別の立場だというのです。
「大仏さんのある東大寺の傍にもよくいるけれどね」
「また違う宗教なのね」
「神様の方なんだ」
「あの鹿さん達は」
「そうだったんだ」
「そう、そしてね」
 さらにお話した先生でした。電車は線路の上をひたすら進んでそのうえで奈良に向かっています。
「ああして奈良の街中にいるんだよ」
「公園にもいるよね」
「あそこにもね」
「奈良のね」
「あそこにも」
「よくいるよ、それでね」
 そしてというのです。
「あそこでよくくつろいでいるよ」
「そうなんだ」
「あそこで遊んでいるんだ」
「くつろいで」
「人にも慣れてるし」
「うん、慣れているというよりかは」
 あの鹿達はというのです。
「もう自分達が主って感じかな」
「奈良の?」
「特にあの公園の」
「そう思っているんだ」
「あの鹿さん達は」
「そうみたいだよ、後ね」 
 さらに言うのでした。
「あそこの鹿達はすぐに仕返しをしてくるから」
「悪戯をしたりしたら」
「それでなんだ」
「すぐに仕返しをしてくる」
「そうしてくるんだ」
「油断したらね」
 その時にというのです。
「だから気をつけるんだよ」
「わかったよ」
「鹿さん達にはだね」
「そうしたことをしない」
「それが大事ね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「だから気をつけてね」
「というか誰にも何にも悪戯をしない」
「それが大事ね」
「そもそもね」
「紳士的にね」
「そうしていこう」
 こうお話してでした、そしてです。
 列車は神戸から大阪に入ってです、それから。
 奈良に向かいます、その電車での旅の中で。
 先生は笑顔で、です。皆に言いました。
「お昼を食べようか」
「あっ、そうだね」
「もういい時間だね」
「それじゃあね」
「今からね」
「お昼を食べよう」
「お弁当を買ってるから」
 駅弁をです。
「それを食べようね」
「今からね」
「そしてだね」
「奈良に行く」
「そうなるね」
「そうだよ、ただね」
 こうも言った先生でした。
「奈良のお弁当は買ってないよ」
「奈良に行くけれど」
「それでもなの」
「そっちのお弁当は買ってない」
「そうなの」
「そうなんだ」
 こう皆にお話しました。
「楽しみは奈良に着いてからだね」
「奈良だと柿の葉寿司?」
「お弁当なら」
「そっちかな」
「そうだよね」
「柿の葉寿司は向こうでも食べられるからね」
 先生は皆にあっさりと答えました。
「だからね」
「それでなんだ」
「奈良のお弁当は買っていなくて」
「他のところのお弁当をなんだ」
「それを食べるんだ」
「そうだよ、色々買ったから」
 その駅弁はというので。
「皆で色々食べようね」
「うん、わかったよ」
「それじゃあね」
「皆で駅弁食べながらね」
「奈良に行きましょう」
「そうしましょう」
「そうしよう、あと奈良で美味しいのはお素麺だよ」
 先生はにこりと笑ってこちらの食べもののお話もしました。
「三輪素麺だよ」
「ああ、日本の麺類だよね」
「あのとても細い」
「あの麺類は奈良なんだ」
「奈良が有名なのね」
「そうだよ、だからそれも食べようね」
 三輪素麺、それもというのです。
「是非ね」
「うん、わかったよ」
「それじゃあね」
「三輪素麺も食べて」
「柿の葉寿司や奈良時代のお料理も食べて」
「それで楽しもうね」
「皆で」
 動物の皆は先生と一緒に今は色々な地域の駅弁を食べながら奈良に着いた時のことを楽しみにしていました。
 そしてです、電車が奈良に着くとです。
 すぐにです、先生達はホテルに入って荷物を置いてでした。
 奈良の街に出ました、商店街のすぐ近くに奈良公園がありましてまずはそこに足を向けますと。
 鹿達が緑の草原と木の間でのどかにくつろいでいます、先生はその鹿達を見て目を細めさせて言いました。
「うん、奈良に来たって実感があるね」
「鹿を観たらだね」
 チーチーが応えました。
「それでだね」
「そういえば奈良県っていうと」
 ガブガブは学校で学生の人達が話していることをここで思い出しました。
「鹿ってイメージがあるかな」
「そうよね、この奈良市はね」
 ダブダブも言います。
「鹿が象徴の生きものよね」
「ここに来る前に僕達でお話したけれど」
「本当にそうよね」 
 チープサイドの家族もこうお話します。
「奈良県は鹿ね」
「まさに象徴だね」
「こうして実際に沢山いるし」
「凄く慣れた感じでね」
 オシツオサレツも二つの頭で言います、どっちの頭もその鹿達を見ています。
「奈良イコール鹿」
「そんな風に見えるね」
「確かに偉そうだけれど」
 ポリネシアは鹿からそうした印象を受けました、見てみると本当に我がもの顔で公園の中にいます。
「それだけに堂々としていてね」
「自分達が奈良そのものってね」
 ホワイティは先生の左肩から鹿達を見ています。
「そんな感じでいるね」
「そこが気になるけれど」
 老馬が言うには。
「奈良って感じがするのは確かだね」
「いや、絵になってるね」 
 ジップはそんな鹿達を見てこう思いました。
「公園の中で普通にね」
「まさに奈良って感じかな」
 トートーは公園全体をその丸くて大きな目で見ていました、その外の奈良の様々な場所を見てもいます。
「ここと鹿さん達は」
「うん、こうして見ているとね」
 実際にと言う先生でした。
「ここが古都だってね」
「思うよね」
「どうしてもね」
「ここが奈良だって」
「そうね」
「そう思えるよ、僕は絵心はないけれど」 
 それでもというのです。
「絵になる風景でもあるね」
「そうだよね」
「鹿さん達も公園もその周りもね」
「本当に絵になるわ」
「こうして見ていると」
「いいね、神聖さも歴史も感じて」
 その目に見えるもの全てからというのです。
「絵になっているよ」
「そうだね、じゃあ鹿さん達を見ながら」
「奈良を見て回ろうね」
「まずは」
「そうしましょう」
「今日はね。明日は学会もあるけれど午前中だし」
 その時で終わりだというのです。
「今からと明日の午後はね」
「奈良市を見て回るんだね」
「それで東大寺も行くのね」
「正倉院も春日大社も」
「全部見て回るんだ」
「そうするよ、そうしてホテルでは論文も書くし」
 こちらも忘れていません。
「そしてね」
「食べることも忘れない」
「何といってもね」
「お酒も飲んで」
「学問も観光も食べることも楽しみましょう」
「是非共ね」
 こう言ってでした、実際にです。
 皆は笑顔で奈良公園から奈良市の色々なところを見て回るのでした、そしてその中ででした。
 正倉院に行ってそこにある色々なものを見るのですが。
 ガラス細工のものを見てです、動物の皆はびっくりしていました。
「これ凄くない?」
「千三百年前のガラスのものなんてね」
「それがまだ残ってるとかね」
「普通にないよ」
「有り得ないっていうか」
「もの凄いことだよ」
「どれだけ物持ちいいのか」
 こう言って驚いています。
「他のものだってね」
「どれも千三百年以上前って」
「遺跡みたいじゃない」
「というかどれも凄いものよ」
「国宝なんじゃ」
「うん、どれもかなり貴重なものでね」
 実際にとです、先生は皆にお話しました。勿論先生も皆と同じものを見ています。
「日本でもここだけにしかないものばかりだよ」
「そうなのね」
「奈良時代の皇室の方々が持っておられたものとか」
「実際に使われていたのね」
「そうなのね」
「そうだよ、あのガラスものもね」
 皆が驚いて見ているそれもというのです。
「書いてある通りにね」
「聖武帝が使われていたんだ」
「その頃の日本の天皇陛下が」
「生きておられていた頃に」
「そうなんだ」
 こう皆にお話するのでした。
「その千三百年以上前にね」
「そうしたものが残っていて」
「それでこうして僕達も見られるんだ」
「まさに歴史そのものを」
「とんでもなく昔のものを」
「それがこの正倉院だよ、それにね」 
 さらにお話する先生でした。
「仏像もね」
「うん、それもだね」
「凄いよね」
「あの阿修羅像とかね」
「物凄くリアルで」
「芸術品としても凄いよ」
「そう、六本の腕と三つの顔を持っていてね」
 先生もその仏像を見て感じ取ったものをお話します。
「細かいところまでね」
「凄くよく出来ていて」
「かなり精巧で」
「もうお顔なんか生きているみたいよ」
「生身の人と変わらないよ」
「人間の子供みたいよ」
 まさにそうしたお顔だというのです、動物の皆が観てもです。
「あのお顔を見ていたら」
「実際にこんな人いるかもとさえ思うよ」
「お顔が三つ、腕が六本でも」
「それでもね」
「日本の仏像は写実的なものも多いんだ」
 先生は芸術面からもお話しました。
「本物の人間のお顔や身体を忠実に再現したね」
「じゃあ実際になの?」
「腕が六本、お顔が三つあるけれど」
「阿修羅さんみたいなお顔や身体つきの人もいたの」
「こうした感じの子供さんが」
「そうだよ、聖観音像は聖武帝の皇后様がモデルとも言われているし」
 このお話もするのでした。
「仁王像もね」
「ああ、あの凄く怖いお顔の」
「かなり強そうな」
「あの仏像さん達もなんだ」
「モデルの人を忠実に再現しているんだ」
「鎌倉時代の武士の人達をモデルにしているっていうけれどね」
 その仁王像達はというのです。
「鎌倉時代の武士の人達はああした身体つきだったんだ」
「あんな筋肉質だったんだ」
「鍛え抜かれた」
「そうだったの」
「そうみたいだよ、実際にいつも武芸で身体を鍛えていたしね」
 馬に乗って弓矢を放って刀を使いお相撲をしてです、当時の武士の人達はそうしていつも身体を鍛えていたのです。
「玄米や山菜、野生の獣やお魚を食べて」
「へえ、ワイルドだね」
「その頃の日本の武士の人達はそういうのを食べていたんだ」
「江戸時代とはまた違って」
「随分野生的だったんだ」
「そうだよ、凄く野生的でね」
 その食生活がというのです。
「いつも身体を鍛えていたからなんだ」
「あんなヘラクレスみたいな肉体だったんだ」
「若い頃のダビデ王みたいな」
「そんな逞しい身体だったんだ」
「見ているだけでとんでもなく強そうな」
「そう、そしてその逞しい肉体をね」
 鎌倉時代の武士の人達のそれをというのです。
「忠実に再現しているんだ」
「この阿修羅像みたいに」
「そうしているんだ」
「日本の仏像は」
「そうなんだ」
「そう、写実性も凄いんだ」
 そうだというのです。
「日本の仏像はね」
「奈良の大仏さんみたいなとんでもない大きさのもあって」
「そうした写実性があるのもなんだ」
「あるのね」
「色々な仏像が」
「そうだよ、勿論時代によって違うけれど」
 長い日本の歴史の中で仏像達も変わっていっているというのです。
「それでもね」
「日本の仏像は写実性も凄い」
「実際のモデルの人達を忠実に再現もしている」
「そうなのね」
「そうだよ、この芸術性は古代ギリシアやルネサンスにも負けていないよ」
 そこまでみたいだというのです。
「あの芸術性はね」
「ううん、何ていうかね」
「凄いものだよ」
「日本の凄さがまたわかったよ」
「昔から凄い国なんだね」
「僕もそう思うよ、いや学んでいると」
 それでというのです。
「驚いてばかりだよ」
「日本の凄さに」
「仏像一つ取っても」
「そうしたことがわかるんだ」
「勿論正倉院のものからも歴史が」
「そうしたものも」
「わかってね」
 実際にというのです。
「驚くばかりだよ、あと学びやすくもあるんだ」
「あっ、そうなの」
「日本の芸術や歴史は」
「そうなんだ」
「資料も記録もかなり残っているからね」
 だからだというのです。
「奈良時代のことも学びやすいんだ」
「かなり昔なのに」
「資料や記録がかなり残っていて」
「学びやすいの」
「そうなんだ」
「そうだよ、まあ戦乱もあったけれど」
 源平の争いや南北朝、戦国時代とです。日本にも戦争がありました。ですがそれでもというのです。
「そうしたものは比較的よく守られてきたからね、それにね」
「それに?」
「それにっていうと」
「宗教弾圧とか文化統制がなかったから」
 他の国にあるそうしたものがです。
「それでなんだ」
「ああ、他の宗教へのだね」
「色々な国であったわね」
「けれど日本ではそれがなかったから」
「仏像とかも残っていて」
「他の資料や記録も」
「明治の頃には廃仏運動もあったけれど」
 それでもというのです。
「こうしてかなり残ってもいるから」
「実物を見られて」
「そのことからも勉強出来る」
「そうなのね」
「日本にいたら」
「奈良時代みたいな大昔のことでも」
「そうだよ、これが欧州だとね」
 先生達の祖国であるイギリスもあるこちらはといいますと。
「古代ギリシアやローマはともかくね」
「何かよくわからない時代もあるよね」
「暗黒時代とかね」
「具体的にどういった時代か」
「はっきりしない時代があるね」
「資料や記録が残っていないからね」
 そのせいでというのです。
「どうしてもね」
「わかりにくいんだね」
「暗黒時代の頃は」
「西ローマ帝国から滅んで暫くは」
「よくわかっていないのね」
「そう、けれどね」
 それでもというのです。
「日本はこうしてね」
「暗黒時代と大して変わらない時代でも」
「普通にわかってるのね」
「奈良時代でも」
「そしてその前の飛鳥時代も」
「そうだよ、このことが有り難いよ」
 学者として言う先生でした。
「何かとね」
「戦争が少なくて宗教弾圧もなかった」
「するとその分だね」
「平和でものも残る」
「そういうことね」
「そうだよ、このことがどれだけ有り難いか」
 また学者としてお話する先生でした。
「日本は学ぶ環境は整っているよ」
「資料や記録が残っているから」
「昔のことまで」
「だからだね」
「いいのね」
「そうだよ、じゃあ正倉院の次は」
 さらにと言う先生でした。
「春日大社に行こうか」
「ああ、あの鹿さん達の神社ね」
「何か凄い大きいっていうけれど」
「あの神社に行くの」
「今度は」
「そうしよう、あと今は大丈夫だけど」
 こうも言う先生でした。
「鹿君達に角があったらね」
「ああ、危ないよね」
「そういえば雄の鹿さん達には角あるからね」
「その角には気をつけろ」
「そういうことね」
「毎年秋に切っているんだ」
 鹿達のその角をというのです。
「本当に危ないからね」
「そのことも気をつけているんだ」
「鹿さん達の角のことも」
「そうだったの」
「只でさえ仕返しをしてくるからね」
 奈良の鹿達はそうした鹿達なのです、ちょっかいをかけられて黙っている様なことはしないのです。
「その時に角があったらね」
「余計に危ないわね」
「見ていたら結構大きいし」
「欧州や北海道の鹿達と比べると小さいけれど」
「それでもね」
「大きいから」
「そこに角まであったら」
 どうしてもというのです、動物の皆も。
「それで秋には切ってるんだ」
「それも毎年」
「春日の鹿さん達は」
「そうだよ、じゃあ今度はね」
 正倉院の次はというのです。
「そちらに行こうね」
「それじゃあね」
「そのうえでね」
「春日のことも学ぶのね」
「これから」
「そうしよう」
 こうお話してです、先生達は正倉院から春日大社に向かいました、その途中鹿達も見てです。
 そのうえで春日大社に入りました、するとそこはです。
 かなり立派な社でそれで皆ここでも言うのでした。
「神聖だね」
「日本独自の神聖さがあるね」
「どうしてもね」
「そんな世界ね」
「神様の世界よ」
「ここは元々藤原氏の社だったんだ」
 先生がここでまた皆にお話しました。
「藤原氏のことは知ってるよね」
「うん、日本の古い貴族のお家だよね」
「長い間権勢を持っていた」
「そのお家だよね」
「そうだよ、その藤原家の社でね」
 それでというのです。
「今もこうしてなんだ」
「残っていて」
「そしてなんだ」
「これだけ大きくて」
「神聖なんだね」
「パワースポットとしても有名でね」
 こちらの面でもというのです。
「神聖な場所であることは事実だよ」
「神社やお寺の中でも」
「そうなのね」
「それで歴史的にもなんだ」
「意義がある場所なんだ」
「そうだよ、ここもね」
 春日大社もというのです。
「かなり古い歴史があってね」
「やっぱり千年以上の歴史があって」
「それでなんだ」
「歴史的にも意義がある」
「そうした場所なの」
「奈良は京都以上にそうした場所が多いんだ」 
 歴史的にも極めて重要な神社やお寺がというのです。
「歴史が長い分だけね」
「物凄い長さだしね」
「それでなんだ」
「千三百年以上の歴史だけに」
「京都以上にだね」
「そうした場所が多くて」
「この春日大社もそうなんだ」
 その中の一つだというのです。
「明日香はもっと古いしね」
「この奈良よりもなんだね」
「昔からあって」
「それでなんだ」
「古い、歴史的な場所が一杯あって」
「凄く学べるんだ」
「そうだよ、この奈良市よりも百年以上の歴史があって」
 それでというのです。
「物凄くね」
「歴史があって」
「学べるものが多い」
「そうなの」
「そこも絶対に行くからね」
 その明日香村もというのです。
「そして学ぶから」
「色々歩いて」
「そうしてだね」
「巡ってそのうえで」
「学ぶのね」
「そうだよ、その時も楽しみだよ」
 笑顔で、です。先生は皆にお話しました。
「明日香に行くのも」
「じゃあ奈良市の後は」
「明日香村?」
「あそこに行くの」
「そうするからね」
 絶対にというのでした。
「後はね、ただ」
「ただ?」
「ただっていうと」
「問題は明日香村の後だね」
 そこに行った後というのです。
「三山を観るけれど」
「謎が多いんだ」
「耳成山とか畝傍山は」
「それに香具山は」
「そうなんだ」
「そう、その謎について考えるだろうから」
 それでというのです。
「そっちに時間がかかるよ」
「そうなんだね」
「明日香村の後がだね」
「一番時間がかかるんだ」
「そうなりそうなんだ」
「多分ね、場所はね」
 三山のそこはといいますと。
「奈良市と明日香村の間になるけれどね」
「奈良の盆地のだね」
「そこにあるんだ」
「そうなんだ」
「そうだよ、奈良盆地の真ん中になるかな」 
 位置的にはというのです。
「奈良市が盆地の北で明日香がその南にあって」
「真ん中にだね」
「その三山があるんだ」
「そうなんだ」
「山については」
「そうだよ、だから一旦南まで行って」
 そうしてというのです。
「真ん中に戻る形になって」
「それでなんだ」
「その三山をじっくり観てだね」
「三山について考える」
「そうしていくんだ」
「そうするからね、奈良市も明日香村も観て」
 その後でというのです。
「じっくりとね」
「その後で」
「三山も」
「観ようね」
 春日大社の中で言うのでした、そしてです。
 先生達はこの日は奈良市の商店街を回ってでした、そのうえで。
 ホテルに戻ってまずはお風呂に入りました、そしてそれからなのでした。



奈良に無事に着いた先生たち。
美姫 「今回はのんびりと観光したようね」
だな。色々と見て回れたようだし。
美姫 「楽しそうで良いわね」
うんうん。このままのんびりと過ごせるのかな。
美姫 「どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね」



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